「行ってきます」

 1時間後に学校の廊下で同級生男子の腹部に包丁を突き立てることになる中学3年生の少年は、そう祖父に言い残して家を出た。少年は学校に着くと、授業が始まる前に隣のクラスの同級生を廊下に呼び出し、凶行に及んだ――。

 11月24日朝、愛知県弥富市の十四山(じゅうしやま)中学校で、同校に通う3年生の伊藤柚輝くん(14)が包丁で刺されて死亡した事件で、通報を受けて駆け付けた愛知県警の警察官は、同級生の男子生徒(14)を殺人未遂の現行犯で逮捕した。

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亡くなった伊藤柚輝くん

「男子生徒は自宅から持ち込んだと見られる刃渡り20cmほどの包丁で伊藤くんの腹部を刺した。刺された伊藤くんは大量の血を流しながらも、なんとか自力で教室へたどり着いたといいます。AEDを持って駆けつけた教職員が心臓マッサージなどの救命活動を開始し、警察官とともに急行した救急隊が大型病院に搬送しました。しかし傷は肝臓を貫通するほど深く、10時35分に死亡が確認されました」(捜査関係者)

 事件が発生したのは午前8時すぎ。始業前でほとんどの生徒が登校して毎朝の読書タイムに向けて準備をしている時間だった。教室内には担任の教師もいたが、廊下でトラブルが起こっていたことには気づかなかったという。

「廊下から声が聞こえた」

 伊藤くんの同級生は、保護者に事件についてこう話した。

「事件があったときは『廊下から声が聞こえた』と言っていました。言葉の内容は聞き取れなかったようですが、叫ぶような声で柚輝くんが何か言っていたそうです。その後、柚輝くんがうちの子供がいた教室に入ってきて、バタリと倒れました。それを見ても、なぜ柚輝くんが倒れているのか、何があったのか、状況をまったく理解できず茫然としていたようです」(同級生の保護者)

小学校のサッカー部だった伊藤くん(後列左から4番目)。写真には逮捕された男子生徒(後列左から7番目)も一緒に収まっている

 伊藤くんと男子生徒は小学校からの同級生。畑に囲まれた小さな小学校で、男子8人、女子12人の計20人で6年間同じ1つのクラスだった。中学校はひと学年50人ほどで、3年生は2クラスに分かれており、伊藤くんと男子生徒は別のクラスだった。

 2人は、小学校では同じサッカーチームに所属して共に汗を流していた。しかし十四山中学にはサッカー部がなく、伊藤くんは野球部、男子生徒はバレー部に所属していたという。