太平洋のさざ波 24(2章日本) | ブログ連載小説・幸田回生

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読み切りの小説を連載にしてみました。

よろしかった、読んでみてください。

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 土曜日の午前11時、大宮の氷川神社で柳本さんと待ち合わせた。
 西船橋で吉田さんをピックアップしますと、柳本さんの有り難い申し出をお気持ちだけ頂くことにして、俺は電車で大宮に向かうことにした。



 IKEA目指して南船橋に向かって以来の武蔵野線であるが、
 休日の気分転換のはすが平日の都心方面真っ青の満員電車に巻き込まれた。
 プラットフォームに足を踏み込んだ瞬間、
 山のような人だかに臆することなく、俺は車内に体を押し込んだ。

 


 周りを窺うと、何のことはない乗客の大半は中山競馬場に向かうファンのようで若者から還暦過ぎの男性に混ざり、 
 女子大生からアラフォーくらいまでの女性と少なからずのカップルも含まれ、西船橋の次の船橋法典でほとんどの乗客が降りた。
 胸を撫で下ろしながら、長椅子に座り、そのまま目を閉じた。



 この日の中山競馬場でのレース開催を知っていれば、
 わざわざ競馬ファンで溢れる電車に乗ることなく、
 同じJRを利用して時間も料金も対して変わらない秋葉原方面の総武線に乗っていたはずだ。

 


 数分、満員電車に巻き込まれたとはいえ、
 それさえ過ぎてしまえば、房総半島を旅するような空いた電車で、線路沿いに落ちたソメイヨシノの花びらに目を落とした。


 
 11時前5分、氷川神社の鳥居の前に辿り着くと、紺のスーツ姿の柳本さんと同じく紺のスーツ姿のフィアンセと和装の御両親が勢揃いされていたのである。

 


 俺は他人の目線で自分の身なりを振り返った。
 紺のスーツにネクタイ、黒の革靴とはいかないまでも、
 焦げ茶色のジャケット、厚手のチェックのシャツ、
 黒のジーンズと色を揃えたスニーカー。
 柳本さんのフィアンセと御両親の前に、様子を窺いつつ、
 カジュアルながら、自分なりに頭を悩ませた出で立ちにひとまず、胸を撫で下ろした。


「遅くなりまして、申し訳ありません」

 


 俺は頭を下げた。

 


「僕たちも2分前に着いたばかりです。
 こちらは、僕の友人で吉田さんです」

 


「はじめまして、吉田と申します」

 


 俺はもう一度、丁寧に頭を下げた。

 


「こちらは僕のフィアンセの吉田葵さんと御両親です」

 


「はじめまして、吉田葵です」

 


 フィアンセは長身細身でモデルのような容姿で時や場所が許せば、つい見蕩れてしまうところであるが、そうも言ってもおられず、ご両親と葵さんに頭を下げた。



「吉田さんと言われましたか」

 


 フィアンセのお父さんが声を掛けた。

 


「はい」

 


「初対面で失礼ですが、吉田姓はどこにでもいますから、
 遠縁ではないでしょうが、どちらのご出身ですか?」

 


「広島です」

 


「実はわたしども夫婦も広島の人間で、
 広島駅から東へ、呉線伝いの小さな港町が地元です」

 


「僕は山口県と境の近い小さな町の出身です」

 


「このような所で広島の方とお会いするのは奇遇ですが、
 これも何かのご縁です」



 葵さんのお父さんに続いて、お母さんが尋ねた。

 


「人違いだったら御免なさい、
 吉田さん、どこかでお会いしませんでしたか?」

 

 

 俺は御両親の表情を伺い、想像力を働かせた。

 


「もしかですが、1月末、マウイ島のホエラーズビレッジの鯨の標本の前でお会いしたような気がします」

 


「その時期、吉田さんもハワイに行かれていたのですか?」

 


 お母さんの声に俺は頷いた。

 


「思い出しました。
 葵が買ったばかりのお土産を忘れ、ショップに戻っていた時ですね」

 


「そういえば、そういうことがありました」

 


 葵さんが思い出したいように言って、
 ジャケットの右ポケットから鯨のキーホルダーを取り出した。
「あの時、買ったペアのキーホルダーです」

 


「ハワイから帰国した葵さんに貰った同じ物を僕も持っています」 そう言う、柳本さんの言葉で思い出した。
 
「今年の1月、フィアンセは家族旅行で好きになった思い出のハワイ、オアフ島、マウイ島に両親と出掛けていました。
 結婚して落ち着いたら二人でハワイに行く予定です」



「やはり、あの時の方ですね。
 ホエラーズビレッジのバス停の前で、
 空に浮かぶような鯨の骸骨のすぐ下で、
 わたしがどちからお越しですか? と尋ねたら、
 ラハイナですと言われて、面白い方だと。

 


 あなたのを姿が見えなくなって、失礼ですが、
 わたしと主人は思い出したようにクスクス笑っていました。
 普通、日本人なら、東京から来ましたとか大阪から来ましたと言うところ、マウイの港町を口にする方は珍しいかなと」



「あの時、僕は焦っていました。
 朝早く、バスでホノルル空港まで行って、予約したのは小さなエアラインで、メインのハワイアンから5分も10分も離れた駐機場まで歩いて、ようやくそれらしき場所を発見した時は心底ほっとしました。

 


 掛りの人は親切で予約した便を一便早くしてくれてラッキーでしたが、僕を待っていたのはプロペラの小型機でした。
 大丈夫かなと想えるほど小さな機体は大きな音を立ててプロペラを回し、滑走路を走り出しました。


 
 上空に舞い上がると、それまでの不安が一気に解消すべく、
 機内のからの景色は素晴らしかった。
 高度数百メートルから映し出されるホノルル港、アロハタワー、ミニチュアカーのように小さな車が貼り付いていように見える。


 
 ホノルルの街並み、鮮やかな海色に染まったワイキキビーチ、
 泊まっていたホテルはという具合に絵巻物のように、
 映写機から映し出される至極な映像美に目移りして、
 最高の景色の一枚の写真を撮ることなく、やり過ごすうちにマウイ島の名前も知らぬ小さな空港に着いていました。

 


 タクシーでラハイナのホテルに着くまでは順調でしたが、
 ホテルを出てマウイ島周遊の旅に出ようとして、
 バスを乗り違え、もう一度バスを乗り換えて、ホエラーズビレッジでバスを降りて、御両親にお会いしたのです」



「そんな前触れがあったのですね。
 吉田さんとお会いした直後、戻ってきた葵にたった今、
 こんな日本の方にお会いして、と、話が弾みました。

 


 翌日、家族3人でお会いしたホエラーズビレッジからタクシーに乗り、名前も知らないと言われた小さな空港からプロペラ機に乗り、吉田さんが機内から眺められた真反対の風景を親子3人で眺めながら、ホノルル空港まで飛びました。

 


 ホノルルで大きな飛行機に乗り換えて、成田に向かいました
 わたしはこれまで何度かプロペラの小型機に乗ったことがありますが、初めての方はこれに乗って大丈夫かな想われるでしょう。

 


 わたしどもはホノルルからマウイまではマウイのメインのカフルイ空港を利用したのですが、復路はマウイ発はホテルから近いカパルア空港を利用しました」



「僕は真逆でした」

 


「お話が弾んでいるようで恐縮ですが、そろそろ、氷川神社に参りませんか」
 柳本さんが切り出した。

 

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