ゴルゴ13に描かれたスシ海洋漁業大臣 ‐任期中に襲った悲劇とその後 | 知りたがりな日本人のブログ@インドネシア

知りたがりな日本人のブログ@インドネシア

日本語では検索できないインドネシア国内の話題を、雑談に使えるレベルで解説。

黒いサングラスにベレー帽、白ヒョウ柄のブラウス、違法漁船爆破の陣頭指揮をとる女性大臣。右足脛の入れ墨、ヘビースモーカー、しゃがれた声と豪快な人柄、威勢のよいところがカッコいい。ゴルゴ13のエピソードの一つに描かれたキャラクターのモデルといわれたことのあるスシ海洋水産大臣。

なんでも、メガワティ氏(ジョコウィ氏の所属政党の党首)とのお友達として、大統領になる前のジョコウィ氏と対面した時に、スシ氏が語った”これからの海洋水産行政に関する自論”について、同氏が関心を持ち、2014年に初当選を果たした時の第一次政権で、大抜擢に至ったという。

女性実業家として成功への道のりもユニークだ。高校中退後、故郷の港町で魚の行商からスタートして13年後、輸出用ロブスターの加工工場を設立、大都市の旺盛な需要にこたえて海産品を産地から直送するために、銀行からの借り入で購入したセスナ機一機から空輸業界へと進出、アチェの津波災害時での慈善活動をきっかけに、国内遠隔離島地域に定期便・チャーター便を提供する航空会社へと成長させた。

漁業という粗っぽい業界で培った知識と自信、業界を知りつくしビジネスの成功に裏付けられた大胆で合理的で柔軟な発想と決断力、学者や議員出身の指導者ではこうはいかない。

”わざわざ爆破しなくても転売すればいいじゃないか”というという政界大御所からのご意見にも決して動じなかった。拿捕した船を放置すれば、安く売買いされて再びすぐにも密漁に使用される。うわべだけの鼬ごっこを避けるためだ。

他にも、ロブスターの稚魚輸出禁止、環境を破壊する漁具の禁止、の大臣令を次々と発令。小規模漁業、海洋資源の保護に対する画期的な活動が認められて世界自然保護基金(WWF)から'Leaders for a Living Planet Awards'を受賞している。

これだけの人気と実績なのだから、2019年にジョコウィ大統領二期目続投が決まった時は、スシ氏も大臣を続投するものと期待されて当然だが、実はそれが叶わなかった。それならせめて彼女の方針を引き継いでくれる人物を後任にと思うがそれも裏切られる。

後任のE氏は議員出身で漁業とはかかわりのない人物。”よいものは継続し、よくないものは改善していく”という就任当初のコメントから嫌な予感がしたものだが、果たしてその通り、密漁船の取締りや爆破処理はたいした影響はないとして止めてしまい、環境破壊の漁具の使用も”必ずしも環境を破壊しない”という独自の判断で解禁する。

ロブスターの稚魚輸出禁止法(国内養殖業の育成を妨げる稚魚の乱獲・買いたたきを防ぐことを目的とする)についても、”禁止によって、実は漁師が損失を被っている”という独自の判断で、一定の業者に許可を発行し、輸出再開を推進するも、間もなく、その”許可”の発行に関する贈収賄罪で逮捕となる。就任からわずか一年後のことだった。

スシ大臣が大抜擢を受けたジョコウィ政権の第一次内閣と比べて、第二次内閣は疑問符のつく人選が目立つ。汚職で逮捕される大臣はこれまでで5人。スシ氏の画期的な改革をよく思わない権威筋からの圧力がかかってこうなったのか、またはやらかしそうな人物(政党幹部)を意図的に目立つ地位につけて、やらかしたら逮捕することで敵対勢力を弱体化させようとしているのか。

 

いずれにしても、良い変化も早いが悪い変化も早いということがまた一つ分かった(ジャカルタ州アホック知事のケースと同じ)スシ大臣の時代に、手厚く大切な扱いを受けていた小規模漁業者や海洋資源が、大臣が変わるや否や、大企業や外国企業に安く売り渡されてしまったようで悲しい。(E氏の次に就任した大臣によってロブスター稚魚の輸出だけは止められたようだが)

勇ましく活躍する姿で知られたスシ氏だったが、実は任期中にとても悲しいことがあった。それは、パイロット免許取得のためにアメリカに滞在していた長男(30歳)の突然死だった。持病もなく、健康であったのに、寝ている間に心臓発作を起こし、検死も許されなかったという疑惑に満ちた事件だった。

それでも訴えなど起こさず、その後も職務に専念していたスシ氏だったが、事件直後の会見で”わたしは国民のために一生懸命やっているのに何でこんなことになるの?”と涙ながらに放ったあの時の一言が忘れられない。

 

#Susi Pudjiastuti

Gambar oleh ErikaWittlieb dari Pixabay

  翻译: