エミリエ・マイヤー:弦楽四重奏曲 ト短調 作品14 | 室内楽の聴譜奏ノート

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室内楽の歴史の中で忘れられた曲、埋もれた曲を見つけるのが趣味で、聴いて、楽譜を探して、できれば奏く機会を持ちたいと思いつつメモしています。

Emilie Mayer : String Quartet in G Minor, Op.14

 女性のほうが男性よりも頭脳明晰なのかもしれない。ある大学入試でテストの結果だけから合格者を決めていくと女性の比率が高まるということで、男女別の定数枠などで調整したことが露見したケースがあった。今でも騒がれないだけで、基準は曖昧のままかもしれない。実社会では男女の性徴の違いが身体能力に反映されるのだが「男が優り女が劣る」という安易な考え方は改めるべきなのだろう。
 女と男が対等に競争する場というのはあまり思いつかない。スポーツではほとんど男女別だし、囲碁将棋でもそうだ。しかし音楽の分野、ピアノや楽器のコンクールではジェンダーに関係なく参加者が技量や表現力を競っている。それは単なる合奏の場でも同じで、互いが楽器を持った個体であり、魂であるという意識以外に、メンバーが男だから女だからと識別する意識を持つことはあまりない。それはいつも不思議に感じている。


 

 だがそれが作曲の分野となるとガラリと変わる。音楽史的には男女不平等が続いていた。優れた作曲をしても女性だからというだけで軽視または黙殺された。ロマン派中期世代のエミリエ・マイヤー(Emilie Mayer, 1812-1883) も豊かな感性を持ちながら教育の機会を得られなかったが、作曲を教えたカール ・レーヴェは彼女の才能が並外れたものであると考え、ベルリン行きを勧め、彼女は当時音楽理論と作曲法の第一人者だったアドルフ・マルクスに師事しながら作曲家として活動した。彼女の多くの作品の中には、交響曲8曲、ピアノ協奏曲、ピアノ三重奏曲6曲、ピアノ四重奏曲2曲、弦楽四重奏曲7曲、弦楽五重奏曲2曲、ヴァイオリン・ソナタ7曲、チェロ・ソナタ12曲などがある。


 この弦楽四重奏曲ト短調は、彼女が生前に作品番号を付けて出版した唯一の四重奏である。初演と楽譜の出版は1858年だが、作曲年代は彼女の30代(1840年代)の頃と思われる。初演されたときは好評だったが、彼女が男性だったらおそらく名曲として記録されたかもしれない。今改めて聞いてもメンデルスゾーンやシューマンに匹敵すると思う。シューマンの弦四(1842)とはほぼ同時期にあたるが、作風としては古典派後期の土壌に直接芽生えたロマン派的表現の初々しさを感じる。これは優れた女性作曲家による歴史的に重要な作品であるだけでなく、第一級の作品として十分に通用する。

 楽譜は IMSLP で初版譜とともに新たに作譜されたスコアとパート譜を参照できる。
String Quartet in G minor, Op.14 (Mayer, Emilie)


 米国の室内楽出版社シルヴァートラスト (Edition Silvertrust) でも販売している。
Emilie Mayer : String Quartet in g minor, Op.14


第1楽章:アレグロ・アパッショナート
String Quartet in G Minor, Op.14: I. Allegro appassionato

                        Klenke Quartet        

 アウフタクト(弱起)で第1ヴァイオリンの奏でるとても印象的な旋律はト短調の憂いに満ち、恨みがましく、思いの丈を吐露するようだ。誰もいない部屋の片隅で嘆息している姿も想像する。どこか日本の演歌風な曲調にも似て、妙に心に響いてくる。


 第2主題は第1ヴァイオリンとヴィオラで変ロ長調で明るく歌われる。展開部に入るとモティーフの掘り下げの深さに手ごたえを感じる。


第2楽章:スケルツォ、アレグロ・アッサイ
String Quartet in G Minor, Op. 14: II. Scherzo. Allegro assai

                         Pavilion String Quartet    

 ハ短調でありながらも軽快なスケルツォ。メンデルスゾーンのスケルツォとの同時代性を感じるが、辛口の引き締まった音調にはちょっと驚く。


 中間部トリオは変イ長調に転じ、のどかな牧歌調の歌。


第3楽章:アダージォ・コン・モルタ・エスプレッシオーネ
String Quartet op.14 - III: Adagio con molta espressione

           Kraggerud(vn1), Melhus(vn2), Aukner(va), Bilsbak(vc)

 関係調変ホ長調。伝統的なドイツ古典派の響きがするが、ロマン派的な高揚も織り込まれている。


 テーマの進行の中にバッハのコラール「愛する御神にすべてを委ね」(Wer nur den lieben Gott läßt walten) BWV93 が入り交じる。ブルックナーや20歳年下のブラームスを予見させる味わいがある。重厚な構成は見事と言うしかない。終結部はベートーヴェンの神々しさに近づいている。


第4楽章:フィナーレ、アレグロ・モルト
String Quartet in G Minor, Op. 14: IV. Finale. Allegro molto

                             Erato Quartet                    

  冒頭からかなりエネルギッシュな応答で始まる。このモティーフはかなり強烈で楽章全体を支配する。


 第2主題も有機的に各パートが絡み合う動きを見せるが、息抜きの経過句にしか聞こえない。がっちりした骨組みはやはり圧巻としか言いようがない。
 

 

 

 

 

 

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