chevron_left

メインカテゴリーを選択しなおす

cancel
井上智公
フォロー
住所
東京都
出身
東京都
ブログ村参加

2008/12/16

arrow_drop_down
  • 短篇小説「み覚」

    ↓こちらに短篇小説を書きました。 monogatary.comリンク先へ飛ぶひと手間をおかけしてしまって恐縮です。 ほとんど会話文なので読みやすいかもしれません。 読みやすさと面白さに関係があるのかはわかりません。 気軽にお読みいただければ幸いです。ランキング参加中短編小説置場ランキング参加中小説 novelsランキング参加中純文学小説、詩ランキング参加中言葉を紡ぐ人たちランキング参加中創作ランキング参加中ナンセンス

  • 近ごろの良曲

    身も蓋もないエントリだが、たまにはシンプルに最近よく聴いている音楽を素直に紹介してみようかと思い。というのも、時々はこうやって書き留めておかないと、いざ年末になって「今年って何聴いてたっけ?」となってしまい、年間ベスト作選びをまた一からやるハメになる。かといって、一作ごとに逐一レビューを書いていくのも労力がいる。別に年間ベストだってわざわざ選ばなくても良いのだけど、勝手恒例にしてしまっているので選ばないわけにもいかない。それにそこでまた選んでおかないと、今度は十年後とかに「あの頃って何聴いてたっけ?」と頭を悩ませることになる。それだって別に悩ませとけばいいんだけれども。てなわけで、最近よく聴い…

  • EURO2024日記~22日目~(了)

    1ヶ月に渡る欧州の熱戦は、スペインの優勝で幕を閉じた。前半は中盤でのボールの奪いあいが続き、互いになかなかシュートまでたどり着けないという、いかにも強豪同士の決勝戦らしい展開。しかし局面ごとの強度が高いため、退屈さは感じない。緊迫した前半のあとには良くあることだが、後半開始直後にふと緩んだ隙を逃さず、絶賛売り出し中のヤマル×ウィリアムズという若手コンビが躍動してスペインが先制。なにしろ観ているこちらも油断していて、気づいたらネットにボールが吸い込まれていた。イングランドは満を持してルーク・ショーを先発起用。これで左利きを左サイドバックに持ってくるという、ある種当たり前の布陣がようやく可能になっ…

  • EURO2024日記~21日目~

    準決勝2試合目はイングランド対オランダ。どちらも監督の采配に方針があるのかないのか良くわからないまま、しかしなんだか結果的に勝ち上がってきた両チーム。もちろん個のクオリティの高さが前提ではあるわけだが。イングランドはてっきりルーク・ショー先発で来るかと思いきや、相変わらず本職右サイドバックのトリッピアーを左に置いて機能不全。前戦から3バックにしてフォーデンの動きは改善されたものの、彼が中にいるぶんだけトリッピアーが左で孤立する場面が増えている。しかし孤立しているということはスペースがあるということでもあって、彼にボールを出したくなる場面も結構あるのだが、そのたびにトリッピアーの位置が高すぎたり…

  • EURO2024日記~20日目~

    待ちに待った準決勝1試合目は、スペイン対フランス。フランスのスタメンにグリーズマンがいない時点で、頭に大きめの「?」が浮かぶ。出場停止ではないようだし、後半から出てきたことを考えると怪我でもなさそうだ。コンディションの問題はいくらかあったのかもしれないが、誰が見てもこのチームの軸である彼をこの大事な一戦で外すという選択肢は、まったく想像していなかった。このフランス代表はエムバペのチームに見せかけて、実はグリーズマンのチームであるという共通認識があるように思っていたが、少なくとも監督のデシャンにそんな考えはなかったということか。それがまず衝撃だった。リンク役であるグリーズマンのいないフランスは、…

  • 短篇小説「あの店は子沢山」

    うちの店には優秀な「子」がたくさんいる。子沢山という意味ではない。なぜならば主語は親ではなく店であるからだ。もちろん子供が働いているという意味でもない。そんなことをして労働基準法を堂々と犯すわけにもいかないし、その必要もない。みな立派に成人しており、その親ではなく本人と正式な社員契約すら結んでいる。 すべてのはじまりは店頭に立つ売り子だった。そのころ彼女以外の店員たちは、誰ひとりとして「子」とは呼ばれていなかった。しかし店のバックヤードで棚卸しをしていた店員らには、それが不満であった。なぜ彼女だけが「子」と呼ばれ、上司から可愛がられるのか。 たしかに売り子は表に出る商売であるから、店員の中でも…

  • EURO2024日記~19日目~

    イングランドは案の定、スイスの組織的な守備に苦戦。特にトリッピアーが左で孤立していた前半は、攻撃が右サイド偏重、左サイドは完全に死んだ状態で、スイスも守りやすかったに違いない。何事につけ選択肢が一つしかない場合、常にそれは相手にとって御しやすい。二択以上から、初めて敵にも迷いが生じることになる。そこを打開するにはもうほとんど右のサカにボールを預けるしかなく、サカが右サイドを抉って中にクロスを入れるというトライが続く。しかし何度繰り返しても入れた先のエリア内には誰も間にあっておらず、なぜセンターフォワードのケインがそこにいないのか、あるいは空いたスペースにベリンガムやフォーデンが走り込んでいない…

  • EURO2024日記~18日目~

    いよいよ準々決勝の戦い。しかも最初の一戦が、事実上の決勝戦との呼び声も高いドイツ対スペイン。互いにボールを持ちたがるチームという印象があるが、いざ直接当たってみるとやはりスペインのほうが明らかにボールを持てる。数字上のポゼッション率以上に、自在にボールをまわすことができている。ポゼッション・フットボールにこだわって結果を出してきたこの国の歴史が、もはや文化としてチームに根づいているというべきか。しかしドイツも負けじと、ボールを奪って粘り強く工夫ある攻撃を試みる。特に前半はインテンシティが高く、目が離せないスピーディーな展開に。ところが後半がはじまってスペインが先制すると、まもなく構図がガラリと…

  • EURO2024日記~17日目~

    まずはルーマニア対オランダ。オランダはクーマンの采配こそイマイチ信用できないながらも、この試合に関しては終始ゲームを支配できていた。それにしてもガクポの決定力は素晴らしい。左サイドでの彼は翼を広げて生き生きとプレーしているように見える。オランダの攻撃に関しては、これまでマレンがどこか浮いているような気がしていたが、この試合ではむしろシャビ・シモンズのほうが周囲とズレている感じで、マレンのほうがチームにフィットしているように見えた。あと中盤のスハウテンの上手さには驚いた。寄せられても簡単にはボールを失わず、瞬時の判断で全方位に気の利いたパスを配球できる選手。後半まだ1点差の段階であっさり彼をベン…

  • EURO2024日記~16日目~

    ベルギーは最後まで噛みあわないまま終わった。トロサールは先発をはずされたうえに途中からすら使われず、同じくシュートに定評のあるティーレマンスも投入なし。サリバに完璧に封じられていたルカクを下げて、ほかのエリアに決定力を求めるしかない状況の中、シュート力のあるこの2人を使わなかった采配は理解に苦しむ。デデスコは結局のところ、謎に可愛がっているルカクと心中した形に。これでベルギーは一気に世代交代を余儀なくされることだろう。フランスはスペインほど仕上がっている感じでもないが、内容的には妥当な勝利。今回はなぜかグリーズマンをサイドに置いてみたりと、こちらはこちらでもったいない采配も目についたが(やはり…

  • EURO2024日記~15日目~

    それにしてもイングランドはいったいなんなのか。これまでよりも少しだけ良くなったのは中盤のメイヌーのところくらいで、彼と周囲との連携は、少なくともアーノルドの中盤起用に比べればだいぶマシになったようには感じる。だがそれ以外は相変わらず連動性に乏しく、観ていて面白いとも強いとも言いがたい。しかし結果こうして勝ちきってしまうのだから、強いことは強いということになるのだろうか。その土壇場同点ゴールを決めたベリンガムは、動きが重いわりには初戦から王様感が漂っていて、彼があんなスーパーなオーバーヘッドキックを決めたことすらも、なんだか自然なストーリーとして受け容れられる感がある。そして途中からパーマーを投…

  • EURO2024日記~14日目~

    さて、大会もいよいよ決勝トーナメントに突入。初戦はスイス対イタリア。とにかくイタリアはまったくいいところがなかった。今回は、評判うなぎのぼり中のカラフィオーリを出場停止で欠いたことも多少の影響はあったと思うが、守備的なわりに守備も緩いというちぐはぐな状態になっていた。それにしてもジョルジーニョはなぜ使われなかったのだろう。守備強度を考えてのことか。今大会のイタリア代表には、そもそも守備を重視してこのメンツを選んでいるのか、という疑問もあって、監督のスパレッティにもローマでトッティの0トップを採用した攻撃的戦術のイメージが強い。にもかかわらず、なぜこんなに消極的なチームが出来あがってしまったのか…

  • EURO2024日記~13日目~

    ウクライナ対ベルギーは、とにかく何もかもがしょっぱい試合だった。まずはウクライナのスタメンにジンチェンコとムドリクがいないことに驚いた。ムドリクは怪我らしいので仕方ないにしても、ジンチェンコはこのチームの核ではなかったのか。もちろんこの大会では核らしい働きができていなかったから外されたのだろうが、ここで評価を下げてアーセナルに帰ってくるとは思わなかった。ベルギーは相変わらず噛みあっていないというか、むしろさらに悪くなっているくらい。これはもう個人どうこうのレベルではなく、チームとしてまったく機能していないレベル。最後にあざとく引き分けを狙いにいくあたりも、これだけのメンバーを揃えておいてそんな…

