プロデューサー指原莉乃が今感じていること 作詞のこだわりや待望の1stアルバムを語る

2021年5月19日 音楽ナタリーの記事より (取材・文 / 近藤隼人)

 

5月12日にリリースされた=LOVE待望の1stアルバム「全部、内緒。」。本作はシングル計8作の表題曲のほか、指原莉乃プロデューサーが新たに詞を書き下ろした新曲8曲を収録したボリュームたっぷりの内容で、右肩上がりに人気を拡大させている=LOVEの魅力がふんだんに詰め込まれている。 

 

音楽ナタリーでは2組に分けて行ったメンバーインタビュー(参照:=LOVEインタビュー|待望の1stアルバム「全部、内緒。」発売、4年間で培った表現力で魅せる新曲8曲の聴きどころは?)に引き続き、「全部、内緒。」の特集を展開する。今回はグループの全楽曲の作詞を手がける指原Pのインタビューを掲載。歌詞についてのこだわりや多彩なアルバム曲の制作経緯、アイドルをプロデュースするうえで感じていることなど、彼女が語った言葉を1万字超えの長尺テキストでお届けする。

 

 

初作詞はあまりいい思い出じゃない

──今日は=LOVEのことをたっぷり語っていただこうと思いますが、こういう機会は今まであまりなかったんじゃないですか? 
 
確かに! 初めてかもしれないですね。 
 
──アルバムの話を伺う前に、まずはグループの始まりから振り返らせてください。=LOVEは4年前の2017年に結成されましたが、当時どんなアイドルグループを作ろうと考えてプロジェクトを始めたんでしょう? 
 
私自身コンサートがすごく好きなので、生歌でちゃんと勝負できる、ライブに強いグループですね。コンセプトをかっちり決めるというより、曲も含めて自分の好きなものを作ろうと思ったのが最初です。 
 
──オーディションにおけるメンバー選考の基準は何かあったんですか? 
 
ちょっと誤解を招く言い方かもしれないですが、=LOVEのメンバーは生え抜きというより、もともとセミプロっぽい子が多いんですよ。芸能活動が初めての子もいましたが、半分くらいは経験者だったのかな。完成度を高めて、ほかのアイドルグループに早く追い付かなきゃいけないという思いがあって、歌やダンスのクオリティを優先したら自然とそういう形になったんです。なので歌とダンスのスキルやポテンシャルについてはオーディションの段階で重要視してましたね。今も別に面白くて笑いの取れるアイドルになってほしいとは一切考えてなくて、ステージで一番輝くアイドルでいてほしいと思っています。 
 
──自分で作詞することも最初から決めていたんですか? 
 
なんか自然とそういう形になったんですよね(笑)。秋元(康)さんがそうだからかな。自分で歌詞を書くのが当たり前だと最初から思ってました。逆にそこをやらなかったら、クリエイティブのプロデューサーとしてやることが少なくなっちゃいますし。 
 
──指原さんの初作詞曲は2012年発表のご自身のソロ曲「遠い街へ」「ifの妄想」ですよね。この2曲は2枚目のソロシングル「意気地なしマスカレード」にカップリング曲として収録されました。
 

あー、そうです! それ、秋元さんにバチギレされて、結果として自分で書くことになったんですよ。失礼ながらどういう経緯だったか詳細は覚えてないんですけど(笑)、その当時は2週間に1回くらいのペースで秋元さんにいろいろ注意されて怒られていて。もちろん私が全部悪かったんですが、いつもは許してくださっていた中、そのときは「そんなことなら自分でやりなさい」と言われてしまい、泣く泣く自分で書いたんです。あまりいい思い出じゃないですね(笑)。

 

──自発的に「自分で作詞したい」と話したわけじゃなかったんですね。

 

全然そんなこと言ってないです(笑)。秋元さんからしっかりアドバイスをいただきつつ、自ら進んで作詞したのはSKE48の松村香織のソロ曲(2013年発表の楽曲「マツムラブ!」)が最初ですね。

 

──現在、指原さんは=LOVEとその妹分である≠MEの2グループに歌詞を書いていて、作詞家としての経験を相当積んできましたが、2013年当時は手探りで作詞した感じでしたか?

