小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第985回
ワイヤレスマイクが熱い! ソニーとRODEの新製品をテスト
2021年5月12日 08:00
見直される「音」
近年のAVのトレンドは映像の4K化とHDR化が牽引してきたところだが、ここ2~3年の短期的傾向としては、「音」に注目が集まっている。完全ワイヤレスイヤフォンが当たり前になり、3Dオーディオも熱いジャンルだ。一時期は枯れたと思われたポッドキャストも息を吹き返し、音楽ストリーミングサービスに組み込まれて、一つの言論メディアとして成立し始めている。
コミュニケーションということでは、今年始めにClubhouseが大きく注目を集めたのはご承知だろう。日本では失速と伝えられているが、Twitterやfacebookといった大手SNSも対抗として同様の機能を提供する構えを見せており、ワールドワイド的にはこの方向性は今後伸びそうだ。
こうした傾向を通じて、コンシューマでも肉声の集音に注目が集まっている。いつまでもカメラやスマホ内蔵マイクでは、クオリティは上がらない。では高いマイクを買えば解決なのかというと、そういうことでもない。どうやって人の声を綺麗に音声を収録するのかは、コンシューマでも大きな課題といえるだろう。
そんな中、今回ご紹介するのは、ワイヤレスマイクだ。従来ワイヤレスマイクは業務用が中心で高価なものが多かったのだが、ここにきて2.4GHz帯を使うコンシューマ用途のワイヤレスマイクも、大きく性能を上げてきた。
一つはソニーの「ECM-W2BT」。カメラ用ワイヤレスマイクとしては、2014年の「ECM-W1M」以来7年ぶりの新作となる。価格は22,500円。
もう一つはRODEの「Wireless Go II」だ。2019年発売の「Wireless Go」の上位モデルで、マイク2つが同梱されたデュアルチャンネル対応機である。価格は4万5,100円。
昨年発売の小型ジンバルカメラ「DJI Pocket 2」の「Creator Combo」でもワイヤレスマイクを同梱しており、カメラとワイヤレスマイクは切り離せないトレンドになりそうである。マイクのワイヤレス化は、我々にどういった恩恵をもたらすのだろうか。
用途が練られた「ECM-W2BT」
ではまずソニーのECM-W2BTから見ていこう。型番が示すように、ワイヤレス通信にはBluetoothのaptX Low Latencyを採用しており、低遅延なのがウリである。Bluetoothのバージョンは5.0で、プロファイルはAdvanced Audio Distribution Profile。最大通信距離は200mとなっている。
まずレシーバ側から見ていこう。底部はカメラのアクセサリーシューに取り付けられるようになっており、デジタルオーディオインターフェースに対応したマルチインターフェースシュー搭載カメラであれば、シューの端子経由でデジタル伝送ができる。現時点で対応しているカメラはFX3/α1/α9 II/α7R IV/α7S III/α7Cとなっており、割と最近のカメラしか対応していない印象だ。
なお非対応のカメラでも、レシーバのアナログ出力からカメラのマイク端子にケーブル接続すればいいだけなので、基本的にはマイク入力さえあれば他社のカメラでも利用できる。
本体右側にスライドスイッチがあり、後ろから見て手前側が電源とデジタル・アナログ出力切り替えスイッチだ。前側のスライドスイッチは、どのマイクを生かすかの選択スイッチである。実はレシーバー側にもマイクがあり、ワイヤレスマイクだけでなく、撮影者の声も別に拾うことができる。つまりこのスイッチで、ワイヤレス側だけにするのか、それともレシーバ側だけにするのか、両方をミックスするのかが選択できる。
ミックスを選択した場合、レシーバとワイヤレスで別チャンネルに収録されるわけではなく、モノラルミックスとなる。撮影者と被写体で音声レベルが違うとか、片方だけノイズリダクションをかけたいといったときに、切り分けができないのは残念だ。
ソニー系カメラでは、デジタルオーディオインターフェースに非対応でも、マルチインターフェースシュー採用であれば、一部のモデルを除いてシューから給電される。また本体内にバッテリーを内蔵しており、単体でも動作できる。内蔵バッテリーでの動作時間は、約3時間。
アナログ出力もあるので、カメラに限らずミキサーに直接入力したり、スマートフォンにアナログで繋いで録音することも可能だ。とはいえ、トランスミッタの固定にはアクセサリーシューが必要になるので、シュー付きのカメラアクセサリが必要になる。
マイク側も見てみよう。スイッチ類はすべて右側で、電源スイッチとアッテネータがある。アッテネータは、音量調整のようなものだと思っておけばいいだろう。カメラ側で音声のレベルメータを見ながら、レッドゾーンに飛び込まない範囲で設定する。充電用のMicroUSB端子も右側にある。
背面は大きなクリップになっており、服やポケットに装着できる。また天面にはマイク入力もあり、別途ラベリアマイクを接続すれば、単純なトランスミッタとしても動作する。ただ、レシーバが直線で見える位置に装着する必要がある。体で遮る位置、例えば業務用のワイヤレスマイクのようにお尻のポケットなどにトランスミッタをつけてしまうと、伝送距離がかなり短くなるので要注意だ。
本体マイク用には、ウインドスクリーンも付属する。マイク入力端子を利用して差し込むというスタイルだ。
では実際にテストしてみよう。今回はデジタルオーディオインターフェースに対応した「α7C」をお借りしたので、シュー経由のデジタル伝送で収録している。
まず伝送距離だが、サンプルのように70mぐらい離れて喋っても、全く問題なく集音できた。また風がある中でもウインドスクリーンがあるので、フカレ等の影響はほとんどない。胸ポケットに付けただけだが、かなり明瞭に集音できる。
マスクをして喋った場合も、明瞭度は若干さがるものの、モゴモゴした感じはなく集音できている。ここはやはり口元とマイクの位置が近いワイヤレスマイクならではの利点だろう。
バッテリー残量が少なくなると、前面の電源LEDライトがオレンジ色に点滅して判別できる。ただ撮影に支障が出ないように光量が控えめなので、日中の昼間ではLEDライトがほとんど見えない。マイク側はウインドスクリーンを取り付けると、さらに見えなくなる。また現在バッテリー残量が何%なのかもわからないので、とりあえず使う前にはフル充電というスタイルで対応するしかない。
せめてソニー製のカメラでデジタル接続しているのであれば、バッテリー残量もカメラ側のディスプレイで確認したいところだ。
念入りに設計された「Wireless Go II」
続いてRODEのWireless Go IIを見ていこう。RODEは昨今カメラマイクで徐々にコンシューマでも知られてきている、オーストラリアのマイク専門メーカーだ。前作のWireless Goはレシーバとトランスミッタの1対1製品だったが、IIはトランスミッタが2つ付いた、デュアルチャンネルモデルである。
まずレシーバ側から見ていこう。サイズは約45×45mmの正方形、暑さ18mmの薄型で、トランスミッタ側も同じサイズだ。上部に電源ボタンがあり、3秒の長押しでONとなる。
表面に小型ディスプレイがあり、2基のトランスミッタのステータスが表示される。底面に2つのボタンがあり、右側がトランスミッタの設定切り替え、左がアッテネータおよびミュートボタンだ。両方のボタンを長押しすると、2基のトランスミッタからの音声を2chに振り分けるか、モノラルミックスするかを選択できる。
左側にUSB-Cコネクタと、アナログ出力端子がある。底面にはクリップがあるが、このクリップ幅がちょうどアクセサリーシューと同じ幅なので、カメラのシューにも固定できる。なかなかうまい工夫だ。フル充電での連続使用時間は約7時間。
カメラにはアナログ出力で対応する。一方スマートフォンやPCには、USB-Cで接続すれば、デジタル接続となる。このあたりはあとで確かめてみよう。
トランスミッタ側は、底部に電源ボタンがある。電源ボタンやクリップの向きからすると、ちょうどレシーバを上下逆にしたような作りだ。
天面にはマイクと外部マイク入力、ステータスを示すLEDが2つある。別途ラベリアマイク等を繋げば単にトランスミッタとなるのは、ソニーECM-W2BTと同じ作りだ。ウインドスクリーンも付属しており、マイクの周囲にひねって固定するスタイルである。
電源を入れるとレシーバ側にRECの文字が現れるが、Wireless Go IIのトランスミッタは、内部メモリーに自動的にバックアップを録音している。したがって通信が途絶えてカメラ側に収録ができなくなったときも、トランスミッタ側から音声ファイルを取り出して補完することができる。内蔵メモリーには、圧縮で約40時間、非圧縮で7時間記録できる。
では実際に集音してみよう。カメラは同じく「α7C」だが、今度はアナログ出力を使って外部マイク端子に入力するというスタイルをとっている。
まず伝送距離だが、こちらも最大伝送距離200mということなので、70mぐらい離れても全く問題ない。また風がある中でもウインドスクリーンがあるので、フカレ等の影響はほとんどないのも同様だ。
マスクをして喋った場合も、明瞭度は若干さがるものの、モゴモゴした感じはなく集音できている。このあたりはマイク特性ではなく、付ける位置のメリットがあるということだろう。バッテリーは、レシーバー側のディスプレイ内で全部の機器の残量が把握できるので、管理はしやすい。
ワイヤレスマイクの多くがモノラルなのは、電波を1chしか飛ばしていないから当然で、ステレオ録音するには2ch必要になる。Wireless Go IIはもともと2ch仕様なので、マイクを2つ並行に並べればステレオ録音ができる。
マイクが2つあるという点ではECM-W2BTと同じなので、1chを被写体に、2chめを撮影者に取り付ければ、同じような収録スタイルが可能だ。しかもチャンネルを個別に収録できるので、あとで片方だけレベル調整やエフェクト処理なども可能だ。
またミックスモードで収録した場合、LchがメインでRchは-20dbダウンした音声が収録できる。この-20dbダウンした方はセーフティチャンネルと呼ばれており、急に大音量が入ってきてメインチャンネルが歪んでしまった場合のバックアップとして使える。
スマートフォンへは、USB-Cでの接続となる。iPhone 12 miniに手持ちのUSB-C - Lightningケーブルで接続してみたが、MFi認証対応ケーブルが必要なようで、マイクとして認識されなかった。以前のiPhoneに標準で付属していたLightning - アナログ変換ケーブルと、マイク/ヘッドフォン分岐ケーブルを使ってアナログマイクとして接続したところ、問題なく使用できた。
一方Androidの場合は、一般的なUSB-Cで接続できるようだ。今回はGoogle Pixel 4a (5G)に接続してみたが、標準カメラアプリの設定で音声を外部マイクに設定すれば、Wireless Go IIの音声を収録できた。
標準の音声録音アプリ「レコーダ」でも試してみたが、設定に「マイクの自動検出」とあるものの、Wireless Go IIへは切り替わらなかった。このあたりは外部マイクの扱いがアプリごとに変わるようだ。
PCでの利用は簡単だ。今回はM1 Macbook Airに接続してみたが、USBのオーディオインターフェースとして認識されるだけなので、各アプリでWireless Go IIを選択するだけで簡単に利用できる。
最後に管理ツールであるRODE Centralについても触れておこう。WindowsとMacOS向けに無償提供されているアプリで、Wireless Go IIのファームアップデートに使えるほか、レシーバでは設定の確認や変更ができる。
トランスミッタを接続すると、内部録音のクオリティが設定できるほか、内部に記録されている音声ファイルにアクセスできる。伝送収録に問題があった場合は、こちらからファイルを取り出すことで対応できる。
総論
以前のコンシューマ向けワイヤレスマイクは、最大伝送距離は100mぐらいだったのだが、今はもう200mに到達しており、伝送クオリティもかなり良くなっている。今回はソニーとRODEの製品をテストしたが、伝送距離やクオリティはどちらも満足できるレベルであった。
ソニーのほうは、デジタルオーディオインターフェース対応の同社カメラであればマイク配線が不要なので、セットアップは簡単である。さらにアナログ出力もあるので、基本的にはどんなカメラにも使える設計となっている。
またレシーバー側にもマイクを持たせているのも、なかなかおもしろいアイデアだ。カメラ内蔵マイクを活かせば済む話かもしれないが、選択スイッチがない殆どのカメラは、外部マイクをつなぐと内部マイクはカットされてしまう仕様なので、こうした作りになったのだろう。
ただ、デザイン的には「ザ・ニッポンのカメラアクセサリ」的で、今となっては野暮ったい印象は否めない。また充電端子がMicroUSBなのも、古臭い製品に見えてしまうのだが残念だ。
Wireless Go IIは、マイク2つを2ch伝送するので価格的にはかなり高い部類になるが、昨今のインタビューは、1本のマイクを自分と相手に交互に向けて、といった方法ができなくなっており、マイクを2つ用意するほうが無難である。
加えてマイク内部でバックアップ録音できるなど、安全設計がプロ仕様である。デザインもマイクっぽくなくて、なかなかかっこいい。そう考えると、この値段でも仕方がないところだ。カメラとデジタル接続できないのが残念だが、その代わりスマートフォンやPCにはデジタル接続できるという強みがある。
5年前では、みんなが顔出しでしゃべる、あるいは街へ出てしゃべるといったニーズは、コンシューマにはほとんどなかった。だが今やしゃべりコンテンツがネットを席巻するようになり、多くの人が自分でしゃべるようになった。
カメラはスマートフォンの進化により市場が圧迫されたが、音声収録に強いスマホというのは聞いたことがなく、ここに「隙間」がある。音声市場がスマホに食われるという状況は、当分やってこないだろう。したがって気軽に使えて安定した集音ができるワイヤレスマイクは、今後わかっている人ほど使う的な需要が高まっていくと思われる。
今回は特に有名な2社の製品を取り上げたが、ブランドがあまり関係ないジャンルなだけに、使い勝手が良ければ他社にもチャンスがある。今後の盛り上がりに期待したいところだ。