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  • 紅梅

    『透析を止めた日』 堀川 恵子著 堀川さんの本はこれまでにも何冊か読んで、その都度深い感銘を受けた。どのテーマに取り組む姿勢もあまりに真摯で、生半可な気持ちで読むこともできずに、あえて読んでいないのもある。 そして、この本も実に重い内容であった。ことに前半は著者自身と最愛の人の身に関することでもあり、緊迫した闘病記は、目頭を熱くしないでは読めなかった。 それは、長い期間人工透析を続けた人がどんな最期を迎えるかという話だ。腎不全の患者にとって人工透析は一生続けねばならない苦行である。止めれば、即、死であるからどんなことがあっても続けねばならない。身体が弱り、透析に通えなくなったらどうするか。入院…

  • 猫の恋

    手提げ袋を編む 今月の初め、雨がちで寒かった日々に無聊で編み始めたモチーフが、やっと手提げ袋になった。時々読書にも倦むと無性に何か作りたくなるのだ。これは15年も前の『暮しの手帳』に出ていたもので、思い出して古い本を出してきた。ちょどよい残り糸があったので、まずまずかと自画自賛。本当はベストが編みかけなのだが、どうも気にいらなくて放り出してある。来年のことをいうと鬼が笑うというが、元気なら解いてしまって、また編み直そうと思う。 すくみ合ひ唸る二匹や猫の恋 畑の向こうで、ながながと唸り合っているので、そっと見にいった。亡くなったトラックさんのところののらと前々からののらである。どうやらオス同士の…

  • 涅槃図

    滋賀へ 愛用する甲津原の味噌が残り少なくなったので味噌買いに滋賀まで出かける。いつも買っているのは米原の湖岸道路沿いの道の駅「近江母の郷」なので、どうせならと米原のお寺に寄る。 蓮華寺 勅使門 花園天皇時に許されたという菊のご紋を掲げる。 本堂 まだ雪が残る。それでも今年は少ない方という。 重文の梵鐘 米原インターを下りてすぐ、旧中山道の番場宿にあるお寺である。ここが有名なのは、鎌倉幕府の滅亡時、都落ちする北条仲時以下432人の自刃の地ということによる。境内奥の山際に累々たる石塔が並ぶ。432名とはとてつもない人数で、当時寺内を流れる小川は血の川になったという。 432人の墓の一部 寺内をぐる…

  • 風光る

    『西洋の敗北』 エマニュエル・トッド著 大野舞訳 話題のベストセラーである。図書館での予約が三十人待ちで、散々迷って購入した。 「『いま何が起きているのか』この一冊でわかる」とある。戦争の行く末もさりながら、あのとんでもない大統領を誕生させたアメリカの今を知りたい、その気持ちが大きい。 400ページもあり、苦労しながら読んだのは、まだ三分の一ほど。第一章「ロシアの安定」を読み、間を飛ばして第8章から10章までアメリカに関する章を読んだ。 今回の戦争で経済制裁を受けているはずのロシアは、安定しているという。戦争特需で景気はよく、プーチンへの支持も高い(クローズアップ現代)。最も、直近のニュースで…

  • 春めく

    『読鉄全書』 池内 紀・松本 典久編 世の中のご同輩は、老いのつれづれを如何お過ごしならんと、つくづく思う今日この頃。何にもしないまま時間はとぶように過ぎていき、ブログも、すでに一週間もご無沙汰していたと気づく。 無聊を慰めるには本を読むしかないので、読んではいるのだが、なかなか読了には至らぬ厚さ。たまたま県図書館の書架で見つけた。全部で41編。池内さんのまえがきによれば、「室内七里靴」とや、「ゆるりと足を運ぶだけで、まわりの景色がクルクルと変わっていく。」はず。 鉄道旅を楽しむ話あり、鉄道に関する薀蓄披露あり、フィクションあり、体験談あり。鉄道好きといえば当然だが、内田百閒、関川夏央、宮脇俊…

  • 受験期

    『ららら星のかなた』 谷川俊太郎・伊藤比呂美対談集 対談集が好きという人もいるが、私はあまり好きではない。だが、これは面白かった。借りてきてざっと読んで、メモをしながらまた読み直したほどだ。 婦人公論のウエブサイトで比呂美さんのエッセイ「谷川さんさようなら」を読んだ時、これはと思って借りてきた。 アマゾンの読者レビューで、伊藤比呂美が喋りすぎというのがあったが、大大先輩の谷川さん相手に、ここまで喋れるのも比呂美さんならではか。出自コンプレックスや家族の秘密をあからさまにしてまでのストレートな問いかけに、谷川さんも本音で語らざるを得ない面白さ。 比呂美さんに迫られて、「自分は傲慢だ。」「基本的に…

  • 冴返る

    映画『枯れ葉』を観る フィンランド・ドイツ合作・2023年製作。 フィンランドの名匠アキ・カウリスマキ監督作品。 アンナとホラッパは最下層の労働者。アンナは理不尽な濡れ衣でスーパーの仕事を首になり、小銭を叩いてネットカフェのパソコンで仕事を探す現実。ひとり暮らしの部屋にはラジオしかなく、そのラジオは、いつもロシアの侵攻で被害を受けているウクライナのニュースを流している。フィンランドはロシアと国境を接し、過去にも侵略の歴史があるのだが、アンナの興味はなさそうだ。 ホラッパは肉体労働者。仕事場のコンテナ暮らしで、楽しみといえば飲酒。仕事中もやめられず、アルコール中毒と思える。案の定仕事中の飲酒がバ…

  • 鳥雲に

    『大聖堂』 レイモンド・カーヴァー著 村上春樹訳 レイモンド・カーヴァーは、既に亡くなったが、アメリカ現代作家である。Tの話では、村上春樹訳も相まって、日本でも人気らしい。先に読んだ頭木さんの本で知って、借りてきた。 なるほど、いい。短編集だが、凝縮されたストーリー展開だ。短いセンテンスで畳みかけるような文体も秀逸で、これは訳者の手柄なのかもしれぬ。 一番心を動かされたのは「ささやかだけど、役にたつこと」で、これは頭木さんも取り上げていた作品で、訳者もあとがきで「レイモンド・カーヴァーの残したマスターピースとして衆目の一致する作品」だと書いている。 70年代と思われる背景、登場人物は労働者階級…

  • 桜餅

    『養老先生、がんになる』 養老孟司 中川恵一著 養老先生の書籍や業績などについて詳しいわけではない。「まる」ちゃんつながりでテレビなどで拝見している程度である。4年ほど前、心筋梗塞になられた経緯を著書『養老先生、病院へ行く』で読んだ。重症化する前の発見で、その後お元気になられ、またテレビでお顔を見ていただけに、今回の発症が「がん」とは大いに気になった。 結論的にいえば、今回も早期発見でとても幸運だったらしい。病名は肺がん、それも小細胞肺がんといって肺がんの中でも転移しやすい厄介なものだったようだが、転移はなく、抗癌剤治療の副作用も珍しいほど楽だったようだ。 病院嫌いを自認されていた養老さんだが…

  • 春の雪

    『口の立つやつが勝つってことでいいのか』 頭木 弘樹著 筆者にとって待望のエッセイ集だとある。書きながら考えを確かめていくような、訥々とした書きぶりである。 著者の本は二冊目で、以前読んだのは『食べることと出すこと』という闘病記であった。こちらも闘病中だったので、比べものにならぬ難病で大変だなあと思った記憶がある。幸いにも今はかなりよくなられて、ささみと半熟卵、豆腐と裏ごしした野菜だけから、何でも食べられるようになったとあった。 よくなられてもそういう苦しみの過去(13年間の)があるわけで、考えかたの底流には弱い者からの発想と弱いもへの眼差しがある。 「理路整然としゃべることができる人も素敵だ…

  • 春寒し

    映画『高野豆腐店の春』を観る 寒い日は閉じこもって本を読むか、編み物をするか、ネットで映画を観るしかない。このところ編み物熱が冷めていて、前身頃だけ編んでほうりだしてある。(今日の新聞によれば、いま、編み物がブームらしいが) 本は、森浩一さんで、蝦夷についてメモをしながら少しずつ進んでいくといった状態で、興味はあるが、疲れて長続きしない。と、いうわけでU-NEXT で映画を観た。 好んで観たいと思うのは、観終わってほんわりした気分にしてくれる「ヒューマンドラマ」というものだが、その点ではまあ、合格であった。目頭を熱くし、鼻水をすすって観終わったのだから。 尾道で出戻りの娘と豆腐屋を営むトシヨリ…

  • 日脚伸ぶ

    豊橋へ「銅鐸展 銅鐸の国」を見に行く 今冬一番といってもいい寒さなのに物好きである。豊橋市での銅鐸展が会期末だったので、無理を言って連れて行ってもらう。豊橋市は高速で約2時間。静岡県の浜松市の隣で愛知県でも東の端だ。今まで一度しか訪れたことがない。その時も発掘展で、よくよく好きである。昔の発掘展は古い公会堂だったが、今はその隣に斬新な美術博物館ができた。 なんでも三河地方は有数な銅鐸出土地で、今回は伊奈という地域から大型銅鐸が発掘された100年を記念してということらしい。銅鐸は紀元前2世紀から2世紀にかけて作られたが、展覧会には大型化した後期のもの「見る銅鐸」が多数展示されていた。 伊奈から出…

  • 鯛焼

    『バルセロナで豆腐屋になった』 清水 建宇著 前回読み始めたと書いた本である。著者と思われる帯の写真を見て、どこかで見た顔だと思った。久米さんの「ニュースステーション」でコメンテーターをされていたと来歴にあり、納得した。今は10時以降のテレビはすっかりご無沙汰だが、働いていた頃はあの時間が夜食時間だった。 わが家も夫の定年後、諸事情で小さな学習塾を始めて16年間続けたのだが、こちらは「定年後の一身二生」といっても比較にならない大きな転身だ。外国で、それも豆腐屋という未知の職種である。バルセロナというのは冷房も暖房もいらぬうえに年中乾いていて風土も美しく、人情も温かだという。それにしてもである。…

  • 冬桜

    『バルセロナで豆腐屋になった』 清水 建宇著 岩波の新聞広告を見て、久しぶりに自前で買った本。昨日届いたばかりでまだ四分の一ほどしか読んでないが、面白そうだ。サブタイトルに「定年後の『一身二生』奮闘記とある。新聞記者から豆腐屋になったという生き方で、それもバルセロナでだという。今の所は豆腐屋としてのノウハウを身につけるための修業中の話。 バルセロナで豆腐屋になった──定年後の「一身二生」奮闘記 (岩波新書 新赤版 2051)作者:清水 建宇岩波書店Amazon 県知事選で投票に出かけ、その後図書館に寄る。いい天気で市民公園には親子連れがいっぱい。このところずっと冬桜が満開で気になっていた。今日…

  • 冬ぬくし

    映画『お坊さまと鉄砲』を観る この前観た『ブータン 山の学校』のパオ・チョニン・ドルジ監督作品である。NHKの「キャッチ 世界のトップニュース」で、政治学者の藤原帰一さんが紹介されており、ぜひ観たいものだと思っていた。こういう興行ベースにのらないものは、岐阜のような田舎ではなかなか観られないのだが、幸いなことにCINEXという小劇場で上映していたので、家族で出かける。月曜日の朝一番なのに16名ほどが一緒。 話は2006年、先のブータン国王の退位に伴って、国王自ら立憲君主制に移行されようとしたことから始まる。国の方向性と指導者をきめるために選挙を行うことになり、国を挙げて選挙制度の周知徹底が喧伝…

  • 初場所

    『地方消滅 2』 人口戦略会議編著 2014年刊行の『地方消滅』の第2弾である。あれから10年経って、問題はより深刻化したとの認識で始まる。巻末には全国1729自治体が9分類されている。若年女性の人口比率に寄る分類で、網掛けされたのは若年女性(20〜39)の減少率が大きく、出生率向上が望めず、いずれ消滅せざるを得ないという自治体、10年前調査より多少減少したが、今も744自治体が該当する。 人口が減り続けているのはなぜか。国全体で見れば、子どもが生まれなくなったからである。2022年の出生率は1.26。二人の親から二人以上が生まれないと人口はとめどなく減る。我々世代でも子どもは二人が普通で、三…

  • 松過ぎ

    映画『ブータン 山の教室』を観る 2021年公開のブータン映画である。監督はパオ・チュニン・ドルジ。 首都ティンプーに暮らす若い教師のウゲン(小栗旬に似ている)は教師を辞めて、オーストラリアに移住、歌手になりたいと思っている。自堕落な態度に上部機関から一年間の僻地行きを命ぜられる。どうせビザが下りるまでの腰掛けと、渋々出かけたウゲンだ。 赴任地のルナナ村(実在する村)は、標高4800メートル、バスの終点から6日間も歩いた先だ。住民は56人。電気もなく携帯電話も通じない。トイレの紙すらないという貧しい村だが、新しい先生に寄せる期待は大きい。「先生は未来に触れることができる」と大人は言い、子ども達…

  • 『侵略日記』 アンドレイ・クルコフ著 福間恵訳 アンドレイ・クルコフはウクライナの作家である。前に『ペンギンの憂鬱』を読んだことがある。これは戦時下のウクライナからの彼の報告書、戦争前から始まり戦争勃発、そしてその半年後までの日記である。今に至る丸三年後の状況とは多少様子が違うかもしれないが、ここではウクライナ人の80%以上が領土喪失を受け入れず、プーチンの野望に屈する気配はない。 東洋の片隅の物を知らぬ人間にとっては、この戦争は如何にも時代錯誤で唐突な気がしていたが、兆しはすでに2014年からあったようだ。「クリミア併合のさなか、ロシアの軍隊が他国の領土で戦うことを認める議決がされ、以来ドン…

  • 今朝の春

    明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。 『老いぼれを燃やせ』 マーガレット・アトウッド著 鴻巣友季子訳 新聞の書評欄で見つけた本。著者はカナダ人の高齢女性。ブッカー賞を二度も受賞するなどかなり著名らしいが、知らなかった。惹句に「ゴジック・ティスト、ミステリ、復讐譚などバラエティに富んだ9編を所収」とある。9編の内7編は高齢者が主人公で、「老いと復讐」が基調だ。 昔は著名だったが、今や若い妻に操られる半ボケの詩人、彼に捨てられたと恨むよたよたファンタジー作家、若気の至りで取り交わした契約書に縛られ続けるホラー作家、若い日の恥辱に復讐の刃を忘れぬ元理学療法士などなど、いず…

  • 年用意

    『三月の第四日曜』 池内紀・川本三郎・松田哲夫編 今年の読書数は五十冊少々である。年々減少しているのはやはり歳のせいかと思う。先日会った旧友は百冊強だと言い、だが面白かったものは皆無だと嘆いていた。彼女は昔ながらの国文学学徒で文学が中心、最近のフィクションにはもう見切りをつけて、もう一度鴎外・漱石などの古典を読み返そうかと言う。こちらも国文学学徒でも、今やフィクションはほとんどおさらばで、もっぱらノンフィクションやら文学以外が対象だ。 さて、上記の書だが、久しぶりにフィクション。「日本文学100年の名作」と名打って刊行された新潮文庫本で、全三巻の三巻目。日中戦争から終戦間際までの過酷な時代に書…

  • 暮早し

    『忘れられた日本の村』 筒井 功著 宮本常一さんの著書『忘れられた日本人』を思い出すが、宮本さんの本ではない。あとがきでも宮本さんの本のタイトルを借用したと書かれている。図書館で宮本さんの本の並びにあったもので、著者も民俗研究者である。 この本の初版は八年ほど前、これは当時ですら過疎となり、存在そのものが忘れ去られようとする村々を訪ね歩いた記録である。 千年以上も前、風土記に記録されて、今や消滅しようとしている村、近代まで岩手県の山奥に暮らしていたと思われるアイヌ人集落の話、東北北部一円に今も残るアイヌ語由来の地名から推察するアイヌと蝦夷の関係などなど、なかなか面白い内容であった。 中でも一番…

  • 年惜しむ

    映画『海の沈黙』を観る 全く久しぶりに連れ合いと映画に行く。倉本聰脚本、若松節朗監督、本木雅弘主演である。倉本さんは山田太一さんや向田邦子さんと同様、若い頃の傾倒につながる書き手。その彼が長年構想し、「これだけは」という最後の一作だと知れば、観ないわけには行かない。 著名な画家、田村修三(石坂浩二)の展覧会で、本人自身によって贋作が発見される。ひと目ではわからぬ出来栄え、というより田村の技量を超えた出来栄えに、贋作作家としてひとりの男の名前が浮かぶ。それは天才と言われながら奇矯な振る舞いで世間からはじき出された田村の同級生津山竜二(本木雅弘)。竜二は、今は田村夫人である安奈(小泉今日子)のかつ…

  • 冬将軍

    『どくとるマンボウ青春の山』 北 杜夫著 暑い暑いとぶつぶつ言っていたのに、いざ寒さが押し寄せてくると、寒いのは金輪際嫌だとわめきたくなる。歳のせいか、ことさらに寒さが応えるのは、当方だけではないらしく、連れ合いはまた、暖房器を買ってきた。遠赤外線ヒーターというもので、寝室を温めるらしい。 今年は本格的な寒さがいつもより遅く、急激な冷え込みとなったせいか、当地でも綺麗な紅葉となった。周辺の山々もいつになく華やかに色づいたし、市民公園の紅葉などもなかなか見栄えがある。 さて掲書は、たまたま図書館の書架で手にしたもの。『どくとるマンボウ航海記』のユーモラスな書きっぷりを思い出して、借りてみた。 終…

  • 鍋料理

    『気違い部落周遊紀行』 きだ みのる著 先に読んだい池内紀さんの『山の本棚』にあった一冊。差別語がタイトルに入っているので冷飯をくっているが、名著であるとあった。前からTの本棚にあるのは知っていたが、こちらもタイトルにとらわれて、手に取らずにいた。 筆者は戦争中と戦後の一時期、八王子の恩方村という寒村に住んでいた。戦禍を避けてということばかりでなく、人類学のフィールドワークという意味もあったようで、この本はその調査報告でもあるが、奇異なタイトルだけでなく、村人を英雄・勇士とよび、かなり戯画化された内容でもある。 読んでみて面白いのに驚いた。アイロニカルだが、これは普遍的な一般人間のありさまだ。…

  • 木の葉髪

    映画『きのう何食べた』 人気のあったテレビドラマの劇場版らしい。原作が漫画だというのも知らなかった。 今日はあまりに寒いので(9度)部屋に閉じこもって、気のはらない評価の高い映画でもと、観始めたもの。ゲイのカップルのたわいもない話で、けっこう面白かった。出てくる料理もなかなか美味しそうで、真似して作ってみるかなという気分になる。西島秀俊はともかく、トランスジェンダー役の内野聖陽が、髭面でしなを作るのはちょっとどうかと思ったが、まあ、これもご愛嬌でしょうか。 昼の用意をしていたら、思いがけない人の訪問を受けた。小中学校時代の同級生だという。町内のHさんに案内されて、ご夫婦でいらっしゃった。名乗ら…

  • 師走

    『山の本棚』 池内 紀著 池内さんが亡くなってから纏められた一冊。いずれも小編であるが、なんと153冊もの山関連の本の紹介である。池内さんらしい明快な文章での読後感で、どれも手にとって読んでみたくなる。まず、気になるものを二分の一ほど目を通したのだが、あれもこれもと検索して、県の図書館には案外蔵書されていることがわかった。例えば、『幕末下級武士の絵日記』とか『娘巡礼記』、『照葉樹林文化とは何か』などである。他にも、うちのTの図書館で目にしたものもあるから、ぼちぼち読めればと思う。 山の本棚作者:池内 紀山と渓谷社Amazon すべきことあるだけましと師走かな もう師走、早々と御歳暮が届いた。娘…

  • お茶の花

    『名ごりの夢』 今泉 みね口述 山川菊栄さんの『武家の女性』を読んだおり、同じ時代の昔がたりがあるのを知った。同じ安政生まれの八十媼の語りを息子夫婦が書き留めたもので、先の本より三年ばかり前の刊行だという。大きな違いは先の本の語り手が、苛烈な政争に明け暮れた水戸藩の下級武士の娘であったのに対し、この本の語り手は幕府唯一の蘭学医、桂川家のいわばお姫様であったことであろうか。 父甫周は将軍に特別目をかけられた奥医師であり、その将軍の肝入で嫁いだ母は、お浜御殿奉行の娘、叔父は咸臨丸の軍艦奉行として渡米した木村摂津守である。桂川家は当時の蘭学者の総本山というべき名家であったため、新しい知識を求める人々…

  • 蜜柑

    蜜柑の古木倒れる 旅から帰った翌日、連れ合いの大声に外へ出てみると、庭の一角がポッカリと抜け落ちていた。蜜柑の木が根元から倒れたのだ。蜜柑の寿命は五十年ぐらいらしく、これはもう五十年を超える古木で、二三年前には半分が枯れて、そろそろ寿命だとは思っていた。ところが、去年は全くというほど実を付けなかったのに、今年は小さいながら鈴なり。摘果もしてやらなかったので、実の重さに耐えきれなかったようだ。倒れた木の根元を見ると、すっかり空洞化している。まあ、倒れべくして倒れ、大往生だったと言うしかない。 鈴なりの実を連れ合いがもいだ。半分は捨てたというがかなりの数である。小さいし、味にむらがあるが、種のある…

  • 冬紅葉

    舞鶴への旅 二日目 二日目は寺巡りの予定。「京都秋の特別公開」の二寺を訪れる予定で、前もって宝物館見学依頼をしておく。 金剛院は、紅葉寺とも称される紅葉の名所である。いつもの年より遅れている紅葉は如何に、と思ったがまずまずの美しさであった。まだまだという枝もあったが、昨日の雨で散り敷いたものもあり。紅葉もさることながら一面の苔が見事。苔の名前は知らぬが、まるで芝のように育っている。 金剛院は高岳親王の縁の寺。三重塔(重文)には親王の木造が安置されていて、いつもは閉じてあるそうだが、今は特別公開中で自由に拝顔できる。高岳親王は仏道を究めんと天竺を目指し、行方不明になったお方で、一説では虎に食べら…

  • 松葉蟹

    舞鶴への旅 一日目 舞鶴に一度行きたいと思っていた。 舞鶴は父の青春の地である。成績優秀にかかわらず中学進学が許されなかった明治人の父は、海軍志願兵となってこの地で訓練を受けた。大正4年、二十歳前である。その後、軍艦「日進」に乗船、ヨーロッパ遠征航海などを経て十年ぐらいで船を降りた。大正年間の平和な時代の軍人であった。父の話の郷愁の響きと一緒に、舞鶴という地名は、なぜか心に掛かっていたわけである。 岐阜よりは車で3時間弱、それほど遠いわけではない。前夜より強い寒気流入、岐阜はすっきりした青空が広がる冬晴れとなったが、目的地に近づくほど雲が広がり、あいにく時雨模様の中での到着となった。 昼時でも…

  • 暮早し

    『本の栞にぶら下がる』 斎藤 真理子著 ハン・ガンの翻訳者として知ったので図書館から借りてくる。「うまい文章だろ」とTが言うが、確かに読みやすい、いい文章だ。斎藤さんは大学生の頃、サークルでハングルに出会われたのがきっかけで韓国文学に造詣が深くなられたようで、このエッセイ集でもさまざま韓国文学者の紹介がある。こちらは最近、ハン・ガンや朴沙羅さん、ソン・ヘウォンさんの著作で隣国の歴史や事情について、ようやく少しわかってきたかなあというところで、ここに出てくる方々もその著作も初めて知るというところである。調べれば何冊かは図書館で読めそうで、メモをした。 日本人の作品として中村きい子『女と刀』が紹介…

  • 畳替

    鮎の甘露煮と畳替え 昨日連れ合いの友人のHさんから「鮎の甘露煮」を頂いた。Hさんは長良川での釣りが趣味で、今までも鮎やあまごの塩焼きやら生魚を頂いたこともあり、今回は落鮎の甘露煮である。 「鮎の遊漁期間は終わったのではないですか」と訊ねたら、落鮎の場合は12月末までいいとのこと。今はちょうど海に下る途中で、美濃市から岐阜市にかけては産卵の鮎がひしめきあっているらしい。「糸を垂らせば勝手に食いついてくるというありさまでねぇ。朝から昼までで百匹は釣れたかねぇ。面白けど後が困るんですわ。」 大量の鮎を甘露煮にして、それでおすそ分けに頂いたということだが、わが家だけでは食べ切れそうもないので、本家に更…

  • 今朝の冬

    『石蕗の花』 広津 桃子著 山田稔さんが、この作者のこの本に随分ご執心だったということを知って、県の図書館の収蔵庫から借り出してきた古い本。山田さん好みというのが納得いく、しみじみとした読後感であった。 網野菊という作家は名前しか知らなかったが、この本はその網野さん追悼集ともいうべき体裁のもので、筆者と網野さんとの親しい関係(『石蕗の花)』やら、網野さんの晩年から逝去までの様子(『紅椿』)が書かれている。明晰でいて、情に溢れた文章で、いずれの文章にも表題に関連ある俳句が引かれ、時に目頭が熱くなるほどであった。 広津さんがここまで懐かしがられる網野さんとはどんな方だったのかと、家にある古い筑摩文…

  • そぞろ寒

    『平安時代の男の日記』 倉本 一宏著 今年の大河ドラマ「光る君へ」は、いい意味で期待はずれであった。残り2ヶ月になったが、脚本次第では案外観させるものだ。そのドラマの時代考証担当の歴史学者の、タイムリーの企画本を、ドラマの登場人物を頭に描きながら、面白く読んだ。 平安期は恐ろしく日記が書かれた時代だったようだ。ここではまず、「日記文学」と言われる女の日記を取り上げておられる。『蜻蛉日記』『和泉式部日記』『枕草子』『紫式部日記』『更級日記』である。いずれも男の日記とは違い、「筆者の心情の表出を主体として」おり、それゆえ「日記文学」とされる。筆者の女性たちは、ほぼ同時代で、驚いたことに血縁関係か姻…

  • 秋惜しむ

    『死はすぐそばに』 アンソニー・ホロヴィッツ著 山田蘭訳 期日前投票の後寄った図書館。新刊棚でこれを見つける。ホロヴィッツのホーソーンシリーズの新作である。ホロヴィッツは今まで何作も読んだが、いつも納得した読後感があったかというと、どうもそうではない。今回も複雑に絡まった話のようの見えて、謎解きは後付けが多かった。つまり展開につれて予めほのめかされた伏線が回収され、読者にも謎解きの興味があるというのではなかったということだ。ホロヴィッツについては、毎回そんな不満を言いつつも500ページ弱を三日で読み終えたのだから、それなりの面白さはあったということかしらん。彼はかなり日本の事情にも詳しく、本文…

  • 籾殻焼

    『密航のち洗濯 ときどき作家』 文 宋恵媛(ソン・ヘウォン)・望月優大 写真 田川基成 在日朝鮮人もしくは在日韓国人の人々が、なぜ生きにくい日本での暮らしを選択したかという歴史については、以前このブログでも少し書いた。この本は戦前の日本統治下で、何とか人らしく生きたいと海峡を行き来し、そして無念のうちに果てた在日朝鮮人の男と家族の実話である。 男はユン・ジャウォン、韓国併合下の朝鮮半島南部、蔚山(ウルサン)で生まれる。実家は山も畑も持つ農家だったが、併合はすべてを奪い去った。豊かさを求めて彼は12歳で渡日したのは関東大震災の翌年だった。進学をして弁護士になるのが夢だったが、生き抜くのに精一杯の…

  • 黄葉

    名古屋市美術館に『民藝』を観にゆく 家族で民藝の展覧会に行く。 柳宗悦らによって収集された民藝品150点の展示である。「衣」(布地や衣類)「食」(陶器やガラス製品)「住」(家具など)のテーマに沿っての分類展示であった。 一番興味深かったのは「衣」の部分で、これはこちらが手芸を楽しんだりするせいかもしれない。チエーンスッテチで刺し子の施された稽古着やら、模様のようにみえる刺し子の足袋、アイヌ文様の半纏。これは別布に刺繍をしてから厚い布に当て布がされていることがわかった。沖縄の紅型文様の着物も、絹でなく木綿であるのが庶民的だ。特に欲しいなあと思ったのは落ち着いた色目の縞がらの「丹波布」である。横糸…

  • 爽やか

    サイドギャザーブラウスを縫う 少し前の雨の日、秋用のイージーパンツを縫ったら、縫い物愛にスイッチが入った。買い物ついでに久しぶりに『すてきにハンドメイド 10月号』を購入。掲載されていたサイドギャザーブラウスを縫おうと思い立つ。ブラウスといっても今どき流行りのゆったりスタイルで、サイドにギャザーが入り、ふんわりと体型カバーのスタイルだ。袖と脇身頃が一体化した珍しいパターンで縫い進める順番に戸惑った。縫うのに三日ほどかかって完成。少し寒くなれば重ね着で活躍しそう。そうそうスモック風に着るつもりで、袖丈は七分、袖口は筒に変更した。 今読んでいる最相葉月さんのエッセイ『母の最終講義』の「手芸という営…

  • 天高し

    神戸に絵画展を観にゆく 先日ここに書いた絵画展を観に神戸に出かける。今回はTと二人だけ、JRの在来線を使って全く絵を観るためだけの旅だ。 岐阜駅発7時45分。米原、芦屋で乗り換えて住吉まで2時間51分。特急料金はいらず、全期間座れて、実にお値打ちである。住吉からは六甲ライナーでアイランドへ。お目当ての「神戸ゆかりの美術館」はアイランドセンター駅の目の前であった。 アイランドセンター駅の前広場 神戸ゆかりの美術館 松本竣介『画家の像』 長谷川潾二郎『猫』 桂ゆき『婦人の日』 靉光『鳥』 著名な絵が来ており、人出を予想したのに意外なことにほとんどない。同時見学者は我々を入れて五人ほど、照明も程よく…

  • 小鳥来る

    『大和路・信濃路』 堀 辰雄著 オカタケさんのの『ふくらむ読書』(ネット版)に触発されて、『大和路』を読んだ。あいにく家の堀辰雄作品にはなかったので、青空文庫をダウンロードする。 奈良周辺、飛鳥あたりまでを小説の構想を求めて歩き廻ったさいの、思いを纏めたものである。この奈良滞在は昭和16年10月のことらしいが、驚くことに戦争の影は微塵もない。解説によれば、「昭和16年といえば、2カ月後には日本の真珠湾攻撃により米英との火ぶたが切って落とされる年だ。」オカタケさんは、あえて戦争の酸鼻には触れない堀辰雄の精神に「奥に潜む強靭なもの」を感じ取っておられるが、その辺りのところはよくわからない。 ただ、…

  • 彼岸花

    『日本美術 この一点への旅』 山下 裕二著 日本美術応援団団長の山下さんの近著である。山下さんといえば、赤瀬川さんとの共著『日本美術応援団』や『京都 オトナの修学旅行』以来のファンである。今まで、その確かな眼を頼りにいろいろと鑑賞させて頂いた。 さて、この本は全国47都道府県からとびきりの一点を選び、詳細な解説とともに紹介したものである。 あちこち出歩いた折、鑑賞してきたものもあれば、せっかく近くまで脚を伸ばしたのに出会いをのがしたものもあり。 この歳になり、いまさらどれだけの出会いが望めるものかと思うが、まあひとつでもと近々このうちの二つほどと対面する機会を考えた。 ひとつは長谷川潾二郎さん…

  • 鵙猛る

    『野犬の仔犬チトー』 伊藤 比呂美著 すずしい、涼しい、すずしい! 昨朝あんまり喜んで、連れ合いにお前は馬鹿かと言わんばかりの顔をされた。 「暑さ寒さも彼岸まで」というけど、一気に秋の空気に入れ変わって、冷房のない縁側の肘掛け椅子で庭を見ながら読書。陽射しが差し込んでも気にならない。先週までの記録的猛暑が嘘のようだ。 人は何か世話をする相手がいたほうが、生きる力が湧くものかもしれぬ。たとえそれが面倒でも不自由でも・・・ 夫と父親を見送り、子どもたちも独り立ちさせた比呂美さん。一匹の犬と二匹の猫との暮らしに更に一匹の仔犬を引き取ろうと決意した。ところが、これが普通の仔犬ではなく、野良犬でもない。…

  • 秋暑し

    豊田市美術館の「エッシャー展」に行く 毎週土曜日の昼はNHKEテレの「猫の目美術館」を観ながら食事をするのだが、2週間ほど前にこの展覧会が取り上げられていた。近いことだから行こうと言いつつ、いつのまにか会期末なり、猛暑を顧みずに出かけた。 豊田市美術館 マウリック・エッシャー、二十世紀を生きたオランダの作家である。だまし絵というかトリックのある作品で有名だが、それだけでないことを初めて知ったというだけでなく、手法が版画だというのも知らなかった。初期作品は、木版が中心、その後リトグラフやメゾティントを用いての描画となり、作風も大まかに見ると風景画から平面充填(平面を同じ図形で埋め尽くす方法)、メ…

  • 敬老日

    『馬の惑星』 星野 博美著 星野さんは馬に思い入れがある。当方は馬には興味がないが、馬を訪ねて出かけられた旅には興味がある。 最初は蒙古馬を訪ねてモンゴルへ。そこで国家的祝祭の「ナーダム祭」を見学。15キロから30キロという長距離の競馬があり、これは馬の負担を考えて騎手は6歳から12歳までの子供だけだという。さすがモンゴル帝国の末裔、幼いながら死の危険を犯しての競馬のようだ。 モンゴルの次はスペインのアンダルシア地方へ。ここはアンダルシアンという馬の原産地らしい。修道士たちによって純血種が守られたという馬の歴史や、馬祭りの話もさることながら、イスラムが色濃く残ったこの地の歴史の話が面白かった。…

  • 月夜

    「松本竣介《街》と昭和モダン」展に行く 暑い間ずっと気になってはいたのだが、ようやくしのぎやすくなり、開期も残り少なくなったので、意を決して出かける。隣県の碧南市藤井達吉現代美術館は七年ぶりの再訪である。 糖業協会と大川美術館のコレクションによる昭和初期の作品の展示で、140点とかなりの数である。海や山の風景、花や静物、人物と大まかに分けられているが多彩な題材で、私なんぞにも名前を知る著名画家の作品も多い。 中でも「松本竣介」は大川コレクションの中心作品らしく、まとまった数の鑑賞ができる。この人を知ったのはいつ頃かはっきりしないが、以前愛知県美術館であの「立てる像」を観て、これが松本竣介かと思…

  • 朝顔

    『網野善彦対談セレクション 1 日本史を読み直す』 山本 幸司編 面白そうでTから回してもらった二冊シリーズの一冊だ。(二冊目は多分私の手には負えそうもない)半分読了したが、ここまでは面白かった。 司馬遼太郎、森浩一、黒田俊雄、石井進各氏との対談だが、対談者との相性がそれぞれ反映されていて、それだけでも興味深い。司馬さんは饒舌で、滔々たる自論の展開に網野さんも押され気味、古代史の森さんとはなかなか話は盛り上がらず、黒田さんとは遠慮がちながら対立した見解、そして話の合う石井さんとは談論風発。そのうち、やはり石井さんとの対談「鎌倉北条氏を語る」が一番だ。 北条氏については、一昨年の大河ドラマで少し…

  • 虫すだく

    『在日韓国・朝鮮人』 福岡 安則著 もともと朴沙羅さんの『家の歴史を書く』を読んだ頃から、在日韓国・朝鮮人の歴史について知りたいと思っていた。京都国際学園の甲子園優勝などで思い出し、Tの書架から掘り出してきたこの本は、少し前のもので情報は古い。副題に「若い世代のアイデンティティ」とあるが、その辺りの事情も今の状況とは違うかも知れぬが、歴史はわかる。 在日(以後韓国・朝鮮人を省略)の人は今はおよそ44万人(2023年12月時点)帰化者を含めた推定総人口は約82万人だという。 さて、「在日の歴史」だが、「韓国併合」を抜きにしては語れない。併合以前にも渡来した人々は多かったが、古代は別として多くは留…

  • 蟻地獄

    『東北モノローグ』 いとうせいこう著 「東北大震災」の被災者、あるいはそれに関わった人々からの聞き書きである。同じ著者で別に『福島モノローグ』もあるらしい。読ませられたというTに回してもらう。 あの大震災からはや十三年。小学生だった被災者は成人となり、働き盛りの方は老年期に入られた。十三年という年月を思わざるを得ない。語りから思うに、この十三年、どなたも立派に生きてこられたと、日々ぐだぐだ生きている身には恥ずかしい限りだ。 命びろいした何人かの被災者の体験に共通するのは、日頃から、いざという時の行動を取り決めていたという事実だ。ことに過去の教訓を活かして、「人的な被害が一件もでなかった」という…

  • つくつくし

    ジェノベーゼを作る 久しぶりに曇天。朝からジリジリ照りつけないだけ、少ししのぎやすい。 連れ合いがバジルが茂っているので利用してくれという。バジルは好きな香りだが、パスタやトマト料理にトッピングするくらいだ。この際「ジェノベーゼ」に挑戦するかと、ネットで松の実を購入する。行きつけのスーパーには、松の実はない。 松の実50グラムに、バジル100グラム、にんにくひとかけとオリーブオイル150cc。ミキサーで撹拌すればいいだけと安易に考えていたが、これがなかなか。空回りして葉っぱがうまく粉砕されない。何度も蓋を開けて、ヘラで突っ込む。手際が悪くて、オイルでべとべとのヘラであちこち汚す。 さて出来上が…

  • 敗戦忌

    『遊園地の木馬』 池内 紀著 久しぶりの池内さん。キビキビした歯切れの良い文章が懐かしい。もう亡くなられて五年にもなるのですね。 岡武さんが『ふくらむ読書』で触れておられた本。県図書館の閉架棚から出してもらった三十年前のエッセイ集だ。 読んでいて、つくづく池内さんは意志の人だと思う。テレビはいらない。パソコンや携帯電話には使われない。ここでは三十年前の話だが、意志は硬く、最後まで原稿は手書きで、ネットなどは利用されなかったらしい。これはTに聞いた話だが、エアコンもお嫌いで、それがおなくなりになった夏の間の体力消耗を招いたらしい。 東大教授にして、偉ぶらない庶民的な気さくな人だったと岡武さんは偲…

  • 朝涼し

    『魂込め(まぶいぐみ)』 目取 真俊著 前回の『戦争小説短編名作選』で知った沖縄人作家目取氏の作品である。Tの書棚にあったのを抜き出してもらう。 沖縄の風土や戦争の記憶を色濃く感じる6つの短編集。そのうちのまず2編を読む。 表題作の『魂込め』は、アーマン(オオヤドカリ)が口中に棲み着いて魂(まぶい)を落とした男の話。沖縄戦で孤児となった男を息子のように育てたウタおばあの必死の「魂込め」の祈祷は届いたのか・・・。 2編目『ブラジルおじいの酒』は、長い外国の放浪生活から帰ってきた孤独なおじいの話。懐かしい家族は死に絶え、自分の生まれ育った地は基地の金網の向こう側になっていた。お前が帰ってくるまで寝…

  • 原爆忌

    『戦争小説短編名作選』 講談社文芸文庫編 八月に入った。今年の戦争文学第二弾である。十人の作家の短編を取り上げているが、そのうちとくに印象深かった三点について記録しておこうと思う。 ひとつめは、目取真俊の『伝令兵』。この沖縄出身の芥川賞作家を初めて知った。 沖縄戦で陣地間の伝令兵として使われたのは、師範学校や中学校の生徒たちで、武器も持たず砲撃の中を走り回り、若い命を落とした。ここに出てくる伝令兵は、首を失い衣服も血と泥で汚れ、死んだことも戦争が終わったことも知らぬようだ。しかしその思いは、今も幽霊になって沖縄人の苦境を助けているという話である。ホラーのようなゾクゾク感がありながら、深い悲しみ…

  • 青田風

    『ハイファに戻って/太陽の男たち』 ガッサーン・カナファーニー著 黒田寿郎 奴田原睦明訳 先々月古本を売って、代わりに買った本の一冊である。パレスチナ人のこの作家のことは全く不明で、Tに教えられた。この夏の戦争文学の一冊として読み始めたのだが、実に悲惨で重苦しい内容に(今もパレスチナは現実そのものなのだが)、何度も読みとどこおらねばならなかった。 七編からなる短編集だが、表題にもある二編が特に衝撃的だ。 『太陽の男たち』は以前読んだ岡さんの本でも取り上げられていたが、救いのない現実から逃れて密入国をしようとした男たちの悲劇的な終焉を描いたものだ。岡さんの本で終末を知っているだけに辛くてまだ最後…

  • 雷雨

    『日本蒙昧前史 第二部』 磯﨑 憲一郎著 時代は第一部と重なる1972年から1973年の話である。 語られるのは日中国交回復とその返礼としてのパンダ騒動、当時の人気テレビドラマ「二丁目三番地」と主演の石坂浩二・浅丘ルリ子の結婚に纏わる話、そして第一次石油危機である。 当方は二十代後半、勤めと子育てと大奮闘の日々で、パンダもスタアの結婚も興味はなく、ほとんど記憶にない。ただ石油ショックは暮らしに直接係ることでもあり、多少の記憶が残る。 それは、ご近所のスタンドでも、お得意さんでないからと売り惜しみをされた苦い思い出や、留守番の母がトイレ紙を大量に買い込んでいて驚いたということだ。 さて、このシリ…

  • 夏休み

    『親子の時間』庄野潤三小説撰集 岡崎武志編 岡武さんによる庄野潤三アンソロジーである。「私は庄野一家の子どもになりたかったのだ。」という庄野愛に溢れた「あとがき」いい。岡武さんは庄野親子が台所でお湯が沸くまでの時間を共有している場面から、自分の父親の不在を思い、改めてとめどなく涙を流したとある。 生田の丘の一軒家を舞台にしたこの一家の話には、ともかくも懐かしい。私も惹かれたが、尤も私がはまったのは八十年代。子どもたちは大人になり、お孫さんも登場する頃ではなかったか。こういう家庭にしたいと憧れ、真似をした記憶もある。何冊も続けて読んでいるうちに、ややマンネリが気になってきて、すっかり遠ざかってし…

  • 名古屋場所

    『ミチノオク』 佐伯 一麦著 佐伯一麦さんの文章が好きだ。この本は東北の各地を訪ねて、自身の思い出や土地に纏わる伝承などを書き綴ったものだが、当方にとっては、訪れた所もそうでない所もあり、時には懐かしく、時には興味深く読ませられた。 中でもしみじみと感じ入ったのは「会津磐梯山」と「月山道」の二章。 ひとつめは、父親を亡くして会津に転校していったという小学時代の友達に思いを馳せながら、一方で平安の昔に「ミチノオク」にまで伝わってきた仏教の足跡を辿る話。 今、古い記録を出せば、会津の勝常寺に国宝仏を訪ねたのは、三十年も昔になる。近くの堂守らしき女性に薬師堂の鍵を開けてもらい、ひっそりとした暗がりで…

  • 冷房

    『別れを告げない』 ハン・ガン著 斎藤真理子訳 最近になく、息も継げぬような緊迫感を感じながら読んだ本であった。 作家のキョンハは四年前、ある都市で起きた虐殺に関する本を出してから、悪夢にさいなまれていた。その夢のひとつ、海岸に林立する黒い墓標のような木々を波がさらっていく夢から、彼女は親しい友人のインソンに「九十九本の黒い木を植える」プロジェクトを持ちかける。そのブロセスを記録映画にしたらどうかと提案されて、映像作家でもあるインソンは快諾。しかし、会うタイミングがなまま、月日が過ぎていた。 インソンは母親の介護のために故郷の済州島に帰り、母亡き後はそこで木工仕事に励んでいた。距離が離れて、間…

  • 出水

    『上林暁 傑作随筆集 故郷の本箱』上林暁著 山本善行撰 美しい夏葉社の本である。同じ作家の「傑作小説集」は先に読んでおり(2021・2・18)、同じようにTの書架から拝借した。二冊同時に取り寄せたものらしく、山本さんの手書きの小さなお礼書きがはさんであった。 一般的エッセイ、本や古本に関するもの、友人知人の追悼文、小説家としての気持ちや姿勢に触れたものと四部構成だが、どれも筆者の温かな人柄が感じられる心地よい読後感だ。 一番最初の「高根の花」は、貧乏学生だった頃の思い出。親しくしていた友人に誘われて、何人かの貧乏学生が女学校のバザァに出かける。美しい姉妹と一緒にひとときを過ごしたその夜、夢のよ…

  • 半夏生

    『忘れられた日本人』 宮本 常一著 NHK「100分で名著」に取り上げられていたので、再読を思い立ちTの書棚から出してもらう。 この本で宮本さんは正史に残らない名もない庶民の歴史を残したかったそうだ。確かにここには一昔前の庶民の暮らしぶりが息づいている。 歳を重ねただけ、どの話も初読の時より心に響いたのだが、「私の祖父」と題した宮本さん自身の祖父の話が一番良かった。借財に追われた暮らしだったが、篤実に「自分に納得のいく生き方」を生涯通した人だったようだ。周りのちいさな生き物たちにも慈悲の心を持ち、孫の常一さんにもつねづね語って聞かせたことが、かの人の感受性を育てたとも言える。八十すぎまで働きつ…

  • 夏燕

    『愛についてのデッサン』 野呂邦暢著 岡崎武志編 40年も前に書かれた短編集の文庫化である。今になって文庫化されたというのも、根強い人気のせいとオカタケさんの野呂愛の賜物に違いない。オカタケさんは野呂さんの文章を「山裾からほとばしる清冽な水」と讃えたが、確かに読ませる文章だ。 『愛についてのデッサン』は、若い古本屋店主佐古啓介の周辺に起きた出来事を描いたものだが、全部で6編あり、特に面白く読んだのは「佐古啓介の旅(一)と(六)」である。どちらも謎解きの要素があり、それが読ませる原動力にもなった。 「佐古啓介の旅(六)鶴」は、亡くなった父の過去を探る旅の話である。啓介の父は東京で古本屋を営んで一…

  • 夏座敷

    美濃市再々訪問 娘夫妻が夫の野菜を取りに来た。忙しい子どもたちはもう一緒でない。久しぶりに五人で出かけようということになった。娘は気になる「道の駅」があるというし、娘婿は「卯建の町」行ったことがないと言うので、美濃市を再々訪問することにした。 まず長良川沿いの「道の駅美濃にわか茶屋」へ。ここで昼にしようというのだ。平日なのに思ったより人が来ている。道の駅はどこもそうなのだが、野菜類が実に安い。胡瓜も茄子もアスパラもお安いが、あいにくわが家も取れだした。スーパーの3分の1ほどの値段で、地元産のにんにくと黄色い瓜(こうせき)、花びらにカットした干大根を買う。娘は「山紫陽花の苗木」を買って満足。生花…

  • あめんぼう

    『ふくらむ読書』 岡崎 武志著 オカタケさんの応援団を自称するTから回ってきたもの。たいていはネットで既読したものだが、一冊にまとまると初読のような気持ちになる。いつもながら読ませる文章で、面白く拝読。 最初の「第十 折々のうた」に反応したTが、ネットで『折々のうた』の古本全巻(総索引の一冊だけ欠く)を購入した。これがなかなか良くて、いまのところ「夏のうた」に限って拾い読みをしている。近頃、歌ごころも句ごころも枯渇しているので慈雨と言おうかカンフル剤と言おうか。 池内紀さんの話もあった。この本『遊園地の木馬』は読んでいない。調べると県の図書館にはあるようだ。これはTに借りてきてもらわねばなるま…

  • 薄暑光

    『武家の女性』 山川 菊栄著 先月、自分の書棚の半分ほどを始末したのだが、大した本もなかったせいで買い取り金は千円札一枚と少々。そのお金で買ってきたのが、この本ともう一冊パレスチナの作家のもの。 昔高校生の頃、この本を薦めてくれた友人がいた。姉さんがK政党のシンパで、彼女もかなり政治的だったせいかもしれぬ。山川菊栄が、女性運動の理論家と知ってだったのかなあと、そんなことを思い出したりしたが、当時はちっとも読みたいと思わなかった。が、今になるとなかなか興味深い。 ちなみに今日の新聞によれば、日本のジェンダー指数は118位だそうで、江戸の頃からどれほど進歩したのだろう。女性が世の中の流れの本質から…

  • 青梅雨

    『日本人はるかな旅 5』 NHKスペシャル「日本人」プロジェクト編 昨日農協の米屋に行ったら、いつもの割引率50円を30円に変更することと、10キロ以上は売れませんという紙きれを渡された。なんでも天候不順とインバウンドのせいで、米不足だというのだ。うちの辺りでは今年も米作りはしないようだから、余っていると思ったのに一体どういうことなの。足らなくても今更たいへんな米作りは、もうしませんということなのか。曲がり角の「米作り」、日本文化の土台を作ってきた「米作り」の、これはその最初の始まりのお話。20年も前に放映されたNHKスペシャルの書籍化で、情報は少し古いかもしれない。 縄文人といわれる人々が暮…

  • 緑陰

    『考古学から見た 邪馬台国大和説 畿内ではありえぬ邪馬台国』 関川 尚功著 リュックに本を何冊も詰めてバスで図書館に行く。重い本もリュックで背負えばなんとか。日傘も差して物売りのバアサンみたいだなあ。 この前の本に紹介されていた本で、また、「邪馬台国」だ。同年輩で永らく大和の遺跡の発掘に携わった方だが、「邪馬台国大和説」を否定。大和地方の発掘結果を知り尽くしたゆえの否定と読んだ。 弥生時代全般から庄内期(3C前半)までの大和地域には大型墳丘墓、金属製品は少なく、青銅器も鏡ではなくて銅鐸、首長館と思われる館も見られず、土器は東海地方との交流がみられるが、大陸系の遺物は皆無などなど。北九州地域と比…

  • 麦の秋

    愛知県西尾市に行ってきた きっかけはNHK夕方の「まるっと名古屋」である。西尾市名物の美味しそうなものを紹介していたので、行こうかという話になる。加えて西尾市には愛知県の三つの国宝建築物のひとつがあり、いつか訪問したいとは思っていた。 西尾市は三河湾に面した町でうちの市よりはやや大きい。高速を使えば、車で1時間半ほどの距離でそれほど遠くはないが、往きは渋滞のせいで2時間以上かかった。一面の麦の秋で、刈り取りの始まったところもある。(後で調べたら西尾市は西三河で麦の生産高が一番。ちょうど一昨日から刈り取りが始まったとあった) 最初に訪れたのは「一色さかな広場」。お昼に近い時間になってしまったので…

  • 明易し

    『森林通信』 伊藤 比呂美著 久しぶりの比呂美さんの本。コロナ禍の2022年の夏、比呂美さんはドイツに3ヶ月ほど滞在されたのだが、これはその報告書ともいうものだ。比呂美節ともいうべきか、つらつらとした文章に加え、今回は横書きである。横文字の引用があるからだろうが、思ったほど読みにくくはない。 何のためにドイツに行かれたのか。「鴎外」の足跡をたずねるということのようにも思えるのだが、鴎外についての考察は当方の理解には荷が重すぎる。それよりも原始人派で自然派の比呂美さんのドイツ発草木事情ともいうのが、面白かった。 街路樹の根っこで歩道の石畳が不揃いに盛り上がっている。「歩くのに気をつけて」と言われ…

  • 雨蛙

    雨の日の洋裁 二日続きの雨である。ぐじぐじしていてもと縫い物を始めた。いつも同じのチュニック風ベストである。ベストばかり作っているのは、半ば制服だからである。冬は、タートルセーターに毛糸のベスト、春秋はタートルネックのカットソーに布地のベストで、カーデガンや袖ありセーターは滅多に着ない。ベストは袖のないぶん仕事がしやすいし、肩も凝らない。体型カバーにもなるという優れものでもある。 今回は木綿のシャンプレー地と木綿の風呂敷の活用。以前は〇〇記念と言っては風呂敷をもらうことがあり、何枚か溜まっている。その風呂敷を何とか活用したいと考えた結果である。意外といい色合わせになったではないかと満足する。後…

  • グラジオラス

    『世界遺産 宗像・沖ノ島』 佐藤信・溝口孝司(編) 宗像・沖ノ島遺跡は平成29年世界遺産に登録された。沖ノ島の祭祀遺跡のみならず、大島の中津宮、九州本土の辺津宮、宗像一族の新原・奴山古墳群も合わせての登録である。沖ノ島は宗像から57キロも沖合にある孤島で、太古より玄界灘を航海する際の重要な目印であったらしい。航海の安全を祈り、この島に神の存在を見出した人々が、篤い信仰を寄せてきたこともよく知られたことであり、今でも厳格な禁忌に護られた島だ。近年少しずつ調査が行われ、22の遺跡がその立地により四段階に遷り変わることがわかってきた。4C以来鏡から始まり、玉類・金銅製馬具・壺類などなど約8万点もの奉…

  • 薄暑

    『空海展』に行く 『空海展』のため奈良まで出かけた。ほとんど高速道路利用で2時間半かかる。実際は途中での休憩も含めると3時間。奈良には11時ごろに到着。奈良公園周辺は去年の秋以来だが、相変わらず外国からの観光客でいっぱいだ。以前より鹿がおとなしいように感じたが、何か対策がされているのだろうか。 奈良国立博物館の旧館 『空海展』は思った以上の人出である。旧館入り口から入ったので案外スムーズだったが、新刊の入場券売り場は長蛇の列。当然ながら会場内も大混雑で、慌ててマスクを付ける。照明が暗いうえに、人の肩越しでの鑑賞が多く、見にくい。家族ともはぐれないように気をつけねばならないし、なかなか大変だった…

  • 茄子苗

    『よもやま邪馬台国』 豊田 滋通著 図書館の新刊棚に待っていたように残っていた本。Tは「いまさら邪馬台国なぞ、だれも関心ないんや」と言うのだが、私には実に面白かった。筆者はジャーナリストでこの本も、新聞連載記事の書籍化本らしくとてもわかりやすい。「よもやま」とあるだけに、邪馬台国周辺の古代史についての網羅的な解説書で、知識の整理にもなり勉強にもなった。 その1は、弥生時代後期(2C後半)から卑弥呼の時代(3C前半)ごろまでのこの国の様子である。倭人伝にも「倭国乱れて相攻伐」とあるが独自な墳墓もった有力な首長集団が、各地に勢力を誇っていたという事実である。九州はもとより、出雲、丹波、吉備、越、ヤ…

  • 青嵐

    本の始末 書棚の本の整理をし始めたことは、前にも書いた。五段ある棚の上段まで、脚立に乗っかって何十年ぶりかに手を付けた。俳句と歴史と宗教と郷土史関係は残し、残りは始末しようとダンボール箱に詰めた結果が、ダンボール箱に五つ、大きな紙袋に五つだ。文学全集などは、今やどこも引き取り手がないというので七十数巻という「現代文学体系」などは手付かず、思い切った割には片付け感に乏しい。それでもやっとここまで片付けて、さて、これらの本をどうするか。 昔と違って古本屋さんが少なくなってしまった今、唯一、名を知る古本屋さんに買い取りのお願いの電話をしてみる。出したい本の内容を聞かれた。文芸書の文庫本と単行本、新書…

  • 溝浚へ

    『猫屋台日乗』 ハルノ 宵子著 相変わらず威勢のいい方である。コロナ騒動の最中で、お上の愚策にお怒り心頭である。規制の間隙をぬって買い物帰りの生ビールを楽しんでおられるのはさすがだが、我々だって三年間逼塞していたわけではなかったので、ハルノさんと同じようなものだ。 「家庭の味」の件が良かった。偉大な思想家の吉本さんにして十年以上も炊事担当だったというのである。イチゴの天ぷらから、「衣揚げ」、(これは「小麦粉と青ねぎを粘り気が出るまで練り上げて揚げる」とある。何という揚げ物でしょうか!)伝説の衝撃的三色弁当。それは、3列に仕切った「1列目はびっしりと塩ゆで赤えんどう。2列目はオールパセリ。3列目…

  • 風薫る

    企画展「岐阜の古墳」を見て「野古墳群」とバラ公園へ 雨が去り爽やかな五月晴れ。やや風があるが暑くも寒くもなし。世の連休はすんだし、湿った畑では作業もできぬからと、またまたお婆の提案で古墳巡り。 まずは岐阜市歴史博物館での企画展「ここまでわかった!岐阜の古墳」へ。3C末から8Cまでの美濃地方の古墳の出土品約200点以上の展示である。といっても古墳からの出土物なので土器やら埴輪、錆びた太刀やら少しの鏡、目を引いたものでは勾玉やら管玉・耳輪など。 平日なのでお客さんはほんの少しだけ。ボランティアらしき監視員の人が話しかけてこられ、少しだけ古墳談議になる。この後、大野町の「野古墳群」に行こうと思うと言…

  • 夏燕

    古墳を造ったのはどんな人たち? 長年手付かずだった本棚を整理しようと思い立つ。二間の壁面いっぱいの本棚の半分が私用である。高い所は後回しにして、取り敢えず下部分の半分に手を付けたのだが、処分というのは難しい。歴史と俳句、宗教と古典は残したら半分しか片付けられなかった。 久しぶりに手にしてこんな本もあったかと読みふけったのが写真の本。このところ思い出したように関心がある郷土の古墳の話である。 市の講演やら書物で6C以降の当市の古墳の被葬者集団は概ね検討がついたが、問題は5C前半に造られた近くの「琴塚古墳」の被葬者集団である。うちから1キロ以内に県下第3位の琴塚古墳や、やや小さい柄山古墳のあること…

  • 春尽く

    傘寿の賀 家族揃って、連れ合いの傘寿のお祝いをした。連休中で若い人はそれぞれの予定があったかもしれないが、爺のお祝いに都合を合わせてくれた。ホールケーキに「80」のローソクをたてて「ハッピーバーズデイ」の合唱。娘夫婦からは大好きな銘柄の吟醸酒のプレゼント。私からは来し方80年の写真を纏めたミニアルバム。 はるばると歳を重ねてきたものだとつくづく思う。連れ合いは目医者にこそ通っているが、服薬はひとつもない。健康であるのが何よりもありがたい。できればまずは8年後までお互いに元気でありたいものだ。 当方の古墳熱が感染したのか、夕食の用意をしている間、みんなはTの案内で近くの古墳散歩に出かけた。これが…

  • 花神輿

    六年ぶりの神輿とお客様 昨日はこの地域の郷社の春祭だった。三年ごとに交代で神輿を出す決まりがあるのだが、前回(三年前)はコロナの真っ最中で、当然ながら神輿は中止。六年ぶりである。六年前は大人神輿も出たのだが、今回は子供神輿だけ。よほどの肝煎がないと面倒なことは縮小となる。 今日の新聞投書欄に自治会加入者の減少を嘆く投書があった。愛知県の人だったが加入者が50%を切ったとあった。うちの地域も新しい住宅が大幅に増えて、昔ながらの地縁血縁集団ではなくなり、自治会に入っているメリットを感じないという人が出てきた。今年から加入非加入にかかわらず持ち家のある人は自治会費相当を集めることになったが、それで脱…

  • 四月尽

    『街道をゆく22 南蛮のみち1』 司馬 遼太郎著 司馬さんのこのシリーズは、いつも知的な刺激を与えてくれる。国内の街道行脚が基本姿勢だったにもかかわらず西洋に目が向かったのは、この国の窓が初めてヨーロッパへ開かれたのが「南蛮」だったからだと、司馬さんは書いておられた。すなわち16Cの鉄砲とキリスト教の伝来である。 1549年(天正18年)日本へキリスト教を伝えたのは、フランシスコ・ザビエル。彼の日本滞在はわずか3年弱だったが、多くの信者を生んだ。 司馬さんはこの姿を追って、まずはフランスのパリ、カルチェラタンで、若き日のザビエルに思いを寄せた。哲学青年だった彼が、同輩のロヨラの熱い誘いにのって…

  • 尾張(犬山周辺)の古墳巡り この二三日のぐずついた天気がスッキリと晴れ、陽気もほどよいことから気になっていた古墳を見に行こうということになる。 東之宮古墳 東之宮古墳は木曽川を挟んで当市の対岸、犬山の白山平山頂に築かれた古墳である。ここが特筆すべき古墳だというのは、東日本でも最も古い時期(3C末から4C初め)の古墳というだけでなく、形態が前方後方墳だということだ。同じ頃の箸墓古墳を卑弥呼の墓ではないかと見る学者の中には、卑弥呼と対峙していた狗奴国の王の墓ではないかという人もいるが、それはともかく、竪穴式石槨からは鑑が11面、石製合子、翡翠製曲玉など素晴らしい副葬品が発掘された。それらの副葬品は…

  • 行く春

    義兄夫妻と義弟夫妻の訪問 連れ合いの兄弟夫妻の突然の訪問である。長兄は連れ合いより五歳年上、弟は五歳下だ。七人という大人数の兄弟で、少し離れていることもあり、日頃のお付き合いは水のように薄い。義父母が亡くなってからは、お互いに元気なこともあり、ほとんど交流がなかった。それが突然訪問されるという電話で、最初は良からぬことでもと、驚いたが、幸い用件は良からぬことではなかった。 最初は兄弟だけでの訪問という話だったが、久しぶりだからとお連れ合いもご一緒されることになった。 連れ合いはともかく、当方は長兄夫妻とは二十年ぶり、義弟夫妻とはもっとお会いしていない。「まあまあ、お懐かしい。お元気で何より」と…

  • 春惜む

    講演『坊の塚古墳以降における地域首長の動向』を聴く 西村勝広講師 興味深い演題だったので、久しぶりに講演会に出かける。本来は連れ合いも一緒の予定だったが、突然教え子と会うことになったというので、ひとりでの参加となった。以下、市の文化財課の西村先生の話である。 「坊の塚古墳」というのは市内最大の前方後円墳(県内でも2位)で、4C末から5C前半に築かれた古墳である。各務原台地の突端にある。崖の突端を選んだのは平地を見下ろし、近くを流れる木曽川水路交通網に存在を誇示するためではなかったか。 「坊の塚古墳」以降もその地には、特別の古墳が造られるが、それも同じ理由だ。 そして、東山道が造られるにしたがい…

  • 牡丹

    世界史が面白い NHKの四月からの新番組「3か月でマスターする世界史」が面白い。毎週水曜日の夜の放送で、すでに三回分が終了した。アジアから世界史を眺めるというコンセプトだ。高校時代、世界史を習ったが、所詮受験勉強にしかすぎなかった。 第1回目は「古代文明のはじまり」。主にメソポタミア文明を取り上げ、交易の要となった遊牧民の存在がいかに大きかったかを説いた。 第2回目は「ローマ帝国」。広大なローマ帝国を支えたのは、やはりシルクロードによる交易。(海のシルクロードもあった)関税で得られた富が常備軍を養い、領土を拡大させ、ゆるやかな統治で栄華を誇った。 が、その大帝国も東西に分裂、ゲルマン民族の南下…

  • 蛇穴を出づ

    『ロニョン刑事とネズミ』 ジュルジュ・シムノン著 宮嶋聡訳 図書館の新刊棚に残っていたので借りる。帯の惹句に「メグレ警視」シリーズの番外編とある。表題にロニョン刑事とあるが、彼が活躍するわけではない。どちらかというと彼は間抜けな役回りで、事件を解決するのはリュカ警視だ。 ネズミと呼ばれる浮浪者が道で大金を拾ったと、届け出る。実は道で拾ったわけではなく、たまたま出会った死体から転がり落ちたものだ。遺失物として届ければ、一年後にはまるまる手に入ると踏んでのことで、死体は無視した。ところが、死体は消えてしまったのかニュースにもならない。殺されたのは誰か。挙動不審なネズミにロニョン刑事がつきまとう。果…

  • 春の海

    しまなみ海道の旅 新幹線 往路 マイナーな駅(岐阜羽島)からマイナーな駅(新尾道)への切符手配に苦労したことは、先に書いた。こだま、のぞみ、こだまと二回も乗り換えがある。乗車時間2時間半。外国人の同乗者が多い。 トンネルをぬけて桜やまた桜 尾道ラーメン 新大阪駅での大慌ての乗り換えの果てにやっと着いた新尾道駅。申し訳ないが岐阜羽島駅より寂しい。駅前でレンタカーを借りて、まずは近くの有名ラーメン店で昼。「尾道ラーメン」は当地の名物とのこと。豚骨スープの醤油味で当方にはすこし辛い。背脂が浮いている濃厚な味で、麺は細麺。正午前だったのですぐに入れたが、出る時には待ち客がかなりあった。 新尾道駅 向島…

  • 紫木蓮

    映画「リトルフォレスト」夏秋冬春を観る 桜は散り初めだが、木蓮はあっという間に若葉に変わってしまった。昨日は大雨になるというので、急遽花がらを片づけた。濡れればへばり付いて手に負えなくなると踏んでのことだ。前もって手伝いを頼まなかったので、仕方なく一人でやる。連れ合いは大量の夏落葉と剪定木の始末をしているので、こんなことまでは頼めない。落花だけで大きな塵袋にいっぱいあった。すっかり変色してはいるが、匂いは甘い。堆肥山に積んで、土に返してやる。まさに、花の盛は短くて・・・である。うちに来て半世紀はなるだろうか。思わぬ大木になって、落ち葉の始末から、剪定と世話が大変だ。リビングのワックスがけをした…

  • 巣立ち鳥

    旅プラン作りとミステリー 来週にも出かける手筈にした。初めは車を使っての近場でもという気もあったが、「もう何回行けるかわからんよ。行きたい所があるなら今のうちだよ。」というTの言葉を受けて新幹線を使っての旅にした。目的地は「しまなみ街道」で、今回は古墳ではない。国宝もあるが、メインは海の景色。晴れでなければつまらないと、ギリギリまで出立予定を思案したが、果たしてどうだろうか。 ふらりと気まかせ足まかせで、大人の旅を楽しむ方も多いと思うが、当方は毎回きっちりと日程を組む習い。どうせなら目いっぱい観てきたいという貧乏根性か、昔の職業意識か、まあ、このプラン作りが楽しみでもあるからだ。あまり予定を詰…

  • 本が読めないときの 『続窓ぎわのトットちゃん』 黒柳徹子 豪雨の一夜が明けた。いつ以来か、リビングの暖房はエアコンだけ、ファンヒーターは点けなかった。今日は暖かさを通り越して暑そう。花粉の飛来も多いようだ。この所ずっと鼻炎がひどく、春の嬉しさの反面、辛い花粉症と、複雑な気分だ。 ちっとも本に集中できないので、編み物に精を出したら、仕上げ段階で失敗。少し解く羽目になってこれもやる気をなくした。 こういう時には、この本を。ベストセラーで予約者が多かったが、順番が巡ってきた。Tが「読書のリハビリかあ」って言ったけど、そうなんだ。読みやすくて考えなくていい。徹子さん、リハビリにしてごめんなさい。 さて…

  • 春の雷

    門出の報告 かなりの雨の中を娘一家の来訪。正月以来だ。今回は下の孫が大学に入ることと、上の孫の就職先が内定したという報告だ。新しい門出はもちろん喜ばしいが、もうそんな歳になったかという感慨も深い。トシヨリの十年は変化に乏しいが、子供の十年は驚くほどの変化だ。十年前といえば、お風呂にお魚釣りを持って入っていたのに・・・。 みんなでお祝いを兼ねた食事後、珍しく二つか三つ雷が鳴った。 門出に(かどいでに)銅鑼打つごとし春の雷 連翹は満開

  • 春疾風(はるはやて)

    祭のごとく過ぎにけり 異変に気づいたのは、朝ネットを繋げた時である。いつものようにまず、アクセス解析を見て驚いた。だいたい朝のうちはほどんど訪問者がないのが普通。ところが、朝から随分の訪問者、思わぬ外国(ウクライナ)からもある。いやいやどうしたのだろうとTに告げる。 それで、はてなのサイトの「きょうのはてなブロブ」に取り上げられたことが判明した。すごい影響力である。俳句と読書感想と時々の外出記録。俳句は月次で取り上げる本はマイナー。どう思っても読んでくださるのは希少な方々と認識している。分けても欠かさずコメントを書いてくださる「ふきのとうさん」のような方は、本当にありがたく貴重な存在。 石田波…

  • 志段味古墳群を見に行く 名古屋市守山区上志段味というエリアには古墳時代を通じて古墳が造られつづけ、66基もある大規模な古墳群となっている。庄内川の河岸段丘上で、この川を利用して勢力を伸ばしたこの地の首長やその配下の人々の墳墓である。 最大なのは「白鳥塚古墳」。墳長115メートルで愛知県下第三位の大型前方後円墳。最も古く4C前半の築成。大半が樹木に覆われているが、後円部に登れる。後円部頂部に石英が敷かれていたが、かっては墳丘全体が石英で覆われていたらしい。「白鳥塚」の呼び名もそこからきたと思われる。 綺麗に整備されているのは「志段味大塚古墳」5C後半の帆立貝式古墳。葺石を貼り付け、円筒埴輪が復元…

  • 春落暉

    映画『パーフェクトディズ』を観る 言わずと知れたヴィム・ヴェンダース監督、役所広司主演の映画である。U-NXTで配信されるのが待ちきれず大雨の中映画館に出かけた。家族揃っての鑑賞で、初めての体験だ。 さて、映画である。文句なくいい映画で、今も劇中の音楽を聞きながら、余韻に浸っている。 毎日早朝に目覚め、日の出とともにトイレ掃除の仕事に出かける。仕事はきっちりと手を抜かず、木漏れ日の写真にこだわり、小さな植物を育てる。テレビやネットの情報に振り回されることもなく、労働の後は少し飲み、就寝前には静かに読書をする。「丈夫な体を持ち 欲はなく 決していからず いつも静かに笑っている。」平山とはそんな人…

  • 『隆明だもの』 ハルノ 宵子著 久しぶり自前で購入した本。ハルノさんの本の面白さは『猫だましい』ですでに納得済みだ。Tと連れ合いと三人で回し読みするつもり。 昨日の朝日の読書欄の平川克美氏の書評に立派なことは書かれいるので、ここではどうでもよい感想だけ触れたいと思う。 私たちの学生時代は、吉本さんは今の「推し」のような存在で、「言語にとって美とはなにか」とか「共同幻想論」とか、随分流行っていた。連れ合いなんかも読んでいたようだが、私はちっともわからなかった。後年、Tが吉本さんの「推し」になり、うちに吉本本が溢れてからはわかりやすいものを多少読んだくらいである。 そんなこんなで吉本さんと言えば、…

  • 雪解

    『むすんでひらいて』 玄侑 宗久著 Tから回してもらったものだが、なかなか難しくて半分もわからなかった。 玄侑さんに、哲学が専門という大竹さんがいろいろたずねるという形式で、書かれた本である。「いのち」とは何か、「死」とはどういうことなのかと、おぼろげながら自分なりの理解が出来た程度で、これでいいのかわからない。わかったことを書けばいいとTに言われて、わかったところまでを記録しておこうと思う。 玄侑さんは戒名の頭に「新帰元」と書かれるという。「元気(生命エネルギーの本体)に元気を与えられて生きてきた器の寿命がつきたので元気に帰っていく」という意味。つまり「死」とは「ある種の生命エネルギーがエネ…

  • 春日和

    『砂のように眠る』 関川 夏央著 関川夏央氏が好きである。岡武さんのブログで知って、図書館の閉架から出してもらった。副題に「むかし『戦後』という時代があった」とある。戦後・・・1950年代後半から70年代始めまでの時代風景の概観である。 小説と評論の抱き合わせで、構成としてはめずらしい。小説は著者自身を投影したような、ややペシミスティックな人物の一人称がたりで、評論の対象となるのは次のものだ。 『山びこ学校』・石坂洋次郎作品・『にあんちゃん』・小田実『何でも見てやろう』高野悦子『二十歳の原点』田中角栄『私の履歴書』 小説も評論対象作品もまずは懐かしかった。 小説では、関川氏とは四歳違いだから、…

  • 二月尽

    『生き物の死にざま はかない命の物語』 稲垣 栄洋著 図書館で自然科学(4類)を借りたのは初めてではないか。以前読んだ『老年の読書』で気になった一冊。 身近な生物(植物も含む)の一生を概観、彼らが「限られた命を懸命に生きる姿を描いた」本である。 切ないのは牛である。子を産んでないメスは最高級の柔らかい肉質で重宝され、子供を産んだメスや乳用牛のメスも役に立たなくなればやはり肉になり、オスは生まれながらに肉用でどんな牛に生まれても最後は肉になる。この本にはないが毎日のようにお世話になっている豚だって同じ運命だ。 動物だけじゃない。この二三日、ガリガリと引っこ抜いた草だって、声はださないが神経めいた…

  • 蕗味噌

    冷たい雨の一日 雨の日は落ち着いて厨仕事ができる。まあ年中暇人だからいつだってできるのだが…。マーマレードは最近6回目を作ったばかりなので、今日は冷凍をしておいたフィリングでアップルパイをおやつに。昨日笊いっぱいに蕗のとうが採れたので蕗味噌も煮る。蕗味噌を作るとこれが好きだった父のことを思い出す。 あと今日は山田太一さんのドラマ「今朝の秋」を観るつもりだったが、止めた。昔テレビで観て大泣きした記憶があり、躊躇したのだ。代わりにだらだらとネットで宿を調べて、時間を費やした。暖かくなったら出かけよう、今はそれが 目当てだ。 遠慮しつつ父の催促蕗の味噌 勤めと子育てでいつもバタバタしていた娘に、遠慮…

  • 下萌え

    『ペンギンの憂鬱』 アンドレイ・クルコフ作 沼田恭子訳 ウクライナの作家である。この本はロシア語で書かれたらしいが、最近の執筆はウクライナ語に変えたと新聞で読んだ。1996年の作で舞台はソビエト連邦の崩壊後。独立はしたものの国家的には混乱が続き、汚職や腐敗があり、マフィアが暗躍していた時代らしい。 もちろん、この寓話めいた不思議な話は、そんな時代を背景にしている。 憂鬱性のペンギンと暮らす売れない小説家のヴィクトルは、売り込みに訪れた新聞社から、「死亡記事」を書くことを勧められる。そのうちまだ亡くなっていない人の追悼記事をあらかじめ書くという仕事を任され、指定された著名人の追悼記事を書きづづけ…

  • 春一番

    『道長ものがたり』 山本 淳子著 今話題の「藤原道長」についての本である。巻末にきちんと年表も参考文献もついた学者の方の書であるにもかかわらず素人が読んでも実に面白かった。もちろん書かれるのはテレビとは一線を画した道長の実像だ。 道長は藤原兼家の三男だが、左大臣源雅信の倫子(テレビでは黒田華)に婿入りしたことから幸運は始まった。(平安期の結婚は男が女の元に入る婿入り婚)道長自身も「男は妻柄なり」と正直だ。さらに二人の兄の早世や甥たちの不祥事で思いがけなく公卿第一の地位に三十歳で就任、以後着々と階段を登り、栄華を極めた。倫子となした四人の娘はすべて入内させ、三人が中宮となり、三人の天皇の外戚とな…

  • 啓蟄

    陶片と古墳、グラスアートを見に 春めいた陽気に誘われて久しぶりにお出かけ。東濃の土岐市と多治見市である。 土岐市美濃陶磁歴史館が、このたび建て替え前の休館に入るということで、収集の陶片2000点の展示会を行っている。 土岐市の元屋敷という古窯は荒川豊蔵に発見された安土桃山時代の窯跡である。16世紀末から17世紀初頭まで、当時の茶人にもてはやされた「美濃桃山陶」の中心地であった。跡地から出てきた大量な志野、織部、黄瀬戸、瀬戸黒はかってのゴミだが、今や歴史を語る重要文化財である。 失敗作(ゴミ)といってもどこがと思うような完成品もある。花器・茶道具・茶懐石の器がほとんどで渋味の色合い、斬新で飄逸な…

  • 春の風

    近頃観た映画 ヒユーマンドラマというのは、「よかったなあ」と思うだけであまり何かを語りたいものではないが、最近観た二本の映画について記録のためにメモすることにした。 『さいはてにて やさしい香りと待ちながら』 2015年公開の邦画。ただし監督は台湾人のチアン・ショウチョン(女性)、主演は永井博美。 四歳の時父母の離婚で別れた父親を、彼が住んでいた海辺の廃屋を改装したカフェで待ち続けるという話である。観終わって気づいたのだが、ロケ地が石川県珠洲市の木ノ浦海岸。調べると当然ながら今回の地震で大きい被害があった地域のようだ。映画のモデルになったカフェは倒壊を免れたようで、地域の人の憩いになっているら…

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