アントン・ルビンシテイン:弦楽四重奏曲 第2番 ハ短調 作品17の2 | 室内楽の聴譜奏ノート

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室内楽の歴史の中で忘れられた曲、埋もれた曲を見つけるのが趣味で、聴いて、楽譜を探して、できれば奏く機会を持ちたいと思いつつメモしています。

Anton Rubinstein : String Quartet No.2 in c-minor, op.17 no.2

 いよいよ断捨離する物が少なくなってきた。先日も(最後から2番目に?)大事にしていた蔵書や楽譜類を買取に出そうとした。しかし・・・これらの立派な書籍を所蔵していたというプライドはズタズタに砕かれる始末となった。「古書高価買取」とうたう格調高いネット広告を張る古本屋からは「洋書は売れないので買取はお断りします」と立て続けに拒否されたのだ。それでもやっと他の一軒の店から買い取ってもらうことになった。玄関に段ボール箱を積んで待ち構えた。結果は散々だった。
 ひと昔には「チリ紙交換」という業者が横行していて、古新聞・古雑誌はそれに出していたが、もっと昔の頃には「1キロ〇円」で買ってもらえたという。今回もそれと同じで中身はどうであろうと「キロ10円程度」の査定となった。つまりは「紙ゴミ」なのかと、さすがに愕然とした。故買業者はこうでもしなければ儲けが出ないのだろうか。書物の価値観は金銭とは結びつけて考えるべきではないのだとつくづく思った。
 

 

 チャイコフスキーの恩師でもあったアントン・ルビンシテイン (Anton Rubinstein, 1829~1894) はサンクトペテルブルク音楽院の創立者でもあったのだが、作曲家としての音楽史上の存在感はなぜか稀薄だった。若い頃に作曲技法を身につけたのがドイツ圏であり、特にメンデルスゾーンからの影響が大きかった。彼自身の手記でも「ドイツではロシア人と言われ、ロシアではドイツ的だと批判され」とあり、五人組のようにロシア風の音楽を明確に取り入れようとしない「西欧派」として嫌悪されたからだと思われる。交響曲、協奏曲に加え、室内楽曲も多く残しているが、最近やっと再評価され始めたように思う。

これまで一番親しまれてきた彼の作品は「へ調のメロディ」かもしれない。
Rubinstein Mélodie In F

 

 

 弦楽四重奏曲は少なくとも6曲は出版されている。この第2番は作曲年代としては一番若い23歳の頃、1852年と見なされている。ロマン派中期、特にメンデルスゾーンの語法に似ていて、情熱的かつ優美な曲に仕上がっている。(メンデルスゾーンはこの5年前1847年に急死している)

 楽譜は IMSLP に独ブライトコップ社の初版でパート譜、スコアが収容されている。
String Quartet No.2, Op.17 No.2 (Rubinstein, Anton)
Leipzig: Breitkopf und Härtel, n.d. Plate Part.B. 1274.


第1楽章:モデラート
Anton Rubinstein String Quartet Opus 17 No. 2

      Escher String Quartet

 冒頭はチェロからの古典的なフーガの主題で始まる。定石通りにヴィオラ、第2ヴァイオリン、第1ヴァイオリンへと伝わっていく。


 冒頭のモティーフが低音部で維持される上に、本題のテーマが第1ヴァイオリンの強奏で提示され、木枯らしに落ち葉が舞うように下降形の3連音符のパッセージが続く。


 第2主題は第1ヴァイオリンの中音域で、控えめながらも流麗で、内声部の息の合ったシンコペーションの伴奏が引き立て役になっている。


第2楽章:アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェ
Rubinstein String Quartet Opus 17 No. 2 II. Allegro molto vivace

        Reinhold Quartett 

 表記はないが典型的なスケルツォで、メンデルスゾーン直伝を思わせる。最初は頭拍がなくガサガサと始まるので、リズムを聞き取るまで混乱するが、それも混迷⇒整然のプロセスの効果を狙っている。途中でのヴィオラの独自の動きとの掛け合いも妙味がある。


 中間部は諧謔さがさらに増して、チェロがスッテンコロリンと滑る動きを模して愉快になる。


第3楽章:アンダンテ
String Quartet No. 2 in C minor Op.17, III 

      The Royal String Quartet Copenhagen

 この楽章は単独でヴァイオリン四重奏の小品に編曲されて「球体の音楽」(Sphärenmusik) と題されている。「球体」の意味が不明なのだが、何か劇の付帯音楽か間奏曲だったのかもしれない。全体で弱音器を付けたひそやかな響きで、ドイツの少年聖歌隊の祈りの歌のようにも感じられた。

 
第4楽章:モデラート
Rubinstein String Quartet Opus 17 No. 2 IV. Moderato

        Reinhold Quartett 

 これも猛然とした情熱にあふれたテーマが第1ヴァイオリンによって2拍目から奏でられる。他のパートは強奏のトレモロでハ短調の和声を刻んでいく。思わず引き込まれるが、実はこのテーマは1980年代に英国のTVドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」の主題曲と酷似しているのだ。ヴァイオリンを余技とするホームズならではの神経質な憂いを秘めた名曲なのだが、それはこの楽章にとっても魅力になっている。確かにこれはロシア的というよりも西欧的なのだ。


 第2主題は平穏な優しさと美しさに満ちている。ここでもチェロとヴィオラが独自の装飾を添えていて、曲を豊かに盛り上げている。


※参考:「シャーロックホームズの冒険」のテーマ曲
Générique - Sherlock Holmes Jeremy Brett ( Saison 1)

 

 

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