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  • 第二十九話 悪役令嬢

    譜を音にする。 それだけの慣れ親しんだ行為がこんなに緊張するとは思わなかったと、オーキッドプロダクションの若き編曲家、類村慎樹は三つ色で染めた短髪を指先で掻きながらそう述べた。 素直に音楽に仕立て上げる、それだけの本来そう過つことのないはず

  • 第二十八話 ハーモニー

    片桐朝茶子という少女は人界にあってしまった天国である。 そして、町田百合は人界に溢れ出ぬよう地獄を抑える蓋だった。 『そういえば結局、あの音楽家さん? あたし達の曲書いてくれなかったねー。どうしてだろ?』 「はっ、そりゃ心壊れた後に他人のこ

  • 第二十七話 片桐朝茶子

    この世に太陽が一つしかないというのは常識ではあるが、それは果たして何故だろうか。 生命が育まれるに丁度いいのがこの奇跡の恒星一強の環境であるが故に、大星は複数に並ばない。 だが、並べてそれと喩えてカシマレイコを太陽と呼んでいるばかりのアイド

  • 第二十六話 地獄じゃない

    七坂愛はこれまで姉という人を今ひとつ知らなかった。 なにせ、姉だという舞は自分のことをよく見てくれないし、直ぐお父さんお母さんと口喧嘩を始めるし、何よりお家に帰ってくることすら希なのである。 また寒そうな服に強い匂いを纏う目つきの悪いお姉ち

  • 第二十五話 星は星を知らない

    さき。それは、町田百合の数少ない友人、遠野咲希のアイドル名である。 名称のひらがな二文字で可愛さを全力アピールしているつもりの彼女は、2メートルにすら迫らん程の成長を見せる物理的大型新人。 彼女はアイドルって何だっけ、という程凄まじい身体能

  • 第二十四話 綺麗なものを壊すのが

    アイドル四天王というものが出来たのは、カシマレイコという天上に付き添うように高度化した少女たちをただのアイドルたちと纏めるのが不可能になった群集の心理に拠って撚られたためとされる。 だがそんな緊急退避的な称号が今や四様の篩のよう。彼女らの何

  • 悲鳴をすら

    「……美味しいです」 一人蕎麦屋のカウンター席に座して、一口いただいて直ぐにそう零したのは碧い目をした栗毛のウマ娘。 主人が少女のためにとせいろ蕎麦たっぷりと盛りに盛ったは十人前。だが、彼女にとってそれは腹八分目に収められる程度でしかないの

  • 第二十三話 とても、幸せだ

    「♪」 目隠し少女が歌った、踊った、微笑んだ。そればかりで華やぐのは、少女の実力が上等に至っているがため。 何もかもが見かけばかりのハリボテでもいい筈のアイドルというものの中で、つま先からてっぺんまで基礎から何までしっかりと詰まった希少な本

  • 番外話⑤ カシマレイコ

    遠野幹彦は、カシマレイコを見いだした栄誉からマネージャーという名のままになっている彼女専属プロデューサーである。 独立した後、社長業も行うというよく分からないことになっているが、それくらいに幹彦という男はカシマレイコというバケモノアイドルに

  • 第二十二話 曲に負ける歌なんて

    望遠鏡で空を覗いてみたところで神と視線が合わないように、人と神々とはあまりに遠すぎる。 だが、アイドルという人界の賑やかしの中にのみ、それは確かに近くあると多くにされて崇められてすらいた。 握手なんて以ての外。電子に載っかった顔と美声ばかり

  • 第二十一話 独りで唄ってない

    実力を天にまで示した。そして、それは網によって地べたに広く拡散されていく。 情報化社会においても遍く全てが、とはいかなくてもそれは少女が傑物であると世に知らしめるのには十分なもの。 それくらいに、初ライブの映像はしばらく多方面に注目された。

  • 第二十話 いいわね

    はじまりがあれば、終わりがあるのは自然。 また、その間隙に全力が賭されていたならば、そう長い間続くものではない。 町田百合の記念すべき初ライブは、駅前に熱狂をもたらしながら一時間足らずで彼女のばいばいと共に終わった。 虜となった聴衆に背を向

  • 第十六話 世界を変えちゃうかも

    高遠稲は、芸能事務所として老舗の域に入っている中堅どころ、オーキッドプロダクションのアイドルである。 子役として事務所入りしてから、カシマレイコに憧れてアイドルの道へ進んだ彼女。 今は亡きお婆ちゃんから貰った名前に芸名を被せることなく大切に

  • 第十五話 知らないのですぅ

    それは、ただ映るだけで世界を墜とせたというのに、彼女はあまつさえ歌って舞って、終いに笑んだ。 やがて世界は、彼女のために凝った。 そう、彼女こそとびきりのアイドルという偶像。 偶像を計るには、持つ権能を見ればいいのだろうが、生きとし生けるも

  • 番外話④ バレンタインデーそのよん

    「ふへぇ……意味分かんねぇですぅ……」 一日終わり、歩む目隠し少女は懊悩に首を傾げる。 毎年周ってくるバレンタインデーというものは、これまで町田百合の心を動かすのに足る一日にはなっていなかった。 そう、たとえ自分の作ったケーキを踏みつけられ

  • 番外話③ バレンタインデーそのさん

    輝田(きだ)プロモーションに所属するアイドルチーム、トゥインクルチアーズの吉野友実と言えば最近そこそこに知られるようになった存在である。 センター、でこそないがチームの中でもアイドルに必要なすべての技術が際立った一人であれば、自ずと目立つ。

  • 番外話② バレンタインデーそのに

    遠野咲希にとって、二月十四日というものは、近頃甘いより苦いイメージが強い。 咲希は、食べ物、ひいてはチョコレートが大好きである。花より団子という言葉があるが、花も団子もいらないからチョコを口いっぱいに含みたい、というのが咲希の本音。 特に幼

  • 番外話① バレンタインデーそのいち

    「ふあぁ……もう甘ったりぃ匂いがする気がしますねぇ……」 二月十四日はバレンタインデーであるという情報くらい、百合だって知っている。 コマーシャルに、誰かの話題、創作の一部。そこら辺が二月のはじめ頃から甘い茶褐色に切り替わっていくのだから、

  • 第十四話 トップアイドルに、なるですぅ

    炎は、燃焼している。罪科を薪として、かけがいのない命だったものを煤として、それでも彼女の内では無常が盛んに。 地獄というのは、本来何より空想であるべき代物である。末期の先の罰なんて、諭しのための道具でしかない方が良かった。こんなの、信賞必罰

  • 第十三話 これでもぉ

    「はぁ……どうしてオレったら、こんなに面倒なことばかりやらされるかねぇ……」 中井裕太は昨今流行りのアイドルマネージャーになって日が浅い男性である。 もともと手足の長さが自慢の彼は男性アイドル志望であったが、事務所に所属し年若くして重く下積

  • 第十二話 安心してね

    偶に幻想物質ではなく、タンパク質等を主にして創られてしまった地獄の蓋であるところの町田百合。 本来無機質であるべきなのに、熱情によって活動的に動いてしまっている彼女は、存外見目を気にしていた。 まあ、その目を開けばどんな格好をしていようが台

  • 第十一話 愛さえあれば

    遠野咲希は高身長に長い手足が特徴的で、そこに少し肉が付いてきてしまったことを気にする年頃の女の子だった。 そんな、体重計を蛇蝎のごとくに嫌う少女は、しかしトレーニングを欠かすことはない。 「一、二、三、一、二……」 美しく、コンパスのように

  • 第十話 勘違いヤローども

    町田百合は悪辣な視覚情報である。一度奥まで見れば、終わりを知る。最果ての地獄を孕んだ生き物など、蠢くべきですらないかもしれない。 そんなものが眼帯をつけて偶像になりきろうとしているのだ。当然、無理が出るというものである。 「あぐっ!」 地熱

