作家を目指しているわけではありませんが、いつか自分の書いた物語が本になってたくさんの人に読んで欲しいなと思っています。 好きなジャンルは、ミステリー、歴史小説、しっかりとした世界観があるファンタジー。
『そなたがこの手紙を見るとき、すでに、わたしの死とわたしが残した言葉が、風のようにそなたの耳にも入っていることだろう。 レインハルトよ、私の死も、私の言葉も真実である。 神は、私たちにいつも優しい眼差しを向けられ、温かい手を差し伸べてこられた。だが、私たちはいつもそれに甘え、それを当り前だと勘違いし、神の大いなる御意思によって、この世界が作られているのだということを忘れ果ててしまっている。よく考えてみれば、この世界がどれほど神の慈愛に満ちているか分かりきっているではないか。太陽が輝き、月が照らし、風が吹き、川が流れ、大地が実りをもたらす。神はあらゆる生き物にも意味を与えられ、あらゆる命が複雑に…
一人で荒野を歩いていた。 自分以外誰もいない荒野。 いつも夢に見る孤独な世界。 また、誰かの泣き声が聞こえていた。 どこか遠くから聞こえてくるようでもあり、すぐ近くで泣いているようでもあった。 ひどく体が重かった。 足は鉛のように重く、一歩動かすことさえ苦しかった。 だが歩き続けた。どこに行こうとしているのかも分からないが、とにかく歩き続けた。 前に進みたいのか……いや、もしかすると、何かから逃げているのかもしれない。 だがいったい、何から逃げているのだろう。もしかして、その泣き声の主から逃げているのだろうか。 分からない。 分からない。 リュウの魂はいまだ冥府の中にあった。 リュウの魂はいま…
ジュダはレインハルトが部屋を出ていくと、にやりと笑った。その顔は神の名を口にして祈りを捧げたさきほどまでの真摯な顔とはまるで違っていた。その表情には傲慢で邪悪な笑みが宿っていた。ジュダは机にあった呼び鈴を鳴らした。すると数秒もせぬうちに執事のアモンが別な扉から現れた。アモンは目の前の美しい主人に腰をかがめると甘ったるい声で尋ねた。 「いかがでございました。あのレインハルトという男は」 ジュダは優雅にソファーに腰を掛けると、くくと笑いをこらえきれぬように言った。 「あの男、この私に向かって、神の名を語って嘘をつくものは必ずや神の怒りを買い、あの豚よりも悲惨な末路を迎えることになろうなどとぬかしお…
【聖書世界をモチーフにしたダークファンタジー小説】『リバイアサン』(十二)ジュダという男
この時代、敵の侵攻に備えるために国境都市は堅固な城壁に囲まれており、城の中央にその都市の最も重要な施設が集まっているのが普通で、マナハイムも同様の造りとなっていた。レインハルトは教会の尖塔が見える街の中央に向かって歩いていた。すると、そちらの方から兵士の一団が向かってくるのが見えた。一団はレインハルトの姿を見ると、急に走り出してきて、その周りを取り囲んだ。剣は構えてはいなかったが、明らかにレインハルトを連行するよう命令されていると見えて、どの兵士の顔にも緊張の色が見えていた。その中から隊長と思われる兵士がレインハルトの前に進み出て、硬い表情で言った。 「聖騎士レインハルトですか」 「いかにも、…
【小説投稿サイトの書き方】初心者向け面白い小説を書くための小説技法
面白い小説を書くためのちょっとしたヒントやテクニックなどの小技法を教える初心者必見のエッセイ集です。
【聖書世界をモチーフにしたダークファンタジー小説】『リバイアサン』(十一)ルーク
レインハルトはリュウが運び込まれた医者の家にいた。リュウはベッドの上に寝かされていたが、切り裂かれた腹は既に糸できちんと縫合されていた。リュウの傍にはリオラがいて、リュウの手を握り必死に祈っていた。 「どうだ。この男、助かるであろうか?」 レインハルトは、手術をやり遂げて脱力したように椅子に座っていた医師に声を掛けた。医師はレインハルトの顔を見ると、答えにくそうに小さくつぶやいた。 「……だいぶ出血しております。内臓もだいぶ損傷しているようです。後は彼の生命力次第です。生きたいと願う力があれば、戻ってくるでしょう」 レインハルトはその言葉を聞くと、改めてリュウの姿を眺めた。顔はひどく腫れ、体中…
【聖書世界をモチーフにしたダークファンタジー小説】『リバイアサン』(十)神意
「やめろ!」 静まり返っていた広場に、堂々たる声が響いた。その声は戦場で万の兵を叱咤する将軍の命のように、その場にいた全てのものの腹に響き渡った。さしもの署長の耳にもその声は届いたと見えて、顔をあげてきょろきょろと声の主を探した。すると一人の剣士が群集の間から現れた。それを見た群衆がひそひそと話し始めた。そしてその声はだんだんと大きくなっていった。 「あの男、もしや聖騎士レインハルト様じゃないか」 「そうだ、あの方のお姿を一度お見かけしたことがある」 「ああ、あの胸当てに刻まれたエンブレムを見ろ。百合の紋章だ、聖騎士の紋章だ!」 広場はいつか喝采に包まれていた。 レインハルトは署長を無視してリ…
【聖書世界をモチーフにしたダークファンタジー小説】『リバイアサン』(九)豚の群れ
同じように怒り狂っている男がいた。せっかく楽しみにしていた余興を台無しにされ、民衆の前で豚呼ばわりされた署長だった。署長はぷるぷると震えながら、物凄い形相でリュウの前に近づいてきた。 「――神など、どうだっていんだよ! てめえは俺に這いつくばらねえといけねえんだよ!」 そう言うと、署長は思いっきりリュウの顔面を殴った。何度も何度も殴った。前歯が折れた。鼻梁が折れた。残った左目からも光が消えた。それは拳による虐殺だった。 相変らず周囲は静まり返って、誰一人声を出すものはいなかった。みな署長の怒りが自分に及ぶの恐れて、見るに堪えぬ光景をひたすら我慢して見続けていた。 「――ほおお。ようやく少し気分…
冷たい風が吹いていた。暗い雲が空全体を覆っていて、とにかく昏かった。草木一本はえていない荒涼たる大地が見果たす限り続いていた。空腹だった。なんでもいい、食べるものが欲しかった。それに寒かった。凍えるように寒かった。自分がなぜこんなところを歩いているのか分からなかった。いったい自分がどこから来たのか、どこに行こうとするのか……何も分からなかった。ただひたすら歩いていた。 どこからか泣き声が聞こえていた。遠くの方……いや、誰かが近くで泣いている……誰かいるのか、自分のほかに誰かいるのか。誰でもいい、こんなところに一人でいたくない。誰でもいい、自分と一緒にいてほしい。どこにいるんだ。どこで泣いている…
【聖書世界をモチーフにしたダークファンタジー小説】『リバイアサン』(七)追剥と商人
リュウはマナハイムを飛び出した夜からいっときも休むこともなく、ひたすら道を急いでいた。どこに行くあてもなかったがマナハイムの近くに留まっているのは危険であることは分かり切っていた。 騒がしい表街道は避けて裏道を歩いていたが、それでも至る所に関所ができているため大きく迂回せざるをえず、なかなか先に進むことができなかった。しかしその警備の物々しさには妙な違和感を覚えた。最初は自分が犯した殺人のせいかと思ったが、それにしては大げさすぎるほど早馬が何度も走ったり、騎馬隊や兵士の群れがときおり駆けて行った。結局、リュウは昼間は動くのをやめて、夜間のみ移動することにしたのだった。 午後の昼下がり、リュウが…
【聖書世界をモチーフにしたダークファンタジー小説】『リバイアサン』(六)聖騎士レインハルト
「レインハルト! 紅茶が冷めちゃうよ!」 台所の方からリオラの声が聞こえたが、レインハルトは返事をするのを忘れるほど目の前の手紙に目を奪われていた。レインハルトが読んでいるのは預言者エトからの手紙であった。エトが世を去ったことはもちろん知っていた。そして、その恐るべき預言のことも。レインハルトはここしばらくの間、そのことでずっと心を痛めていたが、ようやく待ちに待った手紙が届いたのであった。 レインハルトは聖騎士であった。聖騎士とは神が必要に応じて、この世に遣わす戦士であった。神は預言者の口を通して聖騎士を選び、その任を与えるのであった。聖騎士はあらゆることを免れていた。国王ですら聖騎士を従わせ…
【聖書世界をモチーフにしたダークファンタジー小説】『リバイアサン』(五)予言者の死
首都ウルクの外れにある森の中の質素な一軒家に多くの人が詰めかけていた。 国王の側近、大司教、騎士団の総長、他にも商人組合の長や石職人の代表ら、各界の主だった顔が大勢集まっていた。重責を担い、国を支えるものたちが、かくも多くこんな辺鄙な場所に集まっているのには理由があった。今日、預言者エトが最後の預言を与えると連絡があったからであった。 預言者エトは神の言葉を聞くことのできる唯一の人間であった。神は常にエトを通じて御言葉を伝え、その御心を世界に伝えてきた。ところがこの十年というものエトは黙したまま語らず、じっと家に引きこもり、国王や教会からの招請があっても、ついぞ家を出ることはなかった。そのエト…
リュウは丘の上に立つとマナハイムの街を振り返った。月明かりに照らされて教会の尖塔が見えた。その隣にはリュウがいた孤児院があった。思い出とよべるようなものはなかったが、それでも何年かの時を過ごした場所には違いなかった。 リュウには家族がいなかった。いや、家族の記憶がなかった。ある時、自分が孤児院で過ごしていることを不意に悟った。だが自分がどんな経緯でここにいるのか知りたいとも思わなかった。なぜなら、ここに住む子どもたちは誰一人として過去を語るものがいなかったからだった。誰もが心に闇を抱えていた。そういう子ども同士が一つ屋根の下に押し込まれればどんなことになるか。 すぐに生意気なやつだと目をつけら…
【聖書世界をモチーフにしたダークファンタジー小説】『リバイアサン』(三)孤児院
リュウが住む孤児院は国教会が運営している身寄りのない子どもや乳飲み子を抱えた寡婦を住まわせる施設であった。そう言えば聞こえはいいが、住んでるものにとってみればなんのことはない、浮浪者のたまり場のごとき施設で、個室などあるわけもなく、大きな広間の中で各々がわずかばかりのスペースを確保し、支給された薄い毛布一枚にくるまり、毎夜毎夜、寒さに震えながら夜を耐えているのだった。赤子がミルク欲しさに泣きわめこうものなら、至る所から「うれせえ!」、「静かにしろ!」とヤジが飛び、母親は赤子を担いで急いで外に出なければならなかった。ある意味、母親付きでここにいられる赤子は、ここに住む大半の子どもらに取ってみれば…
【聖書世界をモチーフにしたダークファンタジー小説】『リバイアサン』(二)マナハイムの夜
リュウが住むマナハイムの街は人口三万人程度だが、国境近くにあるため隣国と交易するものたちの往来が盛んで街は大いに栄えていた。旅人が多いこうした交易都市で酒場や娼館が賑わうのは歴史の常であるのかもしれない。アルコール臭が混じったごみ溜めのような匂いを充満させたマナハイムの繁華街は毎夜毎夜、たまの憩いを酒で紛らわすものたちや、溜まりに溜まった性欲を満たそうとする男たちでいつも賑わっていた。 そんな笑い声や怒鳴り声が飛び交うマナハイムの繁華街をリュウはいつものように黙りこくって歩いていた。旅の客を自分の店に誘い入れようとするけばけばしい化粧をした女たちがそこかしこに立っていたが、歩いてきたのがリュウ…
【聖書世界をモチーフにしたダークファンタジー小説】『リバイアサン』 リュウという名の少年
白い雲が流れていた。 リュウは屋上に突き出した階段室の上で寝そべりながら、流れる雲をぼんやりとながめていた。くだらない授業など受けるつもりはなかった。かと言って、子どもたちが泣きわめく孤児院に戻るつもりもなかった。とにかく早くこの狭苦しい街から出たい。あの白い雲のように誰にも束縛されることなく自由に世界を歩きたい。雲を見ながら、そんなことばかり思っていた。 太陽が東の空から中天に登り、そして今度は西の空に傾きかけたころ、突然下から話声が聞こえてきた。どうやら誰かが屋上に上がってきたらしい。 「――そうか、それじゃお前も大変だな。親父は酒であたって半身不随、母親は他に男を作って出ていったんじゃな…
【聖書世界をモチーフにしたダークファンタジー小説】『リバイアサン』
ある村外れの館で肉塊と化した6人の男の死体が発見された。唯一生き残った少年は狂ったように、「リバイアサン……」と繰り返すのみだった。数年後、ある剣士が街を捨てて、世界へと歩き出す。 剣士は出会った仲間とともに過酷な世界の仕組みに苦悩しながらも、あのリバイアサンの謎に立ち向かっていく。世界とは、神とは、人とは、そして、誰一人立ち向かうことのできぬ怪物として語られるリバイアサンとは一体なにものか。
この物語を始めるにあたって、どこから語り始めればいいのか思い悩む。始まりを探そうと思えば切りがない。もしかすると、歴史を全て語らねばならないことにもなりかねない。それではあまりにも冗長になるだろうし、読者の興趣をそぐことにもなるだろう。 だから、あの事件のことから話そうと思う。確かにあの事件から急速に歴史は動き出した。歴史が動くときには、必ず始まりとなるようなエポック的な事件があるものだ。だが、いつの時代もそうであるように、同時代の人はその事件の重要性に思い至らず、いつの間にか忘れ去ってしまう。しかしあとから考えれば、あれが歴史の発端だったと気づかされる。この物語は確かにあの事件から始まった。…
【仏教をテーマにした和風ファンタジー小説】『鎮魂の唄 ~金剛薩埵編~』
かつて、蝦夷と呼ばれた地があった。そこは、鬼や悪鬼、古の英雄や神々の怨念が眠る地でもあった。時は現代、荒れ果てた寺に一人の僧がやってきた。その男の名は不空三蔵。真言を自在に操る、凄腕の密教僧。檀家の娘、小楢楓は、三蔵と行動を共にしていくうちに三蔵に惹かれ始める。しかし、三蔵の登場とともに、この地に不思議なことが次々に巻き起こる。三蔵はこの世界を救えるか。そして、仏に至るものだけが備えると言われる十全の力とは、いったい、いかなる力なのか。
【仏教をテーマにした現代ファンタジー小説】『鎮魂の唄 ~金剛薩埵編~』 第十八話 金剛薩埵菩薩
楓は銃声が響いた瞬間、これで自分も死ぬんだと感じ、そのまま意識を失っていた。いったい、どのくらい経ったのか判然としなかったが、胸の下で何かが動いているのを感じて、ふと目が覚めた。それは三蔵の心臓の鼓動だった。その鼓動は三蔵の体を通じて楓の体を震わせていた。楓は顔を上げると、泥にまみれた三蔵の顔を拭った。三蔵の顔は青白く血が遠のいてたが、かすかに息をしていた。それを見た楓はにっこりと笑い、血が噴き出しているところに手を当てた。すると楓の手から光が溢れ出した。その光はいつの間にか楓と三蔵を包みこんでいた。 三蔵は、いろいろな声が自分を呼んでいるのをずっと感じていた。父の声、スサノオの声、この天地に…
「ばかが! 誰が修法比べなどに付き合うなんて言ったよ」鬼島はうすら笑いを浮かべて、三蔵に近づいた。そして血を流して倒れている三蔵を容赦なく蹴りつけ始めた。 「なにが、救いはないだ! なにが、未来永劫、苦しむだ!」 「えらそうに説教たれた癖に、たった一発であの世行きかよ!」 「そんな糞坊主の言うことなど誰が信じるかよ!」 「なにが、弔いだ、なにが、菩薩行だ!」 「貴様のたわ言を聞いているだけで、へどが出るんだよ」 「おい、なんか言ってみろよ! ほら、こっから奇跡でも見せてみろっ!」 「弾一発食らっただけで惨めなもんだな! そんな野郎に一体何ができるっつんだよ!」 「聞いてんのか、この、糞野郎が!…
僕がこれまで書いてきた物語には様々なジャンルがあるが、これは公募には向かないだろうなと思うものが結構ある。 分かりやすいのは、宗教を扱う作品はたぶん好まれないだろうと思う。 なぜなら宗教は取り扱いが非常に難しく、信じる人からすれば、いくらフィクションであっても、容認できないなんてことはざらだからだ。 世界的なベストセラーになった『ダヴィンチコード』も、信じる、信じないで宗教家を巻き込んだ大論争になった。 僕が今書いている「リバイアサン」というダークファンタジーは、まさに聖書世界を基軸に置いて、まさに神とは何かということを一番大きなテーマにしているが、絶対に公募に向かないだろうなと思っている。 …
今日はカクヨムで書いている人にとって非常に関心の高い「注目の作品」コーナーへの掲載条件に関する考察をしてみたいと思います。 読者にとって唯一の導線といってもいい「注目の作品」コーナー。 ランキング上位者ならまだしも、まだ駆け出しの初心者、投稿したばかりの作品は、「注目の作品」コーナーに掲載されることで、新たな読者の流入が見込まれ、結果、PVの増加、リピーターの獲得につながっていく。なので、作者にとってはこの注目の作品の載るかどうかはまさに死活問題といってもいい。 「注目の作品」コーナーに載る条件は、前日に星(★)をもらうことというのが定説のようですが、カクヨムで1年ほど書いてきて、もう少し複雑…
【仏教をテーマにした現代ファンタジー小説】『鎮魂の唄 ~金剛薩埵編~』 第十六話 凌辱
楓の目の前には、さきほどまで笑いあっていた大吾が眠ったように地面に横たわっていた。心臓のあたりから血がどくどくと噴き出て周囲に広がっていた。 楓は自分が何を見ているのか理解できなかった。ただ父のそばにいきたい、それだけが頭にあり、ふらふらと大吾の側に近寄ると倒れこむようにしゃがみこんだ。震える手で大吾の頬を摩った、瞼を摩った、唇を摩った。しかし大吾は微笑んでくれなかった、楓と呼んではくれなかった。大吾の身体から急速に血液が失われ、大吾の命は失われかけていた。 何も考えられなかった。ついさっきまであんなに幸せだったのに、これからは私がお父さんを守るからと母に誓ったばかりなのに——いろいろな思い出…
魚にはもう話しかけられなかった。見るも無残な姿になってしまったからだ。すると、ある思いが頭に湧いた。「なあ、半身の魚よ」老人は呼びかけた。「変わり果てた魚よ。とんでもない沖合に出てしまってすまなかったな。おかげで、おれもおまえもさんざんな目にあった。でも、おれたち、けっこうな数のサメを殺しただろうが。他にもたくさん痛めつけてやったし。おまえはこれまでに、どれだけ殺した? その槍のような嘴、だてに備えているわけじゃあるまい?」 この魚、自由に泳ぎまわっていれば、サメにどういう落とし前をつけられるか。それを考えると楽しかった。そうだ、あの嘴を元から切って、やつらと闘えばよかった。だが、斧がなかった…
【仏教をテーマにした現代ファンタジー小説】『鎮魂の唄 ~金剛薩埵編~』 第十五話 家族
「三蔵! 三蔵!」楓が大声で叫びながら、三蔵のいる広間に走ってきた。 「そんなに慌てるな、一体なんの用事だ」三蔵が落ち着けとばかりに言った。 「なんだか、この近くに指名手配されている殺人犯がうろついているみたいなの! 今朝、警察から家に電話があって、ひと山超えた山道にそいつが乗り捨てた車がみつかったって言うの。だから決して一人では出歩かないでって――それで、急に三蔵のことが心配になって、飛んできたの」 その言葉を聞いた瞬間、三蔵は今まで見たことがないような怖い顔になって、楓を怒鳴りつけた。「そんな危ないやつがうろついているのに、なんで一人でこんなところに来た! お前は自分がどんなに危険なことを…
カクヨムには自主企画というものがあります。 誰でも参加でき、自分で企画することもできます。 僕が初めて自主企画を立ち上げたのはカクヨムを始めたばかりのほやほやの頃でしたが、初めてレビューをもらったうれしさに舞い上がり、自分もレビューを書いてみたいと思い立ち、レギュレーションとかもよく考えずにレビュー書きますみたいな自主企画を立ち上げてしまいました。ところが途中で、運営から「レビューを確約するような自主企画は禁止です」みたいな内容の【警告メール】が来て、びっくりしてすぐに企画自体を削除してしまいました。 それからしばらくたって、ようやくカクヨムがどういうところかわかってきた頃に、笑える短編作品を…
【仏教をテーマにした現代ファンタジー小説】『鎮魂の唄 ~金剛薩埵編~』 第十四話 鬼神力
スサノオは古びた神社の前に立って、まるで社の内部を見透かすかのように厳しい目でじっと見つめていた。その神社はもはや人から捨てられたと見えて、草は伸び放題、柱は腐食して斜めに傾き、壁にはところどころ穴があいていた。 「――どんどん、力が弱まっている」スサノオは小さくつぶやいた。 この神社は、かつてこの国を支配した国津神が祀られているところであった。青龍寺の先代の住職である円仁和尚は、これらこの地に眠る大いなる力を鎮めるために建てられたいくつかの封地の守り手であり、その任は千年以上の長きに渡り、世代を超えて綿々と受け継がれてきたのだった。 古代の神を祀るこれらの場は昔であれば参る人が絶えることなく…
【仏教をテーマにした現代ファンタジー小説】『鎮魂の唄 ~金剛薩埵編~』 第十三話 小さな種
「ほら、三蔵の好きな鰹だよ。今日、魚屋さんに行ったら、すごくいきのいいのがあったから、奮発して買ってきちゃった」楓はそう言うと、脂が乗った鰹の刺身がたっぷり盛られた大皿を三蔵の前に置いた。 「おい、親父さんの分も残しておかなくていいのか」三蔵は苦笑した。 「大丈夫、もう家の分は準備してきたから――実は父さんも三蔵と同じで鰹が大好物なんだよね」 「そりゃ話が合いそうだな。大吾さんとは一度、ゆっくり酒でも飲みたいと思っていたんだ」 「ほんと! じゃ、後で話しておくから」楓は嬉しそうに笑った。 最近、楓は学校が終わると青龍寺に行って三蔵の夕食の準備をするようになっていた。 そもそも三蔵が食事の準備な…
【仏教をテーマにした現代ファンタジー小説】『鎮魂の唄 ~金剛薩埵編~』 第十二話 殺人鬼
冷たい風が吹いていた。麓はまだ紅葉が色づいていたが、山の上では木々はすっかり葉を落とし冬支度を始めていた。そんな枯れ木が生い茂る最奥の森の中を一人の男が歩いていた。この男は東京で幼女を誘拐して凌辱した後、バラバラに切断して親元に送るという凶悪な事件を起こし、現在警察から指名手配されている男だった。なんとかここまで逃げおおせてきたが、ガソリンも金もつきて逃げこむように山に入っていったのだった。 空気は凍えるようで、男は両手で全身をさすりながら歩いていた。男の実家はこの山の向こうにあった。おそらく実家にも捜査の手が伸びているだろうが、もはや男にはそこ以外に行くところがなかった。 男は重い足を引きづ…
【仏教をテーマにした現代ファンタジー小説】『鎮魂の唄 ~金剛薩埵編~』 第十一話 鳴動
「今の地震じゃない?」学校からの帰り道、優香が言った。 「結構、大きくない……」楓は優香の手を掴んで、不安そうに周りを眺めた。 「楓、怖がりすぎだって」優香が笑いながら言った。 「だって、このところずっとだよ。ほら、ここら辺って、十年おきに大きい地震が来るっていうじゃない。前の地震が起こってからそろそろ十年だし、なんか怖いよ」 「まあ、そうだね――ところでさ」優香は楓の心配などどうでもよいとばかりにぐいと迫ってきた。 「……えっ、な、なに」 「私、三蔵さんに嫌われちゃったかな」 「えっ、なんで……」 「だって、初対面なのに、いきなり寝顔見られちゃったんだよ。絶対、あり得ないよ。もう、凄い恥ずか…
このブログは、面白い小説を書くことだけしか考えていないアマチュア作家の徒然ブログです。 作家を目指そうとした時期もありましたが、大きな仕事を抱える立場になり、現実の社会を直接的に変えることの方が自分の性にあっていると感じたため、小説を書くことはあくまでも趣味として捉えています。 ただ、自分が書いた物語を発表する場と自分の心に溜まったことを吐き出す場所が欲しいため、このブログを立ち上げました。 これまでに書いた物語、これから紡がれる物語、それらを順次発表していきたいと思いますので、初めての方も、いつもお読みいただいている方も、どうぞ、お気軽にお読みください。 『42.195㎞』 ジャンル キャッ…
【仏教をテーマにした現代ファンタジー小説】『鎮魂の唄 ~金剛薩埵編~』 第十話 淫乱
相変わらずボロ家同然の青龍寺であったが、先日行われた晋山式の前にだいぶ庭の手入れや傷んだ箇所の修繕をしたので、なんとか人が住めるような環境になっていた。 スサノオがいるはずだったが今日はどこかに行ったと見えて姿が見えなかった。まあ、あんなでかい犬が突然しゃべり始めたら優香が気絶するかもしれないと思ったので楓は少しほっとした。 楓はいつもの勝手口から中に入ると、三蔵さんと大声で叫んだ。すると中から、勝手に入ってこいという三蔵の声が聞こえてきた。楓と優香は土間で靴を脱ぐと広間の方に向かっていったが、そこにはいつものごとくに柱に寄りかかりながら酒を飲んでいる三蔵がいた。 「どうした。今日は友達も一緒…
【仏教をテーマにした現代ファンタジー小説】『鎮魂の唄 ~金剛薩埵編~』 第九話 楓と優香
「ねえ楓、今度清龍寺に来た住職さんって、すごいイケメンなんでしょう」 びっくりして顔をあげると机の前に同級生の優香が目を輝かせて立っていた。 「えっ……なんでそんなこと知ってるの?」楓が少しうろたえ気味に答えると、優香がさらに身を乗り出してきた。 「やっぱりイケメンなんだ! なんで私に黙ってたのよ。さては、狙ってるんでしょう」 「えっ、そ、そんなんじゃないよ。優香に話す機会がなかっただけだよ」 「じゃなんで、そんなに慌ててんのよ」 「だって、優香がいきなり変なこと言うからだよ――ところで、どこからそんな話聞いてきたの」楓は話を切り替えるように優香に聞いた。 「そりゃ、知ってるわよ。うちのお父さ…
【仏教をテーマにした現代ファンタジー小説】『鎮魂の唄 ~金剛薩埵編~』 第八話 スサノオ
翌日、楓は学校から帰ると荷物を放り投げ、すぐに清龍寺に走っていった。三蔵はどこやらへ出かけたらしく不在だったが、あの巨大なスサノオと名乗る白い犬が庭の隅で昼寝をしていた。楓は恐る恐るスサノオの方に近づいていった。 「……スサノオさん」楓は蚊の鳴くような声でスサノオに声を掛けたが、スサノオはぴくりともしない。 「……ねえ、スサノオさん」今度は少し大きな声で声を掛けた。スサノオは耳をぴくりと動かしたが、相変らず目を瞑ったままだった。 「ねえねえ、起きてんでしょう。返事ぐらいしたっていいじゃないの」楓はスサノオの背中をゆすった。 「――相変わらず、うるさい奴だな」 スサノオは、はああっと大きなあくび…
人生に大きな影響を与えた、どうしても忘れられない本、心に響く言葉、心に残る言葉を古今の名作の中から紹介していきます。
投稿した小説がさっぱり読まれないと嘆いている方々へ、カクヨムで読まれるためのヒントやカクヨムへの向き合い方など、カクヨムでの実体験をもとにしたカクヨム初心者必見のエッセイ集です。
【仏教をテーマにした現代ファンタジー小説】『鎮魂の唄 ~金剛薩埵編~』 第七話 金剛力
