グリンカ:悲愴三重奏曲 二短調 | 室内楽の聴譜奏ノート

室内楽の聴譜奏ノート

室内楽の歴史の中で忘れられた曲、埋もれた曲を見つけるのが趣味で、聴いて、楽譜を探して、できれば奏く機会を持ちたいと思いつつメモしています。

Glinka : Trio Pathétique en ré mineur pour clarinette, basson et piano

 今のロシア国民はなぜ侵略戦争を平気で支持し続けるのか?という素朴な疑問に対しては、単なる情報操作による結果だけなのかと頭を傾げるしかないのだが、しかし歴史的に見れば少なくとも80年前の日本でも国民のほとんどが同じような思考に囚われていたことを思い起こす。

 朝日新聞のネット記事に、
論座:新聞は戦争を止められるのか 昭和戦前期の教訓に学ぶ 保阪正康さんインタビュー
というのを見つけてざっと目を通したが、昭和の戦前期・戦中期の20年間には日本でも好戦論への世論の高まりを見せ、メディアですら「経営収支上の要因」も含めて戦争加担への道になだれこんで行ったことを改めて知った。それは同時期のドイツやイタリアの国民も揃って指導者への熱狂的な支持を表明していたのと同じことなのかも知れない。今の私たちはその時代のことを「歴史の恥部」であるかのようにすすんで触れようとはしていない。

 

 ロシアのロマン派作曲家グリンカ (Mikhail Glinka, 1804-1857) は富裕な貴族の家に生まれた。モスクワやワルシャワでピアノを学んだ後、20代の後半にはイタリアへ遊学し、室内楽曲やピアノ曲を旺盛に作曲した。その中で一番知られているのが「悲愴三重奏曲」である。1832年に作曲され、グリンカ自身のピアノとミラノ・スカラ座歌劇場のクラリネットとファゴット奏者によってその年のうちに初演された。 
 原曲はピアノ、クラリネット、ファゴットの三重奏だが、出版にあたっては一般的なピアノトリオの編成、つまりピアノ、ヴァイオリン、チェロでも演奏可能となっている。この自由度から、現在は多様な組合せでの演奏が行われていて興味深い。

 

楽譜は IMSLP にロシアのユルゲンソン社版が収容されている。
Trio pathétique (Glinka, Mikhail)
出版社情報    Moscow: P. Jurgenson, n.d.(ca.1878).
その表紙の片隅にグリンカはフランス語で下記のような言葉を載せている。
« Je n’ai connu l’amour qu’à travers le malheur qu’il cause.»
「私は恋愛が引き起こす不幸を通してしか恋愛を知らなかった」
 全体的に感情の起伏に富んだロマン派的なこの曲は、グリンカ自身のほろ苦い経験を彷彿とさせるもので、最初から「悲愴」のタイトルが付けられていたようだ。



第1楽章:アレグロ・モデラート
Glinka Trio Pathetique in D minor for piano, violin and bassoon. 

J. Lagerspetz (pf), B. Bowman (vn), E. Boudreault (fg)
編成:ピアノ、ヴァイオリン、ファゴット
各楽章ともかなり短いもので構成されており、最初の 3 つの楽章はアタッカで(切れ目なしに)演奏される。 幻想曲風の味わいも感じる。

 冒頭の雷鳴のようなユニゾンのモティーフに緊張感が高められる。


 続いて語り出すテーマは悲しみを含んでいる。これが曲全体の中心的なモティーフになっている。


 第2主題のファゴット(チェロ)のソロは気分を落着かせる。


 それに続く右手で高音域を流れるピアノの語り口は多弁で細やかだ。


第2楽章:スケルツォ、ヴィヴァーチッシモ
Trio pathétique in D Minor: II. Scherzo. Vivacissimo

Consortium Classicum
編成:ピアノ、クラリネット、ファゴット(原曲通り)


 軽やかなスケルツォで、ピアノが高音域を含めて駆け回る。


 中間部ではセレナード風のファゴットの旋律が際立っている。


第3楽章:ラルゴ
Glinka: Trio pathétique in D Minor - III. Largo

Daniel Ottensamer(Cl 兄) · Stephan Koncz(Vc) · Christoph Traxler(Pf)
編成:ピアノ、クラリネット、チェロ

 冒頭からイタリア・オペラ風の伴奏音型がピアノで奏でられる。アリアのようなテーマにはベルカントの響きがあり、最初にクラリネットによって始まり、次にファゴット(チェロ)に続き、その後ピアノへと歌い継がれる。 

 

 

第4楽章:アレグロ・コン・スピリート
Trio Pathétique in D Minor: IV. Allegro con spirito

Trio Clarino
編成:ピアノ、クラリネット、ファゴット(原曲通り)


 まず第1楽章の最初のテーマが回想される。


 続くパッセージも第1楽章の第2主題の変型で、切迫感のある悲壮さに満ちて心を打つ。


※一般的なピアノトリオの編成での歴史的音源を参考までに掲示する。
Glinka - Trio pathétique 

Oistrakh(Vn) / Knushevitsky(Vc)) / Oborin(Pf)
編成:ピアノ、ヴァイオリン、チェロ
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ にほんブログ村 クラシックブログ 室内楽・アンサンブルへ

  翻译: