今年も近所の小学校のまわりにヒガンバナが咲いた。東京近郊では9月中旬~下旬が見ごろの花だと思っていたので、10月に花を見るのは、少し遅い気がする。真夏のような猛暑がいつまでも続いていたので、そのしわ寄せを受けているのかもしれない。これは門前仲町駅そばの植え込みで見たもの。日本のヒガンバナは種を作らず、分球で増えるらしいのだが、誰かが植えたのだろうか?10月に入って、かなり仕事が立て込み気味だが、10月も11月も関西旅行の予定を入れているので、それを糧に頑張りたい。2024都会のヒガンバナ
興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。 <br>
今年度の有給休暇が余っていたので、3月最後の木金を休みにすることにした。今日は大横川のお花見クルーズでも楽しむか!と考えていたのだが、まだ桜が全く咲いていないので予定変更。気になっていた練馬区立牧野記念庭園を訪ねてきた。牧野富太郎博士の名前は、もちろん昔から知っていたが、強い関心を持ったきっかけは、昨年の朝ドラ『らんまん』である。牧野記念庭園は、牧野博士の邸宅跡地につくられたもの。想像していたより狭い印象だったが、少しずつ、たくさんの種類の植物が植えられている。草花だけではなくて、メタセコイヤやホオノキの大木もあって目を見張った。ウメやサクラも風情のある古木だった。ウメはもう花が終わっていて、サクラ「仙台屋」(高知市内にあった仙台屋という店から名づけられた)はまだ咲いていなかった。入口のオオカンヒザクラは...練馬区立牧野記念庭園を初訪問
〇酒徒『手軽あっさり毎日食べたいあたらしい家中華』マガジンハウス2023.10中華料理愛好家の酒徒(しゅと)さんの名前は、ときどきネットで拝見していた。特に印象深いのは、本書にも掲載されている「肉末粉絲」(豚ひき肉と春雨の炒め煮)の紹介を見つけたとき。醤油味でひき肉と春雨を炒めるだけの料理だが、これは食べたい!今すぐ食べたい!と思って、すぐにひき肉と春雨を買ってきた。できあがった味が「正解」なのかどうかはよく分からないが、美味しかったので満足した。本書には「塩の中華」「醤油の中華」「野菜の中華」「煮る中華」「茹でる中華」の5章に分けて、78種類の料理が紹介されている。どれも本当にシンプルで、食材は1~2種類。特別な調味料は要らない。一時期は毎年出かけていた中国旅行で食べた記憶がよみがえる料理もある。「西紅...私にも作れます/あたらしい家中華(酒徒)
東京国立博物館・東洋館(アジアギャラリー)の常設展から。5室(中国陶磁)を通りかかったら、なんだか可愛い皿や碗が並んでいた。赤や緑の華やかな色彩にゆるい絵。驚いたのは、これらに「中国・磁州窯」という注釈がついていたことだ。え?磁州窯といえば「黒釉刻花」「白地鉄絵」「白地黒掻落」など「黒と白のうつわ」ではなかったの?磁州窯には、北欧食器みたいなモダンなスタイリッシュなデザインがあることは知っていたが、これはまた意外なバリエーションだった。・五彩水禽文碗金~元時代・13世紀・三彩刻花双魚文盤金時代・12~13世紀・三彩刻花小禽文皿金~元時代・13世紀王侯貴族の食卓にあがったとは想像しにくい。ある程度富裕な庶民が使ったのだろうか?こういううつわを見ると、金~元時代って意外と楽しそうだなあと思ってしまう。赤と緑の磁州窯(東博・常設展)
〇馬伯庸;齊藤正高、泊功訳『両京十五日』(HAYAKAWAPOCKETMYSTERYBOOKS)早川書房2023.2-3馬伯庸の名前は、中国ドラマ好きにはすっかりおなじみであるが、彼の長編歴史小説が日本語に翻訳されるのは初めてのことらしい。遅いよ!全く!しかし待たされただけのことはあった。これまでドラマ化されたどの作品と比べても遜色なく、実に面白かった。物語は、大明洪煕元年(1425)5月18日に始まる。ほぼ1年前、洪煕帝(仁宗)が即位し、息子の朱瞻基(のちの宣徳帝)が太子に定められた。洪煕帝は国都を南京に戻そうと考えており、その露払いを命じられた朱瞻基の宝船は、まもなく南京に到着しようとしていた。太子歓迎の警備を指揮する呉不平は、息子の呉定縁を埠頭の向かいの扇骨台に派遣した。ところが埠頭に現れた巨大な宝...旅の仲間とその終わり/両京十五日(馬伯庸)
門前仲町で暮らし始めて、もうすぐ丸7年になる。窓から大横川の桜並木を眺めることができるので、この時期は、朝起きて、カーテンを開けるたびにドキドキする。しかし今年の桜は遅い。いや、近年が早すぎたのかな。昨年は3月17日に開花を見つけたが、今年はまだ気配がない。ただ、門前仲町の交差点近くに、毎年、抜群に早く花をつける桜の木があって、今週のはじめには、こんな感じだった。今日の大横川の夜景。コロナ明けの気合いなのか、早くから照明が用意され、観光船の運航スケジュールもびっしり入っていたのだが、肝心の花が咲かないので、なんだか拍子抜け状態になっている。考えてみれば、もともと桜は四月の入学式につきものだった。今年は昭和の気分に戻って、ゆっくり楽しもう。2024桜はまだ咲かない
〇府中市美術館企画展・春の江戸絵画まつり『ほとけの国の美術』(2024年3月9日~5月6日)恒例・春の江戸絵画まつり。まだ桜は咲いていないが、さっそく見てきた。怖い絵、変な絵、かわいい絵(=図録のオビの宣伝文句)、来迎図から若冲まで「ほとけの国」で生まれた、美しくアイディアに溢れた作品を展示する。入口にはクリーム色の壁にキラキラ輝く金色の「ほとけの国の美術」の文字。そして、無地の壁に挟まれた細長い通路を進んでいくと、金身の菩薩たちが舞い踊る『二十五菩薩来迎図』17幅を掛け並べた空間が出現する。京都・二尊院に伝わる、土佐行広(室町時代)の作だという。二尊院には何度か行っているが、こんな作品を所蔵しているとは聞いたことがない。それもそのはず、あとで会場ロビーで関連ビデオを見たら、経変劣化のため、長らく展示がで...生けるものの愛おしさ/ほとけの国の美術(府中市美術館)
〇東京国立博物館・本館特別5室建立900年・特別展『中尊寺金色堂』(2024年1月23日~4月14日)上棟の天治元年(1124)を建立年ととらえ、中尊寺金色堂の建立900年を記念して開催する特別展。先月から参観の機会をうかがっていたのだが、来場者の波は減る様子がなく、先週末、建物の外に30分くらい並んで入場することができた。会場に入ると、展示物に進む前に大きなスクリーンで区切られた空間があって、金色堂の映像が映し出される。私は展覧会のイメージ映像や説明動画はスキップしてしまうことが多いのだが、これはちょっと様子が違うと思って立ち止まった。ゆっくり金色堂の扉が開くと、カメラは3つの須弥壇の全景を映し、さらにそれぞれの須弥壇に寄っていく。恐れ多くも須弥壇の上に乗って、中尊の阿弥陀仏と間近に正対するような視点で...8K映像で訪ねる/中尊寺金色堂(東京国立博物館)
〇『大理寺少卿游』全36集(愛奇藝、2024年)原作はマンガ「大理寺日誌」でアニメ版もあり、日本にもファンが多いことは伝え聞いていたが、私はこのドラマで初めて作品世界に触れた。舞台は唐・武則天の時代の神都・洛陽。刑罰と司法を所管する大理寺の面々が活躍する。大理寺の若きリーダー李餅(丁禹兮)は、マンガとアニメでは人間の衣服を着た白猫の姿で描かれる。ドラマ版の李餅は、基本的には人間の姿だが、猫のように動きは俊敏、猫並みの視力と嗅覚の持ち主。時々、猫の顔になったり、まれに完全に猫の姿に変身することもある。田舎育ちの陳拾は、生き別れの兄を探して上京し、洛陽城で不思議な猫に出会う。この猫こそ実は李餅。李餅は前の大理寺卿・李稷の息子だが、かつて何者かに父親を殺害され、葬儀のために故郷へ戻る途中、何者かに襲われ、気づい...持つべきものは仲間/中華ドラマ『大理寺少卿游』
〇羽生結弦nottestellata2024(2024年3月10日、16:00~)先週日曜、羽生結弦さんが座長をつとめるアイスショーnottestellataを見て来た。2011年3月11日の東日本大震災から12年目になる2023年に彼が立ち上げたアイスショーで、宮城・セキスイハイムスーパーアリーナで3公演が行われる。昨年はチケットの抽選に敗れて行くことができなかったが、今年は千秋楽の日曜のチケットを取ることができ、日帰りで仙台に行ってきた。素晴らしい公演で大満足したのだが、やっぱり(分かっていたけど)ふつうのアイスショーとは少し違って、考えることが多くて、なかなか記事を書くことができなかった。日曜の仙台は、青空なのに時々細かい雪が舞っていて、東京よりかなり寒かった。2011年のあの日も、こんなふうに寒か...アイスショー”nottestellata2024”
〇根津美術館企画展『魅惑の朝鮮陶磁』+特別企画『謎解き奥高麗茶碗』(2024年2月10日~3月26日)今季の展覧会は珍しい二部構成で、展示室1は、主に館蔵品で朝鮮陶磁の歴史を概観し、その魅力を見つめ直す企画展。展示室2は、奥高麗茶碗(九州肥前地方、現在の佐賀県唐津市周辺で焼かれた、朝鮮陶磁の高麗茶碗を写した茶碗)の成立と展開を検証する特別企画である。展示室1、展示の90件余りは確かにほとんどが館蔵品(西田宏子氏寄贈・秋山順一氏寄贈が多い)だが、冒頭の陶質土器4件は「個人蔵」だった。特別古い、三国時代(5世紀)の土器が2件。伽耶のものだという『車輪双口壺』は、おもちゃみたいなかたちで面白かった。続いて、高麗時代(12~14世紀)の青磁。一目見て美しいと思った『青磁輪花承盤』には、王室向けの製品を生産した全羅...青磁、白磁、高麗茶碗/魅惑の朝鮮陶磁(根津美術館)
■竹中大工道具館企画展『鉋台をつくる-東京における台屋の成立と発展』(2024年3月2日~5月19日)+常設展先々週、仕事で広島に行った帰りに自費で神戸に1泊して、半日だけ遊んできた。目的の1つめは、以前から行きたいと思っていたこの施設を訪ねること。新幹線の新神戸駅を出て徒歩3分くらいの位置にある(ただし新神戸駅前の導線は慣れないと分かりにくい)。どこかのお屋敷みたいな門を入ると、ガラスの壁面に黒い瓦屋根を載せた、大きな平屋の建物が目に入る。地上は1階だが地下は2階まであって、天井の高い展示スペースが設けられている。床や天井には良質の木材が豊富に使われていて、木の匂いが心地よい。もとは神戸市内の別の場所にあったが、2014年に現在地(竹中工務店本社跡地)に新築・移転してきたとのこと。1階ホールでは「鉋台(...コレクション大航海(神戸市博)+竹中大工道具館
寒い日が続いていたが(金曜の朝はうっすら雪)今日は久しぶりによく晴れたので、木場の河津桜と日本橋のおかめ桜を見てきた。木場の大横川沿いの河津桜は、去年初めて見に行ったもの。永代通りの沢海橋から北側を眺めて、もはや見頃であることを確認。老婦人の二人連れが「花の下は歩けないのかしら」「もっと近づけると思っていたのに」と話しているのが聞こえたので、近づいて「もう少し先に行くと遊歩道になっていますよ」とお声がけする(去年は私もとまどったので)。やっぱり、この河津桜は真下に立って見上げたい。ピンクの雲のような、みっしりした花付きが圧巻。もう少し花色が薄い品種もあるが、とにかくみっしり咲いている。だいたい名所と言われるところのサクラは老木が多いので、樹は大きいが、こんな花の付き方はしない。だが、花のまばらな老木にも味...2024木場の河津桜と日本橋のおかめ桜
〇萬代悠『三井大坂両替店(みついおおさかりょうがえだな):銀行業の先駆け、その技術と挑戦』(中公新書)中央公論新社2024.2三井高利が元禄4年(1691)に営業を開始した三井大坂両替店は、両替店を名乗りながら両替業務にはほとんど従事せず、基本的に民間相手の金貸し業を主軸とした、大型民間銀行の源流である。本書は、三井に残る膨大な史料群を読み解くことで、江戸時代の銀行業の基本業務がどのように行われていたかを解明する。本書は、はじめに三井大坂両替店の店舗の立地や組織・人事の概要を示す。おもしろかったのは、奉公人の年齢構成・昇進・報酬などの分析である。少し前に読んだ、戸森麻衣子氏の『仕事と江戸時代』にも書かれていたが、奉公人は住み込みで独身の共同生活を強いられた。そこを辛抱すれば、退職金(元手銀)を得て、家庭を...信用調査に見る近世大坂の社会/三井大坂両替店(萬代悠)
〇飯島渉『感染症の歴史学』(岩波新書)岩波書店2024.1コロナ下で読んだ『感染症の中国史』(刊行はもっと前)の著者の新刊が出たので読んでみた。はじめに新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的な流行)の「起承転結」を振り返り、この経験を感染症の歴史学に位置づける。2019年に中国武漢で発生した新興感染症COVID-19は、2020年初頭から世界に拡大し、3月、WHOが「パンデミック」を宣言した。「これほど長く、大きなパンデミックになるとは、ほとんどの人が予想できませんでした」と著者は書いているが、もっと短く終わると考えていたかといえば、私はそうでもなかった。この先どうなるかは全く予想できなかったけれど、マスクをして、人との接触を減らせば、命の危険は少ないというのは、そんなに受け入れがたい状況ではなか...コロナ・パンデミックを振り返る/感染症の歴史学(飯島渉)
数週間前に3月のカレンダーを見て、3月3日が日曜に当たっていることに気づいた。関東在住の仏像ファンにとって、3月3日といえば、三浦半島・芦名にある浄楽寺のご開帳日である。私は20年くらい前に逗子に住んでいたこともあり、浄楽寺の収蔵庫改修のクラウドファンディングに寄付したご縁もあるので、久しぶりに行ってみたくなった。逗子駅から浄楽寺までは京急バスに乗る。時刻表では20~30分だったが、混雑の影響で倍くらいの時間がかかった。■金剛山勝長寿院大御堂浄楽寺(横須賀市芦名)揃いの法被(抱き茗荷紋?)のおじさんたちが参拝客の車を誘導していたが「こっちは満杯です」「この先の駐車場なら、1、2台入れるかも」と大変そうだった。門前には露店やキッチンカーも。まずは本堂に参拝。江戸時代の小ぶりな阿弥陀三尊像が安置されており、背...三浦半島の運慶仏巡り:浄楽寺、満願寺
今週は2泊3日で広島へ出張。ランチタイムに、昨年寄ったお好み焼・鉄板焼のお店を覗いたら、残念ながら満席で入れなかった。しかし、近くにあった、もう1軒のお店「ひなた」に入れたので、肉玉そばを注文。満足!21周年を迎えた歴史のあるお店とのこと。夜は、1泊目はひとりだったので簡単にカキフライ定食。翌日は同行の同僚と「和久バル」で牡蠣ざんまい。最初の土手鍋のあとは、グラタン、リゾット、(また)カキフライなど、写真を撮るのを忘れてしまったが、どれも美味しかった。牡蠣の土手鍋は広島の郷土料理。東京では、ほとんど食べた記憶がなかったが、気に入ってしまった。今度、家でつくってみよう!2024年3月食べたもの@広島
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今年も近所の小学校のまわりにヒガンバナが咲いた。東京近郊では9月中旬~下旬が見ごろの花だと思っていたので、10月に花を見るのは、少し遅い気がする。真夏のような猛暑がいつまでも続いていたので、そのしわ寄せを受けているのかもしれない。これは門前仲町駅そばの植え込みで見たもの。日本のヒガンバナは種を作らず、分球で増えるらしいのだが、誰かが植えたのだろうか?10月に入って、かなり仕事が立て込み気味だが、10月も11月も関西旅行の予定を入れているので、それを糧に頑張りたい。2024都会のヒガンバナ
〇五島美術館館蔵・秋の優品展『一生に一度は観たい古写経』(2024年9月3日~10月14日)今期は『紫式部日記絵巻』の特別展示(10月5日~14日)を待っていたので、今日、ようやく行ってきた。展示室1がかなり混んでいたので、順番を変えて、展示室2から見ることにした。おそらく『紫式部日記絵巻』は展示室2に出ているのだろう、と思っていたのだが、予想は外れた。展示室2は、大東急記念文庫創立75周年記念特集展示・第2部「絵巻・絵本」と題して19件を展示する(ちなみに同特集展示・第1部「古文書・古記録」は、今年5月11日~6月16日に行われた。このときはメインの展示が近代日本画だったので見逃してしまった)。大東急記念文庫、漢籍や国書の稀覯本のイメージが強かったのだが、実は近世文学・江戸資料に優れているのだな。それに...紫式部日記も特別公開/一生に一度は観たい古写経(五島美術館)
〇根津美術館企画展『夏と秋の美学-鈴木其一と伊年印の優品とともに』(2024年9月14日~10月20日)江戸琳派の異才・鈴木其一と、琳派の祖である俵屋宗達に始まる工房の優品を中心に据え、美術作品によって初夏から晩秋まで移ろう季節の情趣を楽しみながら、そこにうかがわれる美意識の諸相に迫る。展示室に入ると「夏の訪れ」→「真夏の情趣」→「夏から秋へ」→「涼秋の候」と、季節の移ろいを意識して作品が並べられていることが分かる。しかし連日の猛暑に苦しめられたこの夏を思うと、冷泉為恭が『時鳥図』や『納涼図』に描いたように、衣をしどけなく着崩したり、釣殿で水面を渡る風に吹かれたりする程度で、夏がしのげた時代は、もはや別世界に思われる。本展の見どころの1つとなっているのは鈴木其一筆『夏秋渓流図屏風』。江戸絵画らしからぬ、迷...百合はどこから/夏と秋の美学(根津美術館)
〇太田記念美術館『浮世絵お化け屋敷』(2024年8月3日~9月29日)歌川国芳や月岡芳年の名品をはじめ、妖怪や幽霊を描いた浮世絵約170点を紹介する。前後期で完全展示替えだったので、前期に続いて後期も見てきた。いや楽しかった!浮世絵といえば、伝統的にコレクターに愛されてきたのは美人画や役者絵だと思うが、いま一番人気があるのは、スペクタクルな怨霊・妖怪画ではないかと思う。会期末にあたるこの週末、小さな美術館は大混雑で。若者や外国人の姿も多かった。後期の見ものは歌川国芳『相馬の古内裏』。一度見たら忘れない、背を丸めて覗き込む巨大な髑髏が巨神兵みたいなやつ。しかし私はこの原作にあたる山東京伝作『善知鳥安方忠義伝』は、いまだ機会がなくて読んでいない。昨年、歌舞伎座で見た『新・陰陽師』に将門の復権を企む滝夜叉姫が登...怪物も怨霊も大集合/浮世絵お化け屋敷(太田記念美術館)
〇静嘉堂文庫美術館特別展『眼福-大名家旧蔵、静嘉堂茶道具の粋』(2024年9月10日~11月4日)三菱第2代社長・岩﨑彌之助とその嗣子で第4代社長の岩﨑小彌太の父子二代によって収集された茶道具の名品展。静嘉堂としては8年ぶりの茶道具展で、将軍家、大名家旧蔵の由緒ある茶入や名碗をはじめ、著名な茶人たちの眼にかなった、格別の名品が一堂に会する。ギャラリー1は、建窯の油滴天目(デカい)に始まり、灰被天目、井戸茶碗、楽茶碗、織部、高取などが1~2点ずつで、茶碗の種類を学ぶ教科書の趣き。私は、いわゆる井戸茶碗は、持ち重りしそうであまり好きでないのだが、つるっとした玉子手茶碗(銘:小倉山)は触ってみたいなと思った。ギャラリー2は茶入。それぞれ仕覆やら木箱やら、大量の付属品が一緒に並んでいて面白かった。本展は、すべて展...付藻と松本/眼福(静嘉堂文庫美術館)
〇『南来北往』全39集(中央電視台、愛奇藝他、2024年)「南来北往」は、あちこち、せかせか動き回ることをいう成語である。ドラマの始まりは1978年、主人公の汪新は中国東北地方の寧陽駅の管区内で「乗警」として働き始めたばかりの若者。私は80~90年代によく中国旅行に行っていたのだが、長距離列車に乗ると、必ずこわもての乗警(鉄道警察官)が乗っていて、身分証や切符をチェックにまわってきた。今は知らないが、なつかしい。汪新(白敬亭)は幼い頃から父親と二人暮らし。父親は列車長で、鉄道関係者の社宅のようなところに住んでいる。機関士見習いの牛大力、牛大力の憧れである服務員の姚玉玲らもご近所住まい。汪新は、中学の同級生だった馬燕(金晨)のことをいつも気にかけていた。馬燕の父親・馬魁は経験豊富な乗警だったが、あるとき犯人...鉄道と家族の現代史/中華ドラマ『南来北往』
〇出光美術館出光美術館の軌跡ここから、さきへIV『物、ものを呼ぶ-伴大納言絵巻から若冲へ』(2024年9月7日~10月20日)休館を控えたシリーズ展もいよいよ最終章になってしまった。本展は、同館が所蔵する2つの国宝、『伴大納言絵巻』と古筆手鑑『見努世友』をはじめ、やまと絵、風俗画、仏画、文人画から古筆まで、書画コレクションの粋を展観する。私は2016年の展示以来となる『伴大納言絵巻』をゆっくり見たくて、日曜の朝イチに入館しようと計画を立てていた。ところが家を出るのが遅れて、到着したのは開館の10分後くらい。展示室内が見るからに混雑していたので、あっマズい!と思った。ところが、人混みを突っ切って先に進むと、奥はまだ人がいない。みんな、冒頭の若冲と江戸絵画で滞留しているのだ。私のお目当て『伴大納言絵巻』は、第...伴大納言絵巻上巻を見る/物、ものを呼ぶ(出光美術館)
お伊勢参り旅行最終日、地元の友人が朝から車を出してくれることになって、三人で松浦武四郎記念館へ。東京を発つ前にいろいろ調べたのだが、公共交通によるアクセスがかなり限られる立地で、今回はあきらめようと思っていたところ、念願が叶ってうれしい。稲穂の揺れる田園風景をドライブして無事到着。■松浦武四郎記念館企画展『武四郎の晩年』(2024年7月26日~9月29日)「北海道の名付け親」として知られる松浦武四郎(1818-1888)は伊勢国一志郡須川村(現・松阪市小野江町)生まれ。同館は、松阪市(旧三雲町)が、松浦武四郎の功績を偲び、松浦家で代々大切に保存され、寄贈を受けた武四郎ゆかりの資料を展示する博物館として1994年に開館したもので、今年が開館30周年になる。2022年にリニューアルされたこともあり、映像やビジ...お伊勢参り2024:松浦武四郎記念館
お伊勢参り2日目は久居駅で友人2人と落ち合って伊勢市に向かうはずだったが、友人たちは改札で待っていたのに、私は先にホームに降りており、ひとりで予定の列車に乗ってしまうというアクシデント。それでもなんとか外宮の入口で落ち合うことができた。■式年遷宮記念せんぐう館朝からすでに暑いので、下宮の入口にある展示館で少し涼んでいくことにする。伊勢神宮の歴史、特に式年遷宮と御装束神宝の調製にかかる技術を紹介する展示館。下宮正殿東側の原寸大模型が見どころで、実際には近づけない距離から細部を観察することができる。欄干に「五色の座玉(すえたま)」が置かれていることを初めて知った。調べたら、伊勢神宮と丹後の籠神社(このじんじゃ)にしかないそうだ。「伊勢神宮のふるさと」とも呼ばれる籠神社、成相寺に行ったときに寄ったことがあるかも...お伊勢参り2024:外宮、下宮界隈
三連休はお伊勢参り旅行へ。初日は夕方、友人たちと落ち合う間ではひとりで観光。名古屋から近鉄週末フリーパスを使って松阪へ向かった。駅に下りると「ベルタウン」という不思議なかたちの商業施設が目についたが、人影は少なかった。観光ルートをたどって、松阪城跡にある本居宣長記念館へ。■本居宣長記念館令和6年秋の企画展『もののあはれを知る~宣長とひもとく「源氏物語」~』(2024年9月10日~12月8日)今年の大河ドラマにちなんだ『源氏物語』がテーマとは言いながら、展示品はほぼ文献資料で、華やかな絵画や服飾資料はないので、辛気臭いだろうなあと思ったが、意外と面白かった。『源氏』を読むには一語一語の意味を正しく理解すべき、というような提言があって、古典研究の基本的な方法論は、この頃から変わっていない気がした。読みたい本を...お伊勢参り2024:本居宣長記念館、石水博物館
三連休を使って、友人と二人で、三重県に住んでいる元の同僚に会いに行った。初日は夕方、久居駅で落ち合って、藤ヶ丘食堂へ。とり焼・とり鍋・から揚げのお店。地元の家族連れが次々にやってきて、焼き網のセットされたテーブルで、さっと食べて帰っていく。家庭料理の延長みたいな素朴な美味しさで大満足。2日目は3人でお伊勢参り。外宮、内宮を参拝した。お昼は伊勢市駅近くのまめやさんで、伊勢めひびうどんをいただいた。伊勢地方では、刻みめかぶをめひびというのだな。伊勢うどんは、さすが本格派。私は東京人だが、たまに食べたくなるのである。内宮参道の赤福本店でひとやすみして赤福をいただく。赤福氷も期待していたのだが、大混雑・大行列を見てあきらめた。今回は、久居グリーンホテルに2泊。「お茶漬け朝食」が売りで、初日は松阪牛入りしぐれ茶漬け...お伊勢参り2024お酒と食べたもの
〇ぴあMooK『東京の喫茶めし』ぴあ2024.8東京の喫茶の名店と名物メニュー、スパゲッティ、サンドイッチ、カレー、オムライス&オムソバ、モーニング、さらにスイーツは、パフェ、ホットケーキ、プリンアラモード、あんこ、コーヒーゼリー、クリームソーダなどを紹介する。全体にマホガニー色(深みのある赤)を基調とした写真ページが多いのは、取り上げられているお店の内装トーンがそうなのだろう。若い頃から喫茶店に行く習慣はほとんどなかった。大人になると、チェ-ン店のカフェが急速に普及してきたので、安いし入りやすいし、時間のかからないチェーン店ばかり利用していた。それが最近になって、その店にしかないメニューと雰囲気を求めて、レトロな喫茶店を訪ね歩く楽しさがだんだん分かってきた。と言っても、本書掲載のお店で、私が実際に訪ねた...おいしい町歩き/東京の喫茶めし(ぴあMooK)
〇泉屋博古館特別展『昭和モダ-ンモザイクのいろどり板谷梅樹の世界』(2024年8月31日~9月29日)昭和のモザイク、特に興味ないなあ…と思っていたが、本展が取り上げるモザイク作家・板谷梅樹(いたやうめき、1907-1963)が、陶芸家・板谷波山(いたやはざん、1872-1963)の息子であるという情報をネットで見て、興味が湧いて、見て来た。エントランスホールに展示されていたのは、縦長の巨大なモザイク壁画。遠景には三角形に立ちあがった富士山、雲海と山並み・森林を挟んで、清流が手前に向かって流れている。近代水道発祥の地・横浜市の依頼で制作され、日展に出品されたのち、横浜市水道局に納められた『三井用水(みいようすい)取入所風景』(1954年)という作品である。その後、1987年に近代水道100周年を記念して開...陶芸家の息子/昭和モダ-ンモザイクのいろどり(泉屋博古館)
〇宇野重規;聞き手・若林恵『実験の民主主義:トクヴィルの思想からデジタル、ファンダムへ』(中公新書)中央公論新社2023.10宇野先生の著書は『〈私〉時代のデモクラシー』『民主主義とは何か』などを読んできたので、だいたいどのような内容が展開するか、想像ができた。本書は、まず19世紀の大転換期を生きたフランスの貴族トクヴィルが、1831年にアメリカに旅行し、まさに民主主義がゼロから作られていく様子を目にして考えたことの検証から始まる。旧著『民主主義とは何か』でも紹介されていた論点である。トクヴィルは「平等化」という概念を手がかりに19世紀の世界を覆うことになる趨勢を読み解こうとした。平等化は必然的に個人主義をもたらし、人々は孤立化する。そこで社会を解体から救う、もう一つのベクトルが「結社=アソシエーション」...ファンダムの可能性/実験の民主主義(宇野重規)
〇國學院大學博物館企画展『神輿-つながる人と人-』(2024年6月29日~9月16日)国学院大学が所蔵する祭礼を描いた屏風、絵巻、刷り物などから「神輿とは何か?」を紐解き、さらに「祭りの力」についても考える。絵画資料が多くて、視覚的におもしろかった。展示パネルによれば、神輿が歴史の舞台に登場するのは、天慶8年(945)志陀羅神などの神輿が摂津の国から移動したときのことだという。図録の解説はもう少し詳しくて、『続日本紀』によれば、天平勝宝元年(749)宇佐八幡宮の八幡神は東大寺の大仏建立を助けたいとの託宣を下し、約1ヶ月かけて平城京へ上京したが、神輿を使用したかどうかは明確でない。神輿の明確は記事は、『本朝世紀』天慶8年(945)7月28日の条になる。はじめは志陀羅神など3基の神輿と記されていたものが、自在...神さまの乗りもの/神輿(國學院大學博物館)
〇深川江戸資料館(江東区白河)門前仲町の住民になって8年目、ようやくご近所・深川江戸資料館を見てきた(コロナ禍でなかなか機会がなかったのだ)。こじんまりした施設ではあるけれど、天保年間頃の深川佐賀町の町並みの「情景再現、生活再現展示」が見どころである。私が展示場に入ったときは夜の設定で、夜空に月が浮かんでいた。舂米屋の土蔵の隣り、長屋の屋根でぶち猫が眠っている。その下は三味線のお師匠さんの住まいという設定。八百屋の店先。青物だけでなく、卵やコンニャクも商う。棒手振りの住まい。深川らしく、桶の中には貝がゴロゴロ。私は子供の頃、夏休みになると、深川森下町の従兄弟の家(母親の実家)に泊まりにいくのが楽しみだったが、昭和40年代でも、朝早くアサリ売りが町を歩いていた。「ア~サリ~シ~ジミ~」という売り声を覚えてい...深川江戸資料館を訪ねる
〇弥生美術館開館40周年生誕祭!『大正ロマン・昭和モダンのカリスマ絵師高畠華宵が伝えてくれたこと』(2024年7月6日~9月22日)1階展示室では、大正末から昭和初期にかけ、絶大な人気を誇ったイラストレーター・高畠華宵(1888-1966)の作品を展示。私はさすがに華宵の人気をリアルに知る世代ではないのだが、2015年の『橘小夢展』を見に行ったとき、常設エリアの華宵に関する展示があまりに面白かったので松本品子編『高畠華宵』を買って帰り、ますますその魅力に引き込まれてしまった。華宵の描く少年・少女は、いずれも訴えるような三白眼が印象的で、現実離れした美形だが、肉体が生々しい実感を持っている。女性は、意外とむっちりした肉付きが魅力的。このイラストは手塚治虫の『リボンの騎士』に影響を与えているんじゃないかと思っ...理想の推し活/高畠華宵が伝えてくれたこと(弥生美術館)
■全生庵『谷中圓朝まつり幽霊画展』(2024年8月1日~8月31日)昨年は猛暑の盛りに出かけて消耗したので、今年はどうしようかと様子を見ていた。会期の最終日、じりじり近づく台風10号を控えて、東京は曇り空だったので、思い切って出かけてみたら、若い女性のグループをはじめ、ずいぶんお客さんが多かった。展示作品は、昨年と同じものもあれば、入れ替わっているものもある。鏑木清方の『幽霊図』は茶托に載った蓋つきの茶碗を差し出す女性。俯いているので髪型しか見えない。白い着物の袖口から淡いピンクの襦袢(?)が覗いている。この「顔を見せない女の幽霊」シリーズが私は大好き。渡辺省亭『幽女図』は、煙の立つ火鉢の向こうで背けた顔に袖を当てている。池田綾岡『皿屋敷』は、菊を描いた襖の陰に座って、袖で顔を隠す女性。そばには行灯。この...夏はお化けと幽霊画/2024幽霊画展(全生庵)他
〇キム・ソンス監督『ソウルの春』(角川シネマ有楽町)話題の韓国映画を見てきた。1979年12月12日、全斗煥と同志の秘密組織ハナ会グループが、粛軍クーデター(12.12軍事反乱)によって政権を掌握する顚末を描く(登場人物の名前は微妙に変えてある)。チョン・ドゥグァン少将(全斗煥)は、10月に起きた朴正煕暗殺事件の捜査本部長として強大な権力を手中にしたが、陸軍参謀総長はこれを警戒し、信頼のおけるイ・テシン少将を首都警備司令官に任命するともに、ドゥグァンを首都ソウルから遠ざける人事を計画する。危機感を抱いたドゥグァンは、参謀総長の罪をでっちあげて部下に拉致させ、同時に大統領から参謀総長取り調べの承認を得ようとしたが、大統領は疑念を抱いて認可を与えない。進退きわまったドゥグァンは、大統領の指令を無視し、実力行使...娯楽作で学ぶ現代史/映画・ソウルの春
〇アーティゾン美術館『空間と作品』(2024年7月27日~10月14日)おもしろい展覧会だという噂は聞いていたが、これほどとは思わなかった。「美術品が在ったその時々の場を想像し、体感してみること」をテーマに、和洋(+中華?)の絵画・立体作品140点余りのさまざまな鑑賞方法を提案する。はじめに「祈りの対象」では広々とした展示室に置かれた2体の円空仏。「依頼主と」はピサロの『四季』連作4点。何の変哲もない農村の四季風景なんだけど、とてもよかった。ある銀行家がダイニングルームに飾るために発注したそうだが、毎日見るならこういう穏やかな絵がよいね。「持ち主の存在」は、同館のコレクションの中でも有名なピカソの『腕を組んですわるサルタンバンク』で、かつてピアニストのホロヴィッツが所蔵していたという。本展は、このあとも旧...東西の名品を愛でる/空間と作品(アーティゾン美術館)
〇神奈川県立歴史博物館特別展『足柄の仏像』(2023年10月7日~11月26日)足柄地域(神奈川県西部、西湘)に伝わる、国指定重要文化財の彫刻3件4躯、県指定重要文化財の彫刻13件28躯を含む約80件の仏像・神像・肖像彫刻・仮面を一堂に公開する特別展。なかなか拝観に行けない仏像・神像を実見できる貴重な機会なので、さっそく見てきた。同館が、神奈川県の彫刻を地域別に紹介する展示としては、2020年の「相模川流域のみほとけ」に続くものだという。前回も「相模川流域」と言われてピンと来なかったように、実は今回も「足柄地域」がよく分からなくて、会場の半分くらい進んだところで地図を見つけて、小田原市・南足柄市・中井町・大井町・松田町・山北町・開成町・箱根町・真鶴町・湯河原町の2市8町にわたる地域であることを確認した。「...多彩な個性/足柄の仏像(神奈川県立歴博)
○CarnivalonIce(カーニバル・オン・アイス)2023(2023年10月7日、18:30~、さいたまスーパーアリーナ)今年の三連休は遠出の予定がなかったので、直前に流れてきた広告を見て、衝動的にチケットを取ってしまった。COIは何度か見に来たことがあると思って記録を探ったら、2010年、2011年、2015年に観戦していた。8年ぶりか~さいたまアリーナへのアクセスもすっかり忘れていた。出演者は、宇野昌磨、島田高志郎、友野一希、坂本花織、宮原知子、吉田陽菜、りくりゅう(三浦璃来&木原龍一)、吉田唄菜&森田真沙也、イリア・マリニン、ジェイソン・ブラウン、ケヴィン・エイモズ、モリス・クヴィテラシヴィリ、イザボー・レヴィト、マライア・ベル、ルナ・ヘンドリックス、キミー・レポンド、パパシゼ(パパダキス&シ...アイスショー"CarnivalonIce2023"
〇丸善・丸の内本店4階ギャラリー第35回慶應義塾図書館貴重書展示会『へびをかぶったお姫さま-奈良絵本・絵巻の中の異類・異形』(2023年10月4日~10月10日)毎年この時期のお楽しみになっている慶応大学図書館の貴重書展示会。この数年は、漢籍とか国学とか、わりと堅いテーマが続いたように思うが、今年は目に楽しい奈良絵本・絵巻が取り上げられていた。奈良絵本・絵巻とは、室町時代後期から江戸時代中期にかけて制作された、豪華な手作り・手彩色の絵本や絵巻のこと。擬人化された動物や鳥、虫、さらには鬼や天狗など異形のものたちも登場する。本展示では、これらのおもしろい絵を数多く公開するとともに、これらの作品が、いつ、誰によって、どのように制作されたかを明らかにする。図録に付属する「慶應義塾図書館所蔵奈良絵本・絵巻リスト」に...作家と版元/へびをかぶったお姫さま(丸善ギャラリー)
〇『塵封十三載』全24集(愛奇藝、2023年)「当たり年」の感のある今年のドラマの中でも、比較的高い評価を得ていると聞いていたので、見てみた。若い女性を狙った猟奇連続殺人を題材にした犯罪ミステリードラマである。2010年のある日、南都市の家具展示場で、奇妙なポーズをつけられた若い女性の全裸遺体が発見される。現場にはHBの鉛筆が残されていた。捜査に当たった刑事の陸行知は、13年前の1997年、警察に就職した最初の日に出会った事件を思い出す。老街のうらぶれた写真館で、やはり奇妙なポーズの女性の遺体が発見され、そこにもHB鉛筆が残されていた。ここからドラマは、1997年と2010年の2つの時間軸で動き始める。1997年の若き陸行知は、ベテラン刑事の老衛(衛峥嵘)ともに捜査に当たるが、すぐに第二の事件が起きる。第...奇妙な連続殺人/中華ドラマ『塵封十三載』
〇シーラン・ジェイ・ジャオ;中原尚哉訳『鋼鉄紅女』(ハヤカワ文庫)早川書房2023.5人類の遠い未来の物語。華夏の人々は長城の中で暮らしていた。長城の外に広がる荒野からは、しばしば渾沌の群れが攻め寄せてきた。迎え撃つ人類解放軍の主力は霊蛹機。7、8階建てのビルほどもある巨大な戦闘機械である。パイロットは座席にしこまれた鍼を通じて気を送り込み、機体を操縦する。ただしひとりで操縦することはできない。陽座に座る男性パイロットとともに、陰座に座る妾女パイロットが必要である。しかし妾女パイロットは、男性パイロットに気を吸い上げられて、一度の出撃で命を落とすことが常だった。辺境の村娘・武則天の姉も、九尾狐のパイロット・楊広の妾女パイロットとなって死んでしまった。主人公の「あたし」=武則天は、姉の仇をとるため、妾女パイ...我が名は武則天/鋼鉄紅女(シーラン・ジェイ・ジャオ)
長かった猛暑の夏がようやく終わろうとしている。これは9月の終わりに食べた、いつもの深川伊勢屋の氷いちごソフト。これは10月の初めのキバナコスモス。通勤路の横断歩道の脇に咲いている。もう6年目の通勤路なのだが、以前からあったかしら?最近、誰かが種を蒔いたのかもしれない。2023夏から秋へ
〇佐藤冬樹『関東大震災と民衆犯罪:立件された114件の記録から』(筑摩選書)筑摩書房2023.8私は人生の大半を東京で過ごしてきたので、関東大震災は、昔のできごとではあるけれど、具体的な被災地の地名にはなじみがあって、子供の頃から比較的身近な歴史だと思ってきた。しかし天災とは別の悲惨な事件について、詳しく知るようになったのは、ずっと大人になってから、たぶん2000年以降ではないかと思う。本書「はじめに」によれば、自警団を結成した人々は、多くの朝鮮人、中国人を殺し、時には日本人をも巻き添えにした。検察は114件を立件し、640人が起訴され、ほとんどが有罪になった。「ふつうの住民が400人以上を殺害した、近代日本史上類例のない刑事事件であった」が、犯人すべてが検挙されたわけではなく、「検挙されずに済んだ者とそ...自警団の実像/関東大震災と民衆犯罪(佐藤冬樹)
〇『蓮花楼』全40集+番外編(愛奇藝、2023年)この夏、中国では大ヒットしたドラマだが、「美男三人武侠サスペンス」と聞いて、私の趣味ではないかもしれないと思ったのだが、見てみたら、けっこうハマった。時代は架空の王朝「大煕」の設定。武芸の天才・李相夷は20歳にして正派の武門・四顧門の門主となった。しかし邪派・金鴛盟の盟主・笛飛声は、李相夷の師兄・単孤刀を殺害し、李相夷に決戦を挑んできた。李相夷と笛飛声は嵐の海で激闘を繰り広げ、相討ちとなって姿を消した。そして10年後、「神医」李蓮花が世間に現れる。彼は四頭立ての馬に引かせた移動式住宅「蓮花楼」で愛犬・狐狸精とともに気ままな旅暮らしをしていた。李蓮花の正体は李相夷、「東海一戦」の直前、何者かに「碧茶」の毒を盛られたが、無了和尚に救われ、李蓮花として生きること...友情、努力、勝利とその後/中華ドラマ『蓮花楼』
■神戸市立小磯記念美術館夏休み特別展・漫画家生活60周年記念『青池保子Contrail航跡のかがやき』(2023年7月15日~9月24日)9月の関西旅行、最終日は神戸に足を伸ばして、青池保子先生の回顧展を見て来た。なぜ神戸で?と思ったが、青池先生は山口県下関市出身なので、故郷に近いといえば近い。それと中世の航海や帆船にゆかりの物語を描いているという点が、港町・神戸にふさわしいと言えなくもない。デビュー作「さよならナネット」から少女漫画界に衝撃を与えた「イブの息子たち」、大人気作「エロイカより愛をこめて」、中世3部作「アルカサル-王城-」「修道士ファルコ」「ケルン市警オド」まで、緻密なカラー原画とモノクロ原画を300点以上、8章構成で紹介し、60周年の仕事を記念する最大規模の展覧会という謳い文句は伊達ではな...2023年9月関西旅行:青池保子展(小磯記念美術館)、高島屋史料館
■龍谷ミュージアム秋季特別展『みちのくいとしい仏たち』(2023年9月16日~11月19日)小さなお堂や祠、民家の仏壇や神棚などには、その土地の大工さんやお坊さんたちの手による、素朴でユニークな仏像・神像がまつられ、人々に大切に護られてきた。本展は、青森・岩手・秋田の3県に伝わった約130点の仏像・神像を展示し、みちのくの厳しい風土の中、人々の暮らしにそっと寄り添ってきた、やさしく、いとしい仏たちの、魅力あふれる造形を紹介する。展示の主要部分は江戸時代の民間仏だが、古代から中世に作られた仏像・神像も複数来ている。岩手・天台寺の如来立像(平安時代)は、頭髪や衣紋の表現を省略しているが、かなり頑張った仏像らしい姿。膝を揃えて座り、両手を胸の前で交差させた尼藍婆像・毘藍婆像(平安時代)は複製が来ていた。「花巻市...2023年9月関西旅行:みちのくのいとしい仏たち(龍谷)、京都水族館
■京都国立博物館特集展示『日中書の名品』(2023年8月8日~9月18日)+常設展示三連休2日目は京博から。楽しかったのは『異国の仏教説話』(2023年8月22日~9月18日)で『羅什三蔵絵伝』『華厳宗祖師絵伝・義湘絵』『真如堂縁起』の3件が出ていた。『羅什三蔵絵伝』は鳩摩羅什の物語。料紙の大きさに比べて人物が小さいが、胡粉や金彩が美しく、やわらかな印象。持ち帰った経典の翻訳に励む長安の寺院、写経用の紙(絹?)を洗濯ものみたいに干す人々が描かれていて面白かった。『華厳宗祖師絵伝』は、ほぼ全面的に開いていて、冒頭ではめそめそ泣いている善妙が、仏具の箱とともに海に身を投じると、巨大な龍が立ち現れる、この変化の迫力がよく分かった。龍に守られる船中の義湘は、きょとんとした表情である。あと、冒頭の街中の犬の親子がか...2023年9月関西旅行:常設展(京博)、若冲と応挙(承天閣美術館)
〇大和文華館特別企画展『文人サークルへようこそ-淇園・鶴亭・蕪村たちがお出迎え-』(2023年8月18日~9月24日)中国の明・清時代に隆盛した文人文化の影響を受け、日本にも誕生した文人サークルを紹介し、交流が育んだ清新な絵画作品を展示する。はじめに元祖ともいうべき明清の文人画。陸治、徐枋、高其佩など。中国の文人とは、身分的には高級官僚であり、治国・修身のための幅広い知識を持ち、詩書画に優れることが理想とされた。彼らの作品は、第一に刊行された画譜によって、第二に黄檗宗の僧侶たちを介して、17~18世紀の日本に流入した。入口の単立の展示ケースには、安徽省太平府の地理書の景観図を抜粋した3つの「太平山水図」が並んでいた。清刊本(紙本墨刷)『太平山水図集』の細密な描写は、中国の版画もなかなかやると思わせる。これ...2023年9月関西旅行:文人サークルへようこそ(大和文華館)
〇MIHOミュージアム2023年秋季特別展『金峯山の遺宝と神仏』(2023年9月16日~12月10日)三連休は欲張って、滋賀・奈良・京都・大阪・神戸を周遊してきた。いかに安価に効率的にまわるかを考えた結果、初日は京都から石山に出て、いつもの路線パスで同館へ。本展は、古代より修験道の聖域とされてきた奈良県吉野の金峯山を参詣した平安貴族の「御嶽詣」に伴う金峯山経塚の出土品を一堂に展示し、平安貴族の金峯山への信仰と憧憬の一端を紹介する。冒頭には、銅製の多様な出土品の数々。東博所蔵の『錫杖頭』や奈良博所蔵の『三鈷杵』はどこかで見たことがある気がした。小さな小さな『菩薩手』(唐時代)は大峯山寺の所蔵。水瓶を握った手首から先だけが展示ケースの中に浮いているように見えた。同じ室内には風雪に耐えてきた木像もいくつか展示さ...2023年9月関西旅行:金峯山の遺宝と神仏(MIHOミュージアム)
〇濱口桂一郎『家政婦の歴史』(文春新書)文藝春秋2023.7『働く女子の運命』や『ジョブ型雇用社会とは何か』の濱口さんの著作なので、きっと面白いだろうと思って手に取った。ありそうでなかったテーマで、初めて知ることが多かった。かつて(近代初期)中流以上の多くの家庭には女中さんがいた。いや実際には知らないけれど、明治や大正の文学を読んでいると、当たり前に出てくる。女中と呼ばれる存在の直接の先祖は江戸の奉公人としての下女であるというのも納得。それとは別に、1918(大正7)年に大和俊子(おおわとしこ)という女性が始めたのが「派出婦会」である。派出婦会は、家庭で臨時に人手が必要になったとき、女中代わりの女性労働者を供給(=派出=派遣)するビジネスだった。この派出婦という言葉は、私は「サザエさん」とか「いじわるばあ...忘れられた労働者/家政婦の歴史(濱口桂一郎)
〇福山嵩郎編集;塩川いづみイラスト『文楽名鑑2023』人形浄瑠璃文楽座2023.8いま個人的に大注目の1冊。一般社団法人「人形浄瑠璃文楽座」が、全座員86人のプロフィールを掲載した「文楽名鑑」を発行した。「好きな演目は」「初舞台から現在までを振り返って一言」といった真面目な質問があれば、「カラオケの十八番は」「好きな動物は」「モテ期はいつ?」なども。約70項目のアンケートから、それぞれの個性がにじむ、えりすぐりの回答が掲載されている。私は文楽を楽しむようになって、すでに40年近くになるけれど、座員のみなさんについて知っていることは、毎回の公演プログラムに掲載されている「文楽技芸員の紹介」ページの白黒写真と芸名がほぼ全てである。実は年齢(年代)もよく存じ上げなかったので、本書を見て、え!この方、もう80代(...初めて知る素顔/文楽名鑑2023(人形浄瑠璃文楽座)
〇泉屋博古館東京企画展『楽しい隠遁生活-文人たちのマインドフルネス』(2023年9月2日~10月15日)理想の隠遁空間をイメージした山水・風景や、彼らが慕った中国の隠者達の姿を描いた絵画作品、細緻な文房具などを通して、中国の士大夫や日本の文人たちの多様な隠遁スタイルを提示する。登場する著名人は、孔子、許由、達磨、諸葛孔明、陶淵明、竹林の七賢、日本でが西行、芭蕉、鴨長明など。日本人が中国の理想の隠遁者を描いた作品も多くて、橋本雅邦の『許由図』(木の枝に掛けた瓢が風に吹かれる音がうるさいので捨ててしまったところ)はカッコよくて惚れ惚れした。森寛斎の『陶淵明象』もなかなかの「イケオジ」で、中国ドラマの俳優さんを当てるなら誰だろう?と考えたりした。石渓という画家は記憶になかったが、『面壁達磨図巻』は(たぶん京都の...絵画の中のイケオジたち/楽しい隠遁生活(泉屋博古館東京)
〇平体由美『病が分断するアメリカ:公衆衛生と「自由」のジレンマ』(ちくま新書)筑摩書房2023.8新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行によって、アメリカは多くの死者を出した。本書は、アメリカの公衆衛生が抱えるジレンマを歴史的経緯を踏まえてひもとく。公衆衛生とは、地域やコミュニティを病から防衛し、住民の健康を維持するための公共的な取り組みをいう。個人よりも集団を対象とし、病を発症した人の治療よりも、病の拡散を防ぎ、健康な人を病に罹患させない対策に重点がある。そのため医療とは異なる仕組みが必要で、病院よりも政府と行政が大きな役割を担っている。公衆衛生の三要素は「数を数え分析すること」「健康教育を行うこと」「行動制限を行うこと」だという。三要素にはそれぞれの困難がある。さてアメリカは「自由の国」と...自分たちで決める/病が分断するアメリカ(平体由美)
半蔵門の国立劇場が、老朽化に伴う建て替え工事のため、2023年10月で「閉場」することになった。いまの劇場は1966年11月に開場したものだという。私が初めて国立劇場に入ったのは、高校生のときだ。高校1年生のときに歌舞伎教室で『俊寛』を見て、高校2年生のときに文楽教室で『伊賀越道中双六』を見た。歌舞伎はわりあい面白かったが、文楽は全く面白くなくて、実はずっと演目を忘れていた。馬が出てきた記憶だけはあり、塩原太助もの?などと思っていたが、文化デジタルライブラリーの「公演記録を調べる」で検索したら、どうやら『伊賀越道中双六』らしい。高校生には地味すぎて退屈だった。しかし、大学院生時代に「文楽を見たい」という留学生に付き合って『近江源氏先陣館』を見たら面白くて、文楽ファンになってしまった。以後、ちょっと観劇を離...初代国立劇場の思い出
〇国立劇場人形浄瑠璃文楽令和5年8・9月公演第2部(2023年9月2日、15:00~)建て替えに伴う「初代国立劇場さよなら特別公演」。2022年の9月公演からこのカンムリが付いていたので、慌てて見に行ったら、休館はまだ先と分かって拍子抜けしたが、いよいよ文楽は、今期が本当の「さよなら公演」になるはずである。演目は、第1部と第2部が『菅原』の通し。第3部が人気の『曽根崎心中』。私は『寿式三番叟』のおまけつきの第2部を選んだが、これがとんでもなく贅沢なおまけだった。・『寿式三番叟(ことぶきしきさんばそう)』私の席は下手の端で、床(ゆか)から遠かったが、開演前、ずらり並んだ三味線の数で、これが「特別公演」であることが感じられた。プログラムの記載に従えば、鶴澤燕三、鶴澤藤蔵、野澤勝平、鶴澤清志郎、野澤錦吾、鶴澤燕...(たぶん)さよなら初代国立劇場/文楽・寿式三番叟、菅原伝授手習鑑
〇全生庵『谷中圓朝まつり幽霊画展』(2023年8月1日~8月31日)谷中の全生庵で、毎年8月に開催される幽霊画展に行ってきた。以前、一度来たことがあることは記憶に残っていたが、いま調べたら2016年の夏だった。そのときも暑かったのだろうが、今年の暑さは格別で、千駄木の駅から5分歩く間に身体の水分が干上がりそうだった。本堂の石段の裏から入って、2階に上がる。展示室は、旧式の冷房がガンガンに効いていて涼しかった。個性的な幽霊画が多数並ぶが、伊藤晴雨の『怪談乳房榎』は、鬼気迫る、身の毛もよだつ恐ろしさ。滝壺の中で、髪を振り乱し、赤子を抱いてあらわれた幽霊。これ、男性なのだな。調べたら、妻を寝散られ、子どもを殺されかけた菱川重信という絵師だという。こわいこわい。女性にも、こういう凄まじい幽霊があったかもしれないが...お盆満喫・うらめしや/2023幽霊画展(全生庵)