広上淳一 日本フィル レオンカヴァッロ「歌劇《道化師》」(演奏会形式)  | ベイのコンサート日記

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音楽評論家、長谷川京介のブログです。クラシックのコンサートやオペラなどの感想をつづっています。

(7月8日・サントリーホール)
広上淳一が指揮するオペラは、初めて聴く。オーケストラが雄弁なシンフォニックなオペラ公演となっていた。
日本フィルは 14型。コンサートマスター扇谷泰朋。オーケストラの響きが磨き抜かれていた。特にヴァイオリンの艶のある音が際立つ。チェロも素晴らしかった。首席は門脇大樹。9月から日本フィルのソロ・チェロに就任することが決まったばかり。ネッダが村の若者シルヴィオとの逢瀬で愛を確かめ合う際、バックで弾く門脇のソロが美しい。首席信末碩才が率いるホルンも目覚ましい吹奏。木管もいい。演奏会形式の長所であるオーケストラの響きを堪能した。

 

歌手陣は全て日本の歌手だが、レベルが飛び抜けて高く、全員オーケストラを突き抜けて声が出ていた。

 

主役カニオ(パリアッチョ)の笛田博昭(テノール)は、張りがあり、伸びやかな美声。文字どおりホールがビリビリと震えるようにパワフルで常に余裕があり、どこまでも上り詰めて行く歌唱力は見事。一番の聞き所「衣装をつけろ」の慟哭の表現は聴く者の感情を揺さぶる。歌い終わって椅子に崩れ落ちるように座り込むと、広上日本フィルが追い討ちをかけるように悲劇的な管弦楽で盛り上げ、最後はコントラバスの一撃で締めた。歌手、指揮者、オーケストラ入魂の第1幕フィナーレだった。

 

幕開けの道化役者トニオの前口上は、上江隼人(バリトン)が表情たっぷりに歌う。劇中劇のタッデーオ役もコミカルな味。

 

女優でカニオの妻ネッダ(劇中劇ではコロンビーナ)竹多倫子(ソプラノ)は好演。カニオに問い詰められる際の絶叫も迫力があった。

 

村の若者シルヴィオ池内響(バリトン)は、今年1月9日、東京文化会館第20回東京音楽コンクール優勝者コンサートでも聴いた。コンクール以前からすでにプロとして活動をしており、今日も堂々とした歌唱だった。

 

一座の俳優ペッペ小堀勇介(テノール)も素晴らしく、劇中劇でのアルレッキーノの優男ぶりがよく合う。

 

合唱東京音楽大学は若々しくはつらつとした合唱。児童合唱は杉並児童合唱団

 

集中と熱気とエネルギーが渦巻く劇的な公演だった。これ以上望むものはないが、あえて何かを求めるとしたら、さらにドロドロとした「あくの強さ」だろうか。磨き抜かれた、やや明るい響きのオーケストラと、完成された歌唱に加えて、救いのない悲劇性のさらなる強調があってもよかったのかもしれない。

 

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レオンカヴァッロ:歌劇《道化師》(演奏会形式)

 

指揮:広上淳一[フレンド・オブ・JPO(芸術顧問)]

管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団

コンサートマスター:扇谷泰朋

<>は劇中劇の役名

カニオ<パリアッチョ>:笛田博昭(テノール)

ネッダ<コロンビーナ>:竹多倫子(ソプラノ)

トニオ<タッデーオ>:上江隼人(バリトン)

ベッペ<アルレッキーノ>:小堀勇介(テノール) 

シルヴィオ:池内響(バリトン)

 

合唱:東京音楽大学 児童合唱:杉並児童合唱団

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