若林理央,2024,母にはなれないかもしれない──産まない女のシスターフッド,旬報社.(9.6.24)
「子どもを産まない」その一言が言いづらい
「なんで産まないの?」「次は子どもだね」「産んだらかわいいって思えるよ」「産んで一人前」
友だち、親、同僚、パートナー、SNSの言葉に戸惑い、傷つく女性たち。
女性たちの「産まない・産めない・産みたくない」を丁寧に聞きとったインタビューと著者自身の「産まない」を紐解くエッセイから見えてくる、日本の女性たちのリアル。
あまりに変わるところのない、旧態依然とした価値観、慣習、制度には日々うんざりさせられるが、確実に変わったこともある。
その一つが、個人のプライバシーに属することがらへの無遠慮が、とくに若い人からなくなりつつあることだ。
例えば、「彼氏(彼女)いるの?」、「結婚してるの?」、そして、「子どもはいるの?」といった問い。
これらのことを躊躇なく尋ねるのは、少なくともきわめてデリカシーに欠けるとみなされるようになった。
本書は、「なぜ子どもを産まないの?」という問いに傷つきながら、こころが揺らぎながらも、「子どもは産まない」選択をし続けた、筆者も含めた女性たちの想いが詰まった作品である。
子どもを産み育てることに大きな喜びを感じてきた女性も数多い。
そうした女性には、子どもを産み育てることが苦痛でしかなかった、あるいは苦痛でしかないだろうから産まない選択をした女性たちへの想像力に欠けるところがある。
子どもが産めずに苦しんでいる人、あえて子どもを産まない選択をしている人。どちらの存在も無視して、ただ子どもを産むことは幸せなことだとのたまう残酷さに気づいていない人は非常に多い。
(p.77)
子を産む人生と産まない人生のどちらをおくるのか、悩む女性は少なくないのだろうが、それぞれの後悔の度合いを冷静に推し測ることのできる女性もいる。
〝今は良くても、年老いてから産みたいと思っても無理なんだよ〟
私は、産まない女性に対してよく投げかけられるこの質問に対して、鈴木さんがどう感じているのか知りたくなった。
「産んだとしても、産まなかったとしても、後悔するんじゃないかな。ただ産まなかったことによる後悔は自分ひとりで済むけど、産んでしまった後悔は結婚相手や子どもにも影響する。だから今のところは産まない後悔を選びたいですね」
(p.96)
子どもを産み育てる/産まないことの喜びと苦痛、悔恨。
それは、女性一人一人異なる経験なのであり、どちらが良いとか決められるものではけっしてない。
本書は、女性たちに「産まなくともだいじょうぶ」という安心をもたらしてくれるかもしれない。
目次
第1章 私は「産まない」を選んだ
第2章 産まない・産めない・産みたくない女性たち
「子どもができたらどうしようと思いながら、夫とのセックスは避妊していない」(専業主婦・安田紬さん(37歳))
「男性社会で仕事をするために産まない」(フリーライター・鈴木麻理奈さん(34歳))
「不妊治療に費やしたのと同じ年数、産めないことに傷ついてきた」(ウェブデザイナー・藤原莉乃さん(52歳))
「産まないつもり。パートナーとは一度もセックスしていない」(事務職・守谷あかりさん(29歳))
「母親から言われた「恋愛も結婚もしないで生きて」という言葉」(会社員・清水麻衣さん(33歳))
「もし、時間が戻せるなら産まない」(美容師・白川梓さん(46歳)))
第3章 対談 若林理央×佐々木ののか―産む・産まないを「選択」することはむずかしい