5] クェート編
【 in the State of Kuwait】
《at NATO支部 建物内》
R: (飛べ! ガルーダ!
天高く 黄金の翼で 高く高く飛べ!)
ヨーガ ガルーダのポーズ
R 目を閉じてガルーダになりきり
少佐 通りかかる しばし見る
少: またヨーガのポーズか?
R: エッ!
目を開ける
R: しょ..少佐 どうしてここに
少: 通りがかっただけだ 何のポーズだ?
R あわてて靴を履く
R: ガルーダ
黄金の翼を持った霊鳥です
ビシュヌ神の乗り物なんです
少: ほう.. ヒンドゥーの神は
象には乗らんのか?
R: はあ...
(人気がなくて昼休みヨガをするのに
最適な場所だったのに)
少佐 R officeへ歩きながら
少: そういえば、お前の父上は
まだニューヨークから戻らんのか?
R: はい
少: ずい分ゆっくりの滞在なんだな
R: 観光ではなく仕事です
メトロポリタン美術館のドイツ庭園の
リニューアルだそうです
おまけにカンボジアから来た庭師が
急病とかで、アジア庭園の方も
しているみたいです
少: 庭師なのか じゃ、生涯現役だな
何歳でいらっしゃる?
R: エー.. 何歳だろ
60にいくつか足りないくらいかな
少: ずい分若いんだな
《at office》 少佐 A D E R
少: OPEC の事務レベル協議会が
一週間後、クウェートで開かれる
DとEはドイツ出資会社の社員だ
OPEC各国の情報収集が目的だが、
特にサウジアラビアとクウェートに
気をつけろ
この件に関しては準備は整っているな?
DE: はい 万全です
少: で、問題はこれだ
パチッ.. パソコンに古い写真が出る
D: かなり古い写真ですね
E: もう少し鮮明にならないんですか?
少: 30年前の写真だ
これしか入手出来なかったらしい
20年ほど前まで東欧にいて
西側の仕事を手伝った男だ
R: 名前は?
少: ズデネック・マカール 偽名だろう
R パソコンをジトッと見ている
E: これが30年前の写真とすると、
今は60代半ばくらいですか
少: そうだろう
20年前に突然消息を絶ったのだが
ここ1、2年でサウジアラムコ内の
反EU勢力の拡大工作を
この男がしたらしい
D: 所属機関は?
少: 不明だ
A: そもそも西側の仕事をどの程度
手伝ったのかも分かっていないし..
D: そんな男をよく割り出しましたね
少: 分析官は女の方から追って行ったらしい
R パソコンから顔を上げて
R: 女ですか?
少: フム 20年来の愛人らしいが、
チェコでひっそり暮らしていたが
5年ほど前サウジアラビアに移って、
最近クウェートに渡った
R: 20年来の愛人なんて許せない
A: まあ まあ
少: 石油屋がサウジでの仕事が
やりにくくなったと言ってきた
自国の利益を声高に叫ぶのは好まんが
いいか、クウェート石油公社
及びその子会社のクウェート石油会社を
しっかりマークしろ
この男にサウジと同じ仕事を
クウェートでされてはかなわん
DE: はっ
少: で、ここからが部下R 君の任務だ
R: (あ、そうでした 私の任務)
少: DEと同じ会社の社員にしてあるが、
彼らの任務とは別件だ
アラビア語は?
R: 日常会話がやっとですけど
少: 一週間 特訓しろ!
R: 努力します!
A: クウェートはほとんど英語が通じるよ
R: はあ..
少: 任務はこの男の捜索だ
R: エッ?
少: エ、ではない
首都クウェートはさほど大きくはない
お前一人でも出来るはずだ
R: 一人で、ですか?
少: そうだ
少佐 タバコを取り出す
R: ...少佐..
少: 何だ?
R: 私は囮.. ですね
少: なにっ⁉
少佐とA Rをにらむ
R: (そんな.. 二人してにらまないで)
少: R君 何故そう思うんだね?
R: (何故って言われても.. )
あの、スパイ歴30年のベテランを
私が捜せるとは思えなくて
私が捜すことで
このマカールが動くのかなと
彼には娘がいたんですね?
少: A: ・・・
DE: 娘?
R: 先程、少佐は私の父の歳を
お聞きになりました
父はマカールよりも若いですが、
私がマカールの娘でも
不自然ではないです
A: 少佐.. !
少佐 タバコをスパスパ
少: 確かにマカールには娘がいた
お前の役目を囮と言うかもしれん
だが、おれは“捜索”を命じた
手掛かりを掴むまではこっちは動かんぞ
R: はい 捜索します
冷や汗 タラリ...
A: DE これ協議会の参加者リスト
政府関係、企業関係
R: 少佐、ただし条件があります
ADE: じょ..条件...
A: R!
上官に対してなんてことを言うんだ!
少佐の作戦に対して条件をつけるなんて
僭越だぞ あやまれ
R: (ギョッ!)
は、はい すみませんでした
あの、お願いがあります
少: 言ってみろ
R: 私のエイリアス(偽名)
ナディア・ワレギエナでお願いします
《at office》 少佐 A
少: Rのやつ 妙に勘のいい時がある
A: おまけに天真爛漫というか
言えないことがないですね
少: 空軍の救難隊がそんな雰囲気
だったんだろう
直接の上司ではないが
マズア中佐は
「部下の自由な発言を求める」ので
有名だそうだ
A: (マズア中佐.. 少佐とは水と油かな)
Rは父を訪ねて三千里、なんて
言ってましたが
マカールがワレギエナの
父親の可能性は?
少: 先ずはないだろう
ワレギエナの父親は
連絡員程度だったらしい
マカールがこんなに何者か
分からないのは、非合法の組織
いわゆる秘密組織に
属しているのかもしれん
A: Rは捜せるでしょうか クウェートで
少: だから “娘” に賭けてみた
To be continued