眠(ねむ)っているときに見る夢(ゆめ)。それはまさに、一番身近(みぢか)なバーチャル世界(せかい)なのかもしれない。
ここに、夢に取り憑(つ)かれた男がいた。彼は毎朝、どっと疲(つか)れて目を覚(さ)ます。いろんな夢を見るようになってしまったからだ。でも、どんな夢を見ていたのかどうしても思い出せない。夢を見ていたのは確(たし)かなのだが、目覚(めざ)めるとすぐに忘(わす)れてしまうのだ。思い出そうと頑張(がんば)っても、断片的(だんぺんてき)なぼやけた情景(じょうけい)しか出てこない。
ある日のこと。目覚めると彼はひとつだけ、夢の中のことをはっきり覚えていた。それは、夢の中に自分(じぶん)がいて、これは夢だと気づいてしまったことだ。その途端(とたん)に、今まで見た夢がまるで逆再生(ぎゃくさいせい)のように巻戻(まきもど)っていく。すべての夢の中の自分が、「これは夢だ!」と叫(さけ)んでいた。
彼は目覚めた。そこは自分のベッドの中…。回りを見回しても、いつもと変わらない感じ。彼はゆっくりと起き上がると、ホッと息(いき)をついた。全身(ぜんしん)が、まるで全力疾走(ぜんりょくしっそう)した後(あと)のように疲れ果(は)てていた。彼は、ふと呟(つぶや)いた。
「また…夢を見たのか? ちゃんと寝(ね)てるはずなのに、どうして疲れがとれないんだよ」
彼は両手を頬(ほお)にあてようとして愕然(がくぜん)とした。手が、汚(よご)れているのだ。
「これは…、土(つち)…なのか? どうして…?」
彼は布団(ふとん)をめくってみた。するとそこには、大きな魚(さかな)の鱗(うろこ)のようなものがいくつもあった。それに混(ま)じって、動物(どうぶつ)の毛(け)のようなものまで――。
<つぶやき>どうやら彼は、混沌(こんとん)の世界に迷(まよ)い込だようです。どんな夢を見ていたのか?
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます