戸田弥生のブラームス「ヴァイオリン協奏曲」は熱演だった。
第1楽章提示部は少し演奏が粗く、重音の音程がわずかにずれていたように聞こえたが、展開部以降は演奏も滑らかになり、音楽に乗ってきた印象があった。集中力が一瞬たりとも切れず、気迫のこもった演奏は情熱的な作品にふさわしい。
沼尻竜典N響も戸田と緊密に連携、密度の濃い演奏。沼尻と戸田は年度が異なるが、同じ桐朋学園出身で息もよく合っていた。
第1楽章のカデンツァはマックス・レーガーらしい。実演で聴くのは初めて。ギドン・クレーメル、バーンスタイン、ウィーン・フィルの録音がある。
第2楽章冒頭のオーボエのソロが素晴らしかった。客演だが初めて見る奏者。
(友人の情報でわかりました。トゥルクフィルハーモニー管弦楽団の首席オーボエ奏者 高島拓哉さんだそうです)
戸田のソロも一段と熱が入って見事だった。第3楽章も戸田と沼尻N響は一体となり、熱く演奏を終えた。
見事な演奏だったが、イザベル・ファウストやアリーナ・イブラギモヴァのような洗練された演奏に惹かれる者としては、演奏のスタイルが一時代前のような気もする。
ブラームス(シェーンベルク編):ピアノ四重奏曲第1番 ト短調 op. 25(管弦楽版)
これは名演。N響の名人芸が全開した。
昨年1月に聴いた小泉和裕指揮都響も良かったが、沼尻竜典N響はその上を行っている気がした。
なんといってもN響がうまい。弦の音も格調があってしかもうねるような迫力をもっている。管楽器は安定しており、木管も各奏者のソロが素晴らしかった。クラリネット(伊藤圭)、フルート(甲斐雅之)、ホルン(客演の千葉響首席大森啓史)など。打楽器もティンパニ(植松透)、竹島悟史ほか、全員に隙がない。
沼尻の指揮は、こうしたN響の良さを無理なく自然に引き出す。堅苦しいところや、誇張はなく、N響はのびのびと実力を発揮していた。音が美しくまるでウィーンの名門オーケストラを聴いているよう。
第4楽章ロンド・アッラ・ツィンガレーゼもノリノリ。展開部終わりのクラリネットのカデンツァもかっこいい。プレストのコーダは最高の盛り上がり。場内の熱狂を呼んだ。
アンコールのブラームス「ハンガリー舞曲第1番」も大きくうねっていた。
ミューザ川崎シンフォニーホールの音響の良さが、N響の演奏の素晴らしさを一段と引き立て、豪華絢爛なパフォーマンスを味わうことができた。NHKホール改装中は何度かここでコンサートもあったそうだが、今は年に一度のフェスタサマーミューザのみ。
楽員も大好きなホールとのことだし、もう少し回数を増やしてもいいのでは。
奇しくも3つおいた席に、ミューザ川崎の音響設計を担当した豊田泰久氏が聴きにみえていた。
追記:プレコンサートでは珍しいコントラバスの四重奏を聴くことができた。出演者、曲目は下記に。
管弦楽:NHK交響楽団
指揮:沼尻竜典
ヴァイオリン:戸田弥生*
コンサートマスター:郷古 廉
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 op. 77*
ブラームス(シェーンベルク編):ピアノ四重奏曲第1番 ト短調 op. 25(管弦楽版)
[ プレコンサート ]
● コントラバス四重奏
稻川永示
西山真二
矢内陽子
桑原孝太朗
〈曲目〉
川上哲夫:
コントラバス四重奏のための
ソナタ から