白球つれづれ2024・第21回
現役時代の愛称は「ゴリ」。どちらかと言えば、いかつい風貌の指揮官が子供のような笑顔を浮かべた。
「やっと笑える!」
楽天ゴールデンイーグルス創設20年。節目の年にセ・パ交流戦の初優勝を手にした今江敏晃新監督は初めて大きな仕事をやり終えた喜びに浸った。球団にとっても2013年、星野仙一監督の下で日本一になって以来の勲章だ。
前夜の段階では広島に敗戦、2位を行くソフトバンクに並ばれた。
16日に持ち越された最終決着。楽天に序盤から幸運な得点が転がり込む。
2回、浅村栄斗、渡邊佳明選手の連打直後に広島守備陣の連続失策が重なり3点を先制。続く3回には4番に座る鈴木大地選手が「12球団制覇」の1号2ランで安全圏に入ると、最後は新守護神・則本昂大で逃げ切る。それから約30分後にソフトバンクの敗戦が決まり、杜の都が再び沸きかえった。
13勝5敗。交流戦前には8つあった借金を見事に返済。気がつけばリーグ戦でも3位のロッテと2ゲーム差。2位の日本ハムとも2.5差とAクラスが手の届くところまでこぎつけた。(16日現在)
新監督のスタートは茨の道の連続だった。
開幕直後は最下位に転落。5月後半にも6連敗、中でも21日からのソフトバンク戦では0-21と0-12、屈辱の大敗を喫する。球団どころか球史に残る汚点から1カ月足らずで、交流戦の頂点に駆け上るとは誰が予測し得ただろうか?
「投手陣の頑張りは大きかったが、野手を含めて全員が必死になって結果を出さないと勝てないチーム。全員が一生懸命、自分の役割を果たしてくれた」
今江監督の交流戦総括談話だ。1人の突出したヒーローがいたわけではない。しかし、ソフトバンク戦の記録的大敗は、ある意味でチームを眠りから覚ます分岐点となった。
チームの顔である浅村と島内宏明選手の不調が続くと、浅村を4番から下げ、島内には二軍調整を命じている。代わって小郷裕哉選手が中日戦で満塁弾、巨人戦でサヨナラ打など2発13打点の活躍。投げては4年目の藤井聖投手が交流戦3勝、防御率1.56と大きく貢献している。文字通り、「今江イズム」の全員で繋いでつかみ取った栄冠である。
監督として再び「下剋上」を
今江監督の白球人生を振り返ると、ミラクルな力と相次ぐ故障が忘れられない。
名三塁手として鳴らしたロッテ時代には2005年、10年の日本一に輝いているが、日本シリーズでは共にMVPを受賞。中でも10年のペナントレースは3位で終わりながら、伝説の「下剋上V」の主役として歴史に名を刻んでいる。
その一方では、相次ぐ骨折や目の網膜症などで選手生命を短くしている。それでもチームメイトから愛される明るいキャラクターや、コーチ時代の熱心な指導ぶりが、楽天移籍後の指導者への道を切り開いた。
40歳での交流戦優勝監督は史上最年少。蛇足ながら推定年俸4000万円の指揮官は、今季新たな監督人生をスタートさせた巨人・阿部慎之助、ソフトバンク・小久保裕紀両指揮官と比べて半額にも満たない。
さらに付け加えればPL学園出身の指導者は苦戦が続いている。西武の松井稼頭央前監督は成績不振を理由に退団に追い込まれ、中日・立浪和義監督も2年連続最下位からの巻き返しを図るが、今季もBクラスに沈んでいる。同じPL出身の今江監督が頑張れば、OB連も一息つく思いだろう。
「交流戦の小さな頂ですが、シーズンが終わる頃には、大きな頂を皆さんにお見せできるよう、またリセットして目の前の試合を戦っていきたい」
現状11ゲーム差で首位を行くソフトバンクを捕まえるのは至難の業だが、今後の戦い次第でクライマックスシリーズに進出して、再びの「下剋上」だってあり得る。
山あり、谷ありの今江劇場。夏から秋にかけて次はどんなミラクルを作り上げていくのか?
一度つかんだ手応えと勢いは失いたくない。
文=荒川和夫(あらかわ・かずお)