34 いつの間にかゲンさんの仲間のタクマ、サユリ、シゲキとコユキがウェットスーツ姿で勢揃いしていた。「おはようございます。 吉田さん、今日は彼女連れで鼻の下…
この度、ブログで連載小説をはじめます。 よろしかった、読んでみてください。
34 いつの間にかゲンさんの仲間のタクマ、サユリ、シゲキとコユキがウェットスーツ姿で勢揃いしていた。「おはようございます。 吉田さん、今日は彼女連れで鼻の下…
33「サーファーの方って、大阪の方なんですね」 「そうです」 「ハワイからの帰りに大阪の友人の実家に泊めてもらって、 彼女の案内で梅田や難…
32 マキの要望もあり、5月3日にレンタカーで房総半島に行くことにした。 この日は3月末に大宮の氷川神社でお会いした柳本さんとフィアンセの吉田葵さんの結婚式…
31 先ほどの店員が注文を取りに現れると、 マキの生ビールの小ジョッキと小さなグラスに続いて、 俺は中ジョッキと砂肝、つくね、鶏皮、ピーマン、玉ねぎをそれぞ…
30 エレベーターで地上に降りると、ビックボックス前に向かう途中、 難を逃れて、マキの足元に非難し、身の安全を確認するや否や走り去った猫と瓜二つの白い猫が…
29「わたし、吉田さんに言われた房総半島に行きたくなりました。 行ったことがなくても、海しかないのは知っていますが、 何かと忙しい東京に2年間住んでいると…
28「ゴールデンウィークはどう過ごされますか?」 「これと言って予定はありません。 実家は広島ですが、この時期に帰省したことがありませんし、 部屋で録りため…
27「わたしにコーヒーを勧めてくれた日本人はハワイへ一緒に行った、卒業旅行に誘ってくれた短大の同級生です」 「お友達は大阪の方ですね」 「よくご存じですね」…
26 4月も半ばを過ぎて、新宿で別れたマキからメールが届いた。「吉田さん、ハワイのワイキキビーチのホテルで出会った、 ミャンマー人のマキです。 月日が…
25 氷川神社の鳥居の前から本殿まで5人で連れ添った。 本殿前でまずは結婚間近のお二人から首部を垂れて、次ぎに御両親、最後に俺の順で神事を済ませた。「これか…
24 土曜日の午前11時、大宮の氷川神社で柳本さんと待ち合わせた。 西船橋で吉田さんをピックアップしますと、柳本さんの有り難い申し出をお気…
23「プロレスで思い出しました。 ハワイのマウイ島を巡るバスの中で、日本で大人気だったアメリカ人プロレスラー、スタン・ハンセンのそっくりさんを見掛けたました…
22 わしがプロレスに興味を持った時はすでに馬場も猪木もすでにプロレスラーとしてのピークは過ぎていました。 賢い馬場はジャンボ鶴田をエースに育て、相撲界か…
21「こう見えて、わしは甘い物がとコーヒーが好物です」 そう言って、おじいさんは大福を一口で頬張った。 そして、コーヒーで飲み込んだ。「吉田さん、野球賭博…
20「そうでしたな、ついつい脱線して申し訳ない。 わしが漁師になる前の話ですが、東京オリンピックが開催される直前の日本は捕鯨の最盛期前夜でした。 戦後、食料…
19 「わしの顔に何か付いていますか?」 おじいさんが不思議そうに尋ねた。 「いいえ」 「吉田さんはプロレスがお好きですか?」 柳本さんの言葉に少しばか…
18 柳本さんに誘われ、日産のSUV車、白いエクストレイルの後に付いてスイフトを走らせた。 BAYFMは今日一日、海をテーマにした音楽特集のようで、 サーフ…
17 3月に入った。 早いもので、今週末は彼岸の入りである。 部屋の壁にピン留めしたカレンダーを眺め、 どこに行こうと考えたあげく、和田浦漁港に行くことに決…
16 勝浦駅を離れ、海側の座席に座りながらずっと窓の外を見ていた。 2月の末、雲一つない澄み切った快晴で外房の海が姿を現したのも束の間、山、畑、短いトンネ…
15 夕飯をご馳走になり、プロレス三昧の締めとして、 「明日もサーフィンはどうですか?」 ゲンさんの言葉に喉を詰まらされながら、 「一日考えさせてください…
14 ゲンさんの家に戻ると、ゲンタの飛び跳ねる歓待を受けると同時に庭に駐まった白い軽自動車が目に入った。 スーパーに勤める奥さんが帰宅していたのだ。 勝浦の…
13 話は尽きないが、サーフィンの支度を始めた。 坊主頭のゲンさんがジャージの上下とインナーのTシャツを脱ぐと、ハワイで焼いた引き締まった体が露わになった。…
12「和歌山で思い出しました。 ゲンさんとハワイのザ・バスの中ではぐれた翌朝、 パールパーバーを目指しホテルの近く通りでバスを待っていると、同年代の和歌山…
11 ゲンさんの話を聞いている間に家に着くと、 赤毛の雑種犬が元気に飛び出してきた。 左右のドアから二人で車を降りると、 「ゲンタ!」 ゲンさんの大きな声…
10 翌週の半ば、都内の仕事を終え、西船橋駅の改札を抜け、 北口のロータリーに向かう途中でメールの着信が鳴った。 行き交う人に迷惑にならないように素早く階段…
9「プロレスといえば、日本で大人気だったスタン・ハンセンのそっくりさんをハワイのマウイ島のバスの中で見掛けました」 「スタン・ハンセンを見た?」 スタン・…
6 「今、ムニョスといつもの場所にいる。 とっくに、9時を回ってるけど」「何?」 とっさに出た言葉が、これだった。 彼とのデートをすっかり忘れていた。「悪い。…
8 マキと名乗る若いミャンマー人女性と新宿で再会を果たした後、こちからメールするのも、いかがなものかと、 想っている間に1週間が過ぎた。 土曜日の夕方、気分…
7「ミャンマーのパスポートが日本のパスポートと同じ赤い色なのをご存じですか?」 「そうなんですか」 「はい。 わたし、初来日の際、成田空港で日本人の方が手に…
6 上京して10年あまり、ここ2年は船橋在住とはいえ、 西武新宿線を利用したことがなく、 池袋線もしかりで、ここに来るのも初めてだ。 これまでに何度かこの…
5 地下鉄副都心線の新宿三丁目で降りた。 地下道で見た、ここが海抜三十数メートルの表記に、 海に近い銀座がほぼゼロメートルだとして、江戸城跡の天皇皇后陛下が…
4 南船橋駅に戻り、気分転換を兼ねて都心に向かうことにした。 IKEAに見参して、船橋オートレース場跡地に建った冷凍工場群と船橋競馬場を遠目に眺め、船橋の名…
3 おじさんが野球の一軍に例えた、国の出先機関のような中央競馬の中山競馬場に一度だけ行ったことがある。 日曜日の午前、学生時代…
2 翌週の土曜日、 不動産屋さんの若い店員さんの言葉通りに武蔵野線に乗って南船橋に行くことにした。 さして用事などなかったが、IKEAでも覗いてみるとしよう…
2章 日本 1 ハワイから帰国した。 偏西風の影響か関空からホノルル空港まで要したより2時間余計な時を過ごした。 そのせいか往きで利用しなかった有料の…
29 ハワイも明日限りだ。 早い便で空港を経つのでマウイ島に出向いた時同様に朝早くホテルを出なければいけない。 実質、半日程度の時間しかない。 …
28 海が見えてきた。 これがハナウマ湾だろうか。 マウイ、オアフ、ラハイナ、キヘイ、ハイク、ワイキキ、 カハラなどハワイの地名は日本語と同じく子音のう…
27 ノースショアから戻った翌日、予定通りにダイアモンドヘッドに向かうことにした。 フリースペーススにはマイケルさんとマリアさんのカップルの姿は見えず…
26 彼に男女4人の仲間を紹介されて陽暮れ近くまで海と波に戯れた。 4人は二組のカップルで全員20代前半から半ばで房総半島の勝浦周辺在住の日本人で彼より一足…
25 朝食のため階下に降りてフリースペースに寄ると、 昨夜の老人が色違いのTシャツ姿でテーブル椅子に座り、 知り会いと見られる少し年下に見える白人女性と親し…
24「西船橋なら僕が住んでいる街です」 「そうですか!」 彼は日本語のトーンを一段と上げた。 「懐かしい! 西船橋がわたしとあなたを巡り合わせてくれた」 …
23 頭の時計はマウイ島からオアフ島に戻っていた。 午後4時を過ぎ、冬の日没が早いハワイで今からやれることは限られている。 ワイキキビーチに立ち、海を…
22 カラカウア通りで海風に当たりながらテスラのショームからJCBプラザのラウンジが入ったビルを過ぎると、広場に人が集まっていたので立ち止まった。 マイク…
21 JCBプラザから通りに出ると、海沿いから冷たい風が吹き抜けた。 カラカウア通りをさら西に歩いて行くうちにビル1階のショーウンドーに展示されている車が目…
20 バスはアロハスタジアムからビレッジセンターを通り、 ダウンタウンに戻って行くと想っていたら、スタジアム手前の道で逸れた。 車窓には南国ハワイのイメー…
19 身体検査を受けたゲートを潜り、コインロッカーに預けた荷物を引き出した。 ナップザックの中に右手を突っ込み、 ABCで買った食料がコインロッカーの暑さで…
18 これは船の碇なのだろうか。 数本の黒いポールとロープと囲われた丸いコンクリー台の上に左右の角状のコンクリート台が乗せられ、その上に人の体以上の灰色の巨…
17 ホノルル2日目の目的は一にも二にも真珠湾を訪れることだった。 フロント奥の広いフリースペースで朝食のセルフサービスでトースト、シリアルを食べ、コーヒ…
16 反動を付け、体を起こした。 空っぽの胃の中に水分を補給すると、頭の中は3日前のハワイに到着した日に戻っていた。 成田から関空までLCCで飛び、LCC…
15 翌朝の6時35分、キッチンでクロワッサンを摘まみ、コーヒーを飲みながら今日の予定をお復習いした。 カフルイ空港で車を返す期限が午前11時でホノルル行…
14 Uターンして、アクセルを踏み込んだ。 ハイクを過ぎて、これから本格的に山道に入る。 サーフィンを趣味にしている訳ではないが、 海か山かと問われれば、…
13 FMでハワイアン・ミュージックを聴きながら左折すると、 広場(タウンスクエア)とカメハメハ3世小学校、バニヤンツリーをあっという間に過ぎて、右サイドの…
12 ホテルに戻ると、 チャーリーとキッチンでコーヒーを飲みながら、 日本とハワイについてあれやこれやと話し込んでいるうちに、 彼のスマホに9時半を知らせる…
11 昨晩、仲良くなった黒人のチャーリーが1階のソファーに大きな体を横たえていた。 眠っている彼を気遣い、キッチン用の小さな照明を付け、 昨日の残りのバ…
10 目の前が開けて、明後日、搭乗予定のカフルイ空港を覗いてみることにした。 二人連れの後に並び、通りを眺めていると、 クイーン・カアフマヌ・センターにバス…
9 ABCを出ると、迷うことなく鯨の模型の前まで戻って来れた。 あと5分でラハイナのバスセンターまでの便がある。 そこで乗り換え、今日のバス旅がスタートする…
8 ホエラーズビレッジでバスを降りると、 昨日に続いて、鯨の模型が出迎えてくれた。 ブランドショップを素通りして、 ビーチ際の派手なパラソルが目に付く飲食…
7 海から陸に上がると、それまで張り詰めた気持ちが萎えたように寒くて寒くて、身震いが止まらなかった。 人に尋ね、トイレに辿り着いてジーンズのファスナーを下ろ…
