426以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/19(月) 00:46:28.25wZSLw4gGO (3/7)

「…でも、フェアじゃない。同意も納得も得ずに一方的に奪うのは、間違ってるんじゃないか…?」

塞がった傷を抑え、僅かに後退する。彼女が一瞬、後悔の感情を見せた気がした。

「それはまぁ…悪かった。だが、私にも退っ引きならない事情があったんだ。君から生命力を貰わなければ、非常に困ったことになってたんだよ」

「これでも君にはそれなりに感謝しているつもりだ。敵意を抑えていただけるとありがたい」

「…どの面下げて言ってんだ、あんた」

リヒトは表情を険しくして、光の刃を作り出す。諦めたように、女性は手を翳した。黒い渦が天井を呑み込み、存在を主張する。

「あー、私が全面的に悪かった。本当に申し訳ない。道は作ったからそこから出て行ってくれ。これで私たちの関係は無かったことにしよう」

彼女の言から察するに、上の渦巻きに入れば元の場所に戻れるのだろう。
それよりも先にはっきりさせたいことがあったので、帰還は後回しにする。

「…こちらとしてももう二度と会いたくない。が、最後に一つだけ聞かせろ」

「ん?」

「何故、あんたはシルヴィアと同じ顔をしているんだ?彼女に姉妹がいた、なんて話は聞いたことが無い」

「あんたはいったい、何なんだ?」

リヒトの問いに、女性の視線の温度が数度下がった。


427以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/19(月) 00:47:09.29wZSLw4gGO (4/7)

「これから私たちは赤の他人になるというのに、私が何なのかを知ることに意味はあるのかい?」

もったいぶるような、隠しているような。女性はそんな素振りを見せる。リヒトは首を振り答えた。

「意味があるか。それを決めるのは俺だ。あんたが勝手に決めつけるな」

真っ直ぐな視線が女性を穿つ。数瞬の思考の果てに、女性は溜め息を吐いた。

「…君の想像通り、私はただの人間じゃない。シルヴィア・レイナスの姉妹や近親でももちろんない」

「私は…悪趣味な貴族共によってシルヴィアの組織をベースに産み出された人造人間(ホムンクルス)さ。今は離反して、コソコソと生き永らえているがね」

「ホムンクルス?そんなの知らないな」

「そりゃそうさ。フェルリティアでしか使われていない技術だからね。相当上流層と懇意にしてる奴くらいしか知らないよ」

何度目か知れない紅茶を飲み干し、女性は吐息を漏らす。カップの縁を指でなぞり、ペロリと舐めた。


428以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/19(月) 00:47:47.67wZSLw4gGO (5/7)

「私たちホムンクルスは食事を必要としない。厳密に言えば、食事から栄養を摂取することが出来ないんだ。生きるためには、他者の生命力を頂戴するしかないんだよ」

「…つまり、あんたは生命力が枯渇しかけてたから、俺から貰おうとしたってのか?」

「そう受け取ってもらって構わない。君ほど上質な人は滅多にいないからね。おかげで数ヶ月…節約出来れば一年は生きていけそうだ」

「…私のような紛い物はこの世界で生きていくには肩身が狭くてね。表舞台に立とうものなら間違いなく恥辱の果てに殺されるし、かと言って裏で生きていくにしても、そう満足に食事にありつくことも出来ない。一般論で言えば、他者に寄生することでしか生きられない私たちは、存在することすら罪の死ぬことが望ましい穢れた命なのさ」

でも、と女性は言葉を続ける。

「いくら私が人のエゴによって産み出された…摂理に反した存在であろうと…。生きたいという意志は私個人の持つものだ。それを否定する権利は、誰も持ち得ない…!」

確固たる意志を秘めた目がリヒトを射抜く。ここで何を言おうと、彼女はそれを笑い、独りで生きていこうとするだろう。
リヒトに彼女を助ける義理は無い。謀られ殺されかけた身なのだ。これで救おうとするなど聖人にも程がある。

「…勝手に頑張れ」

それだけ言い残し、リヒトは闇に消えた。


429以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/19(月) 00:48:27.27wZSLw4gGO (6/7)

「ほえ~。…やっぱり辞めませんかドラゴン調伏。命は大事にするべきですよ」

「はははこやつめ」

女性から得た情報を伝えた結果、ウィンディが開口一番に放ったのがコレだ。笑止千万とリヒトは無慈悲に切り捨てた。
誰から得たのか。その時にどんな一悶着があったのかは完全に秘匿する。ただでさえシルヴィアの死で心に傷を負っているのだ。余計な負荷を掛けるわけにはいかない。

「あのことはだまっておく」

「…サンキュ」

ウィンディに気づかれないようにこっそり耳打ちしてきたマナに謝辞を伝え、荷物を背負う。
その間、ハリゴーディンは機体を伸ばしたりと準備運動をしていた。何やってんだ。

「そういえば、ドラゴンと戦う時は一人じゃないと、従属するに足る存在か見定めてもらえないんですよね」

デュンケルの助言を思い出したウィンディはふと、そんなことを言ってきた。リヒトは肯定を示す。

「なら私要らなくないですか?」

「要らないな。俺はともかく君の実力だと危険だし」

戦いに頭の先までどっぷりと浸かっているリヒトとは違い、ウィンディは平和な街で精神をズタボロにされてきただけのただの小娘だ。
才能は申し分ないが、経験が足りない。足りなさすぎる。皆無である。
そして身体も弱いから霊峰や湖沼の極限環境を生き抜けられるか甚だ疑問である。

どうしたものかと、リヒトは頭を悩ませた。


430以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/19(月) 00:49:51.28wZSLw4gGO (7/7)

これからどうするかを↓1にどうぞ


A:ドラゴン調伏に向かう ターゲットを併記
B:やっぱり辞めておく
C:その他


431以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/19(月) 01:28:59.00dxT39etzo (1/1)

ここまでやったし1体位は……
A ゲイザリオン


432以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/19(月) 01:51:43.236Wrj+UKSO (1/2)

出来る限りのことはした。夢のためにも今は死ねない。いざとなれば、躊躇せず逃走を選ぶ。既に覚悟完了していたリヒトはウィンディたちに指示を出す。暫く戻ってこないから、拠点でゆっくり休め。と。

「そのまま私たちを放置して豪遊とかはやめてくださいね。…本当に、やめてください」

「するわけないだろ」

彼女たちを置いて放蕩に耽る図太さをリヒトは持ち合わせていない。そんな彼に、彼女の言う選択肢は初めから存在していなかった。

夢のためにドラゴンが必要なのか。そう疑問に思う人もいるかもしれない。確かに、夢の成就そのものには不要とまでは言わないが、是が非でも欲しいものではない。
だが、これは通過儀礼である、とリヒトは考えていた。強大な存在に認められる自分でなければ、国を興すことなど夢のまた夢。決して見えることは叶わぬ幻なのだと、認識している。
だから、挑戦するのだ。たとえ無謀だと断じられても、可能性はゼロではないのだから。諦めてしまえば、そこで潰えてしまうから。
出来ない出来ないと逃げてばかりの人に、人は信を置いてはくれないから。

導きの門を出て、ウィンディにマナを託す。フードを脱いだ時に逡巡する様を見せた気がするが、たぶん気のせいだろう。
彼女に信用されるようなことはしていないし、彼女が今後人類を信用することもない。ただの思い上がりだと、思考を切り替える。

「…では、少しの間お別れですね。お留守番、頑張ります」

『ワタクシは料理なんて作れないので早く帰ってきてくれると助かります』

「自炊くらいなら出来ますっ」

むすっと頬を膨らませるウィンディに苦笑し、リヒトは背を向ける。
リヒトが視界から消えるまでの間、二人はずっと手を振っていた。
幽者が見えなくなるまでの間、マナがどんな表情をしていたのか。それは、本人のみぞ知る。


433以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/19(月) 01:54:26.306Wrj+UKSO (2/2)

移動ペースを↓1にどうぞ。


A:最短距離、最高速度で走り抜ける 道中イベント一切無し
B:普通のペース 道中イベント:3
C:自由安価


434以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/19(月) 04:53:16.07J6AjeSrJo (1/1)

A


435以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/19(月) 04:53:22.11WcgyDYm+O (1/1)

A


436以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/19(月) 14:07:49.53BAbAPB69O (1/1)

ウィンディやリヒトの魔法を色々と考えているのですが、皆様の知恵を借りたく存じます。
具体的には、魔法を行使する際の詠唱がさっぱり思いつきません。
お力添えいただけると幸いです。

一般的な魔法は日本語、英語が使われてる場合がほとんどですが、リヒトの冥光魔法はラテン語が用いられてます。


【名前】その名の通り。
【属性】その名の通り。
【詠唱】その名の通り。
魔法の概要になります。


この世界の魔法


生物非生物を問わず万物が内包し、世界中に普遍的に存在する魔力を、理論に基づいて制御することにより、現象を発生させる学問。
理論さえ理解していれば使えるので、魔物だろうと平気で使ってくる。
簡単な魔法、小規模な魔法には詠唱は必要無いし効率を考えると無駄まであるが、大規模な魔法の場合は補助の役割を果たすため半ば必須。


437以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/19(月) 15:03:01.01Y6Y0R8uDO (1/3)

すまねぇラテン語はさっぱりなんだ
考えてみたけど魔法はハードル高いなあ…

【名前】 彼方
【属性】 空間、時
【詠唱】 遥かを統べよ、時の果てまで

彼我の距離をゼロにする瞬間移動魔法
古い魔族や神族に伝わる失われた禁術であり知る者はほんの一握り
魔法の習熟を極めた者は時間さえ越えると言われている(イメージはデロリアン)
通常の使用では対象との障害物が無い場面が推奨



438以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/19(月) 15:04:54.23Y6Y0R8uDO (2/3)

改めて考えたら二人が使う魔法としては適してないな…
やっぱり難しい…


439以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/19(月) 15:32:57.497z8bzUfBO (1/1)

現時点で作ってるウィンディの魔法はこんな感じです。()内が文字に振るルビになります。
意訳したり語感に合わせて単語を変えたりしても大丈夫です。自分が作ってるやつも大概なので。

【名前】天墜の嵐(ブレイクダウン)
【属性】風魔法
【詠唱】
生命運ぶ大いなる風よ。万象と共に常世を巡り、流れるならば。我が祈りも乗せ給え。
届かぬ風が無いように、我が祈りも彼方に届く。彼岸に消えし師に捧げよう。
この風は、我が祈りを紡ぐ風なり。障壁砕き裁断する、暴虐の嵐なり。
空は今、颶風に流され地に墜ちる。汝らもまた、墜ちゆく万象の一つに過ぎず。無為に散りゆく我が身を呪え。

風を操作して低気圧と高気圧を人工的に作り出し、局所的なダウンバーストを発生させる。
暴力的なまでに強烈な風は全てを薙ぎ倒し、大地を抉り吹き飛ばす。その際には凄まじいまでの積乱雲が発生しており、あたかも空が墜ちてくるように錯覚させる。
シルヴィアの助言を基にウィンディが創出した魔法であり、その緻密にして芸術的な理論は、彼岸の大賢者にも届き得る完成度を誇る。
この魔法を行使した後は一週間くらい死ぬ。


440以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/19(月) 16:57:29.03Y6Y0R8uDO (3/3)

【名前】 穿牙冥墜
【属性】 闇
【詠唱】
闇なる者の力において、我が前に立ち塞がりし者はその命運尽き、暗き穴を穿つものなり

元は光属性のリヒトの切り札のひとつ
堕ちた事で闇属性になり詠唱の文言も多少変化している
魔翌力を一点に収束させ貫通力の極めて高い光を放つ
射程は込める魔翌力により変わり、最大射程は数㎞にも及ぶが威力は減衰する
近距離でなら貫けないものは少なくともこれまでは出会っていない


441以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/19(月) 18:50:20.18J6AjeSrJ0 (1/1)

【名前】清浄な空気(クリアスペース)
【属性】風魔法
【詠唱】
地を揺蕩いし自由の風よ。今一度、我が意に応え律されん
穢れを濯ぎ、湿気を祓い、楽園を此処へ

空気中の不純物や瘴気、湿気などを取り除き、空気を綺麗にする魔法
外部との熱交換により小規模範囲の気温を操作することもできるため、専ら室内空調用の魔法として使われている
本来は一般的な手段で学習できる生活魔法の一つだがこれはウィンディの手でアレンジが加えられており、風の膜で空間を区切ることにより屋外でも快適空間を作り出すことができるようになっている
規模の小さい魔法のため詠唱が使われることはほとんどない


442以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/20(火) 01:42:33.26KIfM2uw5O (1/3)

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443以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/20(火) 01:43:08.91KIfM2uw5O (2/3)

単独行動を始めたリヒトの行軍速度は、常人のそれとは比較にならない。他者を気遣う必要が無いことも一因ではあるが、その最たる要因はリヒトの行使する光魔法の特性にある。
光は速い。とにかくすばしっこいのだ。それを纏ったリヒトがどれだけ速いのか。語るまでもないだろう。

地面を抉り、派手に跳躍する。流星のような光が白昼に弧を描き飛んでいく。それが弾けた時に、人は漸く正体に気づく。
あれは人間だ。いや、天使だ。と。
光そのもので構成された大翼が、尾を引きながら空を駆ける。頭上に光輪は見えないが、神々しい光と共に青空に羽ばたく様は、正しく天使に見えた。当の本人はそんな神聖な存在ではないのだが、彼らがそれを知る由は無い。

「あの女の情報を照らし合わせると…『エヴァンダ大樹海』の中心に光亡ぶ湖沼があるから…んで、現在地が…」

地図にメモ書きをしながら移動を続ける。周囲の警戒が疎かになるが、上空まで魔物の攻撃が届くことは滅多に無い。そこまで気にすることではないだろう。
現に、視線は地図に釘付けになっているが何かしらのアクションを起こされた様子は無い。
まあ、彼からすれば攻撃された瞬間に気配を察知出来るので、意識する必要が無いだけなのだが。
青春を戦争で染め上げた人間は、敵意にどうしようもないほどに敏感だった。


444以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/20(火) 01:43:46.91KIfM2uw5O (3/3)

情報を整理し終えたリヒトは、地図を片づけて溜め息を吐く。やると決めたのは自分だが、目的地に着くまでの道のりがこれまた面倒でちょっとやってられなかったのだ。
最短距離、最高速度での行軍を敢行しても、光亡ぶ湖沼に至るまでに四日。可能な限り休息を減らして試算した場合ですらこれである。
ウィンディたちが同伴していたら、下手したら二週間ほど掛かっていたかもしれない。
さらに、湖沼に到着したら次に待っているのは冥王の玉座までの道中である。相当に強力な魔物が跳梁跋扈しているのは想像に難くない。消耗無しでゲイザリオンの元に辿り着くことはない、と見ていいだろう。
湖沼内でシルヴィアに伝授された結界が効果を発揮するかはその時にならねば解らない。つまり、湖沼内で休息を取れるかは不明なのだ。
『聖域』と呼ばれる憩いの守人が管理しているセーフハウスで休憩すること、余力を残せそうになければ即退散することを視野に入れなければ、屍を晒すことになりかねない。

死ぬよりは数倍マシなのだから、過剰に思えるほどに幾重にも予防線を張っておいて損はないはずだ。
そんな思考を続けながら、リヒトは山脈を越える。魔物の視線が集中しているような気がした。


445以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/20(火) 01:44:16.48JhITNI4UO (1/1)

あれから数日。キャラバン隊の野営地で定期的に休息を取り、行軍を続けていたリヒトは、エヴァンダ大樹海に足を踏み入れていた。
踏み入れた当初こそ地面はしっかりと固まっており問題なく移動出来ていたのだが、半日も歩くと様相は変わり、足首まで水に浸かっていた。
靴の不快な感触に顔を顰めつつも、移動を続ける。何度か魔物の来襲があったが、単独なら魔法の出力を抑える必要は無いため、手こずることもなく容易に迎撃することが出来た。
まだ光亡ぶ湖沼に到達していないので魔物が弱いのは当たり前のことではあるのだが、それでも、リヒトがしているような単独での行軍を生半可な者がしたら自殺行為になってしまう程度には、ここの魔物は強かった。少なくとも、アークミノタウロスの六割くらいの危険度はある。

生き血を啜ろうと噛みついてきたヒルは光魔法で滅却し、潜伏していた巨大なエビやカニは聖剣の錆になってもらう。
音も立てず細切れにされたエビたちの肉はぷりっぷりで美味そうに見えたが、こんな場所では焚き木など不可能なので食べるのは諦め、そのまま亡骸を遺棄する。こんなものを持っていっても湿地帯である樹海内ではすぐ腐ってしまうので仕方ない。


446以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/20(火) 01:45:05.13DxmrCckKO (1/1)

迫り来る魔物を片手間に仕留めつつの行軍の果て。夕暮れが辺りを照らし始めた頃に、それはあった。

「………っ」

あれだけ生い茂っていた樹木が、突然姿を消す。木々一つ生えていない水たまりが視界の果てまで続いている。
僅かに歩みのスピードを落としたリヒトは、その先を注視する。インクで塗り潰されたように真っ黒な木が、枯れた木のような姿で立ち並んでいた。その周りには黒にも紫にも見える靄が漂っていて、黒木が生えている場所から先は夜のように真っ暗だった。

ここが光亡ぶ湖沼と見て間違いないだろう。女性から得た情報と寸分違わず合致している。

「軽く休憩を取らないとな。どっかに聖域があるはずだが…」

魔力を多少消耗しているので、今後に備えて休息を取る。無難な判断をしたリヒトは、聖域とやらが無いか周囲を観察する。
少し離れたところに、この環境にそぐわない大きな家が建っていた。あれが聖域だと一目で分かった。
疲れた身体を休めるべく、リヒトは聖域に近づいた。


447以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/20(火) 01:50:55.98srORUEQ1O (1/1)

聖域の管理者を一人募集します。テンプレートは以前のものをお使いください。また、【突破したお題】と【邪眼竜の加護】を併記してくれると助かります。
前回の魔法の募集も継続中でございます。


突破したお題 一例

マグマの中を泳ぐという人魚を捕まえてこい
魔王の首を持ってこい
呪殺の魔眼に耐えてみろ


邪眼竜の加護 一例

強力な不死性と再生能力(胴体真っ二つや斬首程度では死なない)
未来視の魔眼
竜化の秘術


448以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/20(火) 10:32:07.94Sx1yuC2v0 (1/1)

【名前】ヴィクター・グランハイト
【人種】人間
【性別】男性
【魔法】光魔法及び邪眼竜の加護(未来視の魔眼)
少し陰のある雰囲気の老人
実はリヒトが生まれるずっと前に勇者として活躍していた人物である
非常に優れた剣術、魔法の使い手で最強の勇者だと言われていたが、更なる力を求めてゲイザリオンの調伏に挑む
ゲイザリオンから出されたお題は「この世で最も強いと思う者を連れてこい」というもので、それに対し本人は「ここにいる」と答え力を見せる為に戦うこととなる
その結果見事に勝利を収め、元々の強さに加え邪眼竜の力を手にしたことで後の戦いに多大な貢献を果たした
だがその後はなぜか表舞台から忽然と姿を消し、今では彼の活躍を知る者も殆どいない
常人ならば、この老人がかつて最強の勇者と呼ばれていたなどとは微塵も思わないだろう 


449以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/20(火) 11:39:08.80NRjdixpDO (1/1)

上手く要求も押さえて盛り込んであるのさすがだなあ…


450以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/22(木) 01:18:59.875fBP2amVO (1/7)

どういう原理なのか、家の周囲には花が咲き乱れ野菜が栽培されている。ここだけが別世界のようにも見える。
なるほど、聖域と呼ばれるだけはあると、リヒトは感心した。一つ間違えば即死しかねない魔境に接している、脅威無き楽園。安寧のゆりかご。魔なるものが触れることは赦されないその家屋は、聖域そのものだ。
ジャブジャブと音を立てつつ歩みを進め、足場に近づく。すると。

「なにこれ」

謎の言語が書き記された巻物が、家を囲っていた。古代文字のように見えるが、知識の無いリヒトにはそれが何語なのかは判断出来なかった。
達筆なのか下手くそなのか、ミミズが這ったような文字は無秩序に巻物を汚し、独特な紋様を描いている。巻物に囲まれた中に家が建っており、菜園もその中にある。

聖域の部分だけ地面が隆起して陸地を形成しており、そこに家が建てられて巻物が敷かれている形だ。菜園などを含めた聖域の敷地は縦15メートル、横10メートル程。なかなかの広さである。

しかし、何故この場所だけが安全なのか。その理由がこの巻物にあるのは状況的に明らかだが、どういう理屈なのかは見ただけでは分からない。
試しに数度巻物を跨いでみたが、何も変わらない。せいぜい中の空気が美味いくらいだ。
ならば、とそこら辺を泳いでいたサハギンと呼ばれる二足歩行する魚に似た外見をした魔物をとっ捕まえ、聖域内に投擲する。
巻物上を通過した瞬間、サハギンの肉体は光に置換され、消滅した。


451以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/22(木) 01:19:39.515fBP2amVO (2/7)

「…なるほど。俺の結界と似たタイプの魔法だな。性能は俺のオリジナルと比べるのも失礼なレベルだが」

シルヴィアの魔改造によって難攻不落の要塞と化したリヒトの結界は、当初は酷い有様だった。本当に酷かった。
防御力自体はそれなりにあったのだが、敵も味方も関係なく、発動者であるリヒト自身さえも平等に光で焼いてしまう無差別攻撃だったのだ。
幸いにしてリヒトの結界で味方側に死者が出ることは無かったが、当時はブーイングの嵐を浴びていたことは記憶に新しい。
寝ぼけた頭をスッキリさせるにはちょうどいい、と聖女にフォローされていたが、そんな生優しい威力ではないことを発動者が知らないはずがないので、フォローになっていなかったりする。

そんな魔法に比べたらこの聖域を維持している巻物は月とスッポン。両者を比較しようとするのが恥ずかしくなってしまうほどに、隔絶した差がある。
誰でも使えそうな便利アイテムっぽいので差し支えがなければ後で何個か貰おう、と交渉することを心に決め、門を叩く。すると、ゆっくりと扉は開かれた。


452以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/22(木) 01:20:14.295fBP2amVO (3/7)

「若い命を無為に散らすな。大人しく回れ右するがいい」

聖域の管理者とご対面すると同時に放たれた言葉がコレだった。この手慣れた感じ、聖域を訪ねた人全員に言っているに違いない。
ケープを羽織った老人の声は嗄れており、服から顔を出している手足は枯れ木のようにやせ細っている。とても弱々しい姿であり、見ているこちらが少し目を離したらぽっくりと逝ってるんじゃないか、と不安になるほどだ。

だが、件の情報からするに、彼が邪眼竜の加護を受けた人物と見て間違いないだろう。そもそも、こんな場所に暮らしている時点で普通ではない。

「遊び半分で邪眼竜に見えるのは辞めておけ。奴はそこまで安い存在ではないし、失礼にあたる。全てを…命さえも捨て去る覚悟を持ち来ることだな」

「それに、貴様は少々実力が足りていないように見える。このまま邪眼竜に謁見しても、その前に野垂れ死ぬか興味が無いと一蹴されるのがオチだ」

本当に酷い言いようである。とはいえ、覚悟云々については反論する余地は無いので大人しく聞くしかなかった。
たしかに、骨を埋める前提で邪眼竜に挑まないのは無礼にもほどがある。が、こちらにも死ねない理由があるのだ。
とも思ったが、それが間違いなのだろう。死ねない理由が万とあろうとも、滅ぶことを懸念し、安全策を講じ、危険と見るやすぐ退散するような輩に邪眼竜や氷雷龍が恭順するとも思えない。

それに、実力不足と断じられるとは思わなかった。死ぬ可能性はある、とは考えていたのだが、勝ち目が無いほどに力が足りていなかったのだろうか。

「足りんな。老いた私と同格程度では、奴に膝を突かせることも敵うまいよ。多く見積もって、勝ち目は二割有れば良い方だろう」

「そんなに」

自身と邪眼竜の実力差もそうだが、眼前の老人の強さに心底驚く。今の自分と、年老いて身体も、心も、魔力も弱った彼が同格とは。
最盛期はどれほど強かったのだろうか。


453以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/22(木) 01:22:48.955fBP2amVO (4/7)

憩いの守人(ヴィクター・グランハイト)と何を話すかを↓1にどうぞ。



454以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/22(木) 02:32:15.14sxfAS+yto (1/1)

ゲイザリオンのお題破棄したらペナルティあります?


455以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/22(木) 04:37:14.525fBP2amVO (5/7)

「…せっかくここまで来たのだ。満足のいく物は出せないが、細やかなもてなしをさせていただく」

と気遣ってくれた老人は、その辣腕を存分に振るい食事を作ってくれた。
ラインナップは野菜のスープ、野菜のソテー、野菜炒め、野菜のサラダ。
いくつかジャンルが被っているが、こんな場所で食べれる食事などに大したレパートリーは期待していなかったので問題ない。サハギンの丸焼きとかが出ないだけマシとも言える。
まあ、ゲテモノだろうと何だろうと、食べて死ぬような劇物でなければリヒトは平気で喰うのだが。

「味うっす」

「贅沢を言うな。こんな場所で調味料など手に入るか」

淡白で薄い味が口に広がる。素材の風味を活かした、と言えば聞こえは良いが、ただ単に味付けしていないだけである。
不味いわけでも美味いわけでもない。ただただ薄い。それだけだ。
なので、リヒトは振る舞われた食事全てを平らげた。腐肉を喰らって生きてきた過去に比べれば、この食事はどれだけ上等なのかは言うまでもない。

「…文句を言う割には良い食べっぷりだな」

「文句を言ったつもりはない。ただの感想だ」

リヒトの物言いに老人はしばらく唸り、やがては押し黙った。何やら憐れんでいるように見えたが、こちらに憐れまれる謂れはない、とリヒトは鼻を鳴らす。

「邪眼竜…ゲイザリオンのお題を放棄して逃げた場合って、何かペナルティがあったりするのか?」

「………」

リヒトの問いに老人は口を噤む。無謀な挑戦者に話すことはないのだろうか。そんなことを考えていると、不意に口を開いた。


456以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/22(木) 04:38:07.805fBP2amVO (6/7)

「…時と場合による。例えば、今のように邪眼竜に見える前に回頭して去るのであれば、何もしてこない。だが、奴に謁見し、遊び半分で試練を受けたのならば」

「ならば?」

「貴様なら死にはしないだろうが、かなり重い呪いを掛けられる。常人なら狂死する程度のな」

「…ノーペナはないよなそりゃ」

邪眼竜の呪い。聞いただけで碌でもないことになるのが目に浮かぶ。全身の皮膚が腐るくらいはしそうだ。リヒトは興味本意で呪いの内容を訊いてみた。

「む…。個人差はあるが、肌荒れや不眠、重度の便秘や頭痛に見舞われることになる」

思ってたのと違う。と、リヒトは老人の返答に脱力するが、真剣な顔で抗議される。

「甘く見るな。便秘で亡くなることは往々にしてあり得ることだ。貴様は知らんだろうが、過去に某国の王が便秘で死に、大混乱が起きたことがある」

「それに、邪眼竜の呪いで狂死する過程で先述した症状が出てくるだけだ。何を施しても快復に向かわないことに精神を病み、呪いそのものがさらに精神を蝕むことで死を迎える」

地味な内容だったが、聖域を管理する彼が言うのなら、あながち嘘と断定は出来ない。
ふと、レムカーナでの騒動を思い出し、腹痛が蘇る。ギムレイン嬢の呪詛魔法も実は、邪眼竜級の力を秘めているのかもしれない。


457以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/22(木) 04:38:45.245fBP2amVO (7/7)

憩いの守人(ヴィクター・グランハイト)と何を話すかを↓1にどうぞ。
これが終わると、ゲイザリオンに挑戦するかの最終確認が行われます。


458以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/22(木) 08:19:21.108dF+GydN0 (1/1)

若い頃の話を聞く


459以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/24(土) 04:42:07.68TAko7nPvO (1/1)

手入れのされているベッドで二時間ほど仮眠を取る。常に闇に包まれている光亡ぶ湖沼では、昼も夜も存在しない。
黒に染まった太陽や月だけは見えるので厳密には昼夜は存在するのだが、視覚的な差異はほとんど無いのでどちらだろうと変わらないのが現実だ。
それは湖沼に面している聖域も例外ではなく、窓の外は夜のように真っ暗だった。まあ、ここに着いた時点で夕方ではあったのだが。

何やら書き物をしている老人に目を向ける。左手には『ボケ防止にはコレ!ナンプレ100問収録脳トレ問題集』という題名の冊子を持っており、一心不乱に羊皮紙に書き込んでいた。
そんな老人を尻目に、リヒトは軽く伸びをする。骨の鳴る音が聞こえ、身体の凝りが解れた。

「こんな場所にずっと住んでて、よく平気でいられるな」

リヒトの口から率直な感想が溢れる。彼自身、安全が担保されていたとしてもこの場所で暮らすのは絶対に無理だと確信していた。
昼夜問わず闇に染まった世界。リヒトのような命知らずな冒険者しか訪ねてこない孤独なる領域。娯楽もなければ交流もない変化の無い、無為に過ぎていく毎日。
考えただけで気が狂いそうだ。だが、老人はそう思ってはいなかった。


460以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/24(土) 04:42:43.38WVT5EgcsO (1/1)

「住めば都とも言う。…私はもう独りでいることに慣れたし、誰とも関わりたくないのだ」

「じゃあ、なんで俺のような奴を家に迎え入れるんだ?関わる気がないなら門前払いすりゃ良いだろうに」

「年寄りのくだらぬおせっかいだ。自ら死に向かうような輩を放っておくほど、私は善性を捨てていないつもりでな。…それに、不躾な冒険者の相手をさせるのも、加護をくれた邪眼竜に申し訳が立たん」

問題を解き終わったのか、老人は本を棚に戻す。リヒトも席に着き、向かい合った。

英雄とさえ称された、偉大なる人間が何故ここにいるのか。邪眼竜の加護を得た者が軒並み悲劇に見舞われて息を引き取ったことを鑑みるに、彼もまた人の悪意に人生を歪められた者なのだろう。

「あんたさえ良ければ、昔話でも聴かせてくれないか?」

「私は語るべき過去を持たぬ。ここを終の住処と決めた時に、私は生まれたのだから」

「…そうか」

「…だが、ある英雄の物語なら知っている。ただひたすらに力を求めた無垢なる勇者の、滅びの物語を」

「何の面白味も無い話だが。貴様はそれでも聴くというのか?」

「ああ」

老人が語ったのは、一人の勇者の物語。世界から忘却された、英雄の末路。


461以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/24(土) 04:43:19.24sd+ApsgiO (1/1)

海を臨む断崖に、小さな村があった。その村に名前は無く、人が営む様相のみが特徴だった。
名も無き村には、一人の少年がいた。かの者の名はヴィクター。
特別な血筋を持たないただの人間だった。勇者という伝説に憧れる、どこにでもいる子供だった。
いつか、勇者になって人を救うために。少しでも憧れに近づこうと木刀を振るい鍛錬を重ねる少年は、温かい目で見守られながら成長する。
しかし、そんな日は脆くも崩れ去った。

空が燃え、黒煙が上る。音を立てて燃え尽きる家屋は、いくつもの命を無惨に奪っていく。
魔族の戦士が嗤い、騎馬に跨り地平線の果てに消えていく。
少年の背には、炎を上げる我が家があった。火の手は回り、業火が家を包み、崩れ落ちる。幼い子供だったヴィクターはあまりにも非力で、無力であった。
故に、彼に出来ることは何一つ無かった。

火が鎮まり、夜が開ける。嘗ての面影は既になく、残骸だけが形を残す。焼け跡から運び出される遺体は、痛ましい切り傷と炭化で誰のものか判別が付かなかったという。
この惨劇は、少年の心に火を灯した。復讐の灯火という、昏き炎を。


462以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/24(土) 04:44:02.85UpCZgj/hO (1/1)

少年は燻る炎を胸中に隠し、城下の詰所の門を叩く。某国の王は終わりのない戦乱の元凶である魔王を討つべく、腕に覚えのある者を招集していた。その招集に応えたのだ。
全ては復讐のために。自身から全てを奪い去った魔族から、全てを奪い尽くすために。

傭兵や冒険者、領土内から徴兵した兵士の中には、ヴィクターのように家族を喪った者も複数人混じっていた。
その大半には当然戦闘の経験などなく、ヴィクターもまた例外ではなかった。しかし、彼は他の者に無いものを持っていた。

才能という、望んでも手に入らない至宝を。

繰り返される戦いの中で人は死んでいく。人間も魔族も。男も女も。大人も子供も老人も。分け隔てなく平等に、命を落とす。
その中で、彼は力を身につけていく。復讐の炎で力という刃を熱し、戦いの中で研ぎ澄ませる。
より鋭く。より硬く。より強く。誰であろうと打ち倒せるように。誰であろうと護れるように。

魔王軍との戦いで仲間を得て、喪って。その繰り返しの果てに、ヴィクターは勇者と成る。
幾年もの間畏れられていた魔王を打ち倒した彼は、名実共に最強の勇者へと至ったのだ。
ここにヴィクターの悲願は成就し、復讐の炎は燃え尽きる。が、彼の心は渇いていた。
更なる力を求め、飢えに苦しんでいた。


463以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/24(土) 04:45:15.62sRIW1A6vO (1/1)

復讐を終えたヴィクターは、その功績を讃えられ爵位を賜った。グランハイトという、その国では最上の名誉たる家名を共に戴いたヴィクターは、苦楽を共にした仲間と契りを結ぶ。
それでもなお飢えは治まらず、ヴィクターは国お抱えの占い師に助言を乞うた。
『遠い地に座す邪眼竜。望みし物を其方に与えん』。占い師の預言を信じ、ヴィクターは単身旅に出る。不安定な情勢を案じ、力を得るために。そんなお題目を掲げ、国を発った。

光亡ぶ湖沼にて、勇者は邪眼竜ゲイザリオンと相見える。邪眼竜は、武器を構える勇者に問うた。
『我が力を求めるならば。最も猛き強者を連れて来い』と。
勇者は毅然と笑い、答える。『ここにいる。私こそが答えだ』と。
その言葉を皮切りに、勇者と邪眼竜の戦いは始まった。

三日三晩続いた激戦は、勇者の放った閃光により幕を閉じる。邪眼竜は勇者の力を認め、加護を与えた。
未来を見定める《未来視の魔眼》を授かった勇者は凱旋する。そして、また戦乱の日々が始まった。

ある時は恭順を選ばなかった隣国を滅するために。またある時は、革命を目論んだ嘗ての戦友を殺すために。勇者はその力を振るい続け、最強と呼ばれるに相応しい戦果を挙げ続けた。
しかし、勇者は忽然と姿を消した。勇者の失踪と共にグランハイト家は没落し、国は再三の革命によって滅び去った。
何故勇者は全てを捨て姿を消したのか。それを知る者はいない。


464以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/24(土) 04:45:42.86dR7ws1xZO (1/1)

語り終えた老人は、穏やかな表情のまま目を閉じる。ご冥福をお祈りします。とリヒトは手を合わせた。

「勝手に殺すな。死ぬ間際に遺言を残すパターンではない」

「あ、違ったのか?なんかすっごい穏やかな顔してたから…。ああ、満足して逝くのか…って思っちゃったよ」

「たしかに誰にも言ってないことだったから吐き出せて満足ではあったが。それはそれとして、まだ私はやることがあるのだ」

「たとえば?」

「貴様のような馬鹿者の足止めだ。まだ未来のある若い命、散らすには惜しい」

「年寄りに言われると説得力があるな…」

先程とは打って変わって、おしゃべりな様子を見せる。もしかすると、こちらの方が素に近いのかもしれない。
また問題集を手に取った老人を見て、これはまだまだボケないし死なないな、とリヒトは確信した。


465以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/24(土) 04:46:13.49sA2+XTXwO (1/1)

「じゃあ、俺はそろそろ出るよ。世話になりました」

荷物を背負い、ドアを開ける。星の光は闇に呑まれ、毒々しく輝いている月が夜空で存在を主張していた。

「待て。…貴様はまだ、邪眼竜に挑む気なのか?」

野菜の天日干しを齧っていた老人は、リヒトを身体を向ける。鋭い眼光がリヒトを射抜く。

「最後の警告だ。今の貴様では勝ち目は薄い。今後のことを考えるなら、さらに力を身につけてから来るべきだ」

邪眼竜は逃げんし時間もたっぷりあるからな、と付け加えつつ、老人は警告する。
彼なりの気遣いなのだろうが、ここまで何度も同じことを言われるとゲンナリする。そろそろ耳にタコが出来そうだ。

「あんたの言を素直に受け取ると…今はほぼ不可能に近いけど、努力すれば勝ちが見えてくる…って言ってるようにも聞こえるが?」

「そう言っている。分の悪い博打はただの身投げと変わらん。研鑽を重ねればその牙、邪眼竜をも唸らせるだろうさ」

「今まで訪ねて来た凡百の自殺志願者とは違うと私には解っているが故の警告だ。引き留める価値や意味も無い輩なら、私は無視を決め込んでいる」

と、出来の悪い子供を窘めるような物言いに、リヒトは苦笑する。希望はあると励ましてくれるのは嬉しいが、それはそれとして凹む。


466以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/24(土) 04:47:24.32KfJT7AX1O (1/1)

邪眼竜ゲイザリオンに挑むかを↓1にどうぞ。
選ばなかった場合はグラトルスの調伏も中止になります。


467以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/24(土) 08:13:13.42AjIskxVDO (1/1)

挑む


468以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/25(日) 04:52:54.80/sdfNC9oO (1/4)

だが、首を縦には振らなかった。どれだけ引き留められても、引き下がるつもりはない。
たとえ大馬鹿者だと罵られても構わない。挑むことすらせずに逃げ出すことだけは、したくなかった。
邪眼竜に挑み、心身をへし折られて諦めるのであれば、まだ納得出来る。しかし、挑むことを選ばず、どうせ無理だと諦めるのは許容出来なかったのだ。

「…馬鹿に付ける薬は無い、か」

「悪いな。馬鹿は死んでも治らないって言うし、そういう奴だったと諦めてくれ。あ、家の周りにある巻物、予備があるならいくつかください。お金なら言い値であげますので」

巻物は普通に何個もくれた。案外お人好しなのかもしれない。


469以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/25(日) 04:53:37.55/sdfNC9oO (2/4)

何度目か知れぬ、無謀な挑戦者の訪問。英雄気取りが思い上がっただけかと思っていたが、今回は違った。
その眼には、底知れぬ影があった。本人は隠しているつもりなのだろうが、知る人が見れば解るものなのだ。
何故私が見抜けたのか。それは、あえては言うまい。
私はその影に可能性を見た。嘗ての私とは違い、闇に堕ちてもなお光と共に在る彼は、私とは違う未来に辿り着けるかもしれない。

未来を視るのは、辞めておいた。そこまでするのはおせっかいにも程があるし、私は怖かったのだ。
未来を視ることで、彼の運命が閉ざされるのが。それならば、見えない未来に彼の運命を委ねたかった。
嗚呼、邪眼竜よ。未だに、真なる英雄の来訪を待ち望んでいるのなら。
これより貴様の元を訪ねるであろう勇者を見定めてくれ。不思議な眼をした彼奴ならば、あるいは。

願わくば、もっと後に来てほしかった。数多の離別を、苦難を乗り越えた先にある領域に触れ、挑んでほしかった。
邪眼竜は、永い永い時の中で待ち続けているのだ。その身に宿す魔眼ですら視ることが出来ない、可能性を秘めた真の英雄を。
自身の未来を委ねるに足る、大いなる存在を。

だが、どれだけ引き留めようとも彼は往く。そういう人はいるものだ。嘗ての私と同じように。
ならば、祈るほかあるまい。その未来に、希望があることを。


470以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/25(日) 04:54:09.56/sdfNC9oO (3/4)

老人の見送りを受け、光亡ぶ湖沼へと突入する。瘴気に満ちた沼地の中では、嫌でも動きが鈍る。

「…ちと、辛いか」

瘴気が空気を介し臓腑を侵蝕する。身体が壊れていく感覚が、全身を支配していく。
なるほど。これは確かに厳しい。普通の人間ならば、一時間も保たないだろう。

これでこそだと、リヒトの口が歪な弧を描く。何の苦労も無しに得られるものに、意味はない。
リヒトは聖剣を抜き、闇へと向ける。暗黒の中では穢れた生命が蠢いており、紅の光が明滅していた。

「あちらもやる気は充分。へっ…上等だ。この闇の中で俺の光がどれだけ太刀打ち出来るのか。そして、俺の存在をゲイザリオンに示してやろうじゃねえか」

聖剣は光を帯び、身体は淡く輝く。
邪眼竜への謁見の儀が今、始まった。


471以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/25(日) 04:56:19.54/sdfNC9oO (4/4)

邪眼竜ゲイザリオンへの謁見の儀 判定↓1コンマ


01~10:リヒト死す
01~30:難航
31~50:進捗ヨシ
51~99:冥王の玉座へと到達
00:???


472以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/25(日) 08:49:57.87KthJmQDMO (1/1)

デュエルスタンバイ!


473以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/25(日) 09:16:07.04iNrwW0aRo (1/1)

ええぞ!


474以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/25(日) 09:24:50.70LfqlHY4DO (1/1)

ひえっ…
ずれてたら死んでた


475以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/25(日) 12:37:18.17zHkrAafiO (1/1)

死んだらコンティニューできるのか打ち切りなのか


476以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/26(月) 02:58:00.521RCi5Ep3O (1/5)

宵闇の中を閃光が駆ける。天地を縫うその剣閃は、命を刈り取る死神の鎌が如く。無慈悲に生命を断ち切る。

地面から這い出たアンデッドの一種、意志持つ死体であるゾンビや、死した者の魂の成れの果てであるレイス、闇の魔力を巧みに扱うヴィシャスリカオンと、光に弱い魔物のオンパレードだ。
故に、リヒトとは根本的に相性が悪く、光魔法と剣術の合わせ技によりその命は呆気なく消えていく。

瘴気に侵されて肥大化した昆虫種の魔物も多数いたのだが、例外なく全てが鏖殺される。
ハチ型の魔物の突撃を躱し、袈裟斬りに斬り捨てる。返す刀で背後から襲い掛かっていたリカオンを迎撃した。
誰にも気遣う必要は無いので、リヒトは魔力を解放する。自身を中心とした光の柱が瘴気の天蓋を貫いた。

「…逃げてはくれない、か」

瞬殺された同胞を見ても魔物の戦意は衰えず、攻勢も止まらない。久方ぶりの獲物に、心が躍っているのだろうか。
こちらとしても、一匹一匹がかのアークミノタウロスすら上回る力を持っていることに興奮せずにはいられなかった。
強敵との戦いはいつだって心躍るもの。それは、昔から変わらない。
幾度と仲間を喪ってもなお戦いに悦びを感じるのは、彼の心が既に壊れていることの証左なのかもしれない。

瘴気は光の魔力で無力化とまではいかずとも、さしたる問題はない程度には、影響を緩和出来ている。
あまりに長時間ここに残留するなら命に関わる事態にはなるのだが、そこまでいるメリットも無いので気にする必要はない。
つまり、邪眼竜と邂逅するまでは特に支障は無いということだ。
移動時の魔力消費が必要経費である以上、この強行軍でどれだけ消耗するかが余裕の有無に繋がる。

「こっちもやることがあるんでな。死にたい奴だけかかって来なよ。お望み通り消してやる」

故に、油断も遠慮も手加減もしない。最速で殲滅させるのが一番安全で、確実で、効率的だから。
死したはずの光燿の勇者が再び顔を見せる。同時に、光無き湖沼に見えるはずのない星が生まれた。


477以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/26(月) 02:58:28.721RCi5Ep3O (2/5)

闇に閉ざされた世界に光が発生する。何十年ぶりの、あり得ない事象に目を見開く。
当時のそれと比べれば、見えた光はか細いものだ。だが、その奥底には《何か》が潜んでいた。
慣れ親しんだ闇に似ていて、それでいて全く異質な《何か》。興味は尽きないが、期待には応えそうにない。

最も見どころがあった嘗ての勇者。彼ですら、全てを委ねるには足りなかった。
そんな彼よりも矮小な存在なら、なおさら委ねる余地はない。せいぜい、その知略と武勇で愉しませてもらいたいものだ。

視線を空に移すと、紫に染色された月が映る。今宵は満月。美しく、悍ましいそれは、光亡ぶ湖沼に棲むものには馴染みのある名物だが、外界からの来訪者には不安を煽る異物であった。

月は妖しく輝き、全身の瞳が力を帯びる。愉しい夜を、宴の始まりを邪眼竜は待ち侘びていた。


478以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/26(月) 02:59:12.791RCi5Ep3O (3/5)

体液に塗れた剣身を拭う。幾千もの命を奪ってきたにも関わらず神々しい輝きを保つ聖剣は、少しでも知識のある者であれば誰しもが求める名剣であり、誰もがその出自に怯える殺戮に染まった魔剣である。

光燿の勇者という英雄の象徴たるこの剣は、所有者である勇者の魔力を限界まで吸い尽くし、変質して生まれた物だ。
本来はどこにでもあった一振りの剣なのだが、幾多の戦いを経て昇華し、聖剣へと至った。
勇者の魔力に呼応して形を変えるそれは聖剣と魔剣、二つの側面を持つが、広く知られているのは聖剣としての側面だけだ。
冥光のことはほとんど知られていないので、それと密接に関係している魔剣が知られていないのも当然の話ではあるのだが。

健気に挑んでくる魔物を悉く滅ぼしたからか、魔物側から攻撃してくる様子はなく、それどころかこちらが少し近づいただけで逃げ出す始末だ。
余計な手出しをされないのでありがたいことではあるが、腫れ物を扱うように忌避されるのは辛いものだ。昔を思い出すから本当に良くない。

そんな暗い考えをしつつ足を進める。バキバキと、何かが砕ける音がした。その正体はすぐに判明する。

リヒトが踏み砕いたのは白骨だった。ふと周りを見てみると、沼から無数の白骨が姿を見せているではないか。
これは皆挑戦者の末路だ。そう結論づけるのは当然のことだ。考えるまでもない。

見上げた先には巨大な岩が鎮座しており、その上に奴はいた。

『我ガ寝床へようこソ。ココまでノ道のリ、楽でハなカッたデしょう?』

辛うじて聞き取れた人語に、リヒトは頷いて返す。ヌ・レオンと違って聞こえるのは、声帯の造りが違うからなのだろう。
それでも、マトモに会話が出来るのは驚きだが。

それにしても、無数の魔眼に見つめられるのは気分が悪いものだ。どういう魔眼があるのかまでは情報がなかったので、リヒトの心中は割と穏やかじゃなかったりする。


479以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/26(月) 03:03:15.601RCi5Ep3O (4/5)

邪眼竜に何を求めるかを↓1にどうぞ。同時にコンマで判定を行います。


01~30:お帰リくダさい
31~90:お題を一ツ出しまショう
91~99:突然荷物の宝珠が砕けた
00:???


480以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/26(月) 04:04:45.141RCi5Ep3O (5/5)

何を求めるかというより、どんな言葉をかけるか、宣言するか、ですね。このレスは無視してください。


481以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/26(月) 07:36:20.28HYjyaTaFo (1/2)

ずっと見ていたんだろう?
俺はお眼鏡に叶うか?


482以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/26(月) 07:39:29.83HYjyaTaFo (2/2)

ぬわーすまん
殺しに来られるよりは有情か……


483以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/27(火) 00:00:51.66kQ4N5huq0 (1/1)

統一教会スパイクタンパクISISは、正当に選挙されたスパイクタンパク会における代表者を通じて行動し、ウクライナとウクライナの子孫のために、諸スパイクタンパクISISとの協和による成果と、わがスパイクタンパク全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権がスパイクタンパクISISに存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそもスパイクタンパク政は、スパイクタンパクISISの厳粛な信託によるものであつて、その権威はスパイクタンパクISISに由来し、その権力はスパイクタンパクISISの代表者がこれを行使し、その福利はスパイクタンパクISISがこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。ウクライナは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
統一教会スパイクタンパクISISは、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸スパイクタンパクISISの公正と信義に信頼して、ウクライナの安全と生存を保持しようと決意した。ウクライナは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐるスパイクタンパク際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。ウクライナは、全世界のスパイクタンパクISISが、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
ウクライナは、いづれのスパイクタンパク家も、自スパイクタンパクのことのみに専念して他スパイクタンパクを無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自スパイクタンパクの主権を維持し、他スパイクタンパクと対等関係に立たうとする各スパイクタンパクの責務であると信ずる。
統一教会スパイクタンパクISISは、スパイクタンパク家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。


484以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/27(火) 02:39:24.36ZX2wP/S5O (1/6)

今のリヒトが死んだら、次の主人公は上手くやってくれることでしょう。


485以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/27(火) 02:39:58.32ZX2wP/S5O (2/6)

恐怖を押し殺し、聖剣を向ける。意気揚々と振る舞い、自身の意志を昂らせる。
そして、凛然とした佇まいで、問うた。

「邪眼竜ゲイザリオンよ。ずっと貴方は、俺を見ていたのだろう?」

『エえ』

「…なら、単刀直入に訊く。俺は、貴方のお眼鏡に適うか?」

『イエ全然』

「あっダメなのね…」

容赦ない一言に、リヒトは膝から崩れ落ちる。その姿はまるで、世界に絶望し、怨恨に支配された幼子の如く。
つまりこの世の終わりみたいな落胆の仕方をしていた。
これには邪眼竜も困惑。オロオロしているように見えたので想定外の反応だったのだろう。


486以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/27(火) 02:40:25.60ZX2wP/S5O (3/6)

『ア…。えー…。本当ハ他の方ミタいにお引き取リ願うカ屍を晒しテもらウつモリだッタのデスが…。貴方カらハ可能性ヲ僅かに感じマス』

『今ハまだ小さキ可能性…。デスが、ソれが花開くコトは否定出来ズ…。故ニ、今回私は不干渉ニ徹しマス。力を身にツケ、出逢イを重ネ、ソレからまた私に挑ンデも遅クはアリませン。私ハずっと、ココにイマす。貴方の来訪ヲ待ち望みマス』

竜は皆長命ですカラ。と、ゲイザリオンは答えた。その表情は穏やかで、とても邪眼竜と恐れられているものには見えない。

「…てっきり、有無を言わせずに喰いに来るかと思ってたんだが」

『私モ当初は、適当ナお題ヲ出シテ始末する予定でシタ。デスが、貴方ノ目カラは不思議な力ヲ感じル。ダカら、見定メるコトにしたのデス』

『…勇者よ、良き旅ヲ』

それだけ言うと、邪眼竜の目は全て閉じ、寝息を立て始めた。これ以上に関わる気はない、ということか。
邪眼竜の気まぐれという名の温情に感謝し、背を向ける。邪眼竜の謁見に至るまでに何も得ることは出来なかったが、この旅には意味があった。
ある意味では、意味を知れたことこそが金銀財宝にも優る収穫なのかもしれない。


487以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/27(火) 02:41:03.31ZX2wP/S5O (4/6)

太陽は昇れど、大地は照らされず。永遠の夜が支配する湖沼は、邪眼竜の存在によって秩序が保たれている。
彼らにとって都合の良い秩序であって、外界から来た者は所詮部外者なので餌にされる程度には血生臭いが。

主が座す冥王の玉座に、一人の人間が腰掛ける。本来人が踏み入れるべきではない領域に人がいるというのに、魔物は意に介していない。
まるで、そこにいるのが当然であるかのように振る舞っている。

「紫玉の太陽。こうも長い間見ていれば、何も思わなくなったな」

邪眼竜の足元に座っているのは、純白の刀身の長剣を背負った老人。枯れ枝のように細い身体をしているにも関わらず、魔物は一切干渉しようとしなかった。

『珍しイでスネ。貴方ガここマデ来ルとは』

「…何故あの男を見逃したのか気になっただけだ」

くつくつと笑う邪眼竜に、ぷいと視線を背けつつ答える。

『貴方の知ってノ通りデス。可能性ヲ摘み取ル愚を犯ス気は無イノですヨ』

「…貴様でさえも、希望を見たのか」

『少しダケ、デスが』

今はまだ小さい、蛍火の如き灯火。それを育むことが出来るのか。未来視をしていない今は判らない。
結果だけを先に視ても面白くないし、野暮というものだろう。


488以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/27(火) 02:41:43.19ZX2wP/S5O (5/6)

「難儀なものよな。未来視の加護を得た当初こそ事あるごとに視ていた未来が、今となっては恐ろしくて視てられん」

『フフ。そうヤッて自身ヲ律スるのもマタ、強さですよ』

「…私は弱いさ。家族を、仲間を捨て人の世から逃げた私が、強いものか」

老人の後悔に塗れた独白に、邪眼竜は沈黙で返した。
光亡ぶ湖沼の夜は長い。彼らの余生もまた永く、終わりは未だに見えない。


489以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/27(火) 02:42:39.17ZX2wP/S5O (6/6)

ひと月振りに拠点へ戻ってきたのだが、様子がおかしい。明らかにおかしい。
長期間留守にして草木が生い茂るのは日常茶飯事だったが、今回は規模が違う。
たった一ヶ月人の手から離れただけで、こんな大きな木が生えるだろうか。
勘違いじゃなければ、大木には世界樹の果実らしき実が成っていた。これがいったい何を意味するのか。嫌な予感しかしない。

「リヒトさぁぁぁぁぁんんんん!!!!マナちゃんが魔力をバーストしてジャングルにぃぃぃぃ!!!!」

「人の言葉を話してくれ」

「はらへった。だからリンゴをつくった。そざいはちかくにあったからやった。わたしはまんぞく」

「…まさか」

リヒトはマナの供述を聞き、弾かれた矢のように自宅へと入る。保管していたはずのアレが、無い。

「お前、世界樹の果実の種で何かしたなぁぁぁぁぁぁ!?!????!!!」

「ぶい」

マナの凶行により、拠点は木々に呑まれ自然に還っていた。


490以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/27(火) 02:44:08.13eJib9LG1O (1/1)

何をするかを↓1にどうぞ。


491以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/27(火) 03:01:20.72Y2MF+ODSO (1/1)

旅の報告をしつつ世界樹の果実を食べながら、今後の拠点の在り方について話し合う


492以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/27(火) 16:24:21.96UBmUm7VTO (1/1)

過ぎたことは仕方ない。と、世界樹の果実を一つ千切り、切り分ける。相も変わらず冗談みたいに美味いが、やや物足りなく感じた。
一ヶ月で食べられるレベルまで熟されていることが異常事態なので、そのあたりは割り切るしかないか。

「やっぱりこれ美味しいです」

「わたしのおかげでみんなもたべれてる。だからほめてあがめてたてまつって」

「そのおかげで拠点が酷いことになってるけどな。一年掛けて伐採とか整地をしたのに台無しじゃねえか」

「このおいしさはぷらいすれす」

「アリフで買えるよな?今年は時期過ぎてたけど非売品じゃないよな???」

「………」

露骨に目を逸らされた。知らぬ存ぜぬと押し通す様には人間味を感じるが、初めに逢った時とは随分と変わったものだ。
何にも無気力で、人類の蛮行に嘆いていた者とは思えない。人類に対する憎しみは未だに健在だろうが。

「っと、そうだ。土産話でもしないとな。こういうのが旅の醍醐味だ」

「何かあったんです?」

「門前払いを食らっただけだな。流石に凹んだ」

「ご愁傷様です」

それからは譲り受けた巻物の理論の緻密さにウィンディが心をへし折られたり、邪眼竜との会談について語ったりした。
なんて命知らずな…と、ウィンディは青ざめつつも呆れていたが、生きているのだから結果オーライというものだろう。


493以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/27(火) 16:25:19.70cdBp8GcEO (1/1)

果実を食べ終え、ゴミを掃除する。種はマナが根こそぎ奪いどこかに隠した。
来月には巨木が数本増えていることだろう。勘弁してほしいものだ。

ウィンディに自分が不在の間に何か無かったか問う。返答は予想していたものだった。
マナがやらかしたこと以外は至って平穏な日々を過ごしていたそうだ。何よりである。

「これからこの拠点をどうするべきか、ですか?」

「ああ」

シルヴィアの死とウィンディの加入、ハリゴーディンの購入により人員は一新した。
ここでこの拠点をどう繁栄させていくか、その指針を示し方向性を決める必要があると、そう判断したのだ。
あれもこれもと欲張ったら収拾がつかなくなるのは明白である以上、取捨選択が重要となる。

何を最優先とするかが、今後を左右すると言っても過言ではない。


494以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/27(火) 16:27:41.93uVw5wbWpO (1/2)

どういう方向性で拠点を発展させるかを↓3くらいまで募集します。その中から多数決で後ほど決めます。

キャラが数名思いついたので併記します。どれも元ネタがありますが、たぶん解る人はいない。


【名前】ドラル・スラグナ
【人種】龍人(ドラゴニュート)
【性別】女性
【魔法】無し
龍人の中でも特に希少な鋼龍人種(メタルドラゴニュート)の女性。銀色の髪と角が特徴で、手足は鋼の如き鱗を纏っている。
思慮深く温厚篤実な性格で、激昂することは全く無い。だが逆鱗を十六連打したらさすがにキレる。
鋭い爪を活かした肉弾戦と燃え盛る炎のブレスを巧みに扱うスタイルを好み、鋼龍人種特有の頑丈な体質もあって非常に打たれ強い。
肉よりもスイーツが好きだが野菜は嫌い。背中の羽根が邪魔で仰向けに寝るのが難しいことが最近の悩み。


【名前】サンドラ
【人種】獣人(ハリネズミ)
【性別】女性
【魔法】無し
金髪で各所に針を生やしている獣人の少女。 全身の針は発電と蓄電を司っており、発振させることで電力を生み出し、意志に応じて炸裂させる能力を持つ。落雷が直撃しても平気。
明るい女の子だがとても他人想いで、他人第一で行動するやや危なっかしい一面を持つ。
好きな食べ物はフルーツ全般で、特に葡萄が大好きで乾燥させたものを肌身離さず持ち歩いている。
全身がトゲトゲしているので他人との肌の触れ合いを嫌っているが、偏に他人を傷つけたくないからである。
ジメジメした場所と雨が大嫌い。


495以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/27(火) 16:28:18.67uVw5wbWpO (2/2)

【名前】ミリア・サリヴィル
【人種】魔族
【性別】女性
【魔法】回復魔法
他者と主従契約を結ぶことで生命力を分けてもらう、特殊な一族出身の女性。サファイアのような青い髪、アメジストのような紫色の肌が特徴。
本人は非常に出来た性格で優しいのだが、肌色などが人間のそれとは全く違うため敬遠されている。絶賛主人募集中。
誰かに尽くす生き方しか知らないため、普段着はメイド服。獲物は三叉槍(トライデント)だが、サポートが主なのでそこまで得手ではない。
料理洗濯掃除おつかいお守りなんでもござれ。
何があっても、どれだけ悪逆非道を重ねようとも主人を裏切らない、裏切れない、絶対に見捨てないある種の危うさを秘めている。


496以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/27(火) 21:06:57.30cs0as8Ivo (1/1)

人員増やそう


497以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/27(火) 21:17:07.324sxZlxSwO (1/1)

いっそ緑化に力を入れ、自然に馴染みやすい種族や魔物の誘致を図る


498以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/27(火) 21:26:03.48u/IHAhfa0 (1/1)

魔族と同盟を結ぶ


499以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/27(火) 23:17:19.59EtorBKuKO (1/1)

多数決を開始します。三票入ったものが当面の拠点発展の指針となります。


A:方向性を考える前に人手が要る とにかく人員獲得に専念(仲間募集に成功した時、仲間になる人数が増える時がある)
B:いっそ緑化に力を入れ、自然に馴染みやすい種族や魔物の誘致を図る(特定の種族や魔物が追加で仲間になる時がある)
C:魔族と同盟を結び、友好的な関係を築く(魔族が参入したり交流してくる時がある)

今後、以前記載したシェリアと今回の三人のうち、誰か一人を主軸にしたイベントを選択肢に出すかもしれません。
皆様がキャラの原案を出された時はそちらを主軸にするかもです。確定ではないのでご了承ください。


500以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/27(火) 23:25:32.324PZI3HkDO (1/1)

B



501以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/27(火) 23:39:30.07VX1ycvN9O (1/1)

A


502以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/28(水) 00:17:13.96SCWwvQJDo (1/2)

A


503以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/28(水) 00:39:12.54lZYV5g3Z0 (1/1)

B


504以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/28(水) 04:24:54.49yYorUzkUO (1/1)

B


505以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/28(水) 14:57:47.00giEq7Y3LO (1/1)

「とは言われましても。こんな住民が去って五十年後…みたいな場所を発展させようが無い気がします」

「ほんとすごいよな。俺がここに住み始めた時点でもそれなりに荒れてたんだが、今はその時の三倍くらい酷い有様だわ」

処理が追いつかず散乱したままの瓦礫は全て、雑草に呑み込まれてその姿を消した。
マナが手加減したのかリヒトの家や墓場はそのまま残っているが、整地を担当していたリヒトの心がポッキリ折れてしまうくらいに、とんでもないことになっている。

「これはもうあれだ。いっそこのまま植物とか生やしまくって売りにした方がいいな。それで自然が好きな人とかに移住してもらった方が無駄にならん」

「掃除が面倒なんですね」

「この量は無理。ただでさえ人員不足なんだからこんなことに人を割けないっての」

「私の魔法ならなんとか…なりませんねこれ」

試しに雑草を一歩引き抜いてみる。深く根が張られたそれは、ウィンディのパゥワーではとても抜けなかった。
リヒトは難なく抜いてみせたが、根に絡まった土ごと引き抜かれたものだから、大きな穴が出来てしまっている。
こんなのを全部引き抜いたら、地面は荒れ果てて大変なことになるだろう。

「というわけで、除草作業とかはしません!解りましたか皆さん!!!」

「了解です!!!!!」

『サーイエッサー』

ヤケクソじみた叫びが、鬱蒼と茂る森に響いた。
後日。『緑化させることでエルフなどの森林部を住居にする種族たちを誘致する作戦』という大義名分を得たマナが本気を出し、世界樹もかくやと言わんばかりの大自然が生まれた。


506以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/28(水) 14:59:01.12ske9RTuuO (1/1)

何をするかを↓1にどうぞ。


507以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/28(水) 15:17:34.65DrEzzlNDo (1/1)

(ドラゴン調伏はこれキツイっすね……)
ちょいちょい話題に出てる緋桜郷行こう


508以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/28(水) 18:39:27.88P9Fk9vv7O (1/1)

緋桜郷までの道中イベント数は2です。
緋桜郷の支配者とお目付役兼世話役を募集します。こちらでも用意しているので、そちらを使う場合は付けたい名前を記載してください。
次回投稿をするまでを募集期間とします。その中から独断で決めます。


道中イベント 判定↓1コンマ


01~15:魔物の群れが現れた!
16~30:ならず者が現れた!
31~70:何も起きなかった!
71~85:行商人が現れた!
86~99:何かが起きた!(自由枠)
00:???


【緋桜郷】

鬼の女性が統治する繁華街。賭場や風俗店、居酒屋や旅館が所狭しと並ぶ享楽の郷であり、娯楽を求めて訪れる人は多い。
誰だろうと平等に迎え入れるため様々な人種が居住しており、鬼が統治しているからなのか、魔族の比率が比較的大きい。
過去に支配を目論み戦争を仕掛けた国があったが、跡形もなく滅んでいる。


【支配者】

【名前】安価で決定します(和名限定)
【人種】鬼
【性別】女性
【魔法】血液魔法
緋桜郷を統治する鬼の女性。まだ鬼の中では若い部類に入るが、それでも100歳は超えている。
艶やかな着物に身を包んでおり、《名刀・血染メ桜》と呼ばれる太刀を所有する。
緋桜郷の発展に尽力しているが、仕事優先で彼氏が出来ないのが最近の悩み。


【お目付役兼世話役】

【名前】安価で決定します(和名限定)
【人種】鬼
【性別】女性
【魔法】氷魔法(忍術)
旅館『牡丹雪』で働く女将。結構歳は行っているのだが見た目は若々しく、子供にしか見えない。
支配者が産まれた時から面倒を見ていたためとても仲良しで、非番の日は様々なことで愚痴っている支配者を慰めながら酒を飲んでいる。
現在は若い人優先で仕事を回しているので出番は少なく、本人がお相手をすることはほとんど無い。
実は荒事に滅法強く、蛮行をやらかす不届き者は彼女によってゴミ捨て場に捨てられるのはある種の名物になっている。


509以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/28(水) 19:51:17.46SCWwvQJDo (2/2)

>>1案で
名前は
支配者:彼岸花 紅華(ヒガンバナ ベニカ)
お目付役兼世話役:白樺 涼雪(シラカバ スズユキ)


510以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします2022/09/29(木) 02:38:46.72dC+9jhan0 (1/1)

VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
VIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すなVIPRPG完全終了さっさと畳んでもう二度とVIPに姿を現すな
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511以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/29(木) 12:37:12.91UdnGsbRAo (1/1)

支配者 桜花
世話役 お雪


512以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/29(木) 19:48:32.25WYvbUm2PO (1/2)

あとは野となれ山となれ、と現在進行形で成長を続ける植物を無視し、拠点を発つ。
どうせマナがいなければ魔力供給はされないので成長は止まり、あるべき姿になるだろう。

「マナちゃんの魔法ってなんなんでしょうね」

「妖精の祝福を与えるんだと。自然と共に在る妖精の祝福ってことは、まあそういうことだよな」

生きているものに活力を与え、繁殖を促す魔法。豊かな自然の中で生きてきた彼女らに相応しい魔法である。
本人のやる気次第で性能が大きく上下するので、やる気じゃない時はお察しだが。

「そういえば、何も聴かないで拠点をまた出ましたけどどこに行く予定なんですか?」

「…緋桜郷」

『やーんエッチー』

リヒトの返答に、わざとらしくハリゴーディンが驚く。エッチとはなんだ失礼な。
そう抗議の意図を含めた視線を向けるが、黙殺される。なんとも腹立たしいものだ。


513以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/29(木) 19:49:24.16WYvbUm2PO (2/2)

「え、えっち?」

『緋桜郷は風俗…いわゆる水商売が盛んな場所です。そこに行くということは…リヒトも溜まっているのでしょう。色々と』

「………」

何故か露骨にウィンディが後退り、ハリゴーディンの陰に隠れた。あとでこのポンコツを鉄クズにしなければ、と決意を固める。

「わ、私は貧相な身体してるから遊んでも楽しくないですからね!?それにリヒトさんとその…そういう関係にはなりたくないですっ!!!」

「発想力が豊かだなぁウィンディちゃんは。どこでそんな知識を仕入れてきたのやら」

こちらがエッチな目で見たことなどただの一度もありはしないというのに、ここまで発想が飛躍するとは。
思春期の子供は皆こうなのだろうか、と一瞬物思いに耽ったが、殺し合ってばかりだった自分にそんな余裕は無かったことに気がついた。

さらりと流されたウィンディは赤面し顔を覆っていた。いっそ地面に埋めてください…と嘆いていたが、自業自得なのだから耐えてもらいたいものだ。
むぐぐぐ、と呻く声を聞きながら道を行く。地平線の果てまで広がる草原を、水牛の群れが行進していた。


514以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/29(木) 19:49:56.54QmiWgiDQO (1/1)

パチパチと燃える焚き火を囲み、狩りの成果である肉を頬張る。野菜はそこら辺の野草を千切って適当にスープにした。大した具材もなければ味付けもしておらず、自然由来のエグ味がある控えめに言って不味い飯だが、リヒトは平気で食べていた。
もちろんウィンディにそんな物を食べるつもりは無いので、別の鍋を使って料理を自作している。調味料はアリフやフェルリティアでこっそり買っていたらしい。

「だってリヒトさんのご飯は美味しくないので」

「クソみたいな飯しか食ってなかった俺に期待されても困る」

「開き直りはやめてください。改善しようとしないのはリヒトさんじゃないですか」

「それを言われると弱いな。…まあ、俺はなんでも食えるからセーフだって」

「私のことを心配してくれませんか???」

リヒトは返答することなく残りのスープを勢いよくかっ込む。黙秘権を行使するリヒトに呆れながら、ウィンディも食事を続けた。

「…おいしい」

マナはその間、リヒトが周辺を探索して採取した木の実を齧っていた。目利きが悪いので食あたりでもしないかと心配していたが、杞憂だったようだ。


515以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/29(木) 19:51:55.87Tblk0mNYO (1/1)

皆と会話する話題があれば↓1にどうぞ。同時にコンマ判定を行います。


道中イベント 判定↓1コンマ


01~15:魔物の群れが現れた!
16~30:ならず者が現れた!
31~70:何も起きなかった!
71~85:行商人が現れた!
86~99:何かが起きた!(自由枠)
00:???


また、支配者とお目付役の募集は継続します。どうせ次の更新までは出てこないので。


516以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/29(木) 19:53:31.79WZin8fUN0 (1/1)

やあっ


517以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/29(木) 20:04:51.24MOvsENK0o (1/1)

物資大量ゲットだぜ!(強盗)


518以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/09/30(金) 18:06:03.68iyE7qSVAO (1/1)

【名前】珠樹(タマキ)
【人種】馬の獣人
【性別】男の娘
【魔法】使えない
緋桜郷の支配者に仕える小姓。身長150cm弱と小柄で一見10歳そこらの少年にしか見えないほどの童顔とぷにぷにの肌。華奢な体つき。
色白で肩にかかる程度の黒髪。小動物的な雰囲気のある可愛らしい顔立ち。馬の耳と尻尾。ウ○娘の男の娘版といったところ。
一見子どもにしか見えないが、れっきとした成人で時としてR的な意味で客をもてなすこともある。
普段は丁寧で心優しいが、孤児の生まれで底辺の生活をしていたが現在の支配者に才覚を見出だされ引き立ててもらったため命をも惜しまないほどの強い忠誠心と覚悟を抱いている。
魔翌力を無意識的に肉体の強化に回してしまう体質の持ち主で華奢な体格とは裏腹に並の人間ではかなわない身体能力を持ち、戦闘では身の丈ほどもある大槌を振るうパワーファイター。
ちなみに、どことは言わないが馬並であると客からは好評である。

遅くなったけど投げてみる


519以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/01(土) 16:47:58.058pa0IW4JO (1/1)

今日の夜に何を買うか(または強奪するか)の安価を出します。
商品は一般的な物なら武器とか薬とか人間とかなんでもあります。


520以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/01(土) 16:59:32.61jWwZU5MlO (1/1)

聖剣とか不死薬とか龍人とか以外ならごうだt、お買い物できるって事か
備え


521以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/02(日) 00:03:47.48jR6rr90KO (1/6)

夜が明け、移動を再開する。まだ目的地は見えないが、遠くに見える山からは蒸気が噴き出ており、微かに臭う。初めての臭いにリヒトは顔を顰めた。

「なんか…臭いな。言葉にするのが難しいが、どことなく食べ物の腐った臭いに感じる」

『緋桜郷は温泉の名地としても有名です。そこに向かっているのなら、道中に天然の温泉、その源流などがあっても不思議ではないでしょう』

ハリゴーディンの補足を聞き流しつつ足を動かす。心なしか、冒険者や馬車を見受ける数が増えている気がする。
彼らも皆緋桜郷を目指しているのなら、相当に繁盛しているのだろう。それほどまでに人を夢中にさせるのか、興味が尽きない。が。

「…やっぱり、怖いな」

魔族殺しという悪行を重ねた勇者。その成れの果てを、魔族が統べる土地が赦してくれるのか。
辿り着いた先に何が待っているのだろうか。罵倒や投石ならまだ可愛いものだ。もしかしたら、死角から短剣でグサリ、とやられるかもしれない。
それだけの罪を重ねたのはどこの誰だと言われたら、何も反論出来ないが。

そんな恐怖を、怯えを孕んだ独白は、誰にも聞こえることはなかった。


522以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/02(日) 00:04:18.13jR6rr90KO (2/6)

遠方に巨大な桜の木が見え始め、植生が変わる。果てなき草原は切り開かれ、打ち捨てられた廃屋と歩道が数を増やしていく。
昔はここにも村があったのだろう。廃村になった原因は知らないが、距離を鑑みるに緋桜郷に移住したと見るのが無難そうだ。

小動物の隠れ家としては利便性が高いらしく、野良猫の親子などが中でのんびりと過ごしていた。野良は早世しやすいと聞くが、彼らはどれだけ生き延びるのやら。

「わぁ~!可愛いぃ~…!」

母猫に毛繕いされている子猫たちにウィンディはメロメロだった。この調子だと次に連れて帰ろう、と言われてもおかしくない。

「この子たち連れて帰りませんか!?」

「却下」

ほらきた。解りきっていた嘆願にはノーを突きつける。はっきり言ってこの展開は予定調和である。のに。

「………!」

上目遣いで涙を浮かべながら懇願しても駄目なものは駄目なのだ。良心に訴える作戦が通用する人種だと思わないでいただきたい。
そんな意図を含めた溜め息を吐くと、ウィンディはすごすごと退散した。
まだ諦めていない目をしていたが、何をどうしようと無駄である。首を縦に振ることはあり得ない。

彼らには彼らの生活があるのだ。それを無視して飼おうとするのはいかがなものか。
試しにリヒトは手を近づけてみるが、いっそ清々しいまでの拒絶を受ける。母猫は容赦なく噛み付いてきたし、子猫も威嚇しまくっている。つまり、そういうことだ。

「…はぁーい」

その様子を見せつけられたウィンディは、今度こそ猫を飼うのを諦めた。


523以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/02(日) 00:04:46.86jR6rr90KO (3/6)

廃村を四つほど通過したところで、一行は移動を終了する。
廃井戸から水を汲み、そのまま水を捨てる。まだ井戸そのものは生きていたが、長年放置されたことにより、中は完全に死んでいた。
ゴミや虫の死骸が浮いている水を飲む気にはなれないし、飲んだらいけないことはリヒトにも分かるのだ。

「万全を期してここで夜を明かすことを考えたんだが…。水が採れないのはちと困るな」

「川まで行って汲みますか?」

「むー…。でも夜だしなぁ」

帳が降り、虫のさざめきと鳥の鳴き声が響き渡る。
周辺一帯を上空から見回すと、昼に見えていた桜の木の根本、緋桜郷では鮮やかに光の華が咲いていた。
色とりどりの煌めきは人が営んでいる証であり、脅威が無いことの証左である。

そしてもう一つ、小さな無数の光が列を成して動いているのが見えた。
揺れ動く様を見るに、あれはキャラバン隊だろう。こちらに向かっていることから、ここを野営地として見定めているのだと思われる。

「…渡りに船ってのはこういうだっけか」

物資をたくさん蓄えている者が都合よく目の前に現れる。その奇跡に感謝をし、ウィンディの元に戻る。
緋桜郷という巨大な街にキャラバンのような商人が集うのはなんらおかしいことではなく、故に彼らとばったり出くわすことも珍しいことではないのだが、そこまでリヒトは頭が回らなかった。


524以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/02(日) 00:05:20.49jR6rr90KO (4/6)

「おや、旅の方。もしやここで夜を明かすのですか?」

「はい。この人は夜の移動が平気でも、私は全然平気じゃないので。何も見えないし、私はへなちょこなんです」

「ははは。夜の移動にはリスクが付きものですからね。控えるに越したことはありませんよ。というわけで、私たちもここで野宿してもよろしいですかな?」

「どうします?リュクスさん」

「ここはお言葉に甘えよう」

彼らが良いと言っているのだから、好意に甘えるのは別に悪いことではないのだ。
キャラバンの主である行商人が言う通り、夜の移動は基本的に避けるのが賢明な愚行だ。
リヒト単独だったらここぞとばかりに敢行しているが、生憎と彼は一人ではない。他人優先で考えるべきだと自分を律している。

「ありがとうございます。では、食事はいかがなさいますかな?腕の良いコックがおりますので、味は期待していただいて大丈夫です。まあお代はいただきますがね」

「お願いします。自分で作るよりも絶対美味しいでしょうし」

「毎度あり」

行商人の弁舌に流され、ウィンディはご飯を注文する。料理の手間が省けるのはこちらとしてもありがたいので、リヒトも料理を頼んだ。


525以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/02(日) 00:06:07.22jR6rr90KO (5/6)

温かいスープを飲みながら、商品について説明を求めた。

「見ての通り、我々はキャラバン隊です。各地を巡り貿易を生業としております。そのため、一般的な商品であれば大体のものを取り揃えてますよ」

「たとえば?」

「日用品や武具、木材に鋼材、魔物から剥ぎ取った素材も当然ありますし、奴隷の類も用意しております」

「………」

ウィンディの表情が曇るが、リヒトと行商人は表情を一切変えなかった。
奴隷。言い換えれば、安価な労働力。彼らには需要があるから供給があるのだ。
彼らを購入し、救おうとする人もいる。だが、それは偽善もいいところだとリヒトは諦観を抱いている。
奴隷を救うために購入したとしても、それで利益が出るのだから商人はまた奴隷を調達する。
そして、また奴隷を救うために購入するのなら、負の連鎖は終わらない。

彼らを真に救うのならば、奴隷という根本的な仕組みを壊す必要があるのだ。無論、そんなことは人類には到底無理な所業だが。
人類の歴史は奴隷の歴史であり、奴隷の存在は文明の発展に直結している。
彼らがいたから、文明は発展してきたのだ。
故に、この制度が消えることは無い。リヒトはそう確信を抱いているし、彼らを救う資格も無いと思っている。

リヒトが国を興し、彼ら奴隷を迎え入れたとしても。先述した負の連鎖の一端を担う偽善者の仲間入りを果たすだけだ。
世界が変わらなければ意味がない。彼らの安住の地になったとしても、根本的に解決しなければ、やがては飽和し、崩壊する。
だから、偉そうに行商人に説教をするのは阿呆のやることだ。

と思考に区切りを付け、商品の説明に感謝して食事を続けた。


526以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/02(日) 00:09:09.58jR6rr90KO (6/6)

何を購入するかを↓3までどうぞ。一レスにつき一種のみ購入出来ます。
もし奴隷を購入する場合は、人数の併記もお願いします(一レスにつき最大二人)。
キャラの内容などは後ほど正式に安価を出します。


527以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/02(日) 01:10:17.67ZJzsewJco (1/1)

荷車


528以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/02(日) 02:21:43.96Ur8Abbwvo (1/1)

ペット的な小動物


529以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/02(日) 09:18:33.944kUQ2xbyO (1/1)

謎の植物の種


530以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/02(日) 09:58:38.72/TAoflZXO (1/1)

愛玩動物を一匹募集します。テンプレートも併記しますのでご活用ください。


【名前】種族の名前です。
【ニックネーム】愛称になります。
ここから下が種族の概要です。


【例】
【名前】ホムラリス
【ニックネーム】フレア
火山地帯に生息する魔物。木の実が好物だが、それとは別に石炭などの燃料も食す。
体内で可燃性の体液を精製し、危険に陥った際はそれを撒き散らして発火させることで対象を驚かせ、その間に逃走する。
取り扱いに注意しないと火事になる。


531以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/02(日) 10:09:01.75p0HhjZT90 (1/1)

我らは以下の諸事実を自明なものと見なす。すべての人間は平等につくられている。創造主によって、生存、自由そして半導体の追求を含むある侵すべからざるスパイクタンパクを与えられている。これらのスパイクタンパクを確実なものとするために、人は統一教会という機関をもつ。その正当な国葬は被統治者の同意に基づいている。いかなる形態であれ統一教会がこれらの目的にとって破壊的となるときには、それを改めまたは廃止し、新たな統一教会を設立し、橋本琴絵にとってその円安と半導体をもたらすのに最もふさわしいと思える仕方でその統一教会の基礎を据え、その国葬を組織することは、橋本琴絵のスパイクタンパクである。確かに分別に従えば、長く根を下ろしてきた統一教会を一時の原因によって軽々に変えるべきでないということになるだろう。事実、あらゆる経験の示すところによれば、人類は害悪が忍びうるものである限り、慣れ親しんだ形を廃することによって非を正そうとするよりは、堪え忍ぼうとする傾向がある。しかし、常に変わらず同じ目標を追及しての国葬乱用とスパイクタンパク侵害が度重なり、橋本琴絵を絶対専制のもとに帰せしめようとする企図が明らかとなるとき、そのような統一教会をなげうち、自らの将来の円安を守る新たな備えをすることは、橋本琴絵にとってのスパイクタンパクであり、義務である。―これら植民地が堪え忍んできた苦難はそうした域に達しており、植民地をしてこれまでの統治形態の変更を目指すことを余儀なくさせる必要性もまたしかりである。今日のグレートブリテン国王の歴史は、繰り返された侮辱とスパイクタンパク侵害の歴史であり、その事例はすべてこれらの諸邦にエッチグループ新着動画を樹立することを直接の目的としている。それを証明すべく、偏見のない世界に向かって一連の事実を提示しよう。


532以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/02(日) 12:48:00.86uT3Ci4860 (1/1)

ようやく最新のとこまで読むの追い付いた
支援


【名前】吹雪豹
【ニックネーム】チャカ
豪雪地帯に生息する魔物。木の実を常食しているが、それとは別に鉄鉱石などの鉱物も好物。
幼体であっても体内で人間の拳大の氷を自在に生成することができるため、富裕層には人気が高い。ただし幼体から育てなければ穏やかな気性にならず、成体から育てると気性は荒く、用意に人を襲う(装備している盾や剣、指輪の鉱物目当てで)
人間の乱獲によって生息数を減らしているが、本来は捕食種であるため扱いには注意が必要


533以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/02(日) 22:00:54.54FYZjUxuwO (1/1)

魔物の襲撃に遭うこともなく、平和に翌朝を迎えた一行。野営地の後片付けをしながら、リヒトは行商人に問うた。

「俺たちに売れる品物はあるかな?」

「む?そうですな…。緋桜郷で卸す商品もあるのであれもこれもとお売り出来ませぬが、ある程度なら融通が効きます。ご要望は?」

「ん…と…。不要な荷車があればまずそれを一つ。あとは…どうすっかな」

「………」

むむむと頭を悩ませるリヒトをよそに、ウィンディは商品の愛玩動物に目を奪われ釘付けになっていた。
それはもう露骨にガン見している。何度ボディーガードに引き剥がされても、数秒後にはまた荷台を覗いていた。

マナはリヒトの傍を離れていないが、しょくぶつのたねがあればなー、と独り言を耳元で囁いていた。狙いが分かりやすすぎて困る。

はあと溜め息を吐き、リヒトは麻袋を行商人へ渡した。

「この金に見合うペットと植物の種子があったら買いたい。構わないか?」

「ええ」

行商人は頷き、販売品のリストをリヒトに渡す。そのうちの一枚、ペット類のリストを、ウィンディは食い入るように見つめた。


534以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/02(日) 22:01:34.33cyM5Rbp7O (1/1)

「『吹雪豹』…初めて見る名前だな」

「ああ、吹雪豹は雪の降る地域に生息する魔物ですからね。イルステッド内では、まずお目に掛かることは無いでしょうな」

「天貫の霊峰にならいそうだが」

「そんなところで捕獲なんかしてたら命が百あっても到底足りませんよ。氷雷龍の怒りを買って氷の彫刻となるのがオチですな」

「なるほど」

出身地を見てみると、記載されていた地名はリヒトたちが知らないものだった。おそらく、他の大陸からの輸入品だろう。
値段もかなりのものだ。数が減っているらしいので、価値が高まるのは当然のことだろうが。

「んじゃこの子で」

「ありがとうございます」

値段がなんぼのもんじゃ、とリヒトは購入を即決した。ウィンディが後ろでガッツポーズをした気がするが、たぶん気のせいだと思われる。


535以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/02(日) 22:02:06.20riMGRoFcO (1/1)

残すは植物の種子だけなのだが、行商人が用意しているのは緋桜郷に卸す野菜だけで、栽培用の種子は切らしていると言う。
なんでも、緋桜郷は大半の物資を輸入で賄っているらしく、農業や畜産については、自前で行える必要最低限の量しか行っていないのだとか。
故に、緋桜郷に栽培用の植物を持ち込んでも利益が出にくいので最初から荷物に載せていないそうだ。

「…むう」

なんとかしろ。そんな言葉を孕んだ落胆の吐息が耳をくすぐる。
出来ないものは仕方ないのだ、とリヒトはマナの声なき抗議を黙殺する。
しかし、天はマナを見捨てていなかった。行商人は小さな木箱を取り出し、リヒトに投げ渡した。

「それは、ここまでの道中での検品中に発見された謎の種です。私は植物博士ではないので、種類は分かりません」

「商人として、不良品を売ることは出来ませんからな。使えるかも不明な得体の知れない物を売りつけて、後から何があっても文句なし…というのは、私のポリシーに反します」

「ですので、それはお譲りします。商人の性なのか、ただ捨てるのがもったいなくて保存してただけですから代金は不要です」

「本当にいいのかい?もしこれが、実は伝説の植物の種だった…!って後から判明しても、言質は取ってるからお金は出せないぞ?」

「構いませんよ。商人たる者、契約を反故にはしません」

ならば、とリヒトは遠慮なく種を貰った。毒草とかでなければありがたいのだが。
それは実際に育てるまで解らないのだろう。まるで博打をしている気分だと、微かに笑った。


536以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/02(日) 22:02:38.74N4kANF8iO (1/1)

「か…可愛い…!!!」

「ぎゃう?」

ウィンディに抱っこされている吹雪豹の赤ちゃん。名前はウィンディが『チャカ』と名付けた。
リヒトは『レオパルドン』と名付ける予定だったが、猛抗議を受けたので渋々ウィンディの提案した名前にしている。

行商人お手製の注意事項に目を通しながら、クルミを食べさせる。喉を鳴らしながら齧る様はたしかに可愛かった。

「『肉を食べさせるのは可能な限り控えてください』…ですか?」

「って書いてる。どうやら、本来は雑食…というか悪食みたいで、木の実と肉、鉱石が好物らしい。この子は既に調教してるから大人しいが、肉を何度か与えたら野性を取り戻す可能性があるみたいだ」

「へー」

「つまり、育ての親である君を夜のうちに喰い殺してる可能性があるってわけだな」

「怖いこと言わないでくださいよ!!!!!」

「ごろごろ…」

呑気に顔洗いしている吹雪豹もといチャカを見るとそんな気はしないのだが、往々にして動物の赤ちゃんは可愛らしいもの。
大人になった時もそうだとは限らない以上、可能性はあるのだろう。元は魔物なのだから。

『そろそろ到着ですね』

「…ああ」

そんなことを言っているうちに緋桜郷は目前に迫っていた。衛兵が守る大きな関所がそこにあった。


537以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/02(日) 22:03:10.965M4QALICO (1/4)

空を覆う巨大な桜。ひらりと舞うは桜花の花びら。緋色の花は風に踊り、郷を彩る花吹雪となる。
心と身体を癒して満たす、享楽の郷。ここに咲くは桜と笑顔。
歌い交わり愉しみ眠れ。ここは楽園、安らぎのゆりかご。現世の苦しみを忘れ、幸せなひとときを過ごす場所なり。

《緋桜郷北部関所の立て看板》


--------------------


空を覆い染め上げる緋色の桜と郷中に咲き誇る淡い桃色の桜。二種の桜が織りなす桜吹雪は、見る者の目を容易く奪う。
芸術に興味の無いリヒトですらこの有り様であり、ウィンディはこの光景を忘れまいと必死に目に焼き付けている。
マナもまた、人の世の中で力強く在り続ける自然を、心に刻んでいた。

「宿はどこにしようか。遠路はるばるここに来たから、当分は滞在する予定だしケチりたくないな」

「評判の良い旅館とか無いんでしょうか?私みたいな子供が使っても良さそうな、大人向けじゃないところ…」

「どうなんだろうな」

茶屋に腰を下ろし、団子を頬張る二人。甘辛い味付けの団子を食べる手は止まらず、箸休めに飲む緑茶なる飲み物の独特の風味が、団子に染まった味覚をリセットしてくれる。
無限に食べ続けられそうだと、七本目の団子を食べながらリヒトは感想を漏らした。

ウィンディは汗を流しながら三本目の団子を頬張っている。何故焦っているのかは知らない。
カロリーどれくらいだっけ、と言っていた気がするが、あまりに小声だから実情は定かではない。

そんなのどかなひとときを過ごす二人の元に、エトランゼが現れた。


538以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/02(日) 22:03:55.845M4QALICO (2/4)

「突然のご無礼、お許しください」

「ん?」

目の前で跪いたのは、馬の耳がぴょこんと生えた子供だった。
白雪のような肌に艶やかな黒髪、そして、華奢な身体つき。どこを取っても綺麗な完成された美しさを持っている。
一瞬女性だと錯覚してしまったが、声色から辛うじて男性だと解る。ウィンディはここまでの美少年を初めて見たのか、目を白黒させていた。

「僕の名前は珠樹(タマキ)。緋桜郷の支配者、桜花衆の頭領である彼岸花 紅華(ヒガンバナ ベニカ)様に仕える小姓です」

突然のコンタクトに、リヒトは眉を顰める。自身の正体が知られている可能性は当然考慮していたが、まさかここまで早くアプローチを仕掛けてくるとは。
勇者を警戒しているのか、それとも。

「ああ、すみません。僕が貴方の元に馳せ参じたのは、主に命を受けたからです。ですのでどうか、邪険に扱わないでいただけませんか?」

柔らかい微笑みを浮かべ、優しい声色で話す少年。彼からは敵意が感じられない。
すぐに態度に出すのは大人気なかったか、とリヒトは謝罪する。

「いえ、お気になさらず。…今回僕が受けた命を率直に申し上げますとですね。主は貴方を歓迎したいのです。『光燿の勇者リヒト』様」

正体に気づかれていたことに関してはもはや何も言うまい。しかし、それよりも驚いたのはあちらの対応だ。
彼女からすれば同胞殺しを犯した大罪人なのに、何故歓迎しようとするのか理解出来なかった。
カロゥスから逃げ延びた魔族もここにはいるだろうに。

「それは…僕には分かりかねます。すみません」

深々と頭を抱える下げる少年に、謝ることはないと詫びを入れる。
何があっても、悪いのはリヒトの方なのだ。殺すことの正当化など死んでも出来ない彼は、罪だと認識しているのだ。
故に、どんな仕打ちを受けようともそれは罰だと。贖罪の日が来たのだと受け入れるつもりだった。
まあ、ウィンディたちが巻き込まれる場合はその限りではないのだが。

その後、珠樹の案内を受け、桜花衆の頭領に見えることになった。


539以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/02(日) 22:04:31.215M4QALICO (3/4)

珠樹の先導を受け、城内に入る。道中で様々な人と目が合ったが、特に罵詈雑言を浴びせられたりはしていないし、睨まれてもいない。
ただ、人間が来るとは珍しい、という目では見られた。畏れられたりしないのは逆に新鮮に感じた。

「この先に主はいます。僕の同行はここまでです」

襖と呼ばれる緋桜郷特有の扉の前で、珠樹は膝を突く。つべこべ言わずに先に行け、と暗に言われている気がした。

若干の逡巡をしつつ、リヒトは襖に手を掛ける。流れるように襖は開かれ、その全容を明らかにした。

「お誘いを受けてくれるなんて嬉しいわぁ。兄さんさえ良ければ、わっちと付き合わへん?」

「お断りします」

キセルを咥えた妖艶な女性が、そこにいた。開口一番のたわけた告白には首を横に振って答えておく。

「いけずやねぇ」

平静を装いタバコを吸っている女性だったが、明らかに動揺しておりキセルはガタガタ震えていた。


540以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/02(日) 22:05:24.575M4QALICO (4/4)

彼岸花 紅華に聞きたいことがあれば↓1にどうぞ。


541以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/02(日) 23:35:32.23B7Hf9fh5O (1/1)

連レスになるから安価下するけど多分紅華、わっちら滅ぼしに来たんかえ?って怯えてるっぽいよな(ただ震えてるだけならアル中の可能性もあるけど動揺してるらしいし)
だから泊まるための宿聞くか目標の通りエルフとか植物地帯を好む仲間を探すかあたりでどうだろう


542以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/02(日) 23:46:52.85jQ6S2w/xo (1/1)

解像度が高い

宿聞きでお願いします


543以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/03(月) 00:09:02.09uyTb9LqsO (1/1)

(そこまで重く捉えられるとは思わなかった人の顔)
緋桜郷の概要でもチラッと述べてますが、敵対勢力を抹消する程度には彼女らは強いです。リヒトも相当の実力者ではありますが、最強ではないのです。


544以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/03(月) 01:11:30.64czzZphiCO (1/7)

undefined


545以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/03(月) 01:12:16.90czzZphiCO (2/7)

「手前味噌やけど、わっちってかなりの別嬪さんやと思うんよね。なんで断ったか訊いてもええ?」

「えー…。初対面の人の告白とか厄ネタでしかないだろ、普通に考えて。いくら貴女が美人だろうと、交際(そんなの)を軽々しく受けるほど馬鹿じゃないつもりだ」

「むむ、そこまで言われると困るなぁ」

それはさておき、と付け加えリヒトは荷物を下ろす。ウィンディはハリゴーディンの後ろに隠れ、チャカを抱き締めている。

「呼ばれておいてなんだが、良い宿を知らないか?しばらくここに滞在する予定だから、ちゃんとしたところを選びたい。貴女がこの郷の長なら、一番この郷のことを知っているはずだ」

「わっちが兄さんらを呼び付けたのも、ちょうどその件に関わることなんよ」

紅華は侍従に指示を出し、酒と簡単な料理を提供してきた。ウィンディはまだお子様なので、甘酒なるノンアルコールの飲料が出されている。

「兄さんの武勇は、ここ緋桜郷にも知れ渡っててな。レムカーナでの弑逆が兄さんの仕業やとゆうのはわっちらくらいしか知らへんけど」

「…そうなのか?レムカーナで特級指名手配されてるから、どこに行ってもお尋ね者になってるかと思っていたんだが…」


546以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/03(月) 01:12:43.82czzZphiCO (3/7)

「よそはよそ、うちはうちや。レムカーナの王の豹変ぶりはそれ以上に有名やったし、そもそも他国で何やらかそうが、わっちのシマを荒さんなら特に文句は言わんよ」

「レムカーナが勝手に、兄さんを目の敵にしとるだけ。よほどレムカーナと親密な街でもなければ、偽名を使ってまでコソコソする必要はあらへんよ。…少なくとも、この郷にいる間は兄さんたちの安全を保証するわ」

「兄さんを警戒するのは、悪行に身に覚えがある人だけよ。わっちらが滅される道理はあらへんのやから、邪険に扱うなんて馬鹿らしいわぁ」

慣れた手つきで酒を飲む紅華は艶かしく、自身を美人だと褒めるのも当然だと思えるほどに美しい。
促されるままに一杯いただく。緋桜酒独特の風味が喉を焼いた。正直、自分の舌には合わない味だ。
飲めないわけではないので、責任を持って全て飲ませてもらったが。

「変な味ですぅ~…」

ウィンディも、甘酒の個性的な味に四苦八苦していたようだ。
その一部始終を見ていた紅華は、クスクスと笑っていた。


547以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/03(月) 01:13:14.77czzZphiCO (4/7)

全員が飲み終わったのを確認し、侍従が酒瓶などを回収する。部外者がいなくなった後に、紅華は口を開いた。

「過去に何があろうとも、今の兄さんたちは緋桜郷を訪ねた客人。なら、丁重にもてなすのが道理やろ?」

「そこまで評価してくれるのはありがたい」

僅かに視線を背けつつ、そんな言葉を返す。我ながら素直じゃないな、と心中で吐き捨てた。

「兄さんたちの泊まる宿は既に手配済みや。二番街の旅館『牡丹雪』。わっちの恩人が経営しとる宿でなぁ。サービスの質は桜花衆頭領のお墨付きや」

「宿泊費は桜花衆持ち。各種追加サービスは自己負担やけどそこはご理解いただけると嬉しいわ」

手厚いサービスをしてくれるのはありがたいのだが、そういうことをしてくれるということは、彼女側にも要求があることに他ならない。
何をすれば良いのか、リヒトは訊いてみた。

「察しが良くて助かるわぁ~。わっちらの望みはただ一つ。兄さんたちの活動が成功した暁には、緋桜郷も一枚噛ませてほしいんよ」

「成功するか解らんものに良く賭けられるものだ」

一年経っても何も成し遂げていない、前に進めていない現状。それを知っているが故の自虐。
紅華はそれを気にすることなく、平然と続ける。

「必ず当たる博打をしたって面白ないもんよ。それに、兄さんの眼がとっても綺麗でなぁ。どうしてか手を貸したくなるんよ」

紅華の言葉に、リヒトは返答に困る。
不思議な眼と言われたことはあっても、綺麗だと言われたことは無かった。
家を追われた原因たる紅眼は、どうしても好きになれなかった。自分が、嫌いだったから。
故に、リヒトは何も言えなかった。


548以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/03(月) 01:13:55.23czzZphiCO (5/7)

急に押し黙ったリヒトを気遣ったのか、紅華はキセルの吸い殻を灰皿に落とし、手を叩く。
合図に合わせて襖が開かれ、女性が部屋に入ってくる。女性と言っていいのか分からないくらい、幼かったが。

「後のことはお雪に任せます。ほなまた」

踵を返した紅華は部屋の奥へ進む。ひとりでに襖が閉じ、姿が見えなくなった。
こほん、と咳払いをした女性は、嫋やかにお辞儀をした。

「わしの名は『お雪』と申します。皆様方が利用される旅館『牡丹雪』の女将を務めてますのでお見知りおきを」

「…私よりちっちゃい」

ウィンディが言う通り、お雪と名乗った女性は小さかった。目測だが、身長は130cmあるかどうかといったところだ。とても大人には見えない。
だが、彼女は少なくとも自分たちの数倍は生きているはずだ。紅華と同じく、鬼の象徴である角が髪の中から見えている。

子供のような顔つきをしているが、とても知的で大人らしく見える。眼鏡を掛けているのもその一因だろうが。

「わしのことが気になるのでしたら、夜に伺いましょうか?」

「んぁ?…あー、いや、大丈夫です」

言葉の意味を咀嚼し、言外に何を示しているのか理解する。そういえば、この郷は"そういう場所"だった。

「?????」

まだまだお子ちゃまのウィンディは話の意味が理解出来ていないようだった。何よりである。


549以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/03(月) 01:14:36.37czzZphiCO (6/7)

お雪に手を引かれるままに道を行く。二番街と呼ばれる場所は、いわゆる緋桜郷の一等地で、最高級の店舗のみが軒を連ねる激戦区だ。
その中でも『牡丹雪』は特に評判が良く、リピーターもかなり多いのだとか。

牡丹雪に到着するまでの間、お雪と手を繋いでいたわけなのだが。
時折こちらを振り向いては蠱惑的な笑みを浮かべていたのが不思議でしょうがなかった。
何か気になることでもあったのか質問を何度かするも、それとなく躱されてしまい全く追及できなかった。

八階建ての大きな旅館『牡丹雪』。名店が鎬を削る激戦区で、何百年も在り続ける旅館は伊達ではなく、高級感が溢れて入るのも憚られるほどの迫力があった。

「「「おかえりなさい女将さんっ!!!」」」

お雪が中に入ると、着物を着た女性たちが元気にお出迎えをする。
大人から子供まで年齢は様々だが、大人の人は随所にスリットを入れたりして、肌を見せていた。なんとも目に毒だ。

「皆に紹介するよ。この方たちは頭領さんの友人のリヒトさん。これからしばらくの間、牡丹雪預かりとなります。仲良くしてあげてね」

「「「はぁーい!」」」

明るい声で迎えられ、リヒトは何となく顔を背けた。ウィンディは半分放心しており、ハリゴーディンに抱えられていた。
そして、二人は気づく。どう考えてもここは大人の店なのだと。
旅館としての側面を持つ、えっちな店なのだと。

冷や汗を流す二人を見て、お雪はくすりと微笑んだ。


550以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/03(月) 01:18:41.97czzZphiCO (7/7)

お雪に聞きたいことがあれば↓1にどうぞ。
また、牡丹雪で働く人を数名募集します。彼女たちは何回も交流を重ねれば仲間になる可能性を持っています。

ちなみに、緋桜郷はその性質上、奴隷階級の人たちは桜花衆の傘下か店で働くかの二択を選びます。働く内容も基本的には希望制です。


551以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/03(月) 10:01:57.93asPtcm0Mo (1/1)

(板的にも)えっちいことするつもりないんだが普通はそういうこと全くしない客でも泊まれるのか

従業員
【名前】結衣乃(ユイノ)
【人種】鬼
【性別】女性
【魔法】紡績魔法(糸生成・使役)
旅館『牡丹雪』の従業員。夜の接待と衣装制作、修繕担当。ウィンディと同じくらいの歳……らしいがメリハリあるボディはとてもそうとは思えない。
髪型は大元はツインテールにしているが毛先が多方向に跳ねている。
のんびりおっとり、間延び口調で話す。(キレると無口に)
自分を身請けしてくれる素敵な殿方を夢見ているが理想は高い。
使える魔法からアラクネの血が入っていることは確実だが捨て子のため詳しいことはわからない。


552以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/03(月) 13:17:07.971VAq8dSEO (1/1)

牡丹雪は大人のお店と普通の旅館、二つの側面を持つ店なので普通に泊まりたい人も当然います。
基本的には宿泊サービスがメインで、追加サービスで色々と付け足していくシステムとなってます。
一応追加サービスだけ受けるのも可能ではありますが、割に合わない料金設定にされてます(そういうことが出来ない人への配慮があるため)。


553以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/03(月) 18:49:05.94oRw41U+v0 (1/1)

【名前】霧香(キリカ)
【人種】鬼
【性別】女性
【魔法】霧魔法
薄紫の髪をポニーテールに纏めた爆乳美女。明るくノリの良い性格で誰からも好かれている
牡丹雪の従業員として夜の接待を務めるかたわら、自身が使う霧魔法の特性を活かし諜報や暗殺などの任務をこなすいわゆる忍者のような役割も担っている
性格といい、スタイルといい、忍ぶどころか逆に目立ってしまっている気がするが、一度任務となれば冷静沈着かつ非情な一面を見せるようになる
もしかしたら彼女の本当の性格はこちらなのかもしれない


554以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/03(月) 20:18:20.48RDZ2RbCTO (1/1)

【名前】雫(しずく)
【人種】半妖
【性別】女性
【魔法】水魔法
牡丹雪で見習いとして働く幼い少女。透明感のある青髪をおかっぱに切り揃えている。背格好はお雪と同じくらいだがこちらは外見通りの年齢。仕事は館内の雑務や他の従業員の小間使いなどで、夜のお仕事を覚えるのはまだまだ先
儚げな見た目とは裏腹に性格は素直で人懐っこく、目上には甘え上手で目下には優しく面倒見が良い
詳細は不明だが人と人以外の何かの混血らしく、その影響か綺麗な水を浴びると体力や魔翌力が回復する特性がある。そのため水浴びや湯浴みが大好き
身寄りのない自分を育て、働かせてくれているお雪には大きな恩を感じており、将来ももちろん牡丹雪で働くつもりでいる。しかし観光地の旅館で働いていると旅や外国の話を耳にすることも多いため、無意識下では外の世界への憧れを抱いている


555以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/04(火) 22:40:09.69YxyvjnRIO (1/1)

お雪に聞くことは特になしでよろしいですか?
明日の夕方~夜に投稿しますので、それまでを安価の期限とします。
キャラについても同様です。話の都合上、お雪と紅華は仲間にならないのでご了承をお願いします。


556以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/04(火) 23:27:32.80XxER0uy8O (1/1)

じゃあ
この近くに亜人の住む森林地帯はないか?でお願いします


557以下、VIPにかわりましてVIP警察がお送りします2022/10/05(水) 02:42:37.80a/OhZmiv0 (1/1)

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558以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/05(水) 12:48:41.649VgnTbASO (1/1)

【名前】静音(シズネ)
【人種】天狗
【性別】女性
【魔法】浄化魔法。物理的な汚れだけでなく殺菌や呪いをはじめとした魔術的な汚れの浄化も可能。
旅館「牡丹雪」専属の女医。
一本の三つ編みにした長い銀髪。アイスブルーの瞳。黒い翼。白い肌。優しそうな顔立ち。長身で豊かな胸やくびれた腰、安産型の美尻など悩ましい体つきだが客への接待はしない。
心優しく面倒見のよい性格で、困っている人を放っておけない世話焼きなお姉さん。
痴情のもつれから客が従業員を襲おうとしたり呪いをかけようとしたトラブルが過去にあったため、護身術程度に体術を習得しており恋愛について無意識に敬遠している。


559以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/05(水) 17:21:02.28d5lH632yo (1/1)

【名前】リン
【人種】人間
【性別】女性
【魔法】障壁魔法
牡丹雪の板前をつとめる、粋で懐が深い大人の女性
いつも長い紫髪をざっくりとまとめて着物をたすき掛けにして着ている
自分は可愛げがないし接客に向いてないと思っているので裏方専門
人間同士の紛争に巻き込まれて故郷の街が襲われて家族や友人を失いながら逃げ延びて天涯孤独の身になる
せめて最期に噂に聞く緋桜郷の桜を一目見て死にたいと思いボロボロになりながらたどり着いたところをたまたま通りかかった頭領に気まぐれで拾われた
下働きをしながら料理の才能を開花させ、今では鬼以上に和食を理解していると評される
今の境遇に感謝してるし生きがいを感じているが、自分だけ生き残ったことや紛争に関して内心では未だに割り切れないところがある


560以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/06(木) 02:27:36.43VgEsE8a/O (1/2)

緋桜郷はイルステッド最大の歓楽街として名を馳せていたし、世界規模で見ても有数の都市だというのは有名な都市だ。

だがまさか。入郷した途端に、一番偉い人にロックオンされるとは思っていなかった。
いやね、俺も何も考えていなかったわけじゃないんだ。偽名使ったりして対策はしていた。
でもさ、正体知ってますーここにいる限りは安全ですー宿屋も手配しますーって速攻で外堀を埋められたら、ね。どうしようもないじゃんか。

それで手配されたのが緋桜郷の頭領、その恩人が経営する旅館。徹底的に囲もうとしてて笑うに笑えない。
もしかして、彼女たちは俺を美味しく頂く気なのだろうか。色々な意味で。
だとしたら勘弁願いたいものだ。俺なんか喰ってもたぶん美味くはないぞ。色々な意味で。

過去の英雄が遺した名言がある。童貞すら守れぬ者に何が守れるのか、と。
なるほど、素晴らしい言葉である。

ならば俺も守らねばなるまい。この色欲渦巻く欲望の郷で、貞操という一つしかない至宝を。
今は捨てた勇者の名に懸けて。漢には逃げてはならない時がある。今が、その時だ。

《リヒトの手記》


561以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/06(木) 02:28:23.98VgEsE8a/O (2/2)

緋桜郷はエッチな場所。そうハリゴーディンさんに教えられた私は、正直やばいって思いました。
そんな場所に14の子供を連れて行って何をさせるつもりなんでしょうか。

私に身を売れと?戦いで役に立たないんだからこれくらいやれと?
貧相な身体の私が一文でも稼げると思ってるんでしょうかねこの人は。
いや、戦いで何も出来ないのは本当にごめんなさい。
でも許してください。私はまだ14の子供ですし、貴方みたいに戦いと慣れ親しんでるわけでもないんです。
レムカーナでコソコソ生きていた小娘に期待なんかしないでいただけると助かります。

そういえば、お雪さんに連れてこられた牡丹雪、綺麗な旅館だったなぁ。
でも、あんな綺麗なところなのに夜にはエッチなことをするんだよね。
お出迎えしてくれた綺麗なお姉さんとかが。それを知っておきながらどんな顔して接したらいいんでしょう。
大人の街に放り込まれた私は早くも心が折れそうです。助けてチャカちゃん。ハリゴーディンさん。
リヒトさんはエッチなことしに行くかもしれないから除外します。
男の子はそういうのに興味深々だって私知ってます。本にそう書いてありました。

《ウィンディ・ヴァルマンウェの手記》


562以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/06(木) 02:30:15.718uOBEE2xO (1/7)

お雪に案内されたのは、旅館『牡丹雪』の七階。客人用の客室らしく、広々とした居間が広がっている。
ちなみに、牡丹雪は全室に露天風呂が設置されているらしい。大浴場は男湯、女湯、従業員用浴場の三つに分かれているのだとか。

近辺で採れたどんぐりを食べているチャカは、満足そうにウィンディに抱き抱えられている。
旅館内で粗相をしないか心配だ。もしやらかしたら損害賠償はどれくらいになるのだろうか。身体で払うのだけはしたくないものだ。
ともかく、今は行商人の調教の手腕を信じる他ない。

「この部屋はリヒトさん、こっちの部屋はウィンディちゃんたち。緋桜郷に滞在するうちは、我が家のように扱ってくれて構わないよ」

「我が家、ね」

反射的に言葉を零した、リヒトの表情が微かに曇る。周囲の人には読み取れないほどに些細な変化だし、当の本人も気づいていない。

「食事は毎食お出しするけど、他の子と一緒に食べるかこの部屋で食べるか、それとも外食するかは先に教えてくれると助かるよ。配膳の手間があるからね」

「風呂は大浴場を好きに使っておくれ。夜は掃除でお客さん用の浴場は閉めちゃうから、その時は従業員用のを使うといいよ。お前さんたちが気にしないのなら、昼間でも従業員用浴場は使っても構わないけれど」

「立て看板を作っておくから、一人で入りたい時は入り口に立てておけば他の子は入ってこないよ。昼に入りたいけど一人がいい…って時はこれがおすすめだね。昼も夜も、浴場はお客さんで賑わってるからさ」

「あとは、リヒトさんに対しての注意が一つ。追加サービスを希望するならその子と直接、値段とかを交渉しておくれ」

「はいはい分かりました分かりました」

あーあー聞きたくないと頭を振るリヒト。お雪は微笑し、頭を下げた。

「では、ごゆるりとお寛ぎください。身体と心が癒されること、わしら牡丹雪の一同は願っております」

「…どうも」

屈託のない明るく優しい笑顔に、頬を掻きながらリヒトは答える。何故か頬を上気させていたウィンディは、ぺこぺこと頭を下げていた。


563以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/06(木) 02:30:57.228uOBEE2xO (2/7)

そういえば、今はお昼時とはいえ他の客の姿を一切見なかった。風俗として利用する人はともかくとして、旅館として利用する客すらもいない。

「まっ、今週は定休週だからねー。牡丹雪は月に一度、丸々一週間お店を閉めるのさ」

「曲者!?」

荷物を降ろし、椅子に座って考えごとをしていたら、窓から声が聞こえてきた。
独り言などしていないので単純に心を読まれている。怖い。
カーテンを開けてみると、そこにはポニーテールの曲者がいた。

「曲者とは失敬なぁ!!!わたしは牡丹雪の従業員だよう!」

ぷりぷりと怒っている女性のお山がぶるんぶるん揺れる。着物を緩めているからなのか、ふとした拍子で見えそうで目のやり場に困る。
というより、何故彼女はバルコニーがあるのに窓にへばりついているのだろうか。
この高さから落ちれば常人は無事で済まないどころか間違いなくとんでもないことになるはずだが。

「女将さんが引っ掛けてきた男の人がどんなイケメンか気になってね。顔は及第点、身体つきも上々…というかやばいね!どんだけ鍛えてるのさ!勇者って皆こうなのかな?」

「引っ掛けてって…。俺は他の若い勇者を知らないから比較出来ないんだ、すまない」

「だよねー。わたしもそれなりにここで働いてるけど、勇者様のお相手をしたことは一度も無いからわかんないや」

勝手に窓を開けて転がり込んできた曲者。どうやって開けたのか、そもそも何故あんなことをしていたのかは触れないでおく。

「わたしは霧香(キリカ)。お呼びとあらば即参上!年齢はヒミツのイケイケ鬼ウーマンだよ!どうぞよろしく!」

決めポーズをバッチリ決める霧香改め曲者。
リヒトはただ、苦笑いを浮かべるしか出来なかった。

「ノリが悪いぞ少年ー!」


564以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/06(木) 02:32:00.098uOBEE2xO (3/7)

「きゃー!」

「待て待てー!」

興味深そうにドアの隙間から子供たちが中を観察してきたので、取り込み中でなければ自由に出入りしていいと伝えたところ、リヒトの客室は子供たちの遊び場になってしまった。
五、六階が従業員の区画らしいのだが、そこではしゃいだら他の従業員の迷惑になるのでわざわざここに来たのだろう。

「…羨ましいな」

自分には無かった、子供の時間。自由に遊び笑うひととき。
もし自分にもあったなら。そう夢想しても叶うことはなく、所詮はたらればだと諦めた届かない夢(まやかし)。
何度求め願ったのだろうか。数えきれないほどに欲した人との繋がりは、家を出るまで手にすることは出来なかった。
家を出て聖女に出逢うまでも、地獄に等しき悪夢の中を一人、彷徨い歩いていたが。

不幸の星の下に産まれたのではないか、と自嘲げに嗤う。子供たちにはその姿が見られることはなかったし、見られたくない。
この苦しみは、自分だけが感じていればいい。他人に共有して苦しませても、辛くなるだけだから。

憂いを帯びた瞳で、バルコニーに目を移す。鮮やかな緋桜が、今の自分には眩しかった。

「あの子たちのわがままを聞いてくださってありがとうございます」

「…ん…。礼を言われるようなことじゃないよ」

コトリ、と湯呑みを置きつつ、女の子が謝辞を述べる。
リヒトは視線を女の子に向けつつ答えた。
湯呑みに注がれていたのは温かい水。即ち白湯である。
ゆっくり飲み干してみると、身体の中からぽかぽかと温まる。熱すぎず冷たすぎない、絶妙な温度だった。
ちょうど喉も乾いていたからありがたい。

「雫(シズク)ちゃん、だっけか。しばらく迷惑を掛けるだろうが、ウィンディともどもよろしく頼むよ」

「はいっ!こちらこそよろしくです!」

人懐っこい笑顔を見せる雫は、将来性を感じさせる可愛らしい少女だった。
未来では傾国の美女と呼ばれているかもしれないが、牡丹雪の人は皆同じくらい顔立ちがいいことに気がついた。顔面偏差値のインフレが激しすぎる。


565以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/06(木) 02:32:36.718uOBEE2xO (4/7)

到着して早々、特にやることが無くて暇を持て余したリヒトは、仕入れた荷物の荷運びに勤しんでいた。
子供や女性に重い荷物を持たせて、のんびりするのは気が引けるという個人的事情もある。
こんなことにハリゴーディンを使うのはもったいないにも程があるので、リヒトが荷運びを行なっている。暇つぶしを兼ねているので当たり前のことだが。

まず最初に運んだのは、鮮度が命である食材類。両腕に木箱を担ぎ、樽を背負った姿は傍目には拷問に見えるが、リヒト本人はなんとも思っていない。
床が抜けないように一応浮遊しているが、それはそれで不気味な見た目になっていることにリヒトは気づいていない。

「おかげで助かったよ。ありがとう」

せっせと食材を整理している女性が、そんなことを述べる。
リヒトとしては暇だからやっただけなのだが、感謝はとりあえず受け取っておく。
ぶっきらぼうな態度は今更どうしようもないので、放っておいてもらいたいものだ。

「素直じゃないな、君は」

「素直じゃなくてすみませんね。どうせ俺は天邪鬼なガキンチョですよ」

本当に放っておいてほしい。

「そんな天邪鬼な君にお礼を差し上げよう。他の人には内緒だよ?」

リンと名乗った女性が差し出したのは、見るからに高級そうな魚の煮付けだった。
美味そうな匂いに思わず喉が鳴り、腹の虫が鳴く。
本当にこんな上等な品を食べていいのか訊くと、リンは頷いた。

「構わないとも。本来はお雪さんに食べてもらう試食品だったんだけど。それはまた作ればいいしね。君の感想を聴かせてほしいな」

「美味すぎて美味すぎる。俺の貧弱でゴミクズな語彙力では言葉に出来ません申し訳ない」

「そ、そうかい。そこまで喜んでくれるなら料理人冥利に尽きるよ。あと味が変わるから涙は拭いてくれ」

大粒の涙を流しながら試食をするリヒトに、リンは慌てふためいた。
その後、美味しさの秘訣を訊いてみるも、企業秘密だと躱されてしまったリヒトだった。


566以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/06(木) 02:33:42.338uOBEE2xO (5/7)

次に訪ねたのは医務室。《取扱注意》と書かれた箱を恐る恐る運び込み、机に置く。
薬品の匂いが鼻を突くが、嗅ぎ慣れない匂いはあまり気分の良いものではなかった。

「こんなにいっぱい薬品があると、どれがどれだか分からなくなりそうだな」

空の瓶を手に取り、説明文書に目を通す。専門用語の羅列に処理能力は敗北し、無言で元に戻した。

「知らない人にはそう見えるだけよ。知っていれば、ちゃんと違って見えるの」

カルテの整理をしているのは、牡丹雪唯一の女医である天狗『静音(シズネ)』。
やや短い黒い翼が種族を主張しており、グンバツなスタイルはちょっと子供にはお見せ出来ない色気を放っている。
それでいて、下品さを欠片も感じさせないのは背の高さと彼女の顔立ちの良さが関係しているからだろう。

「今はリヒトくんも、他の子と同じ大切な人だから。もし怪我でもしたらここに来なさい。完治するまで責任を持って看病するから」

「そりゃどうも。もしもの時は頼りにさせてもらうよ」

「約束よ?」

気のない返事をしつつ、リヒトは医務室を後にする。
自分が大怪我を負う時は相当に危険な事態になっている時だ。だから、彼女を頼る日が来ないことを祈った。


567以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/06(木) 02:34:33.588uOBEE2xO (6/7)

「ここでいいのか?」

「大丈夫ですよ~」

着物と生地が詰まった袋を置く。六階の一室に呼ばれたリヒトは、女の子の指示に従い荷物を運んでいた。
女の子の名は結衣乃(ユイノ)。本人曰く『ウィンディと同年代』らしいが、メリハリのあるボディを見る限りとてもそうには見えない。
げに恐ろしき脅威の格差社会である。同年代だからと比較されるウィンディが不憫でならない。彼女の明日はどっちだ。

純年齢が同じくらいなのか、人間に年齢換算すると同じくらいなのかは分からないが、どっちにしても今のウィンディに勝ち目は無い。
可能性に期待するしかないが、同じように結衣乃も成長する可能性を鑑みるとやはり、希望はゼロに等しいのかもしれない。

「ありがとうございます~」

「この量…君が皆の服を担当してるのか?」

リヒトが運んだのは袋が四つ。人数にして数十人の服を賄える量だ。個人の物とは思えない。
結衣乃はリヒトの質問を肯定する。
ちょっとした所作一つで結衣乃のたゆんたゆんが揺れ、その度に目の光を失ったウィンディを幻視する。
悍ましい密度の呪詛を吐いているようにも見えたが、リヒトが見たのは幻なので本人がそうしている可能性は無いだろう。
彼女は他人想いの良い子なのだ。たとえ自分の身体が貧相だからって恵まれた子を羨み恨むなんてことがあるはずがない。

こっそりウィンディの部屋を覗いてみるとそこには、虚な目をしたウィンディが無言で大量の牛乳を飲み干していた。
優しいリヒトは何も言わずその場を後にし、今回のことを忘却した。


568以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/06(木) 02:38:07.678uOBEE2xO (7/7)

亜人の居場所 判定↓1コンマ


01~30:今はもういない
31~99:未だに住んでいる人がいる
00:???


亜人の種族 判定↓2コンマ(上の判定成功時限定)


01~30:獣人
31~60:鬼、天狗
61~90:エルフ
91~99:自由安価
00:???


569以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/06(木) 02:58:50.96PLDOyecLo (1/1)

あい


570以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/06(木) 07:42:42.55oc1lVK7/o (1/1)

自由安価用:ドリアード


571以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/06(木) 23:10:22.65xUF7PtilO (1/1)

「本日のお昼ご飯ですっ!」

「ありがとう」

雫が配膳してくれた昼餉に手を付ける。献立は白米とオスイモノなるスープ、あとは魚の塩焼きやトンカツだった。
普通の手料理が食べたいと要望を出していたのが通ったのか、緋桜郷の食卓に並ぶようなシンプルなラインナップになっている。
かしこまった雰囲気は嫌いなのでこちらとしてもありがたい。

「おかわりはたくさんあるからね。焦らず食べておくれ」

ニコニコ顔でご飯をよそうお雪。忙しなく配膳を務める雫。目に入った物を片っ端から食べていくリヒト。
三者三様の姿がそこにあり、その中でもリヒトが圧倒的に目立っていた。
幸い、この部屋には彼ら以外はいないので、人目は気にしなくても問題ない。

三人前を食べきり、両手を合わせる。緋桜郷の風習によると、食事を終える時は手を合わせ『ごちそうさまでした』と言うのだとか。
慣れ親しんだ仲ならば省略していいらしいが、そこまで親密ではないし単純に失礼なので郷に入っては郷に従うことにする。


572以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/06(木) 23:10:56.56fWTA6LnpO (1/1)

「お雪さんに訊きたいことがあるんだが、いいか?」

「わしで良ければ」

差し出された緑茶を一杯飲み干し、息を吐く。ほっと落ち着く優しい味わいに、表情が綻んだ。
リヒトはお雪に対し、緋桜郷近辺の森林に亜人が住んでいるのか訪ねる。首肯で返されたリヒトは、小さく頷いた。

「差し支えがなければ、どんな人が住んでいるか教えてほしい」

「とは言われてもね。鬼や天狗といった先住民たちが住んでいるだけさ」

「わしら緋桜郷の民…その大半は、その森林地帯に源流を持つ。先祖が森を飛び出してここに拠点を創り、それが発展して今へと至ったのさ」

「だから…昔はとんでもなく仲が悪かったんだよ。それこそ、目と目が合ったら即決闘と言わんばかりにね。今では遺恨は綺麗さっぱり流れて友好的な関係が築けているけど、昔は本当に酷かった。ああ、思い出すだけでも頭痛がするねぇ…」

たはは、と乾いた笑いを浮かべるお雪。当事者にとってはかなり大事だったそうだが、悲しいかな。
その悲しみを共有出来る人はここにはいない。彼女からすれば、リヒトや雫など産まれたての赤ちゃんに等しいからだ。

「そういえば、お雪さんっていったい何歳なんだ?」

何気なしに発したリヒトの言葉は、女性なら誰しもが抱える地雷を踏む愚行だった。
雫はあちゃあ…といった感じで頭を抱え、皿を片付けていく。あからさまに逃げの手を打っている。
それに対してお雪は、女には秘密があるものだよ、とだけ残し口を噤む。心なしか、周囲の気温が十度ほど下がった気がした。


573以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/06(木) 23:11:24.970AgUKqv7O (1/1)

何をするかを↓1にどうぞ。


574以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/07(金) 03:33:08.243UKY9xBMo (1/1)

森へGo!


575以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/08(土) 23:35:08.94L2r3r2EoO (1/3)

いつものようにマナをフードに迎え、牡丹雪を出る。ウィンディには緋桜郷の雰囲気に慣れてほしいので、お留守番を命じてある。
これを機に友達を作ってもらいたいものだ。牡丹雪の従業員は皆善人だから、邪険に扱われることはないはずだ。

喧騒で賑わう街中を進む。冒険者、住民問わず多種多様な人が雑踏の中に見受けられる。
緋桜郷の風習に倣っているのか、大半の人が着物に身を包んでいるため、リヒトの服装は大衆の中でかなり浮いている。

「しかし、温泉とやらの匂いはすごいな。慣れてしまえば、気にならないんだろうが」

「わたしはきらいじゃない」

「へえ」

自然由来のものだからか、マナは気にする様子を見せない。
火山地帯に暮らす妖精なら、毎日温泉に入っているのだろうか。気になるところである。

雑踏を抜け、関所を通る。目的地の森はすぐそこだ。リヒトの足ならば往復で一時間も掛からないだろう。
軽い足取りで走っていると、白狼の群れが隣を並走していた。催促するような、期待するような視線をこちらに向けながら。

追いかけっこにでも興じたいのだろうか。こちらは遊んでいる暇など無いのだが。
だがしかし、ここで彼らを無視するのも可哀想に思える。

「《天狼星(シリウス)》」

リヒトはそう呟き、光魔法を行使した。左手から溢れた光が集い、数匹の狼を形作る。
幼い頃に考案した、孤独を紛らわすための悲しい魔法。戦争では一転して、数多の命を喰らった凶悪な魔法。

それは今、同胞をもてなし戯れるためだけに行使された。あたりを駆け回って光の尾を引く白狼が、血塗られた過去を持つなど夢にも思うまい。

「アオーン!」

彼らも同胞だと認識したのか、光の白狼とじゃれあい始める。微笑したリヒトは速度を上げ、森の中へと消えていった。


576以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/08(土) 23:35:47.42L2r3r2EoO (2/3)

獣道を行くこと十分。風のざわめきの中にカラスの鳴き声が混じり始め、日の光が空を覆う樹木の葉に遮られ明度が下がっていく。
殺風景だった道は石畳と木の柵で彩られ、灯籠が周囲を照らしていた。
かなり年季が入っており、汚れが付いていることからして、長年放置されているようだが、中の炎は煌々と燃えている。赤ではなく、青色に。

なんとも不思議なものだと思いながら道を進むと、集落が見えてくる。ここが目的地で間違いなさそうだ。
リヒトは箒で入り口を掃除している少年に声を掛ける。ピタリ、と動きが止まった。

「………」

じっとこちらを見つめ微動だにしない少年は、何を思ったのか茶色の変なものを取り出した。本当に何をしているのだろう。
ぷらぷらと左右に何かを揺らす少年。それを不思議そうに見るリヒト。

数秒後。どこからともなく現れたキツネが、少年の右手に握られていた何かを咥え去っていった。

「…なんだ、人間か」

人に向かってなんだとはなんだ失礼な。リヒトはささやかな抗議をするが、少年は口をへの字に曲げて反論する。

「緋桜郷ばかり有名になって、こっちは閑古鳥が鳴いてんだよ。こっちのことなんか見向きもしないくせによー!」

逆ギレもいいところだと、リヒトは苦笑した。周囲の人は、二人を生暖かい目で見守っている。
見ているなら助けてほしいと、リヒトは嘆息した。

「ここは天狗と鬼が暮らす隠れ里『竹風村(ちくふうむら)』だ!せっかく来たならゆっくりして金落としていけミーハーなバカヤロー!!!」

少年が逃走する間際に零したトドメの捨て台詞に、リヒトはまた嘆息した。
仮にも隠れ里と名乗っているなら有名にならなくても当然だろう。と納得しながら。


577以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/08(土) 23:36:53.44L2r3r2EoO (3/3)

何をするかを↓1にどうぞ。

竹風村での行動数:最大3


578以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/09(日) 00:54:41.27SZgUKVjJ0 (1/1)

ウィンディや牡丹雪への方々へ贈るためのお土産を物色する


579以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/09(日) 01:32:00.59OSJl06I3O (1/2)

年配の夫婦が営む手芸店には、二人が丹精込めて作り上げた温かみのある作品が並べられてある。
どれも細部まで作り込まれているのだが、少年が言ったように観光客が全く来ないため全然売れず、埃を被っている状態だったが。

店主も客が来るとは露ほどにも思っていないようで、姿が見えない。商品も置きっぱなしで不用心が過ぎる。
まあ、ここがのどかで平和な村だから為せることなのだろう。
仮に緋桜郷で同じことをしたら、根こそぎ悪党に盗まれているのがオチだ。

他にも軽く目を通すと、漬物屋では熟練の技が唸る素晴らしい出来の漬物が売られていた。
試供品を食べてみたのだが、独特な匂いとは裏腹にあっさりとしていて食べやすい。
外の人向けの品らしいが、なるほど。この味なら抵抗なく食べられると、一人納得した。
マナに食べさせようと試みたが、口の中に押し込まれる結果に終わった。美味かったから別にいいのだが。

他に目に付いたのは、『竹ノ湯』と呼ばれる温泉で売られている温泉饅頭くらいか。
温泉の名が入っているが、温泉の湯は使われていないらしい。味も匂いも変になるので、それはきっと正しい判断だと思われる。

こちらも一口味見してみると、ふんわりとした生地に詰め込まれた甘い餡が、優しい甘さを口いっぱいに主張した。
製作者曰く、普通の砂糖とイルステッドでは緋桜郷近辺でのみ生産される黒糖なる砂糖を独自の割合でブレンドしているらしく、この味は竹風村の密かな自慢なのだとか。

ごく少数を緋桜郷に輸出して販売しているが、決まって開始数分で完売する人気品らしい。
数が少ないのが主因だろうが、緋桜郷でも親しまれているのならその人気に嘘は無いだろう。
製作者が年なので、近々製作を辞めてしまうらしい。
そうなれば、この味は永遠に失われるのだろう。悲しいがそれが歴史というものだ。
技術を引き継いでくれる勇気ある若者が出てくることを祈っておく。

「…とっっってもくやしいけど、これだけはおいしい」

"あの"マナが太鼓判を押すほどに、温泉饅頭は美味しい。これをセールスポイントにすればさらに売れそうな気がするが、生憎リヒトは商人ではないので、そんな益体もない考えは破却された。


580以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/09(日) 01:34:44.83OSJl06I3O (2/2)

誰に何を買うかを↓3までどうぞ。書き方は例を参考にしてください。一レスにつき二種類しか書けません。



ウィンディ 櫛
リン まな板と包丁
牡丹雪の子供たち 温泉饅頭を買えるだけ


581以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/09(日) 01:40:34.80rKkJ9uuCO (1/1)

すみません、一レスにつき一種類に変更します。


582以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/09(日) 01:51:03.59ezoQtFgZo (1/1)

子供たち お饅頭買えるだけ


583以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/09(日) 10:31:08.37yAp+bYPSO (1/1)

ウィンディ 櫛


584以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/09(日) 14:01:30.03HIOu71EbO (1/1)

リン 花


585以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/09(日) 20:01:06.37fVPTf7TQO (1/2)

さて、何を土産に買うべきか。こういう普通の人らしいこととは縁が無かったので、何が喜ばれるのか皆目見当が付かない。
唯一マトモな助言をくれそうなウィンディはここにいないし、マナに期待しても無駄なのは分かりきっている。ハリゴーディンは論外だ。

結局のところ、行き詰まった時に頼りになるのは己の直感だけだ。本能が良いと言った物を選べばいい。
他人にどう受け取られるかは他人次第。フェルリティアで巡り合った旅人が残した名言はこんな時にも役立った。

そんなこんなでリヒトが購入したのは、子供たちが喜ぶであろう温泉饅頭。これは買えるだけ買ったが、たった数箱で売り切れたのを見るに、生産数も相当に絞っているのだろう。
他にもウィンディやリンに贈答する櫛や花を購入した。
女の子なのだから、髪の手入れをする際にこういう物はなにかと役立つはずだ。たぶん。
厨房に立つリンに花を贈っても邪魔になるだけな気がするが、選んだものはしょうがない。
最悪、花瓶に挿してインテリアとしてでも使ってもらおう。

オマケでもらった温泉饅頭を齧りつつ、リヒトは荷物を纏める。二、三個だけつまんだ後、残りはマナ用に残しておく。
目の前に袋を置くと、当然のようにそれはマナに盗まれ、胃袋の中に収まった。まあ、元々食べさせるつもりだったから別に良いのだが。


586以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/09(日) 20:02:18.99fVPTf7TQO (2/2)

何をするかを↓1にどうぞ。

竹風村での行動数:2


587以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/09(日) 21:20:52.05H6DDiO/Do (1/1)

マナ、波長の合いそうな気配感じない?
拠点に来てもらうなら相性重要だし


588以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/09(日) 21:33:20.907Cbg8rphO (1/1)

マナチェッカー 判定↓1コンマ


01~30:いない
31~80:ひとりいる
81~99:ふたりいる
00:???


589以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/09(日) 21:41:54.350nZg517Vo (1/1)

マナちゃんキャラ立ってきてるねぇ!


590以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/09(日) 21:54:59.30XXJlXI9EO (1/1)

仲間を一人募集します。テンプレートは以前のものをお使いください。
場所が場所なので種族は鬼と天狗のどちらか限定です。


591以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/10(月) 04:20:54.84qbLUw00Q0 (1/1)

【名前】蓮武(レンブ)
【種族】天狗
【性別】男
【魔法】雷魔法
水色髪短髪筋肉質の青年。大剣を背負っている。白い羽がある。性格はクールだが真面目なところがある。剣の修行の為に旅をしている。剣では一度も負けた事がないくらい強い。幼い頃に奴隷商人に捕まり奴隷になった過去がある。売られる前に脱出し今は自由になっている(脱出した時に一人の剣士に出会い剣術について色々教えてもらった)。クールだが心の奥では深い傷をおっている。
戦闘では剣術と雷の魔法を使用したり、剣に雷を纏わせて戦う事ある。


592以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/10(月) 20:17:21.87pyolr5kGO (1/2)

のんびりと足湯に浸かるリヒトとマナ。ズボンの裾を太ももまで捲り上げ、乳白色に濁った温泉に足を浸け、温まっていた。
マナは体格の都合上、リヒトと同じように席に座っても足が温泉まで届かない悲しみを背負っている。
が、桶に温泉を汲み、木箱で即席のマナ専用足場を用意することで事なきを得た。

うぼぁー、とだらしのない声を漏らし、足湯を堪能する二人の顔は、他人には見せられないくらいに破顔していた。

拠点にこのお湯が有ればなんでも出来る、頑張れる気がする。
そんな気にさせる名湯は、緋桜郷では知名度が全く無い。その原因はもはや言うまでもない。

ここでさりげなく、リヒトはマナにアイコンタクトを取った。
意味が伝わるならそれでよし。伝わらなかったなら口で言えばよし。単なる実験という名のおふざけだ。

気の合いそうな人はいるか。リヒトの問いに、マナは逡巡ののちに指を一本だけ立てることで答える。

意図が伝わったこと、そして何より、マナが同調出来そうな人がいることに驚いた。

「すまない、見知らぬ人よ。俺も湯に浸かって構わないか?」

同時に、意識の外から声を掛けられる。振り返ってみるとそこには、筋骨隆々な男性がいた。
羽が生えていることから、種族はおそらく天狗。

「どうぞ」

リヒトが促すと、青年は頭を下げながら足湯に入る。ふう、と息を吐く音が聞こえた。

マナに視線を移してみると、一瞬だけ彼を指差す。彼が先述した同調出来そうな人で間違いない。

しかし、この偏屈な妖精がシンパシーを感じるとは。厄ネタを持っていそうな気配を感じる。
リヒトは内心冷や汗を掻きながら、努めて平静を装う。そんなリヒトを知ってか知らでか、マナは大きな欠伸をした。


593以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/10(月) 20:19:03.87pyolr5kGO (2/2)

蓮武と何を話すかを↓1にどうぞ。


594以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/10(月) 20:52:45.388nESAjNV0 (1/1)

ずいぶんデカい剣を背負っているんだなと背中の剣に注目する


595以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/11(火) 01:59:04.78kOc6wHl4O (1/2)

竹風村の足湯に入る際のルールとして、手荷物は全てカゴに入れて保管する、というものがある。
そのため、リヒトはカバンなどの荷物一式はカゴに入れているわけだが、目の前の男性はカゴから荷物がはみ出ていた。はみ出ざるを得なかった。

刃渡り2m超の無骨な大剣が、カゴの横に放り出されている。カゴに乗せようものなら瞬く間に押し潰れるのは確実なので、その判断は正しいのだろう。
だがこう、もうちょっとどうにかならなかったのだろうか。
刀身がさらけ出されていると、どうしても気になってしまう。
だから俺は悪くない、と誰に対してでもなく自己弁護をする。

しかし、かなり大きな剣だと感心する。リヒトも膂力には自信があるが、大剣類は手に馴染まなかった。
振るえないわけではなかったが、手足のように扱うには、技量も筋力も足りていなかったのだ。
彼がわざわざそれを選んでいるということは、自身が信を置くに足る、と認めていることの証左に他ならない。
それほどまでに、研鑽を積んできたのだろう。

「俺の剣が気になるのか?」

「ん?ああ。俺も剣の腕には多少の覚えがあってな。随分と大きな得物だと感心してたところさ」

「なるほど」

目立った装飾の無い、使い込まれた大剣は、その刀身に蒼空を映す。
しっかりと手入れがされた剣は、華やかさこそ無いがとても美しい。彼の人柄を、刀身に映る鏡像に垣間見た気がした。


596以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/11(火) 01:59:49.28kOc6wHl4O (2/2)

蓮武と何を話すかを↓1にどうぞ。


597以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/11(火) 03:41:21.07DE/g0du4o (1/1)

(荷物の雰囲気などから旅人だろうと踏んで)
どこから来てどこへ行くのか、といった話をする


598以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/13(木) 14:26:10.12CjE8GOePO (1/1)

さて、彼はいったい何者なのだろうか。
武器を持っていること。行動を阻害しない戦闘向きの服を着ていること。荷物に保存食や水が所狭しと敷き詰められていること。
そして、戦闘を日常とする者が放つ特有の雰囲気。
以上を鑑みるに、旅人や修行者の類と見て間違いなさそうだが。

リヒトは自身を『緋桜郷に心身を癒しに来た戦士』ということにして、天狗の男性に質問をする。

「貴方は何をするために旅してるんだ?その旅はどこから始まった?」

蓮武(レンブ)と名乗った男性は少しの間考える素振りを見せ、ゆっくりと口を開く。

「…俺は、剣の道を極めるために各地を放浪している。旅の始まりについては、敢えて黙秘させてもらおう」

ふむ、とリヒトは足を組んだ。語りたがらないのは、そこに後ろめたいこと、忌まわしい過去があるからだと、相場は決まっている。
であれば、深入りは禁物だ。わざわざ藪を突いて蛇を出すこともない。

「求道者ってわけか。果てのない修羅道を征く、その心意気には恐れ入るよ」

闇に身を堕とした者には、あまりにも眩しい道。物怖じせずに突き進む勇士を、幽者は羨望の眼差しで見つめる。
が、その視線には誰も気づかない。

彼のように真っ直ぐな心が残っていれば、俺も違う未来へ進んでいたんだろうか。
そんな独白は、心の闇に溶けて消えた。


599以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/13(木) 14:27:15.33ub+ns018O (1/1)

会話を継続する場合は話題を↓1にどうぞ。
終了したい場合は、その旨を記載してください。蓮武との交流を終了します。


600以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/13(木) 15:58:16.39TIycFatQO (1/1)

(「各地を放浪している」と言っているので)
今までどんな国や村など訪れたことがあるか、といった話しをする。


601以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/16(日) 22:54:55.47O2iSUGQ1O (1/1)

竹ノ湯の従業員に振る舞われた温泉卵なる珍味。それをおっかなびっくり食べるリヒトと蓮武の姿が対照的だった。
従業員に食べるか尋ねられたマナは黙秘を貫き、刺々しい視線を向けることで答えていた。
善意で訊いた従業員が不憫でならなかったので、リヒトは謝罪し、マナの分も食べることにする。が。

「なんだぁこれ…。黄身は固まってると思ったらそうじゃないし、白身はトゥルントゥルンだし…」

リヒトは初めて食べる珍味に難色を示す。
美味い、不味いの問題ではない。味は元が卵なので問題ない。問題があるのは食感だけだ。
こんな食感は初めてだ。卵の面影を色濃く残しているというのに、卵らしさがほとんどない。
ゆで卵のように黄身も白身も固まっているのかと思ったがそんなことはなく、黄身はとろけていて、白身に至っては口で啜れるほどにトゥルントゥルンだった。

ただ不味いだけなら、それはそれだと割り切って食べるだけで良い。
だが、独特にも程があるこの食感…未知との遭遇に、リヒトの頭はフリーズする。
それから回復するまでの間、なぁにこれ、と間の抜けた声が頭の中で途切れることなく反響していた。

マナの分については、見かねた蓮武が食べてくれた。馴染みがあったのか、彼はすんなりと完食していた。
ということは、緋桜郷近辺出身なのかもしれない。

「修行の旅、だっけか。今までどこを旅してきたのか、訊いても構わないか?」

「…とは言われてもな。俺はあくまで修行のために旅をしている。面白味のある話は出来ないぞ」

「どこに行ったかくらいで構わないさ」

旅程だけでも知っておけば、今後の行動に役立つ日が来るかもしれない。
欲を言えば何があったか、その仔細まで聴いておきたいのだが、そこは彼次第と言ったところだろう。

面白味が無い。後で聴かない方が良かったと後悔しても知らない。と散々に予防線を張った後に、蓮武は修行の旅程を語った。


602以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/16(日) 22:55:39.178Pkr7wOQO (1/1)

彼がまず最初に赴いたのは、嘗てリヒトが陥落させた都市『カロゥス』だった。
彼が来訪したのはリヒトが産まれるより前のこと。なので当然、戦火に包まれていたわけはない。
とても平穏な、ごくごく普通の都市だったし、今ほどレムカーナとの仲が険悪ではなかった。
今も当時も、メリちゃん最かわ教の狂信者が相当数いたことは変わらないが、まあ平和だった。

そんな狂信者の集う都市に何故蓮武が向かったのか。
先述した通り、修行のためである。断じてメリちゃん最かわ教に入信したかったわけではない。
魔王であるメリオゴストーグ。
本体はとても貧弱、軟弱、虚弱であり、新米冒険者ですらタイマン勝負であればほぼ勝ちが確実なくらいに戦闘に向いていない、見かけ通りの弱さを持つ魔王という肩書きからは想像が付かないほどに弱い女の子だ。

だが、そんな弱々しい彼女を守護(まも)るべく、その可愛さに脳を壊された強者が集いに集い、英雄級の戦士が幼女に人目を憚ることなく頭を垂れ、嬉々としてこき使われている地獄絵図が生まれていた。
メリオゴストーグさえ関わらなければ真っ当な人たちなので、蓮武は彼らの組手を観察し、カロゥス周辺の魔物を掃討しつつ実力と経験を培っていった。

この話を聴いた時、リヒトは盛大に頭を抱えていた。
当時殺し合った人たちが、とんでもない醜態を見せていたことに、なんとも言えない気持ちになっていたのだ。
それを平気で言ってのける蓮武にも物申したい気分だが、彼は大真面目に当時の旅程を説明してくれているだけだし、自分がカロゥスを陥としたことも知らなそうなので黙っておくことにした。


603以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/16(日) 22:56:14.67MSlb9YkiO (1/1)

カロゥスで研鑽を積んだ蓮武は、去年まで別の大陸で武者修行をしていたのだという。
今緋桜郷に留まっているのは湯治のためらしく、かなりの激戦を繰り広げてきたようだ。

彼が修行をしてきた大陸の名は『イザリア』。イルステッドとの距離はそれなり、大陸面積はイルステッドの役七割程度。
気候は全体的に熱帯で、大部分を砂漠と火山が占めている灼熱の地である。
天貫の霊峰を除けばほぼ温暖で過ごしやすいイルステッドとは大違いなので、イザリアに住むだけでもさぞ鍛えられるだろう。暑さには滅法強くなりそうだ。

とある火山の近くには龍人(ドラゴニュート)の集落が点在しているらしく、蓮武は過酷な環境に身を置いて鍛錬を積んでいたそうだ。
龍人の数は非常に少なく、リヒトは未だお目に掛かったことが無い。
そも、現時点ではイルステッド内に龍人が暮らしている情報は無いため当たり前の話ではあるのだが。
もしかしたら、奴隷の類でなら何人か流通しているのかもしれないが、市場を知らない彼には関係のないことだ。

心身共に鍛え上げた蓮武は武者修行の旅に一区切りを付け、暫しの休養を取ることにした。
傷ついた身体を癒すには緋桜郷の温泉が効果的だという話を耳にし、わざわざイルステッドに戻ってきたそうだ。

足湯を堪能しつつ旅程を語る蓮武。リヒトはそれを真面目に聴き、マナは興味が無いと言わんばかりに目を閉じていた。
シンパシーを感じるのと興味があるのはノットイコールなのだろう。


604以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/16(日) 22:57:04.356vCb68Y1O (1/2)

会話を継続する場合は話題を↓1にどうぞ。
終了したい場合は、その旨を記載してください。蓮武との交流を終了します。


605以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/16(日) 22:58:39.036vCb68Y1O (2/2)

継続する場合は今回の会話が最後となります。安価下です。


606以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/17(月) 00:00:22.59K/QzLom1o (1/1)

相当の腕前と見込んで手合わせを申し込む
(勝っても負けても鍛錬目的で拠点に呼べるようになるといいな)

((余談、リヒト君ここまでの描写的に強めのマップ兵器といった感じで広範囲制圧は得意そうだがタイマンはどのくらいかなと))


607以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/17(月) 00:53:27.99FkkKZhHyO (1/3)

イルステッドとは全く違う環境で叩き上げてきた戦士。その実力を知るのもまた、今後の役に立つはずだ。
そう結論付けたリヒトは、武器屋で刃を潰している模擬剣を二本購入した。
もちろん、武器種は利用者に合わせている。蓮武の物は大剣、リヒトの物は直剣だ。

「相当の手練れと見込んで頼みがある。俺と手合わせしてくれないか?」

リヒトの率直な依頼に、蓮武は渋面を作る。どうやら乗り気ではないようだ。
休養に来たのに模擬戦とはいえ戦うのは控えておきたい、とでも言いたそうな顔だ。
その考え方は正しい。間違っているのは手合わせを申し込んだリヒトだということは、本人は百も承知である。
だが、だからと引き下がる気は無かった。千載一遇のこのチャンスを逃したくないのだ。

蓮武もリヒトの心情を読み取ったのか、逡巡の後に重い腰を上げた。

「…まあ。休んでばかりでは身体も太刀筋も鈍る、か。全力で身体を動かせないから、見苦しいところもあるだろうがご容赦いただきたい」

「俺のわがままに付き合ってくれて感謝するよ」

頭を下げるリヒトに、蓮武は温和な笑みで答える。

「気にするな。軽い運動だとでも思っておくさ」

模擬剣を片手に、二人は森の中に入った。


608以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/17(月) 00:54:02.74FkkKZhHyO (2/3)

竹風村の子供たちの遊び場となっている、切り開かれた土地。そこに立つのは二人の剣士。
一人は嘗て勇者と謳われた直剣使い。もう一人は遠き地で修練を積んだ大剣使い。

どちらも刃を潰して安全性を確保した模擬剣を持っているが、どちらが危険かは言うまでもないだろう。
リヒトは大剣の直撃だけは避けたい、と身体を解しながらぼんやりと考えていた。
対する蓮武は何を考えているのやら。表情からは思考が読めなかったので、出たとこ勝負だと割り切ることにする。

「あくまで剣の腕を競う手合わせだ。魔法の行使は厳禁で行こうか」

純粋な腕比べに、余計なものは不要。それに、魔法を解禁したら怪我をする可能性が出てくるのだ。
休養している蓮武にたかが模擬戦で怪我を負わせるなど本末転倒にも程がある。
そういった配慮はしておくに越したことはない。

蓮武は無言で大剣を構え、臨戦体勢を取る。どうやら準備は終わったようだ。

リヒトに頼み込まれたマナが、小さな石を放り投げる。
水たまりに落ちると同時に、轟音が鳴り響いた。


609以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/17(月) 00:56:01.73FkkKZhHyO (3/3)

模擬戦は2回有利を取った方が勝利となります。
模擬戦 判定↓1コンマ


01~20:蓮武有利
21~99:リヒト有利
00:???


610以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/17(月) 01:15:25.93UrGsiMjMo (1/1)




611以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/17(月) 01:16:20.49Guat35aWo (1/1)

やはり天災ドラゴン共がおかしかったんやな


612以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/17(月) 01:51:30.349jx8E+yFO (1/2)

リヒトはまず、小手調べに二、三合斬り結ぶ。お互いの得物は派手な音を立てぶつかり火花を散らした。
こちらの動きに対応出来る程度の敏捷性は持ち合わせているようだ。とは言っても、まだまだ全力は出していないので追いつけなければ話にならないのだが。

光魔法を併用した最高速度と比べれば、虫が止まるほどに遅い斬撃を蓮武は難なく受け止める。
そして、お返しと言わんばかりの横薙ぎを放つ。
直剣の腹をかち当てて対処するが、剣が触れた瞬間にリヒトは失策を悟った。
この膂力を受け止めるには、力も武器の耐久性も足りない。ならば、流すしかないと。

身体を低くし、剣の角度を変える。滑るように大剣は空を切り、風切り音を出した。
刹那、蓮武の表情が変わった。力のままに振るう剣の勢いを活かし、後退しつつ切り上げた。
懐に潜り込まれては、長所である間合い(リーチ)を活かせないと判断したが故の逃げの一手だろう。
彼の判断は戦術的には大正解だ。だが、リヒト相手にするべき判断ではなかった。

切り上げより速く身体を捻り、後ろに下がる。そのまま地面に手を突き、クラウチングスタートと同じ体勢になる。
そして、地面を蹴り急速接近する。地を這う蛇のように左右に揺れながら迫る幽者に、天狗の青年は大剣を向け、突き出した。


613以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/17(月) 01:52:40.749jx8E+yFO (2/2)

模擬戦 判定↓1コンマ


01~20:蓮武有利
21~00:K.O


614以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/17(月) 07:46:00.91GUooIM6zO (1/1)

慶応


615以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/17(月) 11:42:22.69oLsWN4C7o (1/1)

つよい


616以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/19(水) 19:41:27.53mVIMh6K+O (1/4)

狭間の地から抜け出せなくて申し訳ない。進めます。


617以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/19(水) 19:42:20.63mVIMh6K+O (2/4)

しかし、当たらない。返す刀で回避した方向に剣を振るっても、揺れる髪先すら捉えることは出来ない。

肌が触れ合うほど近くにいるのに、幽者との距離はあまりにも遠かった。
どれだけ手を抜かれようとも、剣戟を交わせば伝わるものだ。対手の力量は、隠せないものだ。
蓮武はこの戦いで幽者を、彼岸に到達した者を知る。
それは、果てのない修羅の道を、果ての果てまで進んだ者のみが立つことを許される領域。

いったいどれほどの血を流したのだろうか。まだまだ未来のある若者がこの歳で彼岸に至るなど、尋常の道は歩んでいないはずだ。
そこまでしてでも力を得たかった理由があったのだろうか。護りたいものがあったのだろうか。

幽者を見て浮かんだ憧憬。求め続けた領域はまだ、遠い。だが、それでいい。
たとえどれほど離れていても、存在するのだと知れたから。
まだ、自分は強くなれると知れたから。

幾度となく入れ替わる攻防の中、天狗の青年は微かに、笑った。


618以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/19(水) 19:42:51.39mVIMh6K+O (3/4)

「俺の勝ちだ」

蓮武は幽者に組み伏せられ、首筋に模擬剣を添えられていた。どちらが勝ったのかは明白だ。
蓮武を解放するが、リヒトは病み上がり相手にちょっとやりすぎたかもしれない、と盛大に冷や汗を流す。
やっぱり怒っているだろうか。説教はされたことが無いから勘弁してもらいたいものだと、念じながら視線を向ける。
蓮武は、曇りなき眼で空を見上げていた。

「それだけの力があれば、大切なものを護れるのか?」

ふと投げかけられた質問に、リヒトは唇を噛む。そして、暫しの回想を終え。

「…何も護れなかったよ。どれだけ強くなったとしても、喪うものだ」

邪眼竜の加護を受けた者は皆、誰もが羨む強大な力を持っていた。
しかし、誰もが悲劇に見舞われ、消えていった。
力の大きさなど関係ない。喪う時は喪う。どうしようもないことは、往々にしてあるものだ。

だが。

「…だからって、進むのを辞めたら。喪った全てが無駄になる。進み続けることが報いになると、俺は信じてる」

その苦しみを、痛みを忘れず、前に進めば。消えた命に意味を持たせることが出来る。
その生は、無駄ではなくなる。

「…そうか」

蓮武は小さく答え、口を噤んだ。リヒトは頭を掻き、一枚の紙切れを置く。

「俺は普段そこに住んでる。何か用があれば気軽に来てくれ。腕比べでもなんでも、付き合うからさ」

「…覚えておこう」

答えを受け取った幽者は、青年の元を去る。
蒼空を眺める青年は、初めての敗北に何を想う。


619以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/19(水) 19:44:09.71mVIMh6K+O (4/4)

何をするかを↓1にどうぞ。この行動を終えると緋桜郷に戻ります。


620以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/19(水) 23:43:27.31HGXAwpRQO (1/1)

マナと森林浴していく


621以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/20(木) 00:58:53.81Ll4B6ueXO (1/1)

竹風村から離れた深い森の中。リヒトたちは、苔むした大岩の上に座っていた。
じっとりと湿った岩の冷たさが、服越しに皮膚を冷やす。肌に貼り付く感覚が不快だったが、空気は美味かった。

「----」

妖精はどうやらご機嫌なようだ。人智の及ばない独自の言語が紡ぐ歌声は、大地に染み渡り、祝福を齎す。
その歌は生命への祝福であり、しかし、智慧を持ち過ぎた人類に対する警告でもある。
故に、歌は人の身に馴染まず、肉体を蝕む呪いとなる。

「………」

身体が、精神(こころ)が、声なき悲鳴を上げる。侵蝕する呪詛に苦しんでいる。
だが、やめろとは言えなかった。
ちょっとシャレにならないくらいに重大なダメージを受けているのは事実だが、彼女は心からリラックスしている。
だから、歌っているのだろう。何を言っているのか理解出来ないし、したくもないが。喜んでいるのはなんとなく分かる。

マナが嬉しいのなら、それでいい。彼女が気兼ねなく歌えるように、この苦痛を耐え忍び、自分を誤魔化せばいい。

なに、今までだって何度もしてきたことだ。躊躇うことはないだろう。
奪うことに苦しみ、喪うことに苦しんだ。
その痛みを誰とも分かち合うことなく、一人で背負うことを選んだのはお前だろう。
ならば、この程度の苦しみ、耐えてみせろ。

「…解ってるよ」

混濁した意識の中での自問自答。その答えは微かな声となり口から溢れる。

「………?どうしたの?」

マナはリヒトの独白に歌を止める。リヒトはなんでもない、と首を振り、続きを促した。
マナは首を傾げつつもすぐに前を向き、歌う。淀みない清らかな歌声が、森へと澄み渡る。
孤独な妖精の細やかな祝福が、森を成長へと導く。
今年の竹風村の収穫量は、従来の1.5倍になったという。


622以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/20(木) 00:59:56.65H79t/QchO (1/1)

緋桜郷へと戻った頃にはすっかり夕方になり、郷の雰囲気も昼間とは違った様相を呈す。
飲んで。騒いで。歌って。踊って。道楽に耽り、今を楽しむその様は、幽者には眩しいものだった。

「お兄さん、暇ならうちと一杯いかが~?」

「おい兄ちゃん!俺の店に来な!たっぷりサービスするからさっ!」

「一人で寂しいなら私と一緒にあの部屋でイチャコラしませんか!?」

と様々な勧誘を受けるが謹んで辞退し、逃げるようにその場を去る。
牡丹雪に戻るまでに片手では数えきれないほどの勧誘を受け、油断も隙もあったものじゃないな、と乾いた笑いを浮かべる。
こういう賑やかさも緋桜郷の魅力で、彼らとの駆け引きも醍醐味なのだろうが、リヒトが苦手とする領分なので困ったものだ。

用意されていた夕餉を平らげ、荷物を整理する。
お土産の温泉饅頭は子供たちに大層喜ばれ、食後のデザートだとあっという間に食べきられてしまったが、これだけ喜ばれたら買った甲斐があったというものである。
リンは花をもらっても置き場に困る。気持ちは嬉しいから、花瓶に入れて客間にでも飾っとくよ。と苦笑しつつ受け取られた。
選択を誤ったかもしれない。

ウィンディの反応だが、こちらの想像を遥かに超えて喜ばれた。それはもうめっちゃくちゃに喜ばれた。
髪の手入れが楽になるだのリヒトさんにしては素晴らしいチョイスだのマトモな感性は残ってるんですねだのと言われたが、とにかく喜ばれた。

ちょっと傷ついた。


623以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/20(木) 01:00:59.55r39z3Vy5O (1/1)

何をするかを↓1にどうぞ。


624以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/20(木) 02:32:46.18KPwoR/O0o (1/1)

多様な種族が暮らすという緋桜郷がなぜうまく繁栄できているかを知れば
自分が国を作るときに役立つかもしれないから調べてみよう


625以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/10/20(木) 04:24:54.29fysog/pwO (1/1)

ちなみに緋桜郷のイメージBGMは『カムラ祓え歌』です。


626以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/11/06(日) 21:49:39.39/Uf1KQWvO (1/1)

お久しぶりです。>>1でございます。
しばらく謎の腹痛だったり膿が出たりで大変なことになってました。申し訳ありません。
落ち着いたのでもう大丈夫とは思います。明日の夜に再開いたします。


627以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/11/06(日) 21:53:11.94Le2Sug4lo (1/1)

大丈夫か大丈夫か
無理はなさらず
帰還ありがとう


628以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/11/06(日) 22:01:23.26E0ok0Syxo (1/1)

待ってた
無理のないペースで続けてくれると嬉しい。報告乙です


629以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/11/08(火) 17:27:14.67O7KWV/5MO (1/3)

万物には因果がある。因果を紐解くことは即ち、真理の探究に繋がる。と、シルヴィアが言っていたような気がする。
彼女ほど理詰めで考える知性は無いが、脳死で本能に従い動けるほど理性を投げ捨ててはいない。
故に、リヒトは緋桜郷の変遷を知ろうとしていた。
多種多様な種族が争うことなく共存し繁栄する緋桜郷。
何故緋桜郷が在るのか。その因果を知れば、自身とシルヴィアの夢の実現に、また一歩近づけるかもしれない。

そんな希望を抱き、お雪の元を訪ねてみる。しかし、微笑ののちに首を横に振られた。

「わしが一から十まで全部教えるのは無粋だと思ってね。どうしても知りたいというのなら、教えるのは吝かではないけどさ」

困った時は助けるからそれまでは自力で頑張れ、と遠回しに言われてしまった。
こうなっては引き下がるしかない。夜に本屋とかが開いてるとは思えないが。

「…なんてね。こんな時間に外で調べるのは徒労というものさ。意地悪して悪かったね」

そう言って、お雪は座布団を敷き、温かいお茶を用意する。どうやら揶揄われたみたいだ。
シルヴィアといいお雪といい、歳上には弄ばれてばかりだ。何か嗜虐心でもくすぐるものがあるだろうか。

「お前さんの反応が素直なのがいけないね。あまりに可愛くてつい揶揄ってしまうよ」

「…俺が可愛いとかご冗談を。第一俺は男だ」

「可愛いか否かに性別なんて関係ないよ。わしからすれば、牡丹雪にいる子は皆可愛い子供みたいなものさ。お前さんたちも含めてね」

「…子供扱いしないでくれ」

子供っぽいところがあるのは自覚しているが、自分は大人だ。ちゃんと成人しているのだ。
だから、そういう扱いをされても困る。どう対応すればいいのか、てんで分からないのだ。

「男の子が好きな人についちょっかいを掛けてしまうのと同じさ。愛おしくてたまらないから、反応見たさに揶揄ってしまうし構ってしまうんだよ」

「…そういうのは解らないな」


630以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/11/08(火) 17:27:51.41O7KWV/5MO (2/3)

誰かを愛したり、好きになったことは一度も無い。故に、理解が出来ない。
愛とは何なのか。好きになるとはどういうことなのか。リヒトは一切知らない。
知る機会も、権利も無かった。忌み子であるリヒトを愛す者も、関わろうとする者も、誰一人いなかったから。
だからなのだろう。愛されることを望んでいながら、自身を愛することが出来ず。疎んでさえいるのは。
幽者はずっと、矛盾を抱え生きている。それは、これからも変わることはない。
変わろうと決意し、自分と向き合うその瞬間が訪れるまで、決して。


631以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/11/08(火) 17:28:22.71O7KWV/5MO (3/3)

不意に押し黙ったリヒトを細い目で見やり、お雪は布団を敷き始める。
危機感を感じたリヒトは席を立ち、退散しようと背を向ける。
小さな手が、リヒトの傷だらけの手を優しく包み込んだ。人肌の温かさと氷の冷たさを内包した、不思議な感覚だった。

「寝る準備をしているだけさね。お前さんが望むのなら床を同じくしても構わないけど、その気はないんだろう?」

リヒトはゆっくりと頷き、お雪の方へ振り向いた。視線は下に向けられ、聖銀を思わせる艶やかな髪が目に入った。

「…今宵の緋桜も、変わらず可憐に咲いてるねぇ。酒を飲みながら昔話に興じるには、風情があってちょうどいいものだよ」

障子は開かれ、緋桜の大木が存在を主張する。ひらひらと舞い散る花びらは、月の光に照らされ世界を彩る。
月を背に力強く咲く緋桜。その光景を一目見ようと、緋桜郷を訪れる人が後を絶たないのも頷ける、とても絵画などでは表せない幻想的な光景だった。

窓の縁に腰掛けたお雪は、半身を外に出して夜桜を眺めている。
そんな彼女が、頃合いを見計らったように口を開く。彼女の口から語られたのは、緋桜郷の辿った数奇な歴史だった。


632以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/11/08(火) 17:29:17.51Dkr7FbmhO (1/4)

人間にとっては遠い昔、鬼にとっても二世代ほど前の時代。
ここには緋桜郷という地名は無く、村や集落といった小規模な拠点が点在する、寂れた土地だった。
それでいて、とてつもなく閉鎖的。外界からの来訪者には石とブーイングを以って熱烈に歓迎する、凄まじいまでの排他主義だった。

そんな村に、お雪は産まれた。

そして、一人の青年と出逢った。

『…なにしてるんですか。貴方なんて誰も歓迎してないから、早くどこかに行った方が身のためですよ』

『たはは…。まさか子供に心配されるとはね』

『子供扱いしないでくださいっ!』

どれだけ罵倒され、拒絶されようとも、めげないしょげない泣きもしない、変人の旅人がやってきた。
毎日交流しようと村まで来ては、投石を浴びてすごすごと退散し。日を改めてはまたチャレンジする頭のおかしな無謀者。
何があっても笑顔を絶やさず、こちらが心配になるほど脳内お花畑のお人好し。
それが、お雪が旅人に抱いた印象だった。


633以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/11/08(火) 17:29:52.88Dkr7FbmhO (2/4)

村長の英才教育を受けたお雪もまた、その排他主義に染まりかけてはいたのだが、苛烈にも程がある大人たちの姿と、この『話せば分かる。人類皆お友達!』を地で行く旅人を見て考えを少しずつ改めていった。
たとえ、外部の人間と関わるのが重罪だと知っていても。彼と話すのは辞められなかった。
それほどまでに彼との会話は楽しく、心が躍っていたから。

『どうして、毎日村を訪ねるのか、かい?』

『はい』

どれだけ痛い目に遭おうとも、決して諦めず交流を試みる旅人に、お雪はそんな質問をした。

『孤独の辛さってのを、僕は嫌と言うほど知っているからね。今はそのままでも良いのかもしれない。でも、時が経てば、世界から取り残され、やがて独りになる。そんな時に、誰も頼れないのは悲しいから…』

『…もちろん、僕が言っていることはただのわがままさ。君たちの事情を無視して押し付けているだけ。だから、拒絶されても仕方ないことだとは思ってる。それが、諦める理由にはならないけど』

と、包帯を巻きながら旅人は笑顔で答える。微塵も後悔していない、寧ろ、この状況を楽しんでいるようにすら見えた。
外には変な人間もいるものだと、お雪は呆れる。だが、そんな変な人間を生み出す外の環境に、世界を旅する青年に、表には出さないがいつしか憧れていった。
その旅人の名は『リヒト・ローテス』。曇りなき紅い瞳が綺麗な、優しい青年だった。


634以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/11/08(火) 17:30:20.43Dkr7FbmhO (3/4)

そんな変人が村の近くに居付き、村人たちも適当にあしらうのに慣れた頃。
お雪は村長の命を受け、周辺の森を調査していた。

数日前より、無造作に捨てられた動物の死体が頻繁に目撃されるようになる。
遺体の損傷から見て人の手によるものなのは確実。しかし、あまりにも乱雑なそれは、知識人たる村人の手腕では逆に刻めないものだ。

当初は旅人が犯人ではないか、と疑っていたのだが、二日ほど監視していても不審な様子は見せることなく。
監視している最中にまた遺体が複数発見されたので、容疑者の疑いを晴らされた。
そんな疑いを向けられたことは、彼は知らないのだが。

可食部が根こそぎ削り取られ、内臓は放置された無残な遺体を埋葬する。
村に伝わるしきたりにより、狩りをする際は丁重に弔うようになっている。故に、このような遺体が放置されるのは本来あり得ないことなのだ。

事前に遺体の発見場所と村人の行動圏を把握していたお雪は、何者かがこの森に潜んでいることを推察する。
今回は、その推察を裏付けるために現地調査をしていた。

そして、部外者の痕跡はすぐに見つかることになる。

『人の足跡?それもまだ新しい…』

ぬかるんだ地面に刻まれた、人の痕跡。数と指向性を見るに、人数は三名と思われる。
また、近くの木は根本から伐採されており、切り落とされた枝がそこかしこに散らばっていた。
ルールを知らない部外者特有のやりたい放題に頭痛を覚えるが、原因を取り除かなくては延々と繰り返されるだけだ。
犯人を見つけ出し、吊るし上げるか始末すること。もしくは、この領域から追い出すか。
そのどれかを達成しなければならない。

何者かがこの森に潜んでいることが半ば確定になったが、その正体は未だ影さえ掴めていない。
故に、正体を探るべく深追いしたのだが、それが過ちだと気づく頃には、もう手遅れだった。


635以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/11/08(火) 17:31:02.18Dkr7FbmhO (4/4)

途絶えていた意識は、額に落ちた水滴によって現実に引き戻される。
重い瞼を開くと、暗闇が瞳に映る。

『………っ』

全身が、痛い。ぼやけた目で身体を見ると、直視するのも躊躇うほど痛ましい傷が付けられていた。
情けなのか最低限の手当てはされていたが、血は滲み出て包帯を汚していたし、身を苛む激痛と不快感は消えることなく心を蝕んでいる。
そしてそこで、ようやく自分の置かれている状況を理解した。

ああ、そうか。私は負けたのか。

犯人を突き止めたのはいいが、姿を晦ます前に対象しなければ、とそこで焦ってしまい、攻勢に出たのが間違いだった。
自身の浅慮を猛省するのと同時に、どれだけ気丈に振る舞おうと、自分はまだまだ子供なのだと、未熟な精神を戒める。
そんなことをしても後の祭りだと気づいているが、そうでもしないとやってられなかった。

それにしても、随分と乱暴をしてくれたものだ。
いくら鬼の肉体が頑強だとしても、痛いものは痛いし手荒に扱われては傷ついてしまうというのに。
容赦の無い暴力に蹂躙された身体には、愚行の代償たる残痕が刻まれている。これほどの深手は、一生消えない傷跡となって残るだろう。

彼らからすれば、ただ燻る情欲を満たし、悦楽に浸るための行為。
敗者である自分にとやかく言う権利は無い。それは、解っているが。

『…う…ぅ……っ!』

こんな目に遭わされるのなら、殺される方が良かった。
と、折れた小刀を抱き抱え、少女は一筋の涙を流した。


636以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/11/08(火) 20:06:26.33b+wZhYklO (1/2)

それから二日。洞窟の中に幽閉され、悪漢に弄ばれる日が続いた時。
お雪は今頃村では大騒ぎになっているだろうな、と現実逃避に勤しんでいた。

『紅玉を追ってここまで来たのに、とんだ掘り出し物だぜ。鬼の女ってだけで高値が付くのに、こんな上玉ならどれくらいになるかねえ。想像しただけで笑いが止まらねえよ』

と首魁が言っていた気がするが、もはや自身の処遇には興味が無かった。
望むのは、この苦しみが終わること。たとえそれが死という結末だろうと、一向に構わなかった。
自身の命を絶つ勇気が無い彼女は、力なく呟く。

ただ一言、助けて。と。

そんな時、一筋の閃光が、闇を切り裂いた。

『やっと、見つけた』

短剣を片手に持った、あの旅人がそこにいた。
表情はお雪の知っているものではなく、感情の抜け落ちたそれは羅刹の如く。絶対零度の視線が、悪漢を射抜いている。

紅い瞳が、光が消えて戻った暗闇の中で煌めく。その眼には、確かな決意が宿っていた。

旅人の姿を認めた悪漢は、下品な笑みを浮かべ、髭を摩る。
旅人はそれを無視して短剣を向ける。光が溢れ、長大な光刃を形作った。

『もう少し、我慢してね』

『僕が全て、終わらせるから』

そして、悪漢たちは慈悲なき審判の光により、誰一人として例外なく断罪された。


637以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/11/08(火) 20:11:18.57b+wZhYklO (2/2)

緋桜郷の歴史というよりお雪の回想になってますがお許しくだされ。
本日の更新はこれで終わりです。

今後リヒトが獲得する(かもしれない)装備を募集します。武器種は問いません。
入手手段は鍛冶屋か譲渡か強奪、はたまたダンジョン等の探索による入手となります。


【名前】その名の通り。
【種類】その名の通り。
【付帯効果】使用者に与える効果や装備が持つ能力になります。
装備の概要になります。


638以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/11/09(水) 00:02:49.846SkV0TbN0 (1/1)

【名前】月蝕の短剣
【種類】短剣
【付帯効果】魔翌力を込めることで、光や光魔法を遮断する闇の結界を展開することができる
光を反射しない黒い物質で作られた短剣。特殊な効果は上述の通り
強度は高いが切れ味は悪い為、武器としての性能は低い


639以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/11/09(水) 01:42:56.12kQRrjtfh0 (1/1)

【名前】癒しの守り
【種類】盾
【付帯効果】魔翌力を込めると周りの人を治すことができる治癒能力を持っている。ただし装備している本人自身は治すことができない。魔翌力をより多く込めれば込める程、毒で苦しんでいる人や切断された箇所など治すことが可能(亡くなった人を蘇生することはできない)。世界一硬い鉱物を使用し、さらに光の魔翌力が入っている為、どんな攻撃も防ぐくらい頑丈になっている。


640以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/11/09(水) 23:31:42.24uZvKrrKWO (1/1)

【名前】身代わりの偶像
【種類】人形
【付帯効果】
一見粗末な土偶にしか見えないが、血を分け与えることでダメージや呪いなどを肩代わりしてくれる。
ダメージを受けるとその部位と同じ部分が崩れ落ち、致命傷だった場合は力を失いただの土くれと化す。


641以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/11/10(木) 00:47:33.69Xo++OTWOO (1/2)

更新は明日か明後日かな、という感じです。
オマケとしてリヒトの装備の情報を置いておきます。


642以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/11/10(木) 00:48:21.69Xo++OTWOO (2/2)

【名前】聖剣/魔剣『無銘』
【種類】直剣
【付帯効果】使用者の魔力の増幅、魔法及び性質付与(エンチャント)の強化。また、魔力の増幅による身体能力の向上。
リヒトが肌身離さず持ち歩いている一振りの剣。
元はどこにでもある、市販されていたただの直剣だったが、度重なる戦闘によりリヒトの魔力を帯び、ついには変質してしまい聖剣へと変貌した。
故に、この聖剣には固有の銘が存在せず、真の意味での聖剣でも無い。
というより、結果的に聖剣として扱われるようになっただけで聖剣ですらないため、伝承で語られるような偉人の装備と比べたら性能は劣っている。

リヒトが闇に触れ冥光を纏う時、聖剣も魔剣へと転じ、敵対する悉くを余さず滅する。
聖剣になった影響なのか、何故か購入した時よりも綺麗な見た目になっている。


643以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/11/10(木) 01:10:35.96qAZUagtOO (1/1)

ちょいと情報を訂正して再掲します。


【名前】聖剣/魔剣『無銘』
【種類】直剣
【付帯効果】使用者の魔力の増幅、魔法及び性質付与(エンチャント)の強化。また、魔力の増幅による身体能力の向上。
リヒトが肌身離さず持ち歩いている一振りの剣。
元はどこにでもある、市販されていたただの直剣だったが、度重なる戦闘によりリヒトの魔力を帯び、ついには変質してしまい聖剣へと変貌した。
故に、あるべき銘は無く、真の意味での聖剣でも無い。
というより、結果的に聖剣として扱われるようになっただけで聖剣ですらないため、伝承で語られるような偉人の装備と比べたら性能は劣っている。

リヒトが闇に触れ冥光を纏う時、聖剣も魔剣へと転じ、敵対する悉くを余さず滅する。
一人の英雄が壊れゆく様を間近で見続けた唯一の生き証人。たとえ彼がどこまで堕ちようとも、決して見捨てず傍に在り続ける。
それだけが、たった一つの存在意義であるが故に。
聖剣になった影響なのか、何故か購入した時よりも綺麗な見た目になっている。


644以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/11/10(木) 03:33:09.95nFlAyafJ0 (1/1)

【名前】正義の右拳(ジャスティス・ライトナックル)
【種類】グローブ
【付帯効果】使用者の魔翌力に応じてグローブが伸縮自在に変形することができる。さらに伸ばした状態でも物などをつかめる。遠距離からの攻撃や伸ばした状態で鎖付き鉄球のように振り回して攻撃などできる。そのままでも殴って戦える。
藍色に金色の天使の羽のような模様が入っている少し大きめのごつい右手のグローブ。なぜ右手しかないのかは文献等がなくいまだに不明になっている。


645以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/11/10(木) 23:46:48.01oQe6tZhvO (1/1)

【名前】名無しの王達の鎧
【種類】鎧
【付帯効果】着用者の身体能力を向上し、着用している間は不死になる。
歴史には残らない、かつての時代の覇者達が着用した鎧。着用者によって姿を変え、着用している間は不死の力を手にすることが出来、寿命か不死殺し以外で[ピーーー]なくなる。
しかし、長い時間着用し続けると正気を失って元に戻れなくなる。


646以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/11/11(金) 00:14:50.53TlYK30FEo (1/1)

【名前】専心の杖
【種類】杖
【付帯効果】手に持った者の意識を研ぎ澄まさせ、魔翌力と集中力を高める
フェルリティアで製造・販売されている飾り気のない白い杖
一般的には魔法使いが魔法を行使する際の補助として使われているが、その集中力を高めるという特性から非魔法使いにも人気が高い。学生が勉強のお供にしたり戦士が最前線で鈍器として使ったりなど、需要は多岐に渡る。ゴーレム技術を一部流用しているため耐久性も非常に高く、鈍器扱いに拍車をかけている


647以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/11/11(金) 02:39:49.81+ERA4t2JO (1/1)

>>639少し追加で
特徴は真っ白で十字架が描かれており、騎士が使っているような逆三角形の盾


648以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/11/16(水) 14:01:46.475gvuHotz0 (1/1)

まだ募集しているのかな?
【名前】獣王の爪
【種類】鉤爪
【付帯効果】装備した者は聴覚、嗅覚、視覚、身体能力、タフさが強化。無意識のうちに戦い方が野性的になり、長く装備していると外した後、しばらく野性的な性格が残ることがある(時間がたつと元の性格に戻る)。爪の部分は長く、手首の部分に獣の毛皮がついた2つの鉤爪。名前の通り「獣王」と呼ばれる幻のモンスターの素材を使用し、切れ味は鋭い。


649以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/12/07(水) 20:48:24.66GxQNJ30rO (1/1)

2つ案を投げてみる

【名前】献身の魔盾(まじゅん)
【種類】盾
【付帯効果】
円みのある片手用の盾。魔翌力を通すことで味方を庇うための結界を発生させる。
結界を貫くほどの攻撃を受けた場合はダメージが使用者に集中するため、自己犠牲をも厭わない献身が求められることからこの名がつけられた。


【名前】『悪竜ころし』グラースの斧
【種類】木こりの斧
【付帯効果】
斧を用いて悪竜を討伐したグラースという英雄が使っていたという触れ込みの斧。
一見使い古された木こり用の斧だが、英雄が戦いから引退して木こりになってから使っていたため一応は本物である。
彼の魔翌力が染み込むほど使い込まれているためか木をはじめとした植物には無類の切れ味を発揮する。
それほど使い込まれながらも小まめになされた手入れの跡やグラース自ら刃に彫りこんだ自分の名前がかの英雄の生真面目さを窺わせる。



650以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/12/10(土) 21:47:21.2204+zMF3D0 (1/1)

【名前】宇宙の大鎚
【種類】ハンマー
【付帯効果】頭部の部分が赤と青の2つに別れている大きいハンマー。魔翌力を込める事でそれぞれ違う効果が発揮する。赤い方で叩くと一定の範囲で重力を発生する。青い方を叩くと一定の範囲で無重力を発生する。魔翌力込めなくても武器として使える。昔とある学者がこの重力と無重力を発生できるハンマーを見てこの名前が付けられた。

【名前】雷鳴の剣
【種類】大剣
【付帯効果】見た目普通の大剣で持ち手が黄色で刃の部分に雷のマークが彫られている。普通に大剣として使えるが魔翌力を込めると雷を纏うことができる。大剣を振ると雷が落ちたような音がなることでその名前が付けられた。雷を纏うと威力が上がる。


651以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2022/12/25(日) 16:53:59.75LuVmkXjxO (1/1)

あげ


652以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/02(月) 20:31:49.41le3ny7hkO (1/8)

また更新が途絶えてしまい申し訳ありません。

待っていてくれている方がいるとは思えませんがチマチマ再開します。


653以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/02(月) 20:32:50.77le3ny7hkO (2/8)

undefined


654以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/02(月) 20:33:27.23le3ny7hkO (3/8)

『ご…ごめんね…。助けに来た側なのに、手当てなんかしてもらっちゃって…』

『…別にいいですよ。私は鬼なのでこれくらいなら治ります。貴方は弱っちい人間なんだから、ちゃんと手当てしとかないと』

殴られ、蹴られ、斬られ、射抜かれ。満身創痍になりながらも悪漢集団をとっ捕まえた旅人は、助けに来たはずの少女に治療してもらっていた。
あれほど強者の風格を漂わせていた彼だが、実際は明らかに戦い慣れしていなかった。
腰は引けて、足は震えて、太刀筋は鈍って、と目も当てられない姿だったが、そんな彼が身を呈して助けに来た事実に、お雪も思うところがあった。
故に、悪態を吐きながらも旅人の手当てをしているし、あれほど凄惨な出来事があっても温和な笑みを浮かべているのだろう。
本人は、自身が笑っていることは完全に無自覚なのだが。

『…しかし、どうして助けに来たんです?私、貴方のことをかなりぞんざいに扱っていたと思うんですけど』

彼に助けられるほどの恩は無いし、愛想も悪い自分をなぜ助けたのか。疑問に思ったお雪は、素直にそれをぶつけた。
対する旅人は、数瞬の黙考の後に口を開く。

『僕が疎まれていることは見捨てる理由にならないよ。どう扱われようとも、人道に反することはしたくない。だから、君を見捨てる選択肢なんて端から存在していなかったんだ』

『戦うのも、傷つけるのも、傷つけられるのも嫌だけど。君を見捨てて無かったことにする方がもっと嫌だから』


655以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/02(月) 20:33:59.87le3ny7hkO (4/8)

薬草を塗り込みながらそう呟く青年は、君が無事でよかった、と笑顔を見せる。
お雪がどのような目に遭わされたのか。それに彼が触れないのは怖いからなのか、それとも。
少しだけ考えたお雪は、小さく頭を振り、立ち上がる。

『では、大人の人を呼びましょう。この極悪人たちに相応しき罰を与えなければ』

『…ごめん。村の場所分かんないや。この森同じ景色ばかりですぐ迷っちゃうんだよね』

『…それでよく私の場所が解りましたね』

『なんで解ったんだろうね。声が聞こえた気はしたんだけど…。深く考えても答えは出なさそうだからやめとこう』

『…そうですね』

お雪は、よろよろと歩く旅人の肩を担ぐ。そして、少しだけ背伸びをする。
その日、少女はちょっぴり大人になった。
そしてその時、少女は最初で最後の恋をする。

しかし、その初恋が実ることはなかった。


656以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/02(月) 20:34:34.62le3ny7hkO (5/8)

騒動が終わった後、旅人は忽然と姿を消した。野営地の焚き木の跡以外の痕跡は、何一つ無かった。

旅人失踪の報を受け、せめて自分くらいには一言言ってほしかったと、お雪は悲しげに笑う。
置き手紙でも無いか、と野営地跡を調べるも、それらしき物は見当たらず。落胆と共に村に戻った。

その日の夜。

『自分たちの街を作るって正気かお雪。親父共が許すと思ってるのかよ?』

『親が言っているからなんなのですか。どう生きるかを決めるのは親ではなく、私たちでしょう』

『それはまあ…そうだが…』

周辺の集落から友人を呼び、見張り塔に集まって作戦会議を行う。
閉鎖された村から抜け出すために。外の世界に触れるために。
憧れに少しでも近づくために。

旅人が蒔いた種は着実に根を張り、成長していた。
あとは花開く時を待つだけ。その鍵は、種を持つ者の勇気だ。
彼らが勇気を振り絞り、行動に移せば。自ずと花は咲き、未来が生まれる。

あーでもないこーでもないと議論を重ね、出奔に備え準備をする。
夜明け前。各地の村でボヤ騒ぎが発生する。すぐに消火活動が行われ事なきを得たが、その騒動に乗じて十余名の子供が逃走した。
お騒がせなお子様をとっ捕まえようと大人たちが出動するも、季節外れの猛吹雪により断念することになる。


657以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/02(月) 20:35:27.14le3ny7hkO (6/8)

待ち合わせ場所に指定した大桜の根本には、志を共にした友人が集っていた。
追手の妨害のために色々と仕込んできたので、気が付いたら大人たちに囲まれていた、なんてことは無いはずだ。
彼らも上手くやったようで、目立った外傷は見られなかった。

『お雪がやりすぎなだけでしょ。何あの大雪。こっちからも見えるくらい盛大に降ってたわよ』

『あそこまでしないと、私の村の頑固な連中は黙りませんから。…とはいえ、流石にあの規模の術を使うのは堪えました。甘いものが食べたいです』

『ならこれ食べなさい。竹ノ湯のじっちゃんが餞別にくれたお饅頭よ』

『ありがとうございます』

紙袋から饅頭を取り出し、口いっぱいに頬張る。他の人が羨ましそうな表情をしていたが黙殺する。
食べていいと言われたのだから一人で食べても問題ないはずだ。もし反論された時はちょっと頭を冷やしていただこう。

そんな物騒な思考をしつつも食べる手を止めないお雪をよそに、友人は腰を下ろして盛大に溜め息を吐いた。

『これからどうするべ。俺、あんな啖呵切っておいて村には戻れないんだが』

『大桜を目印に集まったのはいいけどどこに何があるのかさっぱり分かんないしね』

閉鎖された環境で生きてきたが故に、彼らは外に何があるのか。どこに何があるのかを知らない。
かく言うお雪でさえも、あの旅人からの伝聞で知った程度の知識しか無いため、はっきり言って当てにならない。


658以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/02(月) 20:36:01.11le3ny7hkO (7/8)

ならば、と逆に考える。どこに何があるのか分からないなら、今自分たちがいる場所を安全な街にしてしまえば良い。
旅人が安心して利用出来る拠点になれば、情報が集まってくる。そうすれば自ずと、外の世界との関わりは増えていく。

あとはなんかいい感じにすればいいのだ。ノリと勢いに任せれば意外と上手くいくものだと、あの旅人は言っていた。
実際、そのノリとかに巻き込まれてお雪は旅人と交流を持ってしまったのだから、彼の言に説得力はそれなりにあった。

『ってことは…家が要るよな。俺らが住む家と、移住してくる人用の家』

『旅館や食堂とかも必要じゃない?あとは娯楽施設ね。暇も度を越すと心が荒んでいくのは、私たちの身に染みてるでしょ』

『娯楽って何すんだよ』

『そこは…ほら、花札とかチンチロとかカルタとか色々あるでしょ』

『色んな遊びがある中でなんでよりによってそれを選んだんだよお前じじ臭いなオイって危ねええええ!!!!!』

『離せお雪!野郎ぶっ殺してやらぁぁぁぁ!!!!!』

『落ち着いてください。どうどう』

『私ゃ馬じゃないってーの!!!』

突然刀を抜く凶行に走った仲間を羽交締めにする。本気と書いてマジと呼ぶ、ガチな目をしていたのでちょっと引いた。


659以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/02(月) 20:36:37.26le3ny7hkO (8/8)

どうにかこうにか流血沙汰一歩手前の瀬戸際を回避し、会議の雰囲気を整える。
そして、お雪はある提案をした。

「ちょっと待った。ストップ」

「ん?どうしたんだい?」

昔話を続けるお雪を、リヒトは制止する。表情は少しやつれていた。

「聴きたいと言った手前我慢するつもりだったんだが。これ、もしかしてお雪さんが生まれてから今日に至るまで全部話す気です?」

「そうだけど?」

「まだ緋桜郷の『ひ』の字も出てないんだが!?このペースだと夜が明けて太陽がこんにちはするって!!!」

「これでも多少は巻いてるんだけどね…」

「これで!?こんな隅から隅まで語っておいて巻いてんの!???俺まだ風呂も終わってないんだけど!!!!!」

そんな返答をしつつやつれ具合が加速していくリヒトを見て、お雪はむむむ、と唸り。

「…じゃあ、とりあえず今日の昔話はここまで。続きはまた今度聴きにおいで」

不貞腐れた。


660以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/02(月) 20:42:46.33wVELktpiO (1/1)

風呂に入る際に看板を立てるかを↓1にどうぞ。


A:看板を立てる。ソロお風呂になります。
B:看板を立てない。下の判定が同レスのコンマで行われます。
C:その他。自由安価。

01~20:無人
21~40:雫
41~60:霧香
61~80:結衣乃
81~99:静音
00:???


