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  • ルート3 砂金の真心 金沢真弓①

    長く寝たきりになっていた少女がある日、起き上がった。 それは、とても奇跡的なことである。 それだけで誰もかもが幸せになる、それはそんなに素敵なことだったのだ。 だがしかし、当の本人である寝たきりであった今は健康そのものである少女、金沢真弓は

  • ルート2 倒木の無常 木ノ下紫陽花③

    星の光一つさえあれば、綺麗は決して闇の中に沈まない。長き髪は散り散りに光を反射し、白く淡色の頬は黒と正対して艶を見せる。 そんな風にして日田アヤメは月光浴びて輝かんばかりに見目を夜に晒しながら、しかし心からの苛立ちに歪ませて吐き捨てるように

  • ルート2 倒木の無常 木ノ下紫陽花②

    永劫の幽霊、不滅の一枚レイヤ。木ノ下紫陽花は、実のところそのように定義された存在である。 何より静物に似た映像。しかし彼女は幽かにも終わった形であったとしても世界に触れた。だからこその、幽霊。そんな稀など、当然この世に一つきりだった。 だが

  • ルート2 倒木の無常 木ノ下紫陽花①

    木ノ下紫陽花という少女は、お化けとして足りないところばかりだった。 尖っていないし、醜くないし、血も溢れていない。むしろ整ったそのままで、ずぶ濡れていた。幽霊、とはいえそれはあまりに人間的だ。 『寒いなあ……』 毎年白磁の肌に白雪が積もって

  • ルート1 熾火の恋人 火膳ふよう④

    たとえ二人の心に隙間がなかろうが、物理的な距離が大いに空いているとその関係に影響する場合があった。 人は、基本的には触れ合い擦れ合いに心温めるものであって、それを失すると仄かな程度の愛では心燃し続けるのは存外難しい。 世の恋愛ごとが遠距離に

  • ルート1 熾火の恋人 火膳ふよう③

    火膳ふようの父、火膳有樹は昨今管理職という仕事に振り回され続けているサラリーマンである。でっぷりした体格に反して嫌に清潔でこざっぱりとした印象の、しかしどこにでもいるような男性だ。 彼は残業を含めて帰りは遅く、またそもそも彼にとって家は寝起

  • ルート1 熾火の恋人 火膳ふよう②

    既に壊れていて、もうすぐ亡くなってしまうことが決まっている、そんな生き物を存分に可愛がるのはどうすればいいのか、そんなこと頭でっかちなふようでなくても悩むことだろう。 透けて見えるほどに薄命。でも、少女はずっと笑顔のままで。 きっと、そんな

  • ルート1 熾火の恋人 火膳ふよう①

    愛とは、連綿と親から子に伝えられるべき概念である。温かさ、優しさなどがそこから生まれるものであるとするならば、それは最早生きるに要るものとすら言えた。 けれども、人というものが不定の生き物であるのであれば、外的要因などで失伝という悲しいこと

  • 番外話 世界は消してしまいたくなるくらいに価値がある

    樋口三咲は、お姉ちゃんである。そして、それ以外には特に特徴的がない人間だと、三咲本人は思っていた。 「ユイ! ダメでしょ、勝手にハサミで遊んじゃ! もし手を切っちゃったら危ないんだからねっ」 「うー……」 「うー、じゃないの。ごめんなさいで

  • 第X話 のーまるえんど/END OF THE PROLOGUE

    『もし、世界が終わってしまうとしたら、あなたはどうする?』 その問いかけに、意味はない。だから、あなたが答える必要なんて、なかった。 それは終わりの前の一瞬の残影。電源を切った後の画面に残った僅かな眩さ、その感覚。 記憶にも残らない、しこり

  • 第零話 バッドエンド

    水野葵は奇跡そのものである。そして、奇跡に選ばれてしまった者でもあった。 甘ったるい、チョコレートの見目。淡く細かいレイヤ。全てが愛されるばかりの必然。葵はそんな麗しさを纏った乙女。 そんな葵はしかし、どうしようもなく簡素な内面をしていた。

  • 第十三話 デッドライン

    あたしにとって、月野椿という女の子は、憧れに近いものであったのかもしれない。 とても綺麗でお金持ちで健康で、そして何より色々大っきい。とても高いところから、彼女はあたしを見下ろしていたのだ。 人を踏んづけて、幸せになる。対象があたしであるこ

  • 第十二話 魔法使いの少女

    「はぁ……」 砂時計は逆さにすれば再び動き出すけれど、零れた水は戻らない。そんなこんなを、時間と共にぽろぽろ落ちてく命を参考に改めて理解しながら、あたしは秋晴れの下に曇った心を抱えて歩く。 指先一つ動かすのもおっくうな身体を、未だ死体でない

  • 第十一話 蛇足、或いは遺言

    柔らかに、風が草を撫でる音がする。そして、そんな音色を気にも留めずに歩を進めるざわめきも。そこで、遅ればせながらあたしは気配を察する。 あたしたちの会話の隣で人が居た。そのことに、今更気付いてあたしはそちらへと振り向く。 エノコログサの傾ぎ

  • 【グラブル】一人でグランブルーファンタジーフェス2023に向かった感想など【ぼっちフェス】

    グラブルフェス2023に一人で向かったその感想と、こういう注意があるよ、といった程度のレポートです。 グラブルの展示で楽しかった嬉々のおすそ分けであり、拙文ですが皆様が楽しまれるきっかけになれば幸いと思わずにはいられません。

  • 第十話 奇跡

    暑気をまだまだ感じる秋の候。でも風は涼しくなってきたなと思いながら、あたしはお昼休みに校庭をぶらぶら。浮けない程度の軽い身で色んなものをのぞき見た。 猫の足跡、忘れられたラインカー、お空を覆ういわし雲。どれもこれもが面白くって、あたしの中に

  • 第九話 尊重

    『この芸人さん、本当に美味しそうに食べるねえ。ボク、彼のこと気に入っちゃった!』 「紫陽花ちゃんって、食べ歩き番組観るの好きだねー」 『そういえば……何時も一緒に観てくれてるけど百合ちゃんはこういうの観ててつまらないとか、そんなことはないの

  • 第八話 間違ってる

    お庭のなすびがぱんぱんに張ってきた今日この頃。日差しの強さよりも空気の暑さの方が気になる時節に、珍しくもあたしは外出をしていた。 青空には、随分と成長した入道雲が遙か遠くに。何に遮られることもなくぎらぎらと輝く太陽が、あたしを容赦なく攻め立

  • 第七話 傷

    「そろりそろり……」 『すいすいー』 妹に黙って幽霊を家に入れるという隠し事のために、百合は抜き足差し足忍び足。まとまりきらない薄色の髪の毛がそれに合わせて上下する。 軽いその身をそろりとすれば、床に音など立ちはしない。綿のような総身をつま

  • 第六話 オバケとお化け

    「あれ?」 「百合……」 「どこか痛いの、百合ちゃん?」 儚い水の軌跡がぽろぽろと。煌めきながら頬から流れて哀を描く。丸みを伝って落ちた雫は、少女の小さな手のひらの中で弾けて消えた。 そう。百合が久しぶりに椿とふようと共に喫茶店でホットミル

  • 第五話 攻略

    日田百合は酷く身体が弱いが、存外風邪や流行性疾患に罹ることは少ない。 それは普段、なったら下手したら命に響くからと手洗いうがいに衛生方面での頑張りを欠かさない故の結果であるが、とはいえ意外と風邪に悩まされがちの椿辺りにはうらやましがられたり

  • 第四話 無知

    休日を楽しむことって、あたしにはちょっと難しいことだ。 休みはアヤメと一緒に貯まった洗濯物やら外から始めるお掃除やらの家事に追われることでくたくたになってしまうあたしは、家事以外では本当に空いた時間を身体を休める時間に充てるだけ。 特にどこ

  • 第三話 痛み

    淡色で町を飾った桜散り、緑ざわめく五月の頃。あたしは 西郡《にしこおり》高校からの帰り道をのんびり歩いていた。 ほどほど辛い坂道を、えっちらおっちら。道中高低差のあるこの町を上から下から望んで、あたしは微笑む。 春の装いだった町並みも、夏に

  • 第二話 鬼々怪々

    空が綺麗になるのが夜ならば、昼は世界が綺麗になる時間であると、あたしは思う。 燦々と輝く一遍。何時もの光景を普通と人は言うけれど、それでもやっぱり皆が当たり前にあってくれることは嬉しい。 それを、あたしは最近痛いくらいに思い知っているだけ、

  • 第一話 バッドエンドの後に

    愛に肢体は要らない。誰がそんなつまらないことを言い出したのだろう。 心だけでは足りない。あたしは彼女の全てが好きだった。 亜麻色の柔らかなその髪に、チョコレート色の肌がお似合いの、芳しき伽羅の少女。水野葵はそんな女の子だった。 日向にあって

  • 【原作小説】皆に攻略される百合さんのお話・目次

    ゲームは主人公のバッドエンドで終わり。でも、残りの世界は終末に至れどもそう簡単には消え去らない。 主人公水野葵に愛された日田百合は、末期に残ったヒロインたちにも愛されるけれどもそもそも彼女に残った時間すら希少。 幽かな程の命で、彼女らはどんな花を咲かせるのだろうか。

  • 第十四話 ゆっくりしたい

    「っ、くうっ!」 「はいっ、一夏くん残念ー」 「うわっ!」 どすん、というよりもずどん。そんな音とともに地面に突き刺さり、機械と人で出来た奇妙なオブジェと化した一夏を冷然と見下ろし、ロシアの第三世代ISのカスタム機、ミステリアス・レイディを

  • 第十三話 極み

    IS学園第三アリーナ。遮蔽フィールドによって、存分に戦闘行動を採ることが出来るこの場。逆に言うならば檻の如くに閉じられて空へ向かうこと難しいそんな閉鎖空間にて、大空の自由を体現する一機があった。 旧いそれ――打鉄――は最新の機体の狭間、攻撃

  • 第十二話 勘違い

    シャルル・デュノア、いいや本名シャルロット・デュノアは、IS学園で送る日常の酷く穏やかなことに、驚いていた。 生徒の大概が朗らかで人当たりが良く、特に同居人でもある一夏は言動にどきどきするところもあるが悪心からほど遠い人柄で、シャルロットは

  • 第十一話 タイプ

    本人はあまりそう思っていないが、霊夢とて現代っ子の端くれである。むしろ、ISという最先端のマストアイテムに日頃から触れられている彼女の今は、流行りに敏感な女の子達の理想と何ら変わらない。 とはいえ、最新の飛行パワードスーツに対しては造詣が深

  • 第十話 針と破壊

    クラス対抗戦。本来ならば、専用機持ちの生徒ばかりが注目されるこの大会にて、今回本命と目されている少女は、どこの国にも企業にも専用機を譲り受けて貰っていない一般生徒だった。 その名は博麗霊夢。こと、一年生の間で絶対の最強と噂されているのが、彼

  • 第九話 日常

    なんだかIS学園は騒がしくてあまりゆっくり出来ないな、と霊夢は思う。 時に理沙が遊びに来たりもするが、我が家たる神社の軒下にて茶を呑みながら年離れた義母や義父と共にのんびりと過ごしていたあの日々が今や懐かしい。 ここでは霊夢は教室は勿論のこ

  • 第八話 恋愛と友情

    今再びの第三アリーナ。IS学園一年1組2組の生徒達が固唾を呑んで見つめる中、対峙し浮かんでいるのはただ二つ。 赤を主とした第三世代型ISを纏う凰鈴音は、目の前のありふれた白き第二世代ISを身に着けふよふよとしている霊夢を強く睨みつける。 専

  • 第七話 光

    篠ノ之箒にとって、織斑一夏は唯一つの光だった。 それこそ盲目になってしまうほど心の底から想った相手であるし、何なら振られた今でも未だに大好きな男の子でもある。 とんでもなく外見が格好いいところとかはまあ、箒もそこに惹かれている部分も多々ある

  • 第六話 恥ずかしい

    博麗霊夢はIS学園の生徒である。そうであるからには制服を着用せずにはいられず、当然露出度の高いISスーツを着込むことだって義務付けられていた。 「水着みたいよね、これ……恥ずかしいわ」 ぴたりと肌に張り付く学校指定の薄一枚。肌触りがやたらと

  • 第五話 天生

    『日本には満を持して、という言葉もあるようですが……少し、待たせ過ぎではありません?』 『主役は遅れてやってくるっていうだろ? まあ正直に言うと……博麗が 一次移行《ファースト・シフト》も済ませていない機体で戦うのはどうかって言ってさ。少し

  • 第四話 ありがとう

    セシリア・オルコットは、勤勉である。 授業で持ち帰った学びを都度復習するのは当たり前。暮らしの中、異国の言葉で不明だったところを使い込んだタブレットで自室にて調べることはしょっちゅう。 入部して熟しているテニスの素振りの型を繰り返してみたと

  • 第三話 武というよりも舞

    「はぁ。撒くのに苦労するわね。そんなに純和風な私の容姿が珍しいのかしら。もっと珍しい外の人間だってちらほら居るってのに」 今日も今日でゆっくり出来ずにげんなりしながら、霊夢はだだっ広いIS学園を歩む。 それも、半ばファンとなりつつある幾らか

  • 第二話 ノブレス・オブリージュ

    世界は奇跡を失伝した。 神は死に、魑魅魍魎は根絶され、光は単なる明かりで闇はただの暗がりとなる。 昔々のお話は寓話となり、恋ですら分泌物の次第とされた。今や殆どの人はあり得ないを信じない。 神がかるのは科学ばかりで、なら人の望みは即物的にな

  • 第一話 慣れない

    博麗霊夢は、現し世にどうしても慣れない。 高校の入学式、周囲にきゃぴきゃぴと萌える若さの中で何とはなしに窮屈な感を覚える。自分もあれらと年は同じであるはずなのに、何かおかしいのだよな、と首をかしげながら。 そして、紫檀の髪に乗っかった、友達

  • 空を飛ぶ程度の――・目次

    インフィニット・ストラトスと東方Projectのクロスオーバー二次創作作品。 たった一人、IS学園に入学することになった博霊霊夢さん。ハイスピード学園バトルラブコメに付いていく気もない彼女は自分勝手に意見して皆を惹きつけていきます。 きっと彼女のおかげで皆は少しだけ自由になるのでしょう。 ――しかし幻想は楽園は、果たしてどこに?

  • 何を愛したら

    皐月賞のその日、サイレンススズカはトレーナー、そしてチームの皆に連れられて応援に来ていた。あまりの歓声に一時耳を畳みながら、彼女は彼女を思う。 その応援相手は当然我らがチームスピカにおける新星、スペシャルウィーク。奇しくも同室の、輝かんばか

  • おはよう

    開始記号はさり気なく。 歓声に紛れた合図。それを敏に察せたのは、誰よりそれを待ち望んでいたからか。 連符の付いた彼女の耳は、響きを感じて全身を発奮させる。 「っ!」 つまり開いたゲートをドンピシャで察した――――。青の空の下、踏み出した彼女

  • 貴女には私が

    最も速い。それは、多くの競走者が望む称号。心より一番を望むなら、決して避けてはいけない夢。 しかし距離の適性に調子や年齢、そしてウマソウルの加護の度合い等、一律に速さというものを決めるのは中々に難しいことである。 だが、クラシックには最も速

  • 命をかける価値

    可愛らしいものは、大なり小なり好かれるもの。 だからウマ娘全体が愛らしい見目、整った顔に心をしているのは、きっと偶然ではない。 種族特性ともされる優しさや美しさは、端から彼女らが愛されるべきであると神が丹念に捏ね創ったからではないか。そうま

  • 勝利は彼女のもの

    レースにおいて一位でなければそれは敗北と同義。 手と手を繋いでゴールなんていうお遊戯のようなことは出来ない真剣だからこそ、勝敗には強い意味合いが出るものだ。 とはいえ、別段上位に価値がないという訳でもない。 重賞で十着、そうでなくても八着以

  • 【実体験談】サバイバーズ・ギルトに関するお話【犯罪被害】

    サバイバーズ・ギルト。それは、生き残ってしまったことに関する罪悪感となります。 そして、私は生き残ってしまいました。見知らぬ勇気ある彼ではなく、賢しく逃げ通した私が。 ずっと下を向いていたそんな私が前を向く、これはそういうお話になります。

  • 勝つよ

    たとえ彼女が心に鉛のような重みを感じ続けていたとしても、時計は勝手にぐるりと廻る。 今日も銀色目覚まし時計は、毎日欠かさず朝に騒ぐ。起きなさいと、まるで命へと急かすように。 「ん……起きないと」 細く靭やかな指先が優しくボタンを押して、ジリ

  • 一番になりたい

    話は、少し前から遡る。 それは、彼女がはじめて登校したその朝から。 彼女は見定めるかのように、彼女を見つめていた。 どの学校だろうと転入生というのは話題になりやすいもの。 それがまた、ある種実力主義のトレセン学園での転入生であるならば、尚の

  • お前ん家、デストロイヤー

    「こりゃあ、ゴルシちゃん大ピンチって奴だぜ……」 その日、ゴールドシップは焦っていた。 それには勿論、来年のカレンダーの日付に星印を付け忘れたことや、マックイーンに対して高カロリーしりとりをけしかけ損ねたことは関係ない。 ましてやさっき、一

  • 私のせいだ

    「うぅ、ん……」 それは慣れない枕に依るものだろうか、はじめて寮にて寝入ったスペシャルウィークはその夜奇妙な夢を見た。 はじまりは、靄。その深き中から注目すべき光を、少女は見つける。 「あの子……」 スペシャルウィークが発見したのは一人のウ

  • 不釣り合い

    自分の他のウマ娘すら見かけたことのないくらいの田舎、広大な北海道の片隅にてスペシャルウィークという名を掲げる少女は過ごしていた。 同じ道内といっても、そこは札幌やら富良野やら有名観光地があるような場所でもない。 あるのは、牛と農地と、木々ば

  • 貴女と共にある

    時は、まだ冬休みも終わっていない一月七日の昼過ぎ。 そういえば購買はまだやっていないのだと遅れて気づき、食事を近くのコンビニで買ったパン三つで終えたばかりの若きトレーナーは、しばしトレーナー室(チームを作成していないトレーナー達が共有してい

  • 頑張るね

    年を越えたばかりの冬の候。吐息の軌跡が白となり、凍える指先が赤くかじかむそんな日。 痛いくらいの冬を駆け回るのは、子供だけではなかった。 学生であるからには年末年始を遊びに費やす者も多くて正しい。 だが、年始めの休暇をかけっこの練習に当てる

  • よろしくね

    「ふぅ……」 朝、鏡を前に顔を洗う。彼女はあまりこの時間が好きではない。 とはいえ、目麗しいウマ娘という以前に年頃の少女。洗顔は念入りであって当然であり、また個人的な理由で《《マスク》》を常につけている彼女にとって不潔は天敵。 それこそニキ

  • 走るのって

    ――――は、関東、引いては東京の摩天楼に馴染んだウマ娘である。 たとえ旅行で色んなひなびたところへ行ったとしても、その土地土地の面白さより結局は自宅マンション周辺のコンビニやデパート、食事処が纏まった利便性の方を大事にしてしまう。 遠くの美

  • 一緒に地獄に

    「ふぅ……」 ――――の担当トレーナーである彼は、緊張のあまり細い息を漏らした。だが、それでも全身が強ばるほどに入った力の全ては抜けない。 大人の一員となって少し。仲間と一緒に酒を口にすることだって慣れてきた。最近は、一人麦酒を嗜んでいる今

  • 分からない

    サイレンススズカにとって、――――というウマ娘は、正直によく分からない子だった。 「ふぅ……」 その優しさ故に酷く厳しい指導を行うチームトレーナーの視線から逃れるように、一人ターフを駆け抜けることを試みていると、その少女が独り走っているのが

  • 掴む

    生きることは、燃やすことである。そして、死に向かうことでもあるだろう。 また、生まれてから死ぬまで、その間隙が酷く美しければ誰かの記憶に深々と残ることもあった。 それはたとえば活躍した競走馬の魂の形。綺麗に綺麗に彼らの活躍はラッピングされる

  • 叫び

    その日も、空は高かった。綺麗な青が、白すら含まずひたすらに天を作り上げている。 それこそ人の手には掴めないとひと目で理解できてしまうくらいには、今日の天蓋は遠く澄んで抜けていたのだ。 「ふぅ……」 でも、そんな小利口な理解なんてものを嫌い、

  • 雪華のように

    少し暗い雰囲気になりもしたが、主にセイウンスカイと仲良くした一日は――――にとって楽しく過ぎた。 喫茶店の後は公園に移動して、久方ぶりに芝を楽しんだり、二人で花を愛でる。 その際に来年には飛び級してトレセン学園に入るのだと話すニシノフラワー

  • 空が青かったら

    勝つ、ということは相手を負かすことである。 そして、何度も何度も蹄鉄の下にて踏みにじられた過去を知っている――――は、勝つことでしか認められないものがあることを重々知っている少女は、敗北の悔しさを過ぎるくらいに知ってた。 だから、負けないよ

  • 間違い

    「はぁ……はぁ……」 走る、走る。――――は、疲労に止まらず、ただひたすらにダートを駆け続けていた。 柔らかい土に、左右に揺れる足首。重心も、次第にぶれてきていた。それでも、前へ。 自分をいじめるとは、このことか。それはまるで、怪我をするた

  • 真剣

    アメリカ生まれのグラスワンダーというウマ娘にとって、日本というのは絵画の中の世界だった。 遠く、そしてどこか違う知らないところ。美しい、優れた誰かの筆致。 そんな国が大好きな母に寝物語の代わりに聞いた覚えを大切に、グラスワンダーは憧れに次第

  • 星だって

    ――――は、里山遠い、都会に生まれた。 昔から彼女にはブッポウソウの鳴き声よりも、カラスの騒ぎが耳に慣れていて、野良など望めずただ、美しく並んだ木々ばかりを見上げていた。 ぬかるみよりも整地ばかりの周囲にて、しかし、元より彼女はウマの娘。ヒ

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