交響曲第103番変ホ長調Hob.I-103『太鼓連打』
夜明けに久々の夢を見た。
私は、東京へ帰るあるお嬢さんを見送る為に駅までの道を我が家を出て二人で並んで歩き始めました。
私はそれまで感じた事の無い、いや考えてはいけない思っていた思いに胸が一杯になって、思わず彼女の手を握っていました。
「もう、一生会えないかも知れないね・・・」
「君は幾つになった?」
「12月21日に19才になりました。」
その時、私は自分が12才年上の31歳であることを思い出しました。
・・・・・
そこで夢から覚めました。
70の齢を越えた私が見るには気恥ずかしい夢です。しかし、夢ですから責任はありません。
このような夢を見たのは、ハイドンのこの曲を聴いたからです。
この夢を見た後にこの曲を聴き直すとイメージが、がらっと変わりました。
交響曲第103番変ホ長調Hob.I-103『太鼓連打』
トーマス・ビーチャム指揮
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
1958~1959年録音
このビーチャム盤は見た夢そのもの、更に甘酸っぱい遥か昔の忘れかけていた感情を呼び起こさせてくれます。
ハイドン63歳時のこの曲、
当時の平均年齢から考えれば、相当の高齢、今ならば80歳代でしょうか。
年寄りのロマンを年老いた指揮者(当時80歳)が演奏し、そして年老いた私が聴いています。
この演奏の第2楽章を聴いてしまうと、他の全ての演奏が、どれも納得できなくなります。
一般的にドンチャン騒ぎ風の演奏が多いのですが、途中のヴァイオリンソロが、全くおかしい。楽譜にあるから演奏せざるを得ないのでしょう。どの演奏もとってつけたような不釣り合いのサウンドです。
このビーチャム盤以上に納得できる第2楽章を私は今のところ知りません。
・交響曲第103番変ホ長調『太鼓連打』
・交響曲第104番ニ長調『ロンドン』
・ベートーヴェン:交響曲第1番ハ長調 op.21
ラムルー管弦楽団
イーゴル・マルケヴィッチ(指揮)
録音:1959年12月、1960年10月 パリ[ステレオ]
ビーチャム盤と同じ1959年の録音です。しかし、全く正反対の演奏で、春の夢が、春雷と共にぶっ飛んでしまいます。めちゃくちゃに荒っぽい演奏なのですが、妙に人懐っこい感じでつい引き込まれてしまいます。
これも又『太鼓連打』の一つの姿でもあるのでしょう。
この曲の秘めたるパワーと情熱が感じられる演奏です。
・交響曲第104番ニ長調『ロンドン』
・交響曲第103番変ホ長調『太鼓連打』
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
録音時期:1959年3月(第104番)、1963年4月(第103番)
これも又同じ頃の録音です。
ビーチャム盤やマルケビッチ盤に比べれば随分とまともな(?)演奏です。
後年のベルリンフィル盤のようなしつっこさがなく、とてもスッキリ、幸福感に溢れた爽快で美しいサウンドです。その分物足りなさは少しありますが。
第103番変ホ長調(太鼓連打)
【演奏】
ソヴィエト国立交響楽団
カルル・エリアスベルク(指揮)
【録音】
1973年2月5日モスクワ音楽院大ホール(ライヴ)
とてもロマンチックでドラマが感じられる演奏です。
ハイドンというよりは後期ロマン派の音楽のようで、美しく叙情的なサウンドはとても魅力的です。私はこのようなハイドンも大好きです。
以上は、序奏の太鼓連打が『遠雷型』の頃です。
その後『落雷型』に変わり大鑑巨砲型の『太鼓連打』へ変わって行きます。
アナログからデジタル録音へ変わり行くその頃、ドラティ盤、ヨッフム盤、ヘルビッヒ盤、チェリビダッケ盤、コリン・ディビス盤、カラヤン盤(ベルリン・フィル)等の有名な録音が余多存在します。(カラヤン&コリン・ディビス盤は遠雷型)
交響曲第103番変ホ長調Hob.I-103『太鼓連打』
バーデン=バーデン南西ドイツ放送交響楽団
アントン・ナヌート指揮
しかし、私はそれらの有名盤にどうも馴染めなくて、選んだのは先ずこのアントン・ナヌート盤です。
時には廉価版CDの「幽霊指揮者」として、世界中で最も良く売れた指揮者としても有名な存在です。私もかつてチャイコフスキーの『悲愴』をレビューしています。
序奏の太鼓連打の音量が大きい為、その後の音量が小さく聴こえますので、ボリュームは大きめにする必要があります。
とても平明かつ情熱的な美しいハイドンです。有名盤で感じる胸のつかえのようなものが無く、快感に満ちたハイドンの世界を体験できます。
第2楽章の後半など独特の盛り上がりです。
アカデミー室内管弦楽団
ネヴィル・マリナー(指揮)
この演奏もその頃の落雷型の『太鼓連打』です。
とても楽天的な迄に明るく楽しい演奏です。
どうも気難しいハイドンは私には合わないのでしょう。この屈託の無い、それでいて溢れるような情念に満ちた美しいハイドンは、本当に素晴らしいです。
そして、その同時代には、ピリオド楽器又はピリオド奏法によるハイドンが登場して来ました。
彼らの序奏はそれまでと全く違い、各々が自由勝手に演奏し始めました。
ジャズやロックのドラムのようだったり、相撲太鼓風だったり、正に『乱れ打ち』・・・何でも有りの世界になって来ました。
交響曲第103番 変ホ長調「太鼓連打」 Hob.I:103
コレギウム・ムジクム90 -
リチャード・ヒコックス(指揮)
録音:2000年頃
『太鼓連打』だけを既に10日以上聴き続けています。
そして個性的な「乱れ打ち」を聴かせてくれるピリオド奏法の演奏にたどり着きました。
ノリントン、トーマス・ファイ、ミンコフスキ、アイヴァー・ボルトン、ハリー・クリストファーズ等個性的な演奏を色々聴き続け、それらの中から最終楽章の迫力重視でヒコックス盤、ギーレン盤、ヴァイル盤の3点を選びました。
ヒコックス盤は、古楽器演奏とは思えぬ程にスッキリ整然としたサウンドで、力感に溢れた美しい演奏です。
交響曲第103番変ホ長調Hob.I-103『太鼓連打』
SWR南西ドイツ放送交響楽団
ミヒャエル・ギーレン(指揮)
録音時期:2004年3月4日
この演奏を受け入れるのに10日間かかりました。古楽器ではなく現代楽器ですが、ピリオド奏法を取り入れています。
ここにはロマンスのかけらもありません。
鋭利、冷徹、精緻なメタリックサウンドのハイドン、正に現代の『太鼓連打』に聴こえます。
この曲の内包する巨大な熱量がいかに理知的、論理的に作られているかを、私のような初心者にも有無を言わせず納得させる説得力があります。
● 交響曲第102番変ロ長調 Hob.I:102
● 交響曲第103番変ホ長調 Hob.I:103『太鼓連打』
● 交響曲第104番ニ長調 Hob.I:104『ロンドン』
カペラ・コロニエンシス
ブルーノ・ヴァイル(指揮)
録音時期:2013年1月16日、2014年3月23日
録音場所:エッセン・フィルハーモニー アルフレート・クルップ・ザール
録音方式:ステレオ(DSD/ライヴ)
圧倒的な迫力と愉悦感満載の『太鼓連打』です。
ライブ盤特有の荒々しい迄の熱気に溢れています。盛り上がるべき時の情念の爆発は興奮する程です。
但し、ヒコックス盤、ギーレン盤、ヴァイル盤いずれも第2楽章が、20世紀の演奏のような叙情性が不足しているのが少し不満です。
次はとうとう最後の104番です。
昨日、右親指の『ばね指』の切開手術を行いました。
約3ヶ月程親指が曲げられませんでした。やっと指が動かせます。
ハイドンが終われば、又キーボードを鳴らせるかなあと願っています。