雨がシトシトと降り続く梅雨の午後、男はバイクに乗り、ずぶ濡れになりながら出勤していた。線状降水帯の影響で、通りの視界はぼんやりと霞み、滑りやすい路面が不安を掻き立てる。カッパと長靴に身を包み、マンホールの上を避けるように慎重に走る。

ふと、前方の歩道に見慣れた影が見えた。友人のバイク仲間だ。しかし、その姿は何か異様だった。男はバイクを停め、彼に近づく。彼はヘルメットを被ったまま、動かない。近寄ってみると、彼の体が微かに震えていることに気づいた。

「大丈夫か?」男が声をかけると、友人はゆっくりと顔を上げた。その瞳は恐怖に見開かれ、何かを必死に伝えようとしていた。しかし、言葉は出てこない。男は彼の目線を追い、近くのマンホールに目を向けた。

マンホールの蓋が少しずれており、そこから僅かな煙が立ち上っていた。雨水が流れ込む音とともに、何かがうごめく音が聞こえてくる。男は直感的にその下に何かがいると感じ、警戒心を強めた。

友人の指が震えながらマンホールを指し示す。「何かが…」彼の言葉は途切れ途切れだったが、その意味は十分に伝わった。男は近くの鉄パイプを手に取り、マンホールの蓋を慎重に持ち上げた。

蓋を開けた瞬間、下から異様な臭いが立ち込め、視界に何かが飛び込んできた。それは一匹の巨大な蜘蛛だった。蜘蛛は水を嫌っているのか、マンホールの中で必死にもがいていた。しかし、その動きには不自然な速さと力強さがあり、ただの生物ではないと感じさせた。

男はすぐに蓋を閉じ、友人を連れてその場を離れた。雨の音が二人の呼吸をかき消す中、友人はようやく口を開いた。「あれは…ずっと前に都市伝説として聞いた…巨大蜘蛛の目撃情報だ」

男は友人の話を聞きながら、あの異様な光景を思い出し、鳥肌が立った。都市伝説が現実になったのか、それともただの幻だったのか。真実は闇の中に消え、男の心には謎が残ったままだった。