  • EURO2024日記~12日目~

    オランダ対オーストリアは意外な展開に。オーストリアのサボらない、サボれないプレッシングは、さながらラングニック将軍率いる軍隊の如く。オランダはガクポがさすがの決定力を見せたが、右サイドで起用されたマレンがどうにも空まわり気味。ここは前戦で存在感を見せたフリンポンを使うべきだったと思うが、なぜか先発でシャビ・シモンズを使わなかった(そして前半のうちに思い出したように投入)あたりも含めて、クーマンの謎采配。オーストリアの組織力が、この先のレベルでも通用するのかどうか。いまのところ今大会の台風の目は、このチームということになりそうだ。フランス対ポーランドは、突破を決めているフランスがメンバーを落とし…

  • EURO2024日記~11日目~

    グループBの2試合。アルバニア対スペインか、クロアチア対イタリアか。どちらを観るべきか迷ったが、スペインがスタメンをなんと10人も入れ替える(なぜ1人残した?)という思いきりを見せてきたため、イタリアのほうを選択。イタリアは引き分けでも突破できる状況でもあり、案の定守備的な入り。この現実的すぎるメンタリティは、メンバーがどうなろうと監督が誰であろうともはや不変であるらしい。対するクロアチアも明らかなアイデア不足に陥っており、これならばスペインのほうを観ておけば良かったと思う前半。しかし後半にクロアチアが先制して、ようやくイタリアの攻撃にスイッチが入る。しかし入ったところで、そこまで攻撃陣が充実…

  • EURO2024日記~10日目~

    気づけばもう大会も10日目。試合数も少し落ち着いてきて、観るこちらとしてもだいぶ気が緩んできているという自覚がある。そしてこの先には遠からず大会の終了が見えてきているような気もしはじめて、すでに寂しさすらもうっすらと。いや本番は決勝トーナメントに入ってからなんだぞと、それはもちろんわかってはいるのだが。さて、すでにグループリーグ突破を決めており、あとは1位通過を狙うかどうかという状況の開催国ドイツと、この一戦に突破がかかっているスイス。そうなるとモチベーション的にはもちろん後者が上ということになるが、ドイツもメンバーを落とさずに来た。前半ドイツの先制ゴールで試合はもうほとんど決まりかと思いきや…

  • EURO2024日記~9日目~

    ポルトガルが良いフットボールをしている。この日のトルコ戦を観て、もうポルトガルが優勝でいいんじゃないかと思った。しかしこれはもちろん気が早い。相手との相性というのもあるだろう。良いフットボールと強いフットボールも同じとは限らない。最後に英語実況が「Comfortable Win」と表現していた。まさしくそんな感じの快適な勝ちかた。それにしてもベルナルド・シウバは相変わらず素晴らしい選手だ。それに加えてブルーノ・フェルナンデスまで揃えているのだから、内容の質の高さはすでに保証されているようなもの。そのうえでクリスティアーノ・ロナウドが、代表になるとすっかり映画版ジャイアンの振る舞いになるのだから…

  • EURO2024日記~8日目~

    フランス対オランダは、思ったよりも互角の試合に。いまの支配的なフランスを相手にオランダがあのメンバーであれだけボールを持てるとは、正直予想していなかった。そこはやはり、オランダ代表という歴史の積み重ねがあるということか。フランスは相変わらず魅力的なパスサッカーを展開しており、中心はいまやすっかりベテランのグリーズマン。この日はエムバペがいないぶん、よりその傾向は強かったかもしれない。とにかくボールは彼を経由することが多く、それに応えるように彼はどこへでも顔を出す。彼が決めきれていれば勝ったし、決め損ねたので勝てなかったという試合だった。どこへでも顔を出すといえば、守備におけるカンテはそれ以上か…

  • EURO2024日記~7日目~

    初戦はスムーズではないながらも勝ちきったイングランドが、デンマークと引き分け。内容的にはデンマークの試合だった。グループリーグ突破のための結果としては悪くがないが、これは悩ましい。この日は明らかに、初戦の得点者であるベリンガムがブレーキになっていた。英国メディアでは、初戦を受けてフォーデンの機能不全が指摘されており、その要因としてベリンガムと中央エリアでバッティングする問題が挙げられていたらしい。たしかにケインも下がってボールを受けるタイプなので、自然に動くとトップ下の位置で三者がバッティングすることになる。この試合を観ていて特に気になったのは、こういったいまのプレミアリーグ上位陣が志している…

  • EURO2024日記~6日目~

    さてグループリーグも2試合目となると、観るほうとしてもそろそろバテてくるうえに、書くこともあまりなくなってくるような気が。そこまでして書く意味があるのだろうか?(いや、ない。けど、書く)【ドイツ対ハンガリー】 この日フルで観た唯一の試合。ドイツは本当に好調なのかどうか。アーセナル的にはハヴァーツだが、彼も実のところ、良いのか悪いのかパッと見わかりにくい選手。アーセナルでも彼はいつもそんな感じで、動き出しの質は常に良いのだが、シュートに関してはわりと気まぐれというか、決まりそうなときに決まらなかったり、ここぞというときに確実に決めてみたり。僕もはじめそうだったが、その感じを見慣れていない人にとっ…

  • EURO2024日記~5日目~

    【トルコ対ジョージア】 わりと地味な対戦になるかと油断していたが、思いがけずスピーディーでオープンな面白い試合になった。注目はトルコのアルダ・ギュレルと、ジョージアのクヴァラツヘリア。ギュレルは左利きのテクニシャンで、背は高くないがエジルに近い印象。まだ19歳ということもあって、フィジカルは見るからに不安だったが、その視野とテクニックは明らかに際立っていた。観ていた全員が「打て!」と願った瞬間に放ったミドルシュートの軌道があまりに美しく、あれだけ期待どおりのシュートを打ちきってなおかつ決めきれるのは、やはりスターの証しか。対するジョージアのクヴァラツヘリアは、技を見せるというよりは攻守に駆けま…

  • EURO2024日記~4日目~

    【ルーマニア対ウクライナ】 ジンチェンコ(といちおうムドリク)がいるので観ようかとも思ったが、立ち上がりをチラッと観たらそんなに面白げなプレーも見あたらないので、ちょいちょい経過だけチェックしていた。すると優勢と思い込んでいたウクライナが、みるみる点を取られていくので驚いた。3-0でルーマニアの完勝。あとでハイライトを観てみれば、ルーマニアのシュート力が際立っていた。いやハイライトだから、逆にそこしか見えていないのだが。 【ベルギー対スロバキア】 アーセナル的にはトロサール。あともちろんデ・ブライネは誰の目にも。出だしでドクのミスからいきなり失点してペースを崩したベルギー。あの自陣ゴール付近で…

  • EURO2024日記~3日目~

    さて、アーセナル好きとしては最注目のイングランド。いまや屈指のタレント軍団である。まずは右ウイングに、どちらもエース級のサカとフォーデンのどちらを使うのか、そういえば今季ブレイクしたパーマーもいるし――なんて思っていたら、フォーデンを右にしてしれっとサカと両立させてきた。一方でパーマーの立場が、いくら好調とはいえまだ代表では確立されていないのもわかる。だが意外なのはそれだけではなかった。スタメンにウォーカー、トリッピアー、アレクサンダー=アーノルドと、なぜか右サイドバックの名前が3人も並んでいる。どういうこと?蓋を開けてみればトリッピアーが左サイドバック、アーノルドがボランチ、そして本命の右サ…

  • EURO2024日記~2日目~

    やはりこの日の注目はスペイン。といってもシャビやイニエスタがいた時代ほどではもちろんなく、ほかにもパスサッカーをやる国が増えたこともあって、近年は飛び抜けて細かなことをやっている印象もない。とはいえいざ観てみれば、やはり細かいことは細かい。それにしても不思議なのは、いまだにワントップが大味な印象のあるモラタであることで、しかも今大会ではしっかりキャプテンマークまで巻いている。チームの性質上、最前線の彼にも大きいわりに細かな役割が求められ、そうしているうちに色々とできるようになってきている印象もないことはないのだが、逆にサイズを生かしたダイナミックなプレーがあるかというと、あまり派手な印象は当初…

  • EURO2024日記~1日目~

    このあいだふと思い返してみたところ、過去に考えたり思ったことについて、自分がロクに憶えていないことに気づいた。つまり思い返そうにも思い返せず、確認するためにこのブログを読み返したりする始末。しかも読み返そうとしてみたところで、そんなに逐一書いているはずもない。もちろん読み返すほど価値のあることばかり常に考えているわけではないし、別に価値のあることを読み返したいと思っているわけでもない。しかしその時点で自分が何を考えていたのかということには、少なからず興味はある。そしていざ読み返してみると、そこには思いもよらない言葉が並んでいることが多い。まるで別人が書いたような。というわけで、とりあえず思った…

  • 短篇小説「浮きっ歯」

    薄暗いバーのカウンター席で、グラスを掲げた男が見知らぬ女の目の中を覗き込んで言った。「君の瞳に、乾杯!」 テーブルの上で蝋燭の炎が揺れた。女の心も同じように揺れることを、男はひそかに期待していた。「ずいぶんと歯の浮くような台詞ね」――女はそう言い返してやりたいところではあったが、正直それどころではなかった。文字どおり、瞳に乾杯をされてしまったからだ。幸いグラスが割れるようなことはなかったが、こぼれたアルコールが目に入った女はハンカチで右目を押さえた。 一方で乾杯したほうの男は、不意に左の奥歯に痛みを感じた。正確に言えば痛いというよりは、疼くような感覚であった。まるで実際に、歯が根元から浮き上が…

  • ディスクレビュー『NIGHTBLAZE』/NIGHTBLAZE

    Nightblazeアーティスト:NightblazeArt of MelodyAmazonとにかくジャケットをなんとかしてほしい。それを言えばバンド名だってなんとかしてほしいのだが、どちらもこの美しい音楽性にはそぐわない。――という部分まで含めて、もはや逆にお約束になりつつあるというか、むしろ事前に香ばしさを感じるくらいの嗅覚はこちらも身につけてはいるのだが、それにしても。こう見えて本作は、ジャケットとバンド名からイメージされるバッド・ボーイズ・ロックンロールなどではもちろんなく、繊細なメロディを丁寧に紡ぐ美旋律ハード・ロックである。それもそのはず、このバンドは、あのPLATENSのグリロ兄…

  • ディスクレビュー『MEAN STREETS』/RIOT V

    Mean Streets(日本盤限定仕様CD+Blu-ray+ボーナスCD)アーティスト:RiotワードレコーズAmazonバンドの創り出す音楽に二面性があることは珍しくもない(特にメイン・ソングライターが複数いる場合)が、ここまで楽曲の方向性がきっちり二分されているアルバムも珍しい。そしてその両面がともに魅力的であるケースは、残念ながら滅多にあるものではない。本作は、まさにその罠に嵌まっているように思われる。RIOTはその硬派なイメージとは裏腹に、そもそも二面性のあるバンドである。デビュー・アルバムを例に取るならば、タイトル・トラックの「Rock City」に代表される明快なアメリカン・ハー…

  • 短篇小説「業者」

    わたしは「業者」だ。なんの「業者」かと問われれば答えることはできないが、わたしが間違いなく「業者」であることは間違いない。あまりに間違いがないものだから、つい「業者」を「間違いのなさ」で強く挟み込んでしまった。これでは「業者」が窮屈がるだろうか。「業者」とはわたしのことだ。 絶対に伝えたいことは二回言う必要があると、三四郎の小宮は言った。せっかく二回も言うならば、伝えたい事実の前に二度、あるいは後に二度続けて言うよりも、伝えたい言葉の前後からガッチリとサンドしてやるのが一番良いような気がする。「二度」なのに「サンド」とはこれいかに。 「業者」にはどことなく不安定なイメージがあるが、こうしてサン…

  • そんなに気に入ってなかったジャケット

    そんなに気に入ってなかったジャケットがなくなった。温度感的にもちょうどいい季節だし、たまにはそれらしい格好でもしようかと思ってクローゼットを覗いてみたら、なぜか忽然と姿を消している。そんなに気に入ってなかったとはいえ、いざなくなったとなれば惜しくもなる。だが何度見直してみても、それが現れる気配はない。そんなに気に入ってなかったといっても、当初はかなり気に入っていたはずだ。少なくとも店頭で見初めてからレジに向かうまでのあいだは、気に入っていたに違いない。なぜならばだいぶ気に入っていなかったら、それを買うはずがないからだ。もちろん店員に勧められるがままに、断れずに服を買った経験ならある。だがそんな…

  • 短篇小説「部活に来る面倒くさいOB」

    「お~いお前ら、遅いぞ走れ~!」 退屈な一日の授業を終えて昇降口から外に出ると、ひどく細長いノックバットをかついで校庭のマウンドの土を退屈しのぎに足裏で均しながら、声をかけてくる薄汚れたウインドブレーカー姿の男がいる。部活に来る面倒くさいOBだ。 監督はいつも遅れ気味にやってくるが、部活に来る面倒くさいOBはだいたいいつも先にいる。時にはベンチで煙草を吹かしながら、「お前らは吸うなよ~」と矛盾したことを平気で言ってくる。よほど暇なのだろう。週に三日はコンスタントにやって来るのだから、どんな仕事及び働きかたをしているのかわかったものではない。 それにしても灰皿代わりに煙草をねじ込んだ空き缶をベン…

  • 短篇小説「面接の達人」

    先日、私はとある企業の採用面接を受けた。特に入りたい会社ではなかったが、こちらにだって特にやりたいことがあるわけではない。私はいつもの如くエントリーシートに、それらしい自己PRと志望動機を書き込んだ。もちろん本当に思っている内容など一文たりとも含まれてはいなかったが、もしも律儀にそれをしたならば、「自分には特に何も能力はない」「何もせずにお金が貰いたい」と表明することになってしまうのだから、こんなところに本音を書く手はない。 一週間後、そんな嘘まみれのエントリーシートが功を奏したのか、書類審査を通過したので面接に来てくれとの連絡が来た。当日の朝、私はありがちなリクルートスーツを身につけて面接に…

  • ChatGPT歌詞「出汁を取らないで」(発注者による出汁のないライナーノーツ付き)

    【※以下の歌詞は、題名以外すべてChatGPTに依頼して書いてもらったものである。】(Verse 1) 雨降る夜 古びた扉が開く ラーメン屋の奥 暖かな灯り 注文は不思議 出汁を抜いてくれ 甘くて苦い 未知なるフレーバー(Pre-Chorus) 出汁のないラーメン 新たな冒険 舌を奮わせて 運命の一杯(Chorus) 出汁を取らないで 味覚の扉を開けて 不思議な旅へと連れてって 香り高いスープ 心に溶け込んで 出汁のないラーメン 愛の味わい(Verse 2) 客たちが見上げる 古びた店内 不思議な雰囲気 漂うエッセンス 誰もが驚き 口元緩む 出汁なしのラーメン 心を掴む(Pre-Chorus)…

  • ChatGPT短篇小説「サブスク侍」

    【※以下の小説は、題名以外すべてChatGPTに依頼して書いてもらったものである。】 江戸時代の町に、突如として現れた異色の侍、その名も「サブスク侍」。彼は普段から「デジタルクラウド刀」と呼ばれる特殊な刀を携え、町の人々に対して新しいサブスクリプションサービスの魅力を説いてまわっていた。 サブスク侍は、通常の侍のような剣術や武道だけでなく、デジタル分野の知識にも長けていた。彼の呼びかけに応じる者たちは、サブスク侍の案内で様々なデジタルサービスに加入し、その利便性に驚嘆した。 しかし、やがてサブスク侍の説明には裏があることが明らかになった。加入者たちは気づかぬうちに月々の支払いが高額になっていき…

  • ChatGPT短篇小説「とにかく穿かない安村」Ver.2(長尺&バッドエンドVer.)

    【※以下の小説は、題名以外すべてChatGPTに依頼して書いてもらったものである。】 田舎町に佇む小さな布地屋、「とにかく穿かない安村」。その奇妙な店名で知られるこの店は、町の人々にとっては親しみ深い存在となっていました。店主の安村哲也は、笑顔と謎めいた物腰で常に店内を賑やかにしており、その店名にはいくつかの伝説が紡がれていました。 ある日、都会から訪れた新聞記者の加藤亜美は、安村哲也の奇妙な店名に興味津々で店を訪れることにしました。店内に足を踏み入れると、亜美は変わった品々が所狭しと陳列された様子に驚きました。 安村哲也はにこやかに亜美を迎え、店の歴史や製品にまつわる不思議なエピソードを語り…

  • ChatGPT短篇小説「とにかく穿かない安村」

    【※以下の小説は、題名以外すべてChatGPTに依頼して書いてもらったものである。】 安村はとにかく穿かない男だった。彼は何かしらの理由で、常にパンツやズボンを穿くことを拒否していた。友人たちは彼のこの奇妙な癖に首をかしげつつも、彼の個性的な生き方を受け入れていた。 ある日、安村は仕事の会議に出席するため、会社の上層部との重要な交渉が待ち受けていた。しかし、安村は相変わらずズボンを穿くことなく、大胆にもスーツの上からボクサーパンツを露わにして会議に臨んだ。 最初は驚きと困惑が広がった会議室だったが、安村は自らの独自のスタイルを貫き通す強さを見せつけた。その自己主張に、なぜか他のメンバーたちもだ…

  • ChatGPT短篇小説「ヒップホップ奉行によろしく」

    【※以下の小説は、題名以外すべてChatGPTに依頼して書いてもらったものである。】 江戸時代、秋田藩。藩主の命により、藩内に新しい文化を広めるべく、奉行として知られる者が選ばれた。しかしその奉行は、通常の武士らとは異なり、ヒップホップ文化を愛する異色の存在であった。 奉行の名は桜井韻蔵。彼は着流しに金のネックレス、そして江戸っ子のようなリズム感を持ち合わせていた。韻蔵はまず藩内の広場で、ヒップホップのリリックを披露し、人々にその新しい文化を紹介した。 最初は戸惑いと驚きが広がったが、やがて村人たちは韻蔵のヒップホップ奉行ぶりに興味津々となり、一緒にダンスやリリックの練習に参加し始めた。藩内は…

  • 2023年ハード・ロック/ヘヴィ・メタル年間ベスト・ソング10選

    1位「1001」/ART NATIONwww.youtube.comほとばしりまくる哀愁。突き抜けるようなメロディがとにかく素晴らしい。泣きの美旋律が好きなら、必ずや琴線に触れるものがあるだろう。アルバム部門でもアレクサンダー・ストランデルの歌うアルバムを二作入れることになったが、曲単位でも二曲入れるにふさわしい活躍ぶりだった。インセプション [CD]アーティスト:アート・ネイションマーキー・インコーポレイティドビクターAmazon 2位「The Lucid Dreamer」/MAGNUS KARLSSON’S FREE FALL当ブログではすっかりお馴染みのマグナス・カールソン。しかし異様な…

  • 2023年ハード・ロック/ヘヴィ・メタル年間ベスト・アルバム10選

    1位『WONDERLAND』/SEVENTH CRYSTAL ワンダーランド [CD]アーティスト:セヴンス・クリスタルマーキー・インコーポレイティドビクターAmazon当代随一の歌巧者、クリスティアン・フィールの歌唱を味わい尽くすための一枚。いまや各方面のプロジェクトで引っぱりだこの彼だが、こちらはその本陣にあたるスウェーデン産メロディアス・ハード・ロック・バンドの2ndアルバム。昨年も彼の参加したGINEVRAを2位に挙げたが、あちらもそうであったように、さほど派手さがあるわけではない。むしろ質実剛健な作りを感じさせる。強靱かつ繊細な歌を軸に置いたその方向性に迷いはない。その歌はとにかく一…

  • 短篇小説「魔法の言葉」

    よく晴れた朝だった。門を抜けて通りに出た一歩目で、わたしは靴に襲われた。誰かに蹴られたという意味ではない。それは雲ひとつない空から降ってきたのだ。 しかしそんなことがあるはずはなかった。雲は雨や雪を作るが靴は作らない。だいいちそんな雲さえ、この日の空にはひとつも見あたらなかったのだから。「痛っ!」 靴の奇襲攻撃を受けたわたしは、蹲って素直な感想を口にした。すると道の反対側から、片足を上げたけんけん走りで寄ってきたスーツ姿の男が、満面の笑みを浮かべてわたしにこう言った。「冗談ですよ、冗談!」 なぁんだ、そうなのか。それが本当に天から降ってきたというのなら、とても冗談では済まされないが、そんな天変…

  • 「新語・流行語全部入り小説2023」

    なけなしの10円パンを「頂き女子」へと配給する新しい戦前の時代に誕生した新しい学校のリーダーズには、様々な裏稼業を請け負う「別班」――ここであえて「VIVANT(ヴィヴァン)」と発音してお洒落国フランスに憧れるのをやめましょう――と呼ばれる闇の組織が存在している。これはいわば公然の秘密である。 本家の首振りダンスに対して、別班は首狩り任務ばかりおこなっていると揶揄されることもあるが、彼女らは表舞台に立つアイドルを守るための必要悪として、業界内では黙認されている。さらに名称をぼかして、別班のことを「アレ(A.R.E)」と呼ぶ者がなぜか関西方面に多い。またアメリカの大富豪が別班を買い取って「X(エ…

  • 短篇小説「迷惑系ユーチューバーひろし」

    迷惑系ユーチューバーのひろしが、今日も他人様にしっかり迷惑をかけている。他人に迷惑をかけているからこそ、彼はそう呼ばれているのだ。だがその肩書きが、本当に現在の彼にふさわしいのかどうかは誰にもわからない。そもそもそんな「系」など、つい最近までこの世に存在していなかったのだから。少なくとも、我が銀河系には。 そんな迷惑系ユーチューバーひろしのもとへ、ある日一通のメールが届いた。 《迷惑を、かけてほしい人がいるんです》 件名にはそう書かれており、差出人のアカウント名には〈毒殺系フードコーディネーター〉と書いてあった。 人は会ってみないことにはわからない。それはいつもネット社会を主戦場にしているから…

  • 近況忘却中

    気づけば四ヶ月もこのブログを放置していた。なのでとりあえずなにかしら書いておこうというくらいの気持ちでいまこれを書きはじめている。その間ずっとほかのものを書いたり直したりし続けてきたわけだが、そちらはこの先どうなるのかわからない。そうなると目に見えるここに何かを書いておかないと、周囲からは存在が見えないのだとふと思った。別にそれでも特に問題はないのかもしれないし、ここにこれまで書いてきたことにも、ことさら存在を感じさせる要素などもともとないような気もする。とはいえ、Twitter改めXとかではさすがに味気なさすぎるのもたしか。とりあえず本も音楽もラジオもドラマもスポーツも、それなりに見聴きして…

  • マツコ・デラックスのそっくりさんの芸名を無駄に考えた結果

    たまには、どうでもいいことを書いてみる必要がある。なぜそう思ったのかはわからない。まあ、世間的にはゴールデンウィークだし、どうせ誰も読んでいない。それにいつもどうでもいいようなことしか書いていないような気もする。だとしたら、これはいつものような文章ということになる。そんなものを読みたい人がいるのかはわからないが、必要だと思ったから書くのだ。もちろんなぜ必要かはわからない。これはさっき言った。どうでもいいことを書くには、どうでもいいことを思いつかなければならない。ちょうど先日、どうでもいいことを思いついた。「もしもマツコ・デラックスのそっくりさんがいるとしたら、彼または彼女にどのような芸名を授け…

  • ディスクレビュー『72 SEASONS』/METALLICA

    72シーズンズ (SHM-CD)アーティスト:メタリカUniversal MusicAmazonこれはあくまで問題作『LOAD』以降のMETALLICAであって、それ以前のMETALLICAではけっしてない。時が戻らない以上、当然といえば当然だが妙な期待をしてはいけない。つまりその本質はメタルではなくロックンロールにあるということだ。先行公開された数曲のストレートな攻撃性から、彼らはここへ来ていよいよ初期衝動を取り戻したという声もあった。だがそんなことはもちろん不可能なのだ。捏造された初期衝動は若作りの痛々しさを伴う。目指した時点でそれは初期衝動ではなくなる。ベテランが若さに憧れる気持ちは、む…

  • 短篇小説「ピンと来ない動詞」

    今朝、わたしはふと気が生えたのでした。わたしの言葉が、どうもわたしの動作を的確に茹で上げていないということに。 いつものように、わたしは駅へと歩を注いでいました。もちろん、わたしを会社員として抱き締めた会社へと潜るためです。潜るといっても、わたしはスパイではありません。れっきとした正社員なのですが、なぜかいまは潜るという言葉しか思い浮かばないのです。 前にはびこる乗客に続いて、わたしはパスケースで自動改札を奪いました。これは「唇を奪う」というような意味でありまして、あんなでかいものを本当に捕獲したわけではありません。あくまでもわたしは、これから自社へと潜る身なのですから。 階段を早足でめくる途…

  • 最近の耳寄りSONGS

    今年に入ってから、なぜか北欧デスメタル系バンドがゴシック寄りに変化/進化した作品に充実したものが多く、よく聴いている。界隈には「OPETH化」とも言うべき全体の流れがあるように思うが、いずれもそれなりのベテラン勢であり、当初のコアでエクストリームな姿からすると、大きくその音楽性をシフトしている人たちも。それがここへ来て、メロディアスな側面を見事に開花させているのが興味深い。特にENSLAVEDのように、ARCH ENEMYやIN FLAMESあたりのメロディック・デス系を愛聴する一般のメタルファンでさえもかつて聴くのを躊躇ったようなブラック・メタル/エクストリーム・メタル系バンドが、ここまで美…

  • 短篇小説「弁解家族」

    「なんだよ、観てたのに」 酔っぱらった末にソファーで横になっていた夫が、急に喋り出したので妻は驚いた。夫は咄嗟に妻の手からリモコンを取り返すと、テレビに向けた。 「観てたって、何を?」 再び叩き起こされた画面に映し出されていたのは、真夜中の通販番組であった。元グラビアアイドルが、台本どおりの大袈裟なリアクションで矯正下着を売っている。しかし実際に下着を着用しているモデルは、どうやら素人の体験者のようだ。通販番組に出るような段階のタレントは、もう絶対にそのような姿でテレビに出ることはないと決めている。妻にはそのように見えた。 「いやいや、そういうんじゃなくて」おかげで夫は、すっかり目が覚めてしま…

  • 2023年あけましておめでとうございます10選

    あけましておめでとうございます!(「PULL」と書いてあるドアを無理に押して)あけましておめでとうございます!(あんドーナツの真ん中にも穴を)あけましておめでとうございます!(茶碗に盛ったご飯の中央に卵かけ用のくぼみを)あけましておめでとうございます!(子供たちが握っている金魚すくいのポイすべてに、北斗百裂拳で穴を)あけましておめでとうございます!(祝いの言葉に意味ありげな行間を)あけましておめでとうございます!(中身の状態など気にせず、ポテチの袋を思いっきり叩いて)あけましておめでとうございます!(裏山の死体の脇に、のび太の0点テストを埋めるための穴を)あけましておめでとうございます!(羽の…

  • 2022年ハード・ロック/ヘヴィ・メタル年間ベスト・ソング10選

    1位「Shine On」/CRASHDIET オートマトン [CD]アーティスト:クラッシュダイエットマーキー・インコーポレイティドビクターAmazonメタルファンにとって「Shine On」といえば、もちろんRIOTの稀代の名曲「Warrior」なわけだが、ここに新たな「Shine On」の響きを持つ美しい楽曲が誕生した。この曲を聴くと、改めて「Shine On」という発語と哀愁溢れるメロディの、まるで運命づけられたような相性の良さを痛感せざるを得ない。とにかくサビの「シャイノン、シャイノン」がどうにも耳から離れない。その裏を支えて走るギター・フレーズとの絡みも美しい。メロディの力を思い知ら…

  • 2022年ハード・ロック/ヘヴィ・メタル年間ベスト・アルバム10選

    1位『THE TESTAMENT』/SEVENTH WONDER ザ・テスタメントアーティスト:セヴンス・ワンダーマーキー・インコーポレイティドビクターAmazon現KAMELOTのVo.トミー・カレヴィックの圧倒的な歌唱力が乱舞するプログレ・メタルの傑作。前作『TIARA』の時点ですでにバンドの限界点まで来たかと思われたが、そこからのさらなる歌メロの上積みっぷりには正直驚かざるを得ない。プログレ・メタルというジャンルにおいて、歌がけっしてないがしろにされているとは思わない。だが重視されるのは歌の中でも「歌唱力」のほうで、その中身である「歌メロ」に本気の力が注がれているかというと、疑問符がつく…

  • 「新語・流行語全部入り小説2022」

    とある昼下がり、頭から色とりどりの女性用下着をかぶった顔パンツ姿の中年男性五人が、中華料理屋の回転テーブルでガチ中華を囲んでいた。そこは店の前に猫よけのペットボトルが並び、軒先にカラスよけのCDが吊されているような古びた中華屋であった。 全員が薄手の布をかぶって向かい合うその様子はまるでスパイ組織のようでもあったが、彼らが読んで育った漫画は残念ながら『SPY×FAMILY』ではなかった。彼らはいわゆるOBN(オールド・ボーイズ・ネットワーク)、つまりかつて『BOYS BE…』というラブコメ作品に青春を捧げた読者たちなのであった。「青春って、すごく密なので」――そんな言葉が胸に響くような思春期を…

  • 短篇小説「行間の多い料理店」

    この世でもっとも味気ない読みものは、情報を伝えるためだけに存在する文章だ。その代表と言えるのが一覧表の類であり、場所が料理店であれば、それはメニューと呼ばれることになる。 私が先日初めて訪れたレストランにも、当然メニューというものがあった。私はオフィス近くの路地裏にあるその店が、以前からなんとなく気になっていた。それはなによりもまず、その店頭に張り出した赤い日よけにプリントされている、奇妙な店名のせいであった。〈レスト ラン〉 それ以外に文字が記されていない以上、これが店名のすべてということになる。このシンプル極まりないフレーズは、明らかに一行で収められる横幅に二行で、いやその行間を律儀にカウ…

  • 時事コント「まさかり問答」

    空港の保安検査場。ひとりの男が、セキュリティゲートを通過する。金属探知機「ピーッ!」 保安検査員A「ちょっと失礼します。なにか金属製のものはお持ちですか?」 男「特にないよ……あ、もしかしてベルトかな?」男、再びセキュリティゲートを通過。金属探知機「ピーッ!」 男「もう何もないぞ。機械の故障じゃないのか?」 保安検査員A「いえ、そんなはずは……」保安検査員Aの上司らしき男が、異変を察して近づいてくる。保安検査員B「どうしたの?」 保安検査員A「こちらのお客様が、どうしても鳴るもので……」 保安検査員B「あの、失礼ですがお客様は、もしかしてあの有名な……」保安検査員Bが、右手のスナップを利かせて…

  • 人生半分損してる

    人生の半分というのは、思いのほか小さな分量であるらしい。「ピクルス食べないの? それ人生の半分損してるよ」 酢漬けの半生。「おしぼりで顔拭かないの? それ人生の半分損してるよ」 なのに脇は拭くのね。「『ターミネーター』の1観たのに2観てないの? それ人生の半分損してるよ」 シュワちゃんが幼稚園の先生になる映画は観てるのに。「『いいとも』のタモリしか観たことないの? それ人生の半分損してるよ」 ズル休みすると会える人。「今までずっと口呼吸してたの? それ人生の半分損してるよ」 異臭騒ぎにひとり気づかぬ張本人。「歌詞カード見ながら曲聴いたことないの? それ人生の半分損してるよ」 読んでますます意味…

  • ディスクレビュー『THE TESTAMENT』/SEVENTH WONDER

    ザ・テスタメントアーティスト:セヴンス・ワンダーマーキー・インコーポレイティドビクターAmazonより輪郭を明確にした歌メロの充実が、バンドの格をさらなるメジャー・フィールドへ押し上げるに違いない。そう確信させるに充分な、スウェーデンのプログレッシヴ・メタル・バンドの6th。前作『TIARA』も全方位的に開放感を増した素晴らしいアルバムで、明らかな成長を感じさせる作品だった。当ブログでも、年間ベストアルバムの7位に選んでいる。tmykinoue.hatenablog.comだがその作品としての完成度の高さは、あとほかにどこへ伸びしろが残されているのかわからない状態を示してもいた。そしてプログレ…

  • 短篇小説「二次会の二次会」

    今夜も我ら「二次会」は大いに盛り上がった。「二次会」といっても正確にはまだ「二次会」の一次会で、これから我々はいよいよ「二次会」の二次会へと向かうところだ。 我々が言うところの「二次会」というのは二次的、つまり各所で副次的な役割を果たす人間の集まりで、副部長、副店長、副支配人、副キャプテンなど、その肩書きに「副」の字がつく人々が一堂に会するサークルである。それぞれが副次的な役割に甘んじているがゆえに、そこは自然と愚痴の温床になる。ゆえにサークルというよりは、いっそ秘密結社と言ってみたくなる気分もある。上司(=副次的でなく主たる役割の人々、たとえば部長や店長)への愚痴が違いを惹きつけあうように、…

  • 自作短篇小説「窓のない観覧車」をマインドマップ化する試み(本末転倒)

    小説を書く手段として、いわゆる「マインドマップ」というものを使ってみようと思った。いま流行っているのか、それともだいぶ前から流行っているのかもしれないが、以前お笑い芸人のかが屋がネタ作りの際に使っていると聴いて、なんとなく気になってはいた。あの言葉が枝分かれしていく、チャートみたいなやつである。とはいっても、いきなり何をどうやっていいのかわからない。ということで、まずは自分が先日ここに書いた短篇小説「窓のない観覧車」を、マインドマップ化してみてはどうかと考えた。通常とは逆の手順になるが、手はじめには素材があるほうがやりやすい。tmykinoue.hatenablog.comソフトはとりあえず、…

  • 短篇小説「窓のない観覧車」

    窓のない観覧車に、髭のない少年が乗っていた。窓のない観覧車は不粋だが、髭のない少年は不粋とは言えないだろう。少年にこの先、髭が生えてくるかどうかはわからない。 もちろん高所からの絶景など、望むべくもない。だがどれだけ待っても観覧車に窓がつかないのは、まず間違いのないところだった。足し算から掛け算の時代を経て、いまや何ごとにつけ引き算の求められている世の中だ。そんなご時世、なにかしらオプションが増えるというのはあり得ない選択肢というほかない。 それは観覧車というよりは、荷物を載せて運ぶコンテナというほうがふさわしかった。それに乗って観覧できるものといえば、ただ錆の浮いたコンテナの無愛想な内壁だけ…

  • 短篇小説「帰ってきた失礼くん」

    「失礼しま~す!」 今日も失礼くんが、元気よく知らない店に入りこんでゆく。本日の訪問先はパン屋だ。しかし失礼くんは特にパンを食べたいわけでも、誰かにおつかいを頼まれているわけでもない。ただ純粋に、失礼したい一心でそう言っているのだ。「ほら僕って、朝はごはん派じゃないですかぁ」 入口付近にあるトレイとトングを手にした失礼くんは、トングを無理やり箸のように握ってそう言った。店内には他に客も店員もいるが、特に誰に向けて言っているわけでもない。みな知らんぷりを決め込んでいる。もちろん彼にわざわざ朝食の好みを訊いた者など、誰もいなかった。「だけど最初にこのトレイとトングを手に持ってしまったからには、もう…

  • 最近聴読目録

    最近聴いたり読んだりした/している作品についての所感。 【音楽】 ◆『MY FATHER'S SON』/JANI LIIMATAINEN マイ・ファーザーズ・サンアーティスト:ヤニ・リマタイネンマーキー・インコーポレイティドビクターAmazon 元SONATA ARCTICAのギタリストのソロ作。もちろんそれ的な北欧メタル曲もあるが、思いのほか幅広いメロディ・センスを感じさせる楽曲群。豪華なゲスト・ヴォーカル陣の中でも、とにかく③「What Do You Want」⑥「The Music Box」におけるレナン・ゾンタ(ELECTRIC MOB)の歌唱が素晴らしい。その節回しは十二分に粘っこい…

  • 短篇小説「芝生はフーリッシュ」

    どうやらわたしは公園のベンチで、サングラスを掛けたまま眠り込んでいたらしい。おかげで昼か夜か、起きてすぐにはわからなかった。サングラスを外すと、これまでに見たことのないような、色とりどりの世界が目の前に広がった。色とりどりにもほどがあった。それはつまり自動的に、夜ではないということになる。 正面にフーリッシュグリーンの芝生が広がり、それを囲い込むように配置されたオールドスクールレッドのベンチの脇には、ミートボールブラウンの土に満たされた花壇が並んでいる。 花壇のそこここには、アコースティックブルーやオルタナティヴイエローやジューシーオレンジに彩られた花が咲き乱れ、その傘の下をデスパレートブラッ…

  • あぶないタッチ病

    長年愛用していたiPhone 6が壊れた。かもしれない。かもしれなくないかもしれない。なんといっても「6」だ。いったい何世代前の機種ということになるのか。もちろん普段から動作は重い。それが故障による症状なのか、単に性能が時代に置いてけぼりを食っているだけなのか、その判別が難しい。人間の年齢に換算すれば、老人であることは間違いない。むしろ長生きしているほうだと思う。すでにバッテリーの手術だって一度行っている。タッチパネルが反応しなくなってしまったのである。だが毎回ではないのがややこしい。呼べば三回に二回は振り向くが、一回は無視されるくらいのイメージ。つまり健全な反抗期の息子が返事をするくらいの頻…

  • ディスクレビュー『ENDGAME』/TREAT

    ジ・エンドゲームアーティスト:トリートマーキー・インコーポレイティドビクターAmazonどんなに方向性の近い作品にも明確な違いがあり、どんなに安定したアーティストにも少なからず質的な波はある。全曲が名曲なんてことはあり得ないし、全作品が名盤であるアーティストもまずいない。だがそんなことをあえて書いてみたくなるのは、このTREATというバンドが再結成以降、驚くべき楽曲のクオリティと安定感を維持しているからだ。だがその高次元なレベルにおいても、作品ごと当然いくらかの方向性の違いはあり、また出来不出来の波も少なからずあるものだ。その細かな違いを味わえるのは、リスナーとして非常に贅沢なことなのではない…

  • 【歌詞】「痩せずもがな~聴いてるだけで痩せる歌~」

    微動だにせぬぐうたらな日も 餌を求めるわがままボディ 今日から食わぬと言いながら 明日こそはと先送り ぽっちゃりとデブの境界線 気づけば赤道より太い カロリーちょっとのつもりでも 摂取したのはキロカロリーキロは1000倍 器は満杯 卓に並べば けっきょく死体 魚はすでに 死んでいる 死肉を喰らえば YouはShock 死体に群がる ゾンビども 屍だらけの 夕食会 そんな風に 思えたなら あなたを嫌いに なれたなら消えよ果てなき食欲よ 目覚めよ満腹中枢よ 腹の虫らが騒いだら マイクを渡してやるがいい 言わずもがな 食わずもがな 痩せずもがな 死せずもがな今日も近所のスーパーの レジで広げるマイバ…

  • 言語遊戯「俳句延長戦」

    これまで当ブログでは「ことわざ延長戦」と称して、ことわざに何かしらのフレーズを勝手につけ足すことで、ことあるごとにその力を無効化してきた。tmykinoue.hatenablog.comなぜそんな必要が?それはさておき、ことわざの延長が可能ならば、ほかにも延長できるものなどいくらでもあるはずだ。だがどうせ台なしにするのならば、その元になるものには、もっともらしい権威のようなものがあればあるほど良いのではないか。というわけで、ここは日本語文化の極みとも言える「俳句」の延長戦をやってみようと思う。ちょうど良いことに、俳句の五・七・五のリズムの先に七・七をつけ足してみると、自動的に短歌の響きを持つよ…

  • 令和十大あけましておめでとうございます2022

    あけましておめでとうございます!(開かずの扉を金と権力で)あけましておめでとうございます!(こんなとこにいるはずもないのに路地裏の窓を)あけましておめでとうございます!(ミルクボーイがネタ冒頭で客席からもらった網戸を)あけましておめでとうございます!(獲れたてホヤホヤのクワマンのセカンドバッグを)あけましておめでとうございます!(中にカスタードクリームを注入するための穴をシュー皮に)あけましておめでとうございます!(靴紐を結ぼうとしゃがんだ拍子にランドセルの蓋を)あけましておめでとうございます!(イナバ物置に乗る101人目になってついにその天井に穴を)あけましておめでとうございます!(マトリョ…

  • 【もしもシリーズ】もしもドラクエの防具屋にあの有名人の装備があったら

    国民的RPGである『ドラゴンクエスト』シリーズには様々な武器や防具が登場する。中にはかなり入手困難なものもあって、しかし本当にレアな装備とは、有名人が実際に身につけている一点物ということになるのではないか。というわけで、(どういうわけ?)今回はドラクエの防具屋で売っていそうな有名人の装備を考えてみることにした。なぜ考えてみることにしたのかはわからない。完全に無駄な時間と頭の使いかたである。 【サチコの大衣装】 しゅび力 +8 すばやさ -92 みりょく +34 こうげき魔力 -21 メダパニーマの効果(敵全体を混乱させる)天井まで届くほどの、他を威圧する派手な巨大ステージ衣装。年末の歌唱バトル…

  • 2021年ハード・ロック/ヘヴィ・メタル年間ベスト・ソング10選

    1位「Everafter (feat. Tommi “Tuple” Salmela)」/CIRCUS OF ROCK Come One, Come Allアーティスト:Circus of RockFrontiersAmazonフィンランドのKING COMPANYのドラマー、ミルカ・ランタネンが立ち上げたプロジェクト作より、心温まるメロディを持つこの曲を。アルバム『COME ONE, COME ALL』には、他にもジョニー・ジョエリ(HARDLINE、AXEL RUDI PELL)、ダニー・ヴォーン(TYKETTO)、マルコ・ヒエタラ(TAROT、NIGHTWISH)など、有名どころの実力派ヴ…

  • 2021年ハード・ロック/ヘヴィ・メタル年間ベスト・アルバム10選

    1位『X MARKS THE SPOT』/ART OF ILLUSION エックス・マークス・ザ・スポットアーティスト:アート・オヴ・イリュージョンマーキー・インコーポレイティドAmazon今年のはじめにこの作品のレビューを書いた時点で、すでに2021年のベストはこのアルバムになるだろうと半ば確信していたが、やはりその通りになった。これはやはり、年に何枚も出てくるレベルの作品ではない。ROBBY VALENTINEの1stで達成された「北欧美旋律+QUEEN」という図式を、隅から隅まで行き渡らせてある豪華絢爛な逸品。メンバー構成は、GRAND ILLUSION、WORK OF ART、LION…

  • 書評『無理ゲー社会』/橘玲

    読み終えて残るのは、ディストピア小説の読後感である。だがこれは、フィクションではないようだ。この先に透けて見える未来像が現実になるかどうかはわからないが、少なくともスタート地点がいまここにある現実であることに、間違いはない。そう、残念ながら。いかにも近ごろの新書らしい、狙いすぎのようにも感じられるタイトルに釣られて安易に手に取ってみたが、読み進めてゆくうちに、現代社会の問題点を容赦なく炙り出すその内容から目が離せなくなった。一章目のつかみに『君の名は。』を持ってくるあたり、やや取ってつけたようなあざとさを感じなくもないが、以降はかなり深刻な内容が続くため、これはあくまでも導入にすぎない。本書を…

  • 短篇小説「感謝しかない」

    今朝はあやうく寝坊するところだったが、スマホのアラームがちゃんと鳴ってくれたお蔭で予定どおり起きることができた。スマホには感謝しかない。 それ以前にベッドがあるお蔭で、僕は寝坊するほどに眠ることができている。ベッドにも感謝しかない。 もちろん寝るために必要なのはベッドだけじゃなかった。枕にも布団にも感謝しかない。シーツはもうところどころ破れかけてはいるけれど、破れないように頑張ってくれているのがわかるから、結局のところ感謝しかない。 羽毛布団からは頻繁に羽が飛び出してくるが感謝しかない。おかげで当初のふわふわ感はどこへやら、すっかりせんべい布団になってはいるが、それが布団である以上は感謝しかな…

  • 書評『いつか深い穴に落ちるまで』/山野辺太郎

    まるで任天堂のような小説だ。荒唐無稽だからこそのワクワク感がある。けっして現実的な設定ではないのに、リアリティも手応えもふんだんにある。だとすればリアリティの正体とはいったいなんなのか。読み手にそんな根源的な疑問を抱かせるというのは、それが良質である証拠だ。なにも小説に限らない。読み手の価値観を揺さぶってこその芸術でありエンターテインメントだろう。既存のリアリティの上に安住して、ものしり顔で正誤の判断を下すなどお笑いぐさだ。そもそも科学的な正しさ、つまり昨今流行りのエビデンスとやらと面白さとはなんの関係もないのだから。先日の『アメトーーク!』の読書芸人回で紹介されていたのをきっかけに、本書に興…

  • 短篇小説「ワンオペ村」

    同期一の出世頭と目されていた業田作一郎が、ある日仕事で重大なミスを犯した。彼はその責任を負わされて、このたび離島のワンオペ村へ飛ばされることになった。ワンオペ村はその名のとおり、何から何までワンオペでおこなわれると評判の村である。彼は転勤前から、その噂に戦々恐々としていた。何から何までというのが、どこからどこまでなのかがさっぱりわからなかったからだ。 転勤先のワンオペ村支店に出社する当日の朝から、作一郎はさっそくワンオペの洗礼を受けることになった。この村では、まず新居である自宅マンションの部屋を出る際に、玄関ドアを閉める動作と施錠を、なんと分業ではなくワンオペでおこなわなければならない仕様にな…

  • 【考察】城本クリニックのCMの女性は、なぜあんなに転げまわっているのか?

    CMというのはよくわからないもので、時にその難解さは哲学や純文学をも超える。単に何も考えずフィーリングで撮影しているだけなのかもしれないが、それにしたって無意味ほど難解なものはない。たとえば長年に渡って流れ続けている『城本クリニック』のこのCM。ただただ若い女性が絨毯の上を転げまわり、その背中から電話番号が吐き出されるという謎のシステム。あるいはこの女性は、電話番号から執拗に追いかけられているようにも見えるが、それにしては楽しそうだ。www.youtube.comこれがもし、ペルシャ絨毯のCMならば話は早い。「その上を転がりたくなるような、気持ちの良い絨毯であることを表現」CM企画書の「企画意…

  • 短篇小説「ガチ勢とその後続」

    あるコンサート会場の入場口に、開演前の行列ができていた。その先頭に並んでいる第一の集団は、もちろんガチ勢であった。 ガチ勢のうしろには、マジ勢が陣取っていた。ガチ勢とマジ勢は、どちらがよりガチのファンで、どちらがよりマジのファンかで言い争っていた。結果、ガチ勢のほうがよりガチで、マジ勢のほうがよりマジであるということに決した。なんの意味もない議論であった。 マジ勢の後方には、スキ勢が続いた。スキ勢はこの日コンサートをおこなうアーティストのことを間違いなく好きであったが、好きになれる部分しか見ていない人たちだった。ガチ勢とマジ勢は、そこがどうにも許せない。本当に対象のことを好きであるならば、嫌い…

  • 短篇小説「話半分の男」

    私と話半分の男の出会いは奇妙なものだった。ある日私が近所を散歩していると、蓋のない側溝に気をつけの姿勢で、仰向けに寝そべっている男が目に入った。その中年男性は、冬なのに半袖半ズボンを着用していた。私はなるべく目を合わせないように、その脇を通り過ぎようとした。だが見て見ぬふりを貫くというのは、思いのほか難しいものだ。「いやマラソン大会の途中で、小川に流されてしまってね」 男が唐突に、訊かれてもいない自らの事情を説明しはじめたのだった。周辺を歩く人はほかに見あたらず、男が私に話しかけているのは明白だった。私は無視して通過しようかとも思ったが、自らの手を汚さない範囲で、なんらかの助けを呼んでやるくら…

  • 「新語・流行語全部入り小説2021」

    ある雨上がりの朝、古びたカエルのマスコットキャラクターが、SDGs(粗大ごみのsサイズ)のステッカーを貼られてごみ置き場に捨てられていた。それは昨日まで近所の薬局の店頭に立っていたものだった。粗大なのにsとは、大きいのか小さいのかわからない。 学校へと向かう人流の中からその姿を見つけた中学生のウマ娘は、ふとごみ置き場の前に立ち止まり、自らの圧倒的なカエル愛に初めて気がついたのであった。 ウマ娘は、自分をウマ娘として誕生させた親ガチャに失望していた。彼女は自分が本当は鮮やかな緑色のカエル娘になりたかったことを、いまさらながら発見してしまったのである。極度にカラフルな服装を好むZ(ZAZY)世代な…

  • 短篇小説「匂わせの街」

    冒険の途中でふと喉の渇きをおぼえたわたしは、夕暮れどきに立ち寄った街でカフェのドアを開けた。「いらっしゃい! そういえば最近、夜中になると二階から妙な物音がするんだよ」 カウンターでカップを拭っている髭のマスターが、ありがちな挨拶に続けてなにやら唐突な相談を持ちかけてきた。さすがに気になったので、初対面ではあるが、わたしはボタンを押してもう一度話しかけてみた。すると、「いらっしゃい! そういえば最近、夜中になると二階から妙な物音がするんだよ」 マスターは、先ほどと一言一句同じ台詞を繰り返すのだった。わたしはひどく馬鹿にされているような気がしたが、ふと喉の渇きを思い出して、ここは飲み物にありつく…

  • 145字小説「駆け出しのAI」

    私の自動車にはAIが搭載されている。私はその実力を試すように、崖の手前に差しかかったところでAIへ指示を出す。「アホクサ、ブレーキかけて」 「はい、かしこまり」 すると自動車のブレーキが、脱兎のごとく駆け出した。私は奈落の底へと沈みゆくマイカーの中で、この文章を書いている。 アホクサに漢字は難しい。

  • 電子書籍『悪戯短篇小説集 耳毛に憧れたって駄目』無料配布キャンペーンのお知らせ2021…夏

    なんとなくの思いつきで、久々に拙著電子書籍の無料配布キャンペーンを開催することにしました。シェフの気まぐれサラダと同程度の気まぐれで。見出しの最後にちょっとだけJ-WALK感。(気づいたところで何?)どれくらい気まぐれかというと、こうして久々とか言いながら、実は一年ちょっと前にもやっていたという。自分の書いたお知らせが、自分に一番届いていなかった可能性。tmykinoue.hatenablog.comしかも改めて読んでみるとかなりの情報量を書いていて、まあ当然のように余計なこともいっぱい書いてあるわけですが、と書いているこの一行こそが余計なことであるわけですが、電子書籍の中身に変わりはないので…

  • 短篇小説「オール回転寿司」

    私は先日、いま話題の「オール回転寿司」へ行った。まさかあんなに回るとは。回る回るとは聞いていた。しかしその回転の度合いは、私の想像をはるかに超越したものであった。こんな店が繁盛しているということは、人間はとにかく回ることを愛する生き物であるということだろう。さすが、回転する星の上で生活することを選んだだけのことはある。どうりで竜巻のようなジェットコースターに長蛇の列ができるわけだ。夕飯時を迎えた「オール回転寿司」の店頭にも行列ができていた。入口の脇で理髪店前に立つべき三色縞のサインポールが回っているのは、それによって列に並ぶ客の回転スピードをコントロールしているからだ。「行列の回転」といっても…

  • ディスクレビュー『HELLOWEEN』/HELLOWEEN

    【Amazon.co.jp限定】ハロウィン ~完全版~ [初回生産限定盤] [2CD] (Amazon.co.jp限定特典 : メガジャケ ~初回生産限定盤・通常盤 共通絵柄~ 付)アーティスト:ハロウィンビクターエンタテインメントAmazon歴代メンバー七人の集合体による、ある意味「完全体HELLOWEEN」が満を持して発表した待望の新作。だがこの作品の評価はひと筋縄ではいかない。近作よりは間違いなく良いが、だからといってかつての名作群に匹敵するわけでもない。予想以上ではあるが期待以上ではなく、完成度は高いがひらめきを感じる瞬間は少ない。足し算のあとは見えるが掛け算とまではいかず、むしろ各人…

  • 短篇小説「兄不足」

    太郎は次郎に知っていることを話した。知っているというのは太郎が知っているという意味で次郎は知らない話だ。太郎だっていまこそ知っているが昨日までは知らなかった話だ。次郎にしてもいまこそは知らないが数分後には知ることになる。あとちょっとすれば晴れてお揃いになるというわけだ。 太郎と次郎は兄弟ではない。次郎は太郎のことを兄のように慕っているが、太郎は次郎のことを弟のように可愛がっているわけではない。太郎も次郎のことをまた兄のように慕っているのだ。 こうなってくると、どちらが歳上かなんてのは些細な問題だ。人が相手を兄と慕う心以上に、その相手が兄であるという事実はない。実際のところ、二人とも相手のほうが…

  • 壊れかけのイヤホン

    先日、いつも使っているイヤホンが壊れかけた。それはもう壊れかけたのである。スマホを買ったときに付属していた安っぽいやつだが、案外音が良いのでそのまま使っていた。ヘッドホンは別に有線とワイヤレスのを持っている。もっと言えばワイヤレスのイヤホンもあるが、そちらはすでに壊れていて左耳しか聞こえない。さらに言えば、左耳しか聞こえないワイヤレスイヤホンなら三つもある。いずれもワイヤレスとはいってもいわゆる左右が独立した完全ワイヤレスではなく、左右はコードでつながっていてそれが本体とはつながっていないというだけの半端ワイヤレスだ。だがこのタイプはそのせいで左右をつなぐコードが頻繁に断線する。そして中国製の…

  • 2021年上半期HR/HMプレイリスト

    たまにははてなブログの【今週のお題「わたしのプレイリスト」】に則って、2021年上半期によく聴いた6曲を。◆「Siberia」/CREYE www.youtube.comスウェーデン産プログレ・ハード。 ルックスに反する圧倒的透明感に、心が洗われる。 隅々まで気の利いたアレンジも絶妙だが、何よりも歌メロのキャッチーさが大前提として素晴らしい。クレイIIアーティスト:クレイマーキー・インコーポレイティドビクターAmazon ◆「My Loveless Lullaby」/ART OF ILLUSION www.youtube.comこちらもまた北欧美旋律の極み。 アートでありファンタジー。 詳細は…

  • 短篇小説「店滅」

    床に絨毯にアスファルトに頭をこすりつけて謝るだけの仕事を終えた夜、そのまま帰宅しても眠れない予感がした私は、気づけば路地裏に迷い込んでいた。あるいは自ら迷いたくて迷っていたのかもしれない。真っすぐ家に帰りたくないがためにまわり道をすることなら、そういえば子供時代にもよくあった。変わらないことを喜ぶべきか、成長しないことを哀しむべきか。 すでに夜の十時を過ぎていただろうか。路地の両脇に立つ店の看板はどれも真っ暗で、営業時間を過ぎて閉店しているのかとっくに潰れているのかもわからない。 だがその突き当たりにただひとつ、ちかちかと点滅している正方形の電飾看板が立っていた。点いたり消えたりのリズムが不定…

  • ラジオ聴取日記、やってます

    こことは別に、もうひとつやっているテレビ/ラジオレビューブログのほうで、『ラジオ聴取日記』というものをつけています。どうせすぐにやめると思ったんですが、気づけば一ヶ月以上続いているので、こちらでもお知らせしようと思った次第です。とはいえ内容はレビュー未満の、本当に日記というか記録というか備忘録的なメモのようなもので、そのとき聴いて考えたことや気づいたことを、つらつらと書いていく感じです。なので極度にラジオ好きのかたや実際にその番組を聴いた人でないと、読んでも意味がわからないかもしれませんが、興味のあるかたはおつきあいいただければ。どうぞよろしくお願いいたします。arsenal4.blog.fc…

  • 短篇小説「おやつんクエスト」

    都会の喧噪を離れたリゾート地たけのこの里に、ルヴァンという名の王子がいた。ルヴァンはことあるごとにパーティーを催すことでお馴染みのリッツ家の跡取り息子で、顔にあばたが多くその皮膚はところどころ塩を吹いている。 かつて隆盛を極めたリッツ家も、ルヴァンの代になるとすっかり勢いを失っていたが、そんなときに限って危機は訪れるものだ。 先ごろ、海の向こうの無人島に聳え立つきのこの山に暗黒の帝王ダースが降臨し、部下の暴君ハバネロとともに、まもなくこのたけのこの里へ攻め込んでくるらしい――そんな剣呑な噂が、里の耳聡いカントリーマアムたちのあいだでまことしやかに囁かれていた。 そんなある日、リッツ家の分家であ…

  • 短篇小説「ネタバレ警察」

    新部署に配属されたばかりの越智裕三が、スーパーのおやつ売り場でお菓子のパッケージをひとつひとつ手に取りながらひとりごとを言っている。「『ポッキー』か……これはやっぱり、食べたとき鳴る音からそう名づけられたんだろうな……だとすれば確実にアウト、と。えーっと『ポテトチップス』は……ポテトのチップス……って以外に理由はないだろうから、これもアウト。ああ、『じゃがりこ』ね。もちろん原料がじゃがいもだからなんだろうけど、後半の『りこ』の部分は見えてこないから……まあ審議対象か。といっても25%ラインは遥かに超えてしまっているから、駄目なことは駄目なんだけどな――」 裕三はお菓子を手に取っては棚に戻しなが…

  • 短篇小説「反語の竜」

    竜は素直じゃない男だ。彼は産道の中ですらも、「産むなよ、産むなよ」と心の中で念じていたという。もちろん産まれたくないわけではなかった。だが本当に産まれたかったのかどうかは、物心ついていないのでよくわからない。 竜の少年時代には苦い思い出が多い。ある日、昼休みのドッヂボールに夢中になりすぎた小学五年生の竜とクラスメイトたちは、遅れて教室へ突入すると廊下に並ばされ、担任の男性教師に説教を喰らうはめになった。しかしこの担任は温厚な青年で、このときも恫喝するような調子は微塵もなかった。 だが人間、何でスイッチが入るかわからない。そんな気配など微塵もない担任の説諭の最中に、竜が突如として「ぶつなよ、ぶつ…

  • 桜の樹の下には屍体が埋まっているらしいので

    桜の樹の下には屍体が埋まっている、と梶井基次郎は言った。だとするならば―― クワマンの下にはセカンドバッグが埋まっている。 しょんべんカーブには虫が止まっている。 Tカードには使うほどでもないポイントが溜まっている。 ガチャガチャのカプセルには原価の低い夢が詰まっている。 ナンチャンの庭にははっぱ隊が埋まっている。 公園のベンチには受け子が待っている。 何も言えなかった夏のあとには言い過ぎる秋が待っている。 言い過ぎた秋のあとには言いたいことも言えないこんな世の中にポイズンが盛られている。 秋田のなまはげには包丁のスポンサーがついている。 テレビ東京は池の水を抜いている――。 www.yout…

  • ディスクレビュー『X MARKS THE SPOT』/ART OF ILLUSION

    エックス・マークス・ザ・スポットアーティスト:アート・オヴ・イリュージョン発売日: 2021/02/03メディア: CD雑味のない北欧的美旋律が、QUEEN影響下にあるオペラティックなアレンジによって豪華に彩られる。満を持して登場した万華鏡の如きファンタジック・ハード・ロックの傑作である。傑作という言葉を易々しく使いたくはないが、このレベルならば許されるだろう。今のところ早くも過小評価されているように見受けられるが、こういう作品こそ届けるべき人にきちんと届けなければならない。僕はこの作品を聴いて、ROBBY VALENTINEの1stを思い出した。「北欧美旋律+QUEEN」という魅惑の方程式は…

  • 言語遊戯「ことわざ延長戦」第4戦

    本来短く言い切るからこそ意味のあることわざに、余計な情報を足して無駄に長くしてみようという究極の蛇足企画第4弾。いわば引き分けでもないのにおこなわれる不毛な延長戦。理由なく長すぎて松木安太郎も怒り出す不可解なアディショナル・タイム。長引けば長引くほどに空洞化するその意味を、ドーナツのように味わっていただければこれ幸い。 ◆《腐っても鯛》 ↓ 《腐っても鯛、新鮮でも虫》【意味】海外ロケでリアクション芸人に出されるゲテモノ料理は、どんなに新鮮でも嫌なものである。【解説】むしろ新鮮なほうが嫌なくらいかもしれない。 ◆《短気は損気》 ↓ 《短気は損気、ヤンキーはドンキ》【意味】短気を起こすと結果として…

  • 破くまえに読む

    以前から気になっている表現に「読破」という言葉があって。言うまでもなくそれは「(書物を)最後まで読み通す」という意味ではあるのだが、それにしても破く必要はない。もちろん最後まで読んだところで実際に破く人など滅多にいないはずだから、読み切ったことを自慢するための強調表現としての「破」なのだろうとは思う。それは思ってる。にしても、である。たしかに「破」の字は、いかにも暴走族が好んで用いそうという意味ではわかりやすい強調表現ではある。しかし読書というわりと静謐な行為の到達点に待つ強調表現として、そのような暴力的な言葉がふさわしいとはどうにも思えないのである。などと考えつつ、自分でもSNSなどに本を読…

  • 短篇小説「言霊無双」

    目の前を歩いている人がずっと後ろを向いているように見えるのは、シンプルに彼女が後ろ向きな考えを持っているからだ。人は後ろ向きな思考を続けているあいだは、文字通り顔面が後ろを向いてしまうようになった。 それに対して、先ほどから僕の右脇を歩いている男をどんなにジロジロ見つめてもこちらを振り向かないのは、おそらくは借金で首が回らないせいだろう。 ネットやSNSの流行により、言葉によって人が傷つき時には命を失うほどまでに言葉の力が増大した。その結果、言葉は人の身体を容赦なくコントロールするようになった。それは古来「言霊」と呼ばれる言葉の霊力がかつてなく強まった結果だ。 後ろ向き女と首回らな男、この二人…

  • 短篇小説「言わずもが名」

    かつてはこの国にも省略の美学というものがあった。 たとえば俳句。に限らず会話や文章、そして商品のネーミングに至るまで、語られていない行間にこそ価値がある。そこに粋を感じる悠長な時代がたしかにあったのだ。いやあったらしい。私はそんな時代は知らない。物心ついたときからすでに、省略は不誠実と見なされ罰せられる、何もかもが説明過多な時代がすっかり完成していたのだから。 もちろん説明過多というのは過去と比較しての話だ。この時代に生きる私たちはそれを説明過多と感じることはない。なぜならば目にするものも会話も文章も、すべてが常時説明過多であるからだ。 つまりそれはデフォルトであり標準仕様であって多いも少ない…

  • 短篇小説「漕ぎ男」

    男が自転車を立ち漕ぎしている。 文字通り、サドルの上に立って。ペダルまでの距離は遠いが、いまは下り坂なので問題はない。上り坂が来ないことを祈るばかりだ。 やがてサドルの上に立って進む立ち漕ぎ男の脇を、座り漕ぎ男が追い抜いてゆく。座り漕ぎ男もまた文字通り、地面に座ったまま自転車を漕いでいる。もちろん尻は熱い。 と思いきや、ボトムスの尻部分には二個のローラーがついているので熱くない。なので正確に言えば二輪車ではなく四輪車と言うべきだ。尻ローラーがうなりを上げる。 そうなると次に現れるのはもちろん寝漕ぎ男だ。寝漕ぎ男は前輪と後輪のあいだに、あお向けに寝そべってペダルを漕いでいる。なので寝漕ぎ用自転車…

  • 短篇小説「何もない」

    とある土曜日の夜、私は「題名のない音楽会」へ行った。 それは「指揮棒のない指揮者」が指揮をとり、「バイオリンのないバイオリン奏者」や「チェロのないチェロ奏者」が「音楽のない音楽」を演奏する素晴らしい音楽会。ないのは題名だけでなく、あるのはただ静寂のみであった。 出不精の私をこの素敵な会へと出向かせたのは、「友達のいない友達」からの「誘い文句のない招待状」である。 では「友達のいない友達」にとっての私はいったいどういった存在であるのか。むろん彼には友達がいないはずなので、私とてご多分に漏れず友達ではないと思うのだが、その手紙は間違いなく私宛に送られてきたものだ。 招待状には、当然のように私を招待…

  • 短篇小説「キュウリを汚さないで」

    工場の真ん中にテーブルがある。テーブルの端で男Aがキュウリに泥を塗っている。 その隣の男Bがたっぷり泥のついたキュウリを受け取ると、シンクへと走りそれを丁寧に洗う。男Bはそのキュウリを、シンク脇に引っかけてある泥まみれの布巾で拭く。キュウリは再びドロドロになるが、このドロドロは男Aがもたらしたドロドロとは何かが違う。何が違うのかは誰にもわからない。 ドロドロのキュウリを預かりに男Cがやってくる。男Cは男Aのいたテーブルに向かい、そこでやはりたっぷり泥を塗ってから、ドライヤーでカラカラに乾かしてゆく。最初は熱風、仕上げは冷風。乾ききった泥キュウリは、すっかり違う表情を見せる。 そこへ下駄を鳴らし…

arrow_drop_down

ブログリーダー」を活用して、井上智公さんをフォローしませんか?

ハンドル名
井上智公さん
ブログタイトル
泣きながら一気に書きました
フォロー
泣きながら一気に書きました

にほんブログ村 カテゴリー一覧

商用
  翻译: