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  • 『チョコレートコスモス』恩田陸 続篇の『ダンデライオン』はいつ出るの!!

    続きが気になる未完シリーズの第一作 2006年刊行作品。サンデー毎日の2006年6月27日号から2005年8月7日号にかけて連載された作品を単行本化したもの。さまざまな媒体で連載を持ったことのある恩田陸だけど、週刊誌連載はこれが初めてかな? チョコレートコスモス 作者:恩田 陸 毎日新聞社 Amazon 角川文庫版は2011年に刊行されている。 おススメ度、こんな方におススメ! おすすめ度:★★★★(最大★5つ) 演劇好きの方、『ガラスの仮面』が好きな方、終盤でうやむやにならない恩田陸作品を読みたい方、ハラハラドキドキする徹夜本を読みたい方におススメ! あらすじ 恵まれた容姿と天賦の才能。芸能…

  • 『誰が勇者を殺したか』駄犬 魔王は斃れた、そして勇者だけが還らなかった

    10万部突破の大人気作品 2023年刊行作品。作者の駄犬(だけん)は、小説投稿サイト「小説家になろう」出身のライトノベル作家。インタビュー記事によると40代の会社員。かつては書籍編集の仕事に就いていたこともあるみたい。 駄犬は『誰が勇者を殺したか』に先行し、2022年~2023年にかけて、「小説家になろう」にて『モンスターの肉を食っていたら王位に就いた件』を発表。続いて2023年に同様に「小説家になろう」にて、本作『誰が勇者を殺したか』を発表。こちらが話題となり、角川スニーカー文庫にて2023年9月に書籍化された。2024年のこの記事によると、発行部数は10万部を突破している。 2024年8月…

  • 『初夏ものがたり』山尾悠子 死者と生者のつかの間の再会を描く四編の物語

    山尾悠子の初期作品が復刊 作者の山尾悠子(やまおゆうこ)は1955年生まれの作家。主として幻想文学の書き手として知られる。 「初夏ものがたり」のオリジナルは、1980年刊行の『オットーと魔術師』(集英社文庫コバルトシリーズ)に収録されていた作品。 オットーと魔術師―SFファンタジー (1980年) (集英社文庫―コバルトシリーズ) Amazon その後2024年に、『オットーと魔術師』の中から「初夏ものがたり」だけが、単独で再文庫化された。ちくま文庫版である。 表紙及び、本文イラストは酒井駒子によるもの。カラー絵が8枚も収録されており、かなり力の入った文庫化と言える。解説は東雅夫が書いている。…

  • 『紗央里ちゃんの家』矢部嵩 僕の夏休み、すべてが歪み、狂っていく世界

    矢部嵩のデビュー作 2006年刊行作品。同年の、第13回日本ホラー小説大賞で長編賞を受賞している。矢部嵩(やべたかし)のデビュー作である。ちなみにこの年の大賞は「該当なし」。短編賞は吉岡暁(よしおかさとし)の『サンマイ崩れ』が受賞している。 矢部嵩は1986年生まれなので、およそ20歳の若さで作家デビューということになる。 紗央里ちゃんの家 作者:矢部 嵩 KADOKAWA Amazon 角川ホラー文庫版は2008年に登場。最初はこんな感じの書影だった。 その後、どこかの段階で改版されたのか、わたしが持っている2021(令和3)年の第4刷ではこんな表紙になっていた。カバーイラストは丹地陽子(た…

  • 『方舟』夕木春央 死んでもいいのは?救われるのは誰なのか?

    夕木春央の第三作品 2022年刊行作品。作者の夕木春央(ゆうきはるお)は、2019年の第60回メフィスト賞受賞作『絞首商會(こうしゅしょうかい)』がデビュー作。2021年には第二作である『サーカスから来た執達吏(しったつり)』を上梓している。 方舟 作者:夕木春央 講談社 Amazon 『絞首商會』『サーカスから来た執達吏』はいずれも大正時代を舞台とした本格ミステリ作品であったが、第三作である『方舟』は現代を舞台とした本格ミステリ作品となっている。 なお、最新作である『十戒(じっかい)』が2023年にリリースされており、こちらも現代が舞台の本格ミステリ作品。 講談社文庫版は2024年に登場。解…

  • 『黒牢城』米澤穂信 直木賞受賞!荒木村重✖黒田官兵衛の歴史ミステリ

    米澤穂信の歴史ミステリが登場 2021年刊行作品。タイトルの『黒牢城』は「こくろうじょう」と読む。英題は『Arioka Citadel case』。 KADOKAWAのWEBマガジン「文芸カドカワ」及び「カドブンノベル」に2019年~2020年にかけて掲載されていた作品に、加筆修正をした上で、書下ろし一篇を加えて上梓されたのが本作である。 黒牢城 (角川書店単行本) 作者:米澤 穂信 KADOKAWA Amazon 角川文庫版は2024年に刊行されている。巻末にはドイツ人ライターのマライ・メントラインによる解説文が収録されている。 直木賞受賞、六冠に輝いた作品! 第166回の直木賞受賞作が発表…

  • 「グイン・サーガ」40年目の到達点!あの人はどうなった?

    栗本薫「グインサーガ」のキャラクターがその後どうなったか、シリーズ40年分のネタバレまとめ。 五代ゆう、宵野ゆめによる続篇については全話感想を掲載。 リタイア組も、継続組の方も是非ご覧ください。

  • グインサーガ続篇149巻『ドライドンの曙』(最新刊) ヴァレリウス、クリスタルパレスに戻る

    続篇グイン・サーガ1年7カ月ぶりの新刊 2024年6月刊行作品。前巻の148巻『トーラスの炎』が2022年11月刊行だったので、およそ1年7カ月ぶりの新刊。147巻と148巻の刊行間隔が2年4カ月だったので、それに比べれば早かったとはいえ、相変わらず刊行ペースはゆったり。 タイトルの『ドライドンの曙』は「ドライドンのあけぼの」と読む。表紙絵はレムス。って、メッチャ久しぶりじゃない?? あらすじ かつて中原の華と称えられたパロの首都クリスタル。しかしヤンダル・ゾックと、彼に動かされたイシュトヴァーンの侵攻により、この街は壊滅的な打撃を受けていた。沿海州から派遣されたドライドン騎士団は、パロ宰相ヴ…

  • 『続ジャパネスク・アンコール!』氷室冴子 守弥、小萩をメインとした短編集、瑠璃さんも登場!

    「アンコール!」の第二弾が登場 1985年刊行作品。『なんて素敵にジャパネスク』『なんて素敵にジャパネスク2』『ジャパネスク・アンコール!』に続くシリーズ四作目。表紙及び本文イラストは峯村良子。 『ジャパネスク・アンコール!』同様に、外伝的な作品を集めた短編集となっている。 「ジャパネスク」シリーズは、基本的に刊行順に読むべき!従って、2巻を読んだあとは、3巻の「人妻編」よりも先に『ジャパネスク・アンコール!』と本作『続ジャパネスク・アンコール!』と読んでいくことを強くお勧めする。 なお、新装版は1999年に登場。イラストレータは後藤星に変更されている。現在手に入る版はこちらになる。大きな書店…

  • 『くらのかみ』小野不由美 ホラーと思わせておいて、しっかり本格ミステリ

    講談社ミステリーランドの第一期作品 2003年刊行作品。かつて子どもだったあなたと少年少女のための"講談社ミステリーランド"と銘打たれた特別企画の豪華本である。2016年で全30巻をもって完結している。 第一回の配本は本書『くらのかみ』に加えて、『透明人間の納屋』島田荘司と『子どもの王様』殊能将之で計三冊であった。 くらのかみ (ミステリーランド) 作者:小野 不由美 講談社 Amazon 箱装に箔押しのタイトル文字、総ルビにカラーイラストとお値段が高い分だけ気合い入りまくった装丁に衝撃を受けることは必至。カバーが無いのは学校の図書室に置かれることを想定しているのだろう。対象としては小学校高学…

  • 『老虎残夢』桃野雑派 武俠小説×本格ミステリ×歴史小説×〇〇

    第67回江戸川乱歩賞受賞作品 2021年刊行作品。タイトルの『老虎残夢』は「ろうこざんむ」と読む。作者の桃野雑派(もものざっぱ)は1980年生まれ。本作にて第67回江戸川乱歩賞を受賞し、作家デビューを果たしている。同時受賞作は伏尾美紀(ふせおみき)の『センパーファイ -常に忠誠を-』。 ちなみに、桃野雑派は前年の第66回江戸川乱歩賞では『インディゴ・ラッシュ』で最終選考まで残っていた(本書選評より)とのこと。 老虎残夢 作者:桃野雑派 講談社 Amazon 講談社文庫版は2024年に登場。巻末にはミステリ評論家千街晶之(せんがいあきゆき)による解説文も収録されている。 おススメ度、こんな方にお…

  • 『月と日の后』冲方丁 国母、ゴッドマザー藤原彰子の生涯を描く

    冲方丁が描く、平安歴史絵巻 2021年刊行作品。作者の冲方丁(うぶかたとう)は1977年生まれの小説家。デビュー作の『黒い季節』以来、エスエフ系統の作品を多く書いているが、2009年の『天地明察』では歴史小説にも挑戦している。『天地明察』はいきなり本屋大賞を受賞してしまい、以後、歴史小説の書き手としても冲方丁は大活躍している。 月と日の后 作者:冲方 丁 PHP研究所 Amazon PHP文庫版は2023年に刊行されている。文庫化に際して、上下巻に分冊された。文庫版の表紙イラストはアオジマイコ。 冲方丁の平安モノとしては、2013年刊行で、清少納言と一条天皇の中宮定子の関係性を描いた『はなとゆ…

  • 『火蛾(ひが)』古泉迦十 イスラム世界を舞台とした異色のミステリ

    ※以前に書いたエントリですが、文庫化に際して再読し、若干内容を修正、追記しました! 謎のメフィスト賞作家、古泉迦十 2000年刊行作品。第17回メフィスト賞受賞作である。 タイトルの『火蛾』は「ひが」と読み、作者名の古泉迦十は「こいずみかじゅう」と読む。1975年生まれ。『火蛾』は古泉迦十のデビュー作にして、2024年現在、唯一の作品となっている。 火蛾 (講談社ノベルス コJ- 1) 作者:古泉 迦十 講談社 Amazon 刊行は講談社ノベルス版のみで、長らく文庫化されていなかったが、23年の空白を経て、2023年5月に突如文庫化された。巻末の解説文はミステリ評論家の佳多山大地(かたやまだい…

  • 『#真相をお話します』結城真一郎 想像を超えた「真相」に震撼せよ!

    日本推理作家協会賞、受賞作を収録 2022年刊行作品。作者の結城真一郎(ゆうきしんいちろう)は1991年生まれのミステリ作家。2018年に『スターダスト・ナイト』(刊行時のタイトルは『名もなき星の哀歌』)が第5回新潮ミステリー大賞を受賞し作家としてのデビューを果たしている。 『#真相をお話します』は2019年~2022年にかけて、新潮社の小説誌「小説新潮」に掲載された五編の短編作品をまとめたもの。収束柵のひとつ「#拡散希望」は第74回日本推理作家協会賞の短編部門を受賞している。 #真相をお話しします 作者:結城真一郎 新潮社 Amazon 音声朗読のaudible版はこちら。ナレーションは声優…

  • 『三体3 死神永生』劉慈欣 時空の果て、わたしたちの星、わたしたちの宇宙

    三体シリーズ三部作の完結編 2021年刊行作品。オリジナルである中国版は2008年に刊行。『三体』『三体2 暗黒森林』の続編。劉慈欣(りゅうじきん/リウツーシン)による三体(地球往事)シリーズ三部作の最終作にあたる。死神永生は「ししんえいせい」と読む。 三体Ⅲ 死神永生 上 作者:劉 慈欣 早川書房 Amazon 三体Ⅲ 死神永生 下 作者:劉 慈欣 早川書房 Amazon ハヤカワ文庫版は2024年に登場。解説はエスエフ作家の藤井太洋(ふじいたいよう)。 おススメ度、こんな方におススメ! おすすめ度:★★★★★(最大★5つ) 『三体』『三体2 暗黒森林』を読んで、続編はまだかと心待ちにしてい…

  • 『冬期限定ボンボンショコラ事件』米澤穂信 「小市民」シリーズ四部作、最後の季節、高校時代の終わり

    「小市民」シリーズついに”冬期”が登場 2024年刊行作品。『春期限定いちごタルト事件』『夏期限定トロピカルパフェ事件』『秋期限定栗きんとん事件』そして短編集である『巴里マカロンの謎』に続く「小市民」シリーズの五作目にあたる作品である。文庫書下ろし。 もはや超売れっ子作家となった米澤穂信作品を単行本ではなく、最初から文庫で読めるのは、もはや「小市民」シリーズだけなのではなかろうか。その点、文庫で始まったのに最近はハードカバーで出る「古典部」シリーズとは対照的である。フォーマットを変えなかった東京創元社偉い! 表紙イラストはもちろん片山若子(かたやまわかこ)。片山若子にとしては「小市民」シリーズ…

  • 『俺ではない炎上』浅倉秋成 Twitter炎上の怖さと「責任を取る」ということ

    浅倉秋成の2022年最新作が登場 2022年刊行作品。書下ろし。2021年に『六人の嘘つきな大学生』が大ヒット。ブレイクを果たした感のある浅倉秋成の第七作である。 俺ではない炎上 作者:浅倉 秋成 双葉社 Amazon 表紙はスマートフォンの画面を模したデザインとなっている。しかもその表面のガラスがヒビ割れている。画像だけだとわかりにくいが、実際に触ってみるとこのヒビの部分が盛り上がった立体的なデザインで、かなり凝った仕掛けと言える。 ちなみに単行本版の表紙カバーを外してみるとこんな感じ。作中で登場するTwitterの投稿を模したテキストが配置されている。 表紙カバーを取ったところ 双葉社の公…

  • エドワード・ゴーリーの邦訳全作リストをご紹介!

    ※2024/6/15追記 神奈川県横須賀市の横須賀美術館で「エドワード・ゴーリーを巡る旅」展!7/6~9/1まで。これは行かないと!! ということで、しばらく更新してなかったので、久しぶりにゴーリー本のリストを更新しました。 邦訳されているゴーリー作品を全て紹介! エドワード・ゴーリー(Edward Gorey)は1925年生まれ。アメリカ人絵本作家である。2000年に亡くなられている。 彼の作風についてはWikipedia先生から引用させて頂こう。 絵本という体裁でありながら、道徳や倫理観を冷徹に押しやったナンセンスな、あるいは残酷で不条理に満ちた世界観と、徹底して韻を踏んだ言語表現で醸し出…

  • 『夏休みの空欄探し』似鳥鶏 謎解き×ロードノベル×忘れられない夏の思い出

    似鳥鶏が描く、夏のロードノベル 2022年刊行作品。作者の似鳥鶏(にたどりけい)は1981年生まれのミステリ作家。デビュー以来、ほぼ毎年のように複数作品を発表している多作家として知られる。 本作『夏休みの空欄探し』はポプラ社の文芸PR誌「季刊asta」のVol.1~Vol.3にかけて連載されていた「夏休みの3301」を改題のうえ、加筆修正して単行本化したもの。 カバー挿画は爽々(そうそう)が担当している。カバーに描かれているのは向かって右から、立原雨音、成田清春、立原七輝、成田頼伸になるかな。 夏休みの空欄探し 作者:似鳥鶏 ポプラ社 Amazon ポプラ文庫版は2024年に刊行。単行本版の後…

  • 『木挽町のあだ討ち』永井紗耶子 とある仇討ちをめぐる群像劇

    直木賞&山本周五郎賞のW受賞作 2023年刊行作品。タイトル『木挽町のあだ討ち』の読みは「こびきちょうのあだうち」。作者の永井紗耶子(ながいさやこ)は1977生まれ。産経新聞の記者からフリーライターに転身。その後2010年に『絡繰り心中』(単行本刊行時のタイトルは『恋の手本となりにけり』、文庫版ではさらに改題されて『部屋住み遠山金四郎 絡繰り心中』)で、小学館の小学館文庫小説賞を受賞し、作家としてのデビューを果たす。 2021年には『商う狼 江戸商人 杉本茂十郎』で、新田次郎文学賞を受賞。2022年には『女人入眼』が第167回直木賞の候補となった。そして本作『木挽町のあだ討ち』では、第36回の…

  • 『その意図は見えなくて』藤つかさ 安楽椅子探偵には解決できないことがある

    藤つかさのデビュー作 2022年刊行作品。作者の藤(ふじ)つかさは、1992年生まれのミステリ作家。2020年の「見えない意図」(単行本収録時に「その意図は見えなくて」に改題されている)が、第42回の小説推理新人賞を受賞し作家デビューを果たす。 本書『その意図は見えなくて』は、上記の小説推理新人賞受賞作他、双葉社のミステリ小説誌「小説推理」に発表された四作に、書下ろし一編を加えて上梓されたもの。藤つかさとしては初の著作となる。表紙イラストは中野カヲルが担当している。 その意図は見えなくて 作者:藤つかさ 双葉社 Amazon 双葉文庫版は2024年に登場。巻末の解説文はミステリ評論家の千街晶之…

  • 『風よ僕らの前髪を』弥生小夜子 第30回鮎川賞優秀賞受賞作品

    弥生小夜子のデビュー作 2021年刊行作品。作者の弥生小夜子(やよいさよこ)は1972年生まれ。過去には創元ファンタジー新人賞で第1回、第5回で最終選考まで残った実績がある。今回の『風よ僕らの前髪を』では、第30回鮎川賞の優秀賞を受賞し作家デビューを果たしている。 ちなみにこの年の鮎川賞の大賞は千田理緒(せんだりお)の『認識五色』。 風よ僕らの前髪を 作者:弥生小夜子 東京創元社 Amazon 創元推理文庫版は2024年に登場。解説は書店書評家の宇田川拓也(うだがわたくや)が書いている。 おススメ度、こんな方におススメ! おすすめ度:★★★(最大★5つ) ビターで切ない系の青春小説が好みの方。…

  • 『じんかん』今村翔吾 新たな松永久秀像を提示した一作

    「じんかん」とは?2020年の直木賞候補作。今村翔吾『じんかん』のあらすじ、ネタバレ感想です。松永久秀ファンなら必読!

  • 『少女には向かない職業』桜庭一樹 少女の魂は殺人には向かない

    ブレイク目前の桜庭一樹、初の一般向けミステリ作品 2005年刊行。2003年のファミ通文庫『赤×ピンク』、2004年の富士見ミステリー文庫『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』と、ライトノベルの世界でただものではない凄みを見せつけた桜庭一樹が、一般向けのミステリ作品として初めて書き下ろしたのが本作である。 少女には向かない職業 (ミステリ・フロンティア) 作者:桜庭 一樹 東京創元社 Amazon ミステリ界への殴り込み一作目は東京創元社のミステリフロンティアシリーズからの登場だった。2006年版このミス国内部門第20位にランクインしている。 なお、創元推理文庫版は2007年に登場。解説は文芸評論家…

  • 『成瀬は信じた道をいく』宮島未奈 成瀬シリーズ第二弾!高校3年秋~大学1年編

    成瀬あかりにまた会える! 本屋大賞受賞作『成瀬は天下を取りにいく』のその後を描いた続編的作品。 2024年刊行。5編の短編を収録。そのうち「やめたいクレーマー」は、新潮社の小説誌「小説新潮」の2023年5月号掲載。他の4編はすべて書下ろしとなっている。表紙及び口絵のイラストはざしきわらしによるもの。 前作『成瀬は天下を取りにいく』の感想はこちらから。 おススメ度、こんな方におススメ! おすすめ度:★★★★(最大★5つ) 前作を読んで成瀬あかりに魅了された方。成瀬あかりの生涯を見届けたいと思った方。滋賀県が大好き!滋賀県ローカルの小説作品を読んでみたいと思っている方。ちょっと変わったヒロインが主…

  • 『なんて素敵にジャパネスク2』氷室冴子 人気を決定的にしたシリーズ最高傑作巻

    「なんて素敵にジャパネスク」シリーズ最高傑作 1985年刊行作品。前年に刊行された『なんて素敵にジャパネスク』の続篇。前作同様に表紙及び本文イラストは峯村良子によるもの。 イラストが後藤星に替わった新装版は1999年に登場。表紙を飾っているのは鷹男(今上帝)。 なんて素敵にジャパネスク 2 ―新装版― なんて素敵にジャパネスク シリーズ(2) (なんて素敵にジャパネスク シリーズ) (コバルト文庫) 作者:氷室 冴子 集英社 Amazon 2012年には小中学生向けのレーベル、集英社みらい文庫版が登場。こちらのイラストは佐嶋真実によるもの。 なんて素敵にジャパネスク 2 みらい文庫版 (なんて…

  • 『三体2 黒暗森林』劉慈欣 面壁者VS破壁人、シリーズ二作目は頭脳バトルだ!

    三体シリーズ三部作の第二作 2020年刊行作品。オリジナルの中国版は2008年に刊行。劉慈欣(りゅうじきん/リウツーシン)による三体(地球往事)三部作の第二作。『三体』の続編にあたり、最終第三作の『三体3 死神永生』へと繋がっていく作品である。 三体Ⅱ 黒暗森林 上 作者:劉 慈欣 早川書房 Amazon 三体II 黒暗森林 下 作者:劉 慈欣 早川書房 Amazon 解説は『雪が白いとき、かつそのときに限り』の陸秋槎(りくしゅうさ)が担当。大森望による訳者あとがきも収録されている。 ハヤカワ文庫版は2024年に登場している。 おススメ度、こんな方におススメ! おすすめ度:★★★★★(最大★5…

  • 『地雷グリコ』青崎有吾 魅力的な「ゲーム」と緻密な論理の物語

    青崎有吾が描く、学園頭脳バトル 2023年刊行作品。「小説屋sari-sari」「カドブンノベル」「小説野生時代」等に掲載されていた作品に書下ろし一編を追加して単行本化したもの。英題は『GLICO WITH LANDMINES』。 第24回本格ミステリ大賞受賞作(おめでとうございます!)。11月刊行だったから、2023年のミステリ各賞にはランクインしなかったけど、2024年の部では上位に入ってきそうだよね。 作者の青崎有吾(あおさきゆうご)は1991年生まれのミステリ作家。デビュー作は第22回の鮎川賞を獲った、2012年刊行の『体育館の殺人』。主なシリーズ作品に「裏染天馬」シリーズ、「アンデッ…

  • 『巴里マカロンの謎』米澤穂信 11年ぶりの「小市民」シリーズ続巻

    祝『冬期限定ボンボンショコラ事件』刊行と言うことで、「小市民」シリーズの旧記事をアップしています。本日は『巴里マカロンの謎』です。 小鳩くんと、小佐内さんに久しぶりに会える! 2020年刊行作品。『春期限定いちごタルト事件』『夏期限定トロピカルパフェ事件』『秋期限定栗きんとん事件』に続く、米澤穂信の「小市民」シリーズ四作目。前作の『秋期限定栗きんとん事件』が2009年の作品だから、なんと11年ぶりのシリーズ続篇ということになる。 うっかりすると嬉々として謎を解いてしまう小鳩常悟朗(こばとじょうごろう)と、油断するとすぐに復讐の手段を考えてしまう小佐内ゆき(おさないゆき)。自意識高め、互恵関係に…

  • 『秋期限定栗きんとん事件』米澤穂信 「小市民」シリーズ三作目。欠落と補完、需要と供給、唯一無二の理解者

    祝『冬期限定ボンボンショコラ事件』刊行と言うことで、「小市民」シリーズの旧記事をアップしています。本日は「秋期限定」です。 本ブログは基本ネタバレありで書いている、今回は『秋期限定栗きんとん事件』だけでなく、『春期限定いちごタルト事件』『夏期限定トロピカルパフェ事件』についても内容について触れているので、その点ご注意いただきたい。 米澤穂信の「小市民」シリーズ第三弾 2009年刊行作品。『春期限定いちごタルト事件』『夏期限定トロピカルパフェ事件』に続く「小市民」シリーズの三作目にあたる作品である。今回は、文庫書下ろし。 過去の二作は連作短編形式であったが、今回はシリーズ初の長編作品。しかも上下…

  • 『夏期限定トロピカルパフェ事件』米澤穂信 小佐内さんの本質が見えてくる「小市民」シリーズ第二作

    祝『冬期限定ボンボンショコラ事件』刊行と言うことで、「小市民」シリーズの旧記事をアップしています。本日は「夏期限定」です。 米澤穂信の「小市民」シリーズ第二弾 2006年刊行作品。東京創元社の文芸誌『ミステリーズ!』に掲載された「シャルロットだけはぼくのもの」「シェイク・ハーフ」に書き下ろしとなる短編四作を加えて上梓されたもの。 『春期限定いちごタルト事件』に続くシリーズ第二弾。その後『秋期限定栗きんとん事件(上下巻)』、2020年刊行の11年ぶりの新作『巴里マカロンの謎』へとシリーズが繋がり、更に2024年に完結編となる『冬期限定ボンボンショコラ事件』が刊行されている。最初から文庫オリジナル…

  • 『春期限定いちごタルト事件』米澤穂信 地味に静かに暮らしたい!「小市民」シリーズの一作目!

    米澤穂信「小市民」シリーズの一作目。あらすじ、各編ごとのネタバレ感想を収録。小鳩くんと小佐内さんが食べたスイーツのリスト。マンガ版の解説もあります。

  • 『なんて素敵にジャパネスク』氷室冴子 累計発行部数800万部超の大ヒット作

    氷室冴子最大のヒット作「ジャパネスク」シリーズ開幕 1984年刊行作品。集英社のジュニア向け小説誌「小説ジュニア」、及び「Cobalt」に掲載されていた作品を、コバルト文庫にて書籍化したもの。全10巻。氷室冴子最大のヒット作。累計発行部数は800万部を越えており、女性向けのライトノベル作品としては屈指の実績を残した金字塔的な作品である。表紙及び本文イラストは、『少女小説家は死なない!』『蕨ヶ丘物語』でも氷室作品を担当した峯村良子が描いている。 1999年には新装版が登場。こちらのイラストは後藤星(ごとうせい)によるもの。一部改稿が入っている。現在読めるのはこちらの版ではないかと思われる。いまで…

  • 『天地明察』冲方丁 第7回本屋大賞受賞作

    冲方丁の大ブレイク作品 2009年刊行作品。角川書店の文芸誌『野性時代』に2009年1月号から7月号まで連載されていた作品をまとめたもの。本作で冲方丁(うぶかたとう)は、第7回本屋大賞、及び、第31回吉川英治文学新人賞を受賞。また、第143回直木賞の候補作にもなっている。 2003年の『マルドゥック・スクランブル』が初期の出世作だとするならば、『天地明察』はより広い読者層に支持された大ブレイク作品と位置付けることが出来るだろう。本作で冲方丁の一般層への知名度は大きく向上した。 天地明察 作者:冲方 丁 角川書店(角川グループパブリッシング) Amazon 角川文庫版は2012年に刊行されている…

  • 『わたしたちが光の速さで進めないなら』キム・チョヨプ エモーショナルなエスエフ短編集

    韓国の新鋭キム・チョヨプのデビュー作 2020年刊行作品。オリジナルの韓国版は2019年刊行で原題は『우리가 빛의 속도로 갈 수 없다면』。作者のキム・チョヨプ(김초엽/金草葉)は1993年生まれの韓国人エスエフ作家。 本作に収録されている「館内紛失」が第2回韓国科学文学賞中短編部門で大賞を受賞。同じく「わたしたちが光の速さで進めないなら」が佳作を受賞し作家として世に出ることになった。 巻末には韓国の文芸評論家イン・ヨアンによる「美しい存在たちの居場所を探して」と題された解説が収録されている。このテキストは本書の特質を、よく捉えた良解説なのだが、思いっきりネタバレされているので、本文を読んで…

  • 『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈 成瀬あかり史を島崎と一緒に見届けたい!

    本屋大賞受賞おめでとうございます!ってことで、再度上げておきますね。読むと元気の出る良作なので、これで更にたくさんの方に読んでもらえるのは嬉しい。 宮島未奈のデビュー作&本屋大賞受賞作! 2023年刊行作品。作者の宮島未奈(みやじまみな)は1983年生まれの小説家。2018年「二位の君」が、集英社の第196回コバルト短編小説新人賞に入選(宮島ムー名義)。そして本作に収録されている「ありがとう西武大津店」が、新潮社主宰の第20回女による女のためのR-18文学賞で、大賞・読者賞・友近賞の三冠を達成。その後、「ありがとう西武大津店」は、新潮社の小説誌『小説新潮』に掲載され、作家デビューを果たしている…

  • 『揺籠のアディポクル』市川憂人 無菌室病棟での特殊設定ミステリ

    市川憂人の第五作 2020年刊行作品。作者の市川憂人(いちかわゆうと)は1976年生まれ。2016年のデビュー作『ジェリーフィッシュは凍らない』が第26回鮎川哲也賞を受賞している。 揺籠のアディポクル 作者:市川 憂人 講談社 Amazon 『ジェリーフィッシュは凍らない』以降、『ブルーローズは眠らない』『グラスバードは還らない』『神とさざなみの密室』とほぼ年に一作のペースで新作を上梓しており、本作『揺籠のアディポクル』は第五作となる。 講談社文庫版は2024年に刊行されている。 おススメ度、こんな方におススメ! おすすめ度:★★★(最大★5つ) 少年少女を主人公としたミステリを読んでみたい方…

  • 『冬にそむく』石川博品 あたりまえの日常を奪われた世界で

    2023年4月刊行作品。発売されて早々にゲットしたのだが、タイトル的にこれは冬に読むべき!と思って10ヵ月寝かせてようやく読んだ。ホントは冬の間に感想をあげたかったのだけど、ボヤボヤしているうちに春になってしまったよ。。。 石川博品の新作が三年振りに登場! 作者の石川博品(いしかわひろし)は1978年生まれのライトノベル作家。第10回エンターブレインえんため大賞小説部門優秀賞を受賞した、2009年刊行の『耳刈ネルリ御入学万歳万歳万々歳』がデビュー作。 わたし的には初読みの作家さんになる。有名なのはデビュー作のシリーズと『ヴァンパイア・サマータイム』、『海辺の病院で彼女と話した幾つかのこと』あた…

  • 『三体』劉慈欣 全世界2900万部の超ベストセラーSF

    「三体」シリーズ三部作の一作目 2019年刊行作品。オリジナルの中国版は2006年に中国のSF雑誌『科幻世界』に連載されていたもので、2008年に書籍化されている。作者の劉慈欣(りゅうじきん/リウツーシン)は1963年生まれの中国人SF作家。本作で、2015年のヒューゴー賞をアジア人として初めて受賞している。 三体 作者:劉 慈欣 早川書房 Amazon ハヤカワ文庫版は2024年2月に刊行されている。 本作は劉慈欣による「三体(地球往事)」シリーズ三部作の一作目。三部作累計での発行部数は2900万部を超えており、全世界的なベストセラー作品となっている。SF作品がここまで売れるなんてスゴイ! …

  • 滝本竜彦『ネガティブハッピー・チェーンソーエッジ』 平凡な男子高校生と美少女戦士、そしてチェーンソー男

    滝本竜彦のデビュー作 2001年作品。作者の滝本竜彦(たきもとたつひこ)は1978年生まれの小説家。本作で第5回角川学園小説大賞特別賞を受賞し作家デビューを果たした。表紙絵はイラストレータの安倍吉俊(あべよしとし)によるもの。 2004年に角川文庫版が出ている。 ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ (角川文庫) 作者:滝本 竜彦 KADOKAWA Amazon 滝本竜彦の既刊は以下の通り。作家としてのキャリアは20年を超えるが、寡作のため著作は七作しかない。 ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ(2001年/角川書店) NHKにようこそ!(2002年/角川書店) 超人計画(2003年/角…

  • 『九月と七月の姉妹』デイジー・ジョンソン 対照的な二人、歪な関係の行きつく先は……

    デイジー・ジョンソンの第二長編 2023年刊行作品。オリジナルのイギリス版は2020年刊行で英題は『Sisters』。作者のデイジー・ジョンソン(Daisy Johnson)は1990年生まれのイギリス人作家。2016年の短編集『Fen』がデビュー作。2018年には第一長編となる『Everything Under』を上梓。本作はそれに続く第二長編となる。訳者は市田泉(いちだいずみ)。表紙イラストは、昨今大人気のイラストレータ榎本マリコによるもの。ちなみにブロンド(稲妻の髪)の方がセプテンバーで、黒髪がジュライ。 短編集『Fen』掲載の「アホウドリの迷信」については、以前に紹介した岸本佐和子、柴…

  • 『真実の10メートル手前』米澤穂信 太刀洗真智の活躍を描くベルーフシリーズ

    ベルーフシリーズの第二作 2015年刊行作品。青土社の芸術総合誌「ユリイカ」、東京創元社のミステリ誌「ミステリーズ!」等に収録されていたいた短編をまとめたもの。 2016年「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門で第2位、2017年「ミステリが読みたい!」で国内編第1位、「このミステリーがすごい!」国内編では第3位と、ミステリ系各章で高い評価を受けた作品である。また、2016年、第155回直木賞の候補作でもあった。 真実の10メートル手前 作者:米澤 穂信 東京創元社 Amazon 創元推理文庫版は2018年に登場している。文庫版では単行本になかった解説が収録されており、宇田川拓也が執筆を担当…

  • 『まひるの月を追いかけて』恩田陸の描く旅の情景が素晴らしい

    恩田陸の紀行モノ 2003年刊行作品。文藝春秋の小説誌「オール讀物」に2001年7月号から2002年8月号にかけて6回に渡り掲載された作品を単行本化したもの。恩田陸22作目の作品。 まひるの月を追いかけて 作者:恩田 陸 文藝春秋 Amazon 文春文庫版は2007年に刊行されている。解説は佐野史郎が担当。 おススメ度、こんな方におススメ! おすすめ度:★★★(最大★5つ) 旅行、旅、非日常の世界で繰り広げられる物語を堪能したい方。奈良が好き!古都、奈良に行ってみたいと思っている方。複雑な人間関係を描いた作品を読んでみたい方。テンション低めのヒロインが好きな方におススメ。 あらすじ 異母兄、研…

  • 『電氣人閒の虞(おそれ)』詠坂雄二 都市伝説と怪異の発生システム

    詠坂雄二の第三作 2009年刊行作品。『リロ・グラ・シスタ』『遠海事件』に続く、詠坂雄二(よみさかゆうじ)の第三作である。 電氣人閒の虞 作者:詠坂 雄二 光文社 Amazon 光文社文庫版は2014年の登場。こちらはミステリ評論家、佳多山大地(かたやまだいち)の解説が収録されている。 おススメ度、こんな方におススメ! おすすめ度:★★★(最大★5つ) 怪異や妖怪、不思議で超自然的な存在が登場する作品を読んでみたい方。民俗学ネタ、都市伝説的な要素が入ったミステリ作品を読んでみたい方。詠坂雄二ファンの方。詠坂雄二作品だから何が起こっても大丈夫!と思える方におススメ。 あらすじ 人びとが語るところ…

  • 『月の輝く夜に/ざ・ちぇんじ』氷室冴子 没後に刊行された未文庫化作品集

    氷室冴子没後に発売された文庫未収録作品集 2012年刊行作品。作者の氷室冴子(ひむろさえこ)は1957年生まれ。シリーズ累計800万部を誇る『なんて素敵にジャパネスク』他、多数のヒット作で知られ、1980年代のライトノベル界(当時はライトノベルとは言わなかったけど)に君臨した人気作家だ。 残念ながら氷室冴子は肺がんのため51歳の若さで早逝している。2008年没。本書『月の輝く夜に/ざ・ちぇんじ』は氷室冴子が生前に発表した作品のうち、文庫化されていなかった作品をまとめた作品集だ。 表紙及び本文中のイラストはマンガ家の今市子(いまいちこ)によるもの。ただし、本文中のイラストがあるのは「月の輝く夜に…

  • 『一線の湖』砥上裕將 魅力的な水墨画の世界と、瑞々しいタッチの成長小説

    『線は、僕を描く』の続篇が登場 2023年刊行作品。作者の砥上裕將(とがみひろまさ)は1984年生まれの小説家。デビュー作は第59回のメフィスト賞受賞作『線は、僕を描く』(応募時タイトルは『黒白の花蕾』)。この作品は横浜流星(よこはまりゅうせい)の主演で映画化され話題になった。 砥上裕將は、その後2021年に短編集『7.5グラムの奇跡』を上梓。そして三作目として書かれたのが本作『一線の湖』だ。本作は『線は、僕を描く』のその後を描いた続編作品となる。表紙イラストは前回に続きイラストレータの丹地陽子が担当している。 担当編集者によるコラム記事はこちら。この記事によると前作の部数は20万部を越えたら…

  • 『歌われなかった海賊へ』逢坂冬馬 第二次大戦下のドイツ、反体制活動に身を投じた少年少女たちの物語

    逢坂冬馬待望の第二作 2023年刊行作品。作者の逢坂冬馬(あいさかとうま)は1985年生まれの小説家。デビュー作は2021年のアガサ・クリスティー賞受賞作『同志少女よ、敵を撃て』。同作は翌年の本屋大賞を受賞。直木賞の候補作にもなるなど、各方面で話題になった。 『歌われなかった海賊へ』はそんな逢坂冬馬、待望の第二作ということになる。デビュー作がこれだけ評価され、話題になってしまうと第二作に対しての読む側のハードルは上がってしまう。書く側のプレッシャーは相当のものがあったのではないだろうか。 ちなみに、前作同様に表紙イラストは雪下まゆが担当している。一枚絵が早川書房のサイトで公開されていたので引用…

  • 『葬式同窓会』乾ルカ あの頃にはもう戻りたくない青春の後始末

    白麗高校三部作の三作目 2023年刊行作品。書下ろし。作者の乾ルカは1970年生まれの作家。18年のキャリアで、30作近い作品を上梓している。代表作は直木賞候補作にもなった『あの日にかえりたい』、大藪春彦賞の候補作『メグル』、そしてドラマ化された『てふてふ荘へようこそ』あたりかな。 以前に紹介した2021年の『おまえなんかに会いたくない』、そして2022年の『水底のスピカ』と共に、白麗(はくれい)高校三部作とされている作品の三作目。 っていうか、そうなんだ(巻末の広告を見て初めて知った)!深く考えずに読んでしまったけど、二作目の『水底のスピカ』を先に読むべきだったかも。。 表紙イラストはすっか…

  • 『文学少女対数学少女』陸秋槎 二人の関係のその後が気になる!!

    陸秋槎の第三作 2020年刊行作品。陸秋槎(りくしゅうさ/ ル・チュウチャ)としては、『元年春之祭』『雪が白いとき、かつそのときに限り』に続く三作目となる。過去二作はハヤカワ・ポケット・ミステリからの登場であったが、本作はハヤカワ文庫からの刊行となっている。また、表紙イラストは爽々(そうそう)が担当している。 オリジナルの中国版は2019年に刊行されており、タイトルは『文学少女对数学少女』と、邦題と同様である。 文学少女对数学少女 陆秋槎 著新星出版社】青春推理旗手探求逻辑思维严密与自由之辩的珠玉短篇侦探悬疑推理小说集 作者:陆秋槎 著; 新星出版社 Amazon おススメ度、こんな方におスス…

  • 『エレファントヘッド』白井智之 複雑に入り組んだ本格ミステリの迷宮

    2023年のミステリ界を席巻した一作 2023年刊行。書下ろし作品。作者の白井智之(しらいともゆき)は1990年生まれのミステリ作家。ここ数年は意欲作を連発し、年末のミステリ系各賞の常連となった感がある。長編作品としては2022年の『名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件』に続く、六作目の作品となる。 『エレファントヘッド』は2023年のミステリ系各賞では、すべてで一桁順位にランクイン。 週刊文春ミステリーベスト10:4位 このミステリーがすごい!:4位 本格ミステリ・ベスト10:1位 ミステリが読みたい!:7位 特に「本格ミステリ・ベスト10」では第一位(昨年の『名探偵のいけにえ 人民教会殺人事…

  • 『失恋の準備をお願いします』浅倉秋成 ラウンドアバウト形式の連作ユーモアミステリ

    浅倉秋成の第三作を改題して文庫化 電子雑誌BOX-AIR(ボックス・エアー)の2015年3月号~7月号に連載されていた作品。 まず、2016年に『失恋覚悟のラウンドアバウト』のタイトルで、講談社BOXレーベルで書籍化されている。この時のイラストは中村ゆうひが担当。 失恋覚悟のラウンドアバウト 作者:浅倉 秋成,中村 ゆうひ 講談社 Amazon 本作は長らく、入手困難な状態が続いていたが、折からの浅倉秋成人気を受け、2020年講談社タイガレーベルにて復刊を果たした。この際タイトルが『失恋の準備をおねがいいします』に変更されている。イラストはusi(うし)が担当。 おススメ度、こんな方におススメ…

  • 『暗がりで本を読む』徳永圭子 きっとあなたに届く書評集

    現役書店員による書評集 2020年刊行。筆者の徳永圭子(とくながけいこ)は1974年生まれの現役書店員。こちらの記事を読む限りでは丸善の方である様子。「本屋大賞、地域イベントのブックオカなどの本のイベントに実行委員として携わる」とあるので、いわゆるカリスマ店員さんということになるのかな。 徳永圭子は本業の傍ら、新聞、雑誌などで書評、コラムを執筆している。 『暗がりで本を読む』は「本の雑誌」に掲載された原稿を中心に、書下ろしを加えて上梓したもの。本書が初書籍となる。 おススメ度、こんな方におススメ! おすすめ度:★★★★(最大★5つ) 新しいジャンルを開拓したい、魅力的な本に出会いたい、普段読ま…

  • 『たべもの芳名録』神吉拓郎 直木賞作家による昭和のグルメエッセイで食を満喫

    美味しいものを食べたくなるエッセイ 新潮社の小説誌「小説新潮」に1979年1月号から1980年12月号にかけて連載された、エッセイ「食物ノート」を書籍化したもの。単行本版は新潮社から出ている。1984年の刊行。 筆者の神吉拓郎(かんきたくろう)は1928年生まれの作家、エッセイスト。1984年に『私生活』で直木賞受賞している。 たべもの芳名録 作者:神吉 拓郎 新潮社 Amazon 続いて文庫版が文春文庫から1992年に登場。 たべもの芳名録 (文春文庫 か 5-8) 作者:神吉 拓郎 文藝春秋 Amazon この文春版が、2017年にちくま文庫で再文庫化されている。わたしが読んだのはこちらの…

  • 『この銀盤を君と跳ぶ』綾崎隼 二人の天才とそれぞれの伴走者の物語

    綾崎隼のスポ根フィギュアスケート小説が登場 2023年刊行作品。作者の綾崎隼(あやさきしゅん)は1981年生まれ。第16回の電撃小説大賞選考委員奨励賞を受賞した『蒼空時雨』(応募時タイトルは『夏恋時雨』)で作家デビューを果たしている。メディアワークス文庫での活躍が長く、著作の半数以上が同レーベルから発売されている。 ここ数年は一般文芸の世界にも進出しており、当ブログでも2020年の『盤上に君はもういない』や2021年の『死にたがりの君に贈る物語』をご紹介している(どちらも良作!)。 とても目を引く表紙イラストはつん子によるもの。この絵、本当に良い!本作の登場人物の一人、京本瑠璃(きょうもとるり…

  • 『赤いモレスキンの女』アントワーヌ・ローラン 人は人生を変えられる

    小粋な現代のおとぎ話 2020年刊行作品。オリジナルのフランス版は2014年刊行。原題は「La femme au carnet rouge」である。 作者のアントワーヌ・ローラン(Antoine Laurain)は1972年生まれ。 2007年にドゥルオー賞を受賞した『行けるなら別の場所で(Ailleurssi je y suis)』がデビュー作。その後2012年の『ミッテランの帽子(Le Chapeau de Mitterrand)』がランデルノー賞、ルレ・デ・ヴォワイヤジュール賞を受賞。一躍知名度を上げた。日本では『赤いモレスキンの女』同様に、新潮クレスト・ブックスから邦訳が刊行されている…

  • 『光の帝国』『蒲公英草紙』『エンド・ゲーム』恩田陸の「常野物語」シリーズをまとめて紹介!

    本日は恩田陸、初期の人気シリーズ「常野(とこの)物語」三作の感想をまとめてお届けしたい。 「常野(とこの)物語」シリーズの読む順番 恩田陸の「常野物語」シリーズの既刊は以下の三作。 光の帝国 常野物語(1997年) 蒲公英草紙(たんぽぽそうし) 常野物語(2005年) エンド・ゲーム 常野物語(2006年) 各エピソードは独立した構成になってはいるものの、前作の内容を踏まえたかたちで書かれているので、刊行順で読むことをお薦めしたい。 おススメ度、こんな方におススメ! おすすめ度:★★★(★)(最大★5つ) ※一作目の『光の帝国』が★×4、二作目『蒲公英草紙』三作目『エンド・ゲーム』が★×3 恩…

  • 『王とサーカス』米澤穂信を『さよなら妖精』へのアンサーとして読む

    ミステリランキング三冠に輝いた話題作 2015年刊行作品。この年の「週刊文春ミステリーベスト10」「ミステリが読みたい!」「このミステリーがすごい!」すべての国内部門で第一位を獲得する三冠を達成。米澤穂信(よねざわほのぶ)の代表作のひとつとなっている。 王とサーカス 作者:米澤 穂信 東京創元社 Amazon 創元推理文庫版は2018年に刊行されている。 おススメ度、こんな方におススメ! おすすめ度:★★★★(最大★5つ) ミステリーランキングでトップに輝いた人気作品を読んでみたい方。ネパール王国の首都、カトマンズで繰り広げられる異国情緒に満ちたミステリ作品を読みたい方。米澤穂信の『さよなら妖…

  • 『ゴールデンタイムの消費期限』斜線堂有紀 才能を失っても生きていていいですか?

    枯れた才能は再生できる? 2021年刊行作品。作者の斜線堂有紀(しゃせんどうゆうき)は、2020年、『楽園とは探偵の不在なり』のヒットで注目を集めたが、その後の第一作が本作ということになる。通算では十三作目。斜線堂有紀は2017年デビューだから、これだけの数の作品を世に出せているのは凄い。 ゴールデンタイムの消費期限 (文芸単行本) 作者:斜線堂有紀 祥伝社 Amazon 祥伝社文庫版は2024年に登場。解説は作家の桜庭一樹が書いている。 おススメ度、こんな方におススメ! おすすめ度:★★★(最大★5つ) 才能と人生について考えてみたい方。AIに興味のある方。若い頃は神童と呼ばれていたのに、大…

  • 2023年に読んで面白かった小説12選

    旬のタイミングを逃した感がスゴイけど、毎年書いているので今年も書く。おススメ小説の12選!「2023年に読んだ本」が対象であって、2023年に刊行された本ではないのでその点はご注意を。読了直後のTwitterコメントと併せてどうぞ! ちなみに、非小説部門のベスト記事はこちら。 そして、これまでの「面白かった小説約10選」系の記事はこちらから。 2022年に読んで面白かった小説13選 2021年に読んで面白かった小説11選 2020年に読んで面白かった小説10選 2019年に読んで面白かった小説10選 [少女庭国]/矢部嵩 魔女の子供はやってこない/矢部嵩 成瀬は天下を取りにいく/宮島未奈 光の…

  • 『死体埋め部の回想と再興』斜線堂有紀 死体埋め部シリーズの追加エピソード&後日譚

    死体埋め部シリーズの完結編? 2000年刊行作品。前年に刊行された『死体埋め部の悔恨と青春』に続く、死体埋め部シリーズの第二弾。2019年~2021年にかけての斜線堂有紀(しゃせんどうゆうき)の量産っぷりはすさまじく、毎年4作以上の作品を上梓している。本作は2000年では四作目の作品になる。 web配信サービスのnoteに掲載されていた一編に、書下ろし三編を加えて文庫化したもの。前作に引き続き表紙イラストはとろっちによる。 おススメ度、こんな方におススメ! おすすめ度:★★★(最大★5つ) 死体埋め部シリーズの一作目『死体埋め部の回想と再興』を読んでいる方(本作から先に読むのは絶対におススメし…

  • 『九度目の十八歳を迎えた君と』浅倉秋成 青春時代からの呪いを解く

    浅倉秋成の第五作 2019年刊行作品。『ノワール・レヴナント』『フラッガーの方程式』『失恋覚悟のラウンドアバウト』(文庫化時に『失恋の準備をお願いします』に改題)『教室が、ひとりになるまで』に続く、浅倉秋成(あさくらあきなり)の第五作である。東京創元社のミステリ・フロンティアレーベルからの刊行であった。表紙イラストは瀬戸羽方。 九度目の十八歳を迎えた君と (ミステリ・フロンティア) 作者:浅倉 秋成 東京創元社 Amazon 創元推理文庫版は2020年11月に登場。文庫版には若林踏(わかばやしふみ)の解説が収録されている。表紙のイラストは前田ミックが担当。 ミステリ・フロンティア版が出てから二…

  • 『極楽征夷大将軍』垣根涼介 史上もっともやる気のなかった天下人と有能すぎた弟

    第169回直木賞受賞作品 2023年刊行作品。第169回の直木賞を受賞している。文芸春秋の小説誌「オール讀物」の2020年5月号~2022年11月号にかけて連載されていた作品を加筆修正のうえで単行本化したもの。表紙絵はイラストレータの岡田航也(おかだこうや)によるもの。 作者の垣根涼介(かきねりょうすけ)は1966年生まれ。デビュー作は、2000年刊行、サントリーミステリー大賞(大賞・読者賞)を受賞した『午前三時のルースター』。ストリートギャングの少年たちを描いた「ヒートアイランド」シリーズや、サラリーマン小説である「君たちに明日はない」で知られるが。2013年の『光秀の定理』の定理以降は、歴…

  • 『午後のチャイムが鳴るまでは』阿津川辰海 解決まで65分!昼休み限定の学園ミステリ

    阿津川辰海の学園ミステリ 2023年刊行作品。阿津川辰海(あつかわたつみ)の第八作。実業之日本社のムック「THE FORWARD」及び、Webメディア「Webジェイ・ノベル」に掲載されていた作品に、書下ろし一編を加えて単行本化したもの。 表紙及び扉絵はイラストレータ、マンガ家のオオタガキフミによるもの。 実業之日本社による公式ページはこちら。本作について、作者インタビューも収録されているので必読(ただし読後に)。 また、第一話の「RUN! ラーメン RUN!」が無料で読めるお試し版も公開されている。 午後のチャイムが鳴るまでは【試し読み増量版】 作者:阿津川 辰海 実業之日本社 Amazon …

  • 『追想五断章』米澤穂信 リドルストーリーと最後の一行

    「青春去りし後の人間」を描いた一作 2009年刊行作品。集英社の文芸誌『小説すばる』の2008年6月号~12月号にかけて連載されていた作品を、加筆修正の上で単行本化したもの。 追想五断章 作者:米澤 穂信 集英社 Amazon 集英社文庫版は2012年に登場している。解説は葉山響(はやまひびき)。 単行本版とはカバーデザインが全く変わってしまっており、単行本派としては少々残念である。 単行本版の帯には「米澤穂信が初めて「青春去りし後の人間」を描く最新長編」とある。少年少女が主人公ではない点で「青春去りし後の人間」を描いたことには異論がない。しかし2005年作品の『犬はどこだ』では25歳の人物が…

  • 『ねじの回転』ヘンリー・ジェイムズ ヴィクトリア朝時代のイギリスを舞台とした心霊小説

    ヘンリー・ジェイムズの代表作のひとつ 1898年作品。原題は「The Turn of the Screw」。古い翻訳だと『ねじのひねり』とされていることもあるかな。作者のヘンリー・ジェイムズ(Henry James)は1843年生まれ。アメリカで生まれ、イギリスで活躍した小説家。1916年に没している。 邦訳版は古くからいくつも出ているのだけど、わたしが読んだのは2012年刊行。光文社、土屋政雄(つちやまさお)訳の古典新訳文庫版。 光文社版は960円(税別)とややお高め。お買い得さで考えると2017年に出た、新潮文庫名作新訳コレクションの『ねじの回転』が490円(税別)とリーズナブル。こちらは…

  • 『ハイファに戻って/太陽の男たち』ガッサーン・カナファーニー 難民となったパレスチナ人の苦難を綴った作品集

    爆殺されたパレスチナ人作家 作者のガッサーン・カナファーニー(Ghassan Fayiz Kanafani/غسان كنفاني)は、1936年生まれのパレスチナ人。12歳の時に、ユダヤ人系武装組織に故郷を襲撃され難民となる。その後、作家、ジャーナリストとして活躍したが、1972年、自身の車に仕掛けられた爆弾によって殺害されている。 1972年と1973年にベイルートで刊行されたカナファーニーの遺稿集が本書のオリジナルとなっている。日本国内では、1978年に刊行された「現代アラブ小説全集」の、ラインナップの一冊として世に出ていた。翻訳者は黒田寿郎(くろだとしお)と奴田原睦明(ぬたはらのぶあき…

  • 『ザリガニの鳴くところ』ディーリア・オーエンズ 2021年本屋大賞翻訳小説部門第1位作品

    ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』のあらすじ、ネタバレ感想、犯人、タイトルの意味等、作品の魅力についてご紹介します。

  • 『教室が、ひとりになるまで』浅倉秋成 同調圧力の檻の中で

    本格ミステリ大賞、日本推理作家協会賞候補作 2019年刊行作品。筆者の浅倉秋成(あさくらあきなり)は1989年生まれ。デビュー作は2012年に講談社BOX新人賞“Powers”にてPowersを受賞した『ノワール・レヴナント』。浅倉冬至の筆名で『進撃の巨人』のノベライズを手掛けたこともある。 本作『教室が、ひとりになるまで』は、2020年の本格ミステリ大賞、日本推理作家協会賞の候補作となっている。 角川文庫版は2021年に登場。解説は千街晶之(せんがいあきゆき)が担当している。表紙デザインが変わってしまってちょっと残念。単行本版は裏表紙に「あの人」がいる分、より雰囲気出ていたのになあ。 千街晶…

  • 『蕨ヶ丘(わらびがおか)物語』氷室冴子 田舎への愛に満ちたコメディ作品

    『Cobalt』発表の四編を文庫化 1984年刊行作品。集英社の小説誌『Cobalt』に掲載されていた四つの短編作品をまとめたもの。あとがきを読む限り、当初から全四話での完結を企図して書かれていた作品である。 イラストは『少女小説家は死なない!』『ざ・ちぇんじ』に引き続き峯村良子が担当している。 おススメ度、こんな方におススメ! おすすめ度:★★★(最大★5つ) 1980年代の少女小説、特にコメディ系の作品を読んでみたい方。ド田舎の狭いムラ社会をコミカルに描いたお話を堪能したい方。「笑い」に特化した氷室冴子作品を楽しみたい方。ドタバタ系の軽いタッチの恋愛小説を探している方におススメ。 あらすじ…

  • 『アリアドネの声』井上真偽 無理だと思ったらそこが限界なんだ!

    ミステリ系各賞上位ランクインの話題作 2023年刊行作品。書下ろし。表紙イラストは尾崎伊万里(おざきいまり)によるもの。 作者の井上真偽(いのうえまぎ)は、第51回メフィスト賞受賞作、2015年刊行の『恋と禁忌の述語論理』がデビュー作。年齢、性別不明、もちろん顔出しなしの覆面作家だ。 作品リストは以下の通り。 恋と禁忌の述語論理(2015年) その可能性はすでに考えた(2015年) 聖女の毒杯 その可能性はすでに考えた(2016年) 探偵が早すぎる(2017年) ベーシックインカムの祈り(2019年) ※単行本タイトル『ベーシックインカム』) ムシカ 鎮虫譜(2020年) アリアドネの声(20…

  • 『インシテミル』米澤穂信 12人の男女12の凶器、そして鍵のかからない部屋

    米澤穂信が描く生き残りゲーム 2007年刊行。書き下ろし作品。学生モノが多いこの作家にしては(当時)珍しい一般?ミステリ作品だった。こういうタイプの本格作品も書けるのねと、刊行当時は少し意外に思った記憶がある。 単行本版のカバーイラストは西島大介が担当。 インシテミル 作者:米澤 穂信 文藝春秋 Amazon 文春文庫版は2010年に刊行されている。カバーイラストは単行本版とはすっかりテイストが変わってしまった。 おススメ度、こんな方におススメ! おすすめ度:★★★(最大★5つ) ちょっと(かなり)捻った本格ミステリ系作品を読んでみたい方。クローズドサークルでの頭脳戦に興味のある方。米澤穂信作…

  • 『死体埋め部の悔恨と青春』斜線堂有紀 承認しようそれが全ての正答だ

    死体埋め部シリーズの一作目 2019年刊行作品。『キネマ探偵カレイドミステリー(全三作)』『私が大好きな小説家を殺すまで』『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』に続く、斜線堂有紀(しゃせんどうゆうき)の第四作。 web配信サービスのnoteに掲載されていた作品を、加筆修正のうえで文庫化したもの。表紙イラストはとろっちによる。 続篇に2020年刊行の『死体埋め部の回想と再興』がある。こちらも続いて読むので、感想はちょっと待ってね。 死体埋め部の回想と再興 (ポルタ文庫) 作者:斜線堂有紀 新紀元社 Amazon 新紀元社のポルタ文庫って? ポルタ文庫は2019年に8月に誕生した新紀元社によるラ…

  • 『むかしむかしあるところに、死体があってもめでたしめでたし。』青柳碧人 昔ばなしシリーズの最終巻が登場!

    シリーズ累計50万部突破の人気シリーズ第三段 2023年刊行作品。双葉社から発売されている小説誌「小説推理」に2022年~2023年にかけて掲載された作品をまとめたものである。青柳碧人(あおやぎあいと)による、日本の昔話をベースにしたミステリ作品「昔ばなし」シリーズの第三弾にして、最終巻にあたる。『むかしむかしあるところに、死体がありました。』『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』にの続巻である。 表紙イラストは今回も五月女ケイ子が担当。帯の記載によるとシリーズ累計の発行部数は50万部を突破したとのこと。すごい! 双葉社による公式サイトはこちら。 おススメ度、こんな方におスス…

  • 『ルピナス探偵団の当惑』津原泰水 ティーンズハートレーベルから復活した本格ミステリ

    津原やすみ時代に書かれた作品をリライト 津原泰水(つはらやすみ)のデビュー作は1989年の講談社X文庫ティーンズハートの『星からきたボーイフレンド』である。当時は津原やすみ名義で作品を刊行していた。 もともと少女小説の書き手であったこの作家が、同様に講談社X文庫ティーンズハートレーベルから上梓した『うふふ(ハート)ルピナス探偵団』『ようこそ雪の館へ ルピナス探偵団』が本書のオリジナルとなっている。 『ルピナス探偵団の当惑』は2004年刊行作品。先ほどの二作品を改稿した上で、書下ろし作品「大女優の右手」が追加されている。 ルピナス探偵団の当惑 (ミステリー・リーグ) 作者:津原 泰水 原書房 A…

  • 『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』青柳碧人 昔ばなし×ミステリの第二弾!!

    累計部数50万部突破の人気シリーズに 2021年刊行作品。青柳碧人(あおやぎあいと)による『むかしむかしあるところに、死体がありました。』に続く、日本の昔ばなしの世界を下敷きとした本格ミステリ短編集の第二弾である。ストーリー的な関係性はないので、シリーズのどの作品から読んでもオッケー。 双葉社の月刊小説誌「小説推理」に2020年~2021年にかけて掲載された作品をまとめたものである。 むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。 むかしむかしあるところに、死体がありました。 作者:青柳碧人 双葉社 Amazon 文庫版の帯によるとシリーズの累計部数が50万部を突破したとのこと。いつの間…

  • 『ゴリラ裁判の日』須藤古都離 第64回メフィスト賞受賞作品

    須藤古都離のデビュー作 2023年刊行作品。第64回のメフィスト賞受賞作品である。作者の須藤古都離(すどうことり)は1987年生まれのミステリ作家。ペンネームから女性作家を想像させられたが、講談社の公式サイトを見る限り、男性作家である様子。本作『ゴリラ裁判の日』がデビュー作で、第二作の『無限の月』が既に上梓されている。 表紙絵はイラストレータの田渕正敏(たぶちまさとし)によるもの。 講談社による『ゴリラ裁判の日』公式サイトはこちら。 本作のモデルとなったアメリカでのゴリラ「ハランベ」射殺事件の概要はこちら。 おススメ度、こんな方におススメ! おすすめ度:★★★(最大★5つ) 動物と人間の違い、…

  • 『法廷遊戯』五十嵐律人 第62回メフィスト賞受賞作

    五十嵐律人のデビュー作 2020年刊行作品。第62回のメフィスト賞受賞作である。 法廷遊戯 作者:五十嵐 律人 講談社 Amazon 作者の五十嵐律人(いがらしりつと)は1990年生まれ。巻末のプロフィールによると、東北大卒で司法試験合格とある。講談社の文芸サイトtree掲載の「森 博嗣 × 五十嵐律人 往復書簡」によると、2020年時点で司法修習生とのこと。 講談社文庫版は2023年に登場。解説は河村拓哉(かわむらたくや)。 おススメ度、こんな方におススメ! おすすめ度:★★★★(最大★5つ) 最後まで展開が読めない法廷モノのミステリを読みたい方。社会派のミステリ作品を読んでみたい方。刑事裁…

  • 『むかしむかしあるところに、死体がありました。』青柳碧人 昔話×ミステリの楽しさ

    2020年本屋大賞の第10位! 2019年刊行作品。筆者の青柳碧人(あおやぎあいと)は1980年生まれ。2009年に数学を題材としたミステリ『浜村渚の計算ノート』で、講談社Birth小説部門を受賞し小説家デビューを果たしている。デビューしてからの十年で、作品数は30作を超えており、相当に筆の早い作家と言える。 『むかしむかしあるところに、死体がありました。』は双葉社の月刊小説誌「小説推理」に2017年~2018年にかけて掲載された作品をまとめたものである。 2020年(第17回)の本屋大賞では第10位にランクインしている。 むかしむかしあるところに、死体がありました。 作者:青柳碧人 双葉社 …

  • 『[少女庭国]』矢部嵩 壮大な変奏曲、少女たちに課せられた「卒業試験」

    矢部嵩の第四作 2014年刊行作品。早川書房のハヤカワSFシリーズJコレクションからのリリースだった。2013年の『魔女の子供はやってこない』に続く、矢部嵩(やべたかし)の第四作となる。ちなみにタイトルの『[少女庭国]』は「[しょうじょていこく]」と読む。 〔少女庭国〕 (ハヤカワSFシリーズJコレクション) 作者:矢部 嵩 早川書房 Amazon ハヤカワ文庫版は2019年に登場。表紙イラストは焦茶によるもの。 あらすじ 中学三年生の仁科羊歯子は、卒業式当日、講堂に向かう最中に意識を失う。目覚めるとそこは誰もいない暗い部屋。ドアが二つ。そして「卒業試験の実施について」と記された貼り紙が一枚。…

  • 『invert 城塚翡翠倒叙集』相沢沙呼 「invert」に込められた意味を考えてみよう

    文庫化されたのでちょこっと修正しました。 翡翠ちゃんにまた会える! 2021年刊行作品。「雲上の晴れ間」「泡沫の審判」「信用ならない目撃者」の三篇を収録した短編(中編?)作品集。「泡沫の審判」のみ、講談社の小説誌「小説現代」の2021年1月号に掲載。残る二編は、単行本用の書下ろしとなっている。 表紙イラストは今回も遠田志帆(えんたしほ)が担当している。 invert 城塚翡翠倒叙集 作者:相沢 沙呼 講談社 Amazon 講談社文庫版は2023年に刊行されている。解説はミステリ作家の大倉崇裕が書いている。 2019年に登場し、ミステリ系各賞で五冠を達成した、相沢沙呼(あいざわさこ)の大ヒット作…

  • 『存在のすべてを』塩田武士 未曾有の二児同時誘拐事件と、それからの三十年

    塩田武士の新たな代表作になりそう 2023年刊行作品。朝日新聞社の週刊誌「週刊朝日」の2022年4月1日号~2023年6月9日号にかけて連載されていた作品を単行本化したもの。初出時のタイトルは「未到の静けさ」だった。 作者の塩田武士(しおたたけし)は1979年生まれのミステリ作家。骨太の社会派系ミステリの書き手として知られ、2011年のデビュー以来、毎年ほぼ一作、コンスタントに新作を上梓している。 ここ数年は『盤上のアルファ〜約束の将棋〜』『歪んだ波紋』『罪の声』『騙し絵の牙』と、手掛けた作品が続々とドラマ化、映画化され、注目度の高まっている作家といえるだろう。 表紙に使われているのは、画家、…

  • 『ボトルネック』米澤穂信の「20代の「葬送」」として書かれた作品

    米澤穂信『ボトルネック』あらすじとネタバレ感想です。「夢の剣」の意味、川守の正体、主人公の最後の選択について考察、検証しています。 古典部、小市民シリーズなどの感想も書いてます。

  • 『スモールワールズ』一穂ミチ 歪な家族の在りかたを描いた短編集

    本屋大賞で第3位&直木賞候補作 2021年刊行作品。講談社の小説誌「小説現代」に2020年~2021年にかけて掲載されていた作品を単行本化したもの。BL作品の書き手として知られていた、一穂(いちほ)ミチが、2016年の『きょうの日はさようなら』に続いて、一般層向けに上梓したのが本作『スモールワールズ』だ。 スモールワールズ 作者:一穂ミチ 講談社 Amazon 『スモールワールズ』は、2022年の本屋大賞で第3位にランクイン。また、第165回直木賞の候補作(選外に終わり、受賞したのは佐藤究の『テスカトリポカ』と澤田瞳子の『星落ちて、なお』)となり、更に第43回吉川英治文学新人賞を獲得。一穂ミチ…

  • 『イクサガミ 地』今村翔吾 明治のバトルロワイアル「蟲毒」、侍たちの最後の戦い

    「イクサガミ」の第二巻が登場! 2023年刊行作品。講談社の小説誌「小説現代」の2022年4月号に掲載された「壱ノ章 仏性寺弥助」に、残りの八章分を書き下ろしで追加して上梓された作品。 2022年の『イクサガミ 天』に続く、「イクサガミ」シリーズの第二巻となる。天→地と続いてきたので、次は「人」であり、これが最終巻になるのではないかと思われる。毎年一冊ペースみたいだから、『イクサガミ 人』は2024年中の発売だろうか。 表紙イラストは前巻に続いて石田スイが担当。今回は双葉? おススメ度、こんな方におススメ! おすすめ度:★★★(最大★5つ) バトルロワイアル系のお話が気になる方。幕末~明治前半…

  • 『近畿地方のある場所について』背筋 見つけてくださってありがとうございます。

    情報をお持ちの方はご連絡ください 2023年刊行作品。作者の背筋(せすじ)は、KADOKAWAの小説投稿サイトカクヨムを中心に活躍している作家。年齢、性別、属性などは一切公開されていない覆面作家だ。本作『近畿地方のある場所について』がデビュー作ってことでいいのかな? KADOKAWAのトピックス記事はこちら。 カクヨムではホラー小説ジャンルとしては驚異的なPV数をたたき出し、1600万PVを突破。読書好日の記事によれば10月末時点で4刷8万部を突破しているとのこと。書店でも平積みされまくっているので、ご覧になったかも多いのでは?真っ赤な表紙もインパクトがあるよね。 Webメディア発の小説は書籍…

  • 『天盆(てんぼん)』王城夕紀 盤戯の優劣で立身が決まる世界の物語

    王城夕紀のデビュー作 2014年刊行作品。王城夕紀(おうじょうゆうき)は1978年生まれ。本作の元となった「天の眷属」にてC★NOVELS大賞特別賞を受賞し作家デビューを果たしている。第二作に『マレ・サカチのたったひとつの贈物』、第三作に『青の数学』シリーズがある。ここ数年は新作が出ていないので心配。 C★NOVELS大賞系の作品であるわりには、単行本版のデザインが個人的にかなーりイマイチ。ゲームとしての「天盆」に寄せた図柄なのだと思うけど、ちょっとこれは……。 天盆 作者:王城 夕紀 発売日: 2014/07/24 メディア: 単行本 中公文庫版は2017年に登場。現在手に入るのはこちら。電…

  • 『白い病』カレル・チャペック コロナ禍の今だから読みたい疫病下の世界

    疫病が蔓延する世界を描いた戯曲 『白い病(Bílá nemoc)』は、チェコスロバキア(当時)の作家カレル・チャペック(Karel Čapek)が1937年に発表した戯曲である。 岩波文庫版には2020年9月とごく最近の登場である。内容的にコロナ禍の昨今、世に送り出すには適切であると判断されたのかもしれない。 作者のカレル・チャペックは、現在のチェコ出身の作家で、この国を代表する国民的な人物である。1920年発表の戯曲『ロボット』は、現在広く使われている「ロボット」という言葉の元になったとされる。 おススメ度、こんな方におススメ! おすすめ度:★★★★(最大★5つ) パンデミック(感染症)関連…

  • 『レーエンデ国物語』多崎礼 呪われた地、運命との出会い、人生を選ぶということ

    国産の骨太ハイファンタジーが登場 2023年6月刊行作品。作者の多崎礼(たさきれい)は生年非公開の小説家。デビュー作は2006年、中央公論新社主催のC★NOVELS大賞を受賞した『煌夜祭(こうやさい)』。現代ビジネスのインタビュー記事によると23歳で広告代理店を辞めて、小説家に転身とのこと。 作家として20年近いキャリアがあり、デビュー以来、ファンタジー分野での著作を数多くリリースしている。『レーエンデ国物語』が売れているので、今後は本作が代表作になってしまいそうだが、これまでの代表作を挙げるとしたら『煌夜祭』と『“本の姫”は謳う』シリーズになるだろうか。 『レーエンデ国物語』は2023年の6…

  • 『レモンと殺人鬼』くわがきあゆ 全キャラ怪しい!手に汗握る終盤の展開に注目!

    「このミステリーがすごい!」大賞文庫グランプリ受賞作 2023年刊行作品。英題は「Lemon and murderer」とわりとそのまんま。作者のくわがきあゆは1987年生まれの小説家。2021年に『焼けた釘』で、産業編集センターが公募した第8回の「暮らしの小説大賞」を受賞し作家としてのデビューを果たしている。第二作は2022年の『初めて会う人』。 本作『レモンと殺人鬼』はくわがきあゆの第三作であり、2022年の第21回「このミステリーがすごい!」大賞で文庫グランプリを受賞している。応募時タイトルは「レモンと手」。表紙イラストは人気イラストレータの雪下まゆを起用する力の入れよう。巻末の解説は書…

  • 『おまえなんかに会いたくない』乾ルカ 10年後の同窓会、スクールカーストの闇を描く

    乾ルカが描くスクールカーストモノ 2021年刊行。書下ろし作品。作者の乾ルカ(いぬいるか)は1970年生まれ。短編「夏光」(なつひかり)が、2006年の文藝春秋のオール讀物新人賞を受賞。作家デビューを果たしている。著作数は二十作を優に超えるが、恥ずかしながら初の乾ルカ作品挑戦である。 おまえなんかに会いたくない (単行本) 作者:乾 ルカ 中央公論新社 Amazon 表紙イラストは、どこかで見たことがある絵柄だなと思ったら、やはり雪下まゆが担当していた。『同志少女よ、敵を撃て!』や『六人の嘘つきな大学生』の表紙絵も担当していたし、最近書店でやたらに目にするようになった。 Wikipedia先生…

  • 『ちぎれた鎖と光の切れ端』荒木あかね 孤島に取り残された八人の男女、そして……。

    荒木あかね、乱歩賞受賞後一作目 2023年刊行作品。2022年に『此の世の果ての殺人』で最年少の江戸川乱歩賞受賞を果たした、荒木あかね待望の第二作となる。『此の世の果ての殺人』は週刊文春のミステリベストテンで第5位にランクインされるなど高い評価を受けただけに、荒木あかねの新作ともなれば、読む側としても期待が高まる。世の中的には「Z世代のアガサ・クリスティー」とまで評されてしまっているので、書き手としてはかなりプレッシャーがかかったのではないだろうか。 表紙イラストは前作同様に風海(かざみ)によるもの。井上真偽の『ぎんなみ商店街の事件簿』の表紙絵もこの方だったはず。 講談社 文芸第二出版部のX(…

  • 『夜光貝のひかり』遠藤由実子 少年と少女の出会い、南の島の光と闇

    遠藤由実子の第二作が登場 2023年刊行。書下ろし作品。作者の遠藤由実子(えんどうゆみこ)は1991年生まれの小説家。巻末のプロフィールを拝見する限り、本業は学校教員をされている模様。デビュー作は2019年の『うつせみ屋奇譚』。よって四年振りの新作であり、待望の第二作の登場ということになる。表紙絵は人気イラストレータのげみによるもの。 ちなみに版元の文研出版は、教科書で有名な啓林館(正しくは新興出版社啓林館)の持っている児童書レーベル。 また、本作は全国学校図書館協議会選定図書に選ばれている。 おススメ度、こんな方におススメ! おすすめ度:★★★★(最大★5つ) ボーイミーツガール系の作品がお…

  • 『盤上に君はもういない』綾崎隼 ただひたすらに「愛の物語」だった!

    綾崎隼が将棋小説に挑戦 2020年刊行作品。作者の綾崎隼(あやさきしゅん)は1981年生まれ。作家デビューは2010年。電撃小説大賞で選考委員奨励賞を受賞した『蒼空時雨』(応募時タイトルは『夏恋時雨』)。メディアワークス文庫を中心に、二十冊以上の著作があり、キャリアも10年を超えた。着々と実績を積み上げている作家という印象である。『死にたがりの君に贈る物語』のヒットも記憶に新しい。 盤上に君はもういない 作者:綾崎 隼 KADOKAWA Amazon 『盤上に君はもういない』はKADOKAWAの文芸WEBマガジン「カドブンノベル」の2020年2月号~6月号にかけて連載されたものを加筆修正した上…

  • 『可燃物』米澤穂信 本格ミステリ×警察小説×群馬県の魅力

    2023年刊行作品。文芸春秋の刊行するエンタテイメント系小説誌「オール讀物(よみもの)」に2020年~2023年にかけて、散発的に掲載されていた作品を単行本化したもの。本作には、米澤穂信(よねざわほのぶ)作品のお約束として英題が存在する。こちらは「Combustible Substances(可燃性物質)」と、わりとそのまんま。 あらすじ 群馬県警本部、刑事部捜査第一課に所属する葛警部は、今日も県内で発生する数々の事件の捜査に明け暮れている。消えてしまった凶器(崖の下)。目撃者の証言が不思議と「一致」してしまう交通事故(ねむけ)。意図のわからないバラバラ遺体(命の恩)。容疑者が特定できない放火…

  • 『ロボット』カレル・チャペック 人によって作られた存在が反乱を起こしたら?

    作者のカレル・チャペック(Karel Čapek)は1890年生まれのチェコスロバキア人(当時)作家、劇作家。1938年没。 本作は1920年に発表され、初演は1920年。『ロボット』のタイトルで知られているが、もともとのタイトルは『R.U.R.(Rossumovi univerzální roboti)』で、岩波文庫版では「R.U.R.(エル・ウー・エル)ロッスムのユニバーサル・ロボット」と副題になっている。 岩波文庫版は1989年に登場していて、訳者は千野栄一(ちのえいいち)。 最初の日本語版は宇賀伊津緒(うがいつお)の訳で『人造人間』のタイトルで1923年に刊行されている。最近では200…

  • 『海がきこえるⅡ〜アイがあるから〜』氷室冴子 1990年代の恋愛シーンがよみがえる青春小説の佳品

    拓と里伽子にもう一度会える 1995年刊行作品。1993年に刊行された『海がきこえる』の続編である。前作の『海がきこえる』は徳間書店のアニメ情報誌「アニメージュ」の連載作品であったが、本作は書下ろし作品として上梓されている。 前作に引き続き、表紙、および、本文中のイラストは、アニメータ、イラストレータの近藤勝也(こんどうかつや)によるもの。雑誌連載ではなかったのにこれだけの数のカラーイラストが入るって凄くない? また、巻末には氷室冴子自身によるあとがきが収録されている。 海がきこえるII アイがあるから 作者:氷室 冴子 徳間書店 Amazon 徳間文庫版は1999年に登場。解説はドラマ版(後…

  • 『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』斜線堂有紀 愛する人の死が三億の価値を持つとしたら?

    斜線堂有紀の第五作品 2019年刊行作品。『私が大好きな小説家を殺すまで』に続く、斜線堂有紀(しゃせんどうゆうき)の第五作。 個人的に『私が大好きな小説家を殺すまで』から始まる、『夏の終わりに君が死ねば完璧だったから』、『恋に至る病』の三作を、斜線堂有紀のメディアワークス文庫三部作と呼んでいる(『キネマ探偵カレイドミステリー』のことはちょっと置いておくとして)。この三作はいずれも共依存気味の、あまり健全とは言えない男女の関係を描いた作品だ。斜線堂有紀作品の「らしさ」が出始めた作品群で、なおかつ全てクオリティも高い。斜線堂有紀の、その後の躍進に繋がる三作だったと考えている。 表紙イラストはくっか…

  • 『スイッチ 悪意の実験』潮谷験 第63回メフィスト賞受賞作品

    潮谷験のデビュー作 2021年刊行作品。作者の潮谷験(しおたにけん)は1978年生まれ。本作『スイッチ 悪意の実験』で第63回のメフィスト賞を受賞し、作家デビューを果たしている。 スイッチ 悪意の実験 作者:潮谷 験 講談社 Amazon 講談社文庫版は2023年に刊行されている。カバーデザインは全く異なるテイストに変わってしまった。 デビューから現在に至るまでの作品リストはこんな感じ。二年少々で四作だから、かなりのハイペースで書いている印象だ。 スイッチ 悪意の実験(2021年) 時空犯(2021年) エンドロール(2022年) あらゆる薔薇のために(2022年) おススメ度、こんな方におス…

  • 『数の女王』川添愛 「不思議な数の世界」のファンタジー

    言語学者が書いたファンタジー小説 2019年刊行作品。作者の川添愛(かわぞえあい)は1973年生まれの言語学者、小説家。 津田塾大学女性研究者支援センター特任准教授、国立情報学研究所社会共有知研究センター特任准教授を経て、小説家として独立。小説家としてのデビュー作は2013年の『白と黒のとびら: オートマトンと形式言語をめぐる冒険』である。 白と黒のとびら 作者:川添愛 東京大学出版会 Amazon おススメ度、こんな方におススメ! おすすめ度:★★★(最大★5つ) ちょっと変わったファンタジー作品を読んでみたい方、独特の「不思議な数の世界」に触れてみたい方、王道の成長物語を読んでみたい方、数…

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