 

そうですね。作詞って明確なルールや教科書があるわけじゃないし、完全に自分の中から生み出さなきゃいけない作業で。大物である秋元さんに「歌詞ってどうやって書くんですか?」と聞くのもなんか変な話だし、特にソロ曲のときは状況が状況で聞きづらかったですし。今も恐れ多くて、=LOVEの歌詞について「どうですか?」と尋ねることはないんですよ。でも、なんのときだっけな……1回だけ作詞について話を聞いてみたんです。そしたら「結局は指原の頭の中の出来事で正解はないから、なんでもいいんだよ」というお話をいただきました。

 

──「マツムラブ!」では作詞だけでなく、選曲やジャケット写真についてもプロデュースされましたが、その経験がきっかけでプロデュースというものに興味が湧いたり?

 

私のファンじゃない人も曲を聴いて喜んでいて、その環境がすごく不思議だったのを覚えてますね。プロデュースするってこういうことなんだなって。

売れる気配ビンビンです

──結成から4年、シングル8枚のリリースを経て、=LOVE初のアルバム「全部、内緒。」が完成しました。メンバーもファンもアルバムの発売を待ち望んでいたと思いますが、このタイミングになったのはなぜなんでしょう?

 

正直に言うと、ここまで時間がかかっちゃったのは人気や知名度が上がるのを待っていたからですね。シングル曲が貯まっていってアルバムに2、3曲しか新曲を入れられない、という状況になるのがイヤだったので、個人的には結成1年目に出したかったんです。でも、結果的に今回8曲も新曲を入れることできましたし、作品の内容にはすごく満足しています。念願だったアルバムをやっと出せてうれしいですね。

 

──人気とともにメンバーのスキルも向上したことで、いろんなタイプの楽曲を入れることができたんじゃないでしょうか。

 

初期と比べると複雑な曲を歌いこなせるようになってきていて。なんなら私の技術が追い付いていないと思うくらいみんな成長しています。人気的な意味で言うと、私が=LOVEのプロデューサーとしてではなく、1人のタレントとしてテレビ番組に出演しているときに、そのゲストの方に「=LOVE聴いてるんです」と言われることがすごく多くなって、「なんだかすごいことになってきたな」と思うことはありますね。

 

──今年1月に日本武道館公演を成功させ、4月には地上波での冠番組がスタートするなど、順調に人気を拡大させているように思います。プロデューサーとしてもグループが売れてきていることを肌で感じているんですね。

 

もうビンビンですね(笑)。ビンビンに感じているんですけど、1歩ずつ確実に前に進むことが大事だと思っているので、焦らず、興奮しすぎずにいようと思っています。

 

──今年に入ってYouTubeを始めるなど、指原さん自身も相変わらず忙しい日々を過ごしていると思いますが、4月にリリースされた≠MEのメジャーデビューミニアルバム「超特急 ≠ME行き」と合わせ、今回多くの新曲を作詞するのはかなり大変だったのでは?

 

短期間に計13曲も作ったんですよ。気が狂うくらい歌詞を書きました(笑)。収録曲が4曲のシングルと比べると、今回はものすごいスピード感で作らなくちゃいけなくて……つらかったですね(笑)。何が一番つらいかと言うと、それは曲選びで。集まる曲が本当にいい曲ばかりで、「この子にはこの曲を歌わせたいな。でも、これだと難易度高すぎるかな」とか考えすぎて頭がパンクしそうになって、いろんな人に意見を聞きました。

 

──詞を書くのと曲を選ぶのはどういう順序なんですか?

 

先に自分の中でだいたいのイメージを組み立てて、曲に入れたいフレーズを決めるんです。アルバムのリード曲「桜の咲く音がした」で言うと、「桜の咲く音」というフレーズを入れたいと考えながら曲を選んでいきました。そして自分のイメージがハマる曲が決まったら、そのあとに詞をガッツリ書いています。この話を秋元さんにしたら、秋元さんも最初にワードを思い浮かべて、それがハマる曲を選んでいると言っていました。

 

──そうなんですね。作詞の面で秋元さんの影響を受けていると感じることはありますか?

 

男性目線の曲になりがちなところですね。秋元さんは基本的に男性目線の曲が多くて、女性目線の曲が少ないんですよ。私の歌詞にはどこか秋元さんっぽいところがあって、それがうれしくもあり複雑で……でも、最近は=LOVEのグループとしての雰囲気が固まってきたので、逆に女性目線の曲しか書かなくなりました。アルバムではそういう私の作詞の変化も流れとして見ることができると思います。初期は男性目線の曲が多かったけど、最近は女性目線の曲ばかりという。もう=LOVEには“僕”系の曲は書けないかもしれないです。

 

──それは具体的に言うとどういう理由で?

 

あくまで私の考えなんですが、初期はメンバーみんな子供すぎて、何がなんだかよくわかっていない状況だったから、自分以外の目線、つまり僕目線の曲が合っていたのかなと感じていて。今は彼女たちに「自分はこうしたい」という自我や意志みたいなものがより芽生えてきたので、自分を表現しやすい女性目線の曲のほうが合っているんじゃないかなと思っています。自身の経験や心情と重ねて歌えるようになったというか。

 

──なるほど。指原さんは歌詞の意味をメンバーに説明しないと聞いたのですが、それはメンバーに自由に解釈してほしいから?

歌詞の解釈にこだわりはないので、好きに受け取ってもらっていいんです。私も秋元さんから「これはこういう歌です」と説明されたことはほとんどないですし、メンバーが自分で感じ取るのが一番かなと。

 

衝撃を受けたつんく♂曲は

──作詞に関して秋元さん以外で影響を受けた人はいますか?
 

うーん、マンガとか、音楽以外のものから影響を受けることのほうが多いかもしれないです。「こういう状況のとき、こんな気持ちになるんだ」って。音楽的なことだと秋元さんかつんく♂さんの曲しか聴いてないので、そのどっちかになっちゃいますね(笑)。

 

──つんく♂さんからは具体的にどういう影響を受けてますか?

 

つんく♂さんの書く、女性の複雑な気持ちを描いた曲が大好きで。松浦亜弥さんの1stアルバム(2002年発表の「ファーストKISS」)の収録曲で「そう言えば」という曲があって、中学生のときに初めて聴いたんですけど、「すごい!」って衝撃を受けたんですよ。それと、藤本美貴さんの「大切」(2003年発表のシングル「ブギートレイン'03」の収録曲)。その2曲がホントに衝撃で、語呂が気持ちよくて、キャッチーな曲もあれば、ちゃんと恋愛の気持ちを描いた曲も作品に入れる、というのは自分としても意識してることかもしれないですね。

 

──つんく♂さんが有料マガジン「つんく♂のプロデューサー視点。」の中で、具体的な数字を書いたほうが感覚的に女の子目線になる

とおっしゃっていて、なるほどと思いました。例えば「熱が出た」という歌詞を書くなら、「38.2℃」という数字を入れるという。

 

私もそれ見ました。オンラインサロンにも入会しようかと思っちゃいましたが、意識しすぎるのもよくないかなって(笑)。最近、つんく♂さんは歌詞について語ることが多いですし、そういう作詞のコツみたいなのを聞くのは楽しいですね。秋元さんには「一番聞かせたい部分はAメロ、Bメロで出さないほうがいいよ」と言われたことがあって、考えてみればすごく基本的なことなんですけど、私は最初意識できていなかったことでした。「桜の咲く音がした」だったら、“桜”というワードは大サビまで取っておくっていう。

 

──「桜の咲く音がした」は新生活や初恋を描いたナンバーですが、メンバーにインタビューしたとき、「新学期」などのストレートな表現が出てこないのに、「履き慣れないローファー」という歌詞でその情景が浮かぶのがすごいと言っていました。

 

普段メンバーから曲の感想を聞くことがないので、なんだかうれしいです(笑)。私としてはなるべく歌詞の中でストーリーを進めたいんですよ。だんだんと気持ちの変化が見えるようにして、大サビでそれまでと違う歌詞が来るっていう。そのためにストレートな言葉を入れるか入れないかは曲によってですかね。もっとストレートに表現したほうがいいときもありますし、今回は初恋を描くのに細かい描写を入れたほうがいいかなと思いました。

 

──今回、アルバムを制作するにあたっては「桜の咲く音がした」の歌詞を最初に書いたんですか?

 

この曲はかなり前から書いていた曲なんです。楽曲自体はもともと「『君と私の歌』」(2020年7月発表の7thシングル「CAMEO」の収録曲」)のときに選考から漏れた曲で、1年近く寝かせていてやっと日の目を見た感じですね。いつも200曲くらいの中からシングルのための4曲を選ぶんですが、そのときに漏れたやつがもったいなさすぎて、改めて洗いざらい聴き直したんですよ。こんなにいい曲がこぼれているという事実が怖すぎるんですけど、前作とのバランスなど、そのタイミングで合うものを選んでいて、今回はアルバムのリード曲のイメージにぴったりだったので「絶対にこれがいい!」と即決しました。

センター髙松瞳には独特の魅力がある

──ここからはリード曲以外の新曲について話を伺いたいと思います。まずは、メンバーの名前で韻を踏む歌詞が印象的な「Oh!Darling」について。

 

「Oh!Darling」を作ったきっかけは、(高松)瞳と(齊藤)なぎさが歌う楽曲「流星群」(2020年11月発表の8thシングル「青春"サブリミナル"」の収録曲)なんです。この曲の中に「ポニーテールが瞳に映る時」「ツインテールで 渚 駆ける君は」という2人がお互いの名前を呼び合うところがあるんですが、何かのインタビューでみりにゃ(大谷映美里)が「瞳となぎさは歌詞に入れやすい名前だけど、私の名前は絶対入れられない」みたいに言っているのを見て、今回「1.5(ミリ) おおたに(えみり)」という歌詞をねじ込んだんです。なので、この曲はBメロから作り始めました。

 

──キャッチーな歌詞も相まってライブの盛り上がり曲になりそうな印象ですが、こういう底抜けに明るいアッパーチューンって意外と今までの=LOVEにはなかったですよね。

 

そうなんですよ。≠MEには「クルクルかき氷」という曲があるのに対し、=LOVEにははしゃいだ雰囲気の楽しい曲があまりなくて。「Oh!Darling」の歌詞は深い意味はないけど、リズムが気持ちいい言葉が並んでいます。

 

──「桜の咲く音がした」と「Oh!Darling」では髙松さんがセンターを務めています。髙松さんは1年間の休養期間を除き、参加したシングルすべての表題曲でセンターに立っていますが、やはり指原さん的にグループの顔として絶対的な信頼を置いているんでしょうか。

 

瞳の休養中になぎさやみりにゃがセンターを務めてくれたシングル曲も最高の楽曲になったと思っていますし、瞳が絶対的なセンターというイメージは実はなくて。でも、全体のバランスを見たときに、彼女が真ん中にいるのが一番気持ちいいんですよね。声や笑った顔もそうですし、センターとしての堂々とした佇まいはすごいと思います。

 

──ひと言で言うと、華があるということなんですかね。

 

めちゃくちゃありますね。独特の魅力があって、逆にセンター以外のポジションに立っているとぼんやりしちゃうんです。それって才能なんでしょうね。うらやましいです。

 

──このほか、アルバムには齋藤樹愛羅さんがセンターを務める「セノビーインラブ」や、音嶋莉沙さんのセンター曲「cinema」も収録されています。「セノビーインラブ」は背伸びしたい女の子の気持ちを歌ったナンバーで、最年少メンバーでありつつ、大人に成長している真っ最中の今の樹愛羅さんにぴったりな歌詞ですね。

 

