西川善司の大画面☆マニア

257回

デカすぎない有機ELレグザ爆誕。新4K「48X8400」は画音も安心クオリティ!

ついにキタ、デカすぎない有機ELテレビ“48型”レグザ

48型の4K有機ELレグザ「48X8400」

とどまることを知らないテレビ製品の大画面化。我々、大画面好きにとっては喜ばしい時勢なのだが、設置環境や用途によっては「そこまで大きくなくていい」という贅沢な要望も出始めている。

例えば、室内にある家具とのレイアウトや、テレビ設置台のサイズの関係で50型オーバーの製品が置けない場合もある。また部屋がそれほど広くなかったり、あるいは普段使いの机に設置してテレビとPCディスプレイの一台二役的に使う場合など、視距離が短くなるため、大きすぎる画面はかえって見辛い。

そこに「これから買うなら、4Kが欲しい」という要望が重なってくると、意外に選択肢が狭まる。PC向け4Kディスプレイ製品は32型以下も存在するが、現行テレビ製品に限ると、最小サイズの4Kテレビは自社製液晶パネルを採用するシャープの40型モデル「4T-C40CL1」くらいになっている。

シャープ以外の国内メーカーは、液晶パネルの供給を海外メーカーに頼っていることもあり、40型はほぼ消滅し、若干大型化した43型が4K最小サイズとなってしまった。「このまま大型化の流れは止まらないのか」と危惧していた最中、全世界のほぼ全ての有機ELテレビのパネルを製造するLGディスプレイが、新しい48型サイズを製造。結果、2020年から、48型の有機ELテレビが各社からリリースされることとなったわけだ。

前述したような、視距離の短いパーソナルユースにおいて、48型サイズはまだ大きい気もするが、サイズが小さい方向への展開は歓迎すべき流れ。そんなわけで、今回の大画面☆マニアは、現行の4K有機ELテレビとしては最も画面の小さい48型の東芝レグザ「48X8400」を取り上げることにしたい。

製品概要チェック~48型ながらコンパクト&軽量。スピーカの音質も上々!

最近は、有機ELテレビの“薄型・軽量”というイメージと合わない製品も多い。昨年の連載で取り上げた東芝の有機ELレグザ「65X930」(第256回参照)は、ディスプレイ部だけで28.5kg、スタンドを入れると47.5kgというヘビー級な製品だった。

第256回で取り上げた65型4K有機ELレグザ「65X930」

今回取り上げる48X8400は、ディスプレイ部だけで15.7kg、スタンド部込みで16.5kgと軽量な部類だ。取材中、計測や各種実験のために、テレビ台からテーブルに移動したり、その逆を行なったりしたが、難なく筆者一人で行なうことができた。ディスプレイ部の上方は薄く、「まるで板」といった感じだが、下部はそれなりに厚みがあり持ちやすい。

背面上部から撮影。上端は、有機ELパネルほぼそのままの厚さでかなり薄い。無数のスリットは冷却用の排気口だ

ディスプレイ部の外形寸法は、1,068×66×629mm(幅×奥行き×高さ)。スタンド込みでは、1,068×229×663mm(同)となる。スタンドはディスプレイ下部に足を括り付ける方式。残念ながら完全に固定されるため、ディスプレイの角度調整はできない。

設置台の基準面からディスプレイ部下辺までの隙間は約35mm。BDパッケージが2枚入って少し隙間が残る程度で、画面はけっこう低めに設定されている。そのため、視距離が短い机上、つまりデスクトップに設置した場合は、目線が画面の上部に来る。できれば高さ調整や、上向き方向の仰角調整は欲しかった。なお、標準状態で約2~3度の上向き角度は付けられているとのこと。

スタンドはディスプレイ部下部に足を括り付ける方式でリジッド固定となる

左右のスタンド脚部間距離は80cm。テレビを設置するスペースとしては、スタンド部の奥行き方向の幅と掛け合わせた80×23cmの面積が必要となる。多少幅はとるものの、奥行きはそれほど場所を取らない感じ。

ディスプレイ部の額縁は、映像パネルの未表示領域までを含めると上と左右が約9mm(筆者実測)、下が約28mm(同)といったところ。なかなかの狭額縁デザインだ。

左右のスタンド間は80cm。額縁も狭く、ほぼベゼルレスの印象

スピーカーは、本体下部左右にレイアウト。テレビスピーカーにしてはかなりの高音質で、下手なサウンドバーを組み合わせるよりも満足度が高い。

そのサウンドシステムは実際、かなり凝った作りになっている。まず合計出力が72Wと、薄型テレビの内蔵スピーカーとしては、かなりパワフルな設計だ。内訳は、メインユニットとしてフルレンジスピーカーを片側でデュアル構成とし、これに高音用のツイーターを組み合わせることで、片側12W×3の36W、左右で合計出力72Wとなっている。音楽を聴いていると、妙にパワー感のある低音が聞こえてくるが、これは対向配置ダブルパッシブラジエーターの効果だろう。

またサウンドシステムの出音特性を補正する「VIRイコライザー」、MP3などをはじめとした圧縮オーディオ技術特有の失われた倍音・高周波成分を算術復元する「レグザサウンドリマスター」も本機のサウンドパフォーマンスを上げている気がする。この原稿も、本機のスピーカーで自身の音楽ライブラリを再生しながら執筆していたほど、気に入った。もちろん、専用のサラウンドシステムには及ばないが、2chステレオサウンドやゲーム、ネット動画、音楽再生をするには不満はない。

6個のスピーカーと72Wマルチアンプの「レグザパワーオーディオX」を搭載
X8400のスピーカーユニット。上位X9400と同じユニットを使用している

接続端子は、正面向かって左側の側面と背面にある。

HDMI入力端子は全部で4系統。全てがHDMI 2.0対応で18Gbps伝送に対応する。なので、4系統全てで4K/60Hz/HDRの映像入力が行なえる。なお、HDMI 1のみARC(オーディオリターンチャンネル)に対応する。

側面接続端子パネル。アンテナ端子が側面出しはちょっと珍しい

アナログ入力としてはコンポジットビデオ入力端子が1系統あるが、これを利用するためには付属の専用変換ケーブルを利用する必要がある。この変換ケーブルを用いることでアナログのステレオ音声も入力することができ、コンポジットビデオ入力の音声として組み合わせる以外に、任意のHDMI入力の音声として組み合わせることも出来る。これは、DVI-HDMI変換などを用いるなどして、HDMIに音声が乗っていない映像に対して、アナログ音声を鳴らしたいときに利用できる。この機能は、東芝レグザでは伝統的なもので、最新モデルにも継承されている。

シンプルな背面接続端子部

USB端子は2系統。1つは録画用ハードディスクを接続するためのUSB 3.1端子。もう一つは汎用USB機器接続用のUSB 2.0端子だ。USB 2.0端子はカメラ/ビデオカメラほか、USBメモリが接続できる。USBメモリ内に格納された静止画は16,384×16,384ピクセルまで、動画は最大4K/60Hz解像度、MPEG-4 AVC/H.264、HEVC/H.265の各形式の再生に対応する。

この他、背面にはネットワーク接続用のLAN端子、外部オーディオ機器接続用の光デジタル音声出力端子があり、側面には地デジ放送用、BS/CS放送用のアンテナ端子が実装されている。

背面の電源ボタン
電源はメガネ型の着脱式

アンテナケーブルは常時接続するものなのに、抜き差し頻度の高い端子を配置する側面に配置されている点が少々解せなかった。昨年モデルではこうなっていなかったので、多分システム基板設計やその筐体への実装の関係でこうなってしまったのかもしれない。美観的な問題は筆者はあまり気にしないが、太く重いアンテナケーブルが下に垂れ下がり、その下側の2つあるHDMI端子のクリアランスを邪魔するのでHDMIケーブルの抜き差しがし難い。ここは改善を要するかと思う。

リモコンは、細かいボタンの配置換えがあったのみで、近年モデルのものから大きな変更はない。

電源オン操作から地デジ放送の画面が出るまでの所要時間は、実測で約10.5秒で、やや遅い印象。地デジ放送のチャンネル切換が約2.0秒、HDMIの入力切換が約3.0秒で、こちらは最近のテレビ製品としては標準的な速度といった印象だ。

リモコンはボタンの機能配置は昨年モデルとは微妙に違うも最近のレグザ・シリーズのもの、そのままを踏襲
最近充実化の一途を辿る動画配信サービスボタン。「dTV」に代わって、2020年モデルは「Amazon Prime」ボタンを実装した

最近の東芝レグザシリーズが搭載する録画機能と、クラウド機能を相互連携させた便利機能にも対応している。ユーザーが事前登録したテーマに準拠したコンテンツをまとめる「みるコレ」、番組を見ながら“次に何を見るか”を提案してくれる「次みるナビ」の2つだ。これらは専用の操作ボタンがリモコンに搭載されているので利用もしやすい。

みるコレ

いまや搭載機種も少なくなってきた2画面機能だが、本機は引き続き健在。リモコンの[二画面]ボタンから呼び出せ、「放送+外部入力」「放送+放送」の組み合わせが可能。なお「外部入力+外部入力」の組み合わせには対応しない。

やや成熟した感もある音声操作機能も完備。Amazon Alexaが搭載され、48X8400をスマートスピーカーライクに活用できる。また、意外と便利なのが独自の「レグザボイス」機能。X8400シリーズでは、テレビ本体にも内蔵マイクが搭載されたことで、リモコン・テレビのどちらからでも、発話による各種操作が可能になった。

リモコンの[ボイス]ボタンを押してから使う方法の他、テレビに向かって「OKレグザ」と話しかければ、こちらの発話に耳を傾けるモードに入る。“西川善司をYouTubeで検索”“YouTubeでゲーセンミカドを検索”という感じの自然言語で検索できるので便利だ。声による文字入力は、番組表内での検索はもちろん、YouTubeアプリ内の検索ワード入力に対してもできるようになり、音声操作が実用レベルに達したと実感した。反応速度がもう少し早ければさらに嬉しいが、現状でもそれほどストレスはない。

普段から重宝している「映像分析情報」も、わずかながらバージョンアップ。ヒストグラム表示の箇所に、横軸に対して25%刻みの補助線が入ったのだ(笑)。具体的には、25%、50%、75%の3本の縦の補助線が入り、75%の補助線以上が相当な高輝度領域を表す。結果、HDR映像として放送、あるいはHDMI入力された映像に対し、どの程度の高輝度信号が入っているかを分析しやすくなった。

これにより、例えば「SDR映像をなんちゃってHDR加工したものなのか」それとも「撮影段階からHDR撮影した本当のHDR映像なのか」といったことの判別がしやすくなる。ただ、この機能、「映像設定」→「映像調整」→「映像分析情報」と、メニューを深く潜らなければならず、使い勝手がよくない。[画面表示]ボタンを押すと基本的な入力信号情報を表示してくれるモードがあるので、この機能に統合して欲しい。

上のヒストグラム明側の左側の点線が75%補助線。明るいシーンで、ここの右側に比較的多くの画素数があれば「ちゃんとしたHDR映像」の可能性が高い
SDR映像だと、映像に高輝度部があったとしても、このように75%補助線のを超えるピクセルがほとんどないヒストグラムとなる

X930から搭載された「プロモニター設定」は本機にも搭載されている。HDMI伝送されてきたメタ情報に従って自動設定されるはずの「EOTF」(ガンマカーブ)や「色空間」、「MaxCLL」(Maximum Content Light Level:コンテンツ内に含まれる最大輝度値)を、マニュアル設定できる機能だ。

一般的な映像視聴において活用する局面は少ないと思うが、映像製作現場、ゲーム開発現場などでは、メタデータが未設定の状態でテレビ(モニター)側に出力する場合が多々あり、EOTF/色空間/MaxCLLをマニュアルで強制設定できることが重宝されることがある。

東芝レグザにはマスターモニター的に活用できる画調モード「モニター」があり、この画調モードと組み合わせることで本領発揮される。これまでよりもさらに画面サイズの小さい48型となることで、さらにそうした現場からの引き合いが増すかも知れない。

「映像設定」-「映像調整」-「プロ調整」から使えるプロモニター設定。本機を映像製作、ゲーム開発などの現場で使う際には重宝する機能となるはず

いつものように入力遅延を、公称遅延値約3ms、1080p/60Hz(60fps)時0.2フレーム遅延の東芝レグザ「26ZP2」との比較計測を実施した。

計測解像度はフルHD(1,920×1,080ドット)。測定した画調モードは、26ZP2側は低遅延モードに相当する「ゲーム」モード(「ゲームダイレクト」設定)に固定して測定。もう一つの48X8400については「標準」と「ゲーム」の2つで測定した。

結果は画調モード「標準」で約233ms、60fps換算で約14.0フレーム、「ゲーム」で約16ms、60fps換算で約1.0フレームの遅延となった。

画調モード「標準」での測定結果。左の大きい画面が48X8400。右の小さい画面が26ZP2になる
画調モード「ゲーム」での測定結果

本筋からやや離れるが、読者の方々から、この測定画面の意味を教えて欲しいというリクエストがあったので、簡単に解説しておく。

たしかに、解説したのはなんと10年前のこと。当時とは計測機器は微妙に違うが、原理は同じだ。

最初に測定映像を、HDMI分配器を用いて、基準モデル(最近は26ZP2)と、測定するモデル(今回は48X8400)に映し、この様子をカメラを使って毎秒960コマ(撮影間隔約1ms)でスーパースロー撮影する。

この動画映像を適当にキャプチャし、画像に映る1ms単位のカウンターの数値を比較して計測結果としている。なお、分配器には遅延のないラトックシステム「RS-HDSP2-4K」を使用しているが、仮にあったとしても、同一分配器から出力されていて同一時間軸上の計測になるため測定結果には影響はない。

今回の画調モード「標準」の測定結果でいうと「48X8400:18.096」「26ZP2:18.329」の数値を比較する。数値は秒で表され、遅れている方が遅延があると言うことになる。つまり、この例では「18.329ー18.096=0.233」となり0.233秒、すなわち233msということになる。なお、26ZP2は公称遅延時間が3msあると発表されているので、実際の測定結果は230msかもしれないが、まあ、あくまで目安の相対測定結果なので前出値を測定結果としている。

よく聞かれる「なぜずっと東芝レグザの26ZP2を測定リファレンスとして使用しているのか?」についての回答はシンプルだ。それは公称入力遅延値を公開しているのが東芝レグザだけだから。

実は、そろそろ測定リファレンス機の4K化を図るべく、色んなメーカーにお声かけをしているのだが「公称値は出せない」とお断りされてしまうため、手持ちの26ZP2を使い続けている次第である。今も全てのモデルの公称遅延値を公開している東芝レグザの4K機に置き換える計画もあったのだが、4Kレグザは40型以上の画面サイズの大きいモデルしかなく、さすがにこの大きさでは取り回しが不便なので26ZP2がそのまま現役なのである。

どこかのメーカーさん。公称値が公開できて32インチ以下の4Kディスプレイの提案お待ちしています。特典は大画面☆マニアに毎回機種名が載ります(笑)。

レグザホームページで掲載されている各シリーズの遅延情報。60Hz、120Hz信号入力時の最小遅延が明記されている。各シリーズで入力遅延を公開しているのはレグザだけだ

さて、48X8400は「ゲーム」モードでも約16ms、60fps換算で約1フレームの遅延が認められているが、この原因は2つある。1つは、倍速駆動パネルの特性に起因する原因。遅延の理由については本連載の特別編を参照して欲しいが、約8.3ms分遅延する。

2つ目の理由は、本連載読者ならばもう知っている人も多いと思われるが、採用する有機ELパネルの特性から来るもの。これも前出の記事にまとめてあるが、簡単に言うと有機ELパネルの焼き付き抑止や寿命延命に起因したものだ。これで約8.3msの遅延が発生する。この2つの要因で約16msの遅延が起きているのだ。なお、東芝によると、有機ELレグザの公称入力遅延時間は「この2つの理由による遅延」は含んだ値とのことだ。

X8400の公称入力遅延時間は、60Hzで約17.5msec、120Hzで約9.2msec

最後に、ゲームモードについて少しだけ補足を。

2019年までの有機ELレグザのゲームモードは、焼き付きを考慮して、意図的にやや暗めにチューニングしていたが、2020年モデルではこれを改め、20~60%の輝度アップを図った。輝度アップ量に幅があるのは、そのアップ量が高輝度表現部の面積の大小に依存するため。面積が小さいほど高輝度アップ量が増大する。

この効果で、48X8400に搭載された残像低減のための黒挿入機能「インパルスモーション」も若干明るさを増しているそうだ。

インパルスモーションの動作イメージ
2020年モデルの東芝レグザは自動で低遅延なゲームモードにモードチェンジする「Auto Low Latency Mode」(ALLM)に対応しているのとことである。これはHDMI 2.1フィーチャーの先取り仕様に相当する
応答速度が早ければ残像がなくなると思ったら大間違い。人間の視覚システムは常時点灯表示の映像パネル上の動体を目で追うと残像を感じてしまう。これがホールドボケである。このホールドボケを低減させるために有機ELレグザでは「インパルスモーション」という名の残像低減黒挿入を実践している
インパルスモーションON時
横スクロールさせたテキスト画面を、インパルスモーションのON(上)/OFF(下)の違いで40倍スロー秒間960コマで撮影したスーパースロー映像。オフだとさすがに100倍近く応答速度が早い有機ELとはいえ、横スクロールがうねっているのが見える。これが黒挿入が入ることで、うねりをユーザーに見えなくしている効果が分かる

画質チェック~放送&ネット動画に高画質化技術投入。完成域に近づいた地デジ画質

本機が採用する有機ELパネルは、4K/3,840×2,160ピクセルの4K解像度タイプになる。冒頭で述べたように、新サイズとなる48型というのがトピックだ。当然、今期からの新サイズなので、パネルは必然的に「最新2020年製パネル」ということになる。

とはいえ、サブピクセル構造等に大きな仕様変更はなく、LGディスプレイ製有機ELパネル特有の赤・緑・青(RGB)+白(W)の4色サブピクセル方式となっている。原理的には、青色発光する有機EL材と赤緑(黄)蛍光体を組み合わせることで“白色”に自発光する有機ELサブピクセルに、液晶パネルに用いられるようなRGBカラーフィルターを組み合わせることでフルカラー表現を行なう。

この方式は、白で光らせた輝度パワーをカラーフィルターによって3分の2も捨ててしまうため、光エネルギーの利用効率が悪い。逆に言うと、明るく光らせることが苦手なわけだ。そのため、輝度を稼ぐためにRGBカラーフィルターを使って作り出したRGBサブピクセルに加えて、白色(W)サブピクセルを設けているわけだ。

光学30倍拡大
光学300倍拡大

東芝レグザといえば、映像エンジンの進化にも熱い視線が注がれるわけだが、48X8400を含めた今期モデルは「レグザエンジンCloud Pro」へと進化した。とはいえ、プロセッサチップ自体は2019年モデルの「レグザエンジン Pro」と同じで、この上で動作しているソフトウェア部分が2020年仕様に進化したものが「レグザエンジンCloud Pro」にあたる。

新エンジン「レグザエンジンCloud Pro」

この新エンジン「レグザエンジンCloud Pro」のホットトピックは2つ。

1つは「クラウドAI高画質」という機能。

放送番組や録画した放送番組に対し、そこに付随する番組情報を分析して適切な画質調整を1つ1つ自動的に適用するというものだ。一言で言えば、番組コンテンツごとに適した画質調整を自動的に行なってくれる機能となる。

では、その画質調整は具体的にどういう状況下で効果があるのか。

例えば、人気の大河ドラマ「麒麟がくる」は、地デジ放送は彩度調整の具合がややおかしくなってしまっている。これは、もともとこの番組がNHK BS4Kチャンネルでの4K/HDR放送を前提に撮影、マスタリングされていることに起因しており、どうやら、地デジ向けのフルHD/SDRへのコンバート時に起きている不具合のようだ。48X8400では、地デジ放送版を視聴する際に「クラウドAI高画質」を適用することで、色補正が行なわれ、東芝レグザが誇る超解像処理の適用と相まって、BS4K放送版に近い画質で楽しめることになるのだ。

クラウドAI高画質テクノロジーのイメージ

実際、今回の評価で件の「麒麟がくる」を視聴してみたが、人肌が妙に濃くなってしまってる箇所や、蛍光色寄りになっていた植物の緑色などが、全て自然な発色となり、映像として見やすくなっていた。

「麒麟がくる」に対するような、特定番組に特化した画質調整が最上位の対応度で、これ以外には、番組情報のメタ情報から番組ジャンルごとに調整した画調にする方法も用意する。「ゴルフ番組」であれば、コースの芝生の見え方を自然に補正する方向性の画調が採択される。ただ、同じ「スポーツ」番組でもサッカーや野球であれば、ゴルフとは異なる画調調整が適用されるとのことで、適応範囲は意外に広そうだ。

この画質調整プロファイルは不定期に、48X8400側に提供されるとのこと。こうした「画質調整プロファイルがクラウドから降ってくる」ということで、「クラウドAI高画質」という名前が付いているのだ。ちなみに、この画質モードの作り込みは「AI」が行なっているのか、と質問したところ「ほぼ人力です(笑)」とのこと。もしかすると「AI」は「人工知能」ではなく、レグザ制作陣の「高画質“愛(AI)”」から来ているのかも知れない(笑)

