9月11日の世界貿易センター爆破事件など、数々の出来事を的中させたということで知られるアメリカのテレビアニメ、シンプソンズのシーズン6エピソード16で、バートが地球儀を回すと、オーストラリアの北側に、ボルネオ島とスラウェシ島をくっつけたような大きさ、形の島が描かれており、インドネシアではなく”シンガポール”と書かれている。
このことが国内で話題に上ったのは、昨年6月にシンガポールで開催された環境関連投資の国際会議「エコスペリティー」での講演で、ジョコウィドド大統領が、”シンガポールは家賃が高いでしょう?空気のきれいな、インドネシアの新首都ヌサンタラに住んでください”と発言したこと。
大統領は、ヌサンタラに大型の投資を呼び込むために、法人税、所得税も10年間無料待遇を与えて、投資家を呼び込もうとしていた。それでもまだ一件も決まっていないので追加で最長190年間の使用権まで付与するという。土地を取り上げられた地元住民は勿論、このプロジェクトに利害関係のない国民の全てにとって、これほど無茶苦茶で寝耳に水な政策は聞いたことがない。
インドネシアでは、2022年から消費税が10%から11%に上がり、来年また1%上がることになっている。統領選挙期間前後から始まった生活必要物資の価格上昇とルピア安、政府官僚の汚職のせいで優良な事業家は次々と撤退、倒産が相次ぎ、学費も値上げ。学校にも行っていない仕事にもついていない20代の若者が激増していることが社会問題になっている最中、新首都ヌサンタラへの移転問題は今最も熱くセンシティブな話題。
現在工事中の省庁エリア6596ヘクタール(薄ピンク色)について、政府が予定していた独立記念日8月17日前までの国家機関の一部移転開始について、延期となることが先月発表された。ビジネス街エリア56181ヘクタール(薄緑色)、開発エリア256,142ヘクタール(薄オレンジ色)に、投資を募っている。
ジャカルタの4倍、東京23区の6倍、シンガポールの3.5倍の面積、山を切り開いた広大な土地に、ゼロから都市を建てるという壮大なプロジェクト。元々は、既存の都市を拡張する形で首都を移転するという話だったのに、パンデミック騒ぎのどさくさの中で可決され2022年に着工。当時、総予算は466兆ルピアのうち政府が負担するのはたったの20%だけで、その他は喜んで投資する民間投資家(外資)がいくらでもいるのだから、心配はいらないという話だった。
ところが蓋をあけてみれば、外資は集まらず、20%だけだといっていた国家予算は、既に9割近く(85兆ルピア)が投入済みだが完成はまだまだ。建設府は来年さらに30兆ルピアの追加予算を要請しているが、ジョコウィ大統領の任期は10月までで、次の政権が引き継ぐかどうかは未だ定かでない。
ウォールストリートジャーナルもインドネシアの新首都移転に懸念を表している。
丘の上で背後から囲むような国鳥ガルーダを形どったという巨大な大統領オフィスがいつみても薄気味悪い。
ヒットラーが戦争中でも建設を止めなかった都市ゲルマニアに雰囲気が似てると言う人もいる。
そして、見た目重視の無理な工事日程。
予算もギリギリの中、新首都の建設こそが環境破壊の元凶になっている。
開庁は延期になったが、独立記念日の式典開催に向けて、
毎日、セスナ4機で24時間空中から雲に塩を散布する方法で降雨を止めて工程の遅れを防ぐという。
これでは予算がいくらあっても足らなくなる。
日程重視のため、こういう問題は後回し
建設に反対した農民が、警察に髪の毛を剃られるという事件があった。
人権団体が抗議したが、警察も建設府もSOP通りだとして謝罪なし。
これらの悪事が発覚するまでは、国民の80%から支持されていた大統領。
有名人を招いて一緒にオートバイで移動という、得意のイメージ戦略のつもりが裏面に。
税金の無駄遣い。地元住民も招待しろ。あいつら金持ちなんだから自費で行かせて投資させろと批難殺到。
5年前、スラウェシ島Petoboで、地震、津波、液状化現象による泥が住宅密集地を襲い、
押し流された住宅とともに何千人もの人が死亡・生き埋めになった。
政府は、地震発生後から2週間で大規模捜査を止め、
現場は今もそのまま放置されている。
I Survived Being Buried Alive in the Slawesi Earthquake
乱開発のお陰で、自然災害の脅威にさらされている地域はここだけではない。
対策をとるどころか、このような大惨事の経験の後も、地元住民の意見を無視した危険な開発を、
ゴリゴリ推進している政府に、エコやスマートシティを名乗る資格はない。