樹愛羅にはすでに「樹愛羅、助けに来たぞ」「いらないツインテール」というセンター曲が2つもあるし、なるべくいろんな子にセンターをやってもらいたいという思いもあるので、正直この曲を書くかめっちゃ迷ったんですよ。でも、メンバーにとって最高の状況やタイミングに合わせてセンター曲を歌わせてあげたいという気持ちもあり、今回「セノビーインラブ」を作りました。歌がうまくなってソロパートを多く任せられるようになったタイミングとか、そういうことを考えたときに、樹愛羅ってすごく優秀で。歌もダンスもうまいし、キャラクターも濃いし、素晴らしい人材だなと改めて気付いたんです。それに加えて本人の成長というストーリー性もありますし、歌詞を見ただけで樹愛羅っぽいと思ってもらえるのは彼女自身の才能だと思います。ほかの曲でも歌詞を書いていて、「このパートは樹愛羅だな」と思うことがよくあるんですよ。

 

──最近、特にどのあたりに成長を感じます?

 

歌のニュアンスの付け方がすごく上手になってますね。しびれるくらいうまいときがあって。「セノビーインラブ」だと、「ちょっと待って!woo」の「woo」が聴きどころですね。曲に流されない声を持っていて、それは本人の努力の結果でもあるでしょうし、もともとの才能でもあると思います。もともとうまかったダンスもさらに上達していて、ステージでも目立つんです。

 

──一方の「cinema」はどういう経緯で曲ができあがったんでしょうか?

 

=LOVEではセンターを選んでから歌詞を書くパターンと、書いてからセンターを決めるパターンがあるんですけど、これは後者だったんですよ。作詞した結果、この曲のセンターに合うのが莉沙しかいないという考えになって。映画館デートをテーマにした曲なんですが、服選びのときの慎重さとかが一般の感覚に一番近いのは莉沙だと思うんです。例えばなぎさだったら、「これが一番私に似合う!」と堂々といくイメージがある。あと、センターを選ぶ基準としては音域もポイントの1つで、この曲だと落ちサビを安心して歌えるメンバーが莉沙なんです。せっかくセンターをやるなら損はさせたくないというか、音域が合ったメンバーに落ちサビを歌ってほしいんですよ。

これが本物のアイドル

──続いて、なぎささんの初ソロ曲「現役アイドルちゅ〜」について聞かせてください。

 

「現役アイドルちゅ〜」は5秒くらいで曲を決めました。「絶対これだ!」という曲がすぐ見つかったんです。なぎさは顔がかわいすぎるあまり努力してないように見える、「いいよね、顔がかわいくて」と思われちゃう存在かもしれないですが、実際はものすごい努力家なので、アイドルとしてのプロ意識が高い彼女だからこそ歌える歌詞を書いて、曲もそれにぴったりな王道のアイドルソングにしました。ミュージックビデオもすごくて、「これ、ほかに誰が着られるの?」と思うような衣装を着てるんですよ。ちょっと毒々しさを感じるくらいのアイドル衣装を完璧に着こなしていて、しびれましたね。才能もあるし、努力もしてる。これが本物のアイドルだなと思いました。

 

──こういう“ザ・アイドル”な存在感を出せるアイドルって意外と希少ですよね。

 

本当にすごいです。もし私がアイドル時代にこの衣装をもらってたら、「いや、いじられてるじゃん!」と思ってたんじゃないかな。でも、なぎさは「この衣装をいただけてめちゃくちゃうれしい」と言ってくれて、これを着ることの恥ずかしさが一切ないんですよ。

 

──そういうところは、ももいろクローバーZの佐々木彩夏さんに通じるものがあるかもしれませんね。

 

そうですね。あーりんも職業アイドルな人じゃないですか。今はもっと自分を開放している感じがありますが、徹底したアイドルっぷりを見せる職人なところは同じだと思います。

 

──なぎささんは、オーディションのときからその片鱗があったんですか?

 

めちゃくちゃかわいいなとは思っていたんですけど、3rdシングル(2018年5月発表の「手遅れcaution」)あたりから歌もびっくりするくらいうまくなって。今や歌唱メンバーで、ルックスだけじゃなく実力も兼ね備えていて、無敵になりつつありますね。

 

──同じく、アルバムで初のソロ曲「拝啓 貴方様」を歌っている野口衣織さんについては、どんな印象でしょう?

 

たぶん、衣織は人のことを呪い殺せるタイプなんですよ(笑)。憑依型というよりも努力型で、歌詞をじっくり読み込むタイプ。レコーディングのときは毎回かなり苦労して完璧な人物像を作り上げてきてくれるんです。衣織がセンターを務めた「『君と私の歌』」もそうでしたが、「拝啓 貴方様」でも曲の主人公になりきっていて。この曲の子はすごく複雑ですが、彼女のイメージにすごく合っていると思います。

 

──YouTubeでは野口さんによるYOASOBI「夜に駆ける」のカバー動画が150万回近く再生されています。やっぱり歌唱力があるメンバーがいるのは頼もしいですか?

 

強いですね。歌にもダンスにも一切妥協がなくて頼もしいですし、尊敬します。表現力もあって、ステージで一番目に付きやすいメンバーです。パフォーマンス中とMCでは全然表情が違って、どれが本当の彼女なのかわからないのが魅力だと思います。

 

──アルバムには樹愛羅さん、髙松さん、野口さん、諸橋沙夏さん、山本杏奈さんによるユニット曲「24/7」も収録されていますが、この曲はアイドル要素の薄いクールなダンスナンバーで、野口さんと諸橋さんの2人がセンターを務めています。

 

「24/7」はバリおしゃれ系の曲ですね(笑)。「青春"サブリミナル"」や「現役アイドルちゅ~」のようなアイドルファン向けの曲ではないかもしれませんが、コンサートのセットリストを作るにあたって緩急を付けるのが毎回のテーマで。コールが入るようなタイプではないけど、お客さんをしびれさせる曲だと思います。これくらい突き抜けていても今の彼女たちなら表現できるんじゃないかなという信頼も込めて、アルバムに入れました。今回ユニット曲を制作するにあたり、本人たちにアンケートを取ったんですよ。「ダンス曲とかわいい曲、どちらがいいですか?」って。それでダンス曲を選んだ子と、この曲に合っている子でメンバーを構成しました。

 

──ではもう一方の、大谷さん、大場花菜さん、音嶋さん、なぎささん、佐々木舞香さん、瀧脇笙古さんによるユニット曲「お姉さんじゃダメですか?」ではかわいい曲を歌いたいというメンバー、曲の雰囲気に合ったメンバーを集めたんですか?

 

そうですね。ダブルセンターのみりにゃと舞香のバランスがすごくよくて。グループの中でもお姉さん的な包容力があって、メンバーの精神的な支えになっている2人だと思うんです。この2人にセンターをやらせたいと思ったときに、誰目線の曲にしようかと考えて、大人の女の人の歌にしました。みりにゃは=LOVEの中でお姉さんっぽさが一番ありますし、舞香もこういう曲のほうが似合うと勝手に思ってるんです。「全部、内緒。」というアルバムタイトルと通じるところがあるんですけど、人には言えない内緒のストーリーが描かれています。

競争意識はあったほうがいいのか

──新曲の中で一番難産だった曲はどれですか?
 

私は基本的に筆がバリ早で、一瞬で書けないと気持ち悪いんですよ。一度立ち止まっちゃうとダメなので、集中して一気に書き上げちゃうんですが、「セノビーインラブ」はかなり考えて歌詞を書きました。というのも、曲の中で歳の差の恋を絶対に成就させたくなかったんですよ。イメージとしては高校と大学くらいの歳の差なんですけど、解釈の仕方にしてはもっと幼い子とおじさんとの恋にも見えるし、その内容で最後にキスして終わったら気持ち悪いじゃないですか(笑)。途中まで書いてて「ヤバい! このままだとキスして恋が成就しちゃう」と思って、「絶対に成就させないぞ」というこだわりを大サビに詰め込みました。歌詞の中とは言え、変な関係にさせたくないんですよ。

 

──ほかにプロデュースするうえで徹底していることはありますか? 自身のアイドルとしての経験も踏まえて、これだけは絶対にやらないようにしている、ということなど。

 

うーん、総選挙(「AKB48選抜総選挙」)みたいなこととか……? でも、私自身はそのおかげでかなり成長しましたし、難しいですよね。48グループって精神的にめっちゃ強い子が多いんですよ。特に私の同期や先輩方、ちょっと下の後輩あたりは。いろんな人と比べられたりする経験を経ていろんなことを諦めた感情もあり、よくも悪くもメンタルが強いんです。それと比べたら=LOVEは悪い意味だけじゃなく繊細です。わからないんですけどね、競争意識があったほうがいいのかどうか。なかったらそれはそれで精神的に弱くなっちゃうし、いまだ模索中です。

 

──どちらにしろ、=LOVEではメンバー同士でセンターの座を懸けて競うような企画はやるつもりはなさそうですね。

 

それは私側の根本的な問題もあって、「この子がセンターの曲を書いてください」とお願いされても詞を書けないんですよ。例えばファン投票で1位になった子のセンター曲を書く、みたいな。自分が書きたいと思ったときに一番いい曲を書けると思っていて、秋元さんみたいにどんなときでもその子に一番合った曲を提供することはまだできないんです。それと、もちろんメンバーに順位を付けるのにも抵抗はあります。

 

──総選挙をはじめ、秋元さんはファンも最初は困惑するようなサプライズ企画をあえて仕掛けていく人ですが、指原さん的にはそこも真似はできないと。

 

どうなんでしょう。今まで自分が振り回されすぎて(笑)、やる側になるのを考えられないかもしれないですね。AKBメンバーはそういう環境に慣れすぎて、じゃんけん大会とかもみんな全力で楽しめるタイプでしたが、=LOVEに「じゃんけん大会やるからコスチュームを自分で選んで、好きなように自己プロデュースして」と言ってもまだ何もできなくて終わってしまうと思うんです。やってもそんなに面白くならないだろうなという気持ちと、そもそも自分がそんなに仕掛けたくないという気持ちがあります。振り回されるのも楽しかったですが、秋元さんのアイデアと当時のAKBのメンバーだったからこそあそこまで盛り上がったんだと思います。

 

──変にバズることを狙うのではなく、楽曲とライブパフォーマンスで人気を広げていくのが一番の近道かもしれません。

 

でも、楽曲に関してはどんな曲が誰に刺さるかわからないですし、王道の曲ばかりやっていてもファン層は広がらなくて。秋元さんが一番褒めてくる=LOVEの曲って「ようこそ!イコラブ沼」なんですよ。なんか意外ですよね。ホントに何が誰にハマるかわかならいから、いろんな曲をいろんなタイミングでやらなきゃいけないんだなと思っています。一方で、自分が好きな王道の曲ばかりやりたいというもどかしさもあるんですけど。

プロフェッショナルな魂を持ってほしい

──楽曲以外の面で、アイドルグループをプロデュースしていて難しいと感じることはあります?

 

まあみんな若い女の子なので、メンバーにいろいろありますよね。これは=LOVEの話というわけではなく、今のアイドルは昔と比べて辞めることに対してのハードルが下がったなと感じています。私もHKT48時代、最後の数年は卒業のタイミングを頭の隅で考えつつ活動していたんですけど、すぐに辞められなかったのは、秋元さんにどうしても言えなかったのが理由の1つなんです。グループに向き合って素敵な曲を書いてくださる秋元さんに対して申し訳なさがあって、意を決して口に出して言えたときが本当に卒業するときでした。でも、辞めることへのハードルが下がったというのも、本人たちが自由に生きている証なのかもしれません。自分の好きなように生きるのが今のアイドルのあるべき姿なんだと思います。「私の時代はこうだった」と言うつもりはないですし、今後=LOVEのメンバーから「辞めたい」と言われたら無理に止めることはしないです。そもそも、辞めたいと思うのはアイドルに限らず普通のことじゃないですか。「仕事辞めたいなー」と思うことは誰にでもあることで、アイドルに関しては芸能がすべての幸せではないですし、その子自身の人生ですから。メンバーにはいろいろ葛藤や悩みがあって、それと向き合うのは大変ですけど、楽しくもありますね。秋元さんにはそこまでやらないほうがいいって言われますけど。

 

──それは、プロデュース以外のことで深入りするなという意味で?

 

「1人でタレントをなんとかできるはずがないから、マネジメントはマネジメントの人たちに任せなさい」ということですね。クリエイティブのプロデュースに全力を注げって。とは言え、=LOVEは48グループほど人数が多いわけではないので、見れる限りのことは見ようとも思っています。

 

──指原さんはときどき、LINEでのメンバーとのやり取りをスクリーンショットしてTwitterに上げたりしていますが、なんでも相談しやすい関係性なんでしょうか?

 

どうなんだろう(笑)。そうでもないと思いますよ。私が秋元さんに「卒業します」と言うのが怖かったように、わりとハードルがあると思います。この間、なぎさから「MVでやりたいことがある」とLINEで連絡が来て、「えっ!」とびっくりしたんです。いつもは私が決めたことを「わかりました!」と楽しんでやってくれるし、メンバーから意見を言われるのが初めてだったんですよ。めっちゃ怖くて、自分のやりたいことに振り切ったアイデアが送られてきたらちょっとショックというか。監督は誰々で、照明をこうしてほしいとか、こう見られたいという思いを詰め込みすぎたアイデアが来たらどうしようと思いつつ、その意見は尊重してあげたいなと考えてドキドキしていたんですけど、「どんなことがやりたいの?」と聞いたら、「くまの髪型とツインテールをやりたいです」と言われて安心しました(笑)。「それはもちろんやろう」と返しました。

 

──蓋を開けてみたらかわいらしい話だったと(笑)。そういうふうに活動内容のことで連絡を取るのは珍しいんですね。

 

LINEはけっこうしてると思いますけどね。コンサートのあとに「ここがよかった」と話したり。それで言うと、≠MEメンバーのほうがガツガツ送ってきますね。若いから私に対してあまり怖さを感じてないんだと思います。=LOVEのほうが慎重で、じっくり考えて連絡してきます。全然普通に連絡してくれてもいいんですけど。

 

──メンバーへのインタビューでは、みんな口をそろえて指原さんのことを「神」と言っていて、畏れも入ったリスペクトの感情を抱いているのを感じました。

 

いやいやいや、聞かれたら「神」って言うしかないですもん(笑)。でも、けっこうドライな関係ではあるかもしれないです。最近はコロナの影響で機会がないですが、スタッフさん含めメンバーとごはんを食べに行くとき、いつもめちゃくちゃ緊張しますから。

 

──それはメンバーのほうもすごく緊張してると思いますよ(笑)。

 

してますよね。だから全員が緊張していて、しょうもない話をしていて終わっちゃうんです(笑)。でも、プロデューサーってそんな感じなのかもしれないですね。メンバーのパーソナルの部分も詳しくは知らないんです。

 

──最後に、=LOVEを今後どんな存在にしようと思っているか、グループとしてのビジョンを聞かせてください。

 

いい意味でプロフェッショナルな魂を持ってほしいと思っています。私が見た先輩方はどんなに忙しくてもカッコよかったですし、精神的に参っていた瞬間はあっても強かったんですよ。変なわがままも言わず、自分のことを客観的に見ていて。=LOVEメンバーもわがままは言わないんですけど、これから売れてきたときにどうなっちゃうか怖いんです。贅沢な想像かもしれませんが、例えば1日にCM3本撮るみたいな状況になったとき、今のままだったら体力的にも精神的にも潰れちゃうんじゃないかって。なので今のうちにメンバーの心臓を強くしたいですね。すでにかなり成長してプロフェッショナルになってきているんですけど、人気に対して気持ちが追い付くようになってくれたらうれしいです。そしてそんな彼女たちを支えられるプロデューサーやマネジメントでいないといけないなと思っています。

 

2021年5月19日 音楽ナタリーの記事より (取材・文 / 近藤隼人) 

 

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2021年5月19日 音楽ナタリーの記事そのまま載せました。
こんな貴重なインタビュー出来るだけ多くの人の目に触れますように。ただそれだけ。