大成建設は、AIを利用して、地震計の観測データに含まれるノイズを除去する新技術を開発した。新技術は、地震動分析に掛かる労力やコストの低減が図れ、建物の耐震性能評価に必要なデータを従来と比較して半分程度の期間とコストで取得できる。
大成建設は、AIを活用して、地震の観測データに含まれる「ノイズ」を除去する技術を開発した。
大型発電所などの構造物では、地震による設備機器への影響や建物の健全性を把握するため、一定程度の地震が発生するたび、同規模の地震が構造物付近で発生したと仮定し、耐震性能評価を迅速に行うことが施設管理者に求められている。
耐震性能の評価では、全国に多数配置されている地震計の観測データを用いるが、中には地震動以外にも地震計の機械的なノイズや地震計周辺の交通振動、建設工事などに伴う揺れで発生するノイズを含んでいるものがある。
ノイズを含むデータは、耐震性能評価の精度を低下させるため、ノイズ除去が必要だったが、これまで、全て目視確認で行われており、多大な労力と時間を要していた。
そこで、大成建設は、短期間で耐震性評価に必要なデータを自動抽出するAI技術を確立した。
AIは、地震動の大きさを示す観測データの波形図からノイズの有無を判別。波形そのものを地震の周波数別に分解し、地震動の大きさと周波数との特性を示した図(フーリエスペクトル)に照らし合わせ、自動的にノイズ成分を含む周波数を推定して取り除く。
独自に構築したAIのアルゴリズムは、地震波の到達時刻を推定する手法「カルバック・ライブラー情報量」※1と地震波の振動方向を抽出する手法「偏向解析」※2を組み合わせたことで、P波/S波を分離することが可能となり、目視で行っていた地震波の抽出作業を自動化する。
※1 カルバック・ライブラー情報量:2つの確率分布で生じる違いを示す尺度で、地震記録のP波が到達する前の微動部分とP波、S波が到達した時の振幅で発生する頻度分布の違いから到達時刻を推定する。
※2 偏向解析:特定の向きで生じる波を抽出する解析を指し、P波とS波の振動方向は異なるため、各方向の波を抽出することで、特徴を際立たせることが可能。
また、従来手作業で行っていた観測記録の入手からノイズの判別や除去、P波とS波の分離までを全て自動化し、これまでの約半分の作業期間とコストで耐震性能評価に必要なデータを取得する。以上の作業は目視とほぼ同等の精度で行える。
今後、大成建設は、建物の耐震診断に適用するとともに、AIを用いた地震観測データの学習記録を蓄積し、ノイズ成分を含む周波数帯の推定精度をさらに向上させ、建物の耐震性能評価の迅速化を進めていく。
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