人気リゾート湯布院、別府に向かう特急「ゆふいんの森」。JR九州を代表する観光列車として親しまれ、今年運行35周年を迎えました。訪日客らでにぎわう博多行き上り列車に豊後森駅(大分県玖珠町)から乗車してみました。

 

 

豊後森駅に入線する博多行きのゆふいんの森2号。背後に見えるのは扇形車庫が残る旧豊後森機関庫

 

 

 

「ゆふいんの森」は1989年3月ダイヤ改正で登場しました。客室の床を高くしたハイデッカー構造で、丸みを持った先頭形状とグリーンの外観は外国の鉄道車両を思わせます。

 

現在は、当初から活躍するキハ71系(ゆふいんの森Ⅰ世)と、1999年に増備したキハ72系(同Ⅲ世)の2編成で運行されていて、博多—由布院間を走る1・2、5・6号にキハ72系、博多—別府間の3・4号にキハ71系がそれぞれ充当されています。

 

 

【参考】「ゆふいんの森」運行当初から活躍し、内外装が異なるキハ71系=2018年

 

 

 

私が今回乗車したのはキハ72系を使うゆふいんの森2号でした。熊本県小国エリアを家族で訪れた帰路で、前日に自家用車に不具合が出たため急きょ利用することになりました。

 

「ゆふいんの森」は全車指定席の列車で、由布院駅を正午ごろに出発する2号はこの日、ネット予約では「満席」になっていました。それでも「キャンセルが出るかも」と、豊後森駅のきっぷ窓口に駆け込むと、運良く指定席が確保できました。

 

近年は駅の無人化やみどりの窓口の閉鎖などが相次いでいますが、今回のような急な旅程変更の際には有人の窓口があると助かります。

 

 

久大本線の主要駅の一つであるJR豊後森駅の駅舎。ローカルの風情が落ち着きますが、駅前にコンビニエンスストアがなく、「食料確保」には注意が必要です(数分歩いた旧豊後森機関区そばのカフェ「森のクレヨン」にはパンが売っています)

 

 

ホームには懐かしい雰囲気の駅名標も残っています

 

 

 

ゆふいんの森2号は豊後森駅を12時32分に出ました。車内は平日にも関わらずほぼ座席が埋まっていて、その多くはツアーで訪れた外国人観光客のようでした。

 

私は今回家族と一緒でしたが、一人だった場合を想像すると少し居づらいような気もします。

 

同じ区間にはキハ185系の特急「ゆふ」も走っていて、「ゆふいんの森」ほどの観光色はないと思うので、乗り比べて雰囲気の差を見てみたいところです。

 

 

キハ72系を使ったゆふいんの森2号の車内はカジュアルな印象です(写真は1号車)

 

 

 

「ゆふいんの森」としては増備編成に当たるキハ72系。工業デザイナー・水戸岡鋭治さんが手がけた内装は、ノスタルジックなキハ71系に対してカジュアルな印象を受けます。

 

ハイデッカーの構造は動線が改良されていて、号車間移動では階段を通過しないため、車内販売ワゴンも回れるようになっています。

 

側窓は座席1列ごとの小窓タイプになっていますが、3、4号車の展望スペースは床から天井までの大窓になっていて、開放感あふれる眺望が楽しめます。乗車日を記したフォトパネルも置かれ、多くの人が記念写真を撮っていました。

 

 

乗降ドアと通路の動線が分かれた車端部。ハイデッカー構造ですが、号車間は階段なしで移動できます

 

 

ビュッフェや展望スペースは大きな窓になっています

 

 

「ゆふいんの森」のエンブレム。はや35年の歴史を刻んでいます

 

 

 

ゆふいんの森2号は、慈恩の滝(大分県玖珠町)などの名所を通過する際には徐行し、客室乗務員による案内放送が入ります。キャンディーの配布などもあり、まるで観光バスに乗ったような気分です。

 

久留米と大分を結ぶ久大本線は九州北部を横断する山岳路線で、車窓は平野、盆地、渓谷、高原など多彩に移り変わります。

 

ゆふいんの森2号も、線路沿いに生い茂った夏の草木と接触しながら山間部を駆け抜けると、日田からは夜明ダムや筑後川上流の穏やかな景色に変わり、やがて屏風のように続く耳納連山を眺めながら筑紫平野を走り抜けます。

 

 

ゆふいんの森2号の車内から眺めた慈恩の滝。徐行するためしっかり見られます

 

 

日田を過ぎた夜明ダム付近では穏やかな風景が広がります

 

 

鳥栖貨物ターミナル付近を通過する時は、ED76形がけん引する貨物列車4083レが出発準備をしていました

 

 

 

久留米を過ぎて鹿児島本線に入ると、旅のエンディングのような雰囲気に包まれます。

 

由布院から2時間18分、豊後森からは1時間47分で終点・博多駅に着くと、乗客の多くが名残惜しそうに「ゆふいんの森」と記念写真を撮っていました。

 

 

久留米駅に入線するゆふいんの森2号=2月

 

 

博多駅に着いたゆふいんの森2号。下車した乗客が記念写真を撮っていました

 

 

 

以前、博多駅で出発前の「ゆふいんの森」を見たことがあり、多くの人々が足早に行き交うターミナルでここだけが異なる空気感で、乗客の高揚感が伝わってきました。今回図らずも乗車したことで、それを実感することができました。

 

「ゆふいんの森」は由布院までの乗車時間が約2〜2時間半と程よく、湯布院のまちと一体化したブランディングにより、なくてはならない列車に育っている印象でした。

 

運行開始から35年、今後も長く走って多くの人を楽しませてほしいものです。