残暑お見舞いもうします
9章 その2
日本の航空会社の障害者に対するサービスはかなり
良くなっているようだった。
料金体制が半額近くになり、付添い人一人分も同じように
割引になることがある。
搭乗の時には、機内専用の車椅子に乗り換えなければならないが、
スタッフが一人付き添って優先的に座席に案内してくれることに
なっていた。
こちらが男性の障害者であることから、男性スタッフが
ついてくれて、機内の座席にも問題なく座らせてくれた。
翔一郎も病後初めての飛行機の旅で空港までの
介護タクシーの中では多少なりとも不安を感じていたようだが、
一度座席に落ち着くと、にこやかに、しかも少し饒舌になった。
「理子、この前飛行機に乗ったときは君はまだ幼かったから
覚えているかな」
とかつての旅を思い出しているようだった。
「高知ではビールが飲みたいな」
そんな冗談まで出るほどだった。
「片山先生と一緒にインドでも何度も飛行機に乗ったわね」
そう楽しげに語るのは平田メイ子だった。
シンガポールへの健康管理休暇、オーストラリアでの暖かいお正月、
ドイツのミュンヘンで大きなプールに入ったことなどみな一緒だった
と、メイ子の幼い頃のことを思い出していた。
美沙は少なからず不安から緊張していたが、意外にも
翔一郎の母、信子は落ち着いた様子で足取りも八十歳を
感じさせないしっかりとしたものだった。
「本当は私が高齢者で優先搭乗の権利があるのよね」
と、おどけて言って、皆を笑わせた。
他の乗客たちにもこの一団体はかなりインパクトが
あったであろうと想像する。
幸い飛行は順調で殆ど揺れることもなく、
定刻に高知龍馬空港に到着した。
つづく
※今年の高知はまた一段と暑く雨が少ないことが
案じられます。※
by akageno-ann | 2024-08-18 10:53 | エッセ- | Trackback