拙著「僕が帰りたかった本当の理由」

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マサコさん

 

 

 

「 はぁ~い、 マサコだよ~ 」

 

 

 

かん高い声で、

声を掛ける。

 

 

それは、

我が家の自閉症児、

諒(りょう)への

毎晩の号令だ。

 

 

就寝前の歯磨きの時間である。

 

 

諒へ声を掛けているのは

本当の"マサコさん"ではなく

この私。

 

 

私が、

マサコさんの声を真似している

 

 

マサコさんの真似をすれば、

諒はすんなりと

歯を磨く事を受け入れるので、

いつの間にか私は

毎日、マサコさんの物マネ

する様になった。

 

 

マサコさんは、

諒の専任の歯科技工士だった。



行動障害を伴った障害者にとって

歯の治療は

大きな課題だ。

 

 

障害者を扱う知識が無い

一般の歯医者では、

ほぼほぼ

歯の治療を受けるのは、

不可能である。

 

 

そんな障害者の為に

アメリカでは

障害者を専門で扱う歯医者が存在している。

 

 

マサコさんは、

アメリカの障害者専門の歯科技工士として

長年、

諒の担当をしてくれていた日本人である。


 

お陰様で

諒は一生涯、

1本の虫歯も無かった。

 

 

障害者の事情に寄り添った

アメリカの行き届いた福祉サービスは、

我が家にとって

本当にありがたいものだった。

 

 

そんな御世話になった

歯科技工士のマサコさんは

もの凄く特徴的

かん高い声で話す。

 

 

 

「 はぁ~い、諒君、マサコだよ~ 」

 

 

 

と、

諒が歯の定期健診に通うたびに

明るく迎え入れてくれたのだ。

 

 

諒も

マサコさんが自分の人生を支えてくれる

貴重な支援者の一人である、

ということを感じていたのだろう。

 

 

 

『マサコさんに会えるぞ。』

 

 

 

と言うと

彼は大人しくは歯医者行きの車に乗り込んだ。

 

 

そして、

 

 

私がマサコさんの物マネをすれば

大人しく

日々の歯磨きも受け入れたのである。

 

 

諒は自分では歯が磨けないので

彼の歯を磨くのは

私の役割だった。

 

 

私は、

彼の歯を磨きながら

 

 

 

『自分亡き後も、諒は誰かに歯を磨いてもらえるのだろうか?』

 

 

『諒は虫歯で痛い思いをしない人生を送って行けるのかな?』

 

 

 

 

そんな将来の不安

毎晩の様に感じていた。

 

 

でも、

 

 

そんな不安な思いを、

かき消す様に、

 

 

 

『良かった~、マサコさんの御蔭で、

今日も無事に諒の歯を磨くことが出来たぞ~。』

 

 

 

と、

感謝することに集中して、

毎日の歯磨きを終えていたのである。

 

 

そんな

歯磨きの思い出も、

諒がこの世を去って2年が経ち、

今では

遠い昔の記憶となってきたことを

感慨深く思う。

 

 

 

 

 

 

 

ある芸人がテレビで興味深い話をしていた。

 

 

その芸人が小学生の頃、

御祖父さんが危篤状態になり、

病院の集中治療室へ運ばれた。

 

 

直ぐに自分も病院へ

駆け付けたものの

彼は未だ小学生だったので、

明くる日の学校もあるので

夜になると家に

帰宅する事となった。

 

 

そして、

その晩、彼が家で寝ている

枕元に

危篤状態の御祖父さんの霊が立った

 

 

 

そして、

 

 

『お父さんお母さんの言う事を良く聞くように。

そして、妹と仲良く暮らしなさい。』

 

 

 

と言い残して

その御祖父さんの霊は消えたのだという。

 

 

その時、

その芸人は、

御祖父さんが亡くなったのだと

思った

 

 

ところが明くる日、

御祖父さんは

集中治療室から一般病棟へ移動させられて、

その後も

どんどん回復し、

結局は

5年間生き続けて、

別の病気で亡くなったというのだ。

 

 

 

『いったい、枕元に立ったあの霊は何だったのか?』

 

 

 

彼の枕元に立ったその霊は、

実は御祖父さんでは無くて、

本人が夢の中で勝手に作り上げたものだった、

という笑い話として

TVの番組は終わった。

 

 

 

要は、

 

 

『やっぱり、霊の話は幻想にすぎないよね』

 

 

 

という笑い話として終わったのである。

 

 

 

でも、

この話は単なる笑い話ではない。

 

 

 

その芸人は

その"夢"を見たこと

キッカケとなって

妹とは仲の良い関係となった。

 

 

つまり、

『末代まで仲良くと願う先祖の思い』

すなわち

『御祖父さんの願いが孫の彼へ伝わった』

という点がこの話の本当の肝なのだ。

 

 

人の思いは、

死んでからだけでなく、

生きている間でも霊となって語り掛けてくる、

という想像が出来る話として、

面白い話なのである。

 

 

 

 

 

 

強力な台風

6号、7号の影響なのか?

 

 

今年の北海道の夏は

湿度が高く、

不快な8月の盆を迎えていた。

 

 

風呂上がりに

髪の毛をドライヤーで乾かす

 

 

髪の毛が乾いてきた頃、

今度は、

耳の中が濡れている不快感

に気がつく。

 

 

側に置いてあるティッシュの箱から

一枚抜き取り

耳の中を拭きとって、

ようやく

その不快感から解放される。

 

 

ホッとした瞬間、

 

 

 

『自分で耳を拭く事が出来ない障害者とか、

人に言葉で御願いする事が出来ない障害者は、

この不快感からどうやって

解放されるのだろうか?』

 

 

 

と思う。

 

 

 

きっと

支援者が気がついて耳を拭いてあげない限り、

不快はそのまま受け入れて

じっと耐えるしかないのが障害者だ。

 

 

もの言わぬ障害者の生き辛さは、

支援者側が

自らの想像力で見つけ出し

具体的な支援に繋げていくしかない。

 

 

さもなければ、

障害者は

一生を生き辛さの中

過ごすしかないのだ。

 

 

 

『 諒にも沢山の辛い思いをさせちゃったなぁ。』

 

 

 

と思いながら、

 

 

でも、

諒と共に過ごした26年、

特にアメリカでの20年間の生活で

得た気づきを講演で共有する事が出来れば、

沢山の日本の障害者を

救う事に成るに違いない。

 

 

とも思った。

 

 

 

 

『親父、もっとペースを上げて講演活動したら?』

 

 

 

 

あれから3度目の盆を迎えた今も、

私の具体的な行動を

諒は天国で着目し続けている

 

 

 

風呂上がりに、

濡れた耳の中を

ティッシュで拭きながら、

 

 

 

『また諒に背中を押されちゃったな。』

 

 

 

そんな風に思った。

 


 

 

★★★★★★★★★

 

 

 

 

毎日の歯磨きで覚えた諒君の歯並び、

あんなに鮮明に覚えていたのに、

段々と思い出せなくなって来ちゃったよ(笑)

 

 

諒君、

ごめんね~。

 

 


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