㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。
ご注意ください。
ユニさんは作家をされてるんですよね。そして・・・何を書かれている作家なのか、俺は分かっていると思っています。ソウルに戻ったら、一度俺と二人で会ってください。
そう言い残して、ソンジュンは売店でユニが購入したものと同じ博物館の冊子を買うと、そのまま背中を向けた。まっすぐに出口に向かう後ろ姿に、ジェシンは何も言えなかった。
ユニと会うのを自分の判断で回避してくれたのだ。イ・ソンジュンという男は、どちらかと言えば人間づきあいにおいてそれほど器用な人間だとは思っていなかったジェシンにとっては意外な行動だった。だが、やはりこれは成長した、大人になったという事だろうか、とも思う。ソンジュンの関りで起こった騒動を経て、ユニが家族からも距離を取り連絡を取らないその年月が、ユニのことを慮る行動に出たのだろう。それはありがたいことだ。ユニにとっても、そしてユニイという作家の正体に関してはユニもジェシンも。
軽やかに出口とは反対側の展示室の通路から戻ってくるユニを見つけて、ジェシンは立ち上がった。ソンジュンが出て行ってから10分ほど経っただろうか。思っていたより戻ってくるのが速かったユニに、ソンジュンがすぐにここを立ち去ってくれたことにほっとする。
ユニとは昨日の出来事をはっきりと話し合ってはいない。結局なし崩しに眠ってしまった。二晩続けて抱きしめて。昨夜は、それでユニが安心して眠れるなら、とジェシンは心を込めて抱きしめた。決してやましいことは考えなかった。
・・・うそだな・・・
考えまくった。というか、ジェシンの胸に潜り込んだユニの髪に何度も軽くキスをしたのは誰だったか、と苦笑が出る。そのうち覚えてろ、と我慢しただけだ。
それでもユニを安心させて眠らせたいと思ったのは本心だ。そこのところは自分を十分にほめてやりたいと思っているジェシン。
時間は午前11時。
「どこかで弁当でも買って、安東を車で流そう。」
景色のいい川べりで弁当を食って、気になるところには停まって降りて見学して、景色を眺めて空も眺めて、君の心を君の物語の時代に染めてしまおう。
手をとるジェシンに、少しばかり頬を染めたユニ。そして車へと二人は向かった。
11時前に戻ってきたソンジュンは、ヨンハとユンシクに何も気取られることなく、混む前の飲食店で名物のチムタクを食べ、トックの運転する車でソウルに向かった。ユンシクは助手席で眠ってしまい、ヨンハもうとうとと舟をこぎ始めたが、ソンジュンは眠る気はしなかった。運転しているトックの手前、という事もあったが、博物館で見たユニの姿がちらついて、寝るどころではなかった。購入した博物館の資料集を広げてはみたが、ずっと同じページから動いてはいない。
展示物のためか、暖房はそれほどきつくない博物館の中、薄いコートを羽織ったユニの横顔が目に入った時、正直足がすくんだ。幻を見た気がした。ソンジュンの心配の種、贖罪の対象、そして・・・初恋の人。
ユンシクに姉だと紹介されたとき、そのあまりにも似通った容貌にすっかり最初から気を許してしまった。気性・・・真面目なところだとか明るい笑顔だとか、働き者だとか、そんなところも好意を持続させた。それどころではない。知り合って一年以上、ユニとソンジュンは連絡先すら交換していなかったのだ。そんなことはソンジュンは初めてだった。知り合った女子学生は、すぐにソンジュンの連絡先を聞きたがる。そういう生き物だと思っていた。面倒だから教えはしない。だが、ゼミやどうしても必要な連絡網などでラインにはソンジュンにとっては友人でもない人のアイコンが並ぶ。連絡だけならグループでいいだろうに、個人で連絡を取ろうとする人もいた。何人も。正直嫌だった。連絡が必要無くなれば即座にブロックした。どちらにしろ何度か無視すれば連絡は来なくなる。ソンジュンはそういうところは容赦なかった。だから、ユニの連絡先を知らないことに気づいた時は驚いたのだ。
その時、ユニはもう、ソンジュンにとっては親友の姉であることを飛び越えて、ソンジュン個人の仲良くしたい人になっていたから。