夫が全てをコントロールする世界から逃げ出して自由になった。
夢にまで見た自由だった。
私はまだ夫と付き合う前は好きなように生きていたけれど。
息子なんて生まれた時から夫と一緒で。
物心ついた頃には全てを夫から支配されていた。
それが普通だった。
息苦しくて酸欠になりそうな日常を生きていると気力だって失われていく。
何をしたいのかとか何が食べたいのかとか。
そういう欲も全て無くなっていく。
ただ今を生きるのに精一杯だった。
何のために生きているのかも分からない。
ただひたすら今日をやり過ごすだけ。
そんな毎日だったのだから。
今はさぞかし幸せなんでしょう?
そんな風に問いかけられると何故か言葉に詰まることがある。
確かに幸せでこの上ない喜びを感じる毎日だ。
息子が笑っていてくれるのが嬉しくて。
もっともっと楽しいことをしたいと欲も出てくる。
でもその反面、まるで細いロープの上をバランスを取りながら歩いているみたいに心許ない。
不安で自信が無くて。
心細くて何かに寄りかかりたくなる時もある。
その不安定な気持ちに最初は慣れなくて戸惑った。
もしかして私、家を出たことを後悔してるの?
そんなバカなことも考えた。
でも突き詰めて考えたらそんなことは無かった。
これまで何でもコントロールされてきたのに急に自分で選択しなければならなくなり。
それに戸惑っているだけ。
そもそもが自分に自信が無くて誰かに引っ張ってもらうのが心地良いと感じるタイプだったから。
そこが夫のような人に付け込まれたのだと思う。
昔と違って今はもう息子もいる。
もっとしっかりしなければ守り切れないと危機感も感じる。
そんな複雑な気持ちに折り合いを付けながら約10か月半を過ごしてきた。
抑圧から解放された後の生活を何度も思い描いてきたけれど。
想像していたのとは、ちょっとだけ違っていた。
もっと手放しで満喫できると思っていたのに実際は不安ばかり。
そんな中、息子が寝る前に私に
「ママ。今日も楽しかったね」
と言うようになった。
なんてことはない平凡な日だったとしても。
欠かさずそう声を掛けてくれる。
その言葉に救われて、『ああ、今日も穏やかに幸せに過ごせたな』と実感できている。
勝手に悩んで追いつめられた時、こうやって息子の何気ない言葉に救われる日々。
それもまた幸せなんだな。
人から羨ましがられるような環境では決してないけれど。
今の生活には温かいものがじんわりと心の中に広がっていくような心地良さがある。
それがこれからも続きますように。
息子の寝顔を見ながらそうお願いするのが習慣になった。