ユベール・スダーン指揮上海フィルハーモニー管弦楽団 | 上海鑑賞日記(主にクラシック)

上海鑑賞日記(主にクラシック)

上海生活の合間に聴いた音楽や見たスポーツなどの記録を残します。

日時:2023年05月12日(金)19:30~

会場:上海交響楽団音楽庁

指揮:ユベール・スダーン

演奏:上海フィルハーモニー管弦楽団

独奏:徐暄涵

曲目

ハイドン:交響曲第1番ニ長調

ハイドン:チェロ協奏曲ニ長調

シューベルト:交響曲第2番変ロ長調

 

感想:

 この日はユベール・スダーン氏が 4年ぶりに来海し久しぶりの外国人指揮者の指揮による上海フィルハーモニー 管弦楽団の演奏会である。

 で、今回は古典プログラムを選ばれたようで、ハイドンとシューベルトのプログラムである。

 

 ユベール・スダーン氏はオランダ・マーストリヒトの出身で御年既に77歳である。

以前日本の東京交響楽団の音楽監督の任を10年ほど務めていたことがあるが、私は多分日本では聴いていない指揮者である。

 ちなみにマーストリヒトはEUの創立の原点となるマーストリヒト条約の締結されたあの都市である。

 

1曲目はハイドンの交響曲第1番で、数ある古典中でもさらに古典の曲といった印象。

さて演奏が始まると指揮者がハイドン的なリズム付けを指揮ぶりで引っ張ろうと懸命にアクセントをつけてリズムを刻んでいたが、どうもリズムが乗らない。

 オケにハイドンなどの古典楽曲の演奏経験が乏しいのがありありと見えてしまい、どうもハイドン的なリズミカルな演奏にはなっていかない。

 それでも一生懸命にオケはついていくので、辛うじてハイドンの世界らしき音楽には近づいていたようだが、やはり経験不足のぎこちなさはどうしても拭いきれない演奏になってしまった。

 

続けて2曲目はハイドンのチェロ協奏曲である。

ソリストは女性の徐暄涵さんである。

さてこのソリスト、チェロの音色としては非常に流麗でチェロの腕前としては悪くないものを持っている印象。

ただ今回の演奏のスタイルで見せていたものは情感たっぷりであり、ロマン派の曲を演奏しているように聴こえてしまった。

しかしハイドンが作曲で活躍した時代というのは、宮廷音楽として皇帝や貴族の前で演奏するのが基本であったために、そういった情感たっぷりの演奏というのはどうも似合わない気がする。

どちらかというと皇帝の前で端正なスタイルにより伸びやかに明るく演奏するのがこの時代のスタイルであるような気がしており、そういった意味で今回の演奏は不似合いだったような印象である

そういった時代の曲であるから、やはりそれに合わせた演奏をするのが正統派の演奏とは思うが、どうもこのソリストはカデンツァなどでロマン派的な歌い方ををしており、どうもハイドンのイメージとずれてしまう。

 

 この意味ではまだオーケストラの方が指揮者の棒の下、ハイドンの曲っぽく演奏をしており落ち着いた音楽に聴こえた。

ソリストのハイドンの像が果たしてどうなっているのか、一度確認したい協奏曲となった。

 

後半はシューベルトの交響曲第2番。

これもまた比較的演奏機会の少ない曲ではある。

少なくとも私は日本のコンサートでは聴いたことがないが、シューベルトの音楽としてはその世界を十二分に持っている曲ではある。

 さて、シューベルトはシューベルトでハイドン同様に独特のリズムを持っている作曲家であるが、この曲の演奏リズムは前半のハイドンよりはある程度は様になっているが、やはり演奏経験の乏しさが演奏リズムに現れてしまっている。

 指揮者はその振り姿によってなんとかそのシューベルトのリズムをオーケストラに注ぎ込もうとはしているが、オーケストラの方がやはり不慣れな感じがする。

 どうもシューベルトのリズム世界に乗って行けず、スコア的に正確なリズムを刻もうとしているだけの音楽になってしまっていた。

 さらにシューベルト独特の音の厚みというか和音の響きがまだオーケストラ全体に染み込んでいないような印象である。

 そういった経験の乏しさは、例えば第2楽章の終章部分において、日本の経験豊かなプレーヤー達であればテンポ指定だけで自然に刻める部分が、この日の演奏では何とか呼吸を合わせて音を整えている感じなのである。

 第3楽章以降もやはり なかなかシューベルトの音楽になってくれず、リズムがぎこちなく、不自然とまではいわないが、指揮者の導きほどにはオーケストラが自然なリズムに乗って行ってくれず完全には順応していなかった。

 このオーケストラを度々聞いてる私としては、このオケがあまり古典をやらないことをよく知っているが、どうやらこういったプログラム配分が、シューベルトなどの古典の音楽的リズムが身に付かず、オケの引き出しの中に入っていかない原因のような気がする。

 もしこの指揮者が年に5~6回振ってくれたら、このオーケストラもきちんとしたシューベルトやハイドンなどの古典が演奏できるようになるかもしれないが、今のところそこまでの機会はなく時間がかかりそうである。

 昔とある指揮者が言っていたが、ハイドンを演奏するとオーケストラが整っていくと言われているとのこと。

 

 その時はその言葉の意味がよくわからなかったが、今回の演奏を聴くと音楽の基本的なリズムがオケに染み付くのがハイドンの曲であることがわかるようなこの日の演奏会だった。

 今のところこのオケが自然体でハイドンの音楽を奏でられるようになるまでには時間がかかりそうだが、このオーケストラにも将来的にそういった自然なアンサンブルが生まれてくる時代がくることをぜひとも祈りたい。

 

  翻译: