吉本梨乃&デイビット・スターン指揮上海交響楽団「ドボルザーク交響曲第7番」 | 上海鑑賞日記(主にクラシック)

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日時:2023年07月14日(土)19:30~

会場:上海交響楽団音楽庁

指揮:デイビッド・スターン

演奏:上海交響楽団

独奏:吉本梨乃(ヴァイオリン) 

曲目

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲ニ長調 作品77

ドボルザーク:交響曲第7番 作品70

 

 

感想:

上海交響楽団の演奏会。

今回はMISAという上海の夏の音楽祭の一環のコンサートであり、本来アイザックスターン国際ヴァイオリンコンクールの優勝者を招いてのコンサートとなるはずだったのだが、コロナ禍の影響で優勝者が決定されなかったため、ファイナリストの中から代表で日本の吉本さんが招かれたようである。

 まあそのコンクールの予選の内容を聴いた限りこの人が優勝枠扱いというほど抜きんでた実力には感じなかったので、隣国の日本人ということで選ばれたのかもしれない。

 今回の指揮者はデイビット・スターンさんで、かのアイザックスターン氏の息子さんであり、その名を冠した件のヴァイオリンコンクールの審査員も務めているためこの機会となっている。 

 風貌的には往年のアンドレプレヴィンを彷彿させるような姿であり、お世辞にも流暢とは言えない指揮棒の動きも何となく似ていて、或いはヘルベルトブロムシュテットさんあたりにも似ている感じである。

 

 さて演奏が始まると、この吉本さんは綺麗な音を奏でるが、ボリュームは不足気味で、オケの中に少し埋もれ気味の印象である。

 ただ音色は非常に美しく、しっかりとしたテクニックもある印象だが、今回の演奏はやや小さくまとまってしまったような気がする。

 もっと大胆にオーケストラに対して支配的な演奏ができるような気もするので、ちょっと勿体ない。

 

 対してサポートするオーケストラの方はどうも指揮者のリズムが個性的なリズムで動いているので、全体の音楽としての統一感がうまく取れていないような印象、やや腰が定まらないような音楽になってしまっていた。

 リズムが私の知っているブラコンとイメージが違うのである。

 こんな両者の為、ソリストとオケがどうも馴染み合わないまま音楽が進んでいく。

 

 ソリストはカデンツァ的な部分で上手い演奏は聞かせてくれたが、無難な印象でやはりもう少し攻めた演奏が 聴きたかったのが正直なところ。

 そして第1楽章が終わったところで、遅れてきた聴衆を待つための時間が指揮者の配慮で比較的長めに取られた。

静寂な環境を重視する姿勢を見せることは、今後聴衆を育てる結果となるので良いことであろう。

 

で、第2楽章に入る。

 冒頭のオーボエのソロが少し淡泊な印象で、下手ではないのだがもう少し味わい深い演奏が聴きたかった気がする。

 またこの緩徐楽章でも全体的にやはりソリストの演奏とオケのリズム感がどうもうまく馴染まず、なんとかテンポを合わせて音楽として成り立たせている印象に受けた。

 そして前半の噛み合わなさはそのまま最終楽章に続き、ソリストが合せることを優先して演奏しているのか、オケの音楽にソリストが埋もれてしまっている印象のまま、フィナーレを迎えてしまう。

 結果としてコンクールのファイナリストの招待演奏としてはちょっと物足りない演奏になった。

 

 ソリストのアンコールではバッハの無伴奏パルティータのアダージョとパガニーニのカプリースが演奏された。

 このアンコールも演奏のテクニック的なうまさは感じたが、今後世界で羽ばたくためにはもっと演奏スタイルそのものを大胆に深く掘り下げていく必要がありそうだと感じた内容だった。

 

 さて 後半は ドボルザークの第7番。

 この曲を前回聴いたのはいつのだうかと思い出せないほどご無沙汰な曲であり、録音も含めて本当に久しぶりに聴く機会になった。

 さてこの指揮者は前半同様に独特なアクセント感があるというか個性的な指揮棒さばきで、妙に力の入った振り方をするので私の頭の中のこの曲のイメージとは少し違うようなニュアンスを受けた。

 ドラマチックさが少し強調されており、会場の音響効果も相まって音がわさわさしている感じである。

 タクト裁きも流暢ではなく、こちらとしても鳴る音楽と指揮のリズムが嚙み合いにくくとっつきにくい感じの演奏になっていた。

 ただしそのとっつきにくさも緩徐楽章の第2楽章に入ると緩み、こちらの耳が馴染んだのか気にならなくなってくる。

 木管群の各ソロはもう少し豊かに歌ってくれても良いなあとは思う部分はあったがオーソドックスにこなしてはいる。

そして第3楽章ではチェコの民族舞踊的音楽に対して、音楽がしっかりとした流れへまとまっていく。

 やや金管がうるさく音のわさわさ感はずっと残ったが、こちらの心はしっかり音楽に乗れるようになっていた。

 当初違和感があったマエストロの指揮振りも、後半へ進むにつれてこちらが慣れたのかそれともオケが合わせられるようになってきたのかわからないが、オケはきちんと指揮棒に反応した音色が繰り広げられるようになっていた。

 結局最終的にはしっかりとした音楽的まとまりを持って第4楽章へ進んだので、ドボルザークの的な音楽として納得感があるフィナーレとなった。

 久しぶりのドボルザークであったがそれなりに完成度が高く満足感のある演奏会となった。

 

 

 

 

  翻译: