かつて昭和の昔に唱えられて一世を風靡した「騎馬民族征服説」これは今では学者の方からは完全否定されている説だけど、手塚治虫のライフワーク火の鳥黎明編で採用され、シスの暗黒卿の様に師から弟子へと伝承され、宮崎駿や富野由悠季、安彦良和に伝わり、さらにそれがまた弟子筋に伝承されて行く。騎馬民族征服説自体は否定されているが、それが渡来人史観や古墳人などと根拠無く巧妙に名前を変えてまだ信じられている。
アニメ関連では無いけど、それなりの地位にある人物の誤った史観の実例を発見した。
松岡正剛の千夜千冊
1944年1月25日生。編集工学者、編集工学研究所所長、イシス編集学校校長、角川武蔵野ミュージアム館長。
こういう如何にもな感じの方が、古代史本を読み漁るという部分があったので見てみると……
1491夜 歴象篇
田中俊明古代の日本と加耶
という回にこんな文言を見つけた。
その『三国遺事』のなかに「駕洛国記」がある。駕洛国は金官国のことをいう。建国から滅亡までがおおざっぱに記されている。
冒頭、この地に九人の「干」(酋長)がいて一〇〇戸七六〇〇〇人の民を統べていたという説明がある。そこへ紫の縄が垂れてきて、紅い布に包まれた金色の盒子を降臨させた。中に黄金の卵が六つあり、そこから童子が生まれると、その最初に成長した首露が王となり即位した。これが駕洛または伽耶という国の誕生であるという話だ。
いわゆる卵生創成神話だが、この話は何かに似ている。そうなのだ、天孫降臨っぽいストーリーになっている。日本のニニギにあたるのが駕洛の首露王である。このことからニニギノミコトの天孫降臨説話は朝鮮半島からの転移であったろうという推理がさまざまな研究者によって広げられていった。いまのところニニギが誰であるかはまったく同定できてはいないのだが、そういう大移動がおこっていたことは十分にありえただろう。
つまり日本の建国神話、瓊瓊杵尊の天孫降臨は、朝鮮神話からの模倣や転用だと示している訳だが、前にも書いたとおりこれには前提となる大変な間違いがある。それが神話が載せられた正史の発刊年代の違いである。
魏志韓伝・弁辰伝
「瀆盧国は倭と境界を接する」
※瀆盧国は韓半島最南端の国
魏志倭人伝 3世紀後半
韓在帶方之南、東西以海為限、南與倭接。
「韓は帯方郡の南に在り、東西は海で尽き、南は倭と接する」
※韓の地は東西両側は海だけれど、南は「倭」と接する。
=韓半島の南岸は倭人の地
日本
古事記 712年
日本書紀 720年完成
新撰姓氏録 815年
先代旧事本紀 平安時代初期?
(※一部で偽書扱い)
朝鮮
三国史記 1145年完成
(朝鮮初正史)
三国遺事 1270~1280年間
(僧が書いた私撰史書・金首露王神話の駕洛国記はこの一部)
引用に示した通り三国遺事という最終ランナーである私撰書を、それより先の奈良時代に書かれた古事記日本書紀が参考にしたと、驚くべき四次元的解釈が述べられている。
そもそも論として魏志韓伝の「倭と界を接する」を「間に大河の様な海があるという意味」だとか「海を挟んで南にある」とか超解釈をする方が居るが、同様の記事の魏志倭人伝を見ると、明確に韓は東西は海で南は倭と接すると書いてある。つまり韓半島南部は倭人国であった証明だろう。
何故魏志倭人伝・魏志韓伝が重要かと言えば、左翼は「古事記日本書紀は朝廷の都合の良い様に書かれた嘘っぱちで、魏志倭人伝に書かれた卑弥呼こそが真の日本の始まりである」という姿勢を貫いているからです。
その基準で言えば魏志韓伝も重要視されないとおかしいですが、何故か韓伝はスルーされます。何故かと理由を求めれば、全ての基本となる中国正史に韓半島南部に倭人の国ありと書かれているから都合が悪いからです。それがひたすら続いて百済南部の前方後円墳になる、凄く自然な流れです。
引用文に戻れば、あろう事か鎌倉時代と同時代に書かれた私撰史書の三国遺事と奈良時代古事記日本書紀を比較し、日本が朝鮮神話を参考にしたと(引用の体裁で)述べている訳です。めちゃくちゃです。言うまでも無く手塚治虫の火の鳥黎明編もこの論法の内にある訳です。
しかし三国遺事wikiにはこの様に書かれてあります。
朝鮮半島における現存最古の史書である『三国史記』(1145年完成)に次ぐ古文献ではあるが、由来の怪しい古書を引用するなど、史書としての問題点は少なくない。しかし、三国時代及びそれ以前の朝鮮半島の歴史を記した資料は極めて乏しいということもあって、『三国史記』と並んで朝鮮半島古代史の基本文献として扱われている。また、『三国史記』が名だけを留めて収めなかった郷歌(きょうか、ヒャンガ)を14首伝えており、言語学資料としての価値も高いwiki
現存最古から二番目で既に怪しい古書を引用するなど、史書としての問題点は少なくないと書かれてあります。日本の朝廷が中国に見せる為に作った日本書紀は嘘っぱちの信用ならない書物と決め付け、しかし三国遺事の事は鵜呑みにする、それって明確なダブルスタンダードではないでしょうか?
問題点はその怪しいとされる三国遺事の時点ですら、どこにも朝鮮が日本を征服したなんて書かれてない訳です。それどころか以前に引用した様に、ヨンウランの神話で「朝鮮が日本を征服した話は無いので」と朝鮮側自体が否定しているのです。
だから戦後に提起された騎馬民族征服説は嘘だし、日本の天孫降臨神話は朝鮮の神話を参考にしたなんて絶対にあり得ないんです。なんか変な事書いていますかね?
むしろ、朝鮮側こそが日本の天孫降臨神話を参考に書かれた物と考えるのが自然。
繰り返すけど、魏志韓伝の時点で「韓の地は東西が海で、南は倭と接する」と書かれてある。ここまで詳細に書いている中国の歴代史書が、もし半島から九州や列島に征服の移動があれば、包み隠さずに絶対に書く物と思われる。※ だから繰り返すが騎馬民族征服説も、王族の少人数の移動である渡来人史観も完全に間違い。中国正史には韓の地の王族の由来を詳細に書いているので、韓から列島に王族の移動があれば絶対に漏らさずに記す。それが「無い」という事。
倭人の地は古代から倭人が支配する地、これが古代の常識だった。
※唯一の中国正史からの中華王朝渡来記載事例「倭人は呉の太伯の子孫を自称」の事についてはいつか考え方を書きますが、当然日本人全体の事では無く、ごく一部の王族にそうした人が居たというだけの事です。またあくまで自称である点も留意。
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