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本と音楽とねこと

【旧作】主婦症候群【斜め読み】

円より子,1988,主婦症候群,筑摩書房.(9.3.24)

男女、愛、結婚、夫婦、そして主婦へ…。ストレス、倦怠、変調、焦燥、不眠、疲労、憎悪…、主婦なるがゆえに起こる病状、主婦症候群―。悪妻進行症、夫妻中毒症、専業主婦自閉症、潜在的離婚願望症、主婦失調症、嫉妬妄想症、良妻賢母硬化症、神経性冷感症、恋愛免疫不全症、中高年母性固執症…。あらゆる主婦がかかる病い。だから、その役割と存在について、認識を深めるために。

 ベティ・フリーダンの『女性らしさの神話(邦題『新しい女性の創造』、1963)』は、第二波フェミニズムの嚆矢となった書物であるが、フリーダンが「名前の付けられていない問題」(The Problem that Has No Name)と呼んだ、抑うつやアルコール依存に苦しむ、中流階層の専業主婦が抱えた問題は、その後、日本社会でも注目されるようになった。(例えば、斎藤茂男,1982,『妻たちの思秋期』共同通信社など。)

もしも私が家を建てたなら
小さな家を建てたでしょう
大きな窓と 小さなドアーと
部屋には古い暖炉があるのよ
真赤なバラと白いパンジー
子犬のよこにはあなた あなた
あなたがいてほしい
それが私の夢だったのよ
いとしいあなたは今どこに

ブルーのじゅうたん敷きつめて
楽しく笑って暮すのよ
家の外では坊やが遊び
坊やの横にはあなた あなた
あなたがいてほしい
それが二人の望みだったのよ
いとしいあなたは今どこに

そして私はレースを編むのよ
わたしの横には わたしの横には
あなた あなた
あなたがいてほしい

そして私はレースを編むのよ
わたしの横には わたしの横には
あなた あなた
あなたがいてほしい

(小坂明子「あなた」)

 みたいな(笑)、まだ貧しかった時代には、こんな小市民的で、乙女チックな結婚幻想が蔓延っており、そうした幻想を打ち砕いたのが、名前のない問題──職業をとおして自らの資質、能力を開花させる機会を奪われ、閉ざされた家庭のなかで鬱屈する専業主婦たちの問題なのであった。

 夫の家事時間の、我が国の平均は、前の章でもふれたように、一日六、七分と信じられないほどの短さです。といって、夫も家事を手伝えといくら叫んでも、父親は家庭に帰れと主張してみても、それは役に立ちません。
 というのは、妻の側に、出世し、収入を多く得る夫を誇らしく思う気持があるかぎり、その夫が毎日早く帰って子供と遊び、妻と一緒に皿洗いができるはずもないからです。将来の出世を期待して勉強だけさせ、家の手伝いもさせたことのない男の子が、成人して、家事ができ、家庭を大事にする男になるわけもありません。
 妻は、妻みずから、家庭を大切にしない男たちをつくりあげているのです。そして男たちは、女にもてたいばかりに必死で、稼ぎがよく、地位の高い人間になろうとして、自らを叱咤激励しているのかもしれない。そこから落ちこぼれて、ノイローゼになる男たちが増えています。哀れです。子供たちは暴力や非行に走ります。
 この悪循環を断ち切るには、夫や子供のために生きるという、良妻賢母の考え方を捨てることです。
 充足感は、夫や子供を通してでなく、自分の生き方から得ることが、どうしても必要に思えてきます。自分で仕事を成し遂げる喜びと、そこから得られる自分なりの評価を、私たち女は大切にすればいいのです。それができないかぎり、夫や子供によって評価される女の立場は、これから何千年たっても変わらないと思います。
(pp.189-190)

 そして第三の子離れ危機で、母親は母親業の定年を拒否する行動に出ます。これは、もう立派な一個の大人である子供たちが就職、結婚で自分から離れていくことに耐えられず、幼い子供に対するように世話をやく。つまり母親という役割からおりたくない。おりるとほかに何もない不安が、彼女らを駆りたてるわけです。
 こうして、しだいに子供が成長し、親離れしていく間にもさまざまな「主婦症候群」の症状が出てきます。
 期待していた夫に失望したり、夫を働き手という役割でしか見なくなり、男としての認識を失っていくことからおきる「良妻賢母硬化症」や「潜在的離婚願望症」。そして、共通の世界を持てず、どんどん会話のできない形骸化した夫婦となっていく「夫婦中毒症」。夫に従うという日常が、性生活まで支配し、自然な性欲が萎縮してしまう「神経性冷感症」。そして、子育て後の、自分にとり戻せた時間で働きに出た女たちは、そこで子供という生きがいと、自分の若さを失いつつある不安と、夫との満たされない生活、不慣れな異性交際という要因を十二分に持って、「恋愛免疫不全症」におちいっていく。
 「第三子離れ危機」は閉経とも重なって、体の不調、衰えゆく体力、健康への不安が「老後危機」につながっていきます。
 それが「嫉妬妄想症」という、夫を必死で失うまい、これまで築いたものをなくすまいという形であらわれたり、「中高年母性固執症」といって、いつまでも子供に執着したり、「悪妻進行症」のように、夫に復讐する形をとったりするようになるわけです。
(pp.277-278)

 本書が出版されたのは、折しもバブル経済期、離婚──とくに中高年齢層の離婚が増加し、「家族の危機」が喧伝されてきた時期に当たる。

 円さんが主宰した、「ニコニコ離婚講座」は大盛況となった。

ハンド・イン・ハンドの会
(活動休止中)

 当時の離婚を決意した女性たちが多用する、「主人」、「夫婦生活」、「夜の生活」といったいまや死語となった言葉に時代を感じる。
 その後、DV、経済的虐待、セクシュアリティの二重基準といったコンセプトも人口に膾炙し、本書刊行時とは隔世の感がある。

 変わらなかったことも多いが、確実に変化してきたところも大きい。

目次
第1章 悪妻進行症
第2章 夫婦中毒症
第3章 専業主婦自閉症
第4章 潜在的離婚願望症
第5章 主婦失調症
第6章 嫉妬妄想症
第7章 良妻賢母硬化症
第8章 神経性冷感症
第9章 恋愛免疫不全症
第10章 中高年母性固執症
終章 あらゆる主婦がかかる病


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