景煌指揮 広州交響楽団「アメリカ大陸への随想」 | 上海鑑賞日記(主にクラシック)

上海鑑賞日記(主にクラシック)

上海生活の合間に聴いた音楽や見たスポーツなどの記録を残します。

日時:2023年05月16日(火)19:30~

会場:上海東方芸術中心音楽庁

指揮:景煌

演奏:広州交響楽団

独奏:彭珂(Vn)

曲目

リヒャルト・シュトラウス:「四つの最後の歌」(編曲 鄒野)

ピアソラ:ブエノスアイレスの四季(編曲 レオニード・デシャトニコフ)

ドボルザーク:交響曲第9番ホ短調「新世界より」

 

感想:

この日は以前からの中国優秀オーケストラシリーズの一環で広州交響楽団の演奏会。

指揮者はこの楽団の常任指揮者の景煌さんである。

このメンバー表を見るとほぼ中国人の名前であり外国人はいないようである。

見た目の年齢層はやや若めだが幅広くて 50代がいるかどうか といった感じである

 

さて 1曲目はリヒャルトシュトラウスの 「4つの最後の歌」の弦楽合奏への編曲版である。

本来歌曲で演奏される曲で死を悲しみ平和を祈る曲とされている。

 さて演奏が始まると音のバランスは綺麗には聴こえてくるが どうも指揮者の振り姿と音のうねりがマッチしていかない。

指揮者は腕を大きく振り下ろしたり「うねり」を見せるような指揮ぶりなのであるが、音楽にはそういった「うねり」は現れてこない。

音色はそれなりに美しい曲になっているのだが、本来は指揮通りにうねりがあった方が良いのではないかと思ったがよくわからないままに演奏が終わってしまう。

 

2曲目はピアソラのブエノスアイレスの四季である。

編曲者はウクライナ出身者の作曲家。

1人バイオリンのソロが立っており、それ以外は10人程度の弦楽奏者である

春夏秋冬の曲がそれぞれ演奏され、各々にかのヴィヴァルディの四季のメロディが織り込められていて、なかなかユニークな曲である。

今回の演奏はクラシック的側からのアプローチが強い演奏のような印象を受けた。

ピアソラ自体がタンゴの基礎を持ちながらクラシックの作曲技法を学んだ作曲家でありそういった時代に作曲したのがこの曲であるから、そもそもがタンゴとクラシックの両面の要素をもっているが、今回は敢えてこの曲に対してクラシック的な奏法でアプローチをかけているのかもしれない。

いわゆる純粋なタンゴとはちょっと匂いの違う印象である。

ただソロの演奏はさすがにタンゴの匂いが強く散りばめられており、ピアソラ的アプローチのタンゴの匂いが強い音楽であった。

ところで演奏とは直接関係ないが、この曲が始まる前のセッティングで前の曲の後方奏者の椅子などが片付けられたのが、結構な時間をかけてセッティングされていた

そんなに片づけなくても演奏が出来そうな気もしたが演奏メンバー以外の周囲にはわざわざ椅子の無い空間が設けられており、こだわったのかもしれないが非常にもったいない時間の消費という気がした。

 

後半はドボルザークの新世界。

席に付いた木管群を見るとゾロっと男性奏者が並んでおり女性奏者はイングリッシュホルンだけである

こんなに男性だらけの木管群というのは、かつてのウィーンやベルリンのオケでは全員が男性だったのでこういった状態だったが現代においては非常に珍しい光景である。

そのイングリッシュホルンの女性は第2楽章に初めて登場するので非常に緊張した面持ちで出番を待っているように見えた。

同じく出番の少ないチューバ奏者は結構どっしり構えていた。

さて演奏が始まった直後からどうも金管群、特にトロンボーンの音色があまり綺麗とは言えなく、ちょっと雑な印象を受けた。

また男性だらけの木管群も音色についてもどうもそれほど上手ではなく、あまり表現力が高い奏者はいないような印象である。

さらに編成的にもコントラバスが9人も並んでおり、2管編成の曲にしてはちょっと低音が強すぎるような印象である。

今日の指揮者ではないが、このオケの音楽監督である余隆さんは、結構ドンドンドカドカ音楽を鳴らす演奏をするのだが、どうもその音楽的傾向がこの編成にも見て取れる。

加えてこの日は演奏者だけなく、聴衆もこの日はあまり質が良くなく、 LINE の着信音が鳴ったりメールの着信通知音がピコ、ピコとあちらこちら散発的に聴こえてくる状況だった。

 

さて続いて家路の第2楽章であるが、ようやく先ほどのイングリッシュホルンの出番である。

ところがこのイングリッシュホルンのソロが始まる直前に、会場でピロリンという携帯の通知音が鳴った。

非常に緊張して出番を待っていた奏者には気の毒なアクシデントである。

その影響なのか演奏に少し元気がなく、もう少し歌があってもいいのかなという感じだった。

オケ全体のストリングスのバランスやアンサンブルに関してはそれなりに揃っていたが、チェロがむせび泣くような旋律が背景的存在の扱いで際立たされておらず、表現が行き届いていない残念な部分もところどころに存在した。

 さらに第3楽章では、指揮者の振りが雑というか投げやりになった印象で、それに伴ってオケの演奏も全体がかなりやっつけ仕事的な演奏になり、金管木管を含めた全体のアンサンブルが雑な印象になった。

 

そして 第4楽章であるが、音量こそ迫力はあるがオケ全体の歌いができておらずドボルザークが新世界の曲に込めた望郷の念の印象があまり現れず、早めのテンポに流されて行ってしまった気がする。

特に気になったのはティンパニの音で、打音が雑で心に響いてこないのである。

オケ全体の能力の問題もあるかもしれないがもっと緻密な音作りをすればもう少しいい音が鳴るオケような気がするが今日のところはやや残念な結果に終わった演奏会となった。

終演後に熱狂的なブラボーを叫んだ聴衆もいたが、現実的にはそこまでの演奏ではなかった印象である。

また鑑賞環境の面でも、この会場はやはり質が落ちるというか、演奏中に平気で隣の人にこそこそ話しかけている人なども多く鑑賞環境としても残念な演奏会だった。

 

  翻译: