富士宮市の病院で70代の男が入院中の妻と長女を殺して自分も自殺するという痛ましい事件があった。
長女(40代)は20代の頃からずっと入院しており、妻も2年ほど前から入院していたという。
そのため犯人の男は長男と2人で暮らしていた。
このニュースで私が気になったのは、長女が20代の頃からずっと入院していたという点と、長男(そこそこの年齢と思われる)が父親である犯人と2人で暮らしていたという点である。
「兄弟リスク」という言葉がある。
兄弟姉妹に引きこもりや精神疾患などの問題状況を抱えた人がいる場合、他の兄弟もこれに有形無形の影響を受けて自身の人生を思うように生きていけない、という問題を指す言葉である。
富士宮の事件の犯人の家族にも、或いはこれに近似した状況があったのではないか、そんな気がした。
「兄弟姉妹の問題状況に引き摺られると言うが、最も苦しんでいるのは当の問題を抱えた本人のはずではないか。」それは確かにそうである。
「自分が健常だからといって、兄弟姉妹を加害者のように見立てて被害者面をするのはいかがなものか?」そんな声も聞こえて来そうである。
しかしそれもこれも兄弟リスクを抱えた当事者でなければ分からない部分がある。
リスクを抱えていない自分は幸せな結婚をしていながら、「結婚できないのを兄弟リスクのせいにするのは逃避であり責任転嫁である。」などと言うのは対岸の火事を眺める野次馬のようなものである。
私自身も若い頃は今で言う「兄弟リスク」にずいぶん苦しんだ。
気にし過ぎるくらい気にし、リスクのある兄の存在をひた隠しにして話題が兄弟のことに及ばないようにいつも神経を使っていた。
結婚やお見合いの話が浮上してくる度に、「兄のことをいつどうやって話そうか。」「家族みんなでの顔合わせというような話になったらどうしようか。」と言うようなことばかり気にし、結局お話をお断りするのが常であった。
富士宮市の事件の実情は分からないが、「長女は20代の頃からずっと入院しており、犯人の70代の男は長男と2人で暮らしていた。」という一文を読んだとき、兄弟リスクのことが真っ先に頭に浮かんだ。
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