  • 第九話 プリティサイズだから

    吉野友実という少女は、アイドルになるために生まれてきたような存在である。 見目は当然のように麗しく、運動神経も抜群で体躯はどこまでも柔らかく、目的のためには媚びることすら容易い精神まで持ち合わせていた。 笑顔なんて、意識するまでもなく人生の

  • 第八話 格好いいじゃない

    与田瑠璃花という元アイドルであるトレーナーにとって、町田百合という少女は不可解そのものだった。 稚児より下手な歩みで、驚くほどに音痴であり、笑顔を作ることすらぎこちない、そんな無才の全体で彼女はトップアイドルに本気で至ろうとしている。 この

  • 第七話 ありがたくなんて、ない

    町田百合は地獄に繋がる目を薄く塞いで生きている、少女である。 彼女の視界は常に薄くベールに覆われているし、もとより良くない視力は世界をそのままには映さない。 汚穢すらも彼女に届くまでには大いに欠けていて。 だからこそ、百合にとって世界は遍く

  • 第六話 仕方ない

    好きという言葉は嘘で、嫌いという思いも間違いで、なら私に正しさなんて一つもない。 嘘つきの自分はきっと天国にはいけないだろう。あの果てしない清涼には至れやしない。 つまり、これから向かうのは地獄なのか。私は痛くて辛いばかりの、どん詰まりに至

  • 第五話 一人ぼっちは寂しい

    田所釉子は、アイドルだった。 それも、ただのアイドルではない。天上には及ばずとも、まずただの花として飾られるばかりの代物ではなかった。 喩えるならばそれは、輝石。可憐を綺羅びやかな明かりの中輝かせて、その多面な美を周囲に振りまく、そんな少女

  • 第四話 頑張るです

    地獄に焦がされ続ける普段から我慢は得意で、身体は役目に則り復元力に富んでいる。 ならば、何本か欠かした歯を食いしばった百合が、痛みに耐えながらベッドの上に固定されたひと月を狂わずに過ごせたのは当然だったかもれない。 だが、普通ならば、ただの

  • 第三話 負けない

    百合は、地獄の蓋である。 つまり地獄の天板であり、皆がそこまで落ち込んでしまないように、踏み敷かれる役割。最低値を超えないようにある、底辺。そんなヒトガタが、百合だった。 だが、ヒトガタであるからには、成長が許される。ならばと焦げ付いた心で

  • 第二話 あなたのためになるのなら

    町田百合は、地獄が溢れぬように取って付けられた蓋である。それが偶に人の形をして産まれているだけ。 彼女はその役割故に何より地獄に灼かれ続けることこそ重要であり、人間としての能力はおまけに近かった。故に、少女の持つ能力は最低限。 しかし、悪に

  • 第一話 地獄に落ちてしまったとしても

    ぎゃあぎゃあとカラスが大いに鳴いた、それは、昏い、昏い一日の終りのことだった。 今より十六年と少し前。町田家に、とある赤子が生まれた。性別は、女である。そして、何より彼女の属性は。 「うあぁ」 「なっ!」 地獄だった。 最初から開いていたそ

  • マイナスから目指すトップアイドル・目次

    地獄の蓋として生まれた少女。彼女は瞳の奥に地獄を映してしまうために、目を隠して生きています。 ですがそんな彼女、町田百合には夢がありました。それは、トップアイドルになること。 ――悪こそ、この世のあらゆる善の番。

  • 第十九話 私と同じ

    博麗霊夢には、親はない。 いや、正確には棄てた産みの親に育てた先代の巫女が居る筈なのだが、それらを彼女は親と見做していなかった。 顔も名前も知らない覚えていないそんな実父母は勿論のこと、没する前まで確かに衣食住を用意してくれいただろう先代の

  • 去話 終わりの音色

    生きるということは、ただ意識があるだけの状態ではないと小さな頃の朝茶子は思っていた。 生は推移であり、変化と反復を交えた動きの総称だと幼き少女は考えていたのである。 つまるところ、朝茶子にとっては世界の多動が生々しいものに映るのだった。太陽

  • 閑話 最強と

    〇〇〇〇は目立つことが好きだ。それは、以前までそうあることが通常だったからだったかもしれない。 だが、荷物運びで際立つことに慣れて、そして駆けっこで一番を続けることにも飽いて、やがて彼女は当たり前の勝利をつまらなく思うようになる。 なにせ、

  • 第十二話 たり前ですよぉ

    今より十六年と少し前。町田家に、とある赤子が生まれた。性別は、女である。そして、何より彼女の属性は。 地獄だった。 その瞳は、窮まっている。腐りを過ぎて終わっていて、更には死んだ後の何かだった。そして、残酷にも、幸せな未来などそこには映って

  • 第十一話 一人ぼっちは寂しぃ

    あたしは片桐朝茶子。今日はお歌をうたうよ。 そう、さっきからあたしはなんだか趣味の入ってる狭いスポーツカーの車にゆうちゃん社長とまこさんと一緒に乗ってスタジオに向かってるんだ。 それも、歌を録音するために。いや、知らない間に作詞作曲してもら

  • 第十話 哀れむな

    「朝茶子様、おはようございます」 佐々木夕月にとって、朝に片桐朝茶子に挨拶をするのはとても大切なことである。 そもそも、人間関係に言葉をかけることは大事であるが、それより何より朝茶子は忘れっぽい。 少し気にしている程度の相手なんて翌日の記憶

  • 第九話 好きですよ

    あたしは片桐朝茶子。高校2年生の女の子だよ。 そんなあたしは朝早くからすいすいと車に乗っかったまま通学してる。学校向かうのは慣れたけれど、でも自分の足で通学出来ないってのは面白くないね。 まあ、お父さんお母さんの方針ってやつだからこれも仕方

  • 第八話 地獄の蓋

    「はぁ、めんどいですけど、仕方ないですねぇ」 日差しまだまだ暑いに足りない淡さの中。しかし天から降りてきたそれらが自分に沁みるのを嫌がる少女は、日傘を差す。 それがふりふり黒レースと白いラインに覆われているのは彼女の趣味だろうか。暗がりの衣

  • 第七話 おばけ?

    あたしは片桐朝茶子。実はジェンガが好きな女の子だよ。 あの積み木って、とっても楽しいよね。何しろ続ければ続けるほどどんどんもろく、スカスカになっていって、最後は崩れて台無しに。そんなのはとっても命に似ていて可愛いと思うんだ。 あたしは、一人

  • 第六話 インプリンティング

    水木巫女子は、自分を世界で一番キレイな存在になれると思っていた。そして、キレイであれば、何もかもを思い通りに出来る、と。 そんな勘違いをずっと続けていた少女だったのである。 巫女子は小さい頃からよく言われていた、可愛い子だ、という褒め言葉を

  • 第五話 がんばってね

    あたしは皆のアイドル、片桐朝茶子。あ、でもまだ誰にもアイドルっぽいところって見せてなかったかも。 ということは、まだ誰のアイドルでもないんだね、きっと。これから頑張らないと。せめて、一人くらいお友達作ることが出来るようになるまでは、ね。 「

  • 第四話 ファンっすから

    ぱたん、と扉が閉じられる。それだけですべての無闇な緊張が解けるのだから、恐ろしい。 絶世に対する畏れから逃れられた後に、残るは男二人の無意味な沈黙。寡黙では決してない大男二人であっても、しかし開放からの快感はどうしようもなかったようだ。 全

  • 第三話 アイドル、やってます

    あたしはあたし。片桐朝茶子。 最近身体が硬いってことが判明したから、毎日お風呂上がりにストレッチを日課にしている女の子なんだ。 さて、そんなあたしがストレッチ以外にしていることといったら、それは芸能事務所に土日通うこと。けっこうこれ、大変な

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