【内心の発露】メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲 第2番 イ短調 作品13 | 室内楽の聴譜奏ノート

室内楽の聴譜奏ノート

室内楽の歴史の中で忘れられた曲、埋もれた曲を見つけるのが趣味で、聴いて、楽譜を探して、できれば奏く機会を持ちたいと思いつつメモしています。

Mendelssohn : String Quartet No.2 in a-minor, Op.13

 あの大変だった心臓手術&入院生活からようやく一年になる。一時は集中治療室で酸素マスクを当てがわれても呼吸がとても苦しく、このまま死ぬのかと覚悟したこともあったが、なんとか生き永らえたことはやはり有難い。たとえ今の体力が半人前であっても生きていることは楽しい。
 自分が死ぬときの希望が叶うなら、①夜が明けたら死んでいた、②寝落ちと見えたが死んでいた、つまり「眠るように瞬時に死んで」行ければ最高だなと思っている。
 そして転生の謎。これは間違いなくあると信じるのだが、「ふと気づいた時には生まれていた」という根本的な自己感覚がある。自分の息子が5歳の頃に「ボクどうして今ここにいるの?」と問いかけてきたことを忘れもしない。誰もがそうして気づき、不思議に思い、今の生を生きることに悩み始めるのだ。

 

 メンデルスゾーンが弦楽四重奏曲を書き始めたのは14歳からだが、この第2番の方が作曲年代としては第1番よりも若く、18歳の時だったという。彼は生涯を通して7曲の弦楽四重奏曲を残している。彼は裕福な家庭に生まれ、生活苦などとは無縁の幸福な人生を送ったためか、メンデルスゾーンの音楽と言えば、全般的に曲想に不安や苦悩を感じさせない、明朗で平穏無事な響きに満たされているように思われている。しかし彼の弦楽四重奏曲のジャンルに関しては意外なことに、激情の発露や、内面の苦悶を生涯を通して表現しようとしていたように感じられてならない。室内楽仲間の一人は「音符の数が多過ぎること、つまり饒舌であること」を指摘していた。別のヴァイオリン奏者は「青年期から高い完成度を示していて、年齢を重ねた後の作品でも老成した印象を与えない」と評していた。もちろんベートーヴェン以降のロマン派の室内楽の重要な継承者であることは否めない。
 

 

第1楽章:アダージォ~アレグロ・ヴィヴァーチェ
Mendelssohn: String Quartet No. 2 in A Minor, Op. 13, MWV R22 - 1. Adagio; Allegro vivace

                Quatuor Ysaÿe


 穏やかなイ長調の序奏部。最初のアウフタクトは八分音符の短いもので、次のアウフタクトは3拍目の四分音符たっぷりに入るのとの微妙な違いがある。


 メンデルスゾーンのこの曲には、1つのパートにロングトーン(長音)で音を響かせて残す個所が所々で出てくる。印象的な効果を感じる。


 主部に入ると突然荒々しい動きが始まる。


 悲痛なイ短調のモティーフがヴィオラから次々に他のパートに伝播する。


 一般的には第2主題は対照的に穏やかな空気を持っているはずだが、この楽章では第1主題の気持を受け継いだまま、息も継げそうにない疾走感に満たされている。チェロが最初に提示するのだが、テーマが切迫していて、いつも歌いにくいと思う。第1楽章は悲壮さに満ちている。


第2楽章:アダージォ・ノン・レント~ポコ・ピゥ・アニマート
Mendelssohn: String Quartet No. 2 in A Minor, Op. 13, MWV R22 - II. Adagio non lento

                Emerson String Quartet                  

Beethoven  SQ "Serioso" Mov,2

 冒頭はヘ長調の穏やかで誠実な響きで始まる。これは第1楽章の序奏部と共通する雰囲気がする。続いて二短調風の寂しいテーマがヴィオラから始まる。これはベートーヴェンの弦楽四重奏曲第11番「セリオーソ」の第2楽章のテーマを連想させる。


 中間部ははやる気持ちの心の鼓動を表わす低弦の刻みに乗って、第1ヴァイオリンが憧れと不安の混じり合った旋律を歌う。メンデルスゾーンのスタイルはここでもすでに確立していると思う。


第3楽章:間奏曲、アレグレット・コン・モート~アレグロ・ディ・モルト
Mendelssohn: String Quartet No. 2 In A Minor, Op. 13, MWV R22 - III. Intermezzo: Allegretto con moto

               Tinalley String Quartet

 童謡というよりも民話を物語るような足取りを感じる。イ短調なのでどこかに侘しさが含まれている。ここでもヴィオラの長音(ロングトーン)の響きがある。


 中間部はスケルツォ風の軽快でおどけたパッセージ。真夏の夜の夢の妖精たちを予見する。

 
第4楽章:プレスト
String Quartet No. 2 in A Minor, Op. 13, MWV R22: IV. Presto

                 Quatuor Ébène

 悲劇的なトレモロの強奏から始まり、第1ヴァイオリンにオペラのレチタティーヴォ(叙唱)のような嘆きの語りが続く。

Beethoven SQ No.15 Mov.5

 ちょうどこの作品の2年前にベートーヴェンの弦楽四重奏曲第15番が発表されており、そのレチタティーヴォ付きの終楽章の作りを模刻したかのようにも思える。波打つような低弦のリズムも焦燥感に駆られるようだ。


 いかに当時18歳の青年と言えども、単なる模倣と切り捨てるには忍びない驚異的な完成度なのだ。ここの譜例のパッセージも完全なメンデルスゾーン節になっている。


 終結部になると、記譜上は4倍の長さになるが、第2楽章で出た「セリオーソ」に似たテーマをゆっくりと回想して盛り上げる。最後は第1楽章の冒頭の序奏に戻り、青年の夢想をしめくくるように静かに終わる。
 

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