2020年8月、福岡県にある私立博多高校の1年生だった女子生徒、侑夏さん(ゆうな、姓は非公表)が自殺した。剣道部に所属する15歳だった。侑夏さんの母親は昨年末、日体大での「学校・部活動における重大事件・事故から学ぶ研修会」で、大学生らを前に「剣道の指導者として不適切な指導をすべきではない。剣道の理念である人間関係をもとに指導してほしい」などと話をした。
体育会系の印象が強い日体大だが、2012年に起きた、桜宮高校(大阪府)バスケットボール部でのキャプテン自殺事件をきっかけに、「反体罰・反暴力宣言」を発表している。自殺の原因は、バスケ部顧問の暴力や暴言による指導だった。
宣言では、「本学は体育・スポーツの専門大学であることから、スポーツの実技指導においてもパワーハラスメントの防止や暴力行為の禁止を肝に銘じて当たらなければなりません」と書かれ、その後も研修会を繰り返し開催している。
昨年末の研修会で壇上に上がった侑夏さんの母親は、侑夏さんが博多高校の剣道部で受けた苛烈な指導の実態と、その結果として娘を自殺で失ってしまった悲しみを語った。
20年8月29日、侑夏さんは剣道部の顧問から暴言や暴力的な指導を受けたことを理由に、電車に飛び込み、自殺した。後に「日本スポーツ振興センター」は、侑夏さんの自殺の背景には顧問による暴力や不適切な指導があったと認定し、遺族には死亡見舞金が支給されている。
「侑夏を追い詰めてまで剣道をさせたいとは思っていなかったので…」
侑夏さんが母親の影響で剣道を始めたのは小学校1年生の頃で、当初は剣道が母娘の会話のきっかけにもなっていたという。
「侑夏は道着と袴に憧れていて、小学校に入学するとすぐに剣道を始めました。侑夏が剣道を始めるのと一緒に私も指導者登録をして、親子で剣道を楽しんでいました。侑夏の剣道は、体でぶつかっていくというよりも、足を使ったスピードで勝負するスタイルでした。小4の頃に休むことがありましたが、『どうして休んだの?』と聞くと、『他の子の練習が気になった』と答えました。侑夏を追い詰めてまで剣道をさせたいとは思っていなかったので、休みたいときは休みながらでいいと伝えました。その頃は伸び伸びした剣道生活を送っていたと思います」(侑夏さんの母親)
侑夏さんは中学校でも剣道部に入部した。経験者のため勝ちを期待されることはあったが、母親は「プレッシャーはあったと思いますが、中学では良い方向に働いていました。心理的にも強くなったと思います」と語る。