2007年〜2011年のモーニング娘。 後になって評価される前に [続き]
2011.06.11
高橋愛率いるモーニング娘。が著しい成長を遂げたのは、それだけ場数を踏んできたからだろう。観客の反応がダイレクトに返ってくる空間で、メンバー同士なれ合うことなく何年も真剣勝負をしていれば、おのずから集中力もつき、見せ方も聴かせ方もグレードアップする。
とはいえ、やはり実際に観ないことには確信が持てないので、コンサートへ行ってみることにした。メンバーの卒業を控えていたため、やや場内の空気が湿っぽく、ただの新参者である私まで雰囲気にのまれそうになったが、パフォーマンス面でのぬかりは一切見られなかった。ちゃんとした訓練を積んだ、実力のあるグループだということがよく分かった。ダンスの見せ方のうまさは言うに及ばず、メンバーの歌声に驚くほど伸びがあり、音源より良い出来を示している場面もあった。(人によって最も重要な部分とみなされる)MCについては、良し悪しの基準はそれぞれあるだろうが、道重さゆみが時折挿む言葉の選択が絶妙で、退屈しなかった。
高橋愛と共にメインボーカルを務める田中れいなは、リズムや音程をとるのが難しい箇所でも見るからに落ち着き払っていた。とにかく本番に強く、一人だけ違う景色を見ているような、どこか達観した風情すらあった。ああいう特別な構えのない集中力は、気合いを入れたり力んだりすることで生まれてくるものではない。普段から自分のペースが乱れないよう、耳に入るものや目に入るものーー周辺環境をマメに整えていなければ身につかないものだ(あるいは周囲が整えているか)。
アイドルの場合、「一生懸命がんばってます」というアピールが万能の免罪符になるようなところがあるが、メンバーたちはステージ上であんまりそれを利用しない。もしくは、したがらない。「がんばるのは当たり前」を前提にしてやっている。涙を武器に出来るところでも泣かないように本気で踏ん張ろうとしている(まあ、その方がむしろ観ている側の胸に刺さるわけだが)。そういうスタイルを貫けるのは、プライドが高いからというより、ここにいるファンは分かってくれているはず、と信頼しているからだろう。私が観たコンサートではそんな印象を受けた。
2010年末に亀井絵里、ジュンジュン、リンリンが卒業、2011年に入ってからは4人のメンバーが加入し、秋に高橋愛が卒業することが決まり、さらに新メンバーのオーディション開催が発表、という動きが出ている。これからこのグループがどうなっていくのか、大きな比重を占めていた高橋愛の歌がなくなることで全体の歌唱力がどうなるのか、全く分からない。もしかしたら重要なパートを任されることで想定外の才能を発揮する人が出てくるかもしれない。誰がどう化けるか分からないので、今後の采配を見守りたい。個人的には、長年在籍しながら開けていない引き出しがまだまだありそうな新垣里沙と道重さゆみの躍進に期待している。
先日、春のツアーにも行ってみた。新人にとっては初のツアーである上に、震災の影響もあったりして調整は大変だったに違いないが、その大変さを盾に、観る側を変に力ませるようなことはなかった。少なくとも私は気楽に観ることができた。今後こなれてくれば、一曲一曲のパフォーマンスが「表現」となって重みを増してくるだろう。
まだツアー中のようなので名前や曲名は書かないが、今回最も痛快だったのは、卓越したダンス能力を持つ新人が2人の先輩と一緒に踊る場面。あれには目を見張らされた。私の席の近くにいた人たちも(本来は一緒に踊る曲なのに、それも忘れて)半ば唖然として見入っていた。ああいうメンバーが怪我も病気もスキャンダルもなく順調に育っているうちは、モーニング娘。は何だかんだ言われながらも支持され続けると思う。
ただ、これからモーニング娘。が何年続くにせよ、厳しい逆風の時代とも言えるここ数年の彼女たちの活動が価値を失うことはない。いずれ正当な評価を受ける日が来る。そして「実はすごかったんだね」と惜しまれることになるだろう。今さら遅いよ、とファンたちに言われながら。
過ぎてから評価されたところでメンバーは全然嬉しくないだろうが、このご時世に彼女たちを取り巻く環境が急に好転するとはちょっと考えにくい。
人がアイドルに求めるものは様々である。「アイドルは笑顔と泣き顔だけ見せていればいい」と言う人もいれば、「アイドルにダンスや歌のスキルなんか求めていない」と言う人もいる。とはいえ、歌手、女優、タレントとしてほかの仕事仲間と接するうちに自分も「本物」になりたいと望むのは、普通の心理である。その心理に忠実に行動し、慢心せず、レベルを上げている今のモーニング娘。のメンバーは凄く魅力的に見える。
最後に。
モーニング娘。を改めてチェックするようになってから、私はずっと素朴な疑問を抱いていた。ブームが過ぎた後は、メンバーのモチベーションが下がり、パフォーマンスの質が低下するのが一般的だと思うのだが、そうならずに向上したのはなぜか。既述したように、場数を踏めばうまくはなる。しかし、それだって強い意志がなければ続かない。その意思はどうして保てたのか。
それは質の高いステージングを求め続けるファンの存在があったからだろう。高橋愛がリーダーを務めた(現在進行形だが)2007年から2011年のモーニング娘。を観続けていたファンは、黄金期の人気に固執して盲目的に熱狂していたわけではなく、ブームが過ぎたことに同情していたわけでもない。もっと単純に、純粋に、好きなメンバーのすぐれたパフォーマンスが観たい、という人たちだったのではないか。だからメンバー側も変に甘えることなく、クオリティを高めようと努めてきた。そしてファンはその実力と個性を買い、メディアの風向きを意に介することなく、売る気があるのかよく分からないタイトルセンスにも臆することなく、応援してきた。私はそのように勝手に推測する。そういうファンがいる限り、2007年から2011年のモーニング娘。の真価も口承されてゆくことだろう。
【関連サイト】
モーニング娘。OFFICIAL WEBSITE
モーニング娘。Official Channel
『モーニング娘。コンサートツアー 2010秋 〜ライバル サバイバル〜』
とはいえ、やはり実際に観ないことには確信が持てないので、コンサートへ行ってみることにした。メンバーの卒業を控えていたため、やや場内の空気が湿っぽく、ただの新参者である私まで雰囲気にのまれそうになったが、パフォーマンス面でのぬかりは一切見られなかった。ちゃんとした訓練を積んだ、実力のあるグループだということがよく分かった。ダンスの見せ方のうまさは言うに及ばず、メンバーの歌声に驚くほど伸びがあり、音源より良い出来を示している場面もあった。(人によって最も重要な部分とみなされる)MCについては、良し悪しの基準はそれぞれあるだろうが、道重さゆみが時折挿む言葉の選択が絶妙で、退屈しなかった。
高橋愛と共にメインボーカルを務める田中れいなは、リズムや音程をとるのが難しい箇所でも見るからに落ち着き払っていた。とにかく本番に強く、一人だけ違う景色を見ているような、どこか達観した風情すらあった。ああいう特別な構えのない集中力は、気合いを入れたり力んだりすることで生まれてくるものではない。普段から自分のペースが乱れないよう、耳に入るものや目に入るものーー周辺環境をマメに整えていなければ身につかないものだ(あるいは周囲が整えているか)。
アイドルの場合、「一生懸命がんばってます」というアピールが万能の免罪符になるようなところがあるが、メンバーたちはステージ上であんまりそれを利用しない。もしくは、したがらない。「がんばるのは当たり前」を前提にしてやっている。涙を武器に出来るところでも泣かないように本気で踏ん張ろうとしている(まあ、その方がむしろ観ている側の胸に刺さるわけだが)。そういうスタイルを貫けるのは、プライドが高いからというより、ここにいるファンは分かってくれているはず、と信頼しているからだろう。私が観たコンサートではそんな印象を受けた。
2010年末に亀井絵里、ジュンジュン、リンリンが卒業、2011年に入ってからは4人のメンバーが加入し、秋に高橋愛が卒業することが決まり、さらに新メンバーのオーディション開催が発表、という動きが出ている。これからこのグループがどうなっていくのか、大きな比重を占めていた高橋愛の歌がなくなることで全体の歌唱力がどうなるのか、全く分からない。もしかしたら重要なパートを任されることで想定外の才能を発揮する人が出てくるかもしれない。誰がどう化けるか分からないので、今後の采配を見守りたい。個人的には、長年在籍しながら開けていない引き出しがまだまだありそうな新垣里沙と道重さゆみの躍進に期待している。
先日、春のツアーにも行ってみた。新人にとっては初のツアーである上に、震災の影響もあったりして調整は大変だったに違いないが、その大変さを盾に、観る側を変に力ませるようなことはなかった。少なくとも私は気楽に観ることができた。今後こなれてくれば、一曲一曲のパフォーマンスが「表現」となって重みを増してくるだろう。
まだツアー中のようなので名前や曲名は書かないが、今回最も痛快だったのは、卓越したダンス能力を持つ新人が2人の先輩と一緒に踊る場面。あれには目を見張らされた。私の席の近くにいた人たちも(本来は一緒に踊る曲なのに、それも忘れて)半ば唖然として見入っていた。ああいうメンバーが怪我も病気もスキャンダルもなく順調に育っているうちは、モーニング娘。は何だかんだ言われながらも支持され続けると思う。
ただ、これからモーニング娘。が何年続くにせよ、厳しい逆風の時代とも言えるここ数年の彼女たちの活動が価値を失うことはない。いずれ正当な評価を受ける日が来る。そして「実はすごかったんだね」と惜しまれることになるだろう。今さら遅いよ、とファンたちに言われながら。
過ぎてから評価されたところでメンバーは全然嬉しくないだろうが、このご時世に彼女たちを取り巻く環境が急に好転するとはちょっと考えにくい。
人がアイドルに求めるものは様々である。「アイドルは笑顔と泣き顔だけ見せていればいい」と言う人もいれば、「アイドルにダンスや歌のスキルなんか求めていない」と言う人もいる。とはいえ、歌手、女優、タレントとしてほかの仕事仲間と接するうちに自分も「本物」になりたいと望むのは、普通の心理である。その心理に忠実に行動し、慢心せず、レベルを上げている今のモーニング娘。のメンバーは凄く魅力的に見える。
最後に。
モーニング娘。を改めてチェックするようになってから、私はずっと素朴な疑問を抱いていた。ブームが過ぎた後は、メンバーのモチベーションが下がり、パフォーマンスの質が低下するのが一般的だと思うのだが、そうならずに向上したのはなぜか。既述したように、場数を踏めばうまくはなる。しかし、それだって強い意志がなければ続かない。その意思はどうして保てたのか。
それは質の高いステージングを求め続けるファンの存在があったからだろう。高橋愛がリーダーを務めた(現在進行形だが)2007年から2011年のモーニング娘。を観続けていたファンは、黄金期の人気に固執して盲目的に熱狂していたわけではなく、ブームが過ぎたことに同情していたわけでもない。もっと単純に、純粋に、好きなメンバーのすぐれたパフォーマンスが観たい、という人たちだったのではないか。だからメンバー側も変に甘えることなく、クオリティを高めようと努めてきた。そしてファンはその実力と個性を買い、メディアの風向きを意に介することなく、売る気があるのかよく分からないタイトルセンスにも臆することなく、応援してきた。私はそのように勝手に推測する。そういうファンがいる限り、2007年から2011年のモーニング娘。の真価も口承されてゆくことだろう。
(阿部十三)
【関連サイト】
モーニング娘。OFFICIAL WEBSITE
モーニング娘。Official Channel
『モーニング娘。コンサートツアー 2010秋 〜ライバル サバイバル〜』
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