「女を抱いたことがあるかと水を向けたら、はじめのうちこそ『女なんて下等な動物との交わりなど』と粋がっておったが、わしが、○刑じゃ○刑じゃと脅しをかけたら、真っ青な顔をして本音をポロリともらしよった。
『いちどは抱いてみたい。そんな女がひとりいる』と涙声で言いよった。
でわしが、この世に生きたという証に子どもを産んでくれと言うてみい。
イチコロじゃ。女の方から股をひろげるさ。
耳元でささやいたら、とたんに『帰してください。ひと晩でいいです』ときた」
半分ほどの茶碗酒でのどの乾きを潤されると、
「聞きたいか、本当のことを」
と、また話をつづけられました。
「帰さんでもないが、その代わりに全部話すか?
おまえの知っていること全部を話すか?
山本、白井、岡田にそして幹部の竹本のことを。
そう言うと『もちろんです、知っていることすべてをお話します』。
そう言い出したわ。まあそこで締め上げてもよかったが、良い思いをさせれば楽に吐くだろうと考えてな。
一見ひ弱そうにみえる男ほど、意外に手こずらせることもあってな。
それでとりあえず帰したというわけよ。
これが、事の真相だ。思えば、あんたも哀れなもんじゃ」
勝ち誇ったように立ち上がる善三さんでした。
しかし正味のところ、善三さんの話は誰も聞いていませんでした。
いつの間にか小夜子さんを取り囲むようにして座り、静かな声で話をされている小夜子さんのことばしか聞いていなかったのです。
「わしの話を聞け!」
善三さんが、怒りにふるえて大声を出されました。
しかし涼しい顔で、小夜子さんが言うのです。
「坂田さま、善三さま。みなさまがお聞きになりたいのは、わたくしの話のようでございますね。
しばらくの間、静かにしてもらえませんか?
わたくし、そう長くはこの場におられません。
閻魔さまのお許しをいただけたのも、すこしのときでございますから」
皮肉っぽく善三さんの名前を告げられて、こちらにどうぞと、手招きをしました。
こぶしをぐっと握られた善三さん、
「よし分かった。わしもおまえさんの話を聞いてやろう。
がもし嘘偽りがあったら、その場で糾弾してやる!」
と、押しころした声でおっしゃったのです。
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