地球温暖化対策EV車需要のお陰で、ここ数年インドネシアの森林破壊は一気に加速した。世界中のニッケル埋蔵量の二割が眠っているともてはやされたその場所は、中部スラウェシ島中部から、モルッカ海を挟んだハルマヘラ諸島(経度でいうと台湾、フィリピンの南側)にある。青い海とマングローブの森の美しい島々が並ぶ手つかずの自然が残される美しい島々だったところ。
本来は地元民が伝統的生活を営むための保護区域であり鉱山開発は許可されないはずだが、法律のすきまをついた事業許可の乱発により、あっという間に山々は消え、精錬工場が垂れ流す重金属を含んだ汚水により、水源や川の水は茶色く濁り、雨が降ればそれらは大量に海に流れ込むか、又は埋め込まれた違法な地下水路を通って直接海に排出されている。
ハルマヘラ南部のオビ島にまで、そのような精錬工場が操業をはじめたというのは、大変悪いニュースだ。世界の漁場を回遊するキハダマグロの67%が産卵の場にしているバンダ海が、この島に接しており、このままでいくと、世界のマグロの供給に影響が出るのも時間の問題と懸念されている。
国軍や警察によって島の近辺の出入りが厳しく監視されていて、報道陣が立ち入ることや写真撮影も制限され、開発に反対すれば即逮捕されるということもあり現地情報も極めて稀。監視の弱い南シナ海を通って中国本土から大型の船で労働者が運ばれたり鉱物が運び出されたりしているという噂もある。
鉱石のままの輸出を禁止し、国内で加工することで付加価値化、雇用の拡大を図るというジョコウィ大統領の政策(ヒリリサシ)の理想と現実。欧州から訴訟を受け拒否されたことで、中国への依存がより強くなった。23カ所ある精錬所のうち21ヶ所が中国資本だという。
事故が多発していることでも有名なスラウェシ島IMIP(モノワリ工業団地)2022年末の火災事故では、閉じ込められた作業中のクレーンオペレーター2名が助けを求める声をあげながら焼死(被害者の一人20歳の女性は、Tiktok動画の人気者だったことからたまたま情報が仔細に出回った)
その後インドネシア人従業員と中国人労働者の間の紛争があり、インドネシア人労働者が暴徒化、外国人の宿泊施設が焼かれたことについては報道されたが、その原因となった労働者のデモと、先の火災事故との関連については注目されなかった。罰金制や長時間労働などの待遇の改善だけでなく、消火器や防備具を、基準通りに支給してほしいという命がけの要求があったのだったが。
”工場があるお陰で地元の経済が潤っている。やっといい車に乗れるようになった地元商店主たちのことを考えろ” その時、元医師という地元の若手知事の、本音に違いない愚かな発言があったが、こういう態度は現地政治家に限った話ではなく、実は海洋・投資担当調整大臣をはじめ経済投資関連の大臣や政党幹部ら自身が、ビジネス当事者としてかかわっていたことが、暴露されつつある状況。
このような現状を踏まえて、環境問題・農業問題をテーマとする副大統領候補者の第四回目の公開討論会が行われたが、それはジョコウィ政権の闇の部分に焦点があてられる、核心的なテーマだった。法務分野の調整大臣でもあるマフッド候補は、現地で起こっていた問題や訴訟について実務の立場から解説。
資源開発は地元民の利益のため公平に、地元民の意見をとり入れて行わなければならないという法律が既にあること。政府執行機関や管轄当局が、裁判所の決定の執行を恣意的に無視し、いざとなれば異動などによって責任逃れしてしまうこと。効果的な解決策としてはコミットメントを持つ最高権力が、トップダウンで守らせる以外にないと主張。
宗教系政党の党首であるムハイミン候補も、地元住民を無視した開発について断固反対の立場。さらに、農業人口のほとんどが0.5ヘクタール以下の土地しか持たない零細農業である一方で、政治家との取引による特定の個人や企業が、広土な土地を占有していることについても批判。(因みに、ムハイミン氏の兄はエコプトロ村落大臣。目玉政策は、村落予算の増大。)
マフッド博士は、スカルノ政権時代の土地管理方式と、スハルト政権時代に定められたこれに矛盾する法律が存在することによって、抜け穴だらけになっていることを解説。そのような法律を一刻も早く整備することが必須であり、当選したならこれをやりたいのだ、と述べた。
ランダムに選ばれた質問カードに従って質問に答えていくこのセッションでは、このような二人間で議論が盛り上がっているのに対し、一人だけ全く話が噛まず独り相撲状態なのがギブラン氏。一回目の討論会の時と同じ、父親ジョコウィ大統領の声音を真似た偉そうな語調で、質問されたことと関係あるようなないようなわかりにくい答えばかり。そして、とうとう次のフリー質問セッションで自殺点をキメてしまうことになる。
”わたしの質問に答えていませんね”というムハイミン氏の応答に、一瞬ムッとした表情をあらわにしたギブラン氏は ”あなたこそカンニングペーパーを読んでるから私の話を理解できないのだ”と、かなり失礼なケンカ腰で答える。さらに、”どうせ○○氏の書いた原稿でしょ” と支持者の実名まで持ち出し、いじわるな姑のような捨て台詞。
そして、マフッド博士に対しては、使用してはいけないと司会者が念を押した(前回の討論会で大問題になった)アルファベット三文字の省略語を出して、”○○について説明して、博士なんだから知ってて当然でしょ”とくる。応援団からの不満の声が漏れ緊張する空気の中、それでも出来の悪い学生の質問に答えるような親切な説明で応答したマフッド氏。
制限時間のカウントが終わってカメラがギブラン氏に再び向けられる瞬間をやや噛んで、応援団席から一斉にブーイングの声が起った。ギブラン氏は、雲の上から何かを探す孫悟空のようなジェスチャーで、”私の質問に対するあなたの答えをさっきから探しているのですが、全然見つかりませんね…と言ってキョロキョロしてみせるという意味不明のパフォーマンス。
瞬時に”坊やヤバい” ”傲慢すぎ” ”愚か者” のハッシュタグが急上昇。正面からの議論を避けたい気持ちはわかるが、なんと子供っぽい行動だろう。大統領選挙に出馬する資格の一つである40歳以上という制限は、やはり理にかなったものであるということを、自らの行動によって証明してしまう。後日、ギブラン氏の学生時代の社会の成績が、特別優秀でもなんでもなかったことがネット民によって曝されてしまうことになるが、それも自業自得だ。
もう一つ重要なキーワードとなったのが、フードエステート(大規模農園)プロジェクト。国家食料防衛対策だからということで、農業省でなく、何故か国防省大臣プラボウォ氏が指揮をとった。オラウータンの生息する中部カリマンタン島の森林を伐採して切り開いた広大な土地に、六百ヘクタールの畑にキャッサバ芋、一万七千ヘクタールの水田に稲を植えるも、栽培失敗で全滅。
”土壌に合わないから育たないに決まってる” 地元民を無視した政府による一方的な開発が失敗の原因だと言われているが、政府は失敗を認めようとしないばかりか、再び予算をかけて別の場所でそだてたトウモロコシを運んできて見栄えをよくしようとしているのにはあきれてものが言えない。じつは、パプア州の森林にも同じように伐採される計画があり、緊急にレビューが必要な案件だ。
これについてギブラン氏は”どんなプロジェクトでも成功するには時間がかかる。失敗ではない”と力説、クロージングトークでは、ニッケルの次は海産、農産、の分野でもヒリリサシを推進しなければならない、農業はメカ二サシ(農業の機械化)を進める、ヌサンタラ首都移転も大切だと付け加え、経済政策がテーマの時に言っていたのと同じ内容を再び、例の口調で得意げに語り終えた。
実際、このクロージングスピーチが彼の決定的なオウンゴールになった。他の二人の論者が、政府の押しつけによる経済政策が、地元民に福祉向上もたらすどころか災害でしかなかったことを前提に展開した議論をまるで無視して、ヒリリサシ政策を、さも素晴らしいもののように、繰り返し強調するという無神経さは、まるで偏った情報をインプットされたAIコンピューターから出た回答のように非人間的で薄気味悪く、後味の悪いものだった。
プラボウォ・ギブラン組のアピールする現政権の路線継続とは一体どういうことなのか、この討論会において包み隠さず、ありのままをさらけ出してしまった。アンケート調査では相変わらず一位と言われているが、この討論会の影響は決して一時的なものではない。その後なんとか盛り返そうと、様々な試みが行われたがかえって裏目に出ているようだ。
元米国留学生同窓会の集会でのエリック国有企業大臣の兄(アダロエナジーインドネシア社長)が、”この国の経済の三分の一を占める会場の皆さまで力を合わせて、一回戦で勝利を勝ち取りましょう”とあいさつしたに過ぎないのに、その時社名を出されたジャルム社とサンプルナ社の株が下がったという話はかなりリアルな反応だ。
息子の人気が下がれば、ジョコウィ大統領はさらに忙しく地方を回って貧困者支援物資を配る。ついに大統領宮殿の前に物資を並べて立ちんぼまで。そしてプラボウォ国防相とお揃いの帽子とジャケットで一緒に軍の式典に参加した際、”大統領も大臣も選挙活動してはいけない決まりはない”と公言し、大問題になった。
マフッド博士は、以前からの宣言通り、倫理を守るため自ら手本を示すとして、1月末で調整大臣を辞任。学術界の大御所大学教授らも署名を集めて大統領が特定の候補者のために選挙活動をしていることや中立でない発言があったことに対して抗議する。先日になって、大統領は”法律的には決まりがないけれど私はやらない。やっていない”と後から否定する形にはなってはいるが。
”縁故主義反対” ”ジョコウィ大統領退任”を求めた学生のデモはそのような不信感の表れであり、万が一投票結果が国民の意志に反して不正によりひっくり返されるようなことがあるならば、大混乱になるかもしれない雰囲気がある。(どうかそんなことにはならないよう)
しかし振り返ってみれば、過去二回のジョコウィ対プラボウォ戦のときも、黒組がボロばかり出して、ズルもやったが、結局は、国民の支持する白組が勝利するというパターンで来ているのだから、その時のように、予測に反してあっさりと1回の選挙でおさまる可能性も無きしもあらず。
日本語メディアでは全く別の視点で取り上げられているようです。
# Eksploitasi Nikel China di Pulau Obi
#IMIP Kecelakaan
#Food estate gagal
#Debat wapres ke 4