光は消え去り、周囲は暗闇の世界に戻っていた。いつの間には大熊は消え失せ、三蔵が右腕を抱え込むようにしてしゃがみこんでいた。楓は三蔵めがけて走っていった。 「大丈夫! 怪我はない?」 三蔵の脇に駆け寄った楓は心配そうに声を掛けたが、三蔵の右腕を見た途端絶句した。腕は血だらけで肉の間から骨が覗いていた。三蔵は腕を抑えて、必死に痛みに耐えていた。楓はあまりのことに体を強張らせたが、それはほんの一瞬のことだった。すぐさま着ていたブラウスを脱ぎ捨てると歯でそれを切り裂いて血がどくどくと流れ出る三蔵の右腕の上部に巻きつけてきつく縛った。そして残りの生地を沢の水に浸して傷口にそっとあてた。三蔵は痛みに顔をし…
【仏教をテーマにした現代ファンタジー小説】『鎮魂の唄 ~金剛薩埵編~』 第六話 人を殺す獣
鬱蒼と生い茂る森の中を歩いていた。三蔵と楓の前を巨大な犬がのっそりのっそり歩いていた。森は薄暗くて何も見えなかったが、あちらこちらにぼんやりと白い魂が浮いたり消えたりしていた。 三蔵と楓は横並びに歩いていた。三蔵は楓の手をしっかりと握っていた。楓は少し手が痛かったがうれしかった。なんの根拠もないのは分かってはいるのだが、楓はこの三蔵という男がいざとなったら絶対に自分を守ってくれるだろうと確信していた。なぜだか、体のどこかからかそんな思いが湧き上がってくるのだった。なぜだろう、なぜなんだろう。自分でも不思議だった。でも今はそれで十分だった。 森の中を三十分も歩いたろうか。さらさらと水の流れる音が…
【仏教をテーマにした現代ファンタジー小説】『鎮魂の唄 ~金剛薩埵編~』 第五話 巨大な白犬
空が茜色に染まるころ、庫裡では片付けを終えた女たちが帰り支度を始めていた。既に男たちはみな千鳥足で帰ってしまい、寺は昼の喧騒が嘘のように静まり返っていた。 楓も身支度を済ませ帰ろうとしたが、浴びるように酒を飲んでいた三蔵の様子が気になったので広間の方に行ってみることにした。楓が広間を覗くと、柱に寄りかかりながら相変わらず茶わん酒をちびりちびりと飲んでいる三蔵の姿が見えた。既に二升か三升は飲んでいるはずなのに、ほんのりと赤みがさしたくらいで、三蔵の顔はあいかわらず陶器のように透き通った白い肌をしていた。 「まだ飲んでるの。よく飽きないわね」楓は三蔵に近づきながら、飽きれたように言った。 「――こ…
【仏教をテーマにした現代ファンタジー小説】『鎮魂の唄 ~金剛薩埵編~』 第四話 晋山式
数日の後、青龍寺では三蔵が新しい住職として就任するための晋山式が行われた。大吾を始め檀家連が一堂に揃い、儀式は厳かに行われたが、儀式の後は広間で三蔵を囲んでの祝いの席となった。 役員たちは三蔵の前に集まり、まずは一杯と三蔵に酒を注いでいたが、この三蔵という男、酒はなかなかいける口と見えて、最初は謙虚にお猪口で酒を受けていたが、お猪口ではまったく足りないとばかりに茶わんを手に取って、ぐいぐい酒を飲みだすものだから、役員たちも大喜びで、次は俺、次は私だと、三蔵の前に大きな輪ができて、大いに浮かれ騒いでいた。 一方、広間の隣の庫裏では、女性たちがさながら戦場のように駆け回り立ち働いていた。その中でま…
【仏教をテーマにした現代ファンタジー小説】『鎮魂の唄 ~金剛薩埵編~』 第三話 蝦夷の地
楓と三蔵は寺の縁側に座って庭を眺めていた。日はすっかり落ちて宵闇が迫っていたが、楓は帰ろうとしなかった。信じられない体験をし、信じがたいことを聞いて、楓の頭はひどく混乱していた。でもなぜか、三蔵が嘘を言っているとは思えなかった。逆に三蔵が言った言葉の意味をもっと知りたいと思った。三蔵は柱に寄りかかり、しばらく黙って草ぼうぼうの庭を眺めていたが、そんな楓の心中を察したのか、ぽつぽつと語り始めた。 「――古来、ここら辺一帯は蝦夷と呼ばれ、大和の神々に滅ぼされた国津神の一族が眠る墓所であった。つまり蝦夷に住まうものたちの想いと恨みの念が凝縮されている地なのだ。さらに言えばこの地は東北の地を縦断する龍…
陽の光が杉木立の中を木漏れ日となって降り注ぐ中、二人は一言も言葉を交わさず黙々と参道を下っていったが、ほんの十分もたたないうちに小楢家に到着した。 楓は中に向かって、連れてきたよと大きな声をあげた。その声が消えぬ間もなく、父の大吾がどしどしと廊下を走ってきて玄関口に現れた。そして楓の後ろに控えている三蔵をみるなり、「いや、わざわざこちらに来ていただくとは、なんとも申し訳ありません」と三蔵が娘の楓とさほど変わらぬ年恰好なのを少しも気にする風もなく至極丁寧に頭を下げた。 三蔵もさきほどまでの楓に対する横柄な態度とは大違いの体で、「すぐさま、こちらにお伺いすべきところを大変失礼いたしました。また若輩…
【仏教をテーマにした現代ファンタジー小説】『鎮魂の唄 ~金剛薩埵編~』 第一話 青龍寺
「あんなボロ寺にいったい誰が来るっていうんだろう……」 楓は独り言を言いながら、草ぼうぼうに生い茂った参道を恐る恐る登っていった。両脇には巨大な杉が立ち並び、辺りは鬱蒼として物音一つしなかった。 ほんとだったら絶対に来たくない場所だった。女の幽霊が出るとか、人魂が出るとか言われているのだが本当に出るのだ。 お盆にクラスの男女数人で夜中に集まり、ここで肝試しをしたことがあった。楓は連れの男とびくびくしながらこの道を歩いていたが、急にひんやりとした風が後ろから吹いてきて、楓が恐々と振り向くと、真っ暗な木立の中に白い光が浮かび上がり、小さな子供のような形となってこちらに近づいてきた。しかもその白い影…
須弥山しゅみせんの頂上の、そのまたはるか彼方の上空に位置する兜率天とそつてんでは、弥勒菩薩が五十六億七千万年の後に仏として地上世界に降り立ち、善者も、悪者も、獣も魚も、命ある全てのものを等しく救い給うためにはいかにすべきかと、今日も頬に軽く手を当てて、ひたすら瞑想にふけっていた。 兜率天では数多くの諸天や菩薩が弥勒菩薩とともにひたすら修行に励んでいたが、釈迦如来がご自身の後継者として後事を託された弥勒菩薩の深い思索を妨げようなどと思う不届き物は一人もおらず、天上で妙なる音色を奏でている迦陵頻伽かりょうびんがも敢えては傍に近寄らず、弥勒菩薩の周りはいつも静寂に包まれ、ふくよかな香りに満たされ、清…
はじめに 本編 (上) (中) (下) 読者さまからいただいたコメント あとがき はじめに 昔、日本昔ばなしというアニメがありましたが、僕はこのアニメが大好きで、毎週欠かさず見ていました(今でも、主題歌歌えますよ。坊や~、よいこだ、ねんねしな~)。なので、それにあやかって、こんな話を書いてみました。少し大人向けの日本昔ばなしですが、気楽にお読みください。 本編 (上) その昔、出雲の国で須佐之男主すさのおのみことが八岐大蛇やまたのおろちを退治し、櫛名田比売くしなだひめを救ったのはよく知られておりますが、実は、そのような話は各地にたくさんございまして、中にはなんとも哀れな話もあったそうでございま…
すると、後ろから大きな声が聞こえてまいりました。 「なんだ、女がおらぬ」 「女はどこだ、どこぞに逃げおったか」 「おのれ、逃がさぬぞ」 「匂いがするわ」 「おお、血の臭いだわい」 「こちらじゃ、こちらじゃ」 「決して逃がすな」 お妙は生きた心地がしません。 とにかく、暗闇の中を走りました。 山を下っているのか、それとも登っているのかさえ分からぬまま、ひたすら走り続けました。 暗闇のこととて、何度も足をひっかけて転んでしまいます。そのたびに後ろの方から、「こっちに逃げおった!」 「今、何やら転んだ音がしおったぞ!」 「こちらじゃ、こちらじゃ」と声が聞こえてまいります。 その都度、お妙は力を振り絞…
さて朝日も昇り、いよいよ神奈備山に向かう刻限が参りました。 裃をつけた村長と佐五平、そして兄や姉、隣家の村人たちは既に家の前に勢ぞろいしております。その中を白装束に身を包んだお妙が母に手を引かれて、家から出てまいりました。 お妙は用意された籠の前に立つと、一度、後ろを振り返り、集まった人たちに頭を下げ、そのまま黙って籠に乗りこみました。 集まった人々は皆一斉に手を合わせ、お京、お園の二人の姉も、涙をぼろぼろ流し、すまぬ、すまぬと心の中で叫びながら、仏さまを仰ぐように、お妙一行が去って行く姿をただひたすら眺めていたのでございました。 神奈備山は、山また山のその奥にある山で、普段は、誰も行くものと…
その昔、出雲の国で須佐之男主すさのおのみことが八岐大蛇やまたのおろちを退治し、櫛名田比売くしなだひめを救ったのはよく知られておりますが、実は、そのような話は各地にたくさんございまして、中にはなんとも哀れな話もあったそうでございます。これは、ある村に伝わる、そんな話の一つでございます。 「今年も、また、あの日が近づいてきたのお」 「ほんに、あの日が近づくと、なんとも気が重くなってかなわん」 「さて、今年はいったい誰にしたらよいのかのお」 村の顔役達が、なんとも重苦しい様子で話をしておりますが、それもそのはず、今日集まったのは、山の神に生贄として差し出す娘を誰にするか決めるという、なんとも嫌な話な…
はじめに 本編 読者さまからいただいたコメント あとがき はじめに この短編は、カクヨムで書いていた時に、お盆の時期にほんの思い付きで半日もかけずにさっと書いたものです。本当に短い短編ですので、軽い気持ちで読んでいただければ幸いです。 本編 毎年、夏休みのこの時期になると、僕は田舎のじいちゃんの家に行く。 じいちゃんの家は、昔は庄屋さんだったらしく、古いけど家は大きいし部屋がたくさんあって、かくれんぼには困らないし、庭も広いし、おにごっこもできる、家の裏は川が流れてて、じいちゃんに釣りも教えてもらえる。 そんなすごいじいちゃんちなんだけど、実は、じいちゃんちには秘密があるんだ。絶対に入っちゃい…
毎年、夏休みのこの時期になると、僕は田舎のじいちゃんの家に行く。 じいちゃんの家は、昔は庄屋さんだったらしく、古いけど家は大きいし部屋がたくさんあって、かくれんぼには困らないし、庭も広いし、おにごっこもできる、家の裏は川が流れてて、じいちゃんに釣りも教えてもらえる。 そんなすごいじいちゃんちなんだけど、実は、じいちゃんちには秘密があるんだ。絶対に入っちゃいけない蔵があるんだ。 その蔵は三つあるうちの一番小さな蔵で、家のひとはこぐらと呼んでる。 この蔵は普段はじいちゃんしか入れないが、お盆の時だけは、二十歳を過ぎた大人だけが入るのを許されて、ぞろぞろと蔵の中に入って行く。その間、子供は外で遊んで…
はじめに 本編 (一) (二) (三) (四) (五) (おわり) 読者さまからいただいたコメント あとがき はじめに この短編は、僕が生まれて始めた書いた処女作になります。今読み返すと、稚拙な部分が多々ありますが、それでも自分にとって大切な作品であることには変わりませんので、暖かい目で読んでいただければ幸いです。 本編 (一) 私は東京で生まれて東京で育ちましたので、田舎というものを知りません。 本や映画でしか田舎を知らない私にとって、田舎というものは透き通るような青い空に綿あめのような雲が浮かび、緑の稲穂が絨毯のように広がり、田んぼを縫うように小川があって、小魚がキラキラと泳ぎ回り、山に行…
私は頭を下げたままでしたが、しばらくは物音一つ聞こえませんでした。すると、突然誰かがパチパチと拍手しました。それが合図のように、会場が割れんばかりの拍手であふれかえったのです。 「いやいや区長さん。あんなとこに住むなんていうから得体のしれないのが来たなんて言っとったが、こりゃ、私が間違っていたようだ。なかなか良い若者じゃないですか」 頭はぼさぼさで顔一面髭だらけの熊沢さんという方が、大きな体を森山さんに向けて部屋中に響くような声で言いました。 「だから言ったでしょう熊沢さん。やっぱりね、実際に会ってみないとほんとの人柄は分からんもんですよ」 森山さんがにこにこしながら答えると、今度は熊沢さんの…
それから数日が立ち、私は意を決して、区長さんに誘われた地区の集会に顔を出してみることしました。 里に降りると、あたり一面、緑の稲穂が広がっていました。その稲穂に夕暮れの残照があたった様は、まるで緑色の波が広がる大海原のようでした。ですが、私はそんな美しい景色とは裏腹に暗い気持ちで田んぼの中の一本道をとぼとぼと歩いておりました。 一時間ほども歩いてきて、ようやく先の方に平屋の建物が見えてきました。どうやら、あそこが区長さんに教えられた集落会館のようです。 建物に近づいてみますと、すでにたくさんの車が停まっていました。恐る恐るそっと近づいていくと、中からはガヤガヤと声が聞こえてきます。私はその声を…
その夜は一睡もできなかったので、私は明るくなるとすぐに小川に行って、顔をじゃぶじゃぶと洗いました。熊がしゃべるなんて童話じゃあるまいし、おそらくねぼけていたんだろう。すっきりした私はようやく納得して、濡れた顔をタオルでごしごしとふきました。 その時です。林の中でガサゴソと音がしました。私はギョッとして音がした方に顔を向けました。その音は段々と大きくなっていきました。草の擦れる音だけではなく、動物のいななく音も聞こえてきます。それも、一匹や二匹ではありません。何かの群れがこちらに近づいているようでした。 私は逃げようと思ったのですが、心臓はバクバク鳴るし、両足はガクガク震え一歩も動くことができま…
そんな、ある日のこと、山川さんが家にやってきました。山川さんは家の中をぐるっと眺め渡すと、「ここに住んでみていかがですか」と不安な様子で私に尋ねてきました。 「大変に良いところで毎日楽しく過ごしております」 私が笑顔で答えると、山川さんは真底からほっとした様子でしたが、「なるほどなるほど。いや、移住したいという方はたくさんいるのですが、実際に住んでみると自分の想像とは違ったと言って、すぐに出ていってしまう方が案外いるのですよ」となんだか寂しそうに言いました。 「そんなものですか」 「そんなものなんですよ」 「いったい、何が気に食わないのでしょうね」私は不思議でしょうがないとでもいうように顔をか…
私が移住したその家というか小屋は、板間が八畳ほどしかない本当に小さなものでしたが壁も漆喰で塗られているし柱も案外太いのでかなり頑丈にできております。なによりも床間にちょうどよい囲炉裏があるのが大変気に入りました。 私にとっては田舎暮らしというものは囲炉裏抜きには考えられないのです。囲炉裏にくべられた薪の爆ぜる音やゆらゆらと揺らめく明かり、寒い夜には家全体をほんわかと温めてくれるし、ご飯時には鍋から湯気が噴き出し、いい匂いがあたりにぷーんと漂う、そんな光景を考えただけで幸せな気持ちになってしまうのです。 移住して最初の数日は家の脇の畑を耕すのにだいぶ苦労しました。それというのも、放棄されてからだ…
私は東京で生まれて東京で育ちましたので、田舎というものを知りません。 本や映画でしか田舎を知らない私にとって、田舎というものは透き通るような青い空に綿あめのような雲が浮かび、緑の稲穂が絨毯のように広がり、田んぼを縫うように小川があって、小魚がキラキラと泳ぎ回り、山に行けばキノコやタケノコがわさわさとはえて、田んぼの中にぽつんと浮かんだ人家の周りを虫や鳥や獣たちが自由に行き来し、自然と生き物たちの奏でるハーモニーが日ごと夜ごとに繰り返される、そんなわくわくするような光り輝く世界なのでした。 夏休みがくるたびに田舎に帰るんだと自慢げに話す友達が本当に羨ましくて、その頃から、大人になったら絶対に田舎…
【社会に対して好き勝手に放言します】政治について語りたい その二
トランプ氏が狙撃されたというニュースが世界を駆け巡ったが、無事で本当に良かったと思う。 変革は必要だが、それは一個人の暴力などによってなされるべきではないし、そもそも、そんなことで真の変革がなされるはずがない。それは、長い人間の歴史が証明している。 真の変革とは民衆の中に生まれる小さな灯が、燎原の火となって、国中を覆いつくしたときに始めて興るのだと思う。 政治とはいわば、その大きな炎を統御し、法や政策という形に整えることに他ならない。 トランプ氏は確かに、いい意味でも悪い意味でも目立つ男だ。 だが、決して忘れてはならないのは、彼を大統領候補に押し上げているのは、アメリカ国民そのものであり、彼の…
はじめに 本編 (一) (二) (三) (四) (五) (六) (七) (八) (九) (十) (十一) ゴール、そしてその先へ 読者さまからいただいたコメント あとがき はじめに この短編はカクヨムという小説投稿サイトで活動していた時に書いた中編小説です。毎日書きながら投稿するという連載小説の形で始めて書いたものですが、その粗削り感、疾走感が逆に良かったのか、本当にたくさんの方からレビュー、コメントをいただいたものでした。 今回、その時の作品に少し加筆訂正していますが、基本的な構成やテーマはいっさい変えていませんので、カクヨムで既に読まれたかたも、はじめてのかたも、どうぞお楽しみください。 …
角を曲がると40キロと書かれた看板が立ってた。その40キロという文字を見て、俺は一瞬、立ち止まった。 40キロ、絶対に無理だと思っていた世界にたどり着くことができた気がした。一度は諦めた。でも、必死になって進み続けて、今までの俺だったら絶対に届かなかったものに手が届いたような気がした。 その時だった。 「先輩! 頑張って!」 喧騒の中から聞き覚えのある女性の声が大きく響いた。俺は思わず、その声の方を振り返った。 そこには、いるはずのない女性が立っていた。 職場の同僚の上田芙紗子が旗を振って、必死に俺を応援していた。俺は何か幻でも見ているようだった。だが、その女性は紛れもなく、俺が思いを抱いてい…
俺は、ずっと走り続けていた。 体中が悲鳴をあげていた。一歩進むたびに足に激痛が走った。体中から汗が吹き出し、もはや全身びしょ濡れだった。俺は汗をたらし、鼻水をたらし、よだれを垂らし、涙を流して走っていた。はああ、はああ、と死にそうな声を出しながら、ぶつくさと何かをしゃべりながら、俺は走り続けていた。 はああ……はああ……ちくしょう、苦しいよ……はああ、はああ……なんでだよ……はああ、はああ……なんで、こんなに苦しんだよ……はああ、はあああ、はああ……まだかよ……はああ、はああ……なんで、こんな長いんだよ……はああ、はああ、はあああ……長すぎるだろ…… 走っているのか、歩いているのか、それとも、…
ようやく30キロの看板が見えた。 足が丸太棒のようで曲げることさえままならなくなっていた。とにかく足が重くて、足をちょっと動かすことすら辛かった。それでも、どうにかこうにか足を動かすのだが、足が地面に接するたびに、足裏を金槌で叩かれるような衝撃に襲われた。足はギシギシと軋み、筋肉は金属のように硬直していた。もはや、歩くことすら難しくなっていた 太陽は天中に昇り、日差しはさらに強くなっていた。髪を触ると熱いくらいになっていた。頭皮からも汗が吹き出し額の汗と混じって、顔面を流れ落ちた。汗が目の中に頻繁に入るので、なんども手の甲や腕で拭ったが、手の甲も腕も汗びっしょりで、拭うどころじゃなかった。汗が…
スタートしてから、1時間15分が経過していた。 空は快晴で雲一つなかった。その中を太陽がじわじわと昇っていた。太陽は容赦なく、地上を照りつけていた。あたりに漂っていた夜露がどんどん蒸発し、温度がどんどん高くなっているのが皮膚の感覚で分かった。 汗が吹き出し始めていた。 その汗はスタート前の爽快な汗とはまるで違って、べとべとと肌にまとわりついていた。 18キロの地点に給水コーナーがあった。 俺は走りながら、水を含んだスポンジを掴むと、そのまま顔や首に押し当てた。スポンジに含まれた水がだらだらとシャツの中にこぼれ落ちた。スポンジだけでなくスポーツドリンクも掴んで浴びるように口に流し込んだが、喉に入…
10キロの表示を通り過ぎた。 時計を見たら、35分を切っていた。自己最速のタイムだった。だけど、これは完全にオーバーペースだった。 ここがゴールならこのタイムで大いに満足したろう。だが、今日はフルマラソンだ。ゴールまでまだ30キロ以上残っていることを思えば、到底、こんなペースで走り続けることはできなかった。 俺はペースを落とさざるをえなかった。だが、出だしでペースを上げ過ぎたつけが体に出始めていた。限界に近いペースで走ってしまったことで疲労が筋肉に蓄積されていた。あれだけ軽かった足が妙に重くなっていた。 だが俺は必死に足と腕を動かして、走り続けていた。 そんなときだった。不意に後ろから足音が聞…
ランナーが一斉に走り始めた。 二千人を超えるランナーが参加する大会ともなると、スタートラインを超えるのにもかなり時間がかかる。しばらくは動くことすらままならない。俺の周りもほとんど進むことができず、のろのろと歩きながら少しづつ進んでいった。 俺は早く走り出したくて、うずうずしていた。徐々にペースが上がり、周囲にスペースができ始めると俺は群衆を縫うように走り始めた。 初めてってのはついつい勢いが余ってしまうものだ。 でも、そりゃそうに決まってる。ずっと待ち焦がれていた舞台に立てたんだ。ようやく自分の力を発揮できる時が来たんだ。俺の周りにいるやつら、こいつらがどんなに走ってきたか知らないが、俺だっ…
レース当日、俺は五時に目を覚ますと、親父とおふくろを起こさないよう静かに家を出た。 玄関を出ると、朝日が東の空に浮かび、真っ青な空を美しく照らしていた。見慣れているはずの庭木も草も花もなんだか別なもののようにキラキラと煌めいて、地面に転がっている石ころですら宝石のように光り輝いていた。 俺は空を向いて大きく息を吸った。うまかった。空気ってこんなにうまいものだったかと思った。俺は自然と顔が綻んだ。天地が俺の挑戦を祝福しているように感じた。 会場には、すでにたくさんの人が集まっていた。俺は受け付けを済ませると、会場の端っこの方に小さなレジャーシートを敷いて腰を下ろした。受け付けのときにもらった袋を…
角を曲がると40キロと書かれた看板が立ってた。その40キロという文字を見て、俺は一瞬、立ち止まった。 40キロ、絶対に無理だと思っていた世界にたどり着くことができた気がした。一度は諦めた。でも、必死になって進み続けて、今までの俺だったら絶対に届かなかったものに手が届いたような気がした。 その時だった。 「先輩! 頑張って!」 喧騒の中から聞き覚えのある女性の声が大きく響いた。俺は思わず、その声の方を振り返った。 そこには、いるはずのない女性が立っていた。 職場の同僚の上田芙紗子が旗を振って、必死に俺を応援していた。俺は何か幻でも見ているようだった。だが、その女性は紛れもなく、俺が思いを抱いてい…
日本ほど、独裁者を嫌う国はないんじゃないだろうか。 そういうと、日本には天皇がいるじゃないかというかもしれないが、天皇が絶対的な権力を握ったのは、はるか昔の古墳時代だけで、飛鳥時代にはすでにその存在は象徴的になっている。だからこそ、聖徳太子が天皇の代理として政治を司り、その後も曽我氏や藤原氏が実験を握り、そして武士の時代になり、結局、現在に至っている。 つまり、日本人は中国などと異なり、絶対者をつくることを嫌い、いつの時代も天皇という象徴を一番上に置き、生々しい権力を表に見せず、密かにその傘の下に置くことを選択してきた。 こういう政治形態は、良くも悪くも極端に走る可能性が少ないため、政治が安定…
翌日、いよいよ大会を明日に控え、最後のランニングのために家を出た。体をほぐしながら、いつものスタート地点に立ち、時計をセットして一気に走り出した。 本番と同じ42.195キロのコースは幾度も走っていたので、今日は体をほぐすことを目的に、敢えて軽めの10キロのコースを走り始めた。 だが、高ぶった体は体をどんどん前に押しやり、気づけば全力で走っていた。いつか見たあのランナーのように、ただ目の前だけを見つめて走った。目の前の先にある何かを追い求めるようにがむしゃらに走っていた。 ゴールに辿り着くと真っ先に時計を見た。時計の中の数字は35分38秒、これまでの自己ベストを叩き出していた。心臓がマシンガン…
職場では走ることは黙っていた。 特段、理由があったわけではないが、なぜかしゃべりたくなかった。形だけ言えば、単に市が主催するマラソン大会に出るだけのことで、他人にしてみればどうということもない。凄いなとか頑張ってとか何かしら言葉はもらえるだろうが、単にそれだけのことでしかない。 でも俺にとってこのマラソンはそんな軽いものじゃなかった。いわば、自分が生まれ変わるための儀式であり、自分の人生をかけた挑戦だった。そんなこと誰にも理解できないだろうし、理解してもらいたくもなかった。 マラソンに出ると決めてから、芙紗子とは話をしなかった。もちろん、仕事の話はするが、それだけ。以前のように食事に誘ったり、…
翌日、俺はマラソン大会に申し込んでいた。走り切れるかとかそういうことはあまり考えかった。ただ何かを変えたかった。このまま何もしないでいたら、俺の人生は本当に蟻地獄にはまった蟻のように、ある一点に向かって落ちていくだけだと思った。それが絶えられなかった。 仕事帰りにスポーツ店に立ち寄り、新しいランニングシューズを買った俺は、家に帰るとすぐに走り始めた。新しいシューズに紐を通して履いてみたら無性に走りたくなったってのもあったが、いくら俺だって、ほとんど走ったこともない奴がいきなりフルマラソン走るってのが無茶だってことぐらいはわかっていた。マラソン大会まであと三か月しかない。その間にしっかりトレーニ…
俺の机の隣に上村芙紗子っていう三十ちょい過ぎの女性事務員がいた。半月前に入ってきた子で、バツイチだけど結構かわいい子だった。彼女が入ってきたときだけは俺もかなりテンションがあがった。ある日、事務室に誰もいない隙を見計らって、勇気を出して食事に誘ったら、彼女は少し考える風だったが、すぐにいいですよってOKしてくれた。その時は本当に夢でも見ているようだった。 そのあと、一緒にしゃれたレストランにいった。彼女の気に入るような話題をふって、それなりに会話も弾んだ。そんなに悪い雰囲気でもなく、いい感じだと思った。その後、何度か仕事帰りに居酒屋にいったり、お好み焼き食べに行ったりして、彼女との距離を縮めた…
マラソンは人生に似ている。 スタートすると、もっと早く、もっと早くと、自分のペースなどお構いなしにとにかく前に走りたくなる。少し経つとだんだんきつくなってくるが、それでもなんとか必死にくらいついて前に進もうとする。しかし半分を過ぎる頃には自分の実力が残酷なくらい走りに反映されてくる。 42.195キロ先のゴールを最後まで颯爽と走りきれる選手がどれだけいるんだろうか。人生をそうやって走りきれる人間がどれだけいるんだろうか。 俺の足は完全に止まっていた。走ってるなんてもんじゃない、完全に歩いている。いや、歩いているとさえ言えないかもしれない。ただ足をひきづっているだけだ。とにかく足を前に出すのが辛…
以前、自分自身の訓練のために、このブログを毎日更新しているんだと書いたが、実は以前書き溜めたものをちょこっと手直しして投稿していることも多い。 当然、創作の方も書けない日もあるのだが、そういう日があってもいいと思っている。 カクヨムで物語を書いていたころは、やはり義務感みたいなものがあって、何らかの作品をほぼ毎日更新していた。 それは書くモチベーションにもなったが、相当なプレッシャーでもあった。いつもいつも筆が進むわけでもなく、体調や精神状態によっては、さっぱり筆が進まないこともざらにあった。 そういう時に投稿した文章は、後で見直すと誤字脱字の嵐で、表現もイマイチなものが多く、結局修正するはめ…
はじめに 本編 読者さまからいただいたコメント あとがき はじめに この短編は、かつてカクヨムという小説投稿サイトで活動していた時に書いたちょっとエロくて、バカバカしい短編ですが思いのほか好評だったようで、たくさんの方から笑えた仰っていただきました。 ほんとバカバカしい話で恐縮ですが、暇つぶしと思ってご笑納ください。 本編 鬼が、俺の目を隠すために手拭いを頭に巻きつけて、きつく縛った。 これで俺の目は完全にふさがれた。 もう、やるしかない。俺は覚悟を決めた。「さあ、さっさと始めろ!」俺は目の前の閻魔大王に向かって叫んだ。 「――では、始めるとしよう。ここに今までお前がつきあった女が5人並んでい…
鬼が、俺の目を隠すために手拭いを頭に巻きつけて、きつく縛った。 これで俺の目は完全にふさがれた。 もう、やるしかない。俺は覚悟を決めた。「さあ、さっさと始めろ!」俺は目の前の閻魔大王に向かって叫んだ。 「――では、始めるとしよう。ここに今までお前がつきあった女が5人並んでいる。お前は目隠しの状態で一人づつ、口づけをしろ。もしお前が見事、妻の唇を言い当てたなら、お前の妻の寿命を延ばして、現世に返してやろう。だが失敗したら、お前の寿命は妻もろともここで尽きる」閻魔大王の声が重々しく響いた。 こうして妻を取り戻すための俺の孤独な戦いが始まった。 「まず1番目の女だ」閻魔が言った。 足音が聞こえてきた…
はじめに 本編 (上) (下) 読者さまからいただいたコメント あとがき はじめに この短編は、かつてカクヨムという小説投稿サイトで活動していた時に書いた短編小説で、400以上の星(★)とたくさんのレビューをいただいた僕にとってカクヨムでの代表作みたいな作品です。7千字程度の短い短編ですので、どうぞ、お気軽にお読みください。 本編 (上) 「私はカクヨムという小説投稿サイトで、時折、小説やエッセイを投稿しているアマチュア作家。将来の夢は作家なんていうほど、自分の才能を過信しているわけではないけど、やっぱり自分が書いた作品は誰かに読んでもらいから、このサイトで活動している。 カクヨムに加入してか…
翌朝、私の期待は見事に裏切られた。近況ノートには何のリアクションもなかった。 その日は仕事どころではなかった。私は頻繁にスマホをいじってはリアクションの有無を確かめた。 相手だって仕事があるんだ、すぐに返事を出せる余裕がないのかもしれない。そんな風に自分に言い聞かせた。でも、そう思った数分後には再び机の脇においたスマホの画面を触っていた。 その一週間は私にとって残酷なくらい長くて、辛い一週間だった。私はほとんど仕事が手につかず、ひたすらスマホをチェックするだけの日々を過ごしていた。 私はもはや、ただ待つことに耐えられなくなっていた。金曜日の夜、私は家に帰るとバッグを放り投げて、そのままパソコン…
「私はカクヨムという小説投稿サイトで、時折、小説やエッセイを投稿しているアマチュア作家。将来の夢は作家なんていうほど、自分の才能を過信しているわけではないけど、やっぱり自分が書いた作品は誰かに読んでもらいから、このサイトで活動している。 カクヨムに加入してから1年がたち、これまで書いたものは恋愛ものや少しファンタジー調の短編が6本ほど。少しづつフォロアーも増えて、今では投稿すれば★を20から30くらいはつけてくれるし、必ず一つや二つはレビューも貰えるようになっていた。 毎日投稿するわけでもなく、仕事と折り合いをつけながら、週末に書きだめして投稿するのが毎週の日課だった。気が乗らないときは昔の作…
芸能界というのは、華やかに見えてその実相は僕たちが想像できないくらい大変なんだろうなと思う。 演技するいうことは、ある意味その配役になり切る必要がある。 能などは、恨みを残して死んだ人の魂を憑依させるともいわれる。 そう言う意味では、苦しい役を演じる方々は、その心を自分の心に宿らせているんだろうし、それは相当厳しいことのように思う。 そして、それは書き手であっても同じことだと思う。 僕はいい物語は、全てのキャラに血肉が通っていると思っている。 ということは、悪役や悲運な運命を背負ったキャラにも書き手は心血を注いで、血肉を与えなければならない。 言うのは簡単だが、実際、それはかなりエネルギーを使…
日本という国は素晴らしい文化、歴史、精神性を持っている国だと思う。海外に行って、外から日本を見るとそのことが本当によく分かる。だが残念なことに最近どんどん日本の良いところが失われているように感じる。 経済大国日本、平和で豊かな日本。 確かに外面だけみたら、そうなのかもしれない。だけど一枚皮を剥いだら、そこにあるのは薄汚く、利己的で、欺瞞に満ちた日本の社会。こんなんで本当に良いんですか? 僕は日本が好きだし、 日本に生まれてよかったと思うし、この日本という素晴らしい国をしっかり自分の子供たちの世代につないでいきたい。 だから、社会に対して好き放題言わせてもらいます。やっぱり今の社会はおかしいって…
小悪魔みたいな女性がいる。 男は、弄ばれていると分かっていても、どうしてもそういう人に惹きつけられてしまう。 体を擦り寄せてきて、ねえ、ねえ、あれ欲しい、とねだる。 僕は一瞬ためらうが、その子の顔を見ると自然に笑顔になり、しょうがないなと買ってしまう。 私のこと好き? とつぶらな瞳で聞いてくる。 もちろんと答える。 一番好き? とさらに聞いてくる。 当たり前だよと答える。 すると、じゃあ、二番目は? と聞いてくる。 そうだなと言葉を濁すと、急に怒って僕を責め立ててくる。 ママが二番目でしょう! そう言って、可愛い顔を真っ赤にして怒る。 そうだった、そうだったと言うと、娘はパパ大好きと言って、僕…
カクヨムでは、たまに星(★)が減ることがあるんですよね。 あっ、星(★)つけてくれた! やったぜ~! ……えっ、なんで、星(★)の合計が減ってんの? いろいろ調べてみると、原因は二つあるようです。 1 ★をつけてくれた人がいたとして、★を減らしたか削除した。 2 ★をつけてくれた人が、カクヨムをやめてしまった。 さすがに、1のような経験は僕はありませんが、そんな人もいるんですね~ 二人に何があったんでしょう~ そんじょそこらのホラーよりも怖いです。 ということで、大概は2の原因が多いです。 でも不思議なことに、その人がカクヨムを辞めたとしても、そのタイミングで減るわけじゃなくて、星の数に変動が…
昨日、ちょっと風邪気味で病院に行って薬をもらってきましたが、看護師さんや薬剤師さんが優しい言葉をかけてくれて、思わず天使のように見えてしまいました。 ということで、今日は優しさということについて書いてみます。 女性に好きな男のタイプはと聞くと、十中八九「やさしいひと」と答えが返ってきます。 しかし、この「やさしいひと」というタイプの男。 僕からすれば、ただの悪人です。 一応、二種類に分類されます。 一つ目のパターンは、いかに女を口説くかを熟知している男が使うやさしさ。 常に女性の気持ちを読んで先回りし、最適な言動を行う。まあ、この攻撃をくらえば、大抵の女性は口説かれてしまいます。だから常套手段…
男に対して、ごく自然にボディタッチをしてくる女性がいます。 男の背中を叩いたり、腕を引っ張ったり、物凄い至近距離で顔を覗き込んできたり、胸を体にあててきたり。 こういうことをする女に対しては、女性の中でも賛否両論あるでしょう。 だが、この攻撃はとてつもなく強力です。 まず大半の男は平常心ではいられません。 例え、男の心に秘めた女性がいたとしても、いつ食えるか分からないキャビアより、牛丼でいいやとばかりに、バクっと食いついてしまいます。 ところが、いざ食いつこうとすると、するりと逃げられる。 えっ、俺に気があるんじゃなかったの! と男は夜な夜な煩悶することになります。 女性の身を案じるので、声を…
以前、恋愛ジャンルに対する男と女の考え方の違いについて書いたことがあったが、書き手という立場で考えても、どうにも恋愛作品を書くのが難しい。 bunchiku.com なぜかというと、恋愛小説を書く上でどうしても必要と思われる嫉妬という感情を僕はあまりリアルに想像できないからだ。 そもそも、嫉妬という感情を僕は持ったことがあるのだろうか? キャプテン翼みたいなサッカー選手になりたいなと思ったことはあったけれど、それは憧憬であって、嫉妬ではない。 クラスにイケメンもいたが、別にそいつになりたいと思ったこともない。 社会で自分より頭のいい奴や、金を持ってるやつもたくさんいるが、別にそいつらのように生…
【面白い小説の書き方について考える】創作はボケ防止にもつながる
昨日、毎日書くことの大切さについて触れたが、だからといって、思ったことをつらつら書くのと、物語を書くのはやはり違う。 物語を書くというのは、書きたい場面を多次元的に思い浮かべなければならない。 そこがどういう場所で、どういうシチュエーションで、どういう空気感で、どんな思いでキャラがそこにいるかってことを。 その中で必要と思われることを筆にし、そうじゃないところは読者の想像に任せる。 そこまで、しっかりイメージしながら書かなきゃいけない。 よくできた物語は、読み手はその世界観にどっぷり浸ることができる。 書き手の頭の中で作られた世界で思いっきり遊ぶことができる。 僕は面白い物語はすべからくそうい…
最近、毎日このブログを書いているが、よほど暇なんだろと思われるかもしれない。 そう言われればそうなのかもしれないが、それだけの理由ではない。 毎日書くと言うことを自分への課題として捉えているからだ。 毎日書かないと、文章の技術が下がるそうだ。 言葉の取捨、文章のセンス、そういうものを感じる力も弱くなっていく。 本を読んでる人はどうなのという疑問があるかもしれないが、それは英語の学習に似ていると僕は思っている。 いくら、リスニングを頑張っても、スピーキングの練習をしない人は話すことができない。 だから文章を書く人は、やっぱり文章を書かないとその技術が向上しない。 もう一つ、ただ書くだけだったら、…
物語を書いている方々は、自分の作品を読み直したりするんですかね。 僕はふと思い立つとつらつらと読んでしまう。しかも、完全に読者視点で。 自分で書いたくせに、うるっときたり、勝手に盛り上がったりする。また過去にいただいたコメント見てほくそ笑んだり、そうなんだよと一人で頷いたりしているのである。 以前も言ったが、自分が作ったキャラに自分が一番はまっているのである。 もう、そのキャラが大好きなのである。 それってどうなんだと思うかもしれないが、実際にそうなんだからしょうがない。 だから僕はいずれ自分の書いた作品は全部書籍にして自分の家の本棚に大事に並べたいと思っているのだ。 もちろん、金に糸目をつけ…
お前、毎日こんなエッセイもどきのブログで適当なこと言ってるけど、肝心の小説の方はちゃんと書いてんだろうな! そう思われる方がいるかもしれないがご安心ください。 今、「鎮魂の唄」という時代ファンタジーを書いているが、ほぼすべての登場人物が出そろい、そのどれにも血肉が通い始めた。 物語もラストの章に入ったので、後は最後まで一気に書けると思う。 キャラに血肉が通い始める。 僕的には、ここが一番肝心なところなのだ。 つまり、そのキャラが完全に僕の中で一人の人間として確立してきたということだ。 そうなれば、そのキャラが何を思い、何をしゃべるのかなんていちいち考えるまでもない。 勝手に行動し、勝手にしゃべ…
小説投稿サイトを眺めていると、ここって実はエロサイトなのかって思わずいいたくなります。 いつも不思議に思ってるんですが、女性はこういうの好きなんですかね? 美少女だの、幼馴染だの、ハーレムだの、〇〇だの、△△だの…… 僕はエロスは好きだけど下品なエロは勘弁してほしい。 エロスとエロと何が違うんだというかもしれませんが、僕が考えるエロスとは隠されたもの、自分にないものを求めんとする人間の行動であり欲求なんですよね。 隠されたものというのが大事で、それが女性に向けられた場合は、女性の秘めたる場所を見たいと言う欲求にもつながる。 なんか七面倒くさい話をしましたが、要は、隠された、秘めた、だからこそ淫…
娘はアニメーターになりたいそうだ。 僕は、やってみればいいさと答えた。 子どもの頃はたくさん夢があっていい。僕だって、外交官になって世界を旅したり、キャプテン翼のようなサッカー選手になりたかった。 でも、実際は社会の中で成長するにしたがって、どこかで自分の限界をしったり、別な方向に興味をもったり、外的な影響のためだったりして、その夢は叶うことはなかった。 ところが、今、僕の中には再び夢ができた。 それは、自分の書いた物語を世に出したいという夢だ。 作家を目指すのかと問われればそうではない。こんなことを言うと矛盾するようだが、僕は小説を書くことだけに縛られたくない。自分の性格的に常に新しいことに…
エロを題材にしたコミカル短編小説。読者の想像を書きたてるため、あえて、全て会話文だけで構成しています。バカバカしい内容ですが、くすっと笑えて、最後は意外なオチを用意していますので、暇つぶしの余興としてご笑納ください。
【笑えるコメディ短編小説】『文学におけるエロ表現の追求(おわり)
「……夢を見ていた気がする。長い夢を……」「どうしたんです」「ああ、白鳥君、君も起きたか」「なにをいってるんです、そんな昔の名字を言って」「……そうか……そうだったな……さやか、お前はもう僕の妻だったな」「それも、もう50年も前のことですよ」「お前も年を取ったな」「あなたこそ」「でも、今でもお前と初めてあった、あのときの姿をありありと思い出すよ。そして、初めてお前を抱いた日のことを。あの時、お前がどんなに美しかったか、どんなにお前を愛おしいと思ったか」「あなた、恥ずかしいわ。そんな昔のことを今になって」「……もうすぐ正月だな。息子たちは帰ってくるのかい」「ええ、みんな帰ってくるっていってました…
【笑えるコメディ短編小説】『文学におけるエロ表現の追求(十五)』
「……博士、博士」「……おっ、白鳥君、あがってきてたんだね」「ごめんなさい、時間かけちゃって……気分を害されたんじゃ……」「そんなことないよ。少し昔のことを思いだしていたんだ……そんなことより、バスタオルを巻きつけたその姿……白鳥君、奇麗だよ……さあ、こっちにおいで」「……はい」「とっても、いい匂いがするよ。それにしても、君の肌……滑らかで、白く輝いて……美しい……本当に美しい……」「そんなこと言わないでください。恥ずかしいです……」「何を恥ずかしがることがあるんだ。そして、その上気したような顔、潤んだような瞳……白鳥君、キスしてもいいかい……」「……博士」「……」「……」「……」「とんでもな…
【笑えるコメディ短編小説】『文学におけるエロ表現の追求(十四)』
「……初めて、SEXをしたときのことは今でも鮮明に覚えている。世界がひっくり返るような体験だった。私は、それを赤裸々に綴った。そう、確かにあの作品のとおりだった……――大学に入り、ようやく俺はSEXを知った。 儀礼的なデートを重ねて、うまくアパートに呼び込んだ俺は雰囲気などお構いなしに、彼女に抱きつき、唇を奪った。 最初、彼女は抗っていたが、観念したと見えて、俺のすることをなすがままに受け入れた。 俺は夢中で彼女の服を脱がした。焦りのあまりブラジャーをうまく外せなくて、見かねた彼女が自分で外してくれた。 そこには夢にまで見た乳房があった。俺は震える手でその乳房を包み込むように触った。小さい乳房…
【笑えるコメディ短編小説】『文学におけるエロ表現の追求(十三)
「白鳥君……」「……こうして、君を抱きしめているだけで、僕は例えようもなく幸せだよ」「うれしい……私も幸せです」「白鳥君、僕の胸に手をあててごらんーーほら、僕の心臓の鼓動が聞こえるかい?」「はい、博士の心臓が、とくんとくんと鳴っているのが私に伝わってきます――あっ、そんなところに手を入れちゃ……」「ああ、やっぱりだ、白鳥君、君の心臓も早鐘のように鳴っているよ」「……恥ずかしい」「何が、恥ずかしいんだ。それにしても、君は着やせするタイプなんだね。こんなに、胸が大きかったなんだね。これは、Dカップかい」「もう、博士ったら……そうです」「やっぱりね――でも、この張りのある形のいいおっぱい。おや、白鳥…
【笑えるコメディ短編小説】『文学におけるエロ表現の追求(十二)』
「……白鳥君、なんて、君は柔らかいんだ。それに、石鹸のすごくいい香りがする」「……博士」「僕は、確かにエロだ。だが初めて、エロではない何かが心の中から溢れ出るのを感じるんだ――君が、いなくなってしまったとき、私は自分の心が張り裂けそうだった。君に会いたくて、会いたくて、心とはこんなに痛いものなのかと、初めて気づいたんだ。白鳥君、僕は君が好きだ。君が嫌なら、こんな研究なんか投げ捨てたっていい。だから、僕の隣にいてほしいんだ。白鳥君……こんな僕じゃダメかな」「博士……博士って、エロのことは詳しいのに、女心は全然わかってないんですね。博士のこと好きじゃなかったら、あんな恥ずかしいかっこなんてしません…
【笑えるコメディ短編小説】『文学におけるエロ表現の追求(十一)
「着いたよ」「うわ~! なんか、小さいコテージがたくさんあって、小さな町みたいですね。あっ、でも、車あります。結構、埋まっているんですね~」「こんな真昼間からラブホテルを使っている連中は、まあほとんど、イケナイ関係の男女たちだろうね。おそらくは営業行ってきますなどと言って、得意先の顧客とランデブーしてるか、夫の留守をいいことに人妻がひと時のアバンチュールを楽しみにきているのだろう……おっと、噂をすればなんとやらだ。今、出てきた男女は僕たちの車を見た瞬間、咄嗟に顔を隠したよ。明らかに身にやましい証拠だよ」「……って、博士も顔下げてますけど」「そういう君も僕の方を向いて、うまく顔を隠しているじゃな…
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