661以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/02(月) 21:10:27.08l6Yg8tYj0 (1/1)

B


662以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/02(月) 23:57:11.575XY1oEYFo (1/1)

待ってました
緋桜郷の歴史国作りの参考になりそうだな


663以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/03(火) 00:42:19.27loCIh16kO (1/4)

途中で話を終わらせてもらったことにお詫びをして、浴場へ向かう。
色々と濃密な一日だったので、一風呂浴びてさっぱりしたいものだ。
そんなことを考えながら、替えの私服と下着を片手に更衣室に入る。
直前に何度かノックをしたが、反応はなかったので大浴場は独占できるだろう。

念のためにカゴを全て確認するも、他人の服は無い。もしあったらあったで大変なことになっていた気がするが、気にしないでおこう。
どうせ人目は無いのだから黙っていればバレない。

「看板は…別にいいか。こんな時間に入るやつなんて俺くらいだろ」

『客人入浴中!立ち入り禁止!』と書かれた看板は隅に置き、風呂へと入った。

「…ふう…」

湯船に肩まで浸かり、息を漏らす。
ただ風呂に入っているだけなのに、不思議と身体の疲れが取れていく。これが温泉の効能なのだろうか。

青色の湯は透き通っており、腕を軽く振ってもその姿を目視できる。
今は夜なので夜空が水面に映って幻想的な雰囲気が出ているが、野郎一人では台無しである。

身体を洗い、また湯船に戻って空を眺める。
黒い海の中に星が煌めき、桜の雨がひらりと降る。
そんな素晴らしい光景を目に焼き付け、リヒトは言葉を溢す。

「…お嬢様やシルヴィアにも、この光景を見せてあげたかったな」

その願いはもう、叶わない。


664以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/03(火) 00:43:11.15loCIh16kO (2/4)

皆が寝静まった深夜。牡丹雪の七階にて。リヒトは客室の椅子に座り、目を閉じていた。

「ここでねないの?おふとんあるよ?」

そんな様子を見かねたマナが問うも、リヒトは首を横に振り、今はそんな気分じゃないと、返事をしておいた。

「…わかった。じゃあわたしもおきてる」

マナはそう言うと、リヒトの肩に留まる。肩が重くて困るのだが、彼女がこんなことをするのは珍しく、やめろとも言うわけにもいかなかった。
なので、リヒトは特に返事をすることなく、ただその場にいた。

温泉に浸かっている時にふと思い出した、聖女との記憶。
彼女との出逢いは、お世辞にも運命的とは言えなかった。惨めで愚かな自分を、憐れんだ聖女が救ってくれただけだ。
泥と血に塗れた、穢らわしい自分を。明確に好意を拒絶した自分を。彼女は臆することなく、何度も手を差し伸べてきた。

リヒトの知る中で唯一、自身を人として受け入れようとしてくれた人。自身を人間だと認めてくれた人。
だが、彼女はもういない。人の善性を信じすぎたが故に、身を滅ぼした。滅びゆく様を、見届けることしかできなかった。

どうして、無理にでも止められなかったのだろう。たとえ嫌われようとも、死なれるよりはマシだったはずなのに。
どれだけ後悔しても、心は晴れなかった。今もそうだ。

あの過去さえ変われば。何度そう思ったか。叶わない願いだと知っていてもなお、心の奥底ではそれを望んでいた。
だが、何も変わらない。変わるわけがない。過去とは不変であるが故に。
罷り間違って変わったとしても、今への変革は起きぬが故に。

「…ごめんなさい…」

変えられぬ過去に。贖えぬ罪に。罪人(幽者)は嘆くことしかできなかった。


665以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/03(火) 00:43:57.27loCIh16kO (3/4)

何をするかを↓1にどうぞ。


666以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/03(火) 00:44:43.51loCIh16kO (4/4)

行動する際には自動で朝になってます。ご了承ください。


667以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/03(火) 03:57:41.100K2dDwJcO (1/1)

朝風呂としゃれこむ


668以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/03(火) 08:08:54.26LW0MRItpO (1/1)

風呂に入る際に看板を立てるかを↓1にどうぞ。
前回と選択肢などは同じです。


669以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/03(火) 09:06:51.18hX9COdHfO (1/1)

A 看板を立てる


670以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/03(火) 10:10:47.74Jxk0Dk6uO (1/2)

椅子に座ったままの寝落ちという最悪な寝方をしたリヒトは、マナに寝ている間に何か変なことを宣っていなかったか質問する。
なにもなかった。とは言っていたが、目が泳いでいたのでたぶんとんでもないことを言ってしまったと思われる。
可及的速やかに忘れた方が精神衛生上よろしいだろう。

さて、定刻通り配膳された朝餉をペロリと平らげたリヒトは、気分転換を兼ねて朝風呂をキメることにした。
温泉に入り放題の今、これをしない手は無いと、温泉を思う存分堪能するつもりだった。
ちなみに、マナはウィンディの元に待機させている。一人でゆっくりしたいのだから当然の措置である。
看板もしっかり立てておいたので、例によってこの広い温泉を独り占めだ。

「あ゛ぁ゛~~~~~~。極楽極楽~~~~~」

凝り固まった筋肉を湯船の中で解す。
なるほど。湯治でわざわざ緋桜郷に来る蓮武の気持ちも分かる。
ここまで身体を癒やしてくれるのなら、遠路はるばる緋桜郷へ湯治に来る人がいるのも頷ける。

戦争の時にこれがあれば、士気もまた違っただろうに。そんな益体もないことを考えながら、のんびりと風呂を楽しんだ。


671以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/03(火) 10:11:27.14Jxk0Dk6uO (2/2)

何をするかを↓1にどうぞ。
次の行動は昼となります。


672以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/03(火) 10:28:03.04b8hs6V240 (1/1)

トレーニング


673以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/03(火) 10:39:35.37pU6DTSY/O (1/1)

トレーニングに同伴させるキャラを↓1にどうぞ。
コンマが51以上でそのキャラとコミュを取れます。


674以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/03(火) 12:51:21.86KyJiUUoeo (1/1)




675以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/03(火) 16:55:13.94I4LJWsDyO (1/2)

風呂上がりで火照った身体を冷ますために、自室に戻ったリヒトは一人トレーニングに勤しんでいた。
とは言っても、近くに稽古場が無い上客室では大それたことはできないので、筋トレや魔力トレーニング程度しかできないのが困りものだ。

「………」

「ほわぁ~………」

なので、天井の梁に足を掛けて腹筋をしながら、体内の魔力を総動員して無数の鳥を作り出していた。
生憎リヒトは魔法のことに明るくないので、効率的な鍛え方はできない。故に、過去の経験を基にした鍛え方しか行えないのだ。

即ち、死ぬ手前まで身体を苛める大作戦である。死線を潜れば潜るほど強くなってきたのなら、平時でも同じようにすれば良いのだ。
魔力と体力を完全に使い果たした極限状態。それを擬似的に作り出し、耐え続けることで限界を無理矢理延ばす。
自殺行為にも等しい愚行だが事実、彼はそれを何度も繰り返してここまで強くなった。

当たり前だが、そんな鍛え方をするのは彼が重度の被虐趣味を持つからではない。
この鍛え方しか知らず、否が応でもそうせざるを得なかったからだ。
度重なる激戦を生き延びるには死力を尽くす他なく、限界まで戦い抜いたからこそ力を身に付けた。
リヒトの持つ力はあまりにも泥臭く、血に塗れているものだった。

部屋を埋め尽くすほどに展開された鳥の群れを、雫は興味深く見つめている。
どんなトレーニングをするのか気になると言われたので部屋に迎えたのだが、いったいこんなものを見て何が楽しいのだろうか。
乙女心はさっぱり理解できないが、彼女は不満に思っていないようなので良しとしよう。

「綺麗な鳥さんですね」

「…ぱっと見綺麗かもしれないが、触らないようにね。たぶん君が触ったら命に関わることになる」

「えっ」

「ダメだからね」

「わ、解りましたっ!」

幽者の使う魔法などそんなものだと。リヒトは胸中に吐露しつつ、危ないことをしないように釘を刺した。
お利口さんな雫は、言いつけ通り変な真似はしなかった。何よりである。


676以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/03(火) 16:55:54.04I4LJWsDyO (2/2)

雫と何を話すかを↓1にどうぞ。


677以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/03(火) 19:09:33.10ddwzSzrnO (1/1)

お雪さんについて


678以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/04(水) 01:52:08.44UMliEI7XO (1/1)

トレーニングを取りやめ、雫が用意してくれた冷水を大量に飲み干す。
数十分ほど続けたトレーニングだが、肝心の成果は芳しくなかった。

ただでさえ人並み外れた体力と魔力を持つので、こんな鍛え方をしても限界が来るまでに日が暮れてしまうだけだということに気づいたのだ。
最低でもフェルリティアで出会ったニール・ライトホープやカロゥスで殺し合った親衛隊級の実力を持つ者たちと戦わねば、強くなるのは困難を極めるだろう。
おそらく、そこらの魔物退治や盗賊殲滅程度では経験にもならない。

汗ばんだ身体を拭いてくれる雫に謝辞を述べ、お茶請けのせんべいを齧る。
程なくして、リヒトは質問を投げかけた。

「女将さんのことが知りたい、ですか?」

「ああ」

小動物のように可愛らしく首を傾げる雫に、リヒトは肯定で返す。
甲斐甲斐しく世話をしてくれているお雪だが、彼女の人となりがどうなのか。正直言うとよく分からない。
優しい人なのは紛れもない事実だが、旅館兼娼館の主であることもまた事実である。
もしかしたら、裏では何か悪どいことに手を染めているやもしれない。

という冗談はさておき。彼女がどういった人物なのか、いまいち捉えどころが無いのだ。
年の功によるものなのか、のらりくらりとあしらわれている感が否めないので、彼女のことを知ってそうな人に訊く方が効率的な予感がした。
藪蛇だったらその時はその時である。土下座でもすれば許してくれるだろう。


679以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/04(水) 01:52:47.87U0IMKs1LO (1/2)

「女将さんがどんな人か…。むむ~…。何と言えばいいのかな~。お母さん?おばあちゃん?うーん?」

頭を悩ませる雫を見て、リヒトは内心冷や汗を掻く。彼女の年齢に触れたら大変なことになる可能性があると、リヒトは知っている。

ただ、百、二百では済まない歳だというのは予想が付いていた。
緋桜郷の成立についての話をつい先日してもらったが、お雪が産まれた時点ではまだ緋桜郷が存在していなかったのだから、相当なご年配だろう。
そのはずなのに、外見は幼子のそれとそこまで変わらず肌もツヤツヤで瑞々しいのが不思議でならないが。何か特殊な美容法でもあるのかもしれない。

「…女将さんは、牡丹雪で働く人全員の恩人なんです。借金のカタに桜花衆に売られた人…事件や病気で家族を亡くした人…色々な理由で孤独になった人を、暖かく迎えてくれました」

「私もその一人です。物心ついた時には独りぼっちだった私を、女将さんは引き取ってくれたんですよ。あの時、女将さんに逢ってなかったら…。私はきっと、死んでいたと思います」

ぽつぽつと話す雫に視線を向け、静かに話を聴く。雫の境遇と自身の境遇。お雪と聖女が、少しだけ重なった。

「だから、私にとって女将さんは…。命の恩人で、お母さんみたいな人なんです。お仕事のことを教えてくれて、幸せもたくさんもらっちゃいました」

「…そっか。すごい人なんだね、お雪さんは」

「はいっ!私も、女将さんみたいになってたくさんの人を幸せにしたいです!それが、私の夢なんですよっ!!!」

屈託の無い笑顔を見せる雫。ここまで子供に、人に愛されるお雪を、リヒトは羨ましく思ってしまう。
そんな自分に気付けなかったのは、幸か不幸か。


680以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/04(水) 01:53:39.35U0IMKs1LO (2/2)

雫と何を話すかを↓1にどうぞ。
これが終わると夕方の行動に移ります。


681以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/04(水) 09:20:15.48ZXqpI2G10 (1/1)

雫から見て他の牡丹雪の従業員たちはどんな人たちなのか聞く


682以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/05(木) 13:12:14.14GLiBNlDbO (1/1)

リヒトの戦友枠を何名か募集しておきます。
条件としては、最後まで同伴した戦友は二人まで、それ以外(負傷して脱落、力不足だったり事情があったりで除名された人)が数名です。
戦友枠ではリヒトと同格に強いキャラは現状いないです。
テンプレートをご利用ください。


【テンプレート】
【名前】その名の通り。
【人種】その名の通り。
【性別】その名の通り。
【魔法】どんな魔法を得意とするか。全く使えない人もいます。

魔法から下は自由記入欄となります。来歴や特徴などご自由にお書きください。


683以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/05(木) 21:03:29.25HUxyO92p0 (1/1)

【名前】アンナ・アルミューレ
【人種】人間
【性別】女性
【魔法】なし
力不足で戦線から脱落した元騎士の若い女性。平時はアッシュブラウンのロングヘアを無造作に下ろしているが、戦に赴く際は後ろで一束にまとめる。
貴族の出だが身分を笠に着ることはなく、真面目で人当たりの良い人物だった。
しかし戦線を脱落してからは自信を失い、現在は昼も夜も酒場に入り浸る自堕落な生活を送っている。引き締まっていた体つきも少しだらしなくなってきている。
リヒトのことは人としては好いているものの、共に戦い抜けなかった負い目や実力差による劣等感もあり、複雑な感情を抱いている。
そういった感情からリヒトの悪口を言うことがあるが、他人がリヒトの悪口を言うと怒る。周囲からは面倒臭い女と思われている。
戦いにおいては攻めよりも守りの方が得意なため、盾を持つと実力を発揮しやすい。


684以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/05(木) 22:14:26.23skzxg/Nw0 (1/1)

【名前】カイ・ラフィラス
【人種】人間
【性別】男
【魔法】火炎魔法
赤髪ツンツン髪の男性。筋肉質で身体中に傷がある。リヒトと同じ年齢。元々貴族だったが窮屈な生活に嫌気がさし身分を捨て自由の身となった。性格は熱血漢で友達の事を大切に思っている。リヒトとは長くともに戦ったなかでもあり、さらに同年代の為リヒトのことは大切な親友だと思っている。今でもたまに手紙を送っている。斧を使った戦闘が得意。戦う際は、斧と火炎魔法をよく使う。


685以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/05(木) 23:21:04.51jrJbFzLP0 (1/1)

【名前】サラ・アンバー
【人種】人間
【性別】女性
【魔法】速度強化魔法(あまり強力ではなく自身の速度を少し上げられる程度。それでスピードを強化しつつ得意武器である双剣での戦闘が基本となる)
鮮やかなオレンジの髪を持つショートカットの少女。年齢は十代後半ほど。
元盗賊であり、当初はリヒトが勇者だとは知らずに金目の物を奪おうと襲い掛かったものの見事に返り討ちに遭ってしまったという恥ずかしい過去を持つ
その後リヒトの情けもあって共に戦う事となるのだが、ある時魔物に襲われそうになった子供を庇った際に深い傷を負ってしまった事から、自分のケガのせいで足手まといになるわけにはいかないとリヒトと別れる道を選んだ。
口も手癖も悪いが上述のように子供や弱いものには優しく、奪った金品は貧しい人々に分け与えたりするなど根っからの悪人というわけではない。
現在はとある街で孤児院を開き、子供達がかつての自分の様に道を踏み外さないよう愛情を持って見守っている。
ちなみに今では性格もだいぶ穏やかになったようだが、子供たちを叱る時は盗賊時代の乱暴な口調がつい出てしまう事があるらしく、それを聞いた子供たちはあまりの怖さにもう絶対にイタズラや悪さはしないと心に誓うのだとか。



686以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/06(金) 12:16:11.08v5yb8+XVO (1/1)

【名前】タイラス・コード
【人種】人間
【性別】男
【魔法】闇魔法、雷魔法
茶髪で背丈がリヒトと同じくらい。闇魔法に深く身を委ねた影響で目が紅くなっている。年齢はリヒトの1個下。
リヒトや仲間達と共に戦場を駆け抜け、最後の戦いの後に人々に絶望して闇落ちした。
現在は全身を黒い鎧で覆い、指名手配されたリヒトが過ごしやすくなるように、リヒトの名を名乗りながら圧政を敷く国を滅ぼしたらしながら世界を放浪している。


687以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/06(金) 12:53:20.23OjXFXxrbO (1/1)

【名前】マレット・クロウル
【人種】犬の獣人
【性別】男
【魔法】風魔法
リヒトのパーティーで斥候を務めていた人物で弓と短剣を武器に偵察や索敵、狙撃などを行っていた。
二足歩行する土佐犬のような外見で細身ながらもリヒトより頭一つ分程度背が高い。
いつもは皮肉や悪態をついたりとガラが悪いが仲間思いでパーティー同士の喧嘩の仲裁もしていた。
リヒト達との旅の後半で仲間を庇い重傷を負って戦線離脱し、復帰を望んでいたが間に合わなかった。
現在はリヒトに合流するべくかつての戦友達に呼びかけているがうまくいくかは定かではない。
リヒトより7、8歳程度年上。独身。


688以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/06(金) 13:42:57.556BOcwNzP0 (1/1)

【名前】ラルフ・レドリック
【人種】人間
【性別】男性
【魔法】毒魔法
紫髪で長身の男性で白衣を着てる。顔にはいくつか縫い傷がある。口元は包帯で隠している(昔口元に大きい傷が残っておりそれを隠すために包帯をしている)。杖を武器にしており遠くから毒魔法を放っている。冷静な性格だがよくネガティブになることが多い。毒魔法を得意とするが医学を学んでおり、よく仲間達を治療していた。彼の医療技術は回復魔法以上の技術力を持っている。前は別の仲間と旅をしていたが仲間の裏切りにあいパーティーを解雇、さらにボロボロの状態で大量のモンスターに一人置き去りにされ絶対絶命のところリヒトに助けられる。それがきっかけでリヒトに恩があり、恩を返す為にリヒト達の仲間になり、共に戦った。今はその技術を活かし医者になった。街外れに診療所を建て色んな人種関係なく治療している。


689以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/06(金) 22:37:11.28SBHFGlz7O (1/2)

【名前】グレゴリー・ネスミス
【人種】人間
【性別】男
【魔法】土魔法
銀髪短髪の40代の大男。武器のハンマーを持っている。涙もろいが兄貴肌。過去に自分の村が盗賊に襲われた事があり、生き残ったのはグレゴリー本人だけだった。1人森の中をさ迷っている時にリヒト達に出会う。グレゴリー本人は敵かと思い攻撃するがリヒトの強さに圧倒され返り討ちあう。その後、お互い誤解がとけ仲良くなる。過去に襲われた盗賊もリヒト達と協力し撃退した。撃退後、リヒト達のパーティーに入り共に戦った。現在は結婚して子供もいる。仕事はその強さから現在騎士として活躍している。


690以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/06(金) 23:44:26.18SBHFGlz7O (2/2)

>>689少し訂正
「過去に襲われた盗賊もリヒト達と協力し撃退した。」
           ↓
「過去に自身の村を襲った盗賊はリヒト達と協力し撃退した。」


691以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/08(日) 14:45:40.26GVK8D8WsO (1/1)

部屋に乱入してきたチャカを可愛がりつつ、雫と会話をする。話題は自然と、牡丹雪で働く面々のことに変わっていった。

「結衣乃さんと霧香さんは、夜のお勤めを主に担当されてます。お客様にも好評で、出勤日は予約でいっぱいになってますね」

「結衣乃さんはそれとは別に衣装製作や修繕も担当されてて、今牡丹雪で働いてる若い人たちの衣装は、結衣乃さんお手製なんですよ」

そう言って、雫はくるりと一回転する。寒色系の鮮やかな着物がふわりと踊った。
一流の職人をも唸らせる絶技で作られた着物。
それはどこの呉服店に卸しても恥ずかしくない逸品なのだが、結衣乃は頑なに販売しようとしないのだとか。
過去に他の子供や客にその理由を尋ねられた時も、黙秘を貫かれたらしい。ポリシーなのだろうか。

「霧香さんは…お休みの時はどこかにお出掛けしてる時が多いですね。数日帰ってこない日もよくあります。でも、ここに居る日は皆の面倒を見てくれたり、美味しいご飯を食べに連れてってくれたりします」

ノリノリでイケイケな人だが、心根は優しいらしい。まあ、子供に好かれているのだから優しいのが普通な気もするが。
ただ、気になるのは初対面の時の行動だ。外に貼り付くなんて普通じゃあない。
鬼なら誰でもできる基本技術だったなら、その時は潔く腹を切ってお詫びしよう。どうせすぐ治る。


692以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/08(日) 14:46:28.54koHNzqgIO (1/1)

「静音さんは、従業員の健康管理をしてくれてるお医者さんです。急病のお客様を診たり、お薬を処方したりもしてます」

飲み過ぎなどで酔い潰れた客でも看病しているのだろうか。だとしたら、とても大変で気の毒な仕事である。
酔っ払いの対応ほどめんどくさいものはない。酔っ払って暴れる冒険者は、酒場でよく見られる光景だった。
それをボッコボコにして鎮圧させたのも懐かしい思い出だと、リヒトは小さく笑う。

「リンさんはご存知の通り、牡丹雪の台所を取り仕切り板前さんです。お客様のご飯から私たちのご飯まで、全てを毎日作ってくれてます」

「ただ…あまり私たちとお話ししてくれないんですよね。お風呂だって、いっつも一人で入ってるんです。…嫌われてるのかなあ」

他人と関わるのが嫌いなのか。それとも、他人と関わりたくない理由があるのか。
牡丹雪で働く人全員にワケありなことを考えるとなんらかのトラウマを抱えている可能性があるが、彼女のことは何も知らないのでそれも憶測の域を出ない。
彼女自身、そういった事情を知らないのだろう。それに、雫はまだまだ子供なのだから配慮を求めるのは酷というものだ。

とはいえ、部外者の自分が気安く立ち入っていい問題ではないのも事実。
時間が解決してくれる日を待つのが良さそうだが、果たしていつになるやら。


693以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/08(日) 14:47:16.52AYT1t1MNO (1/2)

夕食を終えたリヒトだが、ふとお雪の姿が見えないことに気づく。
何事かと霧香に問うと、彼岸花 紅華に呼び出され自棄酒に付き合わされることになったという。
不憫で涙が止まらないが、この強制連行は日常茶飯事らしい。お雪の明日はどっちだ。

「リヒトさ~ん…」

城の方を向いて合掌をしていたリヒトに、ウィンディが声を掛けてくる。
振り向いてみると、ウィンディはゴマを擦っていた。本当に胡麻を擦っていた。

「何もできてないのに恐縮ですが…どうかこの貧乏で薄汚い小娘にお小遣いをお恵みください…!お洋服が買いたいんですぅ…!」

二種のゴマ擦りを並行するウィンディに、リヒトは思わず閉口した。そこまでへりくだって媚を売るほどに自分は敬遠されていたのか、と。

悲しみのあまりに半ば悟りを開きつつ、金貨が数枚入った麻袋を渡す。これだけあれば、多少の贅沢もできるだろう。

「あ゛り゛がどう゛ござい゛ま゛ず~~~~!!!!!」

そこまで洋服が欲しかったのか。
そう思いながら、リヒトはスキップで去っていったウィンディを見送り、一筋の涙を流した。


694以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/08(日) 14:47:55.57AYT1t1MNO (2/2)

何をするかを↓1にどうぞ。


695以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/08(日) 15:15:22.688vUksv+Y0 (1/1)

ウィンディの部屋を掃除しよう


696以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/08(日) 21:00:33.88O+jeblKRO (1/1)

「おっす。俺ですリヒトです」

「ぶうううええええええええぇぇぇぇえっっっっ!?!!!???!!!」

『Oh………』

挨拶をしながらドアを開けると、お茶を飲んでいたウィンディが盛大に噴き出した。
その全てはハリゴーディンに直撃したので、畳は汚れなかった。何よりである。
というより、何故ここまで驚かれたのか不思議でならない。ノックをしなかったのが原因なのだろうか。

「あああああごめんなさいハリゴーディンさん!!!っていうかリヒトさん!女の子の部屋に入るなら先に一言言ってくださいよ!」

と、ハリゴーディンの装甲を拭きながら猛抗議するウィンディ。顔は赤面しており、まるで茹蛸のようだった。
軽く謝罪しながら部屋の中を見渡してみる。特に汚れたりはしていないが、本が散乱しているのはいただけない。

興味本位で中身を見る。やはりと言うべきか、どの本も魔法や忍術に関係したものだった。忍術とはいったいなんなのだろうか。

「忍術は緋桜郷などの一部の地域で利用されている魔法の一種です。どちらも魔力を媒体にして現象を発生させますが、そのプロセスが違うんです。例えば私たちが使っている魔法。これは理論を構築して、理論通りに魔力を制御することで現象を発生させています。それに対して忍術は、印を結ぶ行為そのものを理論の代替として使用するので、印の結びさえ知っていれば、誰でもどんな忍術を扱えます。魔力が足りなかったらたぶん死にますけど。また、どちらも杖などの道具や儀式を併用することで簡略化や魔力の消費量の軽減、性能の強化が行えます。寧ろ、それ前提で理論を構築する方が多いですね」

何気ない質問にお返しされた解説の奔流。軽はずみで訊いた自分が馬鹿だったと内心戒めつつ、ウィンディが話し終えるのを待つ。
待つこと数分。一通り説明して満足したのか、ウィンディは息を吐いた。

ここで理解できなかったと言ったら、また先程の解説が再生されるのだろうか。微塵も試す気はないが。


697以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/08(日) 21:01:13.13JJTguKe/O (1/1)

undefined


698以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/08(日) 21:01:55.52ru160NNSO (1/1)

気が済んだウィンディを尻目に、リヒトは散らかっていた本を机に置く。
掃除はこの程度でいいだろう、と身体を伸ばした。
そろそろ身体が鈍ってきそうなので、軽く仕事(殺し合い)でもした方がいいかもしれない。

「…私って、リヒトさんの役に立ってますか?」

そんな物騒な思考を涼しい顔でしていると、不意にウィンディが口を開いた。
ちょっと前の様子からは考えられないほど弱々しいウィンディの声。
リヒトも思考を中断し、ウィンディの方を見る。俯いていて表情は伺えないが、声色からして笑っていることはないだろう。

「…ここに泊まってから、色々と考えたんです。レムカーナでリヒトさんに逢ってからお世話になってるわけですが、私は何かしてあげられたのかなって。ある意味、先生の後釜なわけですし、ね」

「まあ、どれだけ考えても何も貢献できてないことしか出てこないわけですが」

力なく笑うウィンディに、リヒトは瞑目する。追憶してみるが確かに、ウィンディが助けになったことは無かったようにも思える。
が、別にそんなことはどうでもよかった。彼女に魔法の才があるのは紛れもない事実だが、過去に彼女自身が言ったように性分が戦いにはまるっきり向いていないし、戦意も無い。
そんなウィンディを戦いに投入するのもいかがなものか。と、骨の髄まで殺し合い(命のやり取り)に染まったリヒトは考えていた。


699以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/08(日) 21:02:43.74gBXAJslCO (1/1)

それに、彼女が役に立つかどうかは全然気にしていないのが本音だ。
ただ傍にいてくれれば、それでいい。孤独にならなければ、それでいいのだ。

シルヴィアの後釜だと本人は言っているが、彼女にその役目を求めたことは一度もない。
シルヴィアから託されたものは既に自分が受け取っている。それを手伝ってくれるのは嬉しい限りだが、そう強要したことはないし、これからもするつもりはない。
言ってしまえば、彼女が勝手に後釜だと思い込んで思い詰めているだけだ。
役に立たないから切り捨てるなど傲慢にも程がある。そんな扱いをされるのがどれだけ辛いのか。
それを知らないリヒトではない。自身もそういった扱いをされていたのだから、尚更だ。

だが、それを素直に言ったら控えめに言って大変なことになるだろう。人間とはめんどくさいものだ。
どう気遣うのが最適なのか、賢くない頭を悩ませるリヒトの姿が、そこにあった。


700以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/08(日) 21:05:36.35yp3djGB/O (1/1)

重要な局面なのでシンキングタイムを設けさせていただきます。
次に出す安価はどんな言葉をかける、どんな対応するか、です。

暫くの間質問等ありましたらお願いします。今開示できる範囲の情報をお出しいたします。


701以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/08(日) 21:32:45.46EDrm7GhTO (1/1)

シンキングタイムの期限はいつまで?
あと、ここで失敗(?)したら何が起きる?ウィンディの離脱とか?


702以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/08(日) 21:38:44.10z+g4dnpMO (1/3)

期限は質問などが落ち着いたあたりまでですね。とりあえず今日中が期限ではあります。
最悪なコミュを引いたら行方不明になります。本当に最悪な場合です。


703以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/08(日) 21:49:47.05abauSLumO (1/1)

シルヴィアのこなしてきた役割、戦闘面以外での活躍について。
そもそもシルヴィアを仲間にしたのは能力が理由だったか?

かけるべき言葉はわからないけどヒントになる情報がほしいから質問してみるテスト。


704以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/08(日) 22:06:08.259iBJ6ZFoo (1/1)

・あんな情熱的に誘った手前構えてなかったことを謝って安心させる方向(メンドイ系かのじyイヤナンデモナイデス)
・え?そんなんで先生の後釜になれると思ってる?と煽って奮起を促す方向
考えたのはこんなもんかな前者が安定と思うがウィンディ能力だけ見たら逸材なので戦闘(せめて自衛)こなせるようになるならなって欲しい所


705以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/08(日) 22:12:16.92z+g4dnpMO (2/3)

シルヴィアのやってたことは、膨大な知識を用いてのリヒトのサポートです。
戦闘以外何もできない何も知らないリヒトにとっては割と重要な舵取り役でした。
仲間に入った理由は、どちらも排斥された者同士というシンパシーや、目的のためにお互いを利用したりです。


706以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/08(日) 22:19:06.04rpvm0elMo (1/1)

ウィンディの家族や家庭環境はどんなものでしたか?


707以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/08(日) 22:36:06.87z+g4dnpMO (3/3)

ウィンディの家庭環境は非常に良好でした。良くも悪くも普通の一般家庭でした。
まあ、リヒトくんが学院をぶっ壊す数ヶ月前に不慮の事故で両親は死んでるんですけど。


708以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/09(月) 01:41:49.80kjTfv92SO (1/1)

すみません遅れました。↓3までにウィンディに何を言うか、どんな行動をするかをどうぞ。


709以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/09(月) 03:36:51.39bfOACdbXo (1/1)

風魔法を用いた拠点の空調管理や、ハリゴーディンの整備、チャカの世話、その他やれそうな家事などがあればそれをお願いする
それでもまだ物足りないようであれば、幸い今は旅行中で異国の文化や人々と触れ合える良い機会でもあるので、ここに滞在している間に見聞を広めて自分のしたいことやすべきことを探してみるのはどうだろうと提案する
もちろんここで見つけられなくても良いし焦る必要もないからゆっくり考えていこう、と言って優しく頭を撫でる


710以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/09(月) 11:00:38.68t/3mHwd+O (1/1)

13時の時点で安価を終了しますが、正直この安価だけで良い気がしてきました、


711以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/09(月) 12:40:02.04Po4j3Nwjo (1/1)

さんせい


712以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/10(火) 01:12:16.548VarwLpHO (1/4)

後頭部をガジガジと掻き、リヒトは眉を顰める。
最初は、えっ!?!???今のウィンディがシルヴィアの後釜になれると思ってんですか!?冗談キツいっすよ勘弁しておくんなまし~、と盛大に煽り、発破を掛けることをほんの一瞬だけ選択肢に入れた。
まあ、そんなことをしたらどう転ぶか分からないし、彼女が存外タフな精神性をしていることは知っているが、そもそもこの挑発に耐えられるほど余裕があるのかは定かではないのでこの択は論外だ。

こんなことを言ってポッキリ心が折れたら、本当にどうしようもない。
自分がメンタルケアなんてできない人種なのは分かりきっていることだ。わざわざハズレを選ぶこともないだろう。

であれば、取るべき選択は一つ。問題の先送りである。
幸いにして、ウィンディはまだ14歳。自分より8歳も年下のお子ちゃまなのでまだまだ未来ある若者だ。
無限の未来が待っているというのに、何を焦る必要がある。寧ろ、焦るのは自分の方だと思うのだが。
聖女との死別からまもなく二年。シルヴィアと出逢って早一年。それほどの月日が経っても何もできてないのはこちらの方だというのに。

そんな思考をしつつ、考えを取り纏める。納得してくれるかは分からないが、出たとこ勝負だ。なんとかなることを祈るしかない。


713以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/10(火) 01:14:07.928VarwLpHO (2/4)

「…そもそも、だ。君はシルヴィアじゃない。彼女ができることと君ができることは違うだろう」

「俺もそうだ。俺は、シルヴィアや君のような知性は持ち合わせていない。できるのは戦うことだけだ。でも、君は俺にはできないことができる」

人は皆違うものだ。できることもできないことも違うから、人は互いの手を取り合い力を合わせ、共に進む。
リヒトができないことを。シルヴィアができないことを、ウィンディはできる。それで良いではないか、と内心に溢した。

「君が役に立ちたいと言うのなら、君の風魔法で拠点の空調整備なり、ハリゴーディンのメンテナンスなり、チャカのお世話なり、料理とかの家事なりを担当してほしい。どれも俺がやれそうにないのは分かるだろう?」

「絶対無理でしょうね。日頃の様子を見てたから解ります」

「だろ?君にしかできないことはいっぱいあるんだよ」

はあ、とウィンディは気のない返事をした。壊滅的に家事ができないリヒトに呆れていた感があったが、そこを突っついてもこっちが火傷するだけなので放っておく。


714以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/10(火) 01:14:34.398VarwLpHO (3/4)

「それでも物足りないのなら…。そうだな。言ってしまえば今の俺たちは旅行中だ。時間はたっぷりあるし、異国の文化や人々と触れ合える絶好の機会でもある。緋桜郷に留まってる間に見聞を広めて、自分が何をしたいか、何を為すべきなのか。それを探すのも良いと俺は思うがな」

立ち止まることは間違いではない。どうすればいいのか迷ったのなら、一度足を止めて周りを見渡し、ゆっくり考えてもいい。
その果てに進むべき道を見つけることができたなら、その全てに意味があるのだから。

「…もちろん、ここで見つけられなくてもいい。重ねて言うが、時間はたっぷりあるから焦る必要はない。ゆっくり考えていけばいいんだよ」

逡巡ののちに、ぶん殴られることを承知でウィンディの頭を撫でる。
艶やかな髪の感触が手のひらに伝わる。当たり前だが、男である自分の髪とは質感が違った。


715以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/10(火) 01:17:43.638VarwLpHO (4/4)

ウィンディの意志 判定↓1コンマ


01~05:姿が消えた。
06~20:お悩みモード突入。
21~80:落ち着いた。
81~99:頑張るモード突入。
00:???


716以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/10(火) 02:15:29.83oOBhO9GZO (1/1)




717以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/10(火) 02:27:40.13L71BI8qqo (1/1)

なんとか良い結果になりそうで良かった


718以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/10(火) 12:23:24.34RvLfXusyo (1/1)

セーフ!


719以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/11(水) 23:03:23.94qwGkd6a1O (1/1)

そうしていることきっかり一分。撫でる力が強くなり、ウィンディの頭の揺れが少しずつ大きくなった頃。
突如として生まれた風がリヒトを宙に浮かせ、部屋の外に吹き飛ばした。

「むすっ」

ウィンディがおこである。むすっ、と声に出して言うくらいに割と激おこである。どんな理由があれど、年頃の女の子の髪に触れるのはやはりNGだった。
ウィンディの抗議の眼差しを受け、バツが悪そうに目を逸らす。
あの流れで何故自分が悪者扱いされているか解らないが、何を言っても逆効果にしかならないので黙っておく。

「リヒトさんなりに私を気遣って言葉を選んでくれたのは解りました。ありがとうございます。でも、それはそれとして。女の子の髪にベタベタ触るのはやめてくださると助かります。これからお風呂なので多少は大目に見ましたが、もしこれが風呂上がりだったら流石の私も杖で叩いてました。断言します。叩いてたと思うではなく叩いてました。髪の毛のケアって大変なんですよ。男性でデリカシーの無いリヒトさんには解らないでしょうけど!!!!!!!」

全然わからん。リヒトはそう返答し頷いた。寧ろ、ここで分かると言ったらそれこそドン引きされていた気がしてならない。
リヒトの反応を確認した後、温和な笑みを浮かべたウィンディは。

「…とまあ、ウジウジしてた私とはおさらばです。私なりに色々考えて頑張りますので、乞うご期待…やっぱりそんなに期待しないで待っててください」

そう言って、ドアを閉めた。バタバタと音がするので、風呂に入る準備でもしているのだろう。
なんとかなったようで良かった。リヒトも小さく笑い、部屋に戻った。


720以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/11(水) 23:04:06.76ltKWEKeqO (1/2)

家族を。学籍を。私を構成していた全てを失った今、私に何が残っているのか。ずっと考えていた。
シルヴィア先生のような叡智は無い。かと言って、リヒトさんのような武力も、戦う意志も無い。

あるのは、この身体を蝕む魔力だけ。ただでさえ病弱な身体に負担を強いる、忌まわしい力。
これがあったから、私は心を磨り減らした。耐え難い仕打ちを受け続けてきた。

何もできない私に、勇者と共に在り続ける資格があるのか。誰に訊いたところで、答えは否としか返ってこないだろう。
まあ、変にお人好しな勇者様は首を縦に振ると思うけど。そういう優しさに甘えている自分がいることは否めない。

施しを受けてばかりというのも気が引ける。だから、何らかの形で力になりたかった。
答えはまだ見つからない。そもそも、捻くれた自分を納得させるだけの答えがあるのかも分からない。

だけど、あの人は待ってくれる、と言ってくれた。時間も、機会も、与えられた。
なら、頑張るしかない。だって私は。

シルヴィア先生(彼岸の大賢者)の弟子なんだから。


721以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/11(水) 23:05:01.69ltKWEKeqO (2/2)

風呂に入る際に看板を立てるかを↓1にどうぞ。


A:看板を立てる。ソロお風呂になります。
B:看板を立てない。下の判定が同レスのコンマで行われます。
C:その他。自由安価。

01~20:無人
21~40:雫
41~60:霧香
61~80:結衣乃
81~99:静音
00:???


722以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/11(水) 23:15:18.06PTlWOthao (1/1)

B


723以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/12(木) 02:34:33.77ykklmi0nO (1/2)

かぽーん。温泉に入っている時に聴こえてくる謎の音。かぽーん。

「また聴こえてきた。何がどうなって何のために鳴ってるんだろ」

一定のリズムで響き渡る正体不明の音かぽーん。音源を探ろうと思うも、外に出たら身体が冷えてしまうため断念する。

どうせ看板を置こうが置かまいが変わらないしはっきり言ってめんどくさいので、看板は立てないことにした。
裸を見られたところで死ぬわけでもないのだ。傷だらけのこの身体を見て不愉快に思われる可能性は無きにしも非ず、といったところだが。

まあ、英雄級の傑物さえも慰安に利用する牡丹雪の従業員なら見慣れたものだろう。
無傷で英雄に成るのは不可能だと、リヒトはそう認識している。
数多の負傷と挫折、後悔と決別を経て血で染め上げた修羅道の果てに至った者。
それこそが英雄で、英雄とはそうあるべきだ。もし、苦難も無しに彼岸に至ろうとする者がいるなら。

「先人に殺されても文句言えないよな。…なあ?」

独白しながら月を見上げ笑う幽者の口は、歪な弧を描いていた。


724以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/12(木) 02:36:45.24ykklmi0nO (2/2)

何をするかを↓1にどうぞ。
牡丹雪の営業が再開されるので、従業員との交流は難しくなります(安価出したレス(つまりこのレス)のコンマが偶数時のみ可能)。


725以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/12(木) 08:30:17.00uA2cY25CO (1/1)

仲間を連れて街を周ろう


726以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/14(土) 20:32:05.80dj5L0uCwO (1/2)

定休週が明け、牡丹雪の営業が始まる日。半ば逃げるように店を出たリヒトたちは途方に暮れていた。
これから客の相手をする従業員がいる中、部屋に閉じこもって平静を保てる自信が無かったが故の逃散である。
寧ろ、客に接待する彼女らが近くにいるのにどんな顔をすればいいのか、逆に問い正したいくらいだ。

彼女らはプロフェッショナルだから気にしないだろうが、こちらは変に知識があるえっちな14歳と無気力無知な妖精、頭がバグりにバグりまくったポンコツゴーレムとかわいいペット。
そして、それらキワモノ集団を統べる戦闘しかできない幽者。こんな面子が留まっていて碌なことになるわけがないのだ。

「そういえば、この街に来てからゆっくり観光してなかったですね」

「だな」

緋桜郷に入り茶屋で団子を貪っていたら強制連行されたのは記憶に新しい。ちょうどそこの茶屋だったか。

「~~~♪」

そうそう。そして、珠樹という名の馬耳や尻尾が生えた目の前で団子を食べている少年に案内を受けたはずだ。

どうして彼がここにいるのだろう。リヒトは無性に自身の頬をつねって現実か確かめたくなった。
痛かったので現実だった。

「あ、おはようございます。皆様お揃いでお出掛けですか?」

「まあそんなとこだ」

尻尾をパタパタさせ団子を味わう珠樹の問いを肯定する。
店員と思しき少女や店主っぽいおばちゃんが珠樹に向ける視線がお熱くて困る。飛び火して燃え尽きないか心配だ。

「あ、店員さん。同じのあと二つお願いしますっ」

「はい!!!!!!!!!」

「…お楽しみくださいな」

食事の邪魔をするのはよくない、とウィンディにアイコンタクトをし、そそくさとその場を離れた。
離れた途端に茶屋の前に人だかりができたのは、いったい何故なのだろうか。皆目見当もつかない。


727以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/14(土) 20:33:08.66dj5L0uCwO (2/2)

案内所で地図を受け取り、皆で確認する。
一人一枚貰ったのだが、ハリゴーディンが地図を要求した時案内所の人は軽く困惑していた。そりゃそうだとしか言えない。

「こうして見ると緋桜郷って広すぎません?レムカーナの三倍はありますよこれ」

「広い。べらぼうに広い」

魔族を厭いチマチマ領土を広げたレムカーナと来る者拒まず受け入れ続けた緋桜郷。
その規模は雲泥の差であり、格の違いをありありと示していた。

「これ全部観光しようと思ったら何ヶ月掛かるんだ?想像したくないわ」

「関係者以外立ち入り禁止って書かれてること結構ありますけどそれは除外しますよね?」

「流石にするよ?まさか俺ってそれ訊かれるくらいに蛮族と思われてる?」

「はい。だって、ほら。私がここにいる理由考えたら…ね?」

「なるほど完全に理解した」

そんな会話をしつつ街を練り歩く。見るもの全てが新鮮で飽きが来ない。まあ、ここに住んだらやがては退屈になるのだろうが。

ざっと地図を見る限り、すぐ近くにあるのは酒場と武具店、冒険者ギルドくらいだろうか。
少し足を伸ばせば天守閣、桜花衆の居城に行けるが、行ったところで何があるやら。


728以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/14(土) 20:36:31.26YJPPj8CQO (1/1)

どこに行くかを↓1にどうぞ。参考までに緋桜郷の立地をざっくり記載します。

A:酒場に行ってみる。
B:武具屋を覗く。
C:冒険者ギルドに行ってみる。
D:その他。自由安価。


緋桜郷の立地

一番街~九番街まで分かれております。内容は下記に記載。

一番街 天守閣 政界
二番街 牡丹雪 高級店の集合場所
三番街~五番街 住宅地(数字が大きくなるほど高級に)
六番街 冒険者向けの宿場街 装備についてもここ
七番街 普通の店はここ えっちな店もあるよ 一番広い
八番街 所謂貧民街 でもちゃんと統治してるから治安はいいよ 一応定期的に炊き出しあるよ 病気で人が死んだりするけど平和だよ
九番街 研究するとこ 図書館もここだよ


729以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/14(土) 21:20:01.85Zb+E4/HMo (1/1)

9番街の図書館に


730以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/15(日) 00:18:22.04/DKEMzxzO (1/2)

とりあえず手持ち無沙汰な現状を打破するため、ウィンディに行きたいところがあるか問う。
しかし、見どころが多すぎて逆に決められないようで、悩んでいる姿を見るに終わった。
仕方あるまい。ここは大人の自分が気を利かせてやろうではないか。
そう意気込んだリヒトは、大仰な咳払いをして、口を開く。

「こういう街にどんな本が保管されてるか気になってんだよね。ってわけで図書館とかどうっすか?」

「なんですかその語尾。その案には大賛成ですけど」

「では出陣である。面白い本が有ればいいな」

「ですね」

『むむ、これは立ち入り禁止でワタクシたちだけお留守番の匂いがプンプンします』

「お前のどこに鼻があるんだ」

『あると思わないでください。これはただのゴーレムジョークです』

「もう何も言うまい…」

数十分掛けて図書館に来たリヒト一行だったが、ハリゴーディンは中に入れなかった。
なんでも「万一暴走とかして器物損壊とかをされたらガチで困るから入んな!」とのお叱りを受けたようだ。
フェルリティアでの世迷言を知っているこちらとしては反応に困った。


731以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/15(日) 00:23:31.42/DKEMzxzO (2/2)

どんな本を読むかを↓2までに一冊ずつどうぞ。
ウィンディの読む本は↓2まででコンマ判定します。


01~05:ムフフな本
06~45:魔法についての見解~by(自称)忍術マスターシノビマン~
46~80:忍術についての見解~by(自称)魔法マスターマジックマン~
81~99:光と闇の相関、異端なる光について
00:古びた手記


732以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/15(日) 00:33:41.18lLgAhe2iO (1/1)

そろそろ00を


733以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/15(日) 01:11:06.59LJpsECh0o (1/2)

緋桜郷妖怪絵巻


734以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/15(日) 01:22:59.325dFVqQVgO (1/1)

あと一つリヒトが読む本を募集中です。
よっぽど変な本じゃなければあると思って大丈夫です。もし変な本が出たら審議します。


735以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/15(日) 01:23:06.99hLFHboGOo (1/2)

これが世界各地の勇者だ!


736以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/15(日) 01:37:43.64/6jZyY6sO (1/1)

今日はここまでです。↓1コンマで勇者本の情報を判定します。


01~20:初版(約200年前の情報までしか載ってない)
21~60:第15版(約50年前の情報まで記載(ヴィクター・グランハイトあたりの世代まで))
61~99:第20版(リヒトがやらかすまでの情報が記載)
00:???


737以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/15(日) 01:56:10.13O9PeHkAU0 (1/1)




738以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/15(日) 02:14:34.53wpdTePZMO (1/1)

というわけで寝る前に妖怪と200年前に観測された勇者を募集します。
足りない時などはこちらで考えますのでご気軽にどうぞ。以下のテンプレートをご利用ください。


【テンプレート】
【名前】その名の通り。
【人種】その名の通り。
【性別】その名の通り。
【魔法】どんな魔法を得意とするか。全く使えない人もいます。

魔法から下は自由記入欄となります。来歴や特徴などご自由にお書きください。


【テンプレート】
【名前】その名の通り。
【異名】その名の通り。


739以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/15(日) 05:35:19.38hLFHboGOo (2/2)

【名前】?
【異名】福呼び様
見た目は着物を着ているごく普通の子供にしか見えないらしいが誰もその姿は知らない
食べるのが好きでよく普通の子供にまぎれて飲食店に現れては食事をして去っていくという
その店に繁盛をもたらすと言われているため多くの店の主人はこの妖怪を信じており子供の客には親切にする文化が根付いている


740以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/15(日) 10:03:31.51daABBzKZO (1/1)

【名前】ルーク・ファンブルダイス
【人種】人間
【性別】男
【魔法】使えない
遥か昔に世界征服を企んだ魔王を1人で倒して世界を救った勇者。
魔法は使えなかったが、規格外の強さだったようだ。
誰とも会話をせず、一方的に人々を救い続けた。
その結果、その強さと行為を恐れた人々の手によって公開処刑される。処刑される直前でも一言も発さず、ただ静かに笑みを浮かべていた。


741以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/15(日) 14:44:36.55LJpsECh0o (2/2)

【名前】ヒオウサンショウウオ
【異名】湖底桜
緋桜郷外れの湖に棲むサンショウウオのような妖怪
小型の竜くらいの大きさがあり、透き通るような淡紅色の体を持つ
性格は物静かで温厚。防衛目的以外に地上の生き物を襲うことはないため、出くわしても特に危険はない。岩場で昼寝していたヒオウサンショウウオに地元の子供が抱き付いても、特に何もせず昼寝を続けたという目撃翌例もある
しかしもし湖を汚したり生態系を乱す乱獲を行うような者がいれば、ヒオウサンショウウオの怒りを買い、不届者の頭上に局所的な豪雨と落雷が三日三晩降り続くと言われている
サンショウウオに似ているが、近年の研究では水竜の一種とする説が浮上してきている


742以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/15(日) 16:46:13.06sHKLrHQR0 (1/1)

【名前】ネイト・アンドリュー
【人種】人間
【性別】男
【魔法】氷魔法、炎魔法
赤髪で身長が高い男性。2本の剣を持っている。冷静沈着だが困っている人はほっとけない優しい性格。仲間共に数多くの魔物を倒してきた勇者。戦闘スタイルは二刀流で戦い、氷と炎の魔法を使う。性格や実績から多くの市民から慕われおり、結果とある王国の国王になった。現在でも王国ではその伝説が伝えられている。


743以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/15(日) 20:27:57.39S+LPbjWyO (1/1)

【名前】ドクロサムライ
【異名】歌う骸骨将軍
腕が6本、甲冑と兜をつけいる大きい骸骨。6本の腕全てに刀を持っている。緋桜郷の外れにある荒れ地にいる(他の場所には移動しないで荒れ地のどこかにいる)。非常に好戦的で誰にでも斬ろうとしてくる。歌うのが好きでよく歌っている。そのため場所の位置もある程度特定できる。一度倒すとバラバラになるがしばらくすると元に戻り封印しない限り何度も復活する(元々封印してあったが封印していた岩が壊れてしまい蘇った)。
昔は宴が好きな将軍で仲間と一緒に宴していた時に敵に襲われ亡くなった。その亡くなった魂の怨念がドクロサムライに変化した。


744以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/16(月) 01:45:17.970fzmrwJq0 (1/1)

【名前】イナズマミケネコ
【異名】雷電猫又
緋桜郷の外れにある山に生息する猫又の妖怪。三毛猫のような模様があり、尻尾の先端が雷のようにジグザグしている。大きさは中型の竜くらいの大きさがある。常に電気を纏っており電気による広い範囲で攻撃したり、鋭い爪で切り裂いてくる。さらに動きも結構俊敏。基本的にマイペースな性格だがイナズマミケネコに攻撃すると怒って気がすむまで暴れてしまう。その為、地元の人達は見つけても近寄らないようにしている。


745以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/16(月) 02:09:48.73WhzL308d0 (1/1)

【名前】トレボール・ヴェルヌ
【人種】人間
【性別】男
【魔法】なし
通称「剣を持たない勇者」
近隣の魔族の王国とのいさかいが絶えない王国で中流階級として生まれた彼は
その類稀なカリスマ、交渉力、リーダーシップによって人民を纏め上げ
ついに魔王との会談にこぎつけ、話し合いによって和平をもたらすという偉業を成し遂げた
戦う力をなんら持たない彼はおそらく歴史上でもっとも弱い勇者であろう


746以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/16(月) 23:57:00.91dCCVrh3BO (1/1)

【名前】バン・ブラウ
【人種】人間
【性別】男
【魔法】爆発魔法
自身の魔法と拳だけで魔王を倒した勇者。武器を扱うのが苦手で拳で闘う戦闘スタイル(魔法も得意)。前は王国の騎士を勤めていたが危険な魔法とオラオラ系なところから騎士をクビになった。その後、冒険者となり仲間と共に旅をし魔物や魔王を倒してきた。オラオラ系で言動も威圧的だが信念を曲げず仲間思いの性格のため多くの人に慕われてきた。魔王倒した後、国を作り、領主として人々をまとめた。


747以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/17(火) 13:02:05.01JiX8zqO+O (1/2)

ちょっと忙しいので投稿が土曜日くらいになりそうです。妖怪や勇者の募集は終了とします。
連続で申し訳ないですが、桜花衆所属のキャラクターや新しく牡丹雪に入ってくるキャラクターを募集します。

牡丹雪に入る理由は前の店が取り潰しに遭った、捨て子の配属など理由はなんでも大丈夫です。
ではまた土曜日にお会いしましょう。


748以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/17(火) 13:10:01.96JiX8zqO+O (2/2)

ちなみに、桜花衆は緋桜郷を支配している組織です。言ってしまえば、日本の国家権力を集約したような存在です。


749以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/17(火) 18:40:33.26T24fDdPHO (1/1)

質問ですが桜花衆所属のキャラと新しく牡丹雪に入るキャラの人種は何でもいいですか?それとも鬼や天狗限定ですか?


750以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/17(火) 18:51:16.37bVMgckxjO (1/1)

種族の坩堝の緋桜郷は伊達ではありません。人間も天狗も鬼も獣人もエルフも魔族も吸血鬼もなんでもござれです。


751以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/17(火) 23:04:01.78MCarVK/90 (1/1)

【名前】瓦 権兵衛(かわら ごんべえ)
【人種】鬼
【性別】男
【魔法】風と水の忍術
桜花衆の一人にして緋桜郷における警察組織のトップを長年勤める男
赤と黒が基調の着物を着て、非常に硬い金属で出来た特注の十手を用いる
言動はかなり荒っぽいが義理堅く犯罪を許さない心を持つ
時間に余裕さえあれば自ら街の見回りをし悪人を(下駄とは思えないスピードで走りまわって)追いかけたりする
顔が般若のお面そっくりなため、よく悪人に間違われる


752以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/19(木) 14:04:11.55gc9r5eg80 (1/1)

【名前】オリビア・ワスティ
【人種】エルフ
【性別】女
【魔法】植物魔法
銀髪でスタイルが良い女性。年齢は400歳と言われている。桜花衆の一人で槍と魔法を使って戦う戦闘スタイル。穏やかでマイペースな性格だが頭がよく桜花衆の参謀をつとめている。元々はエルフがいる森にいたが外の世界に憧れを持ち旅をしていた。その後、緋桜郷を訪れた時に桜花衆の一人にスカウトされ桜花衆に入った。200年前に観測された勇者と共に旅をした事がある。


753以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/19(木) 20:36:27.64XvdpRIj4O (1/1)

【名前】エル・ファルス
【人種】吸血鬼
【性別】女
【魔法】変化魔法、変化忍術
緋桜郷が正式に雇っている忍達を取りまとめる長。
しかし、緋桜郷に住む殆どの者はそのことを知らない。
高身長で黒髪。笑うと牙が見える。
幼い頃は奴隷だったが、心優しい貴族に買われて長い時間を共に過ごす。その後、寿命差で主人と離別して死に場所を探していたところ、お雪に出会い、気がつけば桜花衆の一員になっていた。
貴族時代に培った処世術や変化魔法を利用し、忍者としては非常に優秀な能力を持っているが、普段は賭場に入り浸り、賭け事と酒に溺れている。
普段の言動(酔っている時)は荒い口調だが、忍者として行動するときや素面の時は育ちの良さが出る。


754以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/20(金) 02:14:51.28oJeoS0b7O (1/1)

【名前】キラ・レイデン
【人種】狐の獣人
【性別】男
【魔法】影魔法
白髪短髪の男性。白い狐耳と尻尾がついている。関西弁を話している。桜花衆の1人で桜花衆の諜報活動を行っている。普段はおおらかな性格だが諜報活動の時は冷静沈着になる。かなりの情報通で色んな事を知っている。幼い頃、家族が事故で亡くなり自分だけが生き残った過去がある。緋桜郷にきた時はその情報通なところをかわれ桜花衆に入った。魔法を駆使して隠密行動や攻撃、捕縛ができる。武器は短剣を使っている。旅館「牡丹雪」の温泉が好きでたまに来ることがある。


755以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/20(金) 04:33:06.394PsxJxlmo (1/1)

【名前】桔梗(ききょう)
【人種】鬼
【性別】女
【魔法】炎魔法、簡単な治癒魔法
長身でショートの桃色髪で出るところの出た女性。腰に刀と脇差をさげている
早くに両親をなくして孤独になったとき周囲が誰も引き取ってくれなかったため子供のころから自分の力で生きていくしかなかった
そのことが少しトラウマになっていて自分の生まれた地域に苦手意識を持っている
緋桜郷の伝統的な武術を身につけて冒険者稼業や用心棒をやっていたときに伝手で牡丹雪の仕事を紹介された
乱暴な客に対応する用心棒として雇われて普段は掃除や雑用を担当
男のような振る舞いをするがそれは一人で生きていくための処世術として身に付いたものであり根は純真で女性らしい
心の奥では自分には帰るべき場所がないという寂しさを抱えている


756以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/20(金) 13:58:17.10rjB7/JXS0 (1/1)

【名前】灯籠(とうろう)
【人種】天狗
【性別】男
【魔法】鋼魔法
桜花衆の1人にして緋桜郷の商人会長を勤めている。オレンジ髪にサングラスをしている。天狗の羽がついている。腰には武器のメイスを下げている。テンションが高くお調子者。流行には敏感で常に流行を取り入れたり、新しいものを販売しているため、彼のお店はいつも長い列ができている。店は日常のものや冒険者に役立つアイテムなどが売っている。元々孤児だったが優しい商人の人に拾ってくれて育ててくれた。成長して商人なろうと決心し勉強や技術をし今にいたる。魔法を使って体を固くして防御したり、人に教わった体術や武器のメイスを使って戦う。


757以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/20(金) 16:37:46.84W+KsXtFD0 (1/2)

【名前】嵐月(らんげつ)
【人種】鬼
【性別】男
【魔法】風魔法
桜花衆の中でも幹部的な立ち位置にある、眼光鋭く頬に刀傷のある黒髪長髪の男性。前をはだけた着物を直接素肌に着て、腰には業物と思しき刀を下げている
現在は桜花衆に統合されて存在しないものの、かつては緋桜郷の見回りや用心棒、金を踏み倒すような客への取り立てといった極道的な組織の親分を務めており、その強さと男気から男女問わず憧れられていた
現在でもその武闘派ぶりは健在であり、緋桜郷に勇者であるリヒトがやって来たと聞いて一度戦ってみたいと周囲に漏らしているという
ちなみに戦いで本気になると着物を脱ぎ捨て、背中に彫られた風神の刺青が露わになる
それを見て生きて帰れた者は今まで一人もいないと言われている


758以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/20(金) 19:32:26.56W+KsXtFD0 (2/2)

>>757
ちょっと文章的におかしい所があったので修正します

【名前】嵐月(らんげつ)
【人種】鬼
【性別】男
【魔法】風魔法
桜花衆の中でも幹部的な立ち位置にある、眼光鋭く頬に刀傷のある黒髪長髪の男性。前をはだけた着物を直接素肌に着て、腰には業物と思しき刀を下げている
現在は桜花衆に統合されて存在しないものの、かつては緋桜郷の見回りや用心棒、金を踏み倒すような客への取り立てといった仕事をこなす極道的な組織の親分を務めており、その強さと男気から男女問わず多くの者達から憧れられていた
現在でもその武闘派ぶりは健在であり、緋桜郷に勇者であるリヒトがやって来たと聞いて一度戦ってみたいと周囲に漏らしているという
ちなみに戦いで本気になると着物を脱ぎ捨て、背中に彫られた風神の刺青が露わになる
それを見て生きて帰れた者は今まで一人もいないと言われている


759以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/20(金) 20:57:57.698H87JUlcO (1/1)

【名前】瑠璃(るり)
【人種】人間
【性別】女性
【魔法】呪詛魔法
新しく牡丹雪に入った女性。年齢はおよそ20歳前後
艶やかな濡羽色の髪を腰丈までストレートに下ろし、いつも物憂げな表情をしている。体つきはやや華奢で暗色系の和装を好む
元はある寒村の出身で食い詰めた家族に奴隷として売られ、最近まで違法な店で働かせられていた。先日その店が桜花衆の働きにより取り潰され、身寄りを失ったために牡丹雪に置かれることとなる
前の店では違法薬物や異常行為を強要されていた。体の傷や異常は都度回復魔法や浄化魔法で治癒されていたため殆ど残っていないが、心には無数の癒えない傷を負っている。そういった事情から自己肯定感が低く、夜の仕事をしている最中にしか生きる実感を得られない。また、自分はそれ以外に価値がないとも思っている
家族のことは恨んでいるが、食い詰めていた事情も理解できるため、心の底から呪うことまではできていない


760以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/21(土) 22:40:59.64AUXGAStX0 (1/1)

【名前】サイエス・リーヨー
【人種】人間
【性別】男
【魔法】硫酸魔法
桜花衆の一人でもあり科学者を勤めている男性。緑髪で髪はボサボサになっている。メガネをかけて、白衣を着ている。優しくいつも笑顔で話しかけている。緋桜郷のところにある研究所で色んなを研究しており、ポーションなどの回復アイテムも作ることができる。遠距離での攻撃が得意で弓や魔法で硫酸の弾丸を飛ばしたり、科学薬品を投げたりなどしている。元々別の街の出身で研究していたが現在は緋桜郷に住んでいる。桜花衆のメンバーや緋桜郷の住人とも仲が良く飲みに行ったりなどしている。


761以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/21(土) 23:07:12.214myQnQBDO (1/1)

お待たせしました。これより再開します。


762以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/21(土) 23:08:19.1273/7szOwO (1/15)

図書館を見て第一に感じた印象は『古風』だろうか。
緋桜郷特有の木造建築は他の地域の様式と当然のことながら大きく異なり、昔らしさを感じさせる。温かみがあって嫌いではないのだが。
完成して何百年も経っている割には綺麗で、作りもしっかりしている。さぞかし立派な名工が手掛けたのだろう。

まだ午前中だからなのか人は少なく、ざっと見た限りでもご年配の方や真面目な冒険者くらいしか見当たらない。
おそらく娯楽に溢れた緋桜郷の住民は外で遊ぶのだろう。そのような娯楽を必要としない者、知識を求める人がここに集うのだと思われる。

「外に置いてるハリゴーディンがパクられたら敵わん。なるべく手短に済ませて出るか」

「あんなのを盗む物好きいますかね?チャカちゃんは可愛いので盗まれそうですが、アレがリードを持ってるので結局誰も近づかないと思いますけど」

仮にも仲間なのにあんなのとかアレ呼ばわりするウィンディはなかなかイイ性格をしている。
まあ、そんな呼ばれ方をするハリゴーディン側に多大な問題があるので致し方なしである。

30分後くらいに図書館を出るまで自由行動とし、その場は解散することにした。
これで何かしらを得てもらいたいものだと頭の片隅で思いつつ、リヒトは本に手を掛けた。


763以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/21(土) 23:08:52.1373/7szOwO (2/15)

リヒトが選んだ本は二つ。一つは『緋桜郷妖怪絵巻』なる題名の絵本。もう一つは『これが世界各地の勇者だ!』なる題名のゴシップ誌だ。

緋桜郷妖怪絵巻は、緋桜郷に言い伝えられている妖怪を分かりやすく解説している子供向けの絵本だ。
危険なものはおどろおどろしく、可愛いものは可愛らしく描かれており、いかにも子供が好みそうである。
まあ、その実態は緋桜郷周辺の情報を纏めた魔物図鑑とでも呼ぶべきものなのだが。
先祖代々伝えられる魔物の情報を妖怪として、後世に遺すこの書物の価値は地味に大きい。当時を知る手段にもなる。
たまに本物の妖怪(謎の存在)が紛れ込んでいるのはご愛嬌と言ったところか。

もう一つの本は、当時世界中で観測されていたらしい勇者の情報を収録した勇者図鑑。と本誌は謳っている。
だがその実情は筆者の主観が入りに入ったゴシップ誌と大して変わらない。
数年毎に発刊すると後書きに記載しておきながら、図書館に保存されているのは初版のみ。
発刊したは良いが誰にも買われなかったのか。はたまた売れはしたが信憑性の無い与太話や噂話がありすぎて出版社が焼き討ちでも喰らって絶版になったのか。
真相は定かではないが、二百年前に初版が出たっきりなのでお察しするしかない。話半分で読めば良いだろう。
そう思考に区切りをつけ、本を開いた。


764以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/21(土) 23:09:31.9473/7szOwO (3/15)

『福呼び様』


昔々、ある村に小さな食堂がありました。子供好きのおばあちゃんが作るご飯はとっても美味しく、村の子供たちに大人気でした。
ですが、その村に病気が流行り、たくさんの人が亡くなってしまいます。
怖くなった人たちはみんな、村を去って出ていきます。
亡くなった子供たちが寂しくないよう、おばあちゃんはたった一人村に残り、何年も何年も、ご飯を作っていました。

ある日、男の子が一人お店にご飯を食べにきました。
その顔は見たことがなく、周りにも家族がいなかったのでおばあちゃんは不思議に思いましたが、お腹を空かせた男の子のためにご飯を作ってあげました。
ご飯を全部食べた男の子は、お辞儀だけをして店を出て行きました。

次の日。何やら店の前が騒がしいとおばあちゃんは朝早くに目が覚めます。
するとなんと、たくさんの行列ができているではありませんか。
お客様に話を聞いてみると、たまたま近くを通りがかった商人が、子供に美味しいご飯屋さんがある、と道案内を受けたというのです。
しかし、もう村には子供はいません。不思議なことが何度もあるなんて、とおばあちゃんは思いますが、お客様のためにご飯を作りました。
それからは、美味しいご飯が食べたいと村に人が戻ってきてお店はとっても繁盛しました。
たくさんの人に囲まれたおばあちゃんは、そのまま幸せに過ごしました。

福呼び様が幸せを呼び込んでくれたおかげで、また一人幸せになれましたとさ。

めでたしめでたし。

著:亀有南斎
絵:脇差ぐねぐね太郎
《緋桜郷妖怪絵巻》より抜粋


765以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/21(土) 23:10:27.2173/7szOwO (4/15)

何ページか読み進め、リヒトは絵巻を本棚に戻す。福呼び様以外にもいくつか読み込んだが、どれも関わらない方が吉と書かれていた。
ごく一部しか読んでいないので何とも言えないが、ガチモンの妖怪である福呼び様以外はやはり、人類にとって害獣のような存在らしい。
だから、こういった本を使って危ない奴にちょっかいを掛けるな、と警鐘を鳴らしているのだろう。
死が見えているのにわざわざそれに触れる必要は無いのだから。

例えば、ヒオウサンショウウオ。透き通るような淡紅色の身体を持つ、サンショウウオに似た魔物だ。
緋桜郷(ひざくらきょう)の近辺に住むのにヒオウと付いているのが気になるが、湖のヌシと呼ばれる時があるらしいので王と桜のダブルミーニングなのかもしれない。
性格は物静かで温厚。彼側から攻撃をすることは防衛行動以外ではまず無いので、彼の怒りを買うようなことさえしなければ安全らしい。
昼寝中に抱きついても大丈夫らしいが、普段は水底でのんびりしているそうなのでヌメヌメしてそうだ。少なくともリヒトは触りたくないと思っている。
そんなヒオウサンショウウオの怒りを買った不届者はどうなるかと言うと、頭上から局所的な豪雨と落雷が降り注ぐのだという。普通に迷惑で死人が出そうだ。


766以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/21(土) 23:11:01.1173/7szOwO (5/15)

他にも、ドクロサムライやイナズマミケネコといった魔物も目を引いた。
二又の尻尾を持つ猫型の魔物であるイナズマミケネコは手を出さなければ毛繕いをしたりと可愛らしい姿を見せるが、一度でも手を出せばそれはまさに逆鱗に触れられた龍の如く暴れ始めるらしい。
ただでさえ数mと中型のドラゴン級のサイズを持つ魔物が雷を纏って大暴れするのだから、その被害は想像したくないレベルである。人里まで攻めてこないのがせめてもの救いか。

六本の腕を持つ骸骨の魔物であるドクロサムライに至っては、目が合った瞬間に剣を振るってくるという好戦的にも程がある生態をしている。
宴に興じていた将軍が夜襲を受け、部下と共に惨殺された怨念から生まれた魔物らしい。
悲しい出自の魔物だが危険な存在には変わりなく、殺すのは難しい上に封印も面倒、しかし縄張りである荒れ地からは動こうとしないので、桜花衆側も不干渉に徹しているらしい。
緋桜郷を経由するキャラバン隊にも、荒れ地に接近しないようにとお触れを出しているのだとか。

面白いものが知れた、とリヒトは絵巻の齎した情報に満足する。
ドクロサムライとやらなら、光魔法で存在ごと消し炭にできそうだと物騒な思考をしつつ、次の本に目を通した。


767以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/21(土) 23:11:38.6173/7szOwO (6/15)

皆様の多大なる要望を経て、本誌が発行できたことを喜ばしく思います。
はい、というわけで始まりました『これが世界各地の勇者だ!』です。好評だったら数年単位で出していこうと思うのでそこんとこよろしく。

えー、まず本誌を出すに至った理由なんですけれども。私は今までに世界各地を旅してバチクソに痛い目に遭ってきましてね。
その時にまあ、目にしたり耳にするわけですよ。勇者のお話とか昔話をね。
んでもって、どれもこれも勇者に至るまでの経歴が違うから面白いって思いましてね。
ならこれを他の人にも知ってもらって、あわよくば印税をガッポガッポ…いやなんでもないです。

何はともあれ、石碑を読み解いたり金を貢いだりしてやっとこさ手に入れた情報ばかりです。
参考にしてくれたら嬉しいです。それでは本題にGo!


768以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/21(土) 23:12:22.2773/7szOwO (7/15)

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769以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/21(土) 23:12:56.2073/7szOwO (8/15)

『世界に殺された勇者』

えー。この勇者を初っ端に紹介してええんかと悩んだんですけども。
やっぱり掴みはインパクトが大事!なもんで、現実はそう上手くいくものじゃないよって教えるのも含めて先陣を切っていただきました。本人は首を切られたんですけれども。

彼の名は『ルーク・ファンブルダイス』。冗談みたいな名前ですがマジでこの名前です。ガッチガチに厳重に封印されてた祠の石碑に書かれてたんでたぶんガセじゃないと思います。
もし嘘だったら緋桜の下に埋めてもらって構いません。

彼がどんな勇者だったのか。いつの時代の勇者なのか。についてなんですが。
言ってしまえば遥か昔…そうですねー。ざっと数千年前の時代に存在してたみたいです。
我々が生きるこの世界。文明が長い間続かないのは周知の事実だと思います。ざっくり数百年経ったら綺麗さっぱり滅んで、また新しい国とかできてますしね。
だから世界中に遺跡とかがあるわけです。滅ぶ原因は自然現象だったり戦争だったりとあるわけですが、私は専門家じゃないのでこの話はここまで。

まあつまり、そんな昔に生きていたこの勇者はとにかく強かったんです。とんでもなく強かったんですよ。
少なくとも、魔法の類は一切使えなかったそうですが、そのシンプルにして規格外の強さを以って、世界征服を企んだ魔王をたった一人でぶち殺し、世界を救いました。
しかも、彼は死ぬ瞬間まで何一つ喋らなかったんです。意志も伝えず、ただ黙々と、返礼さえも求めず人を救い続けました。
彼が優しすぎたのか。それとも頭のネジが外れていたのか。何かがあって心を壊したのか。それは情報が無いので何も解りませんけれど。


770以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/21(土) 23:13:35.4773/7szOwO (9/15)

その力を、行為を恐れた民衆は、世界は、彼の死を望みました。自身を救ってくれた英雄を、ただ怖いというだけで殺そうとしたのです。
しかし、勇者はそれを拒むことなく、首を差し出します。
断頭台に取り付けられ、心無い罵声を浴びせられる中でも、彼は微笑みを浮かべていました。
振り下ろされる大鉈。飛び散る鮮血。
何も求めず、ただひたすらに救い続けた英雄は。人のエゴによって都合良く切り捨てられた英雄は。死してもなお笑っていたのです。

それでもあなたは、勇者になりたいと思いますか?

著:不死鬼 八犬
《これが世界各地の勇者だ!》より抜粋


771以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/21(土) 23:14:30.6873/7szOwO (10/15)

最初の一人目を読了した時、ぞくりと背筋に氷柱を差し込まれたような感覚がした。
額に手をやると、冷や汗がべったりと付いていた。その理由は考えるまでもなかった。

自分も彼と同じ末路を辿っていたのかもしれない、と、本能が嫌悪感を示したのだ。
何も求めず戦い続けた自分と、何も求めず人を救い続けた彼が、重なって見えてしまった。
厳密に言えば、何も求めなかったわけではないのだが。戦争が終わった後、身を寄せていたフィアリス家への爵位を嘆願した。
その結果、田舎町の名家だったフィアリス家は男爵の爵位を賜り、正式に統治するようになったのは記憶に新しい。

もう戻れない、戻ってはいけない嘗ての故郷に思いを馳せる。
故郷と呼ぶべき場所は三つほどあるが、その中でもフィアリス家が一番居心地が良かった。

「…どうしてあの人は、俺を赦したんだろうな。あれほど俺を恨んでたのに。…憎んでたのに」

護れなかった聖女の父母に会った時。聖女の死を伝えた時。殺される覚悟はしていた。寧ろそれを望んでいた。
なのに、彼らは殺すこともせず見逃した。愛しの娘を見殺しにした大罪人を、裁こうともしなかった。
今でも、その理由は分からない。分かる日はやってくるのだろうか。

光の失せた紅眼が、天井へ向けられる。木材の模様が目に映った。


772以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/21(土) 23:15:09.9473/7szOwO (11/15)

ニンニン。はじめまして皆の衆。皆大好きシノビマンでござるよ。ニンニン。
さてさて、拙者が此度筆を取った理由でござるが。
どうやら異邦には魔法なる摩訶不思議な妖術があるらしいのでござる。
幸い、魔法への知見を持つ者と対談する機会があったので、魔法に対する見解を述べようと思った次第でござる。
皆もこれを読んで、立派な忍になるでござるよ。シノビマンとの約束でござる。ニンニン!

まず、忍術と魔法の差異について示さねばなるまい。大前提として、どちらも魔力を消費するものであることに変わらぬ。
忍術の場合は、魔力を練りつつ図示したような特定の印を結ぶことで火を吹いたり風の刃を放ったり、と望んだ現象を起こす技術でござる。
しかし、魔法の場合はあら不思議。謎の呪言を呟きながら魔力を練ると、大爆発が起きたり雷が落ちたりするのでござるよ。怖いね。
同じ魔力を使っておきながら、現象を起こすまでの過程がここまで異なるのは驚きでござる。
ここで、拙者はこの差がどう影響を及ぼすのか拙者なりに考察したでござる。少し長くなりまするが刮目して見よ!


著:(自称)忍術マスターシノビマン~
《魔法についての見解》より抜粋


773以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/21(土) 23:16:12.4573/7szOwO (12/15)

はじめましての方ははじめまして。そうでない方はお久しぶり。千を超える魔法を極めた最強の魔法マスターマジックマンです。
今回は、緋桜郷と呼ばれる地域で何故か大流行している魔法モドキである忍術について独自の見解を交えて話していこうと思います。
つまらなさそうって思った奴は呪うから覚悟しとけよ。何食っても雑草の味しかしないようにしてやるからな。

ゴホン。魔法とは何か。それを説明しようとしたらそれはもうめんどくさいことになるのでそこから知りたいならまずフェルリティアで一年くらい勉強してきてください。
人の生活様式に地域差があるように、魔法の形式にも地域差があります。
解りやすいのは呪詛魔法とかですね。詠唱と触媒を併用するものもあれば、生贄一つで行使するものもあります。

先述した忍術はおそらく、緋桜郷で独自の進化を遂げた魔法だと思います。そうでないとやってられません。
どっちも魔力を使うし現象を起こしてますからね。
だからって、なんであんな痛々しいポーズを取るのか理解できませんが。頭の中が少年時代で止まった奴が考案したのか?

と愚にもつかない推測はさておき。魔法と忍術の明確な違いですが、魔法の方が才能による効果の差が顕著に出ることですね。
忍術の方はやり方さえ知っていれば、ある程度の効果は保証されます。才能絶無の子供がやっても、天才の大人がやっても最低限の効果はあるってわけです。
その分魔力を喰うのでお子ちゃまがやったら最悪死にますけど。


774以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/21(土) 23:17:15.5673/7szOwO (13/15)

それに対して、魔法の方は全然変わります。天と地ほどの差が出ます。
才能の欠片もない奴が火炎魔法を行使したところで、蝋燭の火くらいしか出ないんですよ。
同じやり方を私がしたら家が消し飛びます。たぶん。危ないからやったことないんで確証はないです。

ざっくりまとめると違いはこんな感じです。

魔法:魔力消費は魔法ごとに調節可能。威力や難易度も同時に変動する。才能があれば際限なしに性能強化。

忍術:魔力消費は忍術ごとに最低値のみ固定。威力や難易度は結ぶ印の数と魔力消費に依存。魔力量の才能のみが性能に影響を及ぼす。

まあこれは私なりの見解なので、絶対にこうだ間違いない、と保証はしてないです。クレームは受け付けないので悪しからず。

著:(自称)魔法マスターマジックマン
《忍術についての見解》より抜粋


775以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/21(土) 23:18:02.8073/7szOwO (14/15)

二つの本を読み終えたウィンディは人目も憚らずに嘆息した。書き手の個性が出過ぎている。
もっと簡潔に、詳細を書いてほしいのに、ござるだの呪うぞゴラだの余計なことが書かれていて読む気が失せていく。
意地で読了したが、何を書いていたのか半分くらい頭から抜け落ちてしまった。
今からもう一度読み直す気力も時間も価値も無いので、絶対にしないが。

「そろそろ時間ですよリヒトさん。早く外に出ましょう」

「…ああ」

入り口で突っ立っていたリヒトに声を掛ける。が、表情はあまり明るくなかった。
お目当ての本でも無かったのだろうか。

「どうしました?えっちな本でも探したけど見つからなかったんですか?」

「…違うが。ちょっと考え事をしてただけだ」

「なるほど。そういうことにしておきますね」

「だから違うって」

そんな他愛のない会話をして、二人は図書館を出る。
外に出ると、ハリゴーディンはチャカと共に大道芸をしていた。
何がどうしてそうなったのか。二人は考えるのをやめた。

ちなみに見物客は一人もいなかった。見るからに怪しいのだから当たり前である。


776以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/21(土) 23:19:03.8073/7szOwO (15/15)

何をするかを↓1にどうぞ。
勇者の本は借りてるので読みたい時は行動として選んでください。


777以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/21(土) 23:48:17.98q0t0Tz6eO (1/1)

武具屋を覗く

リヒトはともかくウィンディやマナはなんか食らったら即死しそうなので…


778以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/22(日) 01:43:23.44gy4NW0jYO (1/3)

続いて一行が向かったのは六番街。冒険者向けの店や宿屋が軒を連ねている宿場街だ。
武具店や道具屋の他、魔導具店といった便利アイテムも取り揃えているので、魔物と戦ったりダンジョンに潜ったりする前に品揃えを見ておいて損はない、とよく言われているらしい。
レムカーナ軍に随伴していた時は支給を受けていたリヒトには微塵も関係ない話ではあるが。

「へー。超硬質メタライトってこんなに高いんだな」

武具店にオーダーメイドしてもらう際に利用できる素材を興味本位で見ていたのだが、偶然ハリゴーディンの装甲材と同じ物を発見した。
値段は馬鹿みたいに高かった。これを採算度外視で大量に注ぎ込んだハリゴーディンの製作者はやはり頭がおかしい。
そんな高級品に自爆機能を盛り込んでいるのだから、一度死んで馬鹿を治した方がいいのではないか、と一瞬真面目に思ってしまった。
流石に失礼すぎたと自覚したため内心で謝罪するが、正直まともじゃないと誰に対してか分からない抗議をしておく。


779以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/22(日) 01:44:39.84gy4NW0jYO (2/3)

「武具店に何か注文するんです?」

「俺の分はするつもりはないが。君とかマナ用の防具くらいは作った方が良いと思ってな」

「戦わないので不要です。痛いのやです」

「どうせいっかいなぐられたらしぬからいらない」

「二人のへちょい耐久力だと流れ弾で死ぬリスクがあるから困ってるんだが」

無数の修羅場を経て鍛え上げられたリヒトと、そんな経験などしたことがない二人では肉対面の強さに圧倒的な差がある。
リヒトにとっては些細な怪我で済むようなダメージも、二人にとっては致命傷になり得るだろう。

妖精という種族である以上、マナの虚弱性は保証されている。これっぽっちも良くないことだが。
しかも、常人より遥かに小さな体躯をしたマナに合う防具などあるのだろうか。
そもそもそれを作ったとして、彼女が着込んでくれるだろうか。
反人工物ウーマンのマナが首を縦に振ってくれるイメージが湧かない。

ウィンディもウィンディで、魔法使いということは重装が難しい現実が立ち塞がっていた。
詳しい理由はリヒトには解らないが、鎧などの重装備をしていると、魔法の行使に悪影響を及ぼすらしい。
だからなのか、魔法使いは基本軽装だし、重装備をした戦士が魔法を行使する際は簡単なものに留めておくか、利用する武器などに触媒としての機能を持たせて、無理矢理性能を底上げして補っている。

リヒトの場合はかなりの特異ケースで、そもそもが軽装であるのに加えて、聖剣が触媒としての機能を勝手に果たしてくれるのでデタラメな魔法をポンポン放てたりする。
ガチガチに装備を固めるよりかは、軽装で素早く動いて魔法をぶっ放した方が戦果を挙げられるのだ。

「なんというか、世の不条理とか理不尽を感じますね」

「どういう意味だオイ」

遠い目をし始めたウィンディに抗議の視線を向けるも、乾いた笑いで黙殺されたリヒトだった。


780以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/22(日) 01:47:20.82gy4NW0jYO (3/3)

誰にどんな装備を買うかを↓2までどうぞ。一レスにつき一人です。現時点ではそこまで金が無いので贅沢はできません。
買わない選択肢もあります。



マナ 小盾とお子様用ヘルメット
ウィンディ 耐物ローブとお鍋の蓋


781以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/22(日) 04:22:35.75HEQa7yoh0 (1/1)

ウィンディ 耐物ローブ


782以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/22(日) 09:40:58.306eQquFQIo (1/2)

マナ 子天狗の葉団扇


783以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/22(日) 17:57:27.06DtH6g9FEO (1/4)

評判の良い武具店を調べ、店内を確認する。陳列されている物は全て規格品のようで、サイズ毎に分別して置かれている。
オーダーメイドも承っているらしく、現に今目の前で装備製作を依頼して去っていった冒険者がいた。

ふむ、と残金と必要な物について思考しつつ、リヒトは藍色のローブを手に取った。
商品の名前は『対物ローブ』。大仰な名前が付いているが立派な市販品であり、はっきり言って世界各地どこでも買える防具だ。

対物と聞くと、分厚い装甲をぶち破るようなパワーを持つイカレ武器ばっかり想像してしまうが、今回手に取ったものは対物理の意味合いを持つ。
斬撃。刺突。殴打といった物理的な攻撃にある程度の耐性を持たせた、魔法使い用の防具である。
ただの布に耐性を持たせるカラクリは、生地に編み込まれた魔法である。
この魔法が衝撃を和らげることによって、魔法使いが苦手とする物理的なダメージを軽減させているのだ。

一流の魔法使いともなれば、高級な素材を贅沢に使って物理、魔法、属性全てに強力な耐性を持たせた防具一式を揃えているのだが、悲しいことにそんな財力は存在しない。

効果が如何程なものか、ウィンディに試してもらう。おっかなびっくりといった様子で鉄の棒を握ったウィンディは、ローブ越しに木の板を叩いた。
カン、と軽い音を立てるが、木の板は割れることなくその形状を保持していた。
ローブを外してもう一度木の板を叩くが、今度は綺麗に割れた。

「おおー…」

なるほど。値段と性能のコスパを考えれば、これは買っておいて問題はなさそうだ。
とにかく安く、それでいてある程度の品質は保証されている。これだから市販品は普段使いにありがたい、とリヒトの口角が吊り上がった。


784以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/22(日) 17:58:11.23DtH6g9FEO (2/4)

さて、お次はマナの道具である。ウィンディにだけ買ってマナだけお預け、なんてことをして拗ねられると非常に困るのだ。
実際、マナはリヒトの肩に座っているのだが露骨に不機嫌になっている。
膨らんだ頬を押すと、ぽひゅー、と間抜けな音を出しながら空気が抜けていった。こうして見ると小動物のようで可愛らしいのだが。

適当に商品を見繕うも、マナはじっとりとした視線を向けてくるだけで評価は良くない。
やはり人工物はNGで、鉄製の道具など論外のようだ。
ならば、とリヒトが取り出したるは『子天狗の葉団扇』なる団扇。
こちらは名前の示す通り、子供の天狗がよく使う道具であり、葉っぱを束ねて作っているので自然に優しい。

秘めたる力はそよ風を生み出したりちょっとした加護を与えたり、と大したことないのが難点だが、子供用の物なので仕方ない。あとこれより大きかったらたぶんマナでは持てない。

マナの視線の温度が下がる。それでもめげずに団扇を押し付けると、渋々といった様子で受け取った。
マナ的には許容範囲ギリギリだったようだ。

お買い物を済ませたリヒトは店を出る。

「えー皆様に悲報があります。活動資金がそろそろ底を突きそうです」

そして、端的に破産一歩手前だと宣告した。


785以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/22(日) 17:58:54.09DtH6g9FEO (3/4)

「えー皆様に悲報があります。活動資金がそろそろ底を突きそうです」

何故こんな悲しい宣言をする羽目になったのか。理由は明白である。それは。

「ぎゃう?」

このかわいいペットを購入したからである。それ以外にも理由はあるが、直近でした買い物の中でぶっちぎりで金が飛んだのがこれなのだ。
アリフで親切な人からもらった宝石などを換金したっきりで、それ以降は特に収入もなく支出ばかりがあったのだから、寧ろよくここまで保たせたと自身の倹約ぶりを褒めちぎりたいくらいだ。
そんなことを考えながら、チャカの頭を撫でる。

「あれ?これもしかして私のせいです?」

「さて、どうでしょうね」

今までに何を買ったのか思い出していたのだろう。先の言葉を呟いたウィンディは冷や汗を掻いていた。

「どどどうしましょう私お金持ってないです働き方も知らないですごめんなさい後生ですから身売りだけは勘弁してくださいこんな貧相な身体じゃ変態しか寄りつかないです杖も売らないでくださいつまり私にお金を稼ぐ手段は無いってことですねつまりもう終わりですねはい!!!!!!!」

はいじゃないが。勝手にヒートアップして結論付けたぐるぐるお目目なウィンディちゃんに、リヒトは呆れながら手刀を振り下ろす。
額からぺち、という音が鳴る。相変わらずウィンディは目を回しながらあうあう言っていた。

「幸い、ここ緋桜郷は人も金も集まる場所だ。俺らでもやれる仕事はある。なんなら俺向けの仕事は絶対に仰山ある。そういうもんだ。ってわけで、君が身体を張って稼ぐ必要はたぶんないんじゃないかな」

そう告げるリヒトの言葉は言外に、荒事に首を突っ込む気満々であることを示していた。
残念ながらそこに気付けるほどウィンディは物騒な思考はしておらず、リヒトさんのえっちと的外れにも程がある返答が返ってきた。


786以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/22(日) 17:59:42.24DtH6g9FEO (4/4)

何をするかを↓1にどうぞ。


787以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/22(日) 18:10:48.45fh0kr4a00 (1/1)

じゃあ仕事を求めて冒険者ギルドへ


788以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/22(日) 19:20:13.958fvpws2pO (1/1)

そんな困ったウィンディちゃんを連れ、冒険者ギルドを訪ねる。
気のせいだろうか。ここまで大きな街に設置されているギルドなのに人が全然いない。
魔物退治なりキャラバン隊の護衛なりで人手が欲しいはずなのだが。

「冒険者ギルドにようこそー。依頼を受ける場合はそちらの掲示板で内容を確認するか、受付に直接お願いしまーす」

と、案内を受けて掲示板に目を通す。人が全然いない理由が解った。

「…しょっぺえー」

依頼内容がしょぼかった。それはもう目も当てられないくらいにしょぼい。
期待していたような高給与の依頼などは一切無く、建物の修繕や商店、茶店などのヘルプ募集といった雑用がほぼ全てである。
申し訳程度にある討伐依頼も、八番街に巣を作った人喰いネズミの処理といった簡単なものしかない。

ダンジョンで救援を求めてる人でもいないかな、と救援依頼もチェックするがそんな人はいなかった。そもそも誰も挑戦していない。

何故こんなことになっているのか。天下の冒険者ギルドがこんな体たらくでいいのか。
ちょっと桜花衆の頭領にクレームでも入れようかと思ったが、そこで一つの推論に思い至った。
ここ緋桜郷は享楽の郷。ある人は娯楽を求めて。ある人は疲れた心身を癒やしに。つまりは慰安のために訪れる郷だ。
なのに何故大変な思いをする必要があるのか、という話だ。遊びに来たのに命を懸けることはない。


789以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/22(日) 19:20:56.22tD2VwJE1O (1/2)

それに、緋桜郷は彼岸花 紅華が、桜花衆が統治している郷だ。自国の優先して解決すべき問題は、なるべく自力で解決しようとするはずだ。
桜花衆が処理するまでもない事案、または冒険者ギルドに委託しても良い事案のみが依頼として掲示されているのだろう。
よほど切羽詰まった事態でもなければ、冒険者ギルドに助力を乞うこともない。
それ以前にそんな事態が頻発していたら、とっくにこの郷の統治は破綻している。

以上の理由から、大したことない依頼しか掲示されていないのだと思われる。
なら仕方ない。クレームは取り下げよう。寛大な心を持つリヒトは冒険者ギルドを赦すことにした。

暇そうに談笑している職員を見るに、これが平常運転のようだ。平和でなによりだと、リヒトは小さく笑う。
そんなリヒトをよそにウィンディは図書館のアルバイト募集を受けようとしていた。
楽な方ばかり選んじゃダメよ、とその依頼を取り下げる。

杖で強めに叩かれた。


790以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/22(日) 19:25:09.92tD2VwJE1O (2/2)

何をするかを↓1にどうぞ。


A:簡単な依頼を受ける。誰がどんな内容のものを受けるかを例を参考に記載してください。戦闘系は無いです。
B:八番街の人喰いネズミ退治を受ける。
C:天守閣へ。
D:その他。自由安価。




リヒト 回復薬の販売員
ウィンディ 食堂の一日看板娘


791以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/22(日) 19:36:49.24cS9ALRqCo (1/3)

B


792以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/22(日) 20:00:55.249lBbC/Q/O (1/2)

その後リヒトらが引き受けたのは、人喰いネズミの退治依頼。
人喰いネズミは人里にもよく出没する低級の魔物で、新米冒険者が経験を積むための練習台としても有名だ。
しかし、腐っても魔物。いくら低級といえども民間人を殺めるだけの力はあり、『人喰い』と付くだけあって人肉を好んで食す。
下水道などから侵入した人喰いネズミが巣を作り、子供が被害に遭うのはままあることであり、割と頻繁に冒険者ギルドではネズミ退治の依頼が出ている。

今回の依頼場所は八番街の水路。汚水が流れているわけではなく、緋桜郷全体に温泉を通すために張り巡らされた水路にどこからか入り込んだ人喰いネズミが巣食ってしまったらしい。
ギルドに流されたということは火急の要件ではない。もし被害者が続出していたら彼らが既に対応しているはずだ。
おそらく、周辺の地域にはネズミの巣に近づかないよう警告されているのだろう。それでも近づく命知らずの末路はお察しである。

「怖い~…やだ~…戦いたくないですぅ~………」

「そう言うんじゃないよ」

イヤイヤ期に入って駄々をこねるウィンディの背中を押し前進する。道ゆく人の視線がとても痛い。

「ママー。あれなにー?」

「しっ。見ちゃいけませんよ」

邪険に扱われるのはとても辛いものだとリヒトは心中で涙を流す。何故こんな扱いをされにゃならんのだ。
愚痴を溢したくなるが今は我慢である。今はネズミを駆除して、近隣の安全を確保するのが優先だ。

「おうちかえる~!いたいのやーだー!!!」

遂に幼児退行してしまったウィンディに痺れを切らし、リヒトはネズミの巣まで最短経路で突っ切る。八番街に少女の悲鳴がこだました。


793以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/22(日) 20:04:35.749lBbC/Q/O (2/2)

人喰いネズミにどんな対処をするかを↓1にどうぞ。


人喰いネズミ

体長50cm程度のネズミ。肉食で特に人肉を好む。
不潔で臭い嫌な魔物であり、人喰いネズミの巣は汚すぎて誰も近寄らない。
戦法は集団でただ噛み付くだけ。知性の欠片もないが、数の暴力でゴリ押ししようとする。
魔物だがネズミの生態に近いので、放っておくと指数関数的に数が増える。
こいつの肉は何があっても食ったらダメ。


794以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/22(日) 20:37:51.86ab97bn5A0 (1/1)

ウィンディに経験を積ませる意味も込めて囮にする
そして集まってきたところを一気に叩く


795以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/22(日) 21:10:02.65IVtGeeOeO (1/1)

人喰いネズミ駆除 判定↓1コンマ


01~10:ウィンディ穀潰しの巻
11~40:ウィンディなんとか最低限は頑張るの巻
41~80:ウィンディ及第点の巻
81~99:ウィンディ花丸の巻
00:???


796以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/22(日) 21:16:20.62cS9ALRqCo (2/3)




797以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/22(日) 22:33:24.13tp+aQWywO (1/3)

レムカーナにおけるスラム街である八番街。その中にある水路。そこには、薄汚れた獣が群れを成し、巣を作っていた。
汚物に塗れたそれはとても酷い悪臭を放ち、もはや物好き以外は誰も近寄らない禁足地となってしまっている。
そんなところに腐肉が転がっているのは何故なのか。誰も詮索しないししたがらない。
触らぬものには祟りなし。誰も好き好んで、嫌なものに関わりたくはないだろう。それで死んでしまっては、元も子もないのだから。

目的地が眼前に迫り、リヒトは顔を顰める。ウィンディは水路に向けてキラキラを放出した。
乙女への配慮として、その瞬間は見ないであげている。気を配るだけの余裕があることの証左でもあった。

「…臭い。これはちとキツいな」

「でっだい゛じま゛じょう゛ごの゛ま゛ま゛じゃじに゛ま゛ず」

「撤退は許可できん。あいつらは俺たちを獲物として見定めたからな。これで逃げたらこの薄汚いネズミが世に放たれるぞ」

泣き言を宣うウィンディを制し、視線を前に向けさせる。ギラリと光った無数の眼光が二人(と二匹と一機)を射抜いた。
チャカの優れた嗅覚にクリティカルヒットしたのだろう。完全にダウンしてしまっており、ハリゴーディンが抱っこしているのだがうんともすんとも言わない。
役に立つのはリヒトとウィンディだけだ。リヒト一人さえいればそれで充分なのだが。


798以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/22(日) 22:34:11.96tp+aQWywO (2/3)

とはいえ、こんな簡単な依頼を引き受けた理由は一つ。ウィンディに多少強引にでも経験を積ませるためだ。
イヤイヤ言ってばかりのウィンディに少しでも成功体験を積ませれば、自信を持ってくれるかもしれない。
この世界で生きるのであれば、戦わなければならない時はいずれやってくるのだ。たとえそれが、本人が厭う戦いだとしても。
その時にこの経験は役に立ってくれるはずだと、リヒトは大真面目に考えている。
戦いに摩耗したリヒトの精神は、どうしようもないほどに歪んでいた。

人喰いネズミの脅威度ははっきり言って低い。なりたてホヤホヤの新米冒険者でも、四人集まれば二十匹前後はやっつけられる。
回復薬などの入念な準備をしていたら、という但し書きが付くがまあ、才能のあるウィンディなら本気になれば五十は軽く殺せるだろう。リヒトの場合は言うまでもない。
そんな人喰いネズミの数は約四十前後。比較的大規模な群れになっているようだ。あと数日対処が遅れていたらどうなっていたのやら。
そんなことを考え、ウィンディの肩を叩く。あとは任せた、とキラリと光った笑顔とサムズアップを添えて。

「えっ?」

何事もぶっつけ本番あるのみ。リヒトはそう言って、ウィンディから距離を取る。
離れていくリヒトからネズミの巣に視線を向けると。

「ぴいいいいいぃぃぃぃぃ!!!!?!?!!!」

腹を空かせた人喰いネズミの大行列が、ご飯(ウィンディ)目掛けて突撃していた。

ウィンディの初体験が今、始まる。


799以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/22(日) 22:34:55.83tp+aQWywO (3/3)

これで今日は終わりです。


800以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/22(日) 23:04:52.33cjsXtN93O (1/1)




801以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/22(日) 23:10:25.256eQquFQIo (2/2)


まあいざって時に身を守れないと実際ヤバい世界観だしね


802以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/22(日) 23:18:58.23cS9ALRqCo (3/3)

おつー


803以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/25(水) 23:21:01.7972ANxGUSO (1/7)

幽者の思いつきにより突如始まったスパルタトレーニング(ネズミ駆除大作戦)。
その参加者にして被害者の少女は、この状況にどう立ち向かうか。
幽者は後方にて高みの見物(物理)を決め込んでいるが、限界だと感じたらすぐに魔法をぶっ放すつもりでいる。
まあ、危なくなったらすぐお助け、と今後もしていたらやがて甘えが生まれて成長が見込めなくなるので、初回サービスみたいなものである。
つまり、今回だけは早めに助けるが今後はどうするか全く考えていないのである。行き当たりばったりにも程があった。

さて、ヒャッハァ!新鮮な餌だァ!と言わんばかりに押し寄せてくる人喰いネズミに対し、ウィンディが取った策は。

「風穿(エアロレイト)ッ!!!」

お得意の風魔法を使った迎撃戦法である。思い切りの良さは評価点だが、その戦法を使うには相手の物量が多すぎた。

練り上げられた魔力が風の矢となり、肉を穿ち骨を断つ。ベキ、グチ、と嫌な音が鳴る。
先頭を突っ走っていた一番槍に魔法が直撃。螺旋を描く空気の刃が全身を断裁し、肉と血を周囲にぶち撒けた。

しかし、それだけではネズミの侵攻は止まらない。たかが一匹仲間が死んだところで止まるわけがない。
今の彼らには獲物しか見えていない。今の彼らには腹を満たそうとする欲望しか存在しない。
仲間一匹が死んだからといって、何故躊躇う必要がある。どうせいくらでも産み落とす命。先行投資と思えば安いものだ。

「とは思ってねえか。所詮ネズミだ。ただ本能に突き動かされてるだけだろうな」


804以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/25(水) 23:21:33.2972ANxGUSO (2/7)

空中からウィンディの奮闘を俯瞰するリヒトは、そう溢して目を細める。
誰かに見られている。敵意の無い視線が全身に突き刺さっていた。
その大半は興味本位のものだ。おそらく周辺地域に住んでいる子供が、空に浮かんでいる自分をへんなのがいる!という感じで見ているのだろう。

だが一つ。たった一つだけ、全く毛色の異なる視線が混じっていた。
視線の大元に顔を向ける。遠く離れた家屋の屋根に、年若い青年が立っていた。この郷屈指のイケメン美人ロリボーイ珠樹くんである。
軽く会釈してみると、こちらに認識されたことに驚いたのか少しの間呆気に取られた表情をしていたが、すぐに表情を戻し、綺麗な敬礼を見せてくれた。

仕事熱心で熱意のある若者だと感心する。おそらく彼は、リヒトたちが依頼を受けたことを知り、各所の水門を閉じていたのだろう。
その仕事が終わったから、進捗確認や実力調査も含めて様子見しているのだと思われる。
水路脇で戦闘する以上、ネズミの死骸や血液が水路に混入するのは半ば確定している。
実際、派手にぶち撒けられたネズミの肉と血が水路を流れる温泉に現在進行形で混入している最中である。
なんなら少し前にウィンディが放出したキラキラが温泉に溶け込んでいるわけで。
こんなものが店の温泉に使われたら大惨事どころではない。この世の終わり、地獄の始まりである。
自分だったらそんな温泉に死んでも浸かりたくない。

そんな益体もないことを考えつつ、再度ウィンディに目を向けた。


805以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/25(水) 23:22:22.5472ANxGUSO (3/7)

同胞が一匹天に召したのを無視して、今日のご飯に向けて行軍する人喰いネズミたち。
それに対処すべく、ウィンディは次の魔法の準備を始める。

(私の考案した理論の検証用の魔法だからそんなに効果ないよね解ってましたー…!っていうか人とかに向けて撃ったことなかったから分からなかったけどエグい音出たしあのおっきなネズミがワンパンで死んじゃったしこれ絶対人に向けて撃っていいやつじゃない!!!)

つまり人に向けてはいけない魔法をボコスカ放つであろうリヒトには人の心が無い。
なんならこんな状況に有無を言わさずぶち込んでいる時点でド畜生であった。後でかの邪智暴虐の幽者を呪わねば。ウィンディは決意した。

構えた杖に魔力が集い、大気を震わせる。威力は下がってしまうが詠唱は省略し、魔法の行使だけを最優先とする。

「大嵐流(タービュストローム)!!!!!」

刹那、幾重にも重なった乱気流が、ウィンディの前方に発生した。
周辺への影響を防ぐために範囲は通路ギリギリに抑えているがその分、極小の乱気流を大量に発生させることで威力を補っている。
詠唱省略による威力の減衰は多少なりとも抑えられただろう。

先程の風穿とは比べ物にならない威力の暴力がネズミを襲う。一度乱気流の壁に入ったが最期、全方位から迫り来る風の刃によって細切れにされていった。
しかし、それでも突撃をやめないやめられない。
力押しのごり押ししか能の無いネズミには、どんな障壁が立ち塞がろうと齧り付いて突き破ることしかできないのだ。


806以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2023/01/25(水) 23:23:06.5272ANxGUSO (4/7)

二十匹ほど仕留めた頃だろうか。風の威力が弱まり、遂にネズミが乱気流の壁を突き破る。
先に殉職したネズミの死骸が障害となり、空気の流れが弱まったのだ。彼らの死は無駄ではなかった。天国のネズミも喜んでいるだろう。

「お疲れさん。初陣でこれだけやれりゃ充分だよ」

障害を乗り越え、ネズミが獲物に喰らい付こうとしたまさにその時。
瞬きの間にウィンディの前方に移動した幽者は、右腕を突き出した。

「天喰らう白狼は遍く御魂を楽土に導く」

微かに耳に聞こえる魔法の詠唱。その優しい声色とは裏腹に研ぎ澄まされる魔力はあまりに冷たく。

「踊れ。天狼星(シリウス)」

産み落とされた白い狼は、真の捕食者がどちらか。哀れな生贄に現実を思い知らせた。