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589: 修羅場家の日常 20/07/05(日) 00:39:59 ID:gLI

こっそり吐き出させてほしい。

新卒の時に配属された部署の上司(男)に
とても可愛がってもらっていた。

以下、上司のことはAとする。

Aは課長~部長クラスの役職で、
実績もある優秀な50代のおじさん。

大きな会社なんだけど、
目立つ人で別の部署、
支社の人も「あ、あのAさんねー」と知られた存在だった。

Aは初対面の時から私のことを気に入り、
「俺を父親だと思っていいぞ!」と言い、
色々と面倒を見てくれ、
仕事のことも細かく教えてくれた。

新卒~新人がなかなか関われない様な
大きな案件も扱わせてもらい、
仕事後も「おごりだ!」と言って
頻繁に美味しいお店に連れていってもらった。

本当に、本当に可愛がってもらったんだ。



590: 修羅場家の日常 20/07/05(日) 00:45:47 ID:gLI

そんなAの下で働いて五年目。
Aは急シした。

お通夜の会場に行くと、
Aの奥様が駆け寄ってきて私を抱き締めた。

そして、私がAと奥様の亡くなった娘さんにそっくりだったこと、
そんな私のことをAは「娘が帰ってきたみたいで嬉しい」と
嬉しそうに奥様に語っていたという。

奥様は「本当に娘にそっくり。
あなたが来てから主人は本当に幸せそうだった」と
泣きながらお礼を言ってきた。

私は「本当に可愛がって頂きました…」と
言うことしかできなかった。


591: 修羅場家の日常 20/07/05(日) 00:48:36 ID:gLI

墓場まで誰にも言わずに持っていきたいこと。
それは私が本当はAの事を嫌っていたことだ。
Aの事が嫌で嫌でたまらなかった。

Aは確かに人懐こく、
明るいオジサンという感じの人だったが、
反面感情的でしつこい性格で、
馴れ馴れしかった。

仕事が出来たから尊敬もされてたし、
カリスマ性もあったけど、
その分、彼に物申せる人は少なかった。


592: 修羅場家の日常 20/07/05(日) 00:56:35 ID:gLI

本人は親しさのつもりだったんだろうけど、
何かあると私の頭や背中を叩いてくるのが
本当に嫌だった。

「娘だと思って言ってやってるんだ」

「俺は父親のつもりでお前をしつけるぞ」とか言ってたけど、
私はAの娘じゃないし、父親だってちゃんといる。

実親がどんなに怒っても手を上げてくるタイプじゃなかったこともあって、
Aにげんこつされるのは不愉快でたまらなかった。

でも、本気で強く叩くわけじゃないし、
Aが私のことを可愛がっているのは皆知ってたから、
「今の時代的に叩く真似もダメですよ…」と
それとなく言う人はいたけど、
それ以上は誰も止められなかった。

そして、うちの会社は
「若手のうちは1~2年のスパンで異動して、
様々な部署を経験する」という考え方なのだけど、

Aは「こいつはこの部署が向いてる!
才能がある」と主張して、
5年間私を自分の元に留め置いた。

「あっちの部署を経験してみたいです」と言っても

「いや、お前にはここ以外は合わないから」と
取り合ってもらえなかった。



593: 修羅場家の日常 20/07/05(日) 01:03:48 ID:gLI

そして、仕事が終わると結構なペースで食事に誘う。

断ると不機嫌なのも厄介だったが、
流石に若い娘と頻繁に食事や飲みに行くのは
マズイと分かっていたからだろうが、
先輩社員を巻き込む。

その先輩社員は家庭があり、
まだ幼い子供がいるのに
無理やり付き合わされる形になり、
本当に申し訳なかった。

しかし、先輩に謝ると
「君は悪くないよ。
断るとAさんはしばらく機嫌悪くなるし、
二人で飲みになんか行ったら
ずっと説教されて大変なことになるから…」と
諦めた様に言った。尚更申し訳なかった。

そんな感じだから本当にしんどかったのだけど、
Aが心から私のことを可愛がっていたのは分かっていたし、
しかも、A本人は私に亡くなった
娘さんの話をすることはなかったけど、

他の社員が「Aさんはあなたのことを
亡くなった娘さんだと思って可愛がってるんだから、
その恩に報いなさいね」とか言ってくるから、
誰にも愚痴を吐き出せなかった。


594: 修羅場家の日常 20/07/05(日) 01:12:06 ID:gLI

Aが亡くなる前日、
私は会社のハラスメント対策の部署にダメ元で訴えようと、
メールの下書きを作っていた。

叩かれること、
しつこく飲みに誘われることも辛いし、
明らかに入社5年目に任せる仕事じゃないものを
任せられるのもキツかった。

確かにいい経験にはなったけど、
取引相手も困惑していたし、
裏でAが手回しするものだから、
一部の同期や先輩社員から
「えこひいき、親の七光り(親じゃないけど)」と
陰口叩かれたり、
ちょっとした嫌がらせをされるのは堪えた。

交際相手と結婚する予定もあって、
親族のみで海外挙式をしようとしたら、
「何で俺を呼ばないんだ」と
怒鳴り散らされて大変だった。

以後、「日本で披露宴しろ、俺がスピーチする」と
毎日の様に言われ、精神的に限界だった。

だけど、その告発メールをハラスメント対策室に送る前に、
Aはアッサリと亡くなってしまった。


595: 修羅場家の日常 20/07/05(日) 01:22:09 ID:gLI

正直、とても複雑な気持ちだった。

Aが亡くなって多少の寂しさ、
悲しさはあったものの、
涙は出なかった。

「メールを出さなくて良かった、
出す必要がなくなって良かった」と思う一方で、

「告発して、復讐してやりたかった」とも思った。

告発メールを下書きするときに、
『紙んでくれないかな』と呪っていたので、
そのせいでAが亡くなったのではないかとも震えた。

そのせいか、Aが亡くなった直後、
一気に10キロ近く痩せ、
周囲から同情され慰められた。

…結果的に結婚式までに痩せられて良かったとも言えるけど。

ちなみに、今はそれから10年近く経ってるけど、
今でも重役からは『きみ、Aさんに可愛がられてた人だよね、
立派になってAさん天国で喜んでるよ!』とか声を掛けられる。

でも、今働いてる部署はAが
「お前はここに向いてる!」と言ってた部署と
全く畑違いの部署。

多分、今後もこっちの部署でやっていく。

Aの部署よりこっちの方が
興味も適正もあって向いていると思う。


引用元: 奥様が墓場まで持っていく黒い過去 Part.5