グリンカ:大六重奏曲 変ホ長調  | 室内楽の聴譜奏ノート

室内楽の聴譜奏ノート

室内楽の歴史の中で忘れられた曲、埋もれた曲を見つけるのが趣味で、聴いて、楽譜を探して、できれば奏く機会を持ちたいと思いつつメモしています。

Glinka : Gran Sestetto in E♭major

 室内楽の会に精力的に参加していた頃を思い出すと、場合によっては一発勝負のような鮮烈な演奏を経験したなと覚えている曲が少なくない。このグリンカの曲もその一つだった。その年の秋のシーズンは、普段使っている駅前の貸スタジオが工事で使えなくなったので、コネを頼って某音大のリハーサル室を割安で使わせてもらうことになった。学生のいない日曜日だったからかもしれない。
 曲の選別とメンバーの選定は世話役におまかせもできるのだが、「この曲ならこの人とやれたらいいな」と思ったら、ある程度事前交渉で固めることが必要になる。このグリンカの曲を見つけたとき、これはあの人に合いそうだと直感した腕の立つ女性ピアニストRさんに思い当たった。いわゆる名曲だけでなく、珍しくて面白そうで楽しそうな曲に積極的に挑戦したがる人で、その心意気に惹かれて、「この曲をエサとして放ったら食いついてくるかな」と誘いのメールを送ると、早速乗ってきてくれた。それから普段なかなか出てこないコントラバス奏者のH氏に「泣き」を入れて、メンバーが固まった。当日はサロンの大広間を思わせる練習ホールに、手の空いた聞き役の数人がいるのみで、のびのびと演奏できて満足だった。

 

グリンカ (Mikhail Glinka, 1804~1857) は裕福なロシア貴族の家柄で、20代にはイタリアやドイツに遊学し、芸術家たちとの交友を深めた。この時期には室内楽的な作品を多く残している。このピアノ六重奏曲もその一つで、1832年、彼の28歳の時の作曲、ピアノ+弦楽四重奏にさらにコントラバスが加わった六重奏という贅沢な編成で、特に絢爛豪華なピアノの活躍が目立つ曲でもある。

楽譜は IMSLP に複数の版元からの譜面が収容されている。
Grand Sextet (Glinka, Mikhail)
また独Kunzelmann社からも市販されている。


第1楽章:アレグロ
Grand Sextet in E-Flat Major: I. Allegro

    Prazak Quartet · Lukáš Klánský(Pf) · Pavel Nejtek(Cb)

 堂々とした開始のモティーフがピアノ独奏で始まるが、すぐに弦楽全体が応答する。この2小節目の4拍目から音をタイで伸ばして次の盛り上げを強調する歌い方が気に留まる。グリンカの話法の一つかもしれないが、他の場所でも出てくる。コントラバスが加わった弦5部の重量感は大きい。


 続いて最初のテーマが出るが、これもピアノが先導し、やはり4拍目から次の拍頭を強調するように同じ音を前倒しで確保している。やはりグリンカ節なのだろうか。


 次はそのテーマの変形のような経過的メロディがチェロから始まり、ヴァイオリンに受け継がれる。ピアノの右手の和声の刻みは単純だが、耳に快い。


 この楽章もピアノが主導的な役割を占めている。特に右手のオクターヴ奏法で超高音部をきらびやかに掻き鳴らす動きは華麗な響きになる。ロマン派のショパンやリストのピアニズムを先取りしたような音の広がりを感じる。


第2楽章:アンダンテ
Grand Sextet in E-Flat Major: II. Andante

        Ulrike Payer(Pf), Fabergé Quintett


 冒頭からピアノがソロで水滴が跳ねるようなアルペジオで和声を奏でる。グリンカの節回しは明快で脳裏に刻まれやすい。


 抒情的なモティーフがチェロと第1ヴァイオリンとの間で歌い交わされる。妄想の一例では、月の光に照らされた夜の湖面を恋人たちのボートが静かに進む場面など…


 中間部ではピアノの切れたリズムの伴奏の上に第1ヴァイオリンが憂いを秘めたメロディを歌う。


第3楽章:アレグロ・コン・スピリート

MICHAEL GLINKA - Grand Sextet , Mouv 3 - Allegro con spirito

   Tatiana Primak Khoury(Pf), Quatuor Musique del Tempo

 第2楽章からアタッカで突入する。荒々しいピアノの半音階的な序奏からポルカ風の2拍子のテーマが始まる。ここでもオクターヴ上の高音域でピアノの右手が絢爛豪華なパッセージを繰り広げる。


 途中でチェロを中心とした弦楽部で、ニ短調風の流れるような新しいテーマが奏される。全体的にピアノに圧倒されながらも合奏する楽しさと緊張感を実感できる名曲だと思う。

 

 

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