クラウドAI オフ
「クラウドAI高画質」の一例。上写真がオフ、下の写真がオン時のもの。テレビ放送視聴時は常時オンでもいいだろう

もう一つのトピックが「ネット動画ビューティPRO」だ。

これは「NETFLIX」「Hulu」「YouTube」といった著名動画配信サービスごとの配信映像の特性、具体的には解像度・色・階調・コントラスト・フレームレート・コーデックに対し、個別にオーサリングした画質調整を適用する仕組みだ。

ネット動画ビューティPROのイメージ

効果を分かりやすい形で実感するため、解像度480p程度のレトロゲームの実況YouTubeなどを見てみたが、ネット動画ビューティPROをオンにすると、確かにブロックノイズやモスキートノイズが低減される。

また、低ビットレートのMPEG系動画では、Iピクチャー(静止画として記録されている高画質フレーム)が定期的に出現することで、周期的に映像の画質が変わるような違和感を覚えることがあるが、そういう現象もうまく低減してくれる。ネット動画視聴時は、よほどハイビットレートの高画質動画でない限りは、常時オンで活用していい。

ネット動画視聴時には常用がお勧めの「ネット動画ビューティPRO」

細かい新機能としては「おまかせシアター」モードの搭載が挙げられる。

東芝レグザにはRGB色温度/照度センサーで視聴環境の明るさに最適化した画調モードを自動選択するメカニズムが搭載されているが、それとは別に、じっくりと映像美を楽しむために完全暗室状態での視聴を想定した画質調整を行なうのが「おまかせシアター」モードだ。デフォルトでは「オフ」になっている点に留意したい。

おまかせシアターは、有効化する際には「シネマモード」と「ライブモード」の2つが選べるが、前者「シネマモード」は「映画視聴時」を連想させてくれるので活用シーンが想像しやすいが、後者「ライブモード」は東芝によると汎用という理解で良いらしい。まぁ、モード名からして「音楽ライブ番組」などを想像してしまうが、それはそれで間違いではないらしい。映画以外の一般的なビデオソースのときは「ライブモード」を選べばいい、という理解で良さそうだ。

なお、基本的にこの機能は放送番組(やその録画)を視聴時での使用を想定した機能で、画調モード(映像メニュー)を「おまかせAI」に選択しているときにしか効力を発揮しない点にも注意したい。これ以外の画調モードにしていても「おまかせシアター」を有効化することはできるが、効果が現れない。いちおうHDMI入力に対して利用することもできるが、その際にも画調モードを「おまかせAI」にしておかなければならない。なので、少々取り扱いが難しい機能である。

実際に使ってみたが、バラエティ番組などで「シネマモード」を使うと色温度が下がりすぎて不自然な感じにもなっていたので、よほど、視聴対象コンテンツタイプが確定的で、なおかつ暗室で見たい、という時以外は触らないで良いかも知れない。前述したように「ライブモード」「シネマモード」で色温度傾向は違うが、いずれも暗部階調を正確に描き出そうとするチューニングとなる。暗めの映像を暗い部屋で見る場合に活用すると良いだろう。

「おまかせシアター」機能は画調モードを「おまかせAI」に選択しているときにしか効力を発揮しない
「おまかせシアター」は「シネマモード」と「ライブモード」の2つが選択可能。前者「シネマモード」は映画視聴時向け、後者はそれ以外の汎用コンテンツ視聴時向け

2020年モデルの画質関連の新トピックはこれくらいだが、デジタル放送映像の画質は昨年モデルと同様に良好であったと述べておこう。

MPEG-2でエンコードされている地デジ、BSの2K放送は、元来モスキートノイズやブロックノイズが散見され、カメラが固定されている映像であっても、各所が時間方向に“揺れるような見え方”をする。これが48X8400はもちろん、近年の東芝レグザでは、そうした揺れが抑制されている。まぁ、これは東芝レグザに限らず、最近の日本のテレビメーカーの最新モデルはこの傾向が強いのだが。

放送映像に対しては、超解像処理もほどよく効いている。これは、X920から搭載され、昨年モデルのX930で熟成を極めた「バリアブルフレーム超解像」の効果が大きいのだろう。従来の主な超解像処理は、処理対象フレーム内、すなわち空間的な情報遷移から高解像度フレームを推測してきたが、近年の東芝レグザの「バリアブルフレーム超解像」では時間方向の情報遷移にも配慮して超解像処理を行なうものだ。

具体的には、地デジ、BSの2K放送で採用されているMPEG2圧縮における“IBBPBBPBBPBBPBB”という15GOP(Group of Pictures)特性に配慮し、その時点までの画面全体の動き量に基づき、参照フレーム距離を1~3フレーム離すアルゴリズムとしている。

参照フレーム距離の算出は、補間フレーム挿入/倍速駆動ロジックが算出した画面の動き速度に基づく。現在の民生向けテレビに搭載されている超解像処理としてはかなり高度なアルゴリズムを採用しており、確かに、MPEG2コーデックとは思えない画質になっている。

48X8400の輝度は非公表。HDR10形式の最大1万nitまでの階調テスト画像を入力した際にどのような見え方となるかを検証して見たが、1,000nitくらいまでは比較的正しい階調を出せていた。さすがに1,200nitを超えてくると階調飽和が顕著となるようだ。

ユニフォミティ(輝度均一性)は優秀
UHD BD画質チェック~パネルの特性を踏まえた安定&安心の4K/HDR表現力

実際の映像コンテンツではどうだろう。

定点評価的に使っている「マリアンヌ」「ラ・ラ・ランド」「GELATIN SEA」の4K Ultra HD Blu-ray(UHD BD)をいつものように視聴した。

「マリアンヌ」では、チャプター2冒頭で描かれる夜の街から社交場屋内へのシーン、アパート屋上で夜の偽装ロマンスシーンなどを視聴。

夜の街のシーンは、街灯が周囲情景よりも格段に明るく光り、それらを照り返すクルマのボディの煌めきが印象的だ。映像パネルの表示なので、実際には現実世界の情景ほど輝度差はないはずなのだが、それに近いほどのコントラスト感を感じることができた。

自発光の街灯、これが照らす周囲のオブジェクトの鏡面反射のハイライト群はそれぞれが明るい。しかし、その明るいハイライトごとに、明確な輝度差の高低が感じられ、画面を見る者に質感のリアリティを確信させるのだろう。

夜の屋上の偽装ロマンスシーンも、いい仕上がりだ。カラーボリュームの作り込みが甘いと、暗がりの中のブラッド・ピットとマリオン・コティヤールの肌が灰色に沈んで“肌色”感が消失してしまう機種もあるなかで、本機ではしっかりと「暗いところにある肌」の質感が正確に出ていた。

また、戦時下であるがゆえの、まばらな灯火に浮かび上がる街並みの夜景、マリオン・コティヤールがランタンを下げて屋上に上がってくるときの背景の黄色系の塗り壁の拡散光なども、ノイジーな雑味がないのも立派。自発光パネルは「暗く光らせること」が苦手で、往々にして暗いシーンはノイジーな描画になりやすいのだが、そのあたりも違和感はない。液晶的なアナログ感のある描写となっていた。

UHD BD「マリアンヌ」

「ラ・ラ・ランド」では、いつものように夕闇の下で主役二人が歌い踊るシーン(チャプター5)を視聴。

このシーンも街灯の煌めきが美しい。坂を上がった先、石造りのベンチが出てくるシーンあたりの夕闇が「実は結構明るい」という表現についても不満がない。エマ・ストーンの黄色のドレスと朱色っぽいカバンは、暗がりの中でも色味を維持できていることを確認できた。

暗室で視聴していたのだが、この作品は2.35:1のシネスコサイズの映像なので、本編映像フレームの上下に黒帯が表示されているはずなのだが、部屋の暗闇に完全にこの黒帯が溶け込み、室内照明を付けるまで“その存在”すら忘れていた。暗室における映画視聴時に、この上下の黒帯の存在を完全に消せるところにも有機ELの魅力はあるように思う。

UHD BD「ラ・ラ・ランド」

「GELATIN SEA」ではチャプター「Shadow」をチェック。

このシーンは、水深の深い海の紺色から浅瀬付近のシアン色までのグラデーションをチェックするのに使っているが、これは明色の色域設計がうまくいってないと、浅瀬のシアン色のところの緑成分の"色のり"が弱く、青が勝ってしまってしまう見映えになる。

現状の有機ELパネルは緑成分が強くないが、これもうまく緑成分の乗ったシアン色が再現されている。おそらく、この領域の発色は緑成分のダイナミックレンジ優先で作り込んでいるのかもしれない。そうなると画面全体の輝度は若干落ちているはずなのだが、階調とコントラスト設計のバランスが良いためか、違和感はない。

チャプター「Nightfall」の夕焼け雲のシーンも良好だ。沈み行く太陽を包み込むオレンジに輝く雲と、そこから暗く赤味を帯びた雲へと続くグラデーションがとても美しい。「オレンジ(明)→赤(暗)」への色&輝度の階調遷移も自然で、赤色のダイナミックレンジを上手くカバーできている。

UHD BD「GELATIN SEA」

最後に、いつものリファレンス画像を各画調モードで撮影した写真と白色光のカラースペクトラムを示す。

映像メニュー「あざやか」…輝度優先の画調。明るい部屋での視聴に適している
映像メニュー「標準」…汎用性の高い画調
映像メニュー「スポーツ」…ゴルフなど草木(緑)の割合が多いシーンに最適化した画調
映像メニュー「アニメプロ」…輪郭表現、面単位の塗りなどが多いアニメ向け最適化画調
映像メニュー「放送プロ」…ニュースやバラエティ番組などの一般的なテレビ番組向けに最適化した画調
映像メニュー「映画プロ」…色温度が低めで人肌の表現も自然な映画視聴に最適化された画調
映像メニュー「リファレンス」…色空間、HDR階調規格など、各種映像規格になるべく忠実な表示を目指した画調モード
映像メニュー「ゲーム」…低遅延性能に配慮した画調モード
映像メニュー「モニター」…マスターモニターに近い味付けの画調モード

総括~40型代の液晶&プラズマからの買い換えがお薦め。距離を置けばデスクトップもアリ?!

今回取り上げたX8400シリーズの有機ELレグザは、一言で表せば“年次改良”といったところだが、個人的には、この最小画面サイズである48型「48X8400」こそがホットトピックだと考えている。

48X8400のサイズ感はちょうど、狭額縁化ブーム前の液晶テレビの46型と同等か、それよりもやや小さい。「55型は置けないが、46型よりはサイズアップしたい」と考える、46型前後の液晶テレビからの買い替え派に響くこと間違いない。もちろん、このサイズ感の製品は今や液晶モデルにも存在するが「このタイミングで買い替えるならば有機ELがいい」というユーザーは多いだろう。

自発光映像パネルにこだわり、プラズマテレビの愛好ユーザーもまだ少なくないと思う。最後期のプラズマだったビエラも2012年発売からしばらく経つので、そろそろ買い換え時期が迫ってきているはず。このタイミングで「自発光にこだわりたい」「今から買い替えるならば4K」と言うことになれば、自然と有機ELテレビしか選択肢はない。2010年前後のプラズマテレビのメインストリームサイズとくれば、42/46/50型あたり。こうしたサイズのプラズマからの買い換え層にも48X8400は響きそうである。検討されたし。

さて、今回の48X8400の評価にあたっては「パーソナルユースのデスクトップモニターとして使えるか」という検証もしたかったので、評価期間後半は、あえてテレビ台から机に設置して近めの視距離で使う実験も行なった。

結果は、普段から視距離50cm程度で40型の東芝レグザ「40M510X」をモニターとして使っている筆者からしても「48型で視距離50cm」は近すぎた、というのが本音だ(笑)。筆者の感覚だと、画面全体を視界に収めきるには視距離60~70cmは必要だと感じた次第。

筆者の原稿執筆環境

「普段使いの視距離50cmから、たかだか+10~20cm離すだけならば、そう大差はないのでは?」と言われそうだが、机の大きさと机の前の座る位置は決まっているし、一般的なオフィスデスクの奥行きが60~80cmであることを考えると、60~70cmの視距離を確保して設置するのは意外と敷居が高いのである。まぁ、そんな理由で、モニター的に活用するのであれば、筆者は(16:9のアスペクトだと)画面サイズは40型前半台が望ましいと考える。

逆に言うと、本機48X8400を視距離60~70cmで使える環境があれば、十分にモニター的に使うことはできるだろう。

トライゼット西川善司

大画面映像機器評論家兼テクニカルジャーナリスト。大画面マニアで映画マニア。3Dグラフィックスのアーキテクチャや3Dゲームのテクノロジーを常に追い続け、映像機器については技術視点から高画質の秘密を読み解く。近著に「ゲーム制作者になるための3Dグラフィックス技術 改訂3版」(インプレス刊)がある。3D立体視支持者。
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