6 5分後、ロープが放たれ、乗船が始まった。 チケット売り場では白人の年配層が多かったが、 意外に若い人が多く、子供連れの家族、アジア系の人の姿も見える。…
5 夜明け前、部屋を出て2階から1階に降りると、 天井の蛍光ランプが辺りを薄暗く灯すだけで、 スタンドテーブルにもキッチンにも人っ子一人いなかった。 照明を…
4 バスは車中で手に入れた時刻表の時間通りに現れた。 丘の上から乗り込んだバスと同じように運転手の斜め後の席に腰を下ろして海岸通りを眺めていると、少しは…
3 バスはマウイ島北部に向かって走った。 この辺りは全米有数のセレブが集う、金持ちが憩うエリアのようで、ホテル、別荘、日本風のマンションが点在…
2 マウイ島に着いた当日に戻るとしよう。 夜明け前、常夏のハワイという謳い文句とは裏腹に肌寒い1月のホノルルの空の下、長袖シャツの上から薄手の黒いブルゾンを…
第1章 ハワイ 1 半ケ…
125 青山先輩、沢田先輩、高橋君、山岡さんが作品を鑑賞中、 最後に訪ねてくれたのがミユキだった。 「ハジメさん、遅くなって、ご免なさい」 ミサキ…
124 ハジメの個展は6日目を迎えた。 前日の午後6時、お客さんの姿が消えたのを確認して、 プリウスで展示会場まで運んだ作品と入れ替えた。 新しい4点を取…
123 個展開催日の前日、 春物のグリーンのパーカーを羽織った上島君が同系色のナップザックを背負って高速バスから降りてきた。 「ご迎え、ありがとうございます…
122 翌朝からハジメは精力的に動き始めた。 前々から母に言われていたように昨年の秋の学園祭を終えると、 美大近くの自動車学校に通い始めた。 予定より早く…
121 ハジメが役場からタクシーで祖母の家に着いたのは日暮れ前だった。 半年ぶりの再会でも、リキがハジメの足音…
120 桜のつぼみが膨らみ、山の里に遅い春が訪れようとする頃、 海野ハジメの初の個展が開かれた。 祖母から伯父にハジメが地元で個展を開きたいとの情報が…
119 年の瀬の新宿で沢田先輩、ミサキ、ミユキのザ・サードウーマンのライブが行われた。 夏、FM局のオーディションに合格した3人はプロデビューの直後、ラ…
118 青山先輩もハジメも山岡さんも場の空気を読んだのか、 上島君の語りが終わると、長い沈黙が訪れた。 そんなところに、アユミと誰より背が高いステ…
117 山岡さんの3点の絵が展示されたニュー・アートの部屋を離れ、 ロープで仕切られた隣のスペースに移ると、 美大生でありながらハジメや上島君のようにどのサ…
116 学食の外の特設ステージで軽音楽サークルのライブが始まった。 元部長の手島さんの計らいでステージから5列目に設けられた招待席にハジメたちは腰掛けた。 …
115 暑かった夏はいつの間にか過ぎ去り、 美大のキャンパスに植えられた木々も緑から黄へと葉の色を整えている最中のようだ。 本日、美大の学園祭にザ・サード…
114 母の実家の長野で山の絵をデッサンを描いた十数点のうち、 油絵の具で色付けした3点とデッサンのままの作品を東京の美大の男子寮まで運んで、ハジメは一泊し…
113 お母さんの軽自動車が通り過ぎて行く。 短い参道を想わせる通りから玄関口までのアプローチを、 マリちゃんの後からハジメは山神家の玄関口まで歩いた。 …
112 翌朝、ハジメと祖母が食事を終えると、 隣の家の従姉弟のヒロミとヒロシがそろって玄関に姿を現した。 二人の声を揃えた挨拶に、 ハジメも「おはようござい…
111「話は変わりますけど、 ハジメさん、リキの所に行ってもいいですか。 よかったら、リキと散歩させて下さい」 「僕は構いません。 朝食前と夕食後に散歩する…
110 姉妹が表情を崩して「はい」応えると、 ハジメは席を立って自身が寝起きして臨時のアトリエと化している部屋にミサキとミユキを誘った。 和室の8畳にイーゼ…
109 翌日の午後、ミサキがミユキを伴い、ハジメの祖母の家を訪れた。 電話連絡を受けていたので、半ズボンにサンダルを突っかけ、 ハジメが玄関口で気配を窺って…
108 5時に起きる祖母に付き合って、ハジメの1日は日の出過ぎに始まった。 祖母と二人で食卓を囲み、祖母の料理にお腹を満たし、 食器洗いを手伝うと、…
107 8月に帰省したハジメは山の絵のモデルとなった母の故郷を一人で訪れることにした。 母は漁協の仕事を休む訳にいかず、 進学を諦め、自動車学校に通うと宣…
106 最終日になって、青山先輩がアシスタントとなった高橋君と連れ立って展示会場を訪れた。 「先輩、高橋君とお出ましですか!」 ハジメが軽いジャブを繰り出…
105 そうこうするうちに、ベージュのキャップ、ブルーのメッシュの半袖に赤い半ズボンの沢田先輩が息を切らし、一人でひょっこり現れた。 「ハジメ君、展示会に出…
104 長い梅雨は終わりを告げ、夏の盛りに上野の展示会が始まった。 初日の正午を過ぎると、ハジメ、上島君、山岡さんの3人は展示会場のビルを抜け出し、焼け…
103 FM局のオーディションの最終選考に合格した沢田先輩、 ミサキ、ミユキのトリオはリスナーを招待してのライブ会場の控え室にいた。 今、ステージに立ってい…
102 7月に入り、それまでの梅雨空から一転して、 照りつけ太陽が夏本番を想わせる昼下がりの講義の後、 油絵科の30代前半の口髭の男性講師が山岡さんに声を掛…
101 ハジメと上島君の創作活動も佳境に入った。 ハジメは夏休み前の上野の展示会に今描いている山の絵の春、夏、 秋の連作3点を出展予定で、 上島君はお母さん…
100 日曜日の夜の空いた上り電車の中、 横掛けシートに並んで思い出したように山岡さんが切り出した。「こう見えて、わたしも高校生2年の時、スマホを落とし…
99 ハジメと上島君が助言したように山岡さんは油絵サークルに入った。 とはいえ、1回生の彼女が7月下旬に上野で開催される展示会に出展するには、6月初旬までに…
98 沢田先輩、ミサキ、ミユキの3人はデモテープの制作に取り掛かっていた。 昨年と同様、FM局のオーディションの締め切りは5月末で、 7月初旬に番組のリス…
97 ハジメは山を描いていた。 いつものように寮と美大とコンビニを巡る生活の中、 展示会で少しばかりの自信を付け、学園祭の海の連作に続いて、 もう一つの自分…
96 4月に入り、新学年に迎えると、沢田先輩が動き始めた。 4回生となり就職が目の前にぶら下がっているとはいえ、 就活などどこ吹く風とミサキとミユキの山神姉…
95 4人で焼き鳥を摘まみながら、場の雰囲気が和らぐと、 山岡さんがハジメに食い付いた。「海野先輩、一つ伺ってもいいですか? 先程、観ていて思ったのですが、…
94 展示会が終了間際になって、 ペアのトレーナー姿で高橋君と山岡さんが来てくれた。 「新宿で迷ってしまい、遅くなりました」 高橋君が頭を下げた。 「何…
93 3月末、全国の美大の総合展示会が新宿で行われ、 ハジメと上島君はあらためて作品を展示した。 秋の学園祭に続いて海中の天女と海の連作2点と今回の展示会の…
92 ハジメはサークルに属さず学園祭で自作を披露した仲間と一緒だった。 アパートや自宅に作品を持ち帰る者がいる一方、 ハジ…
91 ハジメは晴れて美大の3回生になった。 2年前と同じように美大の男子寮に住み続けているが、 自分の周りを眺めてみると、かなりの環境の変化が見られる。 …
90 年が開け、早いものでに2ヶ月が過ぎ、ミユキは新潟の高校を卒業して、一旦、長野の実家に戻った。 4月、晴れて、ミユキは東京の音大に入学する。 推薦入…
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34 いつの間にかゲンさんの仲間のタクマ、サユリ、シゲキとコユキがウェットスーツ姿で勢揃いしていた。「おはようございます。 吉田さん、今日は彼女連れで鼻の下…
33「サーファーの方って、大阪の方なんですね」 「そうです」 「ハワイからの帰りに大阪の友人の実家に泊めてもらって、 彼女の案内で梅田や難…
32 マキの要望もあり、5月3日にレンタカーで房総半島に行くことにした。 この日は3月末に大宮の氷川神社でお会いした柳本さんとフィアンセの吉田葵さんの結婚式…
31 先ほどの店員が注文を取りに現れると、 マキの生ビールの小ジョッキと小さなグラスに続いて、 俺は中ジョッキと砂肝、つくね、鶏皮、ピーマン、玉ねぎをそれぞ…
30 エレベーターで地上に降りると、ビックボックス前に向かう途中、 難を逃れて、マキの足元に非難し、身の安全を確認するや否や走り去った猫と瓜二つの白い猫が…
29「わたし、吉田さんに言われた房総半島に行きたくなりました。 行ったことがなくても、海しかないのは知っていますが、 何かと忙しい東京に2年間住んでいると…
28「ゴールデンウィークはどう過ごされますか?」 「これと言って予定はありません。 実家は広島ですが、この時期に帰省したことがありませんし、 部屋で録りため…
27「わたしにコーヒーを勧めてくれた日本人はハワイへ一緒に行った、卒業旅行に誘ってくれた短大の同級生です」 「お友達は大阪の方ですね」 「よくご存じですね」…
26 4月も半ばを過ぎて、新宿で別れたマキからメールが届いた。「吉田さん、ハワイのワイキキビーチのホテルで出会った、 ミャンマー人のマキです。 月日が…
25 氷川神社の鳥居の前から本殿まで5人で連れ添った。 本殿前でまずは結婚間近のお二人から首部を垂れて、次ぎに御両親、最後に俺の順で神事を済ませた。「これか…
24 土曜日の午前11時、大宮の氷川神社で柳本さんと待ち合わせた。 西船橋で吉田さんをピックアップしますと、柳本さんの有り難い申し出をお気…
23「プロレスで思い出しました。 ハワイのマウイ島を巡るバスの中で、日本で大人気だったアメリカ人プロレスラー、スタン・ハンセンのそっくりさんを見掛けたました…
22 わしがプロレスに興味を持った時はすでに馬場も猪木もすでにプロレスラーとしてのピークは過ぎていました。 賢い馬場はジャンボ鶴田をエースに育て、相撲界か…
21「こう見えて、わしは甘い物がとコーヒーが好物です」 そう言って、おじいさんは大福を一口で頬張った。 そして、コーヒーで飲み込んだ。「吉田さん、野球賭博…
20「そうでしたな、ついつい脱線して申し訳ない。 わしが漁師になる前の話ですが、東京オリンピックが開催される直前の日本は捕鯨の最盛期前夜でした。 戦後、食料…
19 「わしの顔に何か付いていますか?」 おじいさんが不思議そうに尋ねた。 「いいえ」 「吉田さんはプロレスがお好きですか?」 柳本さんの言葉に少しばか…
18 柳本さんに誘われ、日産のSUV車、白いエクストレイルの後に付いてスイフトを走らせた。 BAYFMは今日一日、海をテーマにした音楽特集のようで、 サーフ…
17 3月に入った。 早いもので、今週末は彼岸の入りである。 部屋の壁にピン留めしたカレンダーを眺め、 どこに行こうと考えたあげく、和田浦漁港に行くことに決…
16 勝浦駅を離れ、海側の座席に座りながらずっと窓の外を見ていた。 2月の末、雲一つない澄み切った快晴で外房の海が姿を現したのも束の間、山、畑、短いトンネ…
15 夕飯をご馳走になり、プロレス三昧の締めとして、 「明日もサーフィンはどうですか?」 ゲンさんの言葉に喉を詰まらされながら、 「一日考えさせてください…
11 昨晩、仲良くなった黒人のチャーリーが1階のソファーに大きな体を横たえていた。 眠っている彼を気遣い、キッチン用の小さな照明を付け、 昨日の残りのバ…
10 目の前が開けて、明後日、搭乗予定のカフルイ空港を覗いてみることにした。 二人連れの後に並び、通りを眺めていると、 クイーン・カアフマヌ・センターにバス…
9 ABCを出ると、迷うことなく鯨の模型の前まで戻って来れた。 あと5分でラハイナのバスセンターまでの便がある。 そこで乗り換え、今日のバス旅がスタートする…
8 ホエラーズビレッジでバスを降りると、 昨日に続いて、鯨の模型が出迎えてくれた。 ブランドショップを素通りして、 ビーチ際の派手なパラソルが目に付く飲食…
7 海から陸に上がると、それまで張り詰めた気持ちが萎えたように寒くて寒くて、身震いが止まらなかった。 人に尋ね、トイレに辿り着いてジーンズのファスナーを下ろ…
6 5分後、ロープが放たれ、乗船が始まった。 チケット売り場では白人の年配層が多かったが、 意外に若い人が多く、子供連れの家族、アジア系の人の姿も見える。…
5 夜明け前、部屋を出て2階から1階に降りると、 天井の蛍光ランプが辺りを薄暗く灯すだけで、 スタンドテーブルにもキッチンにも人っ子一人いなかった。 照明を…
4 バスは車中で手に入れた時刻表の時間通りに現れた。 丘の上から乗り込んだバスと同じように運転手の斜め後の席に腰を下ろして海岸通りを眺めていると、少しは…
3 バスはマウイ島北部に向かって走った。 この辺りは全米有数のセレブが集う、金持ちが憩うエリアのようで、ホテル、別荘、日本風のマンションが点在…
2 マウイ島に着いた当日に戻るとしよう。 夜明け前、常夏のハワイという謳い文句とは裏腹に肌寒い1月のホノルルの空の下、長袖シャツの上から薄手の黒いブルゾンを…
第1章 ハワイ 1 半ケ…
125 青山先輩、沢田先輩、高橋君、山岡さんが作品を鑑賞中、 最後に訪ねてくれたのがミユキだった。 「ハジメさん、遅くなって、ご免なさい」 ミサキ…
124 ハジメの個展は6日目を迎えた。 前日の午後6時、お客さんの姿が消えたのを確認して、 プリウスで展示会場まで運んだ作品と入れ替えた。 新しい4点を取…
123 個展開催日の前日、 春物のグリーンのパーカーを羽織った上島君が同系色のナップザックを背負って高速バスから降りてきた。 「ご迎え、ありがとうございます…
122 翌朝からハジメは精力的に動き始めた。 前々から母に言われていたように昨年の秋の学園祭を終えると、 美大近くの自動車学校に通い始めた。 予定より早く…
121 ハジメが役場からタクシーで祖母の家に着いたのは日暮れ前だった。 半年ぶりの再会でも、リキがハジメの足音…
120 桜のつぼみが膨らみ、山の里に遅い春が訪れようとする頃、 海野ハジメの初の個展が開かれた。 祖母から伯父にハジメが地元で個展を開きたいとの情報が…
119 年の瀬の新宿で沢田先輩、ミサキ、ミユキのザ・サードウーマンのライブが行われた。 夏、FM局のオーディションに合格した3人はプロデビューの直後、ラ…
118 青山先輩もハジメも山岡さんも場の空気を読んだのか、 上島君の語りが終わると、長い沈黙が訪れた。 そんなところに、アユミと誰より背が高いステ…
117 山岡さんの3点の絵が展示されたニュー・アートの部屋を離れ、 ロープで仕切られた隣のスペースに移ると、 美大生でありながらハジメや上島君のようにどのサ…