※今回はふたりが結婚して初めての夏のお話です。
原作とは一切関係ない個人の妄想ですのでご理解の上でお読みください
『not alone』
「なに見てるの?」
夕食の下ごしらえが一段落した日曜の昼下がり
エアコンの効いたリビングのソファで、テレビに釘付けになっている彼の隣に腰を下ろすと
「高校野球?」
「ああ」
9回裏を迎えている試合は逆転のチャンスで盛り上がっているらしく真剣な表情で見つめていて
「知ってる学校なの?」
「べつに、そういうんじゃねぇけど…クロスゲームで目が離せなくて」
「ふ、ふーん」
クロスゲームがなんなのかは分からないけど、一緒に暮らし始めて分かったのは
野球に限らず、彼はスポーツ全般が好きなんだなぁってこと
そもそも
運動神経抜群で、やろうと思えば野球でもサッカーでも人並み以上に出来るはずなのに
「どうしてボクサーになろうと思ったの?他のスポーツでもプロになれたかもしれないのに」
結局、最後の打者が三振して逆転しないまま試合が終わったところで素朴な疑問をぶつけてみると
「どういう意味だ?」
逆に聞き返されてしまった
「だから、その…もっと痛くなさそうなスポーツがたくさんあるのになぁって」
試合の度に殴られて傷だらけになる上に、きつい減量をしなければならないボクシングは見ているだけでも辛くなるから
そんなわたしの気持ちを見透かしたように
「どんなスポーツでも怪我くらいするだろうよ。だいたい俺は団体競技に向いてねぇって」
髪をグシャッと掻き上げ、そうつぶやいた彼の性格上
「ひとりでやる方が好きってこと?」
「まぁな」
勝っても負けても自分ひとりの責任でやれるボクシングがいいんだろうし、人と群れるのが好きじゃないのも知ってるけど
ん?
だよね?
彼って元々ひとりでいるのが好きなタイプだったよね?
だとしたら、結婚してからのこの4ヶ月間
家に帰ったら必ずわたしがいるのって、実は鬱陶しかったりしたんじゃ?
「……」
そんなネガティヴな思考は、すぐに読まれてしまい
「休みの日に野球見てただけで、なんでそんな話になるんだよ」
「えっ!?」
深いため息をついた彼の大きな手は、膝の上に軽々と抱え上げたわたしの下腹部を優しく包み込むように撫で始めた
「それとこれとは話が別だ、バカ」
初めての妊娠に気がついてからもうすぐ2か月
つわりは治ってきたものの、ちょっとマタニティブルー気味だったのがバレてしまったかもしれない
「なんか、不安なことでもあるのか?」
心配そうに覗き込まれた表情に胸がギュッとして
「ううん、全然。強いて言うなら幸せ過ぎてなんだか怖いのかも」
大好きな人と結婚して、すぐに赤ちゃんまで授かるなんて
「毎日、夢を見てるみたい」
素直な気持ちを伝えたわたしに真っ赤になってしまった彼の手は、相変わらずお腹の辺りに置かれたままで
「夢じゃねぇから…力を合わせて頑張らなきゃな、この子のために」
「う、うん!」
少し照れくさそうに、でも力強く耳元に落とされた言葉にとっても安心出来たけど
「ところで、まだお腹蹴ったりしないのか?」
「それは…まだだいぶ先、だと思う」
パパママ初心者なのを実感して、ふたりで顔を見合わせて笑った
fin