北斗の21 児童虐待担当必殺仕事人 2


 (「北斗」第573号・平成22年12月号に掲載)


 事務屋が仕事人に一枚の書類を手渡した。
「三番目の案件が特にあやしくないか?」
 それは岐阜県の某児童相談所の資料の一部で、近所の住民から「子どもが頻繁に泣き叫んでいる」との七件もの通報が寄せられたので児相の係員が訪ねてみると、母親が出てきて「他人の家の教育方針に口出しするな」といって六歳と五歳の兄妹に会わせない、と記されている。
「なるほど、手遅れになる前に様子を見てくるか」
「忙しいのに悪いな」
「三日後に滋賀県に行くから、帰りに寄ってみる」 

 滋賀県の案件は母親が生まれたばかりの赤ん坊を鼻と口を手でふさいで窒息死させた案件だったので、仕事人は母親を同じ目に遭わせてから昼過ぎに岐阜県に舞い降りた。

 その家は築十年ほどの二階建てで、玄関のドアに鍵がかかっていないので中に入ってみると、すぐ右手の部屋の中から若い成人女性が泣き叫ぶ声が聞こえてきた。DVかと思いきや、しばらく聞き耳を立てていると真っ昼間からお楽しみのご様子だ。離婚母子家庭なのに何を考えているのだか、教育方針が聞いてあきれるというものだ。
 仕事人が二階に上がると二部屋あって、人の気配がする部屋のドアには、子どもを閉じ込めるために後から取り付けたとしか思えないかんぬきがガッシリ掛かっている。確信を深め、隣室の窓から外に出て、その部屋の窓から中をうかがうと、少年がテレビゲームに夢中だ。窓をそっと開けて中に入ると、窓の下で寝そべっていた妹がむっくり起き上がり背伸びして窓から外をキョロキョロと見回す。
「お兄ちゃん、いま窓が勝手に開いたよ」
「ばか、ここは二階だぞ」
 と言って兄は振り返ろうともしない。
 仕事人は部屋の窓の上方から二人を観察した。二人ともやせ細ってはいるが目立った外傷は見当たらないから、食事を満足に与えられず空腹のせいで泣いているに違いない。仕事人は近所のコンビニから失敬してきたミルクチョコレートを二枚ポケットから取り出して、ためしに兄と妹の近くに落とした。一枚がバウンドしてあやうく小便が入っているらしき洗面器に飛び込みそうになった。
「あれ?」
 チョコレートを見つけた兄はコントローラーを投げ出して包装をむしり取りいきなりガツガツと食べ始めた。妹も同様に無言でむさぼり食べる。食べながら兄は立ち上がって窓から外を見る。妹も指と口の周りをチョコレートでベタベタにして兄のとなりで背伸びする。
「誰もいない」
 仕事人は二人の頭上をすり抜け外に出て舞い降り、もう一度玄関から家の中に入る。あきれたことに母親はまだ絶叫し続けている。その部屋のドアのノブを回してみると不用心にも鍵はかかっていない。
 洗濯機の横にあったポリバケツを持って台所に行き、湯沸器から熱湯を出してポリバケツに溜める。一方で冷蔵庫の氷をやかんに入れ水を注ぐ。火傷する一歩手前の熱湯が入ったポリバケツと冷水が入ったやかんを持ってそっとドアを開けて部屋に入る。
 全裸の二人は房事に夢中でポリバケツとやかんが宙に浮いて入ってきたことに気付かない。ベッドでは男が仰向けに横たわり母親が男の腰の部分にまたがって乳房をわさわさ揺らしながら上体を激しく上下させている。仕事人はポリバケツの湯の半分を男の顔にかけ残り全部を母親の頭からぶちまけてポリバケツをそのまま母親の頭にかぶせた。
「アチチチ」
 と男が叫び二秒後に母親も「アツー」と続く。腰の動きを止めた母親がポリバケツを放り投げると男が口を開いた。
「なんじゃい、こりゃー?」
「何?」
 と母親も言葉を失っている。すかさず仕事人はやかんを逆さにして冷水を男の顔と母親の頭の上から交互にかける。
「ぶはーっ」
 と男は落ちてくる冷水を両手でさえぎった。母親は目の前でやかんがふわふわ浮いているので顔に張り付いた髪の毛を払うのも忘れてぽかんと口を開けている。仕事人は空になったステンレス製のやかんを男の顔の上に落とした。
「いてー」
 と男は叫び、鼻を押さえて反射的に体をよじったのでしぶとく勃起していた逸物が折れたのかもう一度「いてー」と叫ぶ。それで母親も慌てて腰を浮かせて馬並みの逸物を引き抜くとスポンと音がした。仕事人は野太い声で言った。
「こんど子どもたちをひもじい目に遭わせたらスポンじゃ済ませないからな、一生覚えとけ」
 仕事人は男の所有物らしき鍵の束を見つけて男の目の前で二本をクニャリと曲げて見せ、母親の両足首を持ち上げ逆さに吊るして這いつくばって逃げ惑う男を母親の頭でゴンゴン打ち据えてから帰路に就いた。休暇が欲しくなった。










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