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『ファミ通ゲーム白書2024』より

『パルワールド』の社長が語るインディーゲームをヒットさせるポイント4つ。「市場」「大企業がやらないこと」「Mod」あとひとつは?

2024年09月11日 17時00分更新

文● 株式会社ポケットペア 代表取締役社長 溝部拓郎/編集● ファミ通ゲーム白書編集部、村野晃一(ASCII編集部)

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ハ゜ルワールト゛

 コンソールが強い日本においても、ようやくPCゲームが台頭してきた。その台頭を牽引する先導役が、SteamとXboxでダウンロードゲームを展開するインディーゲームのカリスマ企業、ポケットペアだ。同社の四作目『Palworld /パルワールド』は、総プレイヤー数2500万人本を超える大ヒットとなった(2024年4月現在)。同社・溝部社長に『パルワールド』成功の秘訣とインディーゲームの可能性を聞いた。

『パルワールド』が大ヒットした要因は

溝部社長(以下、溝部):事前にSteamのウィッシュリストを十分に獲得していたのことで注目がまり、加えてインフルエンサーやストリーマーたちに、リリースの数日前から放送配信を解禁し、盛り上がりを十分に作った状態でリリースできたため、多くの購買につながりました。

 ただウィッシュリストを獲得し、事前配信を行えば、そのゲームが盛り上がるかといえば、必ずしもそういうわけではありません。

 ゲームを制作する上で、「このゲームをプレイしたい」「このゲームのおもしろさを拡散したい」「このゲームについて誰かと話したい」と思ってもらえるようなゲームを設計すること、つまり前提条件として、どのようにすれば話題になるかということを折り込んだ上で、ゲームを制作することが重要です。

 昨今、D2C(Direct to Consumer)が世界的なトレンドになりました。これは、商品を仲介業者や店頭に出すことなく、ECサイトを構築し、直接ユーザーに販売するビジネスモデルのことです。マーケティングと製品開発を分けるのではなく、最初からどのようにしてバイラル(viral=ウィルスのように拡散する様子。たとえば、ネット上の動画や画像、記事、広告などが口コミによって多くの人々に拡散され、急速に注目を集めることを指す。また、そうした効果を狙ったマーケティング戦略のこと)で商品を展開していくかといった思考のもと、マーケティングと製品開発が一体となった販売戦略を構築します。

 私はゲーム制作もまったく同じだと思います。最初からマーケティングと製品開発が一体となってゲーム制作をする必要があると強く思っています。

 もちろん「おもしろいものを作りたい」という気持ちも持っていますが、同時に作ったものをどのようにして広げていくかということを念頭に置きながら開発しています。

『Palworld /パルワールド』。リリースから約1ヶ月でSteam での購入数が1500万本、Xbox Game Pass で1000万人、総プレイヤー数が2500万人の大ヒットゲーム。広大な世界で不思議な生物『パル』を集めて、戦闘・建築・農業を行わせたり、工場で労働させたりする全く新しいマルチ対応のオープンワールドサバイバルクラフトゲーム。また、2024年7月10日、ソニー・ミュージックエンタテインメント、アニプレックス、ポケットペアの3社は、ゲーム『パルワールド』の国内外におけるライセンス事業を推進するためのジョイントベンチャー“パルワールドエンタテインメント”の設立に合意した

そもそも、おもしろいゲームとは

溝部:私たちがおもしろいと思っているものでも、それを作った結果、誰にも受け入れられなかったとしたら、私たちはそれを「おもしろくない」と考えます。つまり「自分たちが制作したゲームが、様々な人にプレイされて、初めておもしろいといえる」という考え方が根底にあります。

 その上で、どのようなものがおもしろいゲームか、という視点について、ざっくり3つほどあると思っています。

 1つ目は「プレイヤーの想像力が発揮できるゲーム」です。

 このイメージとして一番わかりやすいのは『Minecraft /マインクラフト』です。『マインクラフト』は、プレイヤーが想像力を発揮し、ゲーム内に自分が思うままのコンテンツを作成できる、いわゆるUGC(User Generated Contents=ユーザー生成コンテンツ)要素を持っています。UGCでなくても「こういうことをするとどうなるのか」と、プレイヤーに創意工夫できる余地があるものが、おもしろいと思っています。

 当社が最初にリリースしたデッキ構築型カードゲーム『Overdungeon /オーバーダンジョン』は、既存のカードゲームとは違い、インフレしていく設計で制作しています。そうすると、開発者が想定していなかったカードの組み合わせが次々と生まれ、まさに狙い通りのおもしろいゲームになりました。

Overdungeon /オーバーダンジョン

『Overdungeon /オーバーダンジョン』。ローグライク、タワーディフェンス、そしてカードゲームを融合させた、全く新しい新感覚アクション・カードゲーム

 2作目の『Craftopia /クラフトピア』は、当社が初めて制作したオープンワールドゲームでしたが、可能な限り物理エンジンの挙動に動作を任せることで、開発者が想像もしないような事が起こるゲームになりました。

 その結果、「クラフトピア」を遊ぶプレイヤー達は、ゲームのバグに近いような挙動を次々に発見し、全く予想していなかったテクニックを次々と編み出していきました。これらは総称で「クラフトピア学会」と呼ばれ、コミュニティ内では非常に親しまれました。

 『パルワールド』もプレイヤーが「これをやったらどうなるんだろう?」という事は、なるべく出来るように意図して作っています。倒したパルを転がしたり、人間NPCでさえも捕まえたり出来る仕様は、その最たる例です。

 このように、プレイヤーが想像力を発揮できるゲームが、当社が考える、おもしろいゲームの一つの要件だと考えています。

 2つ目は「発展途上のジャンルを制作すること」です。

 ゲーム制作にある程度の資本を投入する場合、ユーザーの大多数から支持されることを前提としたゲーム作りをする必要があります。キャラクターを魅力的にし、ストーリーにコストをかけ、カットシーンを見せ、映画的なもの作りをする……。そのようにお金をかければ、それなりのリターンが見込める可能性が高くなります。

 一方で、そうなるとゲームの雰囲気もシステムも決まってくるので、作られるゲームがある程度定式化されたものになりやすく、そこから先に発展させるのは困難だと考えています。

 また、そもそも我々のような規模のチームがこのようなゲームを作ること自体、現実的ではありません。

 当社が取り組んでいる「サバイバルクラフト」というジャンルで、今もっとも親しまれているのは『マインクラフト』でしょう。

 『マインクラフト』もプレイヤーの裁量に任せる部分が多いため、パブリックアルファ版がリリースされた2009年(正式リリースは2011年)から2024年の現在まで、まだまだ進化を続けているゲームです。

 「サバイバルクラフト」というジャンルは、中堅のゲーム会社が荒削りではあるが新しい要素を組み合わせたゲームを、次々とアーリーアクセスでリリースしているジャンルです。

 プレイヤーが制作したMODから着想を得てゲーム本編にその機能が実装されるケースも多く、ゲームの発展にプレイヤーのフィードバッグは欠かせません。発展途上のものを開発者・プレイヤーが共に楽しむジャンルと言えます。

 私としては、このようなジャンルに取り組むことが、ゲーム開発としては最も面白く、やりがいと感じています。変化も早くダイナミックなので、非常にチャレンジングではありますが、発展途上で、プレイヤーが望んでいるものを次々と取り込んでいける開発は、おもしろい物を作りやすいと感じています。

 3つ目は「マルチプレイヤーの掛け算のおもしろさ」です。

 オンラインで気軽に誰でもつながることができる時代になり、マルチプレイヤーゲームは、ここ10年ほどで劇的に進化しました。『League of Legends /リーグ・オブ・レジェンド』が登場したのは2010年代ですから、バトロワゲームが登場してまだ10年経っていないくらいです。日本ではバトロワゲームの登場からマルチプレイヤーで遊ぶPCゲームがスタンダードになってきたと思いますが、このマルチプレイヤーというジャンルは、すべての要素が掛け算で効いてくると思っています。

 通常のゲームは、おもしろさが足し算で増えていくのに対し、マルチプレイヤーのゲームは、おもしろさが掛け算で数倍、数十倍に膨らむポテンシャルを持っていると思っています。

 要するにプレイヤー間がネットワーク効果を持つことにより爆発的に広がる可能性があるのが、マルチプレイヤーの特徴です。プレイヤーに創意工夫の余地を設け、自由に遊んでもらうことで、爆発的に広がっていく過程を創造することも、当社にとってはおもしろいゲーム作りの要素であり、とても重要な要素だと思っています。

話題の輪の中に入るおもしろさ

溝部:若干違う文脈になりますが、おもしろさの話で言えば、極論、どんなゲームでも、みんながプレイしているということだけで、そのゲームはすでにおもしろいと言えると思います。これはゲームの中身に触れていないので不誠実な意見に見えますが、しかし事実として、話題になっていることに触れること、話の輪の中に入っていけることのおもしろさ、というものがあると思います。

 であるならば、話題になりやすいゲームということを念頭に置いてゲームを開発することも、われわれが大切にしなければならないことのひとつだと思っています。

 『パルワールド』には、話題になってほしいという要素を100個くらい詰め込んでいて、そのうちの30個くらいがうまくいったのではないかと思っています。

 また、『パルワールド』は2つのマルチプレイ方式をサポートしています。1つは招待コードを利用する4人以下のマルチプレイ。1人のプレイヤーがホストになり、友達を3人まで招待出来るという一般的なものです。もう1つの方式は、プレイヤー自身が専用サーバーを構築し、最大32人までを招待して遊ぶ事が出来るというものです。

 Steamゲーム、特にサバイバルクラフトのジャンルでは専用サーバーが建てられることは常識ですが、当時私の知る限り、日本のゲーム会社でこのような仕組みを提供している会社はありませんでした。

 2024年4月現在で、『パルワールド』では20万サーバーほど建てられています。つまり 20万人が世界中でサーバーを建てて、友人達と遊んでくれているわけです。

『パルワールド』の今後の展開は

溝部:正直まだ決まっていません。いわゆる一般的なコンテンツ追加は当然行っていきます。たとえば新しいマップを作り、そこに新しいパルを登場させるといったことは行っていきます。また、たとえばレイドボスを登場させて、みんなで戦えるといったことは行っていきますが、『パルワールド』の今後にとって、本当に重要な方向性として2つの選択肢があります。それはパッケージゲーム型へと進化させていくか、LiveOpsゲーム(以下ライブゲーム。運営型ゲームと同義)へと進化させていくかということです。ビジネスサイドのオポチュニティ(好機)で考えると、本来はライブゲームとして運営型のゲームにしたほうが収益性も安定しますし、ゲームの寿命自体も伸びるのですが、『パルワールド』は最初からそれを想定した設計ではないので、ライブゲームにするための困難はたくさんあります。

 そして、一番重要なのはプレイヤーが望んでいるかどうかです。ライブゲームの前段として、まずF2P(フリー・トゥ・プレイ)のゲームにする必要があります。F2Pにして、課金要素としてスキンやバトルパスなどを追加していくという手法が運営型ゲームでは一般的ですが、『パルワールド』は、そもそも買い切り型のゲームなので、土台からして本来はライブゲーム化するのは難しいのです。

 現時点では、既存のプレイヤーを大切にしつつ、より多くのプレイヤーに遊んでもらうにはどうしたらよいかを模索しています。有料ダウンロード(pay to download)型のゲームから、途中でF2Pにシフトしているゲームの成功例はいくつかあります。その場合は保証アイテムや金額分のアイテムを付与したりすることが多いですね。『PUBG』や『Fallguys』はその成功例ですが、いずれもシフトするまでに数年間を費やしています。

 ライブゲームがビジネス上ではいいと理解しつつも、そんなに簡単な話ではないということです。

 また、広告マネタイズはどうかという意見もいただきますが、広告マネタイズはモバイルでないと難しいというのが大前提としてあります。私が知る限り、PCゲームで広告マネタイズがうまくいっている例はありません。

 仮にPCでうまくいく土壌があったとしても、Steamで遊ぶ人たちは、広告がめちゃくちゃ嫌いです。広告が入ると怒るユーザーが大勢存在するのです。

 だから今は、じっくり方針を練っている最中です。

インディーゲームの今後について

溝部:当社は、最初からインディーで、これからもインディーだと思っています。インディーゲームの今後について考えると、20年先はわかりませんが、5年、10年のスパンで言えば、間違いなくインディーゲームはもっと発展していくと思います。

 日頃いろいろなインディーゲームをプレイしていても「こんな切り口があったのか」「こんな発想があったのか」と感じることが多く、新たなインディーゲームがいくらでも誕生する余地はあると思っています。それこそ『パルワールド』のようなゲームも登場してくると思います。

 当然技術の進化はあると思いますが、それ以外で今後、インディーゲームをヒットさせるポイントは、大きく4つが挙げられます。「市場」「大企業がやらないこと」「Mod」「配信」です。

 まず「市場」に関してです。

 昨今、インディーゲームも商業化されてきている側面があり、純粋に自分たちがおもしろいと思えるものを作る人たちだけでなく、市場があるから、そこに向けたヒットゲームを作ろうと考える人たちも現れてきています。その人たちは「このようなインディーゲームが売れて、このようなインディーゲームは売れない」と最初から分析しています。

 ある意味、私達もそういう側面はあります。より多くの人にプレイされたいと思っているので、市場を分析して、ゲーム制作に反映させます。

 市場分析に長けた商業インディークリエイターが、今後増えてくるだろうと思います。そのことによって、プレイヤーの需要を満たすようなゲームが制作されるとしたら、私自身は好ましいことだと思っています。

 ヒットゲームを作りたいなら、素直にマーケット分析を行い、どういう傾向のものが売れるかを知ることは、重要なことだと思います。

 一方で、作家として、作りたいものを作るという感覚も、それはそれでいい、そういうことがすべて許されているのがインディーだと思います。 ヒットゲームを狙って新しいことやるもよし、作りたいものを作り、それが世界に受け入れられるかを問うのもOKだと思います。

 次に「大企業がやらないこと」です。

 インディーゲームの市場には様々なジャンルが存在します。Steamのジャンルを見ると48項目に分かれています。その中でも当社が取り組んでいる「サバイバルクラフト」は、かなり大きなジャンルですし、「ローグライク&ローグライト」も大きなジャンル、「メトロイドヴァニア」も盛り上がっているジャンルです。ただ、インディーゲームのそれぞれのジャンルは、大手企業が取り組むにはパイが小さ過ぎて作りづらいジャンルも多く存在しています。当社が制作している「サバイバルクラフト」ジャンルも、大手企業が参入しづらいジャンルです。インディーは、そういうジャンルに挑戦するのがいいと思います。

 たとえば「メトロイドヴァニア」というジャンルは、規模は小さいけれども、開発には職人のような実力が必要で、個人クリエイターにとっては挑戦しがいのあるジャンルといえるでしょう。

 続いて「Mod」についてです。

 インディーゲームクリエイターとして成功したい人も、成功することが必ずしも必須ではなく純粋にゲーム開発を楽しみたいという人もいます。いずれにしろゲーム開発に挑戦するなら、 Mod作りをおすすめします。

 私も学生時代、『Grand Theft Auto:Vice City /グランド・セフト・オート・バイスシティ』をプレイする際、公式でチートツールが実装されていたこともあり、パラメータをいじって改造して遊んでいました。

 私の世代は、コンシューマーゲームにおいても改造コードなどを使ってゲームを改造して楽しむ人もおり、そういうところからゲームに慣れ親しんで、ゲーム開発の道に進んだという人が多いのも事実です。

 業界的にはどうなのかわかりませんが、そういった行為が、個人の技術力の向上につながるのは間違いありません。そういう意味で、現代であればMod作りが、個人クリエイターにとって有益だと思います。Modを作って遊ぶのは、技術力がつき、ゲーム作りの理解も深まるので、そこからスタートするのもいいと思います。

 一方で日本はまだModカルチャーが一般的ではありません。なぜなら日本には、三大プラットフォームであるSwitch、PS、 Xboxのうちの2社があり、コンソールが強い文化です。コンソールが強いと、老若男女多くの方にゲームを手に取ってもらえるというメリットがある一方、PCゲームの文化が育ちにくくなる側面があります。

 しかし、Modに関しては、補足しておきたい重要なことがあります。現代の本当に重要なメカニックスは、意外とModから生まれているということです。たとえば、『Battle Royale /バトル・ロワイヤル』は、もともとModから生まれたという話は有名ですし、『League of Legends /リーグ・オブ・レジェンド』の元になった『Dota』というゲームもModから生まれています。

 私は、重要なメカニックスがModから生まれているということに注目していて、いろいろなゲームのModをなるべく遊ぶようにしていますが、大ヒットの予兆を感じることもあるので、そういった観点からもMod作りはすごく良いことだと思います。

 最後に「配信」についてです。

 現在、ゲームが配信者によって配信される事により、多くのプレイヤーを獲得できることは、多くのゲームジャンルにおいてコンセンサスが取れている事実です。『パルワールド』も、インフルエンサーやストリーマーたちの配信が、ゲームの拡散に寄与したことは間違いないと思っています。

 その意味で、インディーゲームクリエイターは、どのように配信させようかという思想でゲームを制作することも可能です。『パルワールド』も、配信のことを意識して制作しました。

 もちろんシナリオドリブンのゲームが配信を制限するのは当然のことです。ネタバレなどを防ぎたいという気持ちは理解できるのと、動画だけで満足してしまうプレイヤーがいるので、その場合は上手くルール設計をする必要があります。

 ただそれ以外のゲームクリエイターが作るゲームで、配信を許可しないとなると拡散の芽を一つ失うことになるので、基本的に、配信されることを許容したゲーム設計にしたほうがいいと思います。

 配信について補足すると、配信の多様性が担保できるゲームかどうかというのは、すごく重要になります。なぜならシナリオ一辺倒のゲームだと、多少分岐があったとしても、誰が配信しても中身は同じで、1度配信を見たら基本的には満足します。ギリギリ各配信者さんの、配信のやり方の違いを楽しむことはできますが、それでも3回も見れば満足してしまうという側面があります。裏を返せば、プレイヤーに創意工夫の余地があれば、配信者ごとに配信の中身が変わります。そのようなゲーム設計であれば、より配信されやすいという構図になります。

 現代では、ゲームはあらゆるコミュニティで同時に広がります。特定のコミュニティに限定する必要はなく、X(旧Twitter)、Discord、YouTube、Twitch、bilibili、TikTok……、可能であれば、全てのコミュニティ・プラットフォームでコンテンツ発信を行った方が良いです。ただ、ある意味自然発生的な部分もあるので、余裕がないならば出来る範疇でも問題ありません。意識的に配信されやすいゲームを作りたいならば、配信されやすいゲームジャンルで作るのも手です。私が知っている限り、もっとも配信されているゲームは『マインクラフト』だと思いますが、配信ファーストで考えるならば、『マインクラフト』の配信者が好むゲームを作るのが本質的には配信されやすいのではないかと思います。

 しかしこの話をすると「サバイバルクラフト」ジャンルしか作れなくなるので、必ずしもそれに限定する必要はありません。あくまでマーケットサイズで考えた場合の話になります。

AIとインディーゲーム

溝部:よく誤解されているのですが、『パルワールド』にAIは使用していません。

 当社の3番目のゲームとして『AIアートインポスター』を開発しており、AIに強い関心を持っていますが、ワークフローに組み込むのはこれからかなと思っています。『AIアートインポスター』は、AIを使った世界初のゲームです。少なくともSteam上で、一定数以上の人に遊ばれたゲームとしては、当社の『AIアートインポスター』が、AIを活用した最初の革新的なゲームだったと自負しています。

『AIアートインポスター』。3~8人 で楽しめる AI お絵描きパーティゲーム。プレイヤーはAIに指示を出して絵を描かせる時代の先を行くアーティスト。絵心がなくても誰でも素敵な絵が描けて、1試合は5分程度。Steam、Android、iOS間でのマルチプレイにも対応

 生成AIの「Stable Diffusion」がオープンソース化されたのが2022年8月でした。「これはすごい」と思いました。すでに「Midjourney」なども登場していましたが、私は「Stable Diffusion」に感銘を受けました。即座に、このAIを使ったゲームを制作しようと思い立ち、開発したのが『AIアートインポスター』でした。2022年の11月にリリースしているので、約2か月という最速でのリリースでした。

 このように当社はもともとテクノロジーに対する感度が高く、当然AIに注目しており、常に現場に活かせないかと考えています。当時開発していた『パルワールド』でも、AIを活用してパルを生成できないかと試行錯誤しました。その結果、人間が作ったほうが精度が高いと判断しました。AIが勝手に生成してくるもののクオリティは高いのですが、こちらがイメージしているものをその通りに生成させるのは、相当に難しいことでした。だから現実には使っていません。

 その上で、今後のことを考えると、AIはゲーム業界にとって非常に役に立つものだと思っています。もちろん、中にはルールや法律上の整理など、クリアすべき問題がたくさんあることも事実です。しかし、劇的なワークフローの改善が見込めるので、近い将来、活用していない人はいない状況になり、同時にインディーゲームクリエイターが増加するポイントのひとつになると思います。

 過去を振り返ると、2010年代に無料のゲームエンジンが普及したことで、個人で3Dゲームを作ることが可能になりました。Unity(ユニティ)やUnreal Engine(アンリアルエンジン)を活用することで、3Dゲームの個人制作が驚くほど増えたという歴史があります。ゲームエンジンが果たした役割は非常に大きなものでした。

 これと同じことがAIでも起きると思っています。AIを活用することにより、ゲームを開発する人口が、間違いなく増加すると思います。

 ただ一点、現実的な話をすると、ゲームを開発するハードルは下がるけれども、エンタメを楽しむプレイヤーのハードルは下がりません。プレイヤーは情報感度が高く、本当におもしろいものしか遊ばないので、プレイヤーにおもしろいと思ってもらえるものを開発するハードルは依然高いと思います。

 クリエイターの数は増え、世に出てくるゲームも増えますが、それがプレイヤーに受け入れられるかはまったく別の問題です。

インターネットは、持たざる者の味方だ

溝部:2024年1月16日に「note」で、『パルワールド』開発秘話を紹介した文章「3日後に命運が決まる、パルワールドという偶然の物語」を公開しています。その中で優秀な技術者を次々にリクルーティングしていく一連の流れ、「インターネットは、持たざる者の味方だ」と掲げたあのくだりは、大きな反響がありました。

 「note」で紹介した、優秀な社員のリクルートの話は、インディーだからできた話というよりも、本気だからできた話だと思っています。会社が社員を採用するにあたっては、新卒応募や中途応募、あるいはエージェント会社に委託するといったことがもっとも楽な方法です。名の知れた企業であれば、待っていれば人材が集まります。それで十分です。

 しかしそういう採用では「異能」は集まりません。普通ではない、極めて特殊な才能を持っている人材を探すためには、自分から探す必要があります。そして今なら、インターネットを活用し て、「異能」を探すことができます。お金が無くても、熱意さえあれば、「異能」を持った仲間を見つける事が出来る。それが「インターネットは、持たざる者の味方だ」ということです。こういう人材はいないかと、ポチポチとマウスをクリックして探していくしかないのです。私は日頃から、才能を探しています。ライフワークといっても過言ではなりません。たいていのインディーゲームクリエイターは知っています。特に日本語で活動している人たちは、ほとんど網羅していると思います。

 2023年11月に封切られた映画『ゴジラ-1.0』は、第96回アカデミー賞視覚効果部門を受賞し、世界から注目を集めることになりました。聞けば、若手の凄まじい才能を持った人がいるという話です。VFXの水流を見ると、すごくわかるという感じがあります。

 『パルワールド』でも、とくに銃関連を担当した社員とパルの絵を描いている社員、この2人はとても若いのですが、まさに異能を持った、完全なデジタルネイティブです。

 たとえば私は、PCを操作する速度が人よりも速いほうですが、この2人の速さは尋常ではありません。その仕事ぶりを見ていると、最初からコンテンツ制作に携わっているような若い世代の人たちは、やはりちょっと特殊で、普通ではない才能を持っていて、そういう人たちが数人いるだけで、会社は変わると感じています。

 しかも彼らは英語に全く抵抗がなく、普通にDiscordで外国人の方とコミュニケーションとっています。情報収集も英語で、海外で流行っていることにとても詳しかったりします。英語はFPSで学んだらしいです。デジタルネイティブはインターネットで世界と常時繋がっているので、そういう傾向があるように感じます。

 こういう世代がゲームを制作するようになると、ついていくのは大変だなと思っています。

 正直、私自身も今のデジタルネイティブの人たちには全く勝てません。彼らにはその才能をいかに発揮してもらうか。何とかお願いして当社に来てもらい、彼らが伸び伸びと働きやすい環境を作れるか、そこが大事だと思っています。

グローバル展開について

溝部:市場については、基本的に日本市場はあまり見ていません。当社が公開しているトレーラーも、最初からすべて英語です。

 日本語で情報発信するのは、言うなれば私がたまたま日本語が得意だから、おまけで情報を発信していますが、メインはすべて英語で、KPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)も基本的に海外の数字を見ています。だから日本の動向よりも、海外の動向のほうが気になります。

 実際、『パルワールド』の売り上げをみると、日本は全体の10%以下です。

 一方、中華圏はすごく大きな市場です。『オーバーダンジョン』も『クラフトピア』もそうですが、ミニマムの翻訳言語としては日本語と英語、中国語。しかも中国語は必ず簡体字と繁体字を分けて行います。

『Craftopia /クラフトピア』。狩り・農業・ハクスラ・建築・自動化などの要素を全て融合した、全く新しいマルチ対応のオープンワールドサバイバルアクションゲーム

 ちなみに『パルワールド』は、グローバルにヒットさせるつもりで制作したので、最初から11言語に対応しています。

 言語以外は、グローバル化を特別に意識するというよりは、初めからそれを前提に考えているので、どうやったら海外で受け入れられるかを常に考えています。ツールの観点では、Steamや他の配信プラットフォームでは、基本的に自動的に全世界に配信されますから、特別な対応を意識する事はありません。マーケティングに活用する各ソーシャルメディアも、すべてのツールが現代ではグローバル前提なので、それぞれの言語で発信しています。

 制作過程で特に注意している事は、カルチャーに対するチェックです。たとえば日本企業が開発しているものは、一般的に日本のカルチャーに根ざしたものになるので、少し美少女っぽいとか、日本で受け入れられやすいものに偏りがちで、それがグローバル展開の足かせになる場合もあります。

 当社がクリエイティブチェックをする際は、まずは日本人の目で見ますが、それがグローバルで受け入れられるかネイティブの社員にもチェックしてもらうようにしています。

常にプレイヤーのほうを向く

溝部:当社の特徴をひとつ上げるとしたら、社員全員が、プレイヤーファーストでゲーム制作に取り組んでいるところです。世の中の多くのゲーム会社は、クリエイターファーストだと思います。世の中を見てみると、思っている以上にクリエイターファーストの会社が多いことがわかります。

 ただこれはどちらがいい悪いという話ではなく、作り方の話で、当社はプレイヤーファーストを掲げているという話です。

実はこの境界は曖昧になりやすいのですが、当社は非常に極端なプレイヤーファーストだと思います。

 顧客志向を突き詰めると、時にクリエイター自身のクリエイティビティを否定するような決断をすることがあります。しかし、当社は仮にクリエイターに嫌がられたとしても、プレイヤーのためなら何でもするという覚悟を持っています。ポケットペアは、「常にプレイヤーのほうを向く」というスタンスで、ゲーム制作に取り組んでいます。

株式会社ポケットペア
代表取締役社長

溝部 拓郎
Takuro Mizobe

■プロフィール 1988年生まれ。父親の仕事の関係によりインドネシアで幼少期を過ごす。帰国後、小学6年生の夏休みの自由研究でゲーム開発(シューティングゲーム)を試みる。2008年、東京工業大学に入学。2010年(大学 3年時)、pixivにエンジニアとしてアルバイト参加、プログラミングを学ぶ。任天堂ゲームセミナーに参加し、DSタイトルを開発(大学3年)。 2012年に東京工業大学卒業後、JPモルガン証券に入社。会計システムの開発に携わる。同年、JPモルガン証券勤務の傍ら、同僚と株式会社レジュプレスを共同創業。ストーリー共有メディア「STORYS.JP」をリリース。2014年、仮想通貨取引所 Coincheck 共同創業。2015年、ゲーム開発への気持ちが再燃し、Coincheckを離脱して株式会社ポケットペアを創業。

──『ファミ通ゲーム白書2024』「ポケットペアの成功が指し示したインディーゲーム制作の未来と可能性」より──

ファミ通ゲーム白書2024

 本記事は、『ファミ通ゲーム白書2024』の序章に掲載されているゲーム業界パースペクティブ「ポケットペアの成功が指し示したインディーゲーム制作の未来と可能性」を大幅に加筆編集したものだ。

『ファミ通ゲーム白書2024』収録の「ポケットペアの成功が指し示したインディーゲーム制作の未来と可能性」

 『ファミ通ゲーム白書』では、序章の“ゲーム業界パースペクティブ”部分において、毎年、ゲーム業界の最前線で奮闘する有識者にゲーム業界の行く先を展望してもらっている。今回は、白書の中では収まりきれなかったインタビューの拡大版を特別掲載し、『パルワールド』の成功の秘密はもとより、Steamや、AI時代における次世代ゲーム制作の片鱗を垣間見ることができたかと思う。

 『ファミ通ゲーム白書2024』では、このほかにも多くのゲーム業界有識者たちによる、業界の行く先を展望したインタビューを掲載している。『ファミ通ゲーム白書2024』の詳しい内容については以下の記事を参照してほしい。

●この20年間にゲーム業界で何が起こり、何が変わったのか?『ファミ通ゲーム白書2024』

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