く、苦しい。。。早く抜け出さなくては、、、この問題は、1分1秒を争う。全力で脱出しなくては、このままだと腐っちゃう。このまま腐っていくのは嫌だ。一刻も早く、ここから抜け出してオムレツにして貰うんだ。誰も食べてくれる人は居ないけど。僕はオムレツになるんだ。...
隣室の灯りがドアの僅かな隙間から暗い部屋に漏れている。僕は、その暗い部屋の中で、ベッドに横たわり身体を硬直させて緊張していた。暗闇は、部屋の中すべての物の輪郭を曖昧にして一色の漆黒に同一化している。その暗闇の部屋では、僕自身も同一化された物のひとつで、僕という存在はひどく曖昧な物で、僕が周りに溶け出し、僕が僕で無くなってしまうような、僕という物の存在の危うさを感じながら、僕は、小さく呼吸をし、身を...
帆布で作られた気嚢に水素ガスを満たしたガス袋が風に揺れていた。ガス袋は鋼索により、船室に固定され、船室は8方向に伸びるロープにより、大地に杭で留められて、浮かび上がらないように固定されている。ハルカが地上に向かって声を上げる。その声を合図に、地上作業員たちがロープをマチェットで断ち切った。次の瞬間、飛行船は静かに浮かびあがり、大地に巨大な影を落とす。飛行高度まで浮揚したのを見届けると、カインがエン...
立秋を過ぎ、空にわずかな秋っぽさを感じるようになった頃、私は、一人、山のなかを歩いていた。辺りには、秋の七草の1つ、オミナエシが群生しており、可憐な黄色い花が木漏れ日に溢れる山中を幻想的に彩っている。ヒグラシの声に包まれながら、その浮世離れした景色の中に居ると、現実感が失われ、夢なのか現実なのか分からない感覚になった。しばらくその場で立ち止まり、忘我の淵を彷徨っていると、風が吹き下ろしオミナエシの...
田中修司 今年の4月で36歳になったばかり。ダークグレーのスーツに身を包み、会社から帰宅途中だった。商社とは名ばかりの問屋を大きくしたような会社で庶務課に在籍しており、忙しさとは無縁の職場で、毎日が定時上がりという恵まれた環境にいた。3年前に新築した家では、妻の早苗が一人で待っている。早苗とは学生時代に結婚し、今年で15年目となる。何回か子供を持とうとしたが、叶わず、そのうちに諦めてしまった。以来、早苗...
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く、苦しい。。。早く抜け出さなくては、、、この問題は、1分1秒を争う。全力で脱出しなくては、このままだと腐っちゃう。このまま腐っていくのは嫌だ。一刻も早く、ここから抜け出してオムレツにして貰うんだ。誰も食べてくれる人は居ないけど。僕はオムレツになるんだ。...
「おはよう、今朝は早いね。」と、言いながらヨシフミが眠たそうな目をこすりこすり、部屋のドアを開けると、カオリがテーブルに突っ伏していた。寝ているのか、反応が悪い。ややあって、彼女はむくりと起き上がると、口をむにゃむにゃしながら、くまのできたひどい顔で「おはよう。うん、あまり眠れなかった。」と答えた。いい終わらないうちに、こくっと意識が飛びそうになって、慌ててテーブルに置かれたマグカップに手を伸ばし...
お社の裏手に向かって「ただいま」と大きな声を掛けた。学校からの帰宅の時間帯、それぞれ自分たちの仕事に忙しい両親に対する挨拶だ。参拝客が数人、こちらを振り返る。西日に照らされたお社の柱が神々しくもある時間帯。錦戸護は踵を踏み潰した靴で石段を駆け上がった。神社幕が風に揺れ、神社のぼりがハタハタと棚引いている。お社の裏手にある平屋の古い戸建てが錦戸護の生家である。神主をしている父親は、祈祷などでは生計が...
隣室の灯りがドアの僅かな隙間から暗い部屋に漏れている。僕は、その暗い部屋の中で、ベッドに横たわり身体を硬直させて緊張していた。暗闇は、部屋の中すべての物の輪郭を曖昧にして一色の漆黒に同一化している。その暗闇の部屋では、僕自身も同一化された物のひとつで、僕という存在はひどく曖昧な物で、僕が周りに溶け出し、僕が僕で無くなってしまうような、僕という物の存在の危うさを感じながら、僕は、小さく呼吸をし、身を...
帆布で作られた気嚢に水素ガスを満たしたガス袋が風に揺れていた。ガス袋は鋼索により、船室に固定され、船室は8方向に伸びるロープにより、大地に杭で留められて、浮かび上がらないように固定されている。ハルカが地上に向かって声を上げる。その声を合図に、地上作業員たちがロープをマチェットで断ち切った。次の瞬間、飛行船は静かに浮かびあがり、大地に巨大な影を落とす。飛行高度まで浮揚したのを見届けると、カインがエン...
立秋を過ぎ、空にわずかな秋っぽさを感じるようになった頃、私は、一人、山のなかを歩いていた。辺りには、秋の七草の1つ、オミナエシが群生しており、可憐な黄色い花が木漏れ日に溢れる山中を幻想的に彩っている。ヒグラシの声に包まれながら、その浮世離れした景色の中に居ると、現実感が失われ、夢なのか現実なのか分からない感覚になった。しばらくその場で立ち止まり、忘我の淵を彷徨っていると、風が吹き下ろしオミナエシの...
田中修司 今年の4月で36歳になったばかり。ダークグレーのスーツに身を包み、会社から帰宅途中だった。商社とは名ばかりの問屋を大きくしたような会社で庶務課に在籍しており、忙しさとは無縁の職場で、毎日が定時上がりという恵まれた環境にいた。3年前に新築した家では、妻の早苗が一人で待っている。早苗とは学生時代に結婚し、今年で15年目となる。何回か子供を持とうとしたが、叶わず、そのうちに諦めてしまった。以来、早苗...
2、3日前に梅雨が開けたらしい。今日は文字通り茹だるような暑さで滴る汗を拭いながら作業に当たっていた。昨日の夜は町の放送で、水分補給をして十分注意してくださいという注意喚起の熱中症警戒アラートが流れていた。その町の放送に心理的にも影響され昨晩は寝苦しい夜だった。片付かない荷物がうずたかく置かれている窮屈な部屋の中に居た。その部屋でパソコンに向かい仕事をしている最中だった。椅子を少し後ろに引くと、高...
ショートショートガーデンに投稿してみました。お読み頂けたら嬉しいです^^プロポーズhttps://short-short.garden/S-uCTwUF...
放課後の部活の時間。美術室で絵を描いていた。石膏デッサンだ。石膏像は難しい顔をしてこちらを睨んでいる。結構、男前なのにその表情で魅力が半減しているぞ。もっと微笑みを浮かべたら良いのに。そんなことを思いながら僕は練り消しゴムをひっぱって切り離した。瑠璃子が話かけて来た。「形が取れてるか、ちょっと見てくれる?」「んー、いいよ。あー、頭の位置が狂ってるよ。」「そうかなあ?まあ良いよ。ありがとう」自分のデ...
1日が24時間なのは何故なの?誰が決めたの?昔の人だよ。昔の人は世界中に影響を与えるほどすごい人だったの?昔の人たちだね。昔の人たちの慣習が今も続いてるんだよ。昔の人たちは偉いんだね。昔の人たちは偉いよ。何もないところからいろいろ作り出したんだからね。どうやって作り出したの?勉強したのさ。ふーん。僕も勉強したいな。タバコを吹かしながら酒を飲んでいると三上がやってきた。昼間を少し回った時間。薄曇りがお...
初夏の夕べ、蛙の鳴き声が外に聞こえる。大きく開け放たれた窓から時折そよぐ風。窓から入った風は部屋を抜けて壁にあたり消えていく。薄灯の部屋でただぼんやりと横になっている。誰もいなくなった。妻も母も父も叔母も叔父も、みんな居なくなった。彼女らのことを段々と忘失していくことへの申し訳なさを感じながらただ時折そよぐ風にあたり横になっていた。寂しさは生まれた時から持っていた。結局は1人になることを幼い頃から...
初夏の昼下がり、車で山道を登っていった。薄暗い山だった。「こんなところに本当にあるの?」典子は不安そうに問いかけた。運転手の大輔は「それがナビにも登録がないんだ、あるはずなんだけどな。」とやはり不安そうに眉をしかめながら返答する。山中の神社に2人は向かっていた。神社は麓の街から車で3時間ほど山を登ったところにあると聞いていた。山の中を走る道路は舗装されてはいたが車幅が狭く急勾配の上、路面は荒れてお...
ナオキはヒリヒリする舌を持て余し、所在無げに部屋のなかを行ったり来たりしていた。右に行っては本棚を眺め、そこから一冊を取り出して読み始めたかと思うと、左に行ってパソコンに向かうと電源を入れるという訳でもなくただワーキングチェアに腰掛けて大義そうにため息を吐き出すだけであった。ナオキは立ち上がると今度は階下に降りていきキッチンで蛇口を捻った。当然、水が流れ出た。ナオキはそれを不思議そうに見つめていた...
作業用ポッドに乗り宇宙空間にただひとり浮かんでいた。何の音もない広大な空間は上にも下にも右にも左にも果てしなく広がり、その無限の空間のなかにただ私1人が浮かんでいた。下の方に地球によく似た惑星が見えた。半分は暗闇に染まり、もう半分は光に当てられ色彩豊かな表情を見せている。私はその様を茫然と見つめていた。残りわずかな酸素が無くなった時、私の人生は終わりを迎えるのだろう。そして、ひとつのチリになって宇...
薄曇りの朝方、近所を散歩する気になった。薄らと雲が空全体を覆っていてすこし閉塞感を覚えた。やや右に湾曲しているこれといってなんの特徴もない道を歩いていると、道の右側の草むらで男が草刈りをしていた。前方の草むらで草刈りをする男はがっしりとした体つきをしていて、白いTシャツとウグイス色の作業ズボンを履いている。草刈りをする男は心ここに在らずといった感じで、ただ機械的に草刈機を左右に動かしている。刈り残...
路地裏の三叉路に風が吹き付ける。通路と通路の真ん中の洲になっている敷地に店を構える主人はサンバイダーが大きく音を立てて唸るのを横目にコーヒーカップを磨いていた。時折、コポコポとサイフォンが音を立てた。「それでお神輿は今年はやらないんですか?」バイトのカナエが客の西条にそう聞いた。西条はカウンターに座り、雑誌を読みながらコーヒーを飲んでいた。「ええ、やりませんね。今年だけじゃなくて今後はやらないでし...
懇願する女の首に鎌をあて、横にひいた。鮮血がほとばしり、女は横にどっと倒れた。涙を流しながら半目を開けて口をパカパカしている女が動かなくなると後ろから悲鳴が上がった。次の狙いを定め、鮮血に染まった鎌を握りしめると悲鳴の主に飛びかかった。パトカーのサイレンが響く。きっと交通違反か何かだろう。向こうが交通違反で、こちらはマナー違反だ、と僕は思いながらミカの寝顔をみた。ぐぅぐぐぅぅ、ぐぅぐぐぅぅ、、すぴ...
アパートの外は曇り空で薄暗く強い風が吹いていた。伸子はアパートのリビングで咲江に連絡するためにスマホを手にして文字を打っている。咲江は高校時代の友人である。お互いに気を遣い合う仲だった。2人が対面する時、座りが悪い空気感が漂う。それでも離れないのはどういう訳なのかわからない。伸子は高校卒業後、インフラ系の会社に就職し、隣町の支店に配属となった。咲江は専門学校に進学して医学療養の知識を学んだのち、県...
隕石落下まで後数時間。その時あなたはどうする?これは地球最後の日を迎えたある夫婦の物語である。「後数時間だな、、おれはお前と一緒にいられて楽しかったよ。ユリ、いい人生だった。」ユリは頷きながら「わたしも貴方と同じ気持ちだよ。いい人生だった。ただ、、」うんん、なんでもない。いい人生だった。「ただ?なんだい?何か不満でもあったかい?」「まあ、そりゃあ、おれは三流でユリには苦労をかけっぱなしだったけども...
こんばんは。日中はまだ暑いですね、、間違いだらけで傷だらけになりながら、それでも生きています。どこに向かおうとしているのか、わかりませんwショートショートガーデンに投稿してみました。お読み頂けたら嬉しいです。https://short-short.garden/S-uCTvku...
瓦斯状の雲が山の頂を覆っていた。 それは薬で抑制された僕の頭を想起させた。 僕は追われている。 いつの間に埋め込まれたのかいつからか頭の中にゲルマニウムラジオがあり、そこから音が聞こえるようになった。 昼夜問わず、周波数の合わないゲルマニウムラジオから出るノイズが聞こえてくる。 僕の行く先々に先回りする様に監視者たちが居る。 監視者たちは僕の頭に埋め込まれたゲルマニウムラジオに設定され...
おはようございます。ショートショートガーデンにまた投稿してみましたー。お読みいただけたら嬉しいです^^https://short-short.garden/S-uCTvjt...
こんにちわ。ショートショートガーデンに投稿してみました。お読み頂けたら嬉しいです。線香花火https://short-short.garden/S-uCTviD...
おはようございます。夕べ、眠りにつく間際にショートショートガーデンなるサイトを知って投稿してみました。もし、よろしかったらお読みください。https://short-short.garden/S-uCTviw...
脚立に登り、くるぶしにあたる部分の装甲を磨いていた。 黒びかりするそれは圧倒的な重量からもたらされる重厚感を湛えていた。 重さが推定出来ないほどの圧倒的な重量が醸し出す神気を纏ったそれは恐怖の感情を人に抱かせた。 今から5000年前、人はその巨大な鉄の塊と共存する道を選んだ。 それ以来、人類の文明は栄え、社会は発展した。 それは神気を放ち、今、私の目の前にある。 人の力の及ばない...
無造作に方々に散っている髪の毛を特に気にする様子もなく、その男はその時、この街で唯一の酒屋の前に佇んでいた。ちらちらと営業時間が書かれた看板を見ては腕時計に目を落とす。通勤時間が終わって少し過ぎた頃だった。開店までにはまだ1時間以上あるだろう。男は所在なげに、体をひねってみたり、手をぶらぶらさせてみたりしていた。そのうちにポケットから半紙を取り出すと筆入れから筆を取り出して何やら書き始める。書き終...
月が出ていた。 満月だった。 ピンホールカメラのようだった。 この世界はピンホールの外に広がっている世界の写像なのだ。 銀板のプレートに焼き付けている最中の写像なのだ。 タバコの煙が流れ、僕の周りの写像が動き出した。 完全に焼き付け終わる前に煙は無くなってしまうだろう。 それで良いかと思った。 そんな満月の夜だった。...
猫みたいな人だった。釣り合いがとれた大きな目は見透かされているような、語りかけてくるような不思議な魅力を持っていた。キメの細かい白い肌に均整のとれた鼻。品よくまとまった口。体型も細くしなやかな感じで顔の作りとあいまって、別世界の存在感を放っていた。年齢は不詳、中性的な雰囲気を漂わせているが性別は女性に分類されるようだった。コードネームをソラと言った。何処に住んでいるのかは分からない。これがナミが持...
ウサギが顔を覗かせていた。 ウサギは不敵な笑みを浮かべていた。 若者が年寄りを笑うような不遜さが感じられた。 ウサギは鉄パイプを右手に持っていた。 この鉄パイプで既成のすべてを壊して回るらしい。 かといって革命などというものに興味はなかった。 ただ不遜な態度の延長でそうしようと思ったようだ。 ある時、ウサギは鉄パイプで戦車を襲撃した。 戦車のウィークポイントは砲台の部分だ...
その木にはハサミが実っていた。 実っているハサミは先がまるくなった子供が使うようなハサミで、 切れ味も鋭くなくどちらかというと鈍いものだった。 持つところも子供が持つのに最適化されたかわいらしいものだ。 全体的にまるみをおびたハサミはおもちゃといった感じが 当てはまるほのぼのとしたものだった。 ある時、木の下で猫が寝ていた。 するととても強い風が吹いた。 風は木を飲み込ん...
蝉が鳴いている。夏が終わるまであと僅かだ。終わりの期日に間に合わせようと必死になって鳴いているように僕には思えた。僕は病室の窓辺で僅かに見える緑を目にしながら蝉の声を聞いている。病気はあまり思わしくなく、将来を悲観的に捉える気持ちもわずかばかり出て来ていた。そんな僕の状況が蝉の鳴き声をそんな風に聞かせたのかもしれない。緑が生だとしたら蝉の声は死だった。生と死の混在しているその世界は窓の外に見えてい...
「はっ、くしょんっ!うぃ、、」 下からしゃくり上げるようなクシャミが響き渡った。 そのクシャミの圧倒的な声量によってしじまは破られた。 早朝の静けさのなかで過ごす時間。 お香を炊いて繊細なその香りを楽しんでいる最中だった。 最後のうぃが気になった。 くしょんっで吐き出した息を吸い戻した際に出た声がうぃなのだろうか、とかいろいろと考えた。 音の主が気になって窓を開け...
山と山の連なりの隙間を雲が充していた。 凸凹した画面を平らに均すために隙間を雲で補ったように見えた。 山への雲の補完は幻想的で幽玄な場面を作り出している。 地を充した雲は空にもつながりを保っており、 そんな両極性をタクミは羨ましいとも思った。 食パンをちぎって小さな塊にし、その塊を木炭紙に押し付けて乗せ過ぎた木炭を取った。 タクミは石膏像を描いている最中だった。 蛍光灯の下...
キャリーケースを引きながらタバコを吸っていた。 飛行機のなかでは吸えなかったので10時間以上ぶりのタバコだった。 スパスパ吸って灰は地面に落とした。 落ちた灰は風に吹かれて飛ばされていった。 他の旅行者とぶつかりそうになった。 両手が塞がっている状態での歩行は危険この上ない。 だけどもニコチン切れの離脱症状が出ていたので大目に見てもらおうと考えた。 歩きタバコだった。 煙を...
力を込めてみた。血圧があがったのか少しだけクラクラした。少し間が空いてからポンっと音と立てステッキの先に花が咲いた。手慣れた動作でステッキの先から花を摘み取ると、グラスに差した。後ろの荷物箱から黒いシルクハットを取り出して頭にかぶる。それから指をパチンっと鳴らした。シルクハットを頭から取ると頭の上にヒヨコが載っていた。もう一度シルクハットをかぶる。指を鳴らす。シルクハットを取った時、ヒヨコはニワト...
高速道路を北から南に向けて移動していた。垂れ込めた重い雲は閉塞感と息苦しさを感じさせた。南に降るにつれて四方を覆う重い雲のカーテンはところどころに綻びが見えるようになった。綻びの向こうは晴天のようだ。だがしかし、雲の向こうに辿り着くことは出来ない。野生動物に注意の標識が目につく頃、高速道路を降りた。山間の道を走らせしばらく山を登る。ガードレールの向こうは林で、木々の合間を猿が群れになり逃げていった...
サイレンが聞こえた気がして家の外に飛び出した。 外は真っ暗で小雨が降っている。 サイレンは鳴っていなかった。 少し肌寒い感じがして、 注射の跡が残る右腕をさすりながら家の中に入った。 家に入ってもどことなく落ち着かない。 文机の前を行ったり来たりし、布団に寝転んでみたり、 起き上がっては背伸びしてみたり、屈伸をしてみたりしていた。 1時間くらいそんな時間を過ごしていただろ...
放課後の数人しかいない教室。 カナは教室でぼーっと空を眺めていた。 空には穏やかな青空が広がっていた。 その青い空に白い雲がわずかばかりのアクセントを添えている。 そんな空を眺めながら穏やかでゆったりと流れていく時間を感じているのがカナは好きだった。 この時間がカナにとって、学校で唯一好きな時間だった。 遠くから聴こえてくる吹奏楽部の演奏を耳にしながら、ぼーっと空を...
セミの声が二重奏を成して響いていた。 その声は幾層にも重なって独特な世界観を作っている。 夏という季節が持つ独特な世界観を。 その時、ジンは車を停めエンジンを切って、窓を全開に開けタバコを吸っていた。 エンジンを止めるとすぐに、車の中は夏のムワッとした熱気に包まれた。 多重層に重なったセミの声が織りなす協奏の世界に、 自身を同調させるようにジンはタバコの粘性の煙